弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小田久蔵、同入江正男の上告趣意について。
 所論は、まず、「昭和二〇年勅令五四二号に基く命令は、別に法律で廃止又は存
続に関する措置がなされない場合においては、この法律施行の日から起算して百八
十日間に限り、法律としての効力を有するものとする。」との昭和二七年法律八一
号の内容をなす昭和二四年政令三八九号の規定内容は、憲法二九条に違反する旨主
張する。しかし、右政令三八九号の規定は、法定の除外理由ある場合を除き連合国
占領軍の軍票等の収受又は所持を禁止し、これが違反者に懲役、罰金等の刑罰を科
する旨を規定し、一面連合国占領軍の占領政策遂行の目的を達成するために制定さ
れたものではあるが、他面かかる軍票等が無制限にわが国内に流通するときは、わ
が国通貨の安定を阻害する等わが国の国内経済秩序に悪影響を及ぼす恐れがあるか
ら、かかる国内経済秩序維持という公共の福祉を維持するためにも制定されたもの
である。されば、同政令の規定内容が憲法二九条に違反する旨の所論は、採るを得
ない。
 次に、所論は、右政令三八九号を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所
為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」旨を規定した昭和二七年
法律一三七号は、憲法三九条に違反する旨主張する。しかし、昭和二四年政令三八
九号の規定内容が憲法二九条に違反しないことは、前示のとおりであるから、その
違反することを前提として同令を平和条約発効と同時に失効したものと見ることは
できない。従つて、同年法律一七三号をもつて、一度失効して効力のなくなつた罰
則を更に復活させて爾後において過去の行為に遡及適用せしめようとするいわゆる
事後立法であるとする所論も、その前提を欠き採るを得ない。
 さらに、所論は、昭和二四年政令三八九号は、日本国憲法所定の国会の制定した
法律でないから、憲法三一条に違反し無効であり、従つて、前記法律一三七号はこ
の点からも無効である旨主張する。しかし、同政令は、昭和二〇年勅令五四二号に
基き制定されたものであつて、同勅令並びにこれに基き制定された政令は、日本国
憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものであることは、すでに、
当裁判所大法廷の判例とするところであり(判例集七巻四号七七五頁以下)、そし
て、右政令の内容が憲法二九条に違反するものでないことは前示説明のとおりであ
るから、所論憲法三一条違反並びにこれを前提とする主張も採るを得ない。
 以上の理由により、所論免訴の主張は、すべて、その前提において失当であるか
ら、刑訴四一一条一号の法令違反の主張としても採用できない。
 よつて、刑訴四〇八条に従い、裁判官の全員一致で、主文のとおり判決する。
  昭和三五年三月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一

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