弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 論旨は原判決が刑法の解釈を誤つていると主張するのであるが、その実質は事実
誤認の非難に外ならない。いずれにしても適法な上告理由とならない。
 同第二点について。
 論旨は憲法三九条後段について独自の解釈を下し、「刑事訴訟手続に於て一度び
その被告事件について判決を宣告せられたならばこれによつて最初の危険を経たも
のであるから、爾後同一の危険を繰り返されないことを保障されているのである」
という見解を前提として原判決の違憲を主張している。しかしいわゆる二重危険排
除の原則に関しては、当裁判所の判例の示すとおり、「同一の事件においては、訴
訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態と見るを相当とする。されば、
一審の手続も控訴審の手続もまた上告審のそれも同じ事件においては、継続せる一
つの危険の各部分たるに過ぎないのである。従つて同じ事件においては、いかなる
段階においても唯一の危険あるのみであつて、そこには二重危険ないし二度危険と
いうものは存在しない」(昭和二四年新(れ)二二号同二五年九月二七日大法廷判
決)のであるから、論旨は誤つた前提に立脚する主張たること明らかであつて、採
用することができない。
 同第三点について。
 論旨は憲法違反の語を用いているけれども、その実質は単なる刑訴法違反の主張
に外ならない。しかも刑訴四〇〇条但書は、控訴裁判所が訴訟記録及び第一審で取
り調べた証拠のみによつてただちに判決することができると認める場合でも、常に
新たな証拠を取り調べた上でなければいわゆる破棄自判ができない旨を規定してい
るものと解すべきでないこと、当裁判所の判例(昭和二五年(あ)二九八一号同二
六年一月一九日第二小法廷判決)の示すとおりであるから、原判決には所論のよう
な刑訴法の違反もない。論旨は採用できない。
 同第四点について。
 量刑不当の主張であつて、適法な上告理由とならない。
 同第五点について。
 論旨は名を憲法違反に藉りて実は単なる刑訴法違反を主張するに過ぎない(しか
も所論のような刑訴法違反もない)から、適法な上告理由とならない。
 また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
  昭和二九年五月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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