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平成27年4月14日判決言渡
平成24年(行ウ)第292号通知処分取消請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
阿倍野税務署長が原告らの平成22年分所得税に係る更正の請求に対して平
成23年8月30日付けでした更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下
「本件各通知処分」という。)をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,亡A(以下「本件被相続人」という。)から相続により取得した株
式(破産手続中の会社に係るもの)の株主として受領した残余財産分配金に係
る所得のうち資本金の額を除いた分を所得税法25条1項3号(なお,平成2
2年法律第6号による同項の改正は改正附則1条3号イの規定により平成2
2年10月1日から施行されているが,同附則2条により,平成22年分以後
の所得税について適用されているから,平成22年分以後の所得税について適
用されるのは同改正後の所得税法25条1項3号(現行法と同じ。)となる。)
のみなし配当金として配当所得の金額に計上して平成22年分所得税の確定
申告をした原告らが,上記みなし配当金に係る所得は原告らが相続により取得
した上記株式の基本権である残余財産分配金を受ける権利が実現したものの
一部にすぎず,同法9条1項16号(平成22年法律第6号による改正前は同
項15号。なお,同項の改正は改正附則1条本文により平成22年4月1日か
ら施行されているが,同附則2条の規定により,平成22年分以後の所得税に
適用されるため,平成22年分以後の所得税について適用されるのは同改正後
の所得税法9条1項16号の規定(現行法と同じ。)である。)の規定(以下
「本件非課税規定」という。)により所得税を課されないことを理由に,阿倍
野税務署長に対し,平成22年分所得税の更正の請求をしたところ,阿倍野税
務署長から,平成23年8月30日付けで,更正をすべき理由がない旨の本件
各通知処分を受けたため,阿倍野税務署長の所属する国を被告として,本件各
通知処分の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め等
(1)相続税法の定め
ア相続税法11条は,相続税は,相続又は遺贈により財産を取得した者の
被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続
税の総額を計算し,当該相続税の総額を基礎としてそれぞれこれらの事由
により財産を取得した者に係る相続税額として計算した金額により,課す
る旨を規定している。
イ相続税法11条の2第1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が
同法1条の3第1号又は2号の規定に該当する場合においては,当該相続
又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって,相続税の課税価格
とする旨を規定している。
ウ相続税法22条は,同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか,相
続により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価による
旨を規定している。
(2)所得税法の定め
ア所得税法9条1項16号は,所得税を課さない所得として,「相続,遺
贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和25年法律第
73号)の規定により,相続,遺贈又は個人からの贈与により取得したも
のとみなされるものを含む。)」と規定している。
イ所得税法24条1項(なお,同項の平成22年法律第6号による改正は
改正附則1条3号イの規定により平成22年10月1日から施行されて
いるが,同附則2条により,平成22年分以後の所得税について適用され
ているから,平成22年分以後の所得税について適用されるのは同改正後
の同条1項の規定(現行法と同じ。)となる。)は,配当所得とは,法人
(法人税法2条6号に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。
以下同じ。)から受ける剰余金の配当,利益の配当,剰余金の分配,基金
利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得
をいう旨を規定している。
ウ所得税法25条1項3号は,法人の株主等が当該法人の解散による残余
財産の分配により金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金
銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額を超
えるときは,所得税法の規定の適用については,その超える部分の金額に
係る金銭その他の資産は,同法24条1項に規定する配当所得,すなわち,
法人から受ける剰余金の配当,利益の配当,剰余金の分配,基金利息並び
に投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得とみなす旨
を規定している。
エ所得税法60条1項1号は,居住者(国内に住所を有し,又は現在まで
引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。以下同じ。)が相続(限定
承認に係るものを除く。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲
渡した場合における譲渡所得の金額の計算については,その者が引き続き
その資産を所有していたものとみなす旨を規定している。
(3)財産評価基本通達の規定
ア財産評価基本通達5は,この通達に評価方法の定めのない財産の価額は,
この通達に定める評価方法に準じて評価する旨を規定している。
イ財産評価基本通達189-6は,清算中の会社の株式の価額は,清算の
結果分配を受ける見込みの金額によって評価する旨を規定している。
2前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠(以下,枝番の存する
ものは全枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
(1)破産手続開始
株式会社B(以下「本件会社」という。)は,平成16年10月12日午
前10時,大阪地方裁判所により破産宣告を受け,破産手続が開始された。
(2)本件会社に対する損害賠償請求訴訟
本件会社の元従業員ら及びC労働組合(以下「本件労働組合等」という。)
は,平成17年及び平成19年,原告らないし本件会社を被告とする損害賠
償請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した(甲1)。
(3)本件相続の開始
本件被相続人は,平成18年▲月▲日に死亡し,本件被相続人の妻である
 原告Dと,本件被相続人の唯一の子である原告Eは,相続により,本件被相
 続人が所有していた本件会社の全9万株の株式(以下「本件株式」という。)
を含む相続財産を取得した(以下「本件相続」という。)。
(4)本件会社の清算手続開始
平成19年5月15日,本件会社の破産手続が終結し,同日,同破産手続
の破産管財人弁護士を清算人として,本件会社の清算手続(以下「本件清算
手続」という。)が開始された(甲1,2)。
(5)相続税の申告
原告らは,平成19年8月28日,阿倍野税務署長に対し,本件相続に係
る相続税の申告書を提出した(甲1,乙7)。
その際,原告らは,相続税がかかる財産の明細書において,有価証券とし
て本件会社の株式9万株(合計4500万円)を記載し,その他の財産とし
て未収入金(本件会社の清算配当金)3億6269万6500円を記載した
(乙7)。
なお,上記合計4億0769万6500円については,原告らが,財産評
価基本通達189-6(清算中の会社の株式の評価)に基づいて,清算によ
る残余財産分配見込み額の推計計算をすることとしたものであり,具体的に
は,本件会社の破産残余引継金から,清算手続開始後に見込まれる不動産の
売却等に係る収入や固定資産税の納付等に係る支出及び清算所得に対する税
額などを加減算して計算したものである(乙7,弁論の全趣旨)。
(6)本件労働組合等との和解等
本件会社は,平成21年11月18日,上記(2)に係る訴訟に関し,控訴
審において,被控訴人として,控訴人ら(本件労働組合等)との間で,和解
金として合計2400万円の支払義務があることを認め,同年12月25日
限りこれを支払う旨等を定めて,訴訟上の和解をし,同年11月24日,当
該和解金を支払った(甲1,弁論の全趣旨)。
(7)本件会社の法人税の清算確定申告
本件会社は,平成21年12月3日,西成税務署長に対し,同月1日を残
余財産確定の日として,平成16年10月12日解散の清算確定申告書を提
出した(乙1)。
(8)本件清算手続の結了
本件会社は,平成22年2月10日,株主である原告らに対し,本件会社
の解散による残余財産分配金(以下「本件各分配金」という。)を支払い,
本件清算手続は結了した(甲1,2)。
本件会社は,原告らに対して本件各分配金を支払うに当たり,1株当たり
の資本金等の額を500円,1株当たりの配当等とみなされる金額を397
9円24銭とし,原告らは,保有している各4万5000株に応じて,配当
等とみなされる額の総額(資本金等の額を超える部分)として1億7906
万6037円の支払を受けた。その際,本件会社は,所得税法181条1項
及び182条2号の規定に基づき,上記みなし配当金の額に100分の20
の税率を乗じて計算した3581万3207円を所得税として,それぞれ源
泉徴収した。(甲8)
(9)所得税の確定申告書の提出
原告らは,平成23年3月12日,阿倍野税務署長に対し,平成22年分
の所得税について,本件会社から交付を受けた本件各分配金のうち,資本金
の額を超えて配当とみなされる部分(以下「本件各みなし配当金」といい,
本件各みなし配当金に係る所得を「本件各みなし配当所得」という。)の額
(1億7906万6037円)を配当所得の金額として記載した各確定申告
書を提出した(甲1,4,5)。
(10)更正請求書の提出
原告らは,平成23年4月27日,阿倍野税務署長に対し,本件各みなし
配当所得については本件非課税規定により所得税の課税対象とならないと
して,配当所得の金額を零円とする平成22年分の所得税の各更正の請求
(以下「本件各更正請求」という。)に係る請求書を提出した(甲5)。
(11)本件各通知処分
阿倍野税務署長は,平成23年8月30日付けで,原告らに対し,本件各
更正請求については,その更正をすべき理由がないとする本件各通知処分を
した(乙2)。
(12)異議申立て及び異議決定
原告らは,平成23年10月19日,本件各通知処分を不服として,阿倍
野税務署長に対し,それぞれ異議申立てをしたが,同税務署長は,同年12
月19日付けで,これらを棄却する旨の異議決定をした(甲6,乙3)。
(13)審査請求及び裁決
原告らは,平成24年1月17日,国税不服審判所長に対し,それぞれ審
査請求をしたが,同年11月14日,同審判所長は,これらをいずれも棄却
する旨の裁決をした(甲1,乙4)。
(14)本件訴えの提起
原告らは,平成24年12月26日,本件各通知処分の取消しを求めて本
件訴えを提起した(顕著な事実)。
3争点及びこれに関する当事者の主張
本件の主たる争点は,本件各みなし配当所得が,本件非課税規定にいう「相
続,遺贈又は個人からの贈与」(以下,これらを「相続等」という。)により
取得するものに該当するといえるか否かであり,争点に関する当事者の主張は
以下のとおりである。
(1)原告らの主張
ア本件各みなし配当所得について本件非課税規定の適用があること
(ア)本件各みなし配当金が,本件非課税規定にいう相続等により取得する
ものといえること
清算中の会社の株式には残余財産分配金の取得を可能にするという以
外に固有の価値はなく,法的に譲渡できるとしても残余財産分配金の経
済的価値と切り離して評価されることはない。したがって,清算中の会
社の株式を相続した者は取得できる残余財産の価額相当の価値を相続し
たものとみなされるべきであり,正にそのような理解の下に,財産評価
基本通達も,清算中の会社の株式の課税価格については残余財産分配金
の現在価格をもって評価することとしている。
この点,本件株式は,原告らが相続した時点では破産手続中の会社の
株式であるが,その後,清算手続に移行して,清算結了,残余財産分配
に至ったのであるから,このような特異な事情に照らすと,清算中の会
社の株式と同様の扱いがされるべきである。
そうすると,原告らは,残余財産分配金を受け得る価値しかない本件
株式を相続によって取得したものであり,本件各みなし分配金を受領し
たことは相続により取得した実現前権利が実現したにすぎないから,本
件各みなし分配金は本件非課税規定にいう相続等により取得したものと
いうべきである。
よって,本件各みなし配当所得については本件非課税規定の適用があ
る。
(イ)本件各みなし配当金に所得税を課税すると二重課税となること
本件各分配金のうち本件各みなし配当金に関する部分は,株主に分配
される剰余金的性質の経済的利益であり,既に本件株式の相続税課税価
格と評価されて相続税が課税されている。
そうすると,配当所得課税といえども,これに所得税を課税するのは
二重課税であり,本件非課税規定に反して違法となる。
この点,本件株式に対する相続税の課税対象とされたものが本件各分
配金でないとすれば,本件相続時に一体いかなる価値を課税対象として
本件各分配金の見込み額で相続税が課税されたことになるのか全く説明
がつかない。そして,被告は,相続時に「現存していた経済的価値」に
課税するのではなく,本件各分配金の見込み額で相続税を課税している
のであるから,本件相続時に本件各分配金(本件各みなし配当金はその
一部である。)を課税対象としたことは明らかである。
以上からすると,本件各みなし配当金は本件非課税規定にいう相続等
により取得したものというほかない。
(ウ)本件各分配金の見込み金額と,本件各分配金の実際金額との差異は,
予想と結果の差額に過ぎないこと
本件では,相続時に本件株式の課税価格とされた本件各分配金の見込
み金額(各2億0384万8250円)と,実際に支払われた残余財産
分配金(各2億0156万6037円)の間に差異があるが,相続時に
おける課税価格(評価額)が見込み金額とされているために差異が生じ
ているにすぎず,この差異があるからといって,原告らが本件各分配金
を相続等によって取得したことが否定されるものではない。
この点,被告は,発生時期が異なるとか,課税対象として着目される
経済的価値が異なるため,本件株式と本件各みなし配当金は別の経済的
価値を有するものである等と主張するが,本件株式に本件各みなし配当
金とは別の経済的価値があることについては何らの主張もしていない。
(エ)本件相続時に本件株式が有していたのは本件各分配金の経済的価値以
外にはないこと
本件相続時において,本件株式には,本件各分配金を受ける権利以外
の経済的価値はない。そして,本件相続時において,本件各分配金をそ
の見込み価額で申告し,相続税の課税対象として課税されている以上,
実際に本件各分配金を受領した際に,そのうち本件各みなし配当金に関
する部分に所得税を課することは二重課税となる。
他方,被告は,本件株式は譲渡可能であるから固有の経済的価値があ
る等と主張するが,法的な譲渡可能性と固有の経済的価値の有無は関係
がないから失当である。
以上からすると,本件各みなし配当金に関する所得は本件非課税規定
にいう相続等によって取得したものといわざるを得ず,本件非課税規定
の適用があることは明らかである。
(オ)清算人の決定等は権利の性質を変えるものではないこと
清算人の決定等は,権利移転の原因となるものではないから,本件株
式とは別の経済的利益を原告らに付与するものではない。
そうすると,本件各分配金に係る所得の発生原因は,本件株式の相続
であるというべきである。
イ所得税法が本件各みなし配当金について課税することを予定していない
こと
(ア)本件各みなし配当金に係る所得には課税の繰延べに関する規定がない
こと
本件各分配金のうち,みなし配当金となる部分(資本金等の額を超え
る部分)については課税の繰延べに関する規定はない。すなわち,所得
税法60条1項の適用はないし,最高裁判所平成20年(行ヒ)第16
号同22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁(以下
「平成22年最判」という。)を踏まえて,平成23年法改正によって
創設された同法67条の4は本件については適用されない。
また,みなし配当金には取得価額の引継ぎをする余地はなく,本件各
みなし配当金が本件株式のキャピタル・ゲインであることもない(キャ
ピタル・ゲインを課税対象にするのは譲渡所得であり,配当所得ではな
い。)。
そもそも,本件各みなし分配金に係る所得は,未実現の利得が実現し
たものにすぎず,この場合には課税の繰延規定は関係がないから,この
場合に所得税を課することは所得税法が予定していない二重課税である。
(イ)土地のキャピタル・ゲインについての課税の繰延べとは異なること
被告は,土地を相続した場合における譲渡益課税を例にあげて本件で
も配当所得課税をすることが所得税法上予定されている等と主張する。
しかし,土地を相続した場合,相続人は同土地の固有の経済的価値を取
得し,使用収益することもできるのであって,本件株式のように将来に
取得する残余財産の価値に依拠しなければ課税価格が付与されないもの
とは明らかに異なる。
すなわち,本件各分配金は課税が繰り延べられたものでなく,相続税
を課された残余財産そのものであるし,本件各分配金については,資本
金等の額は譲渡収入になるのであるから,取得価額になるはずはなく,
承継する取得価格,取得金額もあるはずがない。
本件各みなし配当金に係る所得は,株主であることによって当然に原
告らが取得するものであって,原告らが取得価格や取得時期を引継ぐと
いうことはあり得ない。
(ウ)所得税法は本件相続時に本件各みなし配当金に係る部分について課税
することを予定していること
所得税法25条がある一方で,財産評価基本通達189-6が,残余
財産分配金の見込み額を評価額として相続税を課税していることに照ら
せば,残余財産分配金の交付及び金額が確定する前に相続が開始した場
合に限り,株式に対して相続税を課税することにして,後に交付される
残余財産に対する配当所得については本件非課税規定により課税しない
ものとしているものと解するほかない。
この点,本件株式に源泉徴収所得税が課税されないことは,相続税と
して評価される課税対象の中に被相続人に帰属する所得がないことを裏
付けるものである。
ウ平成22年最判の解釈規範について
平成22年最判は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対
しては所得税を課さないという規範を確立したものであるところ,本件各
分配金の経済的価値は本件株式の経済的価値と同一である。
そうすると,本件株式は,相続税の課税対象として課税されたのである
から,さらに本件各分配金に対して所得税を課すことは本件非課税規定に
反する。
とりわけ,本件株式の相続税の課税価額は,本件各みなし配当金の見込
み金額の現在価額で計算したものとされており,源泉徴収金額を控除した
金額で評価することもしていないなど,二重課税を回避又は緩和するため
の方策は一切ないから,結果として明らかな二重課税となっている。
(2)被告の主張
ア本件各みなし配当所得について,本件非課税規定が適用されて非課税と
なる余地はないこと
(ア)本件非課税規定の趣旨
本件非課税規定の趣旨は,所得税法が人の担税力を増加させる経済的
利得は全て所得を構成するという包括的所得概念を採用したことを前提
として,相続税又は贈与税の課税対象ともなる所得に対しては所得税を
課さないこととすることで,同一の経済価値に対する相続税又は贈与税
と所得税との二重課税を排除することにある。
したがって,本件非課税規定の趣旨は,相続等によらない所得(相続
等以外の他の原因による所得)に対してまで所得税を課さないとする趣
旨を含むものではない。
(イ)本件各みなし配当金は,本件非課税規定にいう相続等以外のほかの
原因によって取得されたものであること
株式に係る残余財産分配請求権は,株式に当然に認められるべき権利
であるが,具体的請求権としては,清算会社が債務を弁済し,なお残余
財産がある場合に(会社法502条参照),清算人の決定等(同法50
4条1項)によって初めて成立するものである。
本件においても,原告らは,本件会社について清算人の決定等がされ
た後と解される平成22年2月10日に,本件各分配金(本件各みなし
配当金はその一部である。)の支払を受けているから,原告らが,本件
非課税規定にいう相続等以外のほかの原因によって,本件各みなし配当
金を取得したことは明らかである。
これに対し,原告らは本件相続によって本件各みなし配当金を取得し
た等と主張するが,原告らが本件相続によって本件株式を取得した平成
18年10月29日においては,本件労働組合等が原告らないし本件会
社を被告として提起した損害賠償請求訴訟は終了しておらず,また,本
件清算手続が開始される前(同手続が開始されたのは平成19年5月1
5日である。)であったことから,本件会社に対する本件株式に係る残
余財産分配請求権は未だ具体的には発生していない。
そうすると,原告らが,本件相続によって,本件株式に係る残余財産
分配請求権に基づく本件各分配金のうちの本件各みなし配当金を取得す
ることはあり得ない。
なお,原告らは,本件相続時に残余財産分配請求権が具体化していな
いとすれば未実現の利得に相続税が課税されていることとなって問題で
ある等とも主張するが,これは相続税の課税の適否の問題であって,本
件各通知処分の取消しを求める理由となるものではない。
(ウ)本件各みなし配当金は相続税の課税対象となる本件株式と経済的価値
が同一であるとはいえないこと
本件各みなし配当金は,本件会社について清算人の決定等がされた後
である平成22年2月10日頃に具体的に発生したものであるのに対し,
本件株式は,本件相続開始時である平成18年▲月▲日に既に存在して
おり,発生時期が異なる。
また,清算は,会社の現務を結了し,債権を取り立て,債権者に対し
て債務を弁済した後,なお残余財産が存在する場合に,株主に対して残
余財産を分配する等の手続であるところ(会社法481条),本件会社
が,本件清算手続中に資産の譲渡等を行い,債務を弁済していることに
鑑みれば,本件株式に表象される本件会社の経済的価値は,清算手続中
の経済的価値の変動を反映して逐次変動することとなるため,本件株式
と本件各みなし配当金が同一の経済的価値を有するということもできな
い。
さらに,本件相続開始時には,本件会社の清算手続(本件清算手続)
は開始されていなかったから,原告らが本件相続により取得したのは,
飽くまでも本件会社の株式であって,清算中の会社の株式ではないし,
本件会社は,本件相続開始時に債務超過の状態ではなかったから,本件
株式が直ちに残余財産分配請求権と同視される価値しかないとする事情
もなく,実際に,本件相続時における本件被相続人の払込出資相当額を
除いた本件株式の評価額(3億6269万6500円)と,清算時にお
ける本件被相続人の払込出資相当額を除いた残余財産分配金(3億58
13万2074円)は,同一ではないことからすると,本件株式が直ち
に残余財産分配請求権と同視される価値しかなかったとする事情もない。
本件において,相続税の課税対象として把握されている経済的価値は
本件相続によって原告らが取得した本件株式という原告ら固有の経済的
価値であるのに対し,所得税の課税対象となった経済的価値は,①原
告らの本件株式の保有期間(本件相続時から残余財産分配時まで)中に
発生した本件株式の増加益(ただし,本件では値下がり損であったため,
存在しない。)と,②本件被相続人の本件株式の保有期間(本件株式
の取得時から本件相続時まで)中に発生した本件株式の増加益,及び,
③本件被相続人の保有期間中の留保利益(本件会社の解散によるもの。
本来本件被相続人に帰属する本件被相続人固有の所得)が分配されたも
のの合計であって,現に所得税の課税対象となった②及び③は,本来本
件被相続人に帰属する経済的価値であるから,本件株式と本件各みなし
配当金の経済的価値が同一であるとはいえない。
(エ)本件非課税規定は,本件相続時に,本件株式を取得する場面において
既に適用されていること
原告らは,本件相続時に,本件株式を取得したことによる経済的利得
(本件株式の客観的交換価値)を得た場面では,これを所得として捉え
た上で,本件非課税規定の適用を受け,所得税について非課税とされて
いるのであって,経済的価値が異なる本件各みなし配当金に係る所得に
ついて更に本件非課税規定が適用されて非課税となる余地はない。
イ所得税法は,本件各みなし配当金について課税することを予定している
こと
(ア)所得税における課税の繰延規定の趣旨等によれば,所得税法は,本件
各みなし配当金について課税することを当然に予定していること
旧所得税法(昭和22年法律第27号)は,昭和24年のシャウプ使
節団日本税制報告書(いわゆる「シャウプ勧告」)を受けて,相続に際
して,相続財産の時価全体について相続税を課税するとともに,被相続
人の保有期間中に生じた資産の値上がり益・含み益(キャピタル・ゲイ
ン)についても,相続時に,被相続人に対して所得税を課税すること(み
なし譲渡課税。旧所得税法(昭和25年法律第71号による改正後のも
のをいう。以下同じ。)5条の2。)としていたが,キャッシュフロー
がない中で相続税と所得税の負担が生じることは,相続人にとって酷で
あることなどの理由から,昭和27年の改正(昭和27年法律第53号)
において,みなし譲渡課税を廃止し,被相続人の保有期間中に生じた資
産の値上がり益・含み益については,所得税法60条により相続人が被
相続人の取得価額を引き継ぐこととして,課税を繰り延べることとした。
このような所得税法の改正の沿革からすれば,所得税法は,相続時にお
ける財産に対する相続税の課税とは別に,値上がり益・含み益が具体的
に顕在化した時における資産の値上がり益・含み益に対する所得税の課
税を行うことを予定しているものといえる。このことは,本件非課税規
定に相当する規定(旧所得税法6条7号)が昭和27年の改正時に既に
存在していたにもかかわらず,昭和27年の法改正が行われ,課税の繰
延べがされたことからも明らかであるし,平成22年最判を受けてまと
められた最高裁判決研究会報告書(乙12)においても,指摘されてい
るとおりである。
このように,所得税法の改正の沿革並びに旧所得税法5条の2及び所
得税法60条の規定の趣旨からすれば,所得税法は,相続により譲渡所
得等の基因となる資産が移転した場合に,被相続人の保有期間中の値上
がり益・含み益に対して,相続税の課税とは別に,所得税を課税するこ
とを予定している。
なお,所得税法60条は,事業所得,山林所得,譲渡所得及び雑所得
の計算に関する規定であるが,上記最高裁判決研究会報告書において「現
行の取扱いについて,確認的な意味で立法的手当てを講じておくことが
望ましい」と報告されたことによって,平成23年度税制改正(平成2
3年法律第82号による改正)において,同改正前の所得税法の下での
取扱いを明示するものとして規定された同改正後の所得税法67条の4
は,同法60条に掲げる所得以外の所得についても,相続時点で被相続
人に対して課税されていなかった部分について課税の繰延べがされるこ
とを確認的に規定している。
しかるところ,法人の解散による残余財産の分配が,所得税法25条
1項3号の規定により「みなし配当」とされるのは,株主が当該法人か
ら「離脱」する際の長年の含み益が蓄積された譲渡対価と同様の性質を
有するものと捉えることができ,キャピタル・ゲインが実現したものと
考えることができるから,本件各みなし配当金も,キャピタル・ゲイン
の性質を有しているものといえる。
この点,所得税法67条の4は,平成23年分以後の所得税について
適用されることとされているため(平成23年法律第82号附則2条),
本件各みなし配当金には直接適用されないが,所得税法25条1項3号
に規定する「法人の解散による残余財産の分配」に係るみなし配当所得
についても課税の繰延べを規定した同条は,上記改正前の所得税法の下
での取扱いを明示したものであるから,本件各みなし配当金については,
上記改正後の所得税法67条の4の上記趣旨が妥当するとの解釈は妨げ
られない。
そうすると,所得税法は,本件各みなし配当金について課税すること
を,当然に予定しているものと解される。
(イ)課税の公平性の観点からも,所得税法は,本件各みなし配当金につい
て課税することを当然に予定していること
仮に,本件において,本件被相続人が死亡する前に残余財産が分配さ
れた場合,残余財産分配金のうち「みなし配当」に該当する部分は,被
相続人に対して所得税が課税され,その後被相続人が死亡した時点でも,
所得税が課税された残余財産分配金相当の財産に対して相続税が課税さ
れることとなるが,この場合に所得税と相続税の二重課税の問題が発生
しないことはいうまでもない。
そうすると,本件において,本件各みなし配当金に所得税が課されな
いとすると,死亡の時期の違いによって,所得税が課される場合と非課
税とされる場合が生じることとなり,公平を欠くから,課税の公平性の
観点からみても,所得税法は,本件各みなし配当金に対して課税するこ
とを,当然に予定しているといえる。
ウみなし相続財産である年金受給権のうち有期定期金債権に当たるものに
本件非課税規定の適用があるとした平成22年最判によっても本件非課税
規定の適用があるということはできないこと
(ア)平成22年最判の射程は限定的であること
平成22年最判は,将来,現実に受け取る金額が「元本」部分と「運
用益」部分から構成されるような相続税法24条1項の「定期金に関す
る権利」について判示したものというべきであり,その射程は,同法2
4条によって評価されない相続財産にまで及ぶものではない。また,本
件非課税規定の文言に照らせば,平成22年最判の射程は,相続等以外
のほかの原因による所得についてまで及ぶと解することはできない。
(イ)平成22年最判の事案と本件とは,所得の原因,経済的価値の同一性
の有無,相続時における所得の金額の確定の有無及び相続後に所得税の
課税対象となる所得の帰属をいずれも異にしていること
平成22年最判は,支分権たる各年金の受給という相続等以外の他の
原因による所得であるとは認められない事案に関するものであり,相続
等以外のほかの原因による所得に関する本件とは事案が異なる。また,
平成22年最判は,その判示のとおり,年金の各支給額のうち現在価値
に相当する部分は,相続税の対象となる経済的価値と同一といえる事案
に関するものであったが,本件各みなし配当金は,相続税の対象となる
本件株式の経済的価値と同一であるとはいえない。さらに,平成22年
最判の事案では,相続人が受け取る年金の元となった基本権としての年
金受給権は,相続の時点で,その後に相続人が受け取る年金の金額が確
定していたが,本件各みなし配当金の元となった残余財産分配請求権は,
本件相続の開始時点において未だ具体的請求権として発生しておらず,
その後に残余財産分配金が支払われるかどうかも含めて,金額は未確定
であり,事案が異なる。加えて,平成22年最判の事案は,各年の年金
支給額の現在価値は,相続人が将来にわたって受け取るべき年金の金額
を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額であるから,相続人に帰
属する所得であったが,本件各みなし配当金は,その実質は値上がり益・
含み益であり,本来被相続人に帰属する所得であり,事案を異にする。
そうすると,平成22年最判の射程が本件に及ぶ余地はない。
第3当裁判所の判断
1争点(本件各みなし配当所得が,本件非課税規定にいう相続等により取得す
るものといえるか)について
(1)本件非課税規定の趣旨及び本件での適用について
所得税法9条1項は,その柱書において「次に掲げる所得については,所
得税を課さない。」と規定し,その16号において「相続,遺贈又は個人か
らの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続,遺贈又は個人か
らの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げている。
同項柱書の規定によれば,同号にいう「相続,遺贈又は個人からの贈与によ
り取得するもの」とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる
財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所
得を指すものと解される。そして,当該財産の取得によりその者に帰属する
所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかな
らず,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから,同号の趣
旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課
さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税と
の二重課税を排除したものであると解される(平成22年最判参照)。
本件でこれをみると,前記前提事実(3)のとおり,平成18年▲月▲日に本
   件被相続人が死亡し,原告らが本件株式を相続により取得したことによって,
   原告らの担税力は増加しているといえるが,原告らは本件株式を相続したこ
   とに関して相続税を課されることとなるから,本件非課税規定が適用される
   結果,原告らが新たに取得する経済的価値である本件株式については,所得税
   の課税対象とされないこととなる。
これに対し,原告らは,本件相続により原告らに帰属する所得は本件各分
配金に相当する経済的価値であるから,本件非課税規定が本件各分配金に相
当する経済的価値について適用されることとなるため,本件各分配金(本件
各みなし配当金はその一部である。)については所得税が課されないことと
なる等と主張する。
確かに,前記前提事実(5)のとおり,原告らは相続税の申告において本件株
式の資本金に相当する金額を「有価証券」として申告するほかに,「その他
の財産」(未収入金)として本件各分配金の見込み額のうち資本金の額を超
える部分を申告していたことが認められる。
しかしながら,前記前提事実(1),(2),(4),(6)及び(8)のとおり,本件会
社は本件相続開始当時,未だ破産手続が行われており,本件清算手続の開始
前であって,債務も確定されておらず,残余財産の有無やその額も確定して
いなかったことからすれば,残余財産分配請求権を基礎とする本件各分配金
に係る債権が既に具体的に発生していたということはできない。また,原告
らが本件相続により取得した本件株式の評価を本件各分配金の見込み額とし
たことは,本件相続時における本件株式の時価(相続税法22条参照)を客
観的に評価する上で,清算による残余財産分配見込金の推計をすることとし,
具体的には,清算手続開始後に見込まれる不動産の売却等に係る収入や固定
資産税の納付等に係る支出及び清算所得に対する税額などを加減算して計算
した結果にすぎず,かかる事実をもって,本件相続によって原告らが未だ具
体的には発生していない本件各分配金に相当する経済的価値を相続によって
取得したということはできない。
そうすると,原告らが本件相続によって取得したのは飽くまで本件株式と
いうべきであり,本件各分配金に相当する経済的価値を本件相続によって取
得したということはできない。
よって,原告らの主張は理由がない。
(2)本件非課税規定と相続により取得した株式に係るみなし配当所得の関係に
ついて
アみなし配当課税の趣旨等について
所得税法25条1項3号は,法人の株主等が当該法人の解散による残余
財産の分配による金銭その他の資産の交付を受けた場合において,その金
銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額を超
えるときは,所得税法の規定の適用については,その超える部分の金額に
係る金銭その他の資産は,同法24条1項に規定する配当所得,すなわち,
法人から受ける剰余金の配当,利益の配当,剰余金の分配,基金利息並び
に投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得とみなす旨
を規定している。
かかる規定の趣旨は,清算手続が結了した法人の残余財産を株主等に対
して分配することは形式的には法人の利益の配当には当たらないものの,
当該法人が設立されてから清算に至るまでに社内に留保されていた利益積
立金が,残余財産の分配という形をとって,法人の外に流出するものであ
るから,実質的には利益の配当に相当するということができるため,株主
等が残余財産の分配として受けた経済的利益を配当とみなして課税するこ
とにしたものと解される。
そうすると,所得税法25条1項3号のみなし配当課税は,株主等が法
人の清算によってそれまで当該法人に留保されていた利益を残余財産の分
配として受けたことを課税対象とするのであるから,当該法人の株式を相
続人が相続した場合における株式についての相続税の課税とは課税対象を
異にするものであるし,また,上記みなし配当課税は法人に留保されてい
た利益の分配を原因として実現した経済的利益を課税の原因とするもので
あるから,上記みなし配当課税の対象となる経済的利益は,本件非課税規
定にいう相続等を原因として取得したものということはではない。
したがって,清算手続結了前の株式を相続した場合に当該株式について
相続税を課すことと,清算後に生じる留保利益の分配を原因としてみなし
配当課税をすることが,本件非課税規定によって禁止される二重課税に当
たるということはできない。
イ以上に対し,原告らは,本件各分配金のうち本件各みなし配当金に関す
る部分は,株主に分配される剰余金的性質の経済的利益であるから,既に
本件株式の相続税課税価格と評価して相続税が課税されており,見込み金
額と実際の分配金の額の差は予想と結果の差でしかないことからすると,
本件各みなし配当所得に対する所得税の課税は本件非課税規定によって禁
止される二重課税に該当する等と主張する。
しかしながら,本件株式の評価が残余財産分配金の見込み金額でされた
理由は,本件株式が破産手続中の法人の株式であって,その相続時点での
価値としてほかの適切な評価の方法がないことから,株主が将来受領する
残余財産分配金の見込み額をもってすることとしたものであるにすぎず,
かかる評価の方法を用いたからといって,本件株式に対する相続税の課税
対象が具体的な残余財産分配金である本件各分配金ということはできない
から,原告らの主張は採るを得ない。
また,原告らは,所得税法25条1項3号のみなし配当課税については
相続した株式の留保利益に対する課税を繰り延べる規定はないから,原告
らが取得価額を引き継ぐということはなく,被相続人が株式を保有してい
た期間における留保利益(みなし配当金)に相当する経済的価値について
課税するとしても,これは当該株式を相続した際に相続税として課税する
ことを所得税法が予定しているから,本件株式に相続税を課した上で本件
各みなし配当所得に対して所得税を課税することは,本件非課税規定に照
らして,許されない等とも主張する。
しかしながら,所得税法25条1項3号は,株主等が法人の残余財産の
分配を受けた場合に資本金等の額を超える部分をみなし配当所得として所
得税の課税対象とする旨を規定しており,当該分配を受ける原因となる株
式の取得原因については何らの限定もしていない。また,同項柱書は,同
項3号に掲げる法人の解散による残余財産の分配によって株主等が受ける
「金銭その他の資産」について,条文上,その元となる留保利益が発生し
た時期を当該株主が株主であった期間に限定するようなこと(この点,同
条2項による委任を受けた所得税法施行令61条3項は所得税法25条1
項1号又は2号の合併又は分割の場合の交付金の一部を同項の「金銭その
他の資産」から除外する旨を明示するなどしている。)もしていない。そ
うすると,法人の株式を相続により取得した場合であっても,被相続人が
保有していた期間に生じた留保利益に係る経済的価値を含めて「残余財産
の分配」による「金銭その他の資産の交付」とし,そのうち資本金等の額
を超える部分について同項3号のみなし配当課税をすることは,条文上,
予定されているものといえる。
したがって,被相続人が株式を保有していた期間中に法人の内部に留保
された利益について,相続開始後に,当該法人の株式を相続により取得し
て残余財産の分配を受けた相続人に対して,みなし配当所得として上記株
式に対する相続税とは別に所得税を課税することは,所得税法25条1項
3号から導かれるものというべきであり,かかる解釈が,本件非課税規定
によって妨げられるものと解することはできない。
よって,原告らの主張は理由がない。
(3)平成22年最判と本件各みなし配当金に係る配当所得課税の関係について
原告らは,平成22年最判は,本件非課税規定は相続により取得した経済
的価値に対しては所得税を課さないことを明らかにしたものであるところ,
本件の場合,本件各みなし配当金が本件相続により取得した経済的価値に該
当するから,本件各みなし配当金に係る所得に対して所得税を課すことは平
成22年最判によっても許されない等と主張する。
しかしながら,本件各分配金は,本件会社の清算手続が結了して初めて具
体的に成立するものと解すべきであって,原告らが本件相続によって取得し
たものということはできないし,本件各みなし配当金に係る所得も,本件会
社に留保されていた積立利益が本件会社の外に流出するときに初めて,被相
続人が保有していた期間中の未実現の留保利益相当分も含めて,相続人らに
対する課税所得として生じるものというべきであるから,本件相続によって
原告らが取得した経済的利益ということはできない。
また,原告らは,本件株式の評価にあたって源泉徴収金額を控除した金額
で評価することもしていないから,二重課税としての違法性も強い等とも主
張する。
しかしながら,本件各みなし配当所得は,本件清算手続開始後,清算会社
が債務を弁済し,清算人の決定等がされて残余財産分配金が具体的に確定し
て初めて発生する所得と解すべきものであるから,本件株式の相続の時点で
その源泉徴収金額の発生や控除を問題とする余地はないというほかなく,原
告らの主張は採るを得ない。
以上のことからすると,平成22年最判は本件とは事案を異にするもので
あって,平成22年最判によっても,本件各みなし配当所得に対して所得税
を課すことが妨げられることはない。
よって,原告らの主張は理由がない。
(4)以上によれば,本件各みなし配当所得が本件非課税規定にいう相続等によ
り取得するものに該当するということはできないから,本件各みなし配当所
得に対して所得税を課すことが本件非課税規定によって許されないというこ
とはできない。
2まとめ
上記1によれば,原告らの更正の請求には理由がないということができ,他
に,同更正の請求に理由があると認めるに足る主張立証もない。そうすると,
原告らの主張はいずれも理由がない。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を
各適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官三宅知三郎
裁判官髙津戸朱子

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