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裁判例


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       主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人らの訴えのうち「高根町簡易水道事業給水条例及び施行規則に関す
る内規」(平成10年4月1日以後の届出に適用されるもの)の無効確認請求に係
る部分をいずれも却下する。
(2) 被控訴人の高根町簡易水道事業給水条例の別表第一(平成10年4月1日
条例第24号による改正後のもの)のうち,別荘(住民基本台帳に登録していない
者)の基本料金について規定した部分が無効であることを確認する。
(3) 別紙水道料金支払状況表中A欄記載の金額の各債務が存在しないことを,
それぞれ該当する控訴人らと被控訴人との間で確認する。
(4) 被控訴人は同表中B欄記載の各金員を,それぞれ該当する控訴人らに支払
え。
(5) 被控訴人は同表中A欄記載の未払水道料金がある控訴人らに対する簡易水
道の給水を停止してはならない。
(6) 控訴人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを10分し,その9を被控訴人の負担と
し,その余を控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の「高根町簡易水道事業給水条例及び施行規則に関する内規」
(平成10年4月1日以後の届出に適用されるもの)は無効であることを確認す
る。
(3) 主文1項(2)ないし(5)と同旨
(4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 被控訴人は,簡易水道事業を営む地方公共団体であり,控訴人らは,いずれも高
根町外の各住所地に住民登録を有するが,高根町内に別荘を所有し,被控訴人との
間で給水契約を締結している者である。
 本件は,控訴人らが,被控訴人の高根町簡易水道事業給水条例の別表第一(平成
10年条例第24号による改正後のもの。以下「本件別表」という。)並びに別紙
の高根町簡易水道事業給水条例及び施行規則に関する内規(平成10年4月1日以
後の届出に適用されるもの。以下「本件内規」という。)は,被控訴人の住民基本
台帳に登録していない別荘所有者を不当に差別するものであるとして,本件別表に
ついて行政訴訟による無効確認(原審では主位的に民事訴訟,予備的に行政訴訟に
よるとしていたが,当審で民事訴訟を取り下げた。)を,本件内規について主位的
に民事訴訟,予備的に行政訴訟による無効確認をそれぞれ求めるとともに,本件別
表が無効であることを前提として,行政事件訴訟法38条,16条により関連請求
に係る民事訴訟を併合して,本件別表の基本料金(ただし,「基本料金」とは,特
定の月内において,水道の使用量にかかわらず課せられる料金をいう。以下同
じ。)と従前の基本料金との差額について,いずれも民事訴訟により,未払水道料
金については債務不存在確認を,支払済みの水道料金相当額については不当利得の
返還又は不法行為に基づく損害賠償を求めたほか,未払水道料金がある控訴人らに
ついて,被控訴人が簡易水道の給水を停止することの禁止を求めた事案である。な
お,控訴人らは,1審原告ら142名のうちの111名であり,その余の31名は
控訴しなかった。
2 1審は,本件訴えのうち本件内規の無効確認請求については,本件内規も供給
規程の一部として給水契約の内容になるものと解されるから,民事訴訟によりその
効力を争い得るが,控訴人らは被控訴人に対し長期間不在等の理由で具体的に給水
の一時休止を求めたわけではないので,控訴人らの権利又は法的地位に対する不安
ないし危険は未だ抽象的なものにすぎず,確認の利益を欠き不適法であるとして却
下し(行政訴訟による本件内規の無効確認請求については予備的請求であるから判
断しないとした。),本件別表の無効確認請求については,本件別表は条例で定め
られているものの供給規程である約款にすぎないから,民事訴訟によりその効力を
争うことが許されるとしたうえ,本件別表が別荘の基本料金をそれ以外と比べて高
額に設定すること自体は別荘の水道使用が夏期等に集中していて被控訴人の水道事
業における夏期等の一時的な水道使用量の増加の一因となっているから給水施設費
用等の費用を年間を通じて平均し調整する方法として許されるし,高額の程度も一
応は別荘以外の水道需用者全体の年間水道料金の平均と同程度に収まることなどか
らすると合理的な範囲にあるから,本件別表が別荘の基本料金をそれ以外と比べて
高額に設定していることは不当な差別に当たらないとして請求を棄却し(行政訴訟
による本件別表の無効確認請求については予備的請求であるから判断しないとし
た。),その余の被控訴人に対する未払水道料金の債務不存在確認請求及び支払済
みの水道料金相当額の不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求並びに
未払水道料金がある控訴人らの給水停止の禁止請求についても,本件別表が有効で
あることを前提とすると,いずれも理由がないとして棄却した。
3 前提事実(証拠等を掲記しない事実は争いがない。)
(1) 被控訴人は,山梨県高根町において簡易水道事業を営む地方公共団体であ
る(甲35,甲40の3,甲46,弁論の全趣旨)。
(2) 控訴人らは,いずれも高根町外の各住所地に住民登録を有するが,高根町
内に別荘を所有し,被控訴人との間で給水契約を締結している。なお,1審原告亡
aは,平成13年2月27日に死亡し,その子である控訴人bが1審原告亡aの上
記別荘所有権及び給水契約上の地位を承継した。
(3) 別荘が最も集中する清里の森地区は,昭和60年に山梨県が直轄事業とし
て別荘地の誘致を計画して開発した別荘団地であり,別荘購入者が水道工事負担金
の外に水道による給水施設の利用の負担として水道権利金ないし水道加入権利金と
して30万円ないし40万円を清里の森簡易水道組合に支払い,被控訴人の別荘地
所有者と一般住民は,水道施設の設置に協力し,町営簡易水道,簡易水道組合等か
ら給水を受けていたが,被控訴人は,昭和63年,これらの簡易水道組合等の資産
を買い取り,高根町清里の森簡易水道事業を除く水道事業を町営水道に統合した
(甲16ないし甲18,甲35,甲40の3,甲46,弁論の全趣旨)。
(4) (3)の統合に際して,被控訴人は,「高根町簡易水道事業給水条例」
(昭和63年条例第8号。以下「本件条例」という。)を制定した。制定当時の水
道料金は,別紙料金表1のとおりであった。
(5) 被控訴人は,昭和57年から山梨県から水道水の供給を受けていたことも
あって,平成5年7月1日,本件条例の一部改正条例(平成5年条例第11号)を
施行し,高根町清里の森簡易水道事業給水条例を廃止して高根町清里の森簡易水道
事業も町営水道に統合し,被控訴人の簡易水道事業の給水区域を被控訴人町内全域
とするとともに,水道料金を別紙料金表2のとおりとし,さらに,新規加入者に対
し課す加入金を定めた(乙3,弁論の全趣旨)。
(6) 被控訴人は,平成6年4月1日,本件条例の一部改正条例(平成6年条例
第4号)を施行し,水道料金を別紙料金表3のとおりとした。
(7) 被控訴人は,平成10年4月1日,本件条例の一部改正条例(平成10年
条例第24号)を施行し,水道料金を本件別表(別紙料金表4)のとおりとすると
ともに,本件内規を定め,水道の一時的な休止が認められる者から,別荘(被控訴
人の住民基本台帳に登録していない者をいう。以下同じ。)を除いた。これによ
り,別荘は水道の一時的な休止が認められず,休止した後再開する場合には再度加
入金を課せられることとなった。
(8) 平成10年4月1日以降の控訴人らの水道料金の支払状況は別紙水道料金
支払状況表のとおりである。すなわち,同表中A欄記載の金額は,本件別表の基本
料金と本件別表に改正される前の本件条例(平成6年条例第4号)の別表第一(別
紙料金表3)の基本料金(以下「従前の基本料金」という。)との差額月額200
0円についての同表中不払期間欄記載の期間における不払累計額であり,同表中B
欄記載の金額は,前記差額月額2000円についての同表中支払期間欄にある期間
における支払累計額である。
(9) 被控訴人は,平成11年7月12日付け,同月15日付け及び同月19日
付けで,それぞれ未払水道料金がある者に給水停止を執行する旨の文書を送付し
た。
2 争点
(1) 本件別表及び本件内規の無効確認の訴えは適法か否か。
(2) 本件別表が水道の基本料金について別荘と別荘以外の住民とを区別し,別
荘に対してより高額の基本料金を課していることは,憲法14条1項,水道法(平
成13年法律第100号による改正前の水道法〔以下「旧水道法」といい,当該改
正後の水道法を「水道法」という。〕)14条4項1号,4号,地方公営企業法2
1条2項に違反するか否か。
(3) 本件内規が水道の休止について別荘と別荘以外の住民とを区別し,別荘に
対して認めないとしていることは,憲法14条1項,旧水道法14条4項1号,4
号,地方公営企業法21条2項に違反するか否か。
3 争点(1)について
(1) 控訴人らの主張
ア 水道の利用関係は非権力的給付行政であり,旧水道法は若干の契約の自由制限
を設けているがその全体は契約原理の下にあり,事業者による行政処分を予定して
いないから,水道事業に関しては公法関係ではなく私法関係に属する。しかし,本
件別表は,憲法94条及び地方自治法14条1項に基づいて制定された条例の形式
を採り,水道の基本料金の額を確定金額をもって規定していること,控訴人らの大
部分の水道使用量は基本料金の範囲内に収まっていること,水道事業者が地方公共
団体である場合の水道料金は,個々の給水契約により定まるのではなく,供給規程
たる給水条例によって定まることなどからすれば,その施行によって,他に個別的
行政処分を要せず,直接の効果として別荘所有者たる控訴人らの水道料金債務に影
響を与えるものであり,特定個人の具体的権利義務に影響を与えるから,抗告訴訟
の対象たる処分に当たる。
 また,控訴人らは,本件別表が無効であることを前提として料金を支払う場合,
給水停止の制裁を受ける可能性が高く,回復し難い重大な損害を被るおそれがある
こと,水道料金債務は継続して発生し,水道料金債務不存在確認の訴えなどによる
のでは,後訴において再び本件別表の有効性が問題となるおそれがあり,控訴人ら
にとって本件別表の無効確認を求めるほか適切な救済手段はないことなどからすれ
ば,抗告訴訟における無効等確認の当事者適格(行政事件訴訟法36条)を有す
る。
 したがって,本件別表の無効確認の訴えは,行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟に
よる無効等確認の訴え(行政事件訴訟法3条4項)として適法である。
イ 本件内規は,法令でも旧水道法14条1項の供給規程でもなく,控訴人らを拘
束しないが,水道供給の再開は被控訴人により行われる以上,需用者である控訴人
らは事実上本件内規に拘束されるから,民事訴訟における法律上の争訟に当たる。
そして,長期間不在等で必要を生じた場合に水道の休止の制度を利用できないこと
による控訴人らの不安ないし危険は抽象的なものではなく,十分具体性をもった不
安ないし危険であるから,被控訴人に対し水道の休止を申し出るより前において
も,本件内規の無効確認を求める訴えの利益がある。
 仮に,本件内規の無効確認を求める訴えが民事訴訟における法律上の争訟に当た
らない場合には,予備的に抗告訴訟の無効確認を求める訴えに当たるというべきで
ある。
(2) 被控訴人の主張
ア 本件別表は条例という形式を採るが,その実体は,私法上の契約である給水契
約の供給規定である。需用者たる控訴人らが被控訴人に対し水道料金の支払義務を
負うのは,給水契約を締結したことにより附合契約として料金等の契約内容に条例
である本件別表が適用されるからであって,本件別表によって直接その義務を課せ
られるものではない。したがって,本件別表が直接控訴人らの権利や義務に変動を
及ぼすとはいえないから,本件別表は抗告訴訟の対象たる処分には当たらない。
 また,控訴人らは,給水契約の一部無効の確認,又は基本料金について一定の金
額を超えて債務の存在しないことの確認を民事訴訟で求めれば足りるから,抗告訴
訟における当事者適格(行政事件訴訟法36条)を欠き,かつ,その基となる法令
そのもの,すなわち本件別表の無効確認を求める訴えの利益はない。
イ 本件内規は,給水契約の内容となるものではなく,行政庁内部の取扱方針を定
めたもので直接に住民等の権利義務に影響を与えるものではないから,具体的な紛
争が発生していないにもかかわらず抽象的にその無効確認を求めることは民事訴訟
としても行政訴訟としても不適法である。
4 争点(2)について
(1) 控訴人らの主張
ア 水道事業者たる地方公共団体と水道需用者との個々の給水契約は私法上の契約
であるが,需用者は,料金その他の供給条件については,地方公共団体が公権力を
行使して一方的かつ権力的に決定した条例に規定された内容により給水契約を締結
せざるを得ないから,当該給水契約は,その成立過程及び内容において実質的に見
て公権力の発動たる行為と何ら変わりがない。したがって,給水契約やその内容と
なる供給条件を規定する条例には憲法14条1項が直接適用され,差別的取扱いを
するには合理的な理由がなければならない。
 また,水道料金について,旧水道法14条4項1号は原価主義を,同4号は差別
的取扱いの禁止を定め,地方公営企業法21条2項は地方公営企業の料金は公正妥
当なものでなければならず,かつ,能率的な経営の下における適正な原価を基礎と
するものでなければならないと定めているが,これらの規定は,地方公共団体が行
う簡易水道事業の水道料金の変更についても適用ないし類推適用されるべきであ
る。
 したがって,水道料金は使用した水の原価に使用料を乗じて決定されるとする原
価主義によるのが原則であり,社会経済政策的観点から口径別,用途別料金体系を
採用する場合にも,合理性のある区分が採用されなければならず,この場合でも,
原価を全く無視することは許されない。また,水道事業は地域独占により競争が排
除され,需用者は当該水道を利用せざるを得ない立場にあり,水道料金が公共料金
であることからすれば,需用者が誰であるかにより大幅な料金額の差別を行うため
には誰もが納得するだけの合理的な根拠を要する。
イ 水道料金は,原価主義により,営業費用,資本費用を積算して総括原価を算定
し,各使用者群について設定した基本料金と従量料金をもって計算した料金収入額
を総括原価と一致させるようにして算定しなければならない。しかし,被控訴人
は,水道料金を本件別表のとおりとしたことについて,平均原価が1立方メートル
当たり360円,町民の年間水道料金の平均が約6万円であると主張するが,平均
原価を算定するについての総括原価並びに別荘及び一般の各使用者群についての原
価及び積算根拠を明らかにしていないうえ,町民の年間水道料金の平均額について
は各種公共施設,各種法人の施設,ホテル,学校寮,会社保養所,牧場等も含め
て,これら大口需用者1施設と一般町民家庭の1件とを同視して,その水道料金を
単純に総件数で除して得られた一般需用者全員の平均年間料金により決定したとい
うのであり,原価主義に従って料金額を算定したとはいえない。
ウ 現代の別荘は奢侈的な施設ではなく,別荘所有者は社会の中堅層に位置するも
のである上,別荘の水道使用は営利用ではなく,小口かつ家庭の生活用水としての
使用であるから,被控訴人が社会経済政策的観点から用途別料金体系を採用するの
であれば,ホテル,保養施設等の営利・大口使用者よりも別荘をむしろ低額にすべ
きである。また,別荘はおおむね水道メーターの口径が13ミリメートルの契約者
(以下「13ミリ契約者」という。)であるから,町民の年間水道料金についても
同じく13ミリ契約者のそれと比較すべきである。この点,本件別表施行以前にお
いては,町民の13ミリ契約者の年間水道料金は1件当たり3万9621円であっ
たのに対し,別荘の年間水道料金は1件当たり3万8287円だったのであり,お
おむね均衡が取れていたのである。したがって,別荘の水道料金負担が軽すぎると
いうことはないし,むしろ水道使用量の少ない別荘は,実質的に一般町民と比較し
て既に過大な水道料金を負担していた。しかし,本件別表は,用途を別荘とそれ以
外の町民の2種類に区分して,基本料金について別荘を割高に定め,特に水道メー
ターの口径が13ミリメートルの契約者(以下「13ミリ契約者」という。)につ
いては,別荘以外の一般町民家庭及び営利施設は1400円であるのに,別荘は5
000円として3・57倍という高額にしており,別荘とそれ以外との間に大きな
差別措置をとって,別荘を甚だしく不利益な地位に置いている。
エ 被控訴人は,本件別表が基本料金につき別荘を町民よりも割高に定める理由に
ついては,別荘の水道使用量は夏期に増大するため,その最大水使用量に応じた水
と設備を1年中確保しておく必要があり,基本料金を割高にすることにより,年間
を通した負担額を別荘以外の住民と均等にする必要があると主張する。
 しかし,①被控訴人では,簡易水道組合が町営水道に統合された段階で,現在の
年間最大水使用料を給水するのに必要かつ十分な給水施設が設置されており,季節
的な水使用料の変動には十分に応じ得る態勢になっているうえ,町営水道統合時に
町民には1人当たり約2万5000円の還元が行われたのに,別荘には分譲時に1
戸30万円以上の水施設設置のための権利金が徴収されたのに一切返還されず,別
荘は町民よりもはるかに高額の給水施設設置費用を拠出していること,②被控訴人
の水道事業においては,αダムに常時豊富な貯水があり,必要な時必要なだけ取水
できるのであるから,夏期における別荘に対する水道供給量の増大が,水道事業財
政の負担増をもたらすことはないこと,③被控訴人の水道事業における水使用料の
季節的変動の主たる原因は,別荘ではなく,清里地区に多くあるホテル,ペンショ
ン,学校寮,公園等の大規模施設を利用する観光客にあり,これらの大規模施設の
大部分は住民登録がなく,簡易水道統合時に他の町民同様寄与分の還元を受け,他
の町民と同じく一般料金が適用されていることからすると,被控訴人の給水量全体
の中でさしたる比重を占めない別荘だけ基本料金を割高にすることには合理性がな
い。
オ 被控訴人は,本件別表が13ミリ契約者の基本料金について別荘を別荘以外よ
り約2万円高いことが不合理とはいえない理由として,一般会計から水道会計への
多額な繰入金があること,簡易水道分の地方交付税交付金が1世帯当たり約1万9
000円相当であることをあげる。しかし,前者は,被控訴人の水道事業財政が破
綻していることを示すものであるが,その原因は水道管理者たる被控訴人町長の放
漫な財政運営,特にαダムからの過大な買水契約締結・毎年のぼう大な取水にあ
り,別荘を原因とするものではない。また,後者については,地方交付税交付金
は,国が各地方公共団体の財源不足を衡平に填補することを目途として基準財政需
要額により算定して交付するものであり,一般会計に収入されて一般財源になるも
のである。そして,水道事業会計は特別会計(地方自治法209条参照)として独
立採算制が採られているから,地方交付税交付金を使用することは原則として許さ
れない。このように地方交付税交付金は,住民への水道料金の補助金ではないか
ら,水道料金を定める根拠とすることはできない。
カ 以上のとおり,本件別表は,原価主義に違反し,別荘とそれ以外との間に不合
理な差別措置をとるものであって,憲法14条1項,旧水道法14条4項1号,4
号,地方公営企業法21条2項に違反する。
(2) 被控訴人の主張
ア 私法上の契約である給水契約には憲法14条1項は直接適用されない。また,
旧水道法14条4項は同条3項を受けて地方公共団体以外の水道事業者が給水条件
変更につき厚生大臣の認可を受ける要件を規定したものであり,また,地方公営企
業法は,地方公共団体の経営する企業の組織等について定めるが,同法2条1項1
号かっこ書により簡易水道事業は除外されているから,被控訴人の簡易水道事業の
水道料金には旧水道法14条4項1号,4号及び地方公営企業法21条2項が適用
及び類推適用されることはない。
 被控訴人の簡易水道事業は地方自治法に定める公の施設の利用関係であると解さ
れるから,住民がそれを利用することについて不当な差別的取扱いいをしてはなら
ず(同法244条3項),その設置及び管理に関する事項並びに利用料金は条例で
定めなければならない(同法244条の2第1項,228条1項)。すなわち,地
方公共団体の水道事業に係る水道料金体系は,住民を代表する議会により,当該市
町村の水を巡る自然的,社会的諸条件やこれに対応する水道行政の実際,需用者の
事業,将来的な見通しなどを総合的に勘案して決められるものであって,その決定
に際し,原価主義の適用はなく,差別的取扱いかどうかについても,旧水道法14
条4項1号,4号及び地方公営企業法21条2項の解釈を参考とするにすぎず,単
なる金額の違いをもって不合理・不当な差別ということはできない。
イ 被控訴人の簡易水道事業の原価の平均費用,すなわち,年間経費の合計額を年
間総有収水量(漏水等を除いた料金徴収の対象となる水量)で除した費用は,平成
8年度から平成13年度までの実績で1立方メートル当たり約360円となる。し
かし,水道事業は,水資源の希少さ,立地条件の厳しさ,環境問題などのために,
生産量を増加するために必要な原価(限界費用)が逓増する事業であるから,平均
原価をそのまま一律の料金とすることは需用者間の実質的な公平さを欠き不適当で
ある。被控訴人の簡易水道事業にあっては,別荘以外の需用者の1件当たりの年間
水道料金の平均約6万円であることから,被控訴人は,以下のとおり総合的観点か
ら,使用形態等の異なる別荘と別荘以外の需用者に区分し,両者の年間の実質的な
負担額がほぼ同一水準になるように配慮して,本件別表のとおり料金を決定したの
である。
ウ 高根町には,地形的に水源から各需用者への給水に多額の費用がかかること,
住民に対して別荘の比率が高く,特に清里地区では際立っていること,旧簡易水道
組合から引き継いだ施設は,同組合員が事業費を負担し,地区の共同財産を処分し
たり,労力奉仕するなどの協力をして作られたものであり,この点では営業者たる
住民も同様であることから,歴史的に一般家庭と営業者たる住民の基本料金に区別
を設けてこなかったこと,施設が老朽化するなど水道設備の整備が必要なことな
ど,水を巡る自然的,社会的諸条件が存在する。
 なお,別荘の水道利用は,営利目的ではないとの観点からは生活用水として利用
する一般家庭と類似するが,日常的・必需的かとの観点からは一般家庭とは異なる
から,別荘を一般家庭と同一に扱うことの方が不合理である。
エ 別荘は,年間を通しての水道使用量は少ないが,夏期は住民と同様に水道を使
用するため,その最大使用量に応じた水と設備を1年中確保しておく必要があり,
基本料金を割高にすることにより,年間を通した負担額を別荘以外の住民と均衡を
図る必要がある。
 なお,簡易水道組合が町営水道に統合された段階で,現在の年間最大水使用料を
給水するのに必要かつ十分な給水施設が設置されたが,これは統合を前提にあらか
じめ水資源確保等の措置が執られていたからであるし,新規に水道に加入する者は
全て水道加入金を支払っており,別荘だけが特別の負担をしているものではない。
また,αダムからの取水については,これが必要でないときも,取水できる体制を
整える必要があるし,長期的視野に立ってその需用の予測に基づき準備をしなけれ
ばならない。使用率は毎年上昇していて,平成12年度は80.4パーセントで他
の4か町村の平均78.8パーセントを上回っている。
オ 別荘では,おおむね水道料金が基本料金内に納まっており,使用量による調整
が困難であるから,別荘以外の需用者の1件当たりの年間水道料金の平均約6万円
に合わせて別荘の基本料金を改定する必要があったのであり,このような改定は水
道事業者である被控訴人の裁量の範囲内である。
 また,13ミリ契約者について比較すると,別荘は約6万2196円であるのに
対し,別荘以外は約4万1402円であって,別荘が約2万円高いが,一般会計か
ら水道会計への多額な繰入金,一般会計から峡北地域広域水道企業団への繰入金及
び負担金があること,一般会計の歳入に関わる地方交付税交付金においては簡易水
道関係経費が住民基本台帳の登録人口(別荘住民はこれに該当しない。)を基礎数
値として算出されること,簡易水道分の普通交付税交付金を計算すると平成8年度
では1世帯当たり約1万9000円相当であること,最大需用の発生原因となる別
荘における使用形態に対するピーク責任等を考慮すれば,不合理とはいえない。
カ 比較の対象を一般町民住宅だけとしなかったのは,特殊な使用形態である別荘
と一般町民住宅を同視することができないからである。
キ したがって,本件別表の水道料金は,別荘と別荘以外の住民とを不合理に差別
するものではなく,憲法14条1項に違反しない。また,旧水道法14条4項1
号,4号,地方公営企業法21条2項は,地方公共団体が簡易水道事業を経営する
場合に直接適用される法規ではない。
5 争点(3)について
(1) 控訴人らの主張
 本件内規が水道の休止について別荘と別荘以外の住民とを区別し,別荘に対して
認めないとしていることは,別荘は長期間の不在の際にも基本料金の支払が免除さ
れず,支払い続けなければならないことになり,別荘への差別は益々大きくなる。
そうすると,本件内規は,別荘と別荘以外の住民とを不合理に差別するもので,憲
法14条1項,旧水道法14条4項1号,4号,地方公営企業法21条2項に違反
する。
(2) 被控訴人の主張
 本件内規の水道休止の制度は,常時水道を利用している者が何らかの事情によっ
て長期間その使用を中断せざるを得ないという例外的な事態についての制度であ
り,別荘が水道料金の負担を免れる目的で定期的に休止と再開を繰り返すことを予
定しているものではない。そのような利用を認めると,別荘は,夏期の最大需用時
における給水を受けながら,その余の期間を通じて維持管理するための費用の全て
を1年を通じて水道を利用する者に転化して実際の受益者が必要な経費の負担を免
れることになり,不公平,不均衡が生じる。したがって,本件内規は,別荘と別荘
以外の住民とを不合理に差別するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 給水契約は,水道事業者(簡易水道事業者を含む。以下同じ。)と多数の
水道需用者との間の契約を迅速かつ効率よく処理するとともに,需用者相互間の水
道利用関係を公平にするため,契約内容を定型的に定める必要があるが,この点旧
水道法14条1項は水道事業者に料金,給水装置工事の費用の負担区分その他の供
給条件について,供給規程を定めることを要求しており(なお,水道法14条1項
も同じ),このような供給規程はいわゆる約款として,個々の給水契約を介して契
約内容となり水道事業者と需用者を拘束することとなる。水道事業者が地方公共団
体である場合には,水道料金は公の施設の利用について徴収する使用料(地方自治
法225条)に当たることから,地方自治法228条により条例で定める必要があ
るものの,このようにして条例の形式で定められた供給規程も地方公共団体以外の
水道事業者が定める供給規程と何ら異ならず,その実質は単なる約款にすぎない。
そして,給水契約を締結すると料金等の契約内容については条例の形式で定められ
た供給規程が適用されるにすぎない。地方公共団体たる水道事業者が料金等を変更
する場合にも,供給規程を条例の形式で変更することになり,このようにして変更
された料金等は,当該条例の施行によって,その後にされる個別的行政処分を要せ
ず,その内容が既契約の水道需用者との間の給水契約の変更をもたらし,水道需用
者はこれに従って義務を負うことになる。
 ところで,地方公共団体の水道事業に係る水道需用者としては,当該供給規程の
うち料金の算定基準を定めないしは変更された部分が憲法及びその他の法令等に抵
触するとして争う場合,具体的に発生した個々の水道料金について債務不存在確認
を求めるなどして,その訴えの中で約款たる供給規程の効力を争うこともできる
が,給水契約という継続的供給契約においては,日々料金債務が発生しているので
あるから,個々の水道料金について債務不存在確認を求めることは迂遠であり,よ
り抜本的な紛争解決のためには,約款的性質を有する供給規程自体の無効確認を求
めることも許されるものと解される。この場合,供給規程が条例の形式で定めら
れ,その施行によって,その後にされる個別的行政処分を要せず,その内容が給水
契約の内容となって水道需用者は義務を課されることになるから,当該条例自体を
行政処分性を有するものとして,行政訴訟による無効確認請求の訴えの対象とする
ことができるというべきである。
 そうすると,控訴人らの訴えのうち本件別表の無効確認請求に係る部分は,行政
訴訟による無効確認の訴えとして適法というべきである。
(2) 本件内規は,被控訴人の簡易水道事業における内部の取扱方針を定めたも
のにすぎず,供給規程の一部として直接水道需用者の給水契約の内容となってこれ
に義務を課すものではない。控訴人らは被控訴人に対し具体的に給水の一時休止を
申請したときにこれを拒絶された場合に,その拒絶処分の当否を争えば足りるもの
である。そうすると,控訴人らは,本件内規の定立自体によっては未だその権利又
は法的地位に対する具体的不安ないし具体的危険が発生したとはいえないから,そ
の無効確認を求めることは民事訴訟としてはもちろん,行政訴訟としても不適法で
ある。
2 争点(2)について
(1) 前記1の(2)のとおり,条例である本件別表は行政処分性を有するか
ら,本件別表については国民に対し「法の下の平等」を保障する憲法14条1項の
規定が直接適用されることになる。なお,憲法14条1項は国民に対し「法の下の
平等」を保障するが,ここで「平等」とは絶対的な平等を要求するものではなく,
事柄の性質に応じて合理的な理由のある差別的取扱いをすることは許容しているも
のと解される。
 また,控訴人らは,地方公共団体が行う簡易水道事業の水道料金変更にも旧水道
法14条4項1号(原価主義),4号(不当な差別的取扱いの禁止),地方公営企
業法21条2項(料金の公正妥当性,原価主義)が適用されるとする。この点,旧
水道法14条4項1号,4号は地方公共団体以外の水道事業者が供給条件を変更す
る際の認可の基準についての規定であり,また地方公営企業法はその適用範囲から
簡易水道事業を除いていること(同法2条1項1号)からして,これらの規定が地
方公共団体が行う簡易水道事業の水道料金変更に直接適用されることはないことは
明らかである。しかし,旧水道法7条,8条は,地方公共団体が行う水道事業(簡
易水道事業を含む。)を認可する場合には,料金その他の供給条件が旧水道法14
条4項各号の規定する要件に適合することを要件としているが,認可後の水道料金
については同法14条4項各号の規定に適合することを要件とはしてはいないとこ
ろ,これは住民の代表である地方議会が条例で定める(地方自治法228条1項)
ため,原則として当該事業に要する経費を当該事業の経営に伴う収入をもって充て
る独立採算制を採る(地方財政法6条,同法施行令12条1号)水道事業経営の健
全性や需用者間の公平などが審議検討され,おのずから適正な原価に照らして公正
妥当で特定の者に対する差別的取扱いがされない内容となることを想定したためと
考えられる。平成13年法律第100号による改正後は,水道法14条5項によ
り,地方公共団体である水道事業者が料金を変更する場合にも,旧水道法14項1
号,4号と同内容の水道法14条2項1号,4号の規定が適用されることとされた
のは,これを明確にしたにすぎないとみるべきである。そうすると,同改正前にお
いても,地方公共団体が行う簡易水道事業の水道料金変更にも旧水道法14条4項
1号,4号が準用されるべきである。また,地方公営企業法2条1項1号は簡易水
道事業を除く水道事業を同法の適用範囲とすると規定するが,これは簡易水道事業
についてはその経営規模から当然に適用することが困難であるからにすぎず,同法
21条2項については,個別具体的に準用できない合理的な事情がある場合を除
き,これを準用すべきである。
 以上によれば,地方公共団体が行う簡易水道事業の水道料金を変更するには,そ
の内容が適正な原価に照らして公正妥当なものであり(旧水道法14条4項1号の
準用又は水道法14条2項1号の適用,地方公営企業法21条2項の準用),か
つ,特定の者に対する事柄の性質に応じて合理的な理由のない差別的取扱いがされ
ない内容であることを要する(憲法14条1項の適用,旧水道法14条4項4号の
準用又は水道法14条2項4号の適用,地方公営企業法21条2項の準用)ことに
なる。
 この点,本件別表は,被控訴人の簡易水道事業における1か月当たりの基本料金
について,別荘をそれ以外に比べて,13ミリ契約者では月額3600円(10立
法メートルまで別荘5000円,それ以外1400円),水道メーターの口径が2
0ミリメートルの契約者(以下「20ミリ契約者」という。)では月額5500円
(10立法メートルまで別荘7000円,それ以外1500円),水道メーターの
口径が25ミリメートルの契約者(以下「25ミリ契約者」という。)では月額1
万2500円(別荘20立法メートルまで別荘1万4000円,それ以外10立法
メートルまで1500円),高額に設定している(なお,超過料金はいずれも1立
法メートルにつき160円で同一である。)が,このような内容が適正な原価に照
らして公正妥当なものであるか,また,このような差別的取扱いに合理的な理由が
あるか否かを検討すべきことになる。
(2) 各項末尾に掲記した証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 水道事業を維持運営するためには,営業費用(人件費,薬品費,動力費,修繕
費,受水費,減価償却費,資産減耗費等)と資本費用(支払利息,資産維持費)を
要するが,水道料金の算定にあたっては,更に経営効率化等のための費用も総括原
価に反映させることを要するものとされる(甲33,日本水道協会昭和42年7月
策定・昭和54年8月改定の水道料金算定要領2(1)の基本原則参照。)。
イ 被控訴人の水道事業の費用は,平成8年度から平成13年度までの年間実績で
最小が平成9年度の約4億1910万円から最大が平成13年度の約4億5945
円で平均約4億4352万円であり,このうちαダムからの給水料金は概ね増加傾
向にあって最小が平成8年度の約1億1752万円から最大が平成13年度の約1
億7131円で平均約1億4920万円,公債費の返済額が逓増して平均約1億6
430万円である。また,配水管敷設等の工事請負費が毎年変動するものの,平成
8年度から平成10年度までの3年間においては平均約2億円である。平成8年度
から平成13年度までの年間実績原価をもって年間総有収水量を除すると,1立方
メートル当たりの単価は平成8年度が約364円で,各年度平均で約360円とな
る。なお,被控訴人がαダムから受けることができる基本送水量と実際に受けた送
水量は,平成8年度から平成13年度までの間,いずれも漸増しており,その間の
後者の前者に対する比率は平均76パーセントで,平成12年度は80.4パーセ
ント,平成13年度は79.2パーセントであって,αダムから給水する他の町村
の中間にある(甲9,甲29,乙34)。
 これに対し,被控訴人は,需用者と給水契約を締結して料金等を徴収し,水道事
業の費用に充てているが,毎年赤字のため,その補填的意味で毎年1億数千万円を
一般会計から水道会計へ繰り入れてきた。そして,平成10年度に本件別表のとお
り水道料金を値上げして改定した結果,収入は年約4659万円増加したものの,
平成10年度においても約9454万円繰り入れした結果,同年度末における繰入
累計額は13億円余となり,同年度以降も一般会計から繰り入れる事態は解消され
ず,平成11年度から平成13年度までの繰入額は平均約1億0445万円である
(乙8の資料1・3,乙39)。
 ところで,被控訴人は,国から,一般会計の歳入に関わる地方交付税交付金を受
けているが,これは住民基本台帳の登録人口(別荘住民はこれに該当しない。)を
基礎数値として基準財政需要額が算出されるものであり,簡易水道分に係る額を1
世帯当たりで計算すると,平成8年度は1万9187円であり,平成8年度から平
成13年度の平均は1万8176円である(乙36ないし乙38)。
ウ 被控訴人の簡易水道事業における平成8年度を中心とした給水契約者,水道使
用量,水道料金の負担等は,次のとおりである。
(ア) 平成8年度の被控訴人の簡易水道事業においては,給水契約者全体のうち
用途が一般及び公共(以下これらを「別荘以外」という。)の件数は3028件で
あるのに対し,別荘の件数は1324件であり,別荘が給水契約者全体の約30・
4パーセントを占める。ところが,年間の水道使用量は別荘以外が113万154
1立方メートルであるのに対し,別荘が5万6109立方メートルであり,別荘の
年間水道使用量は被控訴人の簡易水道事業における年間水道使用量の約4・7パー
セントを占めるにすぎない(乙23の1)。
(イ) このうち特に13ミリ契約者についてみれば,別荘以外の件数は2721
件であるのに対し,別荘の件数は1280件であり,別荘が全体の約32・0パー
セントを占めるが,水道使用量は別荘以外が年間67万8094立方メートルであ
るのに対し,別荘は年間5万1037立方メートルであり,別荘が全体の約7・0
パーセントを占めるにすぎない(乙23の1)。
(ウ) 被控訴人の簡易水道事業における1年度中の最大配水量(1年度中で水道
使用量が最も多かった日の水道使用量)と最小配水量(1年度中で水道使用量が最
も少なかった日の水道使用量)は,平成7年ないし平成11年度の平均でみると,
中央地区では最大配水量が約2538立方メートル,最小配水量が約942立方メ
ートル(その差約2・7倍)であり,清里地区では最大配水量が約1489立方メ
ートル,最小配水量が約433立方メートル(その差約3・4倍)であり,清里の
森地区では最大配水量が1516立方メートル,最小配水量が375立方メートル
(その差約4・0倍)であったが,いずれも最大配水量の最大月は8月であり,清
里地区及び清里の森地区では7月及び9月の最大配水量も相対的に多い(乙26な
いし乙28)。
(エ) 清里の森地区には,一般町民住宅,企業の保養所等もあるが,その大部分
は別荘が占めている(甲27,甲28の1・2,乙29の1)。
(オ) 平成8年度の被控訴人の簡易水道事業において,水道料金が年間を通して
基本料金内で収まっている者は,別荘以外では3028件のうち586件であり,
その比率は約19・4パーセントであるのに対し,別荘では1324件のうち95
5件であり,その比率は約72・1パーセントとなる(乙33)。
(カ) 平成8年度において,被控訴人の簡易水道事業には大口需用者(水道の使
用口径にかかわらず水道料金を年間50万円以上支払っている需用者。以下同
じ。)が29件あり(ただし,このうち13ミリ契約者は3件。),大口需用者の
年間水道使用量の合計は24万1574立方メートルで,被控訴人における総水道
使用量が上記アのとおり118万7650立方メートルであるからその比率は約2
0パーセントとなり,大口需用者が1年度中で水道を最も多く使用する月の使用量
(2万7369立方メートル)と最も少なく使用する月の使用量(1万6774立
方メートル)の差は1万0595立方メートルであり,その差は約1・6倍となる
(乙23の1,乙32の1・2,乙33)。
(キ) 平成8年度における口径別用途別水量(基本水量の合計及び超過水量の合
計水量)を基にして,本件別表による1件当たりの年間水道料金を計算すると,1
3ミリ契約者では別荘以外が約4万1402円となるのに対し,別荘が約6万21
94円となり,20ミリ契約者では別荘以外が約14万9969円となるのに対
し,別荘が9万4156円となり,25ミリ契約者では別荘以外が約10万401
4円となるのに対し,別荘が17万6240円となり,給水契約者全体では別荘以
外が約6万3022円となるのに対し,別荘が約6万3504円となる(乙23の
1)。
(3) 本件別表の内容が適正な原価に照らして公正妥当なものであるか否かを検
討する。
ア 被控訴人は,その簡易水道事業の別荘以外の需用者の1件当たりの年間水道料
金の平均額が約6万円であることから,使用形態等の異なる別荘と別荘以外の需用
者に区分し,両者の年間の実質的な負担額がほぼ同一水準になるように配慮して,
本件別表のとおり料金を変更することに決定した旨主張する。そして,前記認定事
実(2)のウの(キ)によれば,平成8年度における口径別用途別水量(基本水量
の合計及び超過水量の合計水量)を基にすると,1件当たりの年間水道料金は別荘
以外が約6万3022円となるのに対し,別荘が約6万3504円となるのであ
り,この範囲では本件別表の内容は一応は原価に基づいて変更決定されたといえな
くもない。また,被控訴人は,需用者から徴収する料金等によっては簡易水道事業
の費用をまかなえず,その赤字を補填するため平成9年度まで毎年1億数千万円を
一般会計から水道会計へ繰り入れ,平成10年度においては本件別表のとおり水道
料金を値上げして改定して年約4659万円の増収となったものの,約9454万
円繰入れし,その後も一般会計からの繰入れが継続し,その額も平成13年度まで
の平均額において約1億0445万円と高額であって,このことは,本件別表によ
っては被控訴人の簡易水道事業に要した総括原価をまかなえていないことを示すも
のといえる。もっとも,被控訴人は,αダムから受けることができる基本送水量の
約80パーセント弱しか送水を受けておらず,この送水を受けない分の水に対して
も使用料を支払っているが,被控訴人が現在及び将来において気象条件や人口増等
様々な要因により使用量が変動し得るにもかかわらず,瞬間的に最大化した需用に
も応じて安定した水道供給を維持する(なお,現に平成8年度から平成13年度ま
での間漸増している。)必要があることを考慮すると,送水を受けない分の水に対
して支払う使用料を総括原価に算入することが不当であるとはいえない。
 以上によれば,本件別表は,被控訴人の簡易水道事業を経営維持する観点から総
括原価との関係からみた場合,これを超えた料金を定めるものとまではいえず,他
に,これを超えることを認めるに足りる証拠はないから,公正妥当なものというこ
とができる。
イ 本件別表が適正な原価に照らして公正妥当なものといえるかについては,総括
原価との関係のほか,被控訴人の簡易水道を使用する需用者を口径別等の使用形
態,負担能力等により区分した各使用者群の個別原価との関係等の見地から検討す
ることも考えられるが,これは,本件においては,後記(4)の本件別表が別荘に
対し差別的な取扱いをするものか否かを検討することに帰着するといえる。そこ
で,原価との関係の検討は上記アの総括原価との関係のほかには行わないものとす
る。
(4) 本件別表が水道の基本料金について別荘と別荘以外の住民とを区別し,別
荘に対してより高額の基本料金を課している料金体系が別荘に対し差別的な取扱い
をするものか否かを検討する。
ア 証拠(甲13の改定水道法逐条解説)に弁論の全趣旨を併せると,次の事実が
認められる。すなわち,一般的に,水道事業における料金体系には、大別して,口
径別料金体系に代表されるような個々のサービスに対応する原価をもとに料金を設
定する個別原価主義と,用途別料金体系に代表されるような需用者の負担能力又は
需用者がそのサービスについて認める価値をもとに料金を設定する負担力主義又は
価値基準に基づく料金設定とがあるとされている。このうち,用途別料金体系は,
需用者の負担力や水道のサービスについて認める価値の差とその用途を基準に価格
を設定するもので,非必需的,副次的用水に高額の料金を課すとともに,生活用水
の低額化を図るという水道事業の公共性を重視した政策的要素を含んだ料金体系で
ある。水道料金の客観的公平性を重視すれば,口径別料金体系のみを採用すること
が望ましいともいえるが,当該水道事業の置かれた自然的・社会的状況等の特殊事
情に応じて,政策的に用途別料金体系を口径別料金体系に適宜組み合わせて採用す
ることも合理性を逸脱しない範囲内では許されるもの解され,実際にほとんどの水
道事業者は,前記のとおり用途別料金体系を口径別料金体系に適宜組み合わせた料
金体系を採っている。
 このような用途別料金体系を口径別料金体系に適宜組み合わせた料金体系は,需
用者間に料金負担において差別的取扱いを生じ得るが,組み合わせた各料金体系を
採用したことに合理的な理由があり,かつ組み合わせた結果としての料金体系によ
る差異が合理的な範囲内にある限り,憲法14条1項,旧水道法14条4項4号又
は水道法14条2項4号,地方公営企業法21条2項に反するものではないという
べきである。
イ 本件別表の料金体系は,①別荘と別荘以外の住民とを区別していること,②料
金を基本料金と超過料金に区分し別荘に対してより高額の基本料金を定めているこ
と,③口径別に料金を定めていること,の3点が組み合わされた料金体系といえ
る。そして,控訴人らも本件別表が前記のような区分をすること自体を違憲違法と
主張するものではなく,別荘の基本料金の額が別荘以外の基本料金の額に比べて合
理的な範囲を超えて高額であることをもって違憲違法であると主張するものと解さ
れる。
ウ 上記(2)の事実によれば,被控訴人の簡易水道事業においては,契約者全体
に対して別荘の比率が際立って高いうえ,別荘の使用は夏期等に集中することが容
易に推認でき,この時期には別荘も一般住民と同程度の水道を使用するが,別荘が
被控訴人の簡易水道事業における夏期等の一時的な水道使用量の増加の一因となっ
ていることは疑いない。そうすると,別荘全体の年間を通した水道の使用量は契約
者全体の5パーセント前後であるものの,その使用量を基に水道料金を算出するな
らば,別荘が一時的に使用する水量及びそれに見合った給水施設等の費用のかなり
の割合を別荘以外の住民が年間を通して実質的に負担することとなり,かえって別
荘と別荘以外の住民との公平が図られないこととなる。そして,別荘の水道使用量
は年間を通しておおむね基本水量内に収まっているのであるから,別荘に年間を通
じて平均して相応な水道料金を負担させる方法として,基本料金を別荘以外の住民
に比べて高額にして調整すること自体は,水道事業者の政策的料金体系として合理
的な理由があり許されないものではない。
 これに対し,控訴人らは,被控訴人には十分な給水施設が設置され季節的な水使
用の変動に十分応じ得る態勢となっていること,αダムから夏期においても必要な
だけ給水できるとして,夏期における別荘の水需用の増大は別荘の基本料金の額を
高額とする理由とならない旨を主張する。しかし,給水施設は年間を通じた維持管
理を要するほか,利便性を向上させるなどのために新設することもあるし,そもそ
も水道事業には,その経営効率化のための費用や様々な一般管理費を要し,これら
は水道利用の有無にかかわらないか,費用の程度と水道の利用の程度とが必ずしも
比例しないものである。また,αダムからの給水も,夏期の需要期において瞬間的
に最大化した需用にも応じて安定した水道供給を維持したり予想される将来におけ
る需用増を見据えて,現時に見込まれる需用をまかなうに足りる必要範囲を超えた
一定の基本送水量を年間確保することも不合理ではなく,この場合,水源としてα
ダムを利用維持する必要から,最大需用の程度が増大するのに応じて基本送水量が
増大してもむを得ないから,夏期における別荘の水需用の増大は基本送水量の増大
の一因を招き,他の季節における捨水の増大に寄与することにもなる。そうする
と,控訴人らの前記主張は採用できない。
 また,控訴人らは,被控訴人の水道事業における水使用料の季節的変動の主たる
原因は,ホテル,ペンション,学校寮,公園等の大規模施設を利用する観光客にあ
り,別荘だけ基本料金を割高にすることには合理性がない旨主張する。確かに,前
記認定事実によれば,被控訴人の水道事業における水使用料の季節的変動の原因に
は観光客による大規模施設における水利用があること,大規模施設は別荘以外に含
められて基本料金を割高に設定されていないことが認められる。しかし,そうだか
らといって,別荘が夏期等の一時的な水道使用量の増加の一因となっている以上,
少なくとも大規模施設以外の一般町民等との関係において別荘に年間を通じて平均
して相応な水道料金を負担させること,その方法として基本料金を別荘以外の住民
に比べて高額にして調整すること自体は,合理的な理由があり許されないものでは
ないというべきである。
エ 被控訴人は,別荘以外の需用者の1件当たりの年間水道料金の平均額と別荘の
負担額がほぼ同一水準になるように配慮して,本件別表のとおり料金を変更するこ
とに決定した旨主張し,この別荘以外の需用者は,口径区分をしてないうえ,ホテ
ル,ペンション,学校寮,公園等の大規模施設も含むものとする。
 そこで,控訴人らは,水道料金について別荘も相応の負担をするとの前提のもと
に,その際には別荘にとっても一般家庭と同様に水道は生活用水にすぎないから,
同じ口径を使用する別荘と別荘以外の一般住民との均衡を図るべきである旨主張す
る。この点,前記認定事実によれば,別荘はそのほとんど(平成8年においては9
6.6パーセント以上)が13ミリ契約者で,水道料金が年間を通して基本料金内
で収まっている比率が高く(平成8年においては約72.1パーセント),この利
用状況は一般家庭により近いことが認められるほか,水が人の生活にとって欠かせ
ないものであること,別荘の利用には通常営利性が伴わないこと,別荘の中には定
住者と変わらないような利用をしている者もいるであろうことを考慮すると,水利
用において別荘は一般住民と類似したところもあり,大規模施設等の大口及び営業
者よりも一般住民に近い利用者群であるといえる。このことからは,別荘につい
て,しかもその13ミリ契約者については同じ口径を使用する別荘以外の一般住民
との均衡を図ることが合理的である。しかし,大多数の別荘所有者は他に生活の本
拠地を持つ者であり,別荘が生活に必要不可欠なものではないという意味で別荘使
用は多分に非必需的要素を含んでいるものと評し得るから,当該地域を生活の本拠
地とする一般住民に対し生活用水の低額化を図るという水道事業の公共性を重視し
た政策的要素を取り入れる必要性の程度は低く,必ずしも同じ口径を使用する別荘
と一般住民との均衡を図る必要はないともいえる。そうすると,別荘について,し
かもその13ミリ契約者については基本的には同じ口径を使用する別荘以外の一般
住民との均衡を図るべきであるが,その均衡を損なわない程度において,水道事業
者が政策的に別荘の水道料金を一般住民に比べて高額に設定しても,それが合理的
な範囲内に止まる限りは不当な差別には当たらないというべきである。
 また,控訴人らは,被控訴人が用途別料金体系を採用するならば,営業的に水道
を使用する者とそれ以外の者とを分け,別荘の水道料金をより低額に設定すべきで
ある旨主張する。確かに,ホテル,ペンション等の大規模施設は大口需用者であ
り,かつ営業として利用するものが多く,特段の事情のない限り,この大口の営業
者よりも前記のとおり一般住民に近い利用者群である別荘に高額な水道料金を負担
させる根拠は乏しいものといえる。しかし,前記認定のとおり,被控訴人において
は,旧簡易水道組合時代に営業者たる住民と一般住民の分け隔てなく住民が物的・
人的に水道施設の創設に貢献してきたという歴史を踏まえ,この施設を引き継いだ
被控訴人においてもこれまで営業者と一般住民とで水道料金の区別をしていないと
いうのであって,このような歴史的由来に基づき営業者とそれ以外とを区別しない
との被控訴人の政策が一概に不合理ということもできない。もっとも,このような
歴史的由来は年月が経過し営業者も異なり得るようになる中で引き続き政策として
採用し続ける合理性を次第に失う場合もあるのであって,別荘が最も集中する清里
の森は,昭和60年に山梨県が直轄事業により別荘地の誘致を計画し開発した団地
であり,被控訴人が同県の要請を受けてその給水を引き受けた経緯もあるから,歴
史的由来に基づく前記の政策も,一般住民に近い利用者群である別荘との均衡を損
なわない程度において別荘の料金を高額に設定する程度において,それが合理的な
範囲内に止まるものとして不当な差別には当たらないといえることがあるにすぎな
いというべきである。
(5) 13ミリ契約者について
 前記認定のとおり,別荘の大多数は13ミリ契約者であるが,この点,被控訴人
は,本件別表の13ミリ契約者である別荘の基本料金を決めるに当たり,契約口径
を問わず別荘以外の水道需用者の年間水道料金が1件当たり平均約6万円になるこ
とから,これを目安にしたというものの,別荘について,しかもその13ミリ契約
者については基本的には同じ口径を使用する別荘以外の一般住民との均衡を図るべ
きであるが,その均衡を損なわない程度において,水道事業者が政策的に別荘の水
道料金を一般住民に比べて高額に設定しても,それが合理的な範囲内に止まる限り
は不当な差別には当たらないというべきである。
 本件別表に基づく13ミリ契約者である別荘の年間水道料金は,一応は別荘以外
の水道需用者全体の年間水道料金の平均と同程度に収まるが,別荘以外の13ミリ
契約者と比較すると基本料金は3.57倍(5000円と1400円),その値上
げ幅も20倍(2000円と100円)であり,年間水道料金の差もおよそ2万円
前後となって約5割高いのである。このような基本料金の差別は,従前の別紙料金
表3の基本料金の差別でもかろうじて合理性がないとまでいえないぎりぎりの線で
あって,それ以上に大きな差異を生じる本件別表の13ミリ契約者である別荘の基
本料金の変更は,被控訴人の簡易水道事業の統合の歴史,別荘の水道使用の特殊性
に照らしても,到底合理的な範囲内にあるとは認められない。
 したがって,本件別表が13ミリ契約者について別荘の基本料金をそれ以外と比
べて高額に設定していることは,憲法14条1項,旧水道法14条4項4号又は水
道法14条2項4号,地方公営企業法21条2項に違反する不当な差別に当たると
いうべきである。
 なお,被控訴人は,一般会計から水道会計への多額な繰入金,一般会計から峡北
地域広域水道企業団への繰入金及び負担金があること,一般会計の歳入に関わる地
方交付税交付金においては簡易水道関係経費が住民基本台帳の登録人口(別荘住民
はこれに該当しない。)を基礎数値として算出されること,簡易水道分の普通交付
税交付金を計算すると平成8年度では1世帯当たり約1万9000円相当であるこ
とから,前記の基本料金の差異は不合理な程度のものではないと主張する。しか
し,前記のとおり,水道事業会計は特別会計として独立採算制が採られ,水道料金
は,水道事業に要する適正な原価を水道料金等でまかなうものとされ,上記の繰入
金,交付金等は本来前記の原価をまかなうべきものではないから,これを水道料金
にある取扱いの差異が合理的か否かを検討するに際し考慮することはできないとい
うべきである。
(6) 20ミリ契約者について
 前記認定のとおり,20ミリ契約者については別荘以外よりも別荘の年間水道料
金が安くなると考えられるのであるが,別荘以外の20ミリ契約者と比較すると基
本料金は4.66倍(7000円と1500円),その値上げ幅も20倍(200
0円と100円)である。前記13ミリ契約者の場合の差別と同様に,このような
大きな差異を生じる本件別表の20ミリ契約者である別荘の基本料金の変更は,被
控訴人の簡易水道事業の歴史,別荘の水道使用の特殊性に照らしても,到底合理的
な範囲内にあるものとは認められない。
 したがって,本件別表が20ミリ契約者について別荘の基本料金をそれ以外と比
べて高額に設定していることは,憲法14条1項,旧水道法14条4項4号又は水
道法14条2項4号,地方公営企業法21条2項に違反する不当な差別には当たる
というべきである。
(7) 25ミリ契約者について
 25ミリ契約者についてはその契約口径からして通常の生活用水としての水道使
用とは考えられないが,別荘以外の25ミリ契約者と比較すると基本料金は9.3
3倍(別荘20立法メートルまで別荘1万4000円,それ以外10立法メートル
まで1500円で水量に違いがある。),その値上げ幅も40倍(4000円と1
00円)である。前記13ミリ契約者の場合の差別と同様に,このような大きな差
異を生じる本件別表の25ミリ契約者である別荘の基本料金の変更は,被控訴人の
簡易水道事業の歴史,別荘の水道使用の特殊性に照らしても,到底合理的な範囲内
にあるものとは認められない。
 したがって,本件別表が25ミリ契約者について別荘の基本料金をそれ以外と比
べて高額に設定していることは,憲法14条1項,旧水道法14条4項4号又は水
道法14条2項4号,地方公営企業法21条2項に違反する不当な差別には当たる
というべきである。
(8) 以上によれば,本件別表のうち別荘の水道料金を定める部分は,別荘以外
の水道料金を定める部分と対比して,別荘に対して不当な差別的取扱いをするもの
であるから,憲法14条1項,旧水道法14条4項4号又は水道法14条2項4
号,地方公営企業法21条2項に違反し無効であるが,本件別表のうちのその余の
部分については不当な差別的取扱いをするものとはいえないから有効というべきで
ある。
 そうすると,控訴人らの本件別表の無効確認を求める請求は,別荘の基本料金を
定める部分の無効確認を求める部分については理由があるが,その余の部分の無効
確認を求める部分については理由がない。
3 債務不存在確認請求について
 前記のとおり,本件別表のうち別荘の水道料金を定める部分は無効であるから,
別荘については,本件別表に改正される前の本件条例(平成6年条例第4号)の別
表第一(別紙料金表3)により水道料金を支払えば足り,本件別表の基本料金と従
前の基本料金との差額月額2000円については支払義務がないことになる。
 そうすると,控訴人らのうち別紙水道料金支払状況表中A欄に金額の記載のある
者については,前記差額月額2000円についての同表中不払期間欄記載の期間に
おける累計額である同表中A欄記載の金額の各債務は存在しないことになる。
 以上によれば,控訴人らのうち同表中A欄に金額の記載のある者が被控訴人との
間において同表中A欄記載の金額の各債務が存在しないことの確認を求める請求は
理由がある。
4 不当利得返還請求について
 前記のとおり,別荘については,本件別表の基本料金と従前の基本料金との差額
月額2000円については支払義務がない。
 そうすると,控訴人らのうち別紙水道料金支払状況表中B欄に金額の記載のある
者については,被控訴人に対し,支払義務がないにもかかわらず,前記差額月額2
000円についての同表中支払期間欄記載の期間における累計額である同表中B欄
記載の金額を支払ったことになる。
 以上によれば,控訴人らのうち同表中B欄に金額の記載のある者が,被控訴人に
対し,不当利得に基づき,同表中B欄記載の金額の返還を求める請求は理由があ
る。
5 給水停止の禁止について
 前記のとおり,別荘については,本件別表の基本料金と従前の基本料金との差額
月額2000円については支払義務がない。
 そうすると,控訴人らのうち別紙水道料金支払状況表中A欄に金額の記載のある
者については,被控訴人に対し,同差額を支払わないことは水道法15条3項の
「料金を支払わないとき」に当たらないから,被控訴人が控訴人らの給水を停止す
るにつき正当な理由はないことになる。しかるに,被控訴人は,平成11年7月1
2日付け,同月15日付け及び同月19日付けで,それぞれ未払水道料金がある者
に給水停止を執行する旨の文書を送付したこと前記のとおりである。
 以上によれば,控訴人らのうち同表中A欄に金額の記載のある者が被控訴人に対
し簡易水道の給水を停止してはならないことを求める請求は理由がある。
6 結論
 以上のとおり,本件別表の無効確認を求める行政訴訟による請求については,別
荘の基本料金を定める部分の無効確認を求める部分は理由があるから認容すべきで
あるが,その余の部分の無効確認を求める部分は理由がないから棄却すべきであ
り,本件内規の無効確認を求める訴えについては,民事訴訟及び行政訴訟とも不適
法であるから,これを却下すべきであり,控訴人らの被控訴人に対する未払水道料
金の債務不存在確認請求及び支払済みの水道料金相当額の不当利得返還請求並びに
未払水道料金がある控訴人らの給水停止の禁止請求は,いずれも理由があるから認
容すべきである。
 よって,上記の理由のある限度で原判決を変更することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官 鬼頭季郎
裁判官 納谷肇
裁判官 任介辰哉
別紙内規
高根町簡易水道事業給水条例及び施行規則に関する内規
(目的)
第一条 この内規は,条例及び施行規則に定めるものの特例として,必要な事項を
定めることを目的とする。
(休止を認める場合)
第二条 次の一に該当する場合は,水道の休止を認めることができる。ただし,別
荘(住民基本台帳に登録していない者)は除く。
一 勤務地の異動等により1年以上,水道の使用をすることが出来なくなった場
合。
二 入院又は入所等をすることにより1年以上,水道の使用をすることが出来なく
なった場合。
三 公営住宅の解約により水道の使用をしなくなった場合
四 災害等により水道の使用をすることが出来なくなった場合。
五 その他町長が必要と認めた場合。
(届出)
第三条 休止の届出は高根町簡易水道事業給水条例施行規則第八号様式によるもの
とし,必要な場合は添付書類を求めることができる。
附則
この内規は,平成一〇年四月一日以後の届出に適用する。

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