弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、
同K、同L、同M、同N及びOの各控訴を棄却する。
     原判決中被告人Pに関する部分を破棄する。
     右破棄に係る被告人Pに対する事件を岐阜簡易裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴趣意については弁護人塚本義明提出の控訴趣意書の記載を引用する。検
察官は本件各控訴は理由のないものとしてその棄却を求めた。
 控訴趣意第一点の一について
 <要旨第一>原審第一回公判調書に被告人等が出頭した旨の記載のないことは所論
の通りであるが、公判調書の記載事項を規定した刑事訴訟規則第四十四
条によるも、被告人の出頭しなかつたことは、その記載を命じているか出頭したこ
とはその記載を命じていないのであるから、公判調書に被告人等の出頭したことを
記載してないことを以て違法であるとする訳にはゆかない。
 同上第一点の二について。
 原審第一回公判調書によれば、被告人A等の弁護人塚本義明の事件に対する陳述
が記載されていないことも所論の通りであり、刑事訴訟法第二百九十一条によれ
ば、検察官の起訴状朗読後被告人及び弁護人に対し被告事件について陳述する機会
を与えねばならないと規定しているのであるが、その規定自体によつて明かなよう
に被告人及び弁護人の事件についての陳述はこれを強制すべきものでなくその機会
を与うれば足りるところ、同公判調書によれば、検察官の起訴状の朗読が終つた後
原審裁判官は、被告人等に対し刑事訴訟法第二百九十一条第二項及び刑事訴訟規則
第百九十七条第一項の各事項を告げた上、被告人等及び弁護人に対し公訴事実につ
き何か陳述することがあるか否かを問い、その陳述の機会を与えたことが明記され
ていて、その調書の記載の正確性について異議のなかつた本件としてはその記載の
事実はこれを争い得ないものというべく、従つて同弁護人はその与えられた機会を
利用しなかつたというに帰着し、原審の措置には何等違法な占は存しない。
 同上第一点の三について。
 本件公訴事実は被告人K、同L、同M、同N及び同Oについては、Qと玄小麦乃
至玄大麦を・と交換した事実及びその玄小麦乃至玄大麦を同人方迄輸送した事実、
又その余の各被告人についてはRと玄小麦を・と交換した事実及びその玄小麦を同
人方迄輸送した事実であるが、原審第一回公判調書を通読すれば、論旨指摘のRに
対する証拠Qに対する証拠というのはその表示が不正確であるという譏は免れ得な
いが、各被告人とR及びQとの取引乃至同人等方迄の玄小麦乃至玄大麦の輸送の事
実関係に対する証拠の趣旨であることを諒解し得られぬことはないのであつてこれ
を被告人に対する証拠として提出された趣旨の記載でないとする論旨はその局部的
記載に拘泥した嫌いがあり採用し難い。
 同上第一点の四について
 <要旨第二>刑事訴訟法第三百十三条は裁判所は適当と認めるときは、当事者の請
求又は職権によつて事件の併合、分離をなし得べきことを規定している
が、その決定を記録上明かならしむべきことを命じていないのであり、事実上分離
併合がなされている以上その決定自体が明記されていないからといつて分離併合が
なされていないとするのは失当な見解であり、原審の処置を以つて右法条に違反す
るものとはなし得ない。
 然しながら職権を以て調査するに
 原審第一回公判調書によれば被告人等の出頭乃至不出頭に関する記載の存しない
ことは既に説示した通りであるが、被告人P(原審相被告人Sも同一の関係)につ
いては人定質問に対する陳述の記載部分が抹消されているのみならず、同被告人が
第一回公判期日に出頭した形跡が認められないこと及び同上第二回公判調書におい
ては同被告人についてのみ人定質問と同被告人の事件に対する陳述の記載が存する
ことによつて、同被告人は第二回の公判期日に出頭したが、第一回公判期日に出頭
せず、従つて、第一回公判期日において同被告人の事件は他の被告人の事件と分離
され、第二回公判期日において再び併合されたことが認められる。然るところ検察
官の起訴状の朗読並びに冒頭陳述は、第一回公判期日においてなされた丈であるか
ら、同被告人に関しては起訴状の朗読並びに冒頭陳述なくして審理判決がなされた
違法があり、右の違法は同被告人に関する限り、判決に影響を及ぼすべきものであ
り、原判決中同被告人に関する部分はその余の点を判断する迄もなく刑事訴訟法第
三百七十九条第三百九十七条によつて破棄を免れず、且つ原判決に掲記してある証
拠(証人Rの証言とあるは証人Qと記載すべきを誤つたものと思われる)中同被告
人の供述以外の証拠は何れも第一回公判期日において取調がなされたものであり、
従つて同被告人に関しては取調のなされていないものであつて同被告人に関する審
理は極めて不十分なものといわなければならない。
 同上第二点について
 本件各被告人(但し被信人Pを除く以下同じ)の交換行為は違法性を欠如するも
ののようにいうが、論旨指摘の事情を以ては正当の理由があるものとなし難く、そ
の他その違法性を阻却する事情も認められない。而して玄小麦乃至大麦を・と交換
した行為とそれを売却した行為とは本件においてはその情状に著しい差異があると
も考えられないのみならず、各被告人の罪責はその各被告人について判定せらるべ
く、他の被告人に対する処分の如何が当然その処分に影響するものとはなし得な
い。而して本件犯行の態様その他諸般の事情を斟酌しても各被告人に対する原審の
罰金刑は必ずしも失当なものともいえず、又その罰金刑に対して特に執行猶予を附
さねばならぬと認められる事情も存しない。
 以上説明のように、原判決中被告人Pに関する部分は破棄さるべく、且つ同被告
人に対する審理は不十分であつて、直に当審において判決するに適せぬから、刑事
訴訟法第四百条本文に則つて同被告人の事件は原審岐阜簡易裁判所へ差し戻すべ
く、又その余の各被告人に関してはその控訴は何れも理由なく、且つその他原判決
を破棄せねばならぬ程の瑕疵もないから、同法第三百九十六条によつて夫々これを
棄却すべきものとして主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 山田市平 裁判官 茶谷勇吉 裁判官 小沢三朗)

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