弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人喜田村洋一,同二関辰郎の上告受理申立て理由(ただし,排除された
ものを除く。)について
1本件は,上告人が,被上告人らの発行する各新聞に掲載された通信社からの
配信に基づく記事によって名誉を毀損されたと主張して,被上告人らに対し,不法
行為に基づく損害賠償を求める事案である。被上告人らは,上記通信社が上記記事
に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるから,被上告人
らが同事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきであって,被上
告人らは不法行為責任を負わないなどと主張している。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成13年当時,a大学附属b研究所に勤務していた医師であ
る。
(2)被上告人らは,平成14年7月5日,a大学病院において平成13年3月
2日に行われた手術に関し,上告人が人工心肺装置の操作を誤ったことにより患者
を死亡させたなどとする記事(以下「本件各紙掲載記事」という。)をそれぞれ自
己の発行する新聞に掲載した。
(3)被上告人らは,社団法人Z通信社の社員(加盟社)であり,本件各紙掲載
記事は,被上告人らが同社から配信を受けた記事(以下「本件配信記事」とい
う。)を,裏付け取材をすることなく,ほぼそのまま掲載したものであるが,本件
各紙掲載記事には,これがZ通信社からの配信に基づく記事である旨の表示はな
い。
(4)Z通信社は,全国の地方新聞社等を社員(加盟社)とする社団法人であ
り,国内及び国外のニュースを取材し,作成した記事を加盟社等に配信する事業等
を行っている。加盟社は,Z通信社の定款及び同施行細則上,同社の配信する記事
を受ける権利を有するものとされており,加盟社は,配信を受けた記事を自己の発
行する新聞に掲載するか否かを自由に判断することができるが,掲載する場合に
は,原則としてこれをそのまま掲載すべきものとされている。
(5)加盟社は,Z通信社の社員として,社費等の支払を通じて同社の運営費用
を負担している。また,加盟社は,社員総会等の内部組織を通じてZ通信社の経営
に参画しており,同社の理事及び監事の多くは加盟社の役員等から選任されてい
る。Z通信社では,加盟社の担当者の出席を得て,経営企画担当者会議,編集局長
会議等が開催され,Z通信社の業務運営等に関する報告や意見交換がされている。
(6)被上告人らは,自社の新聞の発行地域において複数の支社ないし支局を有
しているが,海外はもとより,同地域外においては,東京ないし大阪において支社
を有しているほかは,原則として取材拠点等を有していない。
Z通信社から加盟社に配信される記事は,通常1日当たり約1500本であり,
被上告人らの発行する新聞においては,全記事の5割から6割程度がZ通信社から
の配信に基づいている。
3原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の被
上告人らに対する請求を棄却した。
(1)本件各紙掲載記事は,専門医である上告人が,自己の専門分野で単純な過
誤を犯し患者を死亡させたとの事実を摘示するものであって,上告人の社会的評価
を低下させるものであるが,公共の利害に関する事実に係るもので,その記事掲載
は,専ら公益を図る目的に出たものである。本件各紙掲載記事に摘示された上記事
実が真実であることの証明はないが,Z通信社がそれを真実であると信ずるについ
て相当の理由があった。
(2)被上告人らは,Z通信社から配信された記事については,取材をするに当
たって報道機関に求められる注意義務が同社によって履行されることを期待し,こ
れに依拠することができる法的地位にあるということができるから,被上告人ら
は,自己の発行する各新聞にZ通信社から配信された記事を掲載した場合,同社に
よる取材活動の具体的内容をも含めて上記注意義務を尽くしたことを主張立証する
ことができ,その結果,当該記事に摘示された事実が真実であると信ずるについて
相当の理由があるといえれば,その事実摘示行為について必要な注意義務が尽くさ
れたことになり,これによって故意又は過失が欠けて,不法行為は成立しないと解
するのが相当である。本件では,Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実
であると信ずるについて相当の理由があるのであるから,被上告人らが本件各紙掲
載記事に摘示された事実を真実であると信ずるについても相当の理由があったと認
めることができる。
4所論は,原審の上記3(2)の判断につき,名誉毀損の行為によって摘示され
た事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるか否かは,行為主体ごとに
判断すべきであるから,被上告人らが本件各紙掲載記事につき裏付け取材をしてい
ない以上は,Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるにつ
いて相当の理由があったとしても,被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事
実を真実であると信ずるについて相当の理由があるとはいえないというのである。
5(1)民事上の不法行為である名誉毀損については,その行為が公共の利害に
関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものである場合には,摘示された事
実が真実であることの証明がなくても,行為者がそれを真実と信ずるについて相当
の理由があるときは,同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない(最
高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻
5号1118頁参照)。
新聞社が通信社を利用して国内及び国外の幅広いニュースを読者に提供する報道
システムは,新聞社の報道内容を充実させ,ひいては国民の知る権利に奉仕すると
いう重要な社会的意義を有し,現代における報道システムの一態様として,広く社
会的に認知されているということができる。そして,上記の通信社を利用した報道
システムの下では,通常は,新聞社が通信社から配信された記事の内容について裏
付け取材を行うことは予定されておらず,これを行うことは現実には困難である。
それにもかかわらず,記事を作成した通信社が当該記事に摘示された事実を真実と
信ずるについて相当の理由があるため不法行為責任を負わない場合であっても,当
該通信社から当該記事の配信を受け,これをそのまま自己の発行する新聞に掲載し
た新聞社のみが不法行為責任を負うこととなるとしたならば,上記システムの下に
おける報道が萎縮し,結果的に国民の知る権利が損なわれるおそれのあることを否
定することができない。
そうすると,新聞社が,通信社からの配信に基づき,自己の発行する新聞に記事
を掲載した場合において,少なくとも,当該通信社と当該新聞社とが,記事の取
材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体としての一体性を有
すると評価することができるときは,当該新聞社は,当該通信社を取材機関として
利用し,取材を代行させたものとして,当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同
視することが相当であって,当該通信社が当該配信記事に摘示された事実を真実と
信ずるについて相当の理由があるのであれば,当該新聞社が当該配信記事に摘示さ
れた事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載し
たなど特段の事情のない限り,当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に
摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきである。そ
して,通信社と新聞社とが報道主体としての一体性を有すると評価すべきか否か
は,通信社と新聞社との関係,通信社から新聞社への記事配信の仕組み,新聞社に
よる記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断するのが相当であ
る。以上の理は,新聞社が掲載した記事に,これが通信社からの配信に基づく記事
である旨の表示がない場合であっても異なるものではない。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,Z通信社の加盟社
は,社団法人であるZ通信社の社員としてその経営に参画しているのみならず,同
社の経営や業務等について協議する重要な会議にも出席し,意見を述べるなどして
同社の経営体制や取材体制に関与する機会を有しているというのであって,これら
の事情によれば,同社とその加盟社とは組織上密接な結びつきを有しているという
ことができる。
このような関係を前提に,Z通信社は,加盟社等に記事を配信することを目的と
して取材を行い,記事を作成していること,他方,加盟社は,Z通信社から配信さ
れる記事を自己の発行する新聞に掲載するに当たっては,当該配信記事を原則とし
てそのまま掲載することとされていること,被上告人らのような加盟社の発行する
新聞に掲載される記事のうち相当多くの部分はZ通信社からの配信に基づいている
ところ,同社から加盟社に配信される記事は1日当たり約1500本という膨大な
数に達する上,被上告人らのような加盟社は,自社の新聞の発行地域外においてほ
とんど取材拠点等を有しておらず,その全てについて裏付け取材を行うことは不可
能に近いことに照らすと,加盟社が配信記事について独自に裏付け取材をすること
は想定されていないことが明らかである。
そうすると,Z通信社の加盟社は,自らの報道内容を充実させるためにZ通信社
の社員となってその経営等に関与し,同社は加盟社のために,加盟社に代わって取
材をし,記事を作成してこれを加盟社に配信し,加盟社は当該配信記事を原則とし
てそのまま掲載するという体制が構築されているということができ,Z通信社と加
盟社は,記事の取材,作成,配信及び掲載という一連の過程において,報道主体と
しての一体性を有すると評価するのが相当である。他方,本件配信記事について,
前記特段の事情があることはうかがわれない。したがって,Z通信社が本件配信記
事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるのであれば,
加盟社である被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事実を真実であると信ず
るについても相当の理由があるというべきであって,被上告人らは本件各紙掲載記
事の掲載について名誉毀損の不法行為責任を負わないというべきである。
6原審の前記3(2)の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することがで
きる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官金築誠志裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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