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平成14年12月12日宣告
平成13年(わ)第454号,第503号,第504号,第505号,第506号,第507号,第5
96号,平成14年(わ)第3号 住居侵入,強盗致死,強盗傷人,窃盗,建造物侵入,窃
盗未遂,強盗,有印私文書偽造,同行使,詐欺,公務執行妨害,傷害,覚せい剤取締
法違反,大麻取締法違反,凶器準備集合,加重逃走,強盗殺人未遂被告事件
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中460日をその刑に算入する。
押収してあるビニール袋入り覚せい剤2袋(平成14年押第12号の1,2)及び
ビニール袋入り大麻草1袋(同号の3)を没収する。
理由
【犯罪事実】
(第1ないし第16,第18ないし第21は省略)
被告人は,
第17 A,B及びCらと共謀の上,他人の住居に侵入して金品を強取しようと企て,被告
人及びAにおいて,金品強取の目的で,平成12年9月1日午前5時45分ころ,熊
本県菊池郡a町大字bc番地D方1階広縁の無施錠の引き戸から侵入し,そのこ
ろ,同所において,E(当時73歳)に対し,改造エアガンで金属球を発射して,胸部
及び背部に命中させる暴行を加え,さらに,D(当時82歳)に対し,改造エアガンで
金属球を発射して,左側頭部及び左上腕部に命中させるなどの暴行を加え,E及
びDの反抗を抑圧した上,金品を強取しようとしたが,金品を発見することができな
かったため,その目的を遂げず,その際,前記各暴行により,そのころ,同所にお
いて,Eを前胸左内側上部の射創に基づく心タンポナーデにより死亡させ,Dに全
治約1週間を要する頭部挫創,左上腕部挫創の傷害を負わせ,
第22 A,B,F及びGらと共謀の上,他人の住居に侵入して金品を強取しようと企て,被
告人,A及びFら4名において,金品強取の目的で,平成12年9月29日午前11時
30分ころ,福岡県八女市大字de番地所在のX質金融ことH方玄関付近において,
目出し帽をかぶり,所携のゴルフクラブを振り上げ,屋内にいたI(当時67歳)に対
し,「開けろ,叩き殺すぞ。」などと大声を出して脅迫し,畏怖した同女をして玄関の
鍵を開けさせて,同所から屋内に侵入し,玄関隣の店舗事務室において,引き続き
同ゴルフクラブを携帯するなどしてその反抗を抑圧した上,金庫内から同女所有の
現金約200万円及び手提げ金庫ほか16点(時価合計5000円相当)を強取し,そ
の際,被告人において,屋内に居合わせたJ(当時64歳)が勝手口から逃げ出した
のを認めるや,警察に通報されるのを防ぐため,同女が死亡するに至るかもしれな
いことを認識しながら,あえて,同女に対し,改造エアガンで金属球を1発発射して
背部に命中させたが,同女に加療約22日間を要する盲管射創の傷害を負わせた
にとどまり,殺害するに至らなかったものである。
【補足説明】
 弁護人は,(1)判示第17の事実(以下「甲事件」という。)について,被告人に住居侵
入,強盗致死及び強盗傷人の各罪が成立することは認めるが,E及びDを改造エアガン
で射撃したのは共犯者Aであって,被告人は被害者両名に対して全く暴行を加えていな
い,(2)判示第22の事実(以下「乙事件」という。)について,被告人は,Jに対しエアガン
を発射し傷害を負わせたが,威嚇目的であり,殺意はなく,強盗傷人罪が成立するにす
ぎない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。
 当裁判所は,(1)甲事件については,被害者両名に対して改造エアガンで金属球を発
射するなどの暴行を加えたのが,被告人かAか,あるいは,その両名であることは認め
られるが,本件全証拠によっても,被害者らに暴行を加えたのが被告人かAか,あるい
は,その両名であるかを特定することはできず,(2)乙事件については,被告人には未必
の殺意があり,強盗殺人未遂罪が成立するものと認める。以下,その理由を補足して説
明する。
(甲事件について)
1 前提事実
関係証拠によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告人とAは,B,Cらと共謀の上,被告人とAが実行犯となって熊本県内の金融
業をしている老夫婦が住む民家に押し入り,金品を強取することを企てた。被告人
は,以前からエアガンを改造する趣味を有していたところ,甲事件に備えて,市販
のエアガン2丁に高圧ガスを直結する改造を加えて,その威力を強化した。そして,
被告人とAは,平成12年8月31日夜,改造エアガン2丁,金属球約100発,特殊
警棒2本のほか,手錠,地下足袋,手袋などを準備した上,岐阜から熊本に向け自
動車で出発した。
(2) 被告人とAは,翌9月1日早朝,福岡県内の九州自動車道下り線のサービスエリア
でBと合流し,押し入る民家までの地図を受け取るなどした後,目的地である熊本
県菊池郡a町に向かったが,事件を敢行する勢いをつけるために,エリミンと称する
薬物等を飲んで,興奮状態になっていた。
(3) 被告人とAは,遅くとも同日午前5時45分ころまでには被害者方付近に自動車を
停め,甲事件を敢行した後,同日午前6時15分ころ,被害者方から逃走した。な
お,被害者方は,被告人らが押し入る予定にしていた家とは別の家であり,被告人
とAは家を間違えていたものである。
(4) 被告人とAは,福岡県内の九州自動車道上り線のサービスエリアないしパーキン
グエリアでB及びCと合流し,改造エアガンで家人を射撃したこと,あるはずの金庫
がなかったことなどを報告した後,Bらと別れて岐阜方面に向かった。
(5) 被害者らの状況
 同日午前6時45分ころ,Eは,被害者方1階6畳居間で,うつぶせに倒れて死亡
しているのを親族によって発見された。Eの後頭部にはガムテープ片が付着してお
り,その前胸左内側上部には射創が1個あり,その創洞は前上右方から後やや下
やや左方に向かい,右心室の肺動脈起始部,左心房の内外壁を貫通し,左心房
外膜部に達していた。Eの体内から,高圧ガスなどをエネルギー源とする銃器から
発射されたと考えられる直径約5.99ミリメートル,重量約0.88グラムの金属球1
個が発見された。Eの死因は,前記射創に基づく心タンポナーデと認められた。こ
のほか,Eの背面には,深さ約2センチメートル,皮下軟部組織間に達して終わる
射創1個が,左下顎部には靴底様のパターンを伴う手拳大の打撲傷1個が,左口
角部内面粘膜部に母指頭大の出血1個が,右上腕内側上部と右肘頭部に打撲傷
各1個がそれぞれ認められた。そして,前記2個の射創を比較すると,背部射創の
出血が少量であるため,胸部射創による出血後に背部射創による受傷があったと
考えられ,また,射創以外の傷はいずれも内出血を伴うもので,胸部射創による出
血前の受傷と考えられる。
 他方,Dは,同6畳居間の北側にある6畳寝室のベッドに寝た状態で発見され,そ
の左側後頭部及び左上腕部には挫創痕(射創)が各1個あり,Dは全治約1週間を
要する頭部挫創,左上腕部挫創と診断された。Dの左側後頭部及び左上腕部の皮
下組織内から,Eと同様の金属球がそれぞれ1個発見された。また,Dの左上腕部
には,棒状の凶器で殴打されたと考えられる皮下出血を伴う二重条痕が,左目上
眼瞼部には皮下出血が,鼻部中央左側には大豆大の表皮剥離がそれぞれ認めら
れた。なお,Dは,老人性痴呆症を患っており,生活動作全般について介護を要す
る状態であり,本件当時の状況を供述することができない。
(6) 被害者方の状況
ア 足跡
 被害者方1階のテラス,広縁,8畳仏間,中廊下,台所,階段,玄関前廊下及
び玄関並びに2階廊下に足跡がある。足跡は,大小2種類であり,1階テラス,
広縁には大小の足跡が混在して認められたが,8畳仏間及び玄関には大のみ
が認められ,階段及び2階廊下には小のみが認められた。
 Aが27センチメートル,被告人が26センチメートルの地下足袋をそれぞれ履
いていたことから,Aが8畳仏間及び玄関に,被告人が階段及び2階廊下にそれ
ぞれ足を踏み入れたものと認められる。
イ 物色の形跡
 1階の広縁,8畳仏間,8畳和室,6畳納戸,台所,6畳居間及び6畳寝室並び
に2階東側,西側各6畳間には物色した形跡があった。
ウ 金属球の存在
 1階6畳居間の隣の縁側に金属球が1個,1階6畳寝室のDが寝ていたベッド
に敷かれた寝ゴザの上から金属球が2個それぞれ発見された。これらの金属球
には,銃器から発射されたと考えられる痕跡が認められるが,人血の付着は認
められない。
2 Aの供述の概要
 被害者方に押し入る際,毛糸の帽子の一部を切り取り,ガムテープを貼って目出し
帽を作ってかぶった。老人相手に改造エアガンや特殊警棒は必要ないと思ったので
車から持って行かず,手錠とマイナスドライバーのみを携帯した。被告人は改造エア
ガンを持っていった。被告人の後について被害者方8畳仏間に入ると,8畳和室にい
たEの叫び声が聞こえた。被告人と2人でEを6畳居間に追い込んで囲むと,Eはその
場にしゃがみ込んだ。被告人が,改造エアガンの銃口をEに向けた。その後,被告人
から指示されて8畳和室を物色していると,改造エアガンの発射音が連続して2回ほ
ど聞こえた。物色を中断して被告人の方に行きかけたが,被告人から何も言われな
かったので,物色を再開した。その後,再び発射音が連続して2回ほど聞こえた。その
後も物色を続けていると,被告人が呼びに来たので,廊下を通って被害者方から逃走
した。6畳寝室が存在したことやそこにDがいたことは,全く気付かなかった。
3 被告人の供述の概要
 被害者方に押し入る際,自分とAは,改造エアガンを1丁ずつ,特殊警棒を1本ずつ
持っていった。Aの後について被害者方に入り,広縁,8畳仏間,8畳和室を通り,先
に6畳寝室に入ったAが,ベッドで寝ていたDの顔面等に向けて改造エアガンを発射
し,Dの顔面を殴った。自分もベッドの角付近に向けて改造エアガンを発射したが,1
発で壊れ,金属球が落ちて散らばったので,それを拾っていた。そのとき,中廊下の6
畳寝室前付近にいたEが逃げようとしたので,AがEの背中に向けて改造エアガンを
発射し,6畳居間に逃げたEの前に回り込んだ。自分は,背後からEを押さえ付け,そ
の口をふさいだところ,Eから手をかまれた。そして,Aが正面からEの胸部を改造エ
アガンで射撃し,Eをその場に置いたところ,Eはいびきをかき始めた。そのとき,自分
はバランスを崩してEの顔を踏んだ。その後,すぐに逃走しようとしたが,Aは室内をし
つこく物色していた。
4 前記2,3のとおり,A及び被告人は,自分はいずれの被害者に対しても改造エアガ
ンで金属球を命中させたことはない旨相互に相反する供述をしているので,以下,こ
れらの供述の信用性について検討する。
(1) Aの供述の信用性について
ア Aは,老人相手に必要ないと思い,改造エアガン及び特殊警棒を被害者方に持
っていかなかったと供述している。しかし,被害者らが老人とわかっていたとして
も,初めて行く場所であり,どのような状況であるかも分かっていない上,もともと
老人と知りつつ,犯行のために改造までして用意周到に準備したエアガンなどの
凶器を自動車に積んで持っていきながら,あえて犯行場所に持っていかないとい
うのは極めて不自然かつ不合理であって,信用し難い。
イ Aは,結局のところ,被告人が改造エアガンを発射した場面は見ておらず,2回
に分けて発射音が聞こえたというだけで,この点について曖昧な供述に終始して
いる。しかし,老夫婦がいるとあらかじめ認識していたAが,別の部屋で物色中
最初の発射音が聞こえたのに,何が起こったのかを確認もしないで物色行為を
再開し,さらに,2度目の発射音が聞こえたのに,このときも被告人の所に行か
なかったというのは極めて不自然である。捜査官から具体的に追及されて返答
に窮することがないように,重要な場面については見ていないことにしているの
ではないかという疑いがある。
ウ Aは,合計4回ほどの発射音しか聞いていないと供述している。しかし,被害者
らの体内から摘出された金属球が合計3個あるほか,6畳寝室から2個,1階居
間隣の縁側から1個の金属球が発見されており,いずれも発射痕があることから
すると,少なくとも6回の発射音が聞こえたはずであって,この点に関するAの供
述は,客観的事実と符合しない。
エ Aは,Eの後頭部に付着していたガムテープにつき,自分がかぶっていた毛糸
の帽子にはり付けていたそれがEの身体に付着したのではないかと供述してい
るところ,その理由について合理的な説明をすることができない。Aの帽子に付
着していたガムテープがEの後頭部に付着した状態で発見されていることからす
ると,Eがガムテープで猿ぐつわをされるなど,AとEとの間で何らかの接触があ
ったのではないかと推認されるところ,Eとの接触についてほとんど語るところの
ないAの供述は,不自然である。
オ Aは,台所や6畳寝室と接する廊下を通って被害者方から逃走したというのに,
台所や6畳寝室の存在に全く気付かなかったと供述しているが,これも不自然で
ある。6畳寝室にいたDの存在に気付かなかったと言うためではないかという疑
いがある。
 以上のとおり,Aの供述には種々の不自然かつ不合理な点,客観的事実と符合
しない点が認められ,これらを併せ考えると,専ら被告人がエアガンを発射して被
害者らに命中させたというAの供述をたやすく信用することはできない。
(2) 被告人の供述の信用性について
ア 被告人は,Aが,6畳寝室において,Dの顔面等に向け改造エアガンを発射し,
かつ,Dの顔面を殴ったと供述している。確かに,Dの左側後頭部及び左上腕部
の射創,左目上眼瞼部の皮下出血は,被告人の供述と合致している。しかし,D
の左上腕部には棒状の凶器で殴打されたと考えられる二重条痕が認められると
ころ,被告人はこの点について合理的な説明をすることができない。
イ 被告人は,6畳寝室において,Dの寝ていたベッドに向かって改造エアガンを1
回発射したところ,改造エアガンが壊れて,28個近く装填していた金属球の約半
分が部屋の中に散らばってしまったので,5個ほど拾い集めたと供述している。
この供述が事実とすれば,6畳寝室には発射痕のない金属球が少なくとも数個
は落ちたままになっているはずである。しかし,6畳寝室からは,発射痕のある金
属球が2個発見されているだけで,発射痕のない金属球は1個も発見されておら
ず,被告人の供述は客観的事実と符合しない。
ウ 被告人は,「Aが逃げようとするEの背中を射撃し,Eを追いかけてそのまま追
い越し,Eと向き合う状態になった。そこで,自分が背後からEを押さえ付け,そ
の口を手でふさごうとしたところ,Eから手をかみつかれた。Aが正面からEの胸
部を射撃した。」旨の供述をしているが,逃げようとしたEの背中を射撃したAが,
Eを捕まえないで回り込むというのは不自然な行動といわざるを得ない。
 また,被告人は,射撃の順序につき背中,次いで胸部と供述するが,Eの傷の
状況からすると胸部,背中の順序と推定されることとも矛盾する。
エ 被告人は,AがEを射撃した後すぐに逃走しようとしたが,Aがしつこく物色した
ので後をついていっただけで,自分は物色していないと供述している。しかし,被
告人が2階を物色していることは足跡から明らかであるし,2階以外にも被害者
方が広い範囲で物色されていることや,被害者方に隣接する被害者の親族の車
庫に駐車中の自動車まで物色されていること,さらに,被告人もAも,犯行直後,
サービスエリアないしパーキングエリアでB及びCに対し,被害者方には何もな
かったなどと文句を言っていることからすると,Aだけが執拗に物色したという被
告人の供述は客観的事実と符合せず,不自然である。
 以上のとおり,被告人の供述にも不自然な点,客観的事実と符合しない点が認め
られ,これらを併せ考えると,専らAが被害者らに対しエアガンを命中させたという
被告人の供述をたやすく信用することもできない。
5 このように,被告人の供述もAの供述もそれ自体たやすく信用し難いことに加えて,
①犯行直後にサービスエリアないしパーキングエリアで合流した際,被告人及びAの
言動を直接見聞したBが,被告人及びAの両名が被害者らに対して改造エアガンを発
射したと認識していること,②被告人は,当時同棲中でその後婚姻したKに対し,甲事
件後程なく,泣きながら,「九州でおばあさんを殺してしまった。」と話していたことをも
併せ考えると,被告人もAも,被害者らの死傷の結果についてお互いに相手に責任を
押し付けようとして虚偽の内容を交えた供述をしているのではないかという疑いがあ
る。
 以上によれば,被害者らに対して改造エアガンで金属球を発射するなどの暴行を加
えたのが,被告人若しくはAであるか,あるいは,その両名であることは認められるも
のの,被告人やAの供述に基づいて,被害者らに対し改造エアガンで金属球を発射
するなどの暴行を加えたのが,被告人かAか,あるいは,その両名であるかを特定す
ることはできない。そして,そのほかに,被害者らに対して改造エアガンで金属球を発
射するなどの暴行を加えたのが被告人かAか,あるいはその両名かを特定するに足
りる的確な証拠はなく,結局,本件全証拠によっても,この点を明らかにすることはで
きないものといわざるを得ない。 
(乙事件について)
1 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) エアガンの改造
 被告人は,甲事件を敢行する前から,約50丁の市販のエアガンをグリーンガスを
注入する方法で改造しており,平成12年8月ころには,グリーンガスを直結して威
力を強化したため,約10メートルの距離から鳩を1発で撃ち落したり,約2メートル
の距離からアルミ缶や厚さ約3ミリメートルのベニヤ板をそれぞれ貫通させることが
できるようになった。
(2) 甲事件における改造エアガンの使用
 被告人は,乙事件の前に敢行した甲事件において,Eが被告人が改造したエアガ
ンで胸部を撃たれて死亡したことから,このエアガンは一歩間違うと人を殺してしま
う危険なものだと考えるようになった。
(3) 乙事件の犯行状況
 被告人は,平成12年9月29日,甲事件と同様の方法で改造したエアガンを携帯
して,屋内に侵入し,被害者が被害家屋とその北側にあるブロック塀との間にある
通路まで逃げるのを認めるや,被害者が警察に通報することを阻止するために,
同通路に接する台所勝手口のドア付近から同通路に身を乗り出して,約6.5メート
ル離れた地点から,同通路の鉄製格子の奥にいた被害者の背部に向けて,エアガ
ンを1発撃って命中させた。
(4) 乙事件の被害者の受傷状況
 被告人が撃ったエアガンから発射された金属球は,背部の皮膚,筋膜,肝臓を貫
通し,肋軟骨下付近の腹直筋内に止まっており,皮膚や筋膜の強度からすると,金
属球は相当高速で発射されたもので,被害者に対して相当強力な力が加わってお
り,受傷した位置が上下左右数センチメートルずれていれば,生命に対する相当な
危険性が十分にあった。
(5) 改造したエアガンによる実験結果
 被告人が供述したとおりの方法で,乙事件で使用された改造エアガンと同様の方
法で改造したエアガンで,厚さ約5.2ミリメートルのベニヤ板に向けて金属球を発
射する実験をしたところ,7メートル離れた地点においては,ベニヤ板が完全に貫
通し,また,10メートル離れた地点においては,ベニヤ板がほぼ貫通した状態であ
った。
2 以上の事実によれば,被告人は,これまでに多数のエアガンを改造したことがあり,
グリーンガスを直結して改造する方法によって威力のあるエアガンを改造することに
成功したもので,同エアガンを何度も試射した上で,甲事件を敢行し,現に人が死亡
したことから,その殺傷能力を熟知しながら,乙事件において,被害者が警察へ通報
することを阻止するために,約6.5メートル離れた地点から,改造エアガンを被害者
の背部に向けて発射し,金属球を命中させて,被害者の生命を危険な状態に陥れた
ものであるから,被告人には,少なくとも未必の殺意があったと優に認めることができ
る。
 被告人は,甲事件において死亡したEは高齢である上に着衣が薄かったこと,乙事
件の場合は甲事件と比べて被害者との距離があったことから,被害者が死亡すると
は全く考えなかったなどと供述するが,犯行の経緯や犯行状況,改造エアガンの威力
等を考慮すると,被告人の供述を採用することはできない。
【量刑の理由】
 本件は,被告人が,①住居侵入,強盗致死,強盗傷人(判示第17・甲事件),住居侵
入,強盗殺人未遂(判示第22・乙事件),②公務執行妨害,傷害(判示第1,第16),③覚
せい剤自己使用(判示第2),覚せい剤及び大麻の各所持(判示第3),④凶器準備集
合(判示第4,第5),傷害(判示第6),⑤窃盗(判示第7,第14,第15,第18,第20,第
21),建造物侵入,窃盗(判示第8,第11,第12),窃盗未遂(判示第9),強盗(判示第
10),⑥有印私文書偽造,同行使,詐欺(判示第13),⑦加重逃走(判示第19)の各犯行
に及んだ事案である。
 被告人は,平成11年12月から平成12年8月にかけて,⑤のうちの判示第7ないし第
9,第18の犯行によって,合計1257万円余りもの財物を窃取した挙げ句,共犯者から
さらに数千万円の現金を強奪する話を持ちかけられるや一攫千金を得ようと,①の強盗
致死,強盗傷人,強盗殺人未遂の犯行に及んだものであり,その動機や経緯に酌量の
余地は全くない。①の犯行態様は,暴力団構成員である共犯者を介して,九州や関東
にいる暴力団関係者である他の共犯者らから,九州に資産家がいるとの情報を入手
し,改造エアガンやゴルフクラブを準備して,実行犯の1人として,わざわざ福岡や熊本
まで来て連続して敢行した,極めて組織的かつ計画的なものである。甲事件について
は,被害者らは老夫婦であり,しかも一人は寝たきりの老人であるから,単に金品を強
奪するためであれば,殺傷能力の高い改造エアガンを発射する必要性はないと思われ
るにもかかわらず,金属球を胸部や頭部等に撃ち込んだもので,極めて冷酷かつ非道
というべきである。その結果,1人が死亡している。死亡した被害者は,これまで寝たきり
の夫の世話をしながら元気に暮らしていたにもかかわらず,被告人らの理不尽な突然の
凶行により,尊い命を絶たれたもので,その無念さは察するに余りあり,その夫も,身体
の自由が利かないまま,頭部等にエアガンを撃ち込まれて傷害を負わされたものであ
り,遺族らの衝撃,憤り,悲しみは深く,その処罰感情が極めて厳しいことも当然のこと
である。次に,乙事件については,被告人は,甲事件において被害者を死亡させたにも
かかわらず,さらに一攫千金を得ようと,反省するどころか,平然と強盗に及び,警察に
通報されるのを防ぐために,未必の殺意をもって,改造エアガンを発射して命中させ,当
時64歳の女性に怪我をさせたもので,甚だ危険かつ卑劣で言語道断である。被害者
は,生命の危険にさらされた上,その金属球が体内に残存していたことを約1年後に気
付いて手術を受けており,その衝撃や憤りは大きい。これに対し,両事件の被害者らや
その遺族に対して何らの慰謝の措置も講じられておらず,また,その見込みもない。乙
事件の財産的損害は,約200万円と多額であり,また,このような連続凶悪事件が地域
社会に与えた恐怖感は計り知れないものがある。
 被告人は,①の各犯行において,実行犯として積極的かつ中心的に犯罪を実現した
のであるから,その果たした役割は重大である。なお,①の各犯行において,被告人
が,専らAに従属し,その指示に従って行動していたとは認めがたく,被告人とAの立場
に主従の関係はない。そこで,甲事件については,証拠上,被害者を死傷させたのが被
告人かAか,あるいは,その両名かを特定することはできず,量刑上は,被告人が直接
暴行を加えていないことを前提として判断せざるを得ないが,Aと共に強盗致死及び強
盗傷人についての責任を免れない以上,Aと同程度の責めを負うべきである。
 そして,被告人は,甲事件の翌日に,⑤の窃盗(判示第15)に及び,乙事件後も,⑤の
窃盗(判示第14),建造物侵入,窃盗(判示第11,第12),強盗(判示第10),⑥有印私文
書偽造,同行使,詐欺(判示第13)の犯行に及んで,多額の財産的損害を与えたが,全
く被害弁償はされていない。また,暴走族グループ同士の抗争において,数十人と共同
してエアガン等の凶器を準備して集合し,主導的な役割を果たした上,改造エアガンを
用いて被害者に傷害を負わせた④の各犯行に及び,さらに,逮捕された後も,取調中な
いし監視中の警察官3名に対しそれぞれ暴行を加えて公務の執行を妨害するとともに
傷害を負わせた②の犯行に至っており,被告人の生命,身体を軽視する態度は顕著と
いうべきである。
 次に,被告人は,覚せい剤等の違法薬物を常習的に使用する中で,③の覚せい剤の
使用,所持等の犯行に及んでおり,この種事犯に対する規範意識の欠如も顕著という
べきである。さらに,被告人は,逮捕後収容されていた拘置支所の天井金網を損壊して
逃走する⑦の犯行に及んだ上,逃亡するための自動車等を窃取した⑤(判示第20,第
21)の犯行に至っている。
 以上のとおり,被告人は,仕事をせず,無為徒食の生活をするなかで,本件各犯行に
至ったもので,各犯行の内容やその経緯等に鑑みると,再犯の可能性が高いといわざ
るを得ず,その刑事責任は極めて重大であり,その人格を改善し更生させることは極め
て困難というべきである。
 したがって,強盗致死事件につき,証拠上被告人が暴行を加えたとはいえないこと,反
省の弁を述べていること,帰りを待つ妻がいることなど,被告人にとって有利な事情を十
分斟酌しても,酌量減軽をすべき事案とは認め難く,被告人を無期懲役に処するのが相
当であると思料する。
(求刑 無期懲役,覚せい剤及び大麻草の没収)
平成14年12月12日
熊本地方裁判所刑事部
裁判長裁判官原田保孝
裁判官柴田寿宏
裁判官今泉 愛

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71期修習生 72期修習生 求人
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