弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主文
被告人を懲役13年に処する。
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
押収してある薬きょう5個,弾丸3個,けん銃1丁及び鉄亜鈴3個を没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
          理       由
【犯罪事実】
 被告人は,暴力団五代目A組二代目B会幹事長兼三代目C一家組長であるが,
第1 株式会社D(代表取締役E)などへの銃撃に供しようと企て,B会会長Fと共謀の
上,いずれも法定の除外事由がないのに,平成12年5月22日ころ,熊本県菊池
市大字イロ番地居酒屋「G」前路上に停車中の普通乗用自動車内において,自動
装てん式けん銃1丁をこれに適合する実包6,7発と共に携帯して所持し,
第2 Eに金員を交付させるための手段として前記株式会社Dにけん銃を発射すること
を企て,前記F及びB会幹部兼H会相談役Iと共謀の上,いずれも法定の除外事由
がないのに,同月25日午前3時ころ,不特定かつ多数の者の用に供される熊本市
ハニ丁目ホ番ヘ号所在の同社西側路上において,同社社屋に向けて,前記第1記
載の自動装てん式けん銃で弾丸4発を発射し,それらを同社社屋の西側外壁及び
窓ガラスに命中させて損壊し(損害額合計64万1000円),もって,不特定かつ多
数の者の用に供される場所においてけん銃を発射するとともに,他人の建造物を
損壊し,
第3 前記第2の事件などにより前記Iが逮捕された後である同年7月15日ころ,B会幹
事兼H会会長JことJ1が警察から共犯者として取調べを受けて事件への関与を認
め始めたことを知り,同人を逃走させることによって同事件が同会による組織ぐる
みの犯行であることを隠ぺいしようと企て,前記F及び同会幹事長代行兼K組組長
L,同会筆頭幹事長補佐兼M組組長Nと共謀の上,同月20日ころ,熊本県菊池郡
ト町大字チリ番地ヌ所在のC一家組事務所において,J1の逮捕を免れさせる目的
で,同人に対し,逃走資金として現金10万円を供与するとともに,「帰ってよか時は
こっちから電話するけん。それまで辛抱しときなっせ。」などと言って山口県萩市内
への逃走を強く勧めた上,同人を普通乗用自動車に乗せて,同組事務所から熊本
県鹿本郡ル町大字ヲワ番地所在の九州縦貫自動車道カインターチェンジ付近まで
送り,同所において,情を知らないC一家O会若頭P運転の普通乗用自動車に乗り
換えさせ,山口県萩市内まで同車を疾走させてJ1を逃走させ,もって,同人の逃走
に便宜を与えてこれを隠避させ,
第4 法定の除外事由がないのに,同年6月12日午後3時ころ,熊本市ヨタ丁目レ番ソ
号所在のパチンコQR店屋上駐車場において,自動装てん式けん銃1丁をこれに
適合する実包数発と共に携帯して所持し,
第5 B会初代S一家組長T,同一家若頭U,同一家行動隊副隊長Vと共謀の上,いず
れも法定の除外事由がないのに,同月13日午前2時30分ころ,前記第2記載の
株式会社D西側路上において,Uにおいて,同社社屋に向けて,前記第4記載の自
動装てん式けん銃で弾丸5発を発射し,もって,不特定かつ多数の者の用に供され
る場所においてけん銃を発射し,
第6 前記T,同U,同V,B会W一家本部長X及び同会三代目C一家行動隊隊長Yと共
謀の上,U,X及びYにおいて,同月29日午前0時12分ころ,敷地内の建物の窓ガ
ラスを損壊する目的で,周囲を植え込みや金網フェンスで囲み,入口には門扉を設
置するなどして隣接する他の工場等と区画されていた株式会社D代表取締役Eの
看守する熊本県阿蘇郡ツ村大字ネナ番地ラ所在の同社Z工場敷地内に門扉を乗
り越えて侵入し,同工場1階事務室北側固定式窓ガラスに向けて鉄亜鈴を投げつ
けるなどして固定式窓ガラス2枚を破壊し(損害額合計12万6000円),もって,他
人の建造物を損壊した。
【証拠】(省略)
【補足説明】
 判示第4のけん銃の加重所持につき,弁護人は,被告人は当時,犯行場所とされるパ
チンコ店の屋上駐車場にいなかったとしてアリバイを主張し,被告人もこれに沿う供述を
しているので,以下説明する。
1 Tは,平成12年6月12日午後2時30分ころ,被告人から呼び出されて,同日午後3
時ころ,判示第4の犯行場所において,被告人からけん銃を受け取り,その後そのけ
ん銃を用いて,翌13日午前2時30分ころ,判示第5の犯行に及んだ旨,捜査段階に
おいて供述しているところ,その供述内容は,①平成12年6月6日に開催されたB会
の定例会の後,被告人から「今度行けと言われたらどぎゃんするかい」などと言われ
て犯行を仄めかされたこと,②同月12日午後2時30分ころ,携帯電話を通じて被告
人から呼び出され,午後3時ころ,判示パチンコ店の屋上駐車場に行くと,被告人の
モスグリーンのツートンカラーの自動車が既に駐車されていたこと,③同車内で被告
人から「道具ば持ってきたけん,ムバイパスのDばこれで行ってくれんどか」と言わ
れ,更に「そこに道具が置いてあるけん」と言われて足下を見ると,汚れた白いタオル
に包まれたけん銃が置かれていたこと,④被告人に会の命令かと尋ねたところ,被告
人は,「うーん」と口を濁したような言い方をしてうなずいたことなど,具体的かつ詳細
で,迫真性に富んでいる上,その内容は携帯電話の通話記録によって裏付けられて
おり,また,関係者の供述により認められるTの同日午後3時過ぎころから同日午後1
0時ころまでの行動ともよく符合しており,信用性が高いものといえる。なお,Tは,犯
行を認めることにつき,B会による報復を極度に恐れているのであって,けん銃の入
手先につき,あえて虚偽の内容を供述して,組織の上の立場にある被告人を陥れる
ということは考え難い。Tの捜査段階における供述によれば,優に判示事実を認める
ことができる。
2 被告人は,犯行当日の午後1時過ぎから午後3時30分ないし4時ころまで,熊本市
ウヰ丁目ノ番オ号所在のレストラン「a」にいたとしてアリバイを主張をし,証人甲及び
同乙もこれに沿う供述をしている。
 確かに,同証人ら及び証人丙の各供述並びに同店の伝票等によると,犯行当日の
午後1時6分ころ,同店において,被告人が飲み物を注文し,午後2時25分ころ,連
れの者と合わせて代金の支払がされたことが認められる。
 しかし,被告人らの,代金支払後も午後3時30分ないし4時ころまでは同所にいた
旨の供述は,極めて曖昧である上,代金支払後1時間以上も店内にとどまったとは通
常考え難いことや,被告人らが同店に集まった目的もはっきりせず,そこで話された
内容も明確でないことなどに鑑みると,被告人が午後3時30分ないし4時ころまで同
店にいた旨の被告人らの供述は到底信用することができない。かえって,代金が支
払われた午後2時25分ころの直後である午後2時26分ころ,被告人がTの携帯電話
に通話していること,同店と本件けん銃の受渡し場所となったパチンコ店の屋上駐車
場とは約950メートルしか離れておらず,車で3分でいける地点であることなどからす
ると,代金支払後直ちに同店を出た被告人が,けん銃の受渡しのため本件犯行場所
に向かったことが強く推認される。
以上のとおりであって,弁護人のアリバイ主張は理由がない。
【法令の適用】
罰  条
 判示第1         刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,
3条1項
 判示第2         
  けん銃発射の点     刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13
  建造物損壊の点     刑法60条,260条前段
 判示第3         刑法60条,103条
 判示第4銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項
 判示第5         刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13
 判示第6
  建造物侵入の点     刑法60条,130条前段
  建造物損壊の点     刑法60条,260条前段
科刑上一罪の処理      判示第2につき刑法54条1項前段(けん銃発射と建造物
損壊),10条(1罪として重いけん銃発射罪の刑で処
断),判示第6につき同法54条1項後段(建造物侵入
と建造物損壊との間),10条(1罪として重い建造物
損壊罪の刑で処断)
刑種の選択      判示第2,第5につきいずれも有期懲役刑,判示第3につき懲役

併合罪の処理      刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判
示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加
重)
未決勾留日数算入      刑法21条
没      収      刑法19条1項1号,2号,2項本文
訴訟費用の負担      刑訴法181条1項本文
【量刑の理由】
 本件は,暴力団の幹部である被告人が,自らあるいは組長や組員らと共謀して,資金
提供等を拒む企業に対する銃撃のためけん銃を適合実包と共に所持した事案2件,同
企業の本社社屋に向けてけん銃を発砲した事案2件,同発砲事件に関与した幹部組員
を逃走させて犯人を隠避させた事案,及び同企業の工場に鉄亜鈴を投げつけるなどし
て窓ガラスを損壊したという事案である。
 本件一連の犯行は,最高幹部であるB会会長以下暴力団構成員らが,結束して,所
属する広域暴力団内部での同会長の昇進を目論み,そのための資金調達をすべく地元
有力企業に対し圧力を加えたもので,その動機は,誠に身勝手かつ暴力団特有の発想
に基づく反社会的なものである。被告人らは,被害企業に対し,街宣活動等の嫌がらせ
を繰り返したものの,功を奏しなかったことから三度にわたり本件銃撃事件等を敢行した
もので,その執拗さ,悪質さは類をみないものといえる。
 判示第1,第2の犯行及び判示第4,第5の犯行は,会長に次ぐ暴力団幹部の地位に
あった被告人が,自らけん銃及び適合実包を準備した上,これを配下の暴力団幹部に
渡し,企業社屋に向かってけん銃を発射させるなどした事案である。いずれの犯行も,
深夜,幹線道路から歩道越しに,周囲には住宅等も存在している被害会社の社屋に向
けて自動装てん式けん銃を数発ずつ発射したというものであって,極めて危険かつ悪質
であり,連続した発砲事件により地域住民に与えた恐怖感にも大きなものがある。こと
に,判示第2の犯行による被害会社の社屋の窓ガラス及び外壁の損壊による財産的損
害は64万円余りと多額であるが,被害弁償は全くされていない。近時,殺傷能力が高く
社会の安全を脅かす銃器犯罪が多発しており,これを禁圧しようとする社会的な要請は
極めて強いところ,これに挑戦するかのような本件各犯行は,極めて悪質と言わなけれ
ばならない。
 判示第3の犯行は,被告人らが,判示第2の実行犯の共犯者である暴力団幹部が逮
捕されてその供述により組織ぐるみの犯行であることが発覚することを恐れ,同人を遠
方に逃走させたものである。このような暴力団特有の価値観に基づく犯行は,強い非難
に値するというべきである。その態様は,会長の指示により,逃走資金を捻出し,逃走手
段と滞在先を確保した上逃走を強く勧め,その後1か月間にわたる潜伏を手助けしたと
いう組織的かつ大胆なもので,その結果,事案の真相を明らかにして,適正かつ迅速な
裁判の実現を目的とする刑事司法に多大な影響を及ぼしたことは明らかであって,悪質
である。
 判示第6の犯行は,判示第5のけん銃発射によって被害会社の社屋を損壊することが
できなかったことから,被告人が,配下の暴力団構成員らに指示して,被害会社の建造
物に侵入し,これを損壊させたもので,その態様は,深夜,あらかじめ下見しておいた工
場に侵入し,重さ1キログラムないし2キログラムの鉄亜鈴を投げつけるなどして固定式
窓ガラスを破壊したというものであって,甚だ悪質であり,財産的損害も12万円余りと少
なくなく軽視することができない。
 被告人は,一連の犯行において,B会会長であるFの信望を受け,その指示の下,幹
事長としての影響力を背景に実行役の手配や犯行を指示し,けん銃の準備等を取り仕
切るなどしたもので,他に比肩できない重要な役割を担っていたものといえ,その刑事
責任は誠に重大である。
 したがって,被告人は公判の最終段階に至って犯行を概ね認め,本件一連の犯行を
反省していること,所属する暴力団からの脱退を決意し,脱退届を提出していること,被
告人の妻が今後の更生に協力する旨述べていることなど,被告人にとって有利な事情
を十分斟酌しても,主文のとおりの刑に処するのが相当である。
(求刑 懲役18年・けん銃1丁没収)
平成14年1月17日
熊本地方裁判所刑事部
裁判長裁判官原田保孝
           裁判官永井尚子
           裁判官内田貴文

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