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裁判例


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       主   文
 被告が原告らに対し,平成10年3月31日付けでした別紙物件目録記載の各土
地に係る平成9年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出を棄却する旨
の決定をいずれも取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告らがその所有に係る各土地(山林)の平成9年度の土地課税台帳に
登録された価格が,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)によら
ずに決定された違法があると主張して,原告らの審査申出を棄却した被告の各決定
の取消しを求めている事案である。
1 前提となる事実(以下の事実は,各項末尾に掲げた証拠等により認定した。)
(1) 原告らは,別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各山林」という。な
お,以下では,同目録1記載の土地を「本件山林1」などという。)を共有する者
であり,本件各山林の固定資産税の納税義務者である。 (争いのない事実)
(2) 本件各山林の登記上及び現況の地目は,いずれも山林である。 (弁論の
全趣旨)
(3) 東京都青梅市長(以下「市長」という。)は,平成9年3月31日,本件
各山林の平成9年度の各価格を別紙物件目録の「価格」欄各記載のとおり,それぞ
れ決定し,同日,上記各価格を土地課税台帳に登録し,同年4月1日から同月21
日まで縦覧に供した。 (弁論の全趣旨)
(4) 原告らは,平成9年4月28日,被告に対して,上記各価格を不服として
審査申出(以下「本件審査申出」という。)をしたが,被告は,平成10年3月3
1日,上記審査申出をいずれも棄却する旨の決定をした(以下「本件各決定」とい
う。)。 (争いのない事実)
2 法令の定め等
(1) 固定資産(土地)評価に関する地方税法の規定等
ア 土地に対して課する基準年度(本件では平成9年度である。)の固定資産税の
課税標準は,当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年
の1月1日,本件では平成9年1月1日である。地方税法359条)における価格
であり,上記価格とは「適正な時価」(地方税法341条5号)であって,土地課
税台帳又は土地補充課税台帳(以下,これらを併せて「土地課税台帳」という。)
に登録されたものである(地方税法349条1項)。
イ 土地課税台帳に登録される価格(以下,この価格を「登録価格」という。)の
決定に際しての固定資産の評価については,自治大臣(現在は総務大臣。以下同
じ。)が,評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め,告示しなければな
らないものとされ(平成11年法律第160号による改正(以下「160号改正」
という。)前の地方税法388条1項前段),固定資産評価基準(昭和38年自治
省告示第158号。以下「評価基準」という。)が告示されている。
 そして,市町村長は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない
とされ(160号改正前の地方税法403条1項),固定資産の価格等を決定し,
価格等を登録した場合には,その結果の概要調書を作成し,毎年4月中にこれを道
府県知事に送付しなければならず(160号改正前の地方税法418条),道府県
知事は上記価格の決定が評価基準によって行われていないと認める場合において
は,当該市町村長に対し,登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ,
自治大臣は上記勧告をするよう指示するものとされている(地方税法419条1
項,160号改正前の422条の2第1項)。
 なお,自治大臣は,市町村長に対して,固定資産の評価に関する資料の作成又は
助言による技術的援助を与えなければならず,また,道府県知事も,自治大臣の作
成した資料の使用方法についての指導又は評価についての助言を与えなければなら
ない(160号改正前の地方税法388条3項,401条)とされているが,これ
らは,自治大臣又は道府県知事に市町村の徴税吏員又は固定資産評価員に対する指
揮権限を与えるものではない(160号改正前の地方税法402条)。
ウ 市町村長は,固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書
を受理したときは,毎年2月末日までに評価基準によって固定資産の価格等を決定
し,これを土地課税台帳に登録しなければならないものとされている(地方税法4
10条,平成11年法律第15号による改正(以下「15号改正」という。)前の
411条1項)。
エ 固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産
について固定資産課税台帳に登録された事項について不服がある場合においては,
所定の期間内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるものとさ
れており,固定資産評価審査委員会は,上記審査の申出を受けた場合においては,
直ちにその必要と認める調査,口頭審理その他事実審査を行い,その申出を受けた
日から30日以内に審査の決定をしなければならないとされている(15号改正前
の地方税法432条1項,433条1項)。
(2) 評価基準(ただし,平成10年自治省告示第289号による改正前のも
の。以下同じ。)が定めている山林の平成9年度における評価方法の概要は次のと
おりである。
ア 地目の現況が山林である場合の土地の評価は,各筆の山林について評点数を付
設し,当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の山林の価額を求める方法
による。 (評価基準第1章第1節一,第1章第7節一)
イ 各筆の評点数は,次によって付設する。
a 状況類似地区の区分
 状況類似地区は,地勢,土層,林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮し,お
おむねその状況が類似していると認められる山林の所在する地区ごとに区分する。
この場合において,状況類似地区は,小字の区域ごとに認定するものとし,相互に
当該状況が類似していると認められる小字の区域は,これらを合わせ,小字の区域
内において当該状況が著しく異なると認められるときは,当該状況が異なる地域ご
とに区分するものとする。 (評価基準第1章第7節二2)
b 標準山林の選定
 標準山林は,状況類似地区ごとに,位置,地形,上層,林産物の搬出の便等の状
況からみて比較的多数所在する山林のうちから,一の山林を選定するものとする。
 (評価基準第1章第7節二3)
c 標準山林の評点数の付設
 標準山林の評点数は,次によって,山林の売買実例価額から評定する当該標準山
林の適正な時価に基づいて付設する。
ⅰ 売買の行われた山林(以下「売買山林」という。)の売買実例価額について,
その内容を検討し,正常と認められない条件がある場合においては,これを修正し
て,売買山林の正常売買価格を求めるものとする。
ⅱ 当該売買山林と標準山林の位置,地形,土層,林産物の搬出の便等の相違を考
慮し,ⅰによって求められた当該売買山林の正常売買価格から標準山林の適正な時
価を評定する。
ⅲ ⅱによって標準山林の適正な時価を評定する場合においては,基準山林(市町
村長が,標準山林のうち,地勢,土層,林産物の搬出の便等の状況からみて上級に
属するもののうちから選定した基準山林をいう。)との評価の均衡及び標準山林相
互間の評価の均衡を総合的に考慮する。 (評価基準第1章第7節二4,同節三2
(1))
d 各筆の山林の評点数の付設
 各筆の山林の評点数は,標準山林の単位地積当たり評点数に評価基準別表第7に
定められた「山林の比準表」により求めた各筆の山林の比準割合を乗じ,これに各
筆の山林の地積を乗じて付設する。市町村長は,山林の状況に応じ,必要があると
きは,「山林の比準表」について,所要の補正をして,これを適用する。
 市町村長は,平坦部に所在する山林等で,「山林の比準表」によって各筆の山林
の比準割合を求めることが困難なものがあるときは,「山林の比準表」の例によっ
て,最寄集落までの距離,沿接する道路の状況等の要素による林産物の搬出の便等
を考慮のうえ,当該山林の比準表を作成して,これを適用するものとする。
 なお,「山林の比準表」の内容は,別表1記載のとおりである。 (評価基準第
1章第7節二5,別表第7)
(3) 通達の定め
 本件各決定が行われた当時には,評価基準の取扱いに関して,各都道府県知事あ
て自治事務次官の依命通達(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和38年1
2月25日自治乙固発第30号。以下「取扱通達」という。)が発せられていた。
なお,取扱通達は,平成12年1月28日付け自治固第3号自治評第2号各都道府
県知事あて自治事務次官通知をもって廃止された。
 取扱通達の定めは以下のとおりである。
ア 状況類似地区の区分にあたっては,地勢,土性,林産物の搬出の便その他の山
林の価格に影響を及ぼす自然的及び経済的諸条件が類似しているか否かを検討する
ものであり,具体的には,「山林の比準表」に示す比準項目以外の諸条件について
その状況が類似している地区に区分することを主眼とすべきものであること。な
お,この場合,山林の売買の状況を調査し,一の状況類似地区が山林の需給事情の
相違する地域に亘らないよう留意すること。 (取扱通達第2章第7節27)
イ 標準山林の適正な時価は,売買山林の正常売買価格を基準とし,当該売買山林
と標準山林の位置,地形,土層,林産物の搬出の便その他の山林の価格に影響を及
ぼす自然的及び経済的諸条件の相違,精通者価格の較差を考慮し,かつ,基準山林
及び標準山林相互間の均衡を総合的に勘案して評定するものであること。 (取扱
通達第2章第7節29)
ウ 山林の状況によって,「山林の比準表」を補正して適用する必要がある場合に
おいては,おおむね,次の要領によること。
a 「比準山林の中央部とその搬出地点との標高差」と「標準山林の中央部とその
搬出地点との標高差」との差に応ずる比準割合にかえて,搬出地点までの勾配,距
離等の状況を考慮する必要があるときは,搬出費用を参しゃくして,山林の中央部
からその山林の搬出地点までの距離その他の状況に応ずる比準割合を定めること。
b 「比準山林と標準山林の搬出道路の距離の相違による補正」を求める場合にお
いて,支線道路又は幹線道路の状況を考慮する必要があるときは,牛馬車又はトラ
ック等の林産物積載石数等を参しゃくし,支線道路又は幹線道路の距離又は補正数
値について所要の補正を行うこと。 (取扱通達第2章第7節30)
3 当事者の主張
(被告の主張)
(1) 評価基準によれば,山林の評価は,各筆の山林について評点数を付設し,
当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の山林の価額を求める方法による
のが原則とされ,各筆の山林の評点数は,①状況類似地区を区分する,②状況類似
地区ごとに標準山林を選定する,③標準山林について,売買実例価額から評定する
適正な時価に基づいて評点数を付設する,④標準山林の評点数に比準して,状況類
似地区内の各筆の山林の評点数を付設する,という順序で行うものとされている
が,本件各山林の価格は,評価基準によって適正に決定された。
(2) 状況類似地区の区分
ア 状況類似地区区分の方法について
状況類似地区の区分は,標準山林方式による評価の便宜のために行われるものであ
り,これを小字の区域ごとに設定することを原則とするという評価基準の考え方
は,地形上からみたときに小字の区域の状況が類似していることが多いという実態
と評価又は課税上の便宜に基づくものにすぎない。
 そうであるとすれば,相互に当該状況が類似していると認められる小字の区域は
これらを合わせ,小字の区域内において当該状況が著しく異なると認められるとき
は当該状況が異なる区域ごとに区分する,という原則に戻った措置が必要となる。
 そして,評価基準は,状況類似地区を区分するための要素として,具体的に①地
勢,②土層,③林産物の搬出の便を挙げたうえで,「等」として④その他の要素が
あることを示唆し,これらの状況を総合的に考慮して,おおむねその状況が類似し
ていると認められる山林の所在する地区ごとに区分するものとしている。
a 地勢
 地勢は,地形条件によって判断されるが,山林の生産力条件に作用する最も基本
的な要素である。地形条件は,その作用によって気候条件を左右するだけでなく,
山林の土層条件と密接に関連していることが多く,林産物の生育及び産出量に大き
く作用し,自然条件の大きな要素となっている。また,標高や傾斜角度は,植林条
件を規制し,林産物の搬出上の経費の多寡に影響を及ぼすことにより経済条件にも
大きく関係するものであり,山林の状況類似地区の区分は,地勢(地形条件)によ
る区分のみで,ほぼ画定することができる。
 地勢要素が類似する地域の区分に際しては,まず,山脈の走行,河川の流域,標
高によって大きく区分したうえで,等高線の方向と密度から稜線と沢又は河川や道
路(道路を境に地形条件が判然と区分されている場合に限る。)によって区切られ
た地形面ごとに区分し,これらの区画線を原則として字界と一致させ,さらに傾斜
方向が異なっている場合には,北東から北西にかけての北面とその他の面を字界に
よって二分し,傾斜角が多様な地域については,その利用条件からみて,勾配15
度から40度の傾斜面と40度以上の傾斜面とに区分し,また,必要があれば,山
林の地域的な位置(山頂,山麓等)によっても字界をもって区分するという方法が
とられる。
b 土層
 通常,土層は地形条件と密接な関係にあり,地形が異なるごとに土層も異なって
いるので,土層の相違による区分は,地勢による区分を行えば足りることが多い。
 しかし,地勢要素が同じような地区でも土層の状態が異なる山林については,土
層要素をも考慮して状況類似地区を区分することが合理的であり,その場合は,地
質図や土層図などを参考にし,必要に応じて現地調査を行う等の方法で判断するこ
とになる。
c 林産物の搬出の便
 林産物の搬出は,①それぞれの山林から林産物の搬出地点までの運搬,②搬出地
点から幹線道路までの運搬,③幹線道路による主要集荷地点までの運搬の3段階に
よって行われ,これらの条件のもたらす搬出経費の多寡が山林の価格に影響を及ぼ
すことになる。
 これらのうち,それぞれの山林から林産物の搬出地点までの運搬については,評
価基準で定める「山林の比準表」で比準山林と標準山林の格差を補正することとさ
れているので,状況類似地区の区分に際して考慮する必要はない。搬出地点から幹
線道路までの運搬については,同じ路線の支線道路を使用して林産物を搬出する山
林の地域ごとに区分するのが原則であるが,路線が異なっても,同じような条件で
ある隣接の地域は合わせて1つの区域としても支障はない。幹線道路による主要集
荷地点までの運搬については,同じトラック道路等の幹線を使用して林産物を運搬
する地域ごとに区分するのが原則である。
d その他の要素
 山林の価格事情に影響を及ぼすその他の要素としては,経営立地条件,災害条
件,樹種,利用上の制限などが考えられる。
イ 青梅市における状況類似地区の区分の合理性
a 青梅市における地勢の概況
 青梅市は,武蔵野台地の西端の関東山地と関東平野が接する,東京都の北西部に
位置し,中央部・西部の山地,北東部と南東部の丘陵地,丘陵地に挟まれた台地に
大別され,市域のほぼ中央を多摩川が西から南東方向に流れている。市内の山地
は,この多摩川によって,北部の高水,鷹の巣山塊と南部の御岳,三室山塊に2分
される。北部は,黒山(標高842メートル)を最高峰とし,南東へは惣岳尾根が
東には成木山稜がそれぞれ延び,成木山稜は,東京都と埼玉県の県境となってい
る。また,惣岳尾根は600ないし700メートルの高度を示し,その尾根上に岩
茸石山(793メートル),惣岳山(756メートル)がそびえている。岩茸石山
からは東へ,高水山(759メートル)を通る高水尾根が延び,永栗ノ峰(633
メートル)で,北東方向へ向かう北小曾木尾根(白岩山稜)と南東に延びる雷電尾
根に分岐している。さらに,雷電尾根の三方山(454メートル)からは,北東に
延びる小曾木尾根と,南東方向へ延びる永山尾根に分かれている。これら山稜,尾
根の間を縫うように成木川,北小曾木川,平溝川等の中小河川が流れ,これらの上
流部は深い峡谷を作っている。南部は,大岳山(標高1266・9メートル)か
ら,北東へ御岳尾根が走り,市内の最高地点の鍋割山(1084メートル)や御岳
山(929メートル)がそびえている。御岳山からは,東へ愛宕尾根が延び,日の
出山(902メートル),高峰(755メートル),三室山(647メートル)な
どの山頂が連なり,高峰から北東へは築瀬尾根が,三室山からは,北東に向かう愛
宕尾根(狭義),東に向かう琴平尾根,南東に向かう通矢尾根が分岐している。愛
宕尾根から多摩川に向かい,北東方向へ大沢川や,琴沢入川,夏沢,岨端沢などの
小河川が急峻な谷を作り,尾根も発達している。
 これらの山地は,市内面積の約60パーセントを占め,標高が700メートルか
ら300メートルの比較的そろっている稜線が多く,多摩川に沿って西から東に次
第に高度を下げ,北部は加治(霞)丘陵に,南部は草花丘陵に接続している。ま
た,傾斜角度は,大半が20~30度の傾斜分布であり,40度以上の急勾配箇所
は,成木川上流の常盤山,日向和田付近,鍋割山東側等にわずかに点在しているに
すぎない。
b 地勢要素による状況類似地区の区分
 状況類似地区の設定に際しては,地勢が前述のとおりであることから,山稜,尾
根等の走行,河川の流域,標高等によって大きく区分し,さらに等高線の方向と密
度から,稜線と沢を読みとり,これらの稜線と沢又は河川によって区切られた地形
ごとに区分し,これらの区画線を原則として字界と一致させ,標高については,概
ね800メートル未満とそれ以上の部分に区分し,一の状況類似地区における標高
差は概ね500メートル以内とするという方法で,全市が24の状況類似地区に区
分されている。
 なお,傾斜角度が40度を超える急斜面区域がある場合は,その区域を区分する
ものとされているが,青梅市には,この要素によって他と区分しなければならない
程の区域はなく,この要素が含まれる山林については,各筆についての個別評価の
際に考慮されることとなっている。
 そして,本件各山林のうち,本件山林1ないし14の各山林は状況類似地区番号
10の地域(以下「状況類似地区10」という。)に,本件山林15及び本件山林
16は状況類似地区番号11の地域(以下「状況類似地区11」という。)に,本
件山林17は状況類似地区番号23の地域(以下「状況類似地区23」という。)
にそれぞれ含まれている。
c 土層要素について
 土層の相違による区分は,先に述べたように地形条件と密接な関係にあるため,
地勢要素で考慮すればよいとされ,特に,樹木の成育に著しく影響を及ぼす不良土
層(岩石地,崩壊地等)の地域のみ区分すればよいものとされている。しかも,青
梅市内の山岳部は,関東山地の一部にあって,秩父古生層に属しているため,その
中での土層による有意な違いはない。
 なお,樹木の生育しない禿山,岩石山等が広範囲に連続している場合は,その区
域を区分するものとされているが,青梅市には,これらの要素によって他と区分し
なければならないほどの広範囲にわたる不良土層の地域はなく,これらの要素が含
まれる山林については,各筆についての個別評価の際に考慮されることとなってい
る。
d 林産物の搬出の便の要素について
 搬出地点から幹線道路までの運搬や幹線道路による主要集荷地点までの運搬距離
について著しく長いものがあるときは,同一の支線道路や幹線道路を使用するもの
であっても別に区分すべきであるとされるが,上記状況類似地区について,その要
件に該当するものはない。
e その他の要素について
 その他の要素としては,経営立地条件,災害条件,樹種,利用上の制限等が考え
られるが,経営立地条件は地勢要素や林産物の搬出条件とほぼ一致し,災害条件
(地滑り,崩壊等の常襲)を考慮すべき地区はなく,樹種には杉・檜と雑木林があ
るが,これらは地勢の状況とほぼ一致しており,利用上の制限が広範囲にわたる地
域も存在しないので,状況類似地区の区分に際して,特にこれらの点を考慮する必
要はない。
f まとめ
 以上のとおり,山林の状況類似地区の区分は,地勢(地形条件)による区分のみ
で,ほぼ画定することができるという前記で述べた一般的な考え方は青梅市におい
ても妥当し,状況類似地区の具体的な区分は正当になされている。
ウ 本件各山林が含まれている状況類似地区内の具体的状況類似性
 本件各山林が含まれている状況類似地区10,11,23は,以下のとおり各状
況類似地区内の状況が類似しており,それぞれを一つの状況類似地区としたことに
何ら違法はない。
a 状況類似地区10の具体的な状況は次のとおりである。
(a) 概況
 状況類似地区10は,字平溝(以下,字を付した地名は,旧小字をいうものとす
る。),字谷久保,字関谷等19の旧小字(以下,単に「小字」という。)を合わ
せたものであるが,これらの小字のうち,字宮の腰,字鶴石,字大場戸,字大曲ヶ
目,字栃ノ音,字岩岳は,山林評価の対象となっている土地がないので,実質の小
字の数は13である。
 状況類似地区10の各小字別及び全体の山林評価された筆数,面積は別表2の
①,②の各欄記載のとおりである。
 状況類似地区10は,市西部の多摩川左岸(北岸)に位置し,αの惣岳尾根と多
摩川,平溝川に囲まれた旧沢井上分と下分の地域で,岩茸石山(標高793メート
ル)や惣岳山(751メートル)を源流とする谷久保川,青渭川を挟んで,3つの
大きな尾根が南東方向に,ほぼ平行して走っている。これらの尾根は,延長距離が
2・5キロメートルないし3・0キロメートル,傾斜角度も20度から35度の範
囲と似通っており,標高も700メートルから300メートルとそろった稜線で,
いずれも南東方向へ傾斜している。
 この地区の標高は,最高が字惣岳山における751メートルの地点,最低が字軍
畑における190メートルの地点であり,平均は408メートルとなっている。
 傾斜角度は,20度前後の比較的緩やかな傾斜が多く,傾斜方向は尾根や川等が
複雑に蛇行している影響により様々な方向に傾斜しているが,多摩川北岸に位置す
ることから,東から南方向へ傾斜しているものが多い。
 また,一部に岩石地が見受けられるがその範囲はわずかであり,ほとんどが杉・
檜の人工造林地区であって,林産物の搬出は幹線道路に近く,林道や沢等の利用に
より比較的容易に搬出できる地区である。
(b) 標高について
 状況類似地区10における小字ごとの最高標高,最低標高,高低差,平均標高
は,別表2の③ないし⑥の各欄記載のとおりである。
 ところで,標高が問題となるのは,それによって当該山林の樹種や利用条件に違
いが生ずる限りにおいてである。
 そして,同地区は,杉・檜を主体とした人工造林地区であって,全体として標高
が高いところに位置する字惣岳山においても85・0パーセントが杉・檜であり,
470メートルの高低差がある字横尾子においては95パーセントが杉・檜であ
り,その他に当該地域における特異な土地利用の状況を示すものはみられないか
ら,これらの山林について,状況類似地区を異にしなければならないほどの樹種や
利用条件の違いが生じていることは認められない。
(c) 傾斜方向について
 状況類似地区10における小字ごと及び全体の傾斜方向は,別表2の⑦の各欄記
載のとおりである。
 しかし,このような差異があるにもかかわらず,杉・檜を主体とした人工造林地
区であるという特徴は状況類似地区10において共通であり,山林の利用状況に影
響を与えると認められるほどの傾斜方向による差異があるとは認められず,傾斜方
向を考慮して状況類似地区を分割し,あるいはそれによる補正を考慮する必要はな
い。
(d) 傾斜角度について
 状況類似地区10における小字ごとの傾斜角度の状況は,別表2の⑧の各欄記載
のとおりである。
 状況類似地区10のほとんどの地域における傾斜角度は15度以上40度未満
(林業に適するとされる傾斜角度)であり,小字単位にみても,15度未満の測定
地点を有する字平溝,字軍畑,字谷久保,字日影谷,字平石,字横尾子,字惣岳
山,字丹縄及び字横尾のいずれも,それが大勢を占めるに至っておらず,40度以
上の測定地点も字横尾子に1か所存するのみであり,傾斜角度の違いを根拠に状況
類似地区を分割すべき理由はない。
(e) 土層について
 状況類似地区10の土層は,厳密にいえばいくつかの異なる地質がみられるが,
それが林業経営に影響を及ぼしているとは認められない。
(f) 樹種について
 状況類似地区10における樹種は,別表2の⑩の各欄に記載のとおりである。
 小字単位にみた杉・檜の占める割合は75パーセントから100パーセントであ
り,林業経営という観点からみると,小字による違いはほとんどない。
b 状況類似地区11の具体的な状況は次のとおりである。
(a) 概況
 状況類似地区11は,字矢崎,字払沢入,字払沢等の15の小字を合わせたもの
である。
 状況類似地区11の小字別及び全体の筆数,面積は別表3の①,②の各欄記載の
とおりである。
 状況類似地区11は,市西部の多摩川右岸(南岸)に位置し,αと御岳山(標高
921メートル)から東に延びる愛宕尾根と,高峰(755メートル)から分岐す
る築瀬尾根とに囲まれた旧御岳の地域で,愛宕尾根から多摩川に向かって北東方向
に3つの大きな尾根が走り,これらの尾根を挟んで,西から大沢川(滝本川),琴
沢入川,夏沢,払沢の小河川が流れ,上流部は急峻な谷を形成している。
 状況類似地区11の最高地点は字円山における929メートルであるが,上記3
つの尾根の標高は800メートルから300メートルのそろった稜線であり,標高
が最低となるのは字矢崎における206メートルであり,平均は547メートルと
なっている。
 傾斜角度は,15度から40度の範囲内のものが多く,傾斜方向は,尾根や川等
によって様々な方向に傾斜しているが,多摩川に向かって北側に傾斜している山林
が多い。
 樹種は,一部の地域を除いて,杉・檜の人工造林がほとんどとなっている。
 また,不良土層としては,御岳山,日の出山の山頂部分に一部崩壊地や岩石地が
見受けられるがその割合はわずかであり,林産物の搬出は,それぞれの河川に沿っ
て林道等が開設されており,幹線道路にも近く,その便は良好である。
(b) 標高について
 状況類似地区11における小字ごとの最高標高,最低標高,高低差,平均標高
は,別表3の③ないし⑥の各欄記載のとおりである。
 ところで,標高が問題となるのは,それによって当該山林の樹種や利用条件に違
いが生ずる限りにおいてである。
 そして,状況類似地区11の地域は,全体として杉・檜の人工造林として利用さ
れているにもかかわらず,一部の標高の高い地区において,杉・檜に代えて雑木の
割合が高くなっているところが見られる。
 すなわち,平均標高が793メートル(実標高は666メートルから920メー
トル)の字富士峰においては杉・檜の割合が69・8パーセント,雑木30・2パ
ーセントとなっており,平均標高が826メートル(実標高は723メートルから
929メートル)の字円山においては杉・檜の割合が14・3パーセント,雑木が
85・7パーセントとなっており,平均標高が804メートル(実標高は694メ
ートルから914メートル)の字裏山においては杉・檜の割合が0パーセント,雑
木が100パーセントとなっている。
 しかしながら,平均標高が788メートル(実標高は766メートルから810
メートル)の字南御坂においては,杉・檜が100パーセントとなっていることか
らすると,このような樹種の違いが標高の違いによるものとは考えられず,β鉄道
(ロープウェイ)のγ駅や産安社を中心とする富士峰園地を有する字富士峰,御岳
神社,御岳山ふれあいセンター,国民宿舎や住宅等を有する字円山,字富士峰と字
円山の奥に位置する字裏山というそれぞれの立地条件等による所有者の個人的な林
業に対する意欲の違いに起因するものと考えるのが合理的である。
(c) 傾斜方向について
 状況類似地区11における小字ごと及び全体の傾斜方向は,別表3⑦の欄記載の
とおりである。
 しかし,このような差異があるにもかかわらず,山林の利用状況が傾斜方向によ
る影響を受けているとは認められないから,傾斜方向を考慮して状況類似地区を分
割し,あるいはそれによる補正を考慮する必要はない。
(d) 傾斜角度について
 状況類似地区11における小字ごとの傾斜角度の状況は,別表3の⑧の欄記載の
とおりである。
 状況類似地区11における傾斜角度は,御岳山の頂上付近に位置する特定の地区
を除いて,ほとんどが15度以上40度未満(林業に適するとされる傾斜角度)で
あり,傾斜角度を理由として状況類似地区を異にすべき地区はない。ただ,御岳山
の頂上付近に位置する地区については,字裏山において15度以上40度未満が1
地点であるのに対して15度未満が3地点,字南御坂において15度以上40度未
満が2地点であるのに対して15度未満が3地点,字円山において15度以上40
度未満が3地点であるのに対して15度未満が3地点となっており,これらの地区
の傾斜の状況が他の小字の地域と異なることは否定できない。そして,これらの3
地域のうち,字南御坂においては杉・檜が100パーセントを占めているものの,
字円山及び字裏山における杉・檜の割合は極めて低いのであるが,その理由は,前
記のとおり,所有者の個人的な林業に対する意欲の違いに起因するものと考えられ
る。
(e) 土層について
 状況類似地区11の土層は,棚沢星竹断層の西側が海沢層の砂岩・頁岩であるの
に対してその東側が川井層の砂岩・頁岩となっていて,これが字富士峰,字円山及
び字裏山において雑木が主体の植生となっていることの原因であるようにもみえる
が,両者はその層の古さが違うだけで,砂岩,頁岩であることは共通であることか
らすると,この植生の違いと土層の違いとに関係はないものと思われる。
(f) 樹種について
 状況類似地区11における樹種は,別表3の⑩の欄記載のとおりである。
 小字単位にみた杉・檜の占める割合は,字富士峰,字円山及び字裏山の3地区を
除いて,78・3パーセントから100パーセントとなっており,林業経営という
観点からみたときには,小字による違いはほとんどない。なお,字富士峰,字円山
及び字裏山の3地区においては雑木の割合が極めて高くなっているが,その理由
は,所有者の個人的な林業に対する意欲の違いに起因するものと考えられるのであ
り,それ故に状況類似地区を異にすべき状況にあるとは認められない。
c 状況類似地区23の具体的な状況は次のとおりである。
(a) 概況
 状況類似地区23は,字竹ノ入,字吹上,字坂下等の59の小字を合わせたもの
であるが,一小字当たりの面積は状況類似地区10や状況類似地区11の小字の約
4分の1と極端に小さくなっている。
 状況類似地区23の小字別及び全体の筆数,面積は別表4の1ないし4の①,②
の各欄記載のとおりである。
 状況類似地区23は,北小曾木川を挟んで,高水尾根の永栗ノ峰(標高633メ
ートル)から南東に延びる雷電尾根と北東に延びる北小曾木尾根,雷電尾根の三方
山(454メートル)から北東に延びる小曾木尾根に囲まれた旧北小曾木の地域
で,雷電尾根から北に向かって,北小曾木川支流の栗平沢,正沢等の小河川を挟ん
で,3つの尾根が平行して走っている。
 標高は,最高が字永栗における634メートルの地点であり,最低が字竹ノ入に
おける158メートルの地点であり,平均は323メートルとなっている。傾斜角
度は平均斜度で字細久保が31度,字吹上が30・1度であるものの,それ以外の
地区の平均斜度はいずれも30度未満と緩やかであり,傾斜方向は当該地区が3つ
の尾根に挟まれていることから複雑な様相を呈している。
 地区内には採石場のほか一部岩石地が見受けられるが,ほとんどの地域における
主な樹種は,杉及び檜の人工林が多く,北小曾木川沿いに幹線道路が走り,それぞ
れの沢に林道等が開設されており,林産物の搬出の便は比較的良好である。
(b) 標高について
 状況類似地区23における小字ごとの最高標高,最低標高,高低差,平均標高
は,別表4の1ないし4の③ないし⑥の各欄記載のとおりである。
 ところで,標高が問題となるのは,それによって当該山林の樹種や利用条件に違
いが生ずる限りにおいてである。
 そして,状況類似地区23の地域は,全体として杉・檜の人工造林として利用さ
れているにもかかわらず,一部の標高の高い地区において,杉・檜に代えて雑木の
割合が高くなっているところが見られる。
 すなわち,平均標高が270メートル(実標高は184メートルから355メー
トル)の字赤新田においては杉・檜の割合が69・2パーセント,雑木30・8パ
ーセントとなっており,平均標高が291メートル(実標高は208メートルから
373メートル)の字細久保においては杉・檜の割合が50・0パーセント,雑木
が50・0パーセントとなっている。
 しかし,平均標高が270メートル(実標高は199メートルから340メート
ル)の字正沢においては杉・檜の割合が86・1パーセントとなっており,また,
平均標高が292メートル(実標高は210メートルから374メートル)の字向
立ヶ谷では杉・檜が94・4パーセントであることからすると,状況類似地区23
におけるこのような樹種の違いが標高の違いによるものとは考えられず,それぞれ
の所有者の個人的な林業に対する意欲の違いに起因するものと考えるのが合理的で
ある。
(c) 傾斜方向について
 状況類似地区23における小字ごと及び全体の傾斜方向は,別表4の1ないし4
の⑦の欄記載のとおりである。
 しかし,このような差異があるにもかかわらず,山林の利用状況が傾斜方向によ
る影響を受けているとは認められず,傾斜方向を考慮して状況類似地区を分割し,
あるいはそれによる補正を考慮する必要はない。
(d) 傾斜角度について
 状況類似地区23における小字ごとの傾斜角度の状況は,別表4の1ないし4の
⑧の各欄記載のとおりである。
 状況類似地区23における傾斜角度は,15度以上40度未満のものが253地
点,15度未満のものが61地点,40度以上のものが6地点となっているが,字
吹上入のように15度以上40度未満の地点が半数に満たない小字においても杉・
檜の比率は70パーセントを超えているのであり,傾斜角度を理由として状況類似
地区を異にすべき地区はない。
(e) 土層について
 状況類似地区23の土層は,名栗断層の東側が雷電山層の砂岩・頁岩・塩基性火
山岩であるのに対してその西側が高水山層の砂岩・頁岩・塩基性火山岩となってい
て,その中にチャート層及び飯能層の二本竹礫層が点在しているが,いずれも杉・
檜を主体とする樹種に影響を与えている状況はみられない。
(f) 樹種について
 状況類似地区23における樹種は,別表4の1ないし4の⑩の各欄に記載のとお
りである。
 小字単位にみた杉・檜の占める割合は,字赤新田及び字細久保の2地区を除いて
70パーセントを超えており(伐採済みを除く。),林業経営という観点からみた
ときには,小字による違いはほとんどない。
なお,字赤新田及び字細久保の2地区においては雑木の割合が若干高くなっている
が,その理由は,所有者の個人的な林業に対する意欲の違いに起因するものと考え
られるのであり,状況類似地区を異にすべき状況にあるとは認められない。
(3) 標準山林の選定
ア 状況類似地区10における標準山林の選定
 この地区の標準山林は,青梅市δ566番地所在の山林(以下「標準山林10」
という。)であり,同山林は,谷久保川左岸のほぼ中心に位置し,一番北の尾根の
中心付近から,谷久保川に向かって南西方向に傾斜している。傾斜角度は15度程
度で緩やかで,林産物の搬出の便は谷久保林道に接しており容易である。また,そ
の標高は520メートルから380メートルで,中央部の標高は460メートルで
ある。
イ 状況類似地区11における標準山林の選定
 この地区の標準山林は,青梅市ε555番地所在の山林(以下「標準山林11」
という。)であり,同山林は,琴沢川右岸のほぼ中心に位置し,日の出山(902
メートル)から北東に延びる尾根の中腹から北西方向に傾斜している。傾斜角度は
20度程度で比較的緩やかで,林産物の搬出も琴沢林道がすぐ近くにあり搬出の便
は良好である,また,その標高は460メートルから370メートルであり,中央
部の標高は400メートルである。
ウ 状況類似地区23の標準山林の選定
 この地区の標準山林は,青梅市ζ478番地所在の山林(以下「標準山林23」
という。)であり,同山林は,北小曾木川左岸のほぼ中央部の字稲詰沢地区内に位
置し,尾根から北小曾木川方向に向かう形で西方向に傾斜している杉・檜の人工造
林である。その標高は347メートルから210メートル,傾斜角度は30度未満
で,北小曾木川沿いの都道η線に接しており林産物の搬出は容易である。
(4) 標準山林に対する評点数の付設
ア 平成9年度の評価について参照されるべき山林の売買実例はわずか7件であ
り,状況類似地区10においては,青梅市θ地内の1件の売買実例が存するが,状
況類似地区11及び状況類似地区23においては,売買実例そのものが存在しない
ことから,現状においては,売買実例価額から,標準山林の適正な時価を求めるこ
とは不可能な状況にある。
 なお,前記の売買実例によれば,1平方メートル当たりの価格でみて,最低がθ
地内の100円,最高がι地内の1592円で,単純平均では573円,最高値と
最低値を除いたものの平均では464円となっているが,日本国内における林業の
不振が長期にわたって継続しているため,山林が山林経営の目的で売買されること
は極めてまれであり,上記売買実例もそれぞれについて売買せざるを得ない個別の
事情が存在していたものと考えられるので,これらの価格をもって正常な価格とす
ることはできない。
イ そこで,青梅市においては,現行の制度による固定資産税の評価がなされるよ
うになった昭和39年度以降,林道の整備が進められてきたものの,地形や土層等
には特段の変動がないことから,原則として昭和39年度の評価に際して選定され
た標準山林をそのまま維持し(標準山林23については,従前の山林が採石場とな
ったために,平成3年度の評価以降,現在地の山林をもって標準山林としてい
る。),立木価格等の推移や東京都知事による指示平均価格及び基準地価格を参酌
して求めた一定の倍率を前回の評価額に乗じ,それをもって当該評価年における評
価額とする方法によってきたが,極度の林業不振という実態を勘案して,平成6年
度の評価においては,平成3年度の評価額のままで据え置くこととされ,平成9年
度においても据え置かれている。
その結果,1平方メートル当たりの評価額(評点数)は,標準山林10が36・7
5円,標準山林11が38・70円,標準山林23が32・40円となっているの
である。
 なお,市町村間における評価の均衡を図るため,東京都知事は基準山林の適正な
時価について所要の調整を行うこととされているところ(評価基準第7節三3),
東京都知事が青梅市における基準山林(標準山林11)の適正な時価について調整
した結果は,青梅市がした評価額と同額の3万8700円であるとされており,こ
のことは,青梅市における評価が近隣市町村におけるものと均衡がとれた適正なも
のであることを示すものである。
(5) 本件各山林の評点数の付設
ア 「山林の比準表」による比準
 本件各山林の山林の中央部の標高,搬出地点の標高,中央部の標高と搬出地点と
の標高差,支線道路の状況,幹線道路の状況は,それぞれ別表5各欄記載のとおり
である。
 そして,本件各山林の標準山林に対する「山林の比準表」による比準割合,本件
各山林の評点数は,別表5の各欄記載のとおりとなる。
 なお,山林の中央部の標高とは,図面上の中央部の標高によって決することで足
りるものというべきである。
 また,搬出地点は,「山林の比準表」によれば,「林産物が通常搬出される支線
道路(幹線道路以外の道路で牛馬車又はそりの通行できる道路並びに管流路をい
う。)の地点」をいうところ,本件各山林の搬出地点は,このような支線道路の要
件を備えた道路,あるいは幹線道路の適切な場所にそれぞれ設定されている。
 原告らは,本件山林1,2の各山林の支線道路とされている道路について,支線
道路としての適格性がないとの主張をするが,上記道路は,原告も認めるとおり,
木馬(そり又はそれに類似したもの)等の通行できる道路であるから,上記定義に
該当し,原告らの主張は失当である。
イ 原告らは,山林によっては林道までの搬出距離を求めなければ妥当な評価がで
きないものが少なくなく,原告ら所有の山林のうちの一部がこれに該当するから,
比準割合の補正が必要であると主張する。
 しかし,山林の比準表にいう搬出地点というのは,「林産物が通常搬出される支
線道路(幹線道路以外の道路で牛馬車又はそりの通行できる道路並びに管流路をい
う。)の地点」のことであり,「山林の中央部とその搬出地点との標高差」という
のは,山林の中央部から支線道路までの搬出距離を表象するものであるから,林道
までの搬出距離については,それぞれの山林の中央部とこれらの搬出地点との標高
差によって評価されているというべきである。
 そして,本件各山林について,山林の中央部とその搬出地点との標高差がほとん
どないために,当該山林から搬出地点までの距離が反映されていないという状況に
あるものはないから,搬出地点までの搬出距離を別途考慮する必要はない。
 また,取扱通達が,「山林の比準表」を補正する場合について定めた趣旨は,比
準山林が標準山林に比して著しい急勾配を有するとか,搬出地点までの急勾配の区
間が長い等の場合についてのものであるところ,そのような事情のない本件につい
ては,そのような補正は必要ない。
ウ 傾斜方向及び傾斜角度による補正が不要であること
 標準山林と比準山林との間において,傾斜方向や傾斜角度による樹木の生育条件
や経営条件に特段の相違がある場合には,それを補正することになろうが,本件に
おいてはそのような山林はない。
 また,山林の評価においては,傾斜角度15度から40度を標準とされているか
ら,15度未満及び40度を超える場合について特別の考慮をするのが通常である
が,本件各山林について,このような考慮が必要な土地はない。
エ その他の補正要素について
a 本件山林15について
 原告らは,本件山林15について,山林上部及び山頂の地積が20パーセントあ
るから,補正が必要というが,そのような理由による補正が必要である根拠はない
から,補正の必要はない。
b 本件山林16について
 原告らは,本件山林16について,崩壊地や砂地が存在するので,不良土層を理
由とする補正が必要であると主張するが,原告らが主張するような広範囲にわたる
砂地や崩壊地の存在が認められないので,不良地層があるとの理由による補正の必
要はない。
c 本件山林17について
 原告らは,本件山林17の樹種が雑木林であることを理由に補正が必要であると
主張するが,評価基準による山林の評価においては,上記理由による補正は必要な
い。
(6) 本件各山林の評価額
 本件各山林の評点数に,本件各山林の各面積を乗じると,本件各山林の評点数
は,別表5の各評点数欄記載のとおりとなる。
 以上によれば,本件各山林の評価額は,別紙物件目録記載の各価格欄記載のとお
りとなるというべきである。
(7) 本件審査申出から本件各決定までに要した期間について
 原告らは,本件各決定が本件審査申出のあった日から30日以内にされなかった
ことをもって,地方税法433条1項に違反すると主張するが,同条の規定は,い
わゆる訓示規定であって,その期間が遵守されなかったことのみを理由としてその
決定が違法となるものではない。
(原告らの主張)
(1) 状況類似地区の区分における評価基準違反
ア 評価基準は,固定資産の評価を実施する市町村長に対し法的拘束力を有すると
解されるところ,評価基準を遵守しないで独自の状況類似地区を区分すると,具体
的な地勢の相違,土層の相違等自然的重要な要素の比準評価ができない結果とな
り,固定資産の評価が公平性,妥当性を著しく欠く結果となるから違法というべき
である。
 そして,取扱通達が,状況類似地区分の際に考慮すべき状況類似の要素として,
①地勢,②土層,③林産物の搬出の便,④その他山林の価額に影響を及ぼす自然的
及び経済的諸条件が類似しているか否かを検討した上で,具体的には③の林産物の
搬出の便は,評価基準別表7で補正できるから,これ以外の状況の類似,即ち,①
地勢,②土層,④その他山林の価額に影響を及ぼす自然的及び経済的諸条件の類似
を求めていることに照らせば,評価の便宜性のみを先行させて,地勢のみの状況類
似地区の区分をしてはならないというべきである。
 ところで,評価基準は状況類似地区の区分を原則として小字を単位とするとして
いるが,これは,昭和38年に評価基準を改正した際に,改正前の評価基準が個別
的な評点式評価法を採っていたのに代えて,標準山林比準方式を採用したことと密
接不可分の関係にあるものである。すなわち,評価基準作成時には,状況類似地区
の区分は,その前提条件として地勢,土層,林産物の搬出の便等の要素を総合的に
考慮しなければならないものとしたが,その範囲を特定するに当たっては,面積の
特定か,行政区画を引用するか,又はその他の妥当な単位はないか等諸般の検討が
なされた結果,小字であれば,標準山林比準方式の実施にも適合し評価作業の実施
上も妥当性があると判断された。
 そこで,評価基準は,原則として小字を単位に状況類似地区を区分するものと
し,他方,小字が状況類似の観点から絶対的なものではないことも事実であるとこ
ろから,小字を最小単位としつつも,例外として,相互に当該状況が類似している
と認められる小字の区域は,それらを合わせ,小字の区域内において状況の著しく
異なると認められるときは,当該状況が異なる地域ごとに区分するものとするとし
たものである。
イ ところが,被告は,このような小字単位を全く無視した上,山林の状況類似地
区は,評価の便宜のため,地勢のみの区分でほぼ画定したとし,その結果,状況類
似地区10は東西約3・2キロメートル,南北約2キロメートル,状況類似地区1
1は東西約4キロメートル,南北約2・5キロメートル,状況類似地区23は東西
約5キロメートル,南北約2キロメートルなどという広大な区分を行った。
 このような広大な地域を一つの状況類似地区とし,その状況類似地区に一つの標
準山林しか選定されずに,各筆の山林の評点数の付設を評価基準の定める「山林の
比準表」のみによって行うとすると,地勢,土層については,原則として補正の機
会を失うことになり,適正,公平な評価はできなくなり,違法というべきである。
 この点を具体的に述べると,まず,評価要素としての地勢とは,標高,河川,
沢,傾斜角度,傾斜方向,斜面の型その他土地の価格に影響を及ぼす要因の全てを
指していると解されるから,1000ヘクタールにも及ぶ山林の地勢の類似状況
が,山稜,尾根等の走行,河川の流域などで区分しただけで,その地区に含まれる
山林の全ての傾斜角度,傾斜方向等について類似性があるなどと断定できるはずが
ない。
 また,土層についても,樹木の生育を左右する表土及び全土層の厚薄,不良地質
の有無等の要素を無視しては,適正,公平な評価を期待することはできないにもか
かわらず,本件各決定に係る状況類似地区区分に際して,表土及び全土層を検討,
調査した形跡が全くない。特に,地勢に違いがないにもかかわらず,雑木林が多い
地域については,土層に問題がないか調査すべきであるにもかかわらず,被告は,
そのような調査をすることもなく,その理由を所有者の林業に対する意欲の違いに
よるものと断定しているのは不当である。例えば,字軍畑に所在する本件山林1,
2の各山林は,原告らが表土及び全土層の厚さを実地調査したところ,字平溝,字
谷久保の山林に比し,表土,全土層共に浅く,土質も堅い粘土質であって,劣って
いる。
 さらに,昭和39年に状況類似地区が区分されて以降,林道整備によって,林産
物の搬出の便の状況が大きく変化し,林道周辺の山林は,経済的条件が飛躍的に伸
びているから,そのような地域については,少なくとも各基準年度において状況類
似地区の区分の変更を行うべきであるにもかかわらず,本件各決定に係る状況類似
地区区分においては,何らそのような考慮がされていない。
 なお,被告は,地勢によって状況類似地区を区分したと主張する一方で,杉・檜
の人工造林地区であるかぎり山林の利用条件は同一であるとして,樹種に着目した
状況類似地区区分を行ったかのようにも主張するが,状況類似地区の区分において
は杉と檜の違いが無視されており,他方で,青梅市では,1ヘクタール未満の檜植
栽林の価格につき,標準山林の価格に5パーセント増額補正を実施をしていること
からすると,その基準,取扱いに統一性を欠くというべきである。
ウ 状況類似地区10の状況が類似していないこと
 状況類似地区10は,字軍畑,字谷久保,字平溝,その他16の小字をまとめて
一つの状況類似地区とされているが,地勢の著しく異なる岩茸石山から2キロメー
トル,惣岳山から1キロメートルまでの地勢の急峻地域は,地勢,土層,林産物の
搬出の便等の状況が著しく異なるので,これらを同一の状況類似地区としたことは
違法である。
 そして,状況類似地区の区分は,小字ごと,又は小字の内その状況が著しく異な
るときは小字をさらに分けた地区ごとに区分すべきであり,そのようにして区分さ
れた状況類似地区ごとに標準山林を選定すべきである。
 そうすると,本件山林3ないし10の各山林を含む字谷久保は,地域性が広く,
谷久保川を挟んで2つの尾根に分かれており,それぞれ傾斜方向がほぼ同一である
ので,谷久保川の南岸と北岸で2分し,2つの状況類似地区に区分すべきであり,
その他,本件山林11ないし14の各山林を含む字平溝,字大久保,字横尾子など
の小字についても,その地勢からみて,2つの状況類似地区に区分すべきであり,
その他の各小字については,小字ごとに一つの状況類似地区として区分すべきであ
る。
エ 状況類似地区11の状況が類似していないこと
 状況類似地区11の南側の北端は標高250メートル程度の低い山々であるが,
これから南約20キロメートルの地点に標高902メートルの日の出山があり,こ
の間地勢は山々の標高が増すに従って次第に状況類似性を失い,さらに山々の標高
が700メートルを超える当たりから急峻な地勢となっており,状況類似性は著し
く異っている。また,同地区の北西側は,標高928メートルの御岳山に向かって
直線で28キロメートルの間徐々に標高を上げており,御岳山に近づくにつれて等
高線の幅が小刻みの地域,即ち急峻な地域が多くみられるので,状況類似地区11
の地域を同一の状況類似地区としたことは違法である。
 そうすると,状況類似地区11についても,小字を単位とした状況類似地区の区
分をすべきであり,字払沢入,字夏沢入,字滝本,字滝本入,字琴沢入などの小字
は,地勢,林産物の搬出の便等からみて,各小字をさらに2又は3の状況類似地区
に区分する必要がある。
オ 状況類似地区23の状況が類似していないこと
 状況類似地区23も,東西に約6キロメートル,南北に約2・5キロメートルと
いう広大な地域を含んでおり,これらを同一の状況類似地区としたことは違法であ
る。
 すなわち,状況類似地区番号23は,標高が250メートルから400メートル
程度の地域が80%を占めており,標高が500メートルを超える高地は,この地
区の西北部の一部にあるだけであるが,地勢,土層,林産物の搬出の便等の状況に
ついてみると,緩急さまざまな山が多く,山の傾斜方向はかなり複雑で一定しない
例が多くみられるなど,かなりの変化が見える。
 そうすると,状況類似地区23については,必ずしも小字ごとに59の状況類似
地区を区分する必要がないとしても,地勢,土層,搬出の便等を総合的に考慮して
2又は3程度の小字を合わせた状況類似地区に区分することは十分可能なはずであ
るから,その範囲における状況類似地区の区分をすべきである。
(2) 標準山林の評点数の付設の違法
ア 被告は,各標準山林について,評価基準が定めるとおり,売買実例価額から適
正な時価を求めるという評価手続を行っていない。
イ 確かに,山林の売買実例には山林の育成を目的として売買される事例は少ない
が,そのような場合には,売買実例価額の内容の分析,検討,確認のほか,①林道
の開発調査,②木材市況,林業者の担税力の動向調査,③農地と山林との間の評価
の均衡等に関する各種資料を収集,調査,分析,検討などにより,山林の現況を正
確に認識した上で,その評価の水準や各地域における,特に経済的条件における均
衡の維持は慎重に検討し,修正,補正に意を用いて,適正な時価を求めるべきであ
る。
 ところが,市は,昭和39年度以降,数回の基準年度があって上記修正,補正の
機会があったにもかかわらず,林道が開通しても標準山林の選別換えどころか,均
衡の修正,その他適正,公平,妥当な評価作業を一切していない。
 したがって,標準山林の評点数の付設は,評価基準に従ったものではなく,違法
である。
(3) 比準割合の誤り
ア 評価基準の定める「山林の比準表」適用の誤り
 「山林の比準表」は,山林の中央部と搬出地点との標高差を基準とした比準割合
によって,各山林の小出し(伐採した木材をトラックで運べる場所「集材場所」へ
人力,木馬やケーブル等で集材すること)費の格差を評価するものとしている。
 ところで,標準山林,比準山林の中央部の標高については,各山林の全地域が常
に同一角度ではないので,各筆の平面図の中央部と標高による中央部とは異なる場
合が多いが,評価基準は,山林の中央部と搬出地点の標高差によって,小出し作業
の難易度をも評価しようとしたものと解されるから,山林の中央部とは,山林の傾
斜角度,標高や面積を勘案した標高の中央部をいうものと解すべきである。
 このような観点からすれば,本件1ないし3,5ないし15,17の各山林の中
央部の標高については,被告主張の数値を争わないが,本件山林4の中央部の標高
は395メートルであり,本件山林16の中央部の標高は653メートルとなるべ
きである。
 また,「山林の比準表」にいう「搬出地点」とは,林産物が通常搬出される道路
がある地点であり,これには人の通行用道は含まれないものというべきである。
 ところが,本件山林1及び本件山林2の搬出地点とされているのは,幅員1・5
メートル未満の道路であり,古くは木馬等の材木の搬出に用いられた可能性はあっ
ても,到底牛馬車,そりなどの通行ができない人道であるから,本件山林1及び本
件山林2の搬出地点には誤りがあり,本件山林1及び本件山林2の各搬出地点の標
高はいずれも277メートルとなるべきである。
 その他,本件山林4,6ないし9,11ないし15,17の各山林の搬出地点の
標高については被告主張の数値を争わないが,本件山林3,本件山林5,本件山林
10,本件山林16の搬出地点については,搬出地点に林産物搬出の作業スペー
ス,集材スペースが必要である点を考慮すれば,被告主張の搬出地点は妥当ではな
く,本件山林3の搬出地点の標高は276メートル,本件山林5の搬出地点の標高
は400メートル,本件山林10の搬出地点は390メートル,本件山林16の搬
出地点の標高は410メートルとなるべきである。
イ 評価基準の定める「山林の比準表」以外の理由による補正等の必要性
a 搬出距離による比準表の作成又は比準割合の補正の必要性
 林産物の搬出は,現場の実務では,伐採した小量のものは,主として人力(近時
は可能な限りケーブル線の支線又は補助線を用いる。)によって,ケーブル本線の
搬送地点に集材し,搬出地点までいわゆる小出しを行い,搬出地点から林産物の取
引市場までトラック等によって運搬されるという仕組みになっている。
 林産物の搬出の便について,単に標高差のみで比較するとすると,全ての山林が
林道に恵まれているとは限らないので,山林によっては,林道までの搬出距離を求
めなければ妥当な評価ができないものが少なくない。
 そこで,評価基準は,山林の状況に応じて「山林の比準表」を補正することや,
場合によっては,評価基準の定める「山林の比準表」とは別に比準表を作成するこ
とも認めており,取扱通達第2章第7節30は,評価基準の定める「山林の比準
表」の比準割合にかえて,搬出地点までの勾配,距離等の状況を考慮する必要があ
るときは,搬出費用を参しゃくして,山林の中央部からその山林の搬出地点までの
距離その他の状況に応ずる比準割合を定めることを定めている。
 そして,本件各山林のうち,本件山林1,本件山林2,本件山林15,本件山林
16,本件山林17については,上記のような搬出距離に応じた補正が必要であっ
たというべきである。
 本件山林16は,山林の付近に林産物の搬出地点となるべき道路がない場合であ
るから,現実の小出しを考えた場合には,山林の中央部から搬出地点に達するまで
に800メートルの小出しを必要とするから,評価基準の定める「山林の比準表」
の比準割合をあてはめるだけでは,不当な結果となる。
 また,本件山林17は,国道には接しておらず,幅員3メートルの林道はあるも
のの長期間放置されていたことにより,相当な補修をしない限りトラックの搬送は
危険な状態であるため,約1000メートルもの間ケーブルその他の特別な方法で
林産物を搬出することが必要であるなど,国道に接している標準山林23とは,林
産物の搬出の便等が全く異なっている。
 このように,近くに公道,林道がないため相当の距離の間をいわゆる小出しをし
なければならない場合には,評価基準の定める「山林の比準表」の比準割合で評価
の均衡を図ることは到底無理である。
 ところが,被告は,このような搬出費用,搬出距離について何ら考慮していない
から,違法である。
b 山林の傾斜方向による比準割合の補正について
 我が国の人工林の大部分は建築用材となる杉・檜であるところ,杉・檜は日光の
ない場所ほど,日光を求めて曲がらずにまつすぐ伸張する特性があることから,傾
斜方向は北向きが優れているとされ,北向きよりも日当たりがよく,地面の乾燥度
が高く保水程度が劣る東,南,西は,横に枝や根を伸張させる反面,樹高の伸びは
日光のない北向きに比べて劣後する。
 ところで,評価基準においては,山林の傾斜方向の要素は,状況類似地区の区分
における地勢,標準山林の選定の場合の地形に組み込まれているので,山林の傾斜
方向による独立した減算項目はない。
 しかし,小字を単位として状況類似地区を区分したとしても,各山林の傾斜方向
は必ずしも一致しないことから,状況類似地区を適正に区分しただけでは,評価を
適切に行うことはできない。
 そこで,傾斜方向が西南の本件山林15,傾斜方向が北東の本件山林16,傾斜
方向が西である本件山林17は,それぞれ減額補正が必要である。
c その他の理由による比準割合の補正について
(a) 本件山林15の比準割合の補正について
 本件山林15は,山林上部及び山頂の地積が20パーセントあり,尾根には不良
地積が約20パーセントあるので,これらの理由による比準割合の補正が必要であ
る。
(b) 本件山林16の比準割合について
 本件山林16は,崩壊地22%,砂地5%の合計27%の不良土層部分があるか
ら,減額補正する必要があるのに,これらについて全く考慮されていないから違法
である。
(c) 本件山林17について
 本件山林17は,47パーセントが天然更新の雑木林であるから,減額補正が必
要である。
(4) 地方税法第433条違反
 被告は,納税者から地方税法432条による審査の申出を受けた場合には,その
必要と認める調査,口頭審理その他事実審査を行い,その申出を受けた日から30
日以内に審査の決定をしなければならない(地方税法433条1項)とされている
にもかかわらず,原告らに対する審査決定をしたのは,平成10年3月31日付で
ある。原告らが被告に審査申出書を提出したのは,平成9年4月28日付であるか
ら,この間1か月以上の日時を経過している。
 地方税法433条1項が審査決定に期間を設けた趣旨は,納税者の不服を長期間
放置することは,納税者の権利の保護,救済上許されないとすることにあるはずで
あるのに,被告はこれを全く無視し問題の解決を遅延させた。
したがって,本件決定は,地方税法433条1項に違反し違法である。
4 争点
 以上によれば,本件の争点は次のとおりである。
(1) 本件各決定に係る状況類似地区区分は評価基準に適合したものといえるか
否か。 (争点1)
(2) 本件各決定に係る標準山林の評点数の付設が,評価基準に適合したものと
いえるか否か。 (争点2)
(3) 本件各決定に係る比準割合は評価基準に適合したものであるか否か。 
(争点3)
(4) 本件各決定は,地方税法433条1項に反するものとして違法であるか否
か。 (争点4)
第3 当裁判所の判断
1 「適正な時価」の意義等について
(1) 固定資産税は,固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準
とすることを原則として(地方税法349条1項,349条の2),固定資産の所
有者(質権又は100年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地につ
いては,その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して(地方税法343
条1項),資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり,資産が土地
の場合には,土地の所有という事実に担税力を認めて課税するのであって,原則と
して,個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か,土地が用益権又は担
保権の目的となっているか否か,収益の帰属が何人にあるかを問わず,賦課期日に
おける所有者に対し,課税されるものである。このような固定資産税の性質からす
ると,その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(地方税法34
1条5号)とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観
的な交換価値(以下,これを「客観的時価」という。)をいうものと解すべきであ
る。
 そして,地方税法は,土地課税台帳に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日
における価格としているのであるから(地方税法349条1項),この登録価格
は,賦課期日である当該年度の初日の属する年の1月1日(本件では,平成9年1
月1日)時点を基準日として,同日における客観的時価をもって算定すべきであ
る。
(2) 適正な時価の意義を前記のように解すると,土地の適正な時価の算定は,
鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的,具体的に鑑定評価することが最
も正確な方法ということになるが,課税対象となる土地は極めて大量に存在するこ
とから,限りある人的資源により,時間的制約の下で,上記のような評価を実施す
ることが困難であることは明らかである。
 そこで,地方税法は,これらの諸制約の下における評価方法を自治大臣の定める
評価基準によらしめることとし,併せて,極めて大量の固定資産について反復,継
続的に実施される評価について,各市町村の評価の均衡を確保するとともに,評価
に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものというこ
とができる。
 もっとも,上記の評価基準は,各筆の土地を個別評価することなく,諸制約の下
において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規
定するものであり,山林の価格に影響を及ぼすべきすべての事項を網羅するもので
はないから,個別的な評価と同様の正確性を有しないことは制度上やむを得ないも
のというべきであり,評価基準による評価と客観的時価とが一致しない場合が生ず
ることも当然に予定されているものというべきである。
(3) そして,統一的な評価基準による評価によって各市町村全体の評価の均衡
を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとする地方
税法及び評価基準の趣旨に照らすと,登録価格の評定が評価基準に適合しない場合
には,仮に登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価以下であったとして
も,上記登録価格の決定は地方税法に反するものというべきである。
 他方,評価基準による評価が複数の評価要素の積み重ねを通じて結論において
「適正な時価」に接近する方法であることからすると,評価基準に定める個別的評
価要素が具体的な土地の特殊性に照らして適切さを欠くとみえる場合があるとして
も,評価基準による評価が客観的時価を超えないときは,これを違法とすることは
できないが,地方税法は,登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上
回ることまでも許容するものではないから,登録価格が賦課期日における対象土地
の客観的時価以下であると認められないときは,その限度で登録価格の決定は違法
になるというべきである。
2 争点1について
(1) 状況類似地区を区分する際に考慮すべき事情
ア 前記に述べたことからすれば,山林の適正な時価は,山林として利用する場合
における山林の売買実例価額を基準として求められるべきものであり,山林の売買
実例価額は需給関係によって形成されるものであるが,山林の需給事情が同等であ
る場合には,その価格は林木の生産力に左右される関係にあるものというべきであ
る。
 そして,林木の生産力は,おおむね,①林産物の収量の多少に直接作用する要因
となる気候,地形,土層等の自然的条件と,②労働投入量,物財投入量の大小に直
接作用する要因となる経営立地,搬出立地,市場立地等の経済的条件,③地滑り,
崩壊地等の有無等の災害条件の諸要素によって決定されるものということができ
る。
 ところで,評価基準は,前記法令の定め等記載のとおり,山林の評価方法を,①
状況類似地区を区分する,②状況類似地区ごとに標準山林を選定する,③標準山林
について,売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設する,④
標準山林の単位地積当たり評点数に,「山林の比準表」(評価基準別表第7)によ
り求めた各筆の山林の比準割合を乗じるなどによって,状況類似地区内の各筆の山
林の評点数を付設する,⑤評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の山林の価
額を求めるという標準山林比準方式によって行うことを定めている。
 そして,評価基準第1章第7節二2は,状況類似地区を区分する際には地勢,土
層,林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮することを求める一方,「山林の比
準表」(評価基準別表第7)は,原則として,①山林から林産物が通常搬出される
地点までの小出し条件を比較する指標である,「比準山林の中央部とその搬出地点
との標高差」と「標準山林の中央部とその搬出地点との標高差」との差,②比準山
林と幹線道路(幅員2・5メートル以上の自動車道,森林鉄道,固定施設としての
軌道及び筏流路をいう。以下同じ。)の距離(当該山林の林産物が通常搬出される
幹線道路の地点から林産物の主要集荷地点までの距離をいう。以下同じ。)の相
違,③比準山林と標準山林の支線道路(幹線道路以外の道路で牛馬車又はそりの通
行できる道路並びに管流路をいう。以下同じ。)の距離(当該山林の搬出地点から
幹線道路(幹線道路がないときは,林産物の主要集荷地点)までの距離をいう。以
下同じ。)の相違,の3要素のみによって比準割合を算出することを求めている。
 これらのことからすれば,評価基準は,状況類似地区を区分する際において,比
準割合算出の際に考慮される上記3要素以外の山林の価格に影響を与える諸要素を
総合的に考慮することにより,同一状況類似地区内の各山林が,上記3要素以外の
諸要素が類似したものとなるように状況類似地区を区分することを求めているとい
うべきであり,取扱通達第2章第7節27も,これと同趣旨を明らかにしたものと
解される。
 以上によれば,状況類似地区を区分する際に考慮すべき「地勢,土層,林産物の
搬出の便等」とは,①標高,傾斜角度,傾斜方向など,林産物の生育・産出量,経
営立地に影響する地形条件としての地勢,②林産物の生育に影響する土層の厚さ,
不良土層の有無,③搬出地点から幹線道路までを運搬する支線道路の粗悪度,幹線
道路の粗悪度など,評価基準別表第7「山林の比準表」では補正できない林産物の
搬出の便,④経営立地条件,災害条件,樹種,利用上の制限等,山林の価格事情に
影響を及ぼすその他の要素をいうものと解すべきである。
イa これに対し,被告は,林産物の搬出の便のうち,それぞれの山林から林産物
の搬出地点までの運搬については「山林の比準表」で補正されることになっている
ので状況類似地区の区分に際して考慮する必要がなく,搬出地点から幹線道路まで
の運搬及び幹線道路による主要出荷地点までの運搬については,本件における状況
類似地区ごとにほぼ同様な状況の幹線道路が存するので,林産物の搬出の便につい
て,状況類似地区区分において考慮する必要がないと主張する。
 しかし,各山林が林産物を搬出するために,①いかなる支線道路を使用するか
(支線道路の粗悪度),②いかなる幹線道路を使用するか(幹線道路の粗悪度),
③支線道路を使用しないで幹線道路に直接搬出できるか否かなどは,林産物の搬出
の便の良否に影響を与える要素ではあるが,山林の比準表によって補正することは
できず,また,本件各決定に係る状況類似地区ごとにほぼ同様の幹線道路が存する
というだけでは,各山林が利用する幹線道路の状況や,支線道路の状況が共通する
ことを示すものではないから,これらの点について,状況類似地区を区分する際に
考慮しておく必要があるというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
b 被告は,評価基準が地勢及び土層によって判断しようとしている山林の利用価
値ないし収益力とは,林産物の搬出の便を除けば,当該山林でいかなる種類の樹木
の生育が可能かということに帰着し,樹種に影響を与えない程度の標高,傾斜方
向,傾斜角度等の地勢,土層の違いは山林の評価においては重要性を有せず,樹種
がほぼ同じであるということは,自然的及び経済的条件が共通していることを示す
ものであると主張する。
 しかし,樹種の同一性は,状況類似性を判断する一つの要素とはなり得るとして
も,山林の価値を決する自然的条件は,通常は,いかなる種類の樹木の生育が可能
であるか否かのみによって決まるものではなく,樹木の生育状況,生産性の相違に
よっても異なるというべきであるから,樹種が同一であったとしても,直ちに,そ
の自然的条件が同一であるということはできない。
 また,地勢は,その作用によって気候条件(日照,気温等)及び土層条件とも密
接に関連することによって,林産物の生育及び産出量に大きく影響を与える自然条
件を決する要素の一つであるだけでなく,植林条件,搬出上の経費の多寡にも影響
を及ぼすことにより経済条件にも影響を与える要素であるというべきであるから,
標高,傾斜方向,傾斜角度等の地勢に大きな違いがある場合に,樹種が同一である
からといって,経済的条件が共通になるわけではないことは明らかである。
 そして,被告の上記主張は,樹種に影響を生じさせない程度の地勢の違いによる
自然的条件,経済的条件の違いは,山林の価額評価において無視できるとの主張と
も解されるが,本件において,樹種に違いを生じさせない程度の自然的条件,経済
的条件の違いは山林の価額評価に影響を与えないと認めるに足りる主張,立証はな
いし,仮に,杉・檜の人工造林が大部分を占める山林は状況が類似するとの被告の
主張を前提にするとすれば,何故,状況類似地区10,11及び23の各地区が別
の状況類似地区として区分されたのかが不明となる。
 以上によれば,被告の上記主張は採用できない。
c 被告は,地勢要素の一つである傾斜方向について,樹木の生育に適しているの
が北又は北東方向への傾斜地であるとしても,標準山林を,南西方向等の樹木の生
育に適さない傾斜方向の山林を選定すれば,傾斜方向の点で,不当に高い評価がさ
れるという事態は回避できるのであるから,状況類似地区の区分においては,傾斜
方向を考慮する必要がない旨主張している。
 しかし,状況類似地区11の標準山林11の傾斜方向は北西方向であるなど(乙
11,28の13,30の3),青梅市で行われた標準山林の選定の際において,
現実に,傾斜方向を考慮して標準山林が選定された形跡は窺われないから,上記被
告の主張は前提を欠いており,採用できない。
(2) 評価基準は,前記法令の定め等記載のとおり,状況類似地区を,小字の区
域ごとに認定するものとし,相互に状況が類似していると認められる小字の区域
は,これらを合わせ,小字の区域内において当該状況が著しく異なると認められる
ときは,当該状況が異なる地域ごとに区分するものとすると定めている。
 このように評価基準が小字を単位として状況類似地区を区分することを原則とし
たのは,小字の区域内においては,山林の評価に影響を与える諸要素が類似してい
ることが多く,課税事務上の便宜なためであると解され,複数の小字を一つの状況
類似地区として区分することを評価基準自体も許容しているから,地勢,土層,林
産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮した上で,比準割合算出の際に考慮される
要素を除き,山林の評価に影響を与える諸要素の状況が類似していると認められる
場合には,複数の小字を一つの状況類似地区として区分することは評価基準に反し
ないものというべきであるが,上記諸要素の状況が類似していると認められない場
合にまで,複数の小字を一つの状況類似地区として区分することは,評価基準に適
合しないというべきである。
 ところが,本件各決定に係る状況類似地区の区分は,小字を単位として行われて
おらず,状況類似地区10は19の小字を,状況類似地区11は15の小字を,状
況類似地区23は59の小字をそれぞれ合わせて一つの状況類似地区として区分さ
れている。
 この点,被告は,これらの各状況類似地区内は,それぞれその状況が類似してい
るから,小字を単位とせずに複数の小字をまとめて一つの状況類似地区として区分
したことに,評価基準に反する点はないと主張する。
 そこで,前述した観点からみて,各状況類似地区内の各山林の状況が類似してい
るか否かについて具体的に検討する。
(3)各項末尾に掲げた証拠等によれば以下の事実が認められる。
ア 状況類似地区10について
a 状況類似地区10は,多摩川,平溝川,惣岳尾根とに囲まれた地区であり,同
地区内には,惣岳山(標高751メートル)があるほか,谷久保川と青渭川が流
れ,概ね北西から南東に向かってまっすぐ伸びた尾根(以下「尾根10の1」とい
う。),概ね北西から南東に向かってまっすぐ伸びた尾根(以下「尾根10の2」
という。),概ね北から南に向かってまっすぐ伸びた尾根(以下「尾根10の3」
という。)の3つの尾根が存在している。
 そして,これらの各尾根を中心に形成されている各斜面を大局的にみると,尾根
10の1の一方の斜面は,概ね北東向きに,尾根10の1のもう一方の斜面は概ね
南西向きに,尾根10の2の一方の斜面は概ね北東向きに,尾根10の2のもう一
方の斜面は南西向きに,尾根10の3の一方の斜面は概ね東向きに,尾根10の3
のもう一方の斜面は概ね西向きに形成されている。 (乙1,4)
b 状況類似地区10には,字平溝,字軍畑,宇関谷等別表2の「字名」欄に記載
された19の小字が存在し,このうち,字宮の腰,字鶴石,字大場戸,字大曲ヶ
目,字栃ノ音,字岩岳を除く13の小字に山林が所在する。
 上記13の各小字には,別表2の「①筆数(山林)」欄に記載された各筆数,同
表の「②面積(山林)」欄に記載された各面積の山林が存在する。
 本件山林1及び2の各山林は字軍畑に,標準山林1及び本件山林3ないし9の各
山林は字谷久保に,本件山林10ないし14の各山林は字平溝に所在する。 (当
事者間に争いのない事実)
c 上記13の各小字の各字内の最高標高地点の標高,最低標高地点の標高は,そ
れぞれ,別表2の「③最高標高」欄,「④最低標高」欄に記載のとおりであり,最
高標高が最も高いのは字惣岳山の751メートルであり,最低標高が最も低いの
は,字軍畑の190メートルである。 (当事者間に争いのない事実)
d 上記13の各小字について,2500分の1の地形図をもとに,100メート
ル四方の升目を入れ,升目ごとに傾斜方向付けをし,集計した結果による傾斜方向
は,別表2の「⑦傾斜方向」欄記載のとおりである。 (当事者間に争いのない事
実)
e 上記13の各小字について,字内の搬出道路について,200メートルごとに
搬出地点を設定し,その搬出地点と字境とを結んだ箇所の標高差と距離から傾斜角
度を算出し,角度分類別に計測地点数を記した結果(ただし,最終搬出地点より奥
の山林の傾斜角度計測については,最終搬出地点と200メートルごとに字境を結
んだ箇所の標高差と距離から算出し,字内に搬出地点がない場合も,最も近くの搬
出地点から一定距離ごとに字境を結んだ箇所の標高差と距離から傾斜角度を算出
し,200メートル単位では計測しがたい場合は100メートル単位としてい
る。)は,別表2の「⑧傾斜角度」欄記載のとおりである。 (当事者間に争いの
ない事実)
f 上記13の各小字について,平成9年1月時点の航空写真により,100メー
トル四方の升目を単位に判定した樹種の状況は,別表2の「⑩樹種」欄記載のとお
りである。 (当事者間に争いがない事実)
g 状況類似地区10の表層地質は川井層であり,そのほとんどが砂岩・頁岩であ
るものの,一部チャートの部分もあり,特に字惣岳山の地質のほとんどはチャート
となっている。 (乙27の3)
イ 状況類似地区11について
a 状況類似地区11は,α,愛宕尾根,築瀬尾根,多摩川とに囲まれた地区であ
り,同地区内には,御岳山(標高921メートル)があり,大沢川,琴沢入川,夏
沢,払沢の小河川が流れているほか,南から北に向かい伸び,さらに北西方向にや
や曲がって伸びた尾根(以下「尾根11の1」という。),概ね南から北に向かっ
てまっすぐ伸びた尾根(以下「尾根11の2」という。),概ね南西から北東に向
かって伸びた尾根(以下「尾根11の3」という。)の3つの尾根が存在してい
る。
 尾根11の1,尾根11の2及び尾根11の3はいずれも複雑な斜面を形成して
おり,斜面の向きは,必ずしも一様ではないものの,概ね北東を中心とする方向に
向かって形成されている部分が多い。 (乙1,4)
b 状況類似地区11には,字矢崎,字払沢入,字払沢等別表3の「字名」欄に記
載された15の小字が存在する。
 上記15の各小字には,別表3の「①筆数(山林)」欄に記載された各筆数,同
表の「②面積(山林)」欄に記載された各面積の山林が存在する。
 標準山林11は,字琴沢入に,本件山林15は字夏沢入に,本件山林16は字滝
本入にそれぞれ所在する。 (当事者間に争いのない事実)
c 上記15の各小字の各字内の最高標高地点の標高,最低標高地点の標高は,そ
れぞれ,別表3の「③最高標高」欄,「④最低標高」欄に記載のとおりであり,最
高標高が最も高いのは字円山の929メートルであり,最低標高が最も低いのは,
字矢崎の206メートルである。 (当事者間に争いのない事実)
d 上記15の各小字について,2500分の1の地形図をもとに,100メート
ル四方の升目を入れ,升目ごとに傾斜方向付けをし,集計した結果による傾斜方向
は,別表3の「⑦傾斜方向」欄記載のとおりである。 (当事者間に争いのない事
実)
e 上記15の各小字について,字内の搬出道路について,200メートルごとに
搬出地点を設定し,その搬出地点と字境とを結んだ箇所の標高差と距離から傾斜角
度を算出し,角度分類別に計測地点数を記した結果(ただし,最終搬出地点より奥
の山林等,前記で計測しがたいときには,搬出地点と200メートルごとに字境等
を結んだ箇所の標高差と距離から算出し,200メートル単位では計測しがたい場
合は100メートル単位としている。)は,別表3の「⑧傾斜角度」欄記載のとお
りである。 (当事者間に争いのない事実)
f 上記15の各小字について,平成9年1月時点の航空写真により,100メー
トル四方の升目を単位に判定した樹種の状況は,別表3の「⑩樹種」欄記載のとお
りである。 (当事者間に争いのない事実)
g 状況類似地区11の地区内には棚沢星竹断層が走り,同断層の北東側の表層地
質は川井層であるが,同断層の南西側は海沢層である。字裏山の全部と字円山の多
くの部分,字富士峰の一部分は上記海沢層であり,その他の小字は川井層である。
状況類似地区11の地区内の海沢層の部分はほぼ砂岩・頁岩であり,同地区内の川
井層の部分は,その多くが砂岩・頁岩であるが,チャートの部分,塩基性火山岩の
部分,石灰岩の部分も含まれている。 (乙28の3)
ウ 状況類似地区23について
a 状況類似地区23は,雷電尾根,北小曾木尾根,小曾木尾根に囲まれた地区で
あり,同地区内には,永栗ノ峰(標高633メートル),三方山(標高454メー
トル)があり,栗平沢,正沢等の小河川が流れている。
 状況類似地区23内の斜面方向を大局的にみると,雷電尾根によって形成されて
いる斜面は概ね北東向き,北小曽木尾根によって形成されている斜面は概ね南西向
き,小曾木尾根によって形成されている斜面は概ね北西向きとなっているが,これ
ら各尾根が様々な方向に摺曲しているため,斜面の向きも必ずしも一様なものでは
ない。 (乙1,4)
b 状況類似地区23には,字竹ノ入,字吹上,字坂下等別表4の1ないし4の
「字名」欄に記載された59の小字が存在する。
 上記59の各小字には,別表4の1ないし4の「①筆数(山林)」欄に記載され
た各筆数,同表の「②面積(山林)」欄に記載された各面積の山林が存在する。 
(当事者間に争いのない事実)
c 上記59の各小字の各字内の最高標高地点の標高,最低標高地点の標高は,そ
れぞれ,別表4の1ないし4の「③最高標高」欄,「④最低標高」欄に記載のとお
りであり,最高標高が最も高いのは字永栗の634メートルであり,最低標高が最
も低いのは,字竹ノ入の158メートルである。 (当事者間に争いのない事実)
d 上記59の各小字について,2500分の1の地形図をもとに,100メート
ル四方の升目を入れ,升目ごとに傾斜方向付けをし,集計した結果による傾斜方向
は,別表4の1ないし4の「⑦傾斜方向」欄記載のとおりである。 (当事者間に
争いのない事実)
e 上記59の各小字について,字内の搬出道路について,200メートルごとに
搬出地点を設定し,その搬出地点と字境とを結んだ箇所の標高差と距離から傾斜角
度を算出し,角度分類別に計測地点数を記した結果(ただし,最終搬出地点より奥
の山林等,前記で計測しがたいときには,搬出地点と200メートルごとに字境等
を結んだ箇所の標高差と距離から算出し,200メートル単位では計測しがたい場
合は100メートル単位としている。)は,別表4の1ないし4の「⑧傾斜角度」
欄記載のとおりである。 (当事者間に争いのない事実)
f 上記59の各小字について,平成9年1月時点の航空写真により,100メー
トル四方の升目を単位に判定した樹種の状況は,別表4の1ないし4の「⑩樹種」
欄記載のとおりである。 (当事者間に争いのない事実)
g 状況類似地区23の地区内には北小曽木断層及び名栗断層があり,北小曽木断
層の北東側は成木層(ごく一部に段丘礫層関東ローム層を含む。)同断層の南西側
は雷電山層(ごく一部に段丘礫層関東ローム層を含む。),名栗断層の西側は高水
山層である。同地区の成木層の大部分は砂岩・頁岩・塩基性火山岩であるが,中に
は石灰岩の部分,チャートの部分がある。同地区の雷電山層の大部分は砂岩・頁
岩・塩基性火山岩であるが,中には石灰岩の部分,チャートの部分,礫岩の部分が
ある。同地区の高水山層の部分は,砂岩・頁岩・塩基性火山岩の部分とチャートの
部分がある。 (乙29の3)
エ 青梅市では,昭和39年度に,本件各決定に係る状況類似地区と全く同様23
の状況類似地区に区分されて以降,状況類似地区の区分は全く変更されていない。
 他方,青梅市では,昭和39年以降,山林の林道整備が進められてきた。 (弁
論の全趣旨)
(4) 以上の事実を前提に以下検討する。
ア 状況類似地区10の状況類似性
a まず,状況類似地区10の地勢の類似性についてみると,上記認定事実によれ
ば,同地区には,2つの川と3つの尾根があり,山麓に位置する山林や頂上に位置
する山林が混在しているため,同地区内の最高標高地点と最低標高地点との標高差
は561メートルに及び,傾斜方向も様々なものがあるほか,傾斜角度も15度未
満の部分から40度以上のものまで含んでいることが認められる。
 そして,同地区内の小字ごとの相違をみると,上記認定事実によれば,標高につ
いては,例えば字惣岳山が最高標高751メートル・最低標高624メートルであ
るのに対し,字関谷は最高標高338メートル・最低標高192メートルであるな
ど,各小字によって,大きく異なる特徴を示していること,傾斜方向についても,
字平溝及び字日影谷の傾斜方向が,東から北にかけての斜面の割合がいずれも86
パーセント以上であるのに対し,字塚瀬,字大平,字中風呂,字丹縄及び字横尾の
傾斜方向は,東南から西にかけての斜面の割合がいずれも87パーセント以上であ
るなど,各小字ごとに一定の特徴を示していることが認められる。
 なお,上記認定事実によれば,樹種の点で,雑木の割合が15パーセントを超え
る小字の地勢をみると,字惣岳山は,山頂の部分であって,標高が最も高い小字で
あり,字塚瀬,字中風呂及び字横尾は,東南から西にかけての斜面の割合が87パ
ーセント以上である小字であり,字軍畑は,傾斜角度の平均が16・9パーセント
と緩やかであって,傾斜方向も東から南西にかけての斜面が87パーセント以上で
あるなど,その地勢に一定の特徴を有していることも窺われる。
 これらによれば,状況類似地区10は,地勢の点からみて,同地区内の13の各
小字相互に状況が類似していると認めることは困難である。
 また,上記認定事実によれば,状況類似地区10は,「一つの状況類似地区の標
高差の範囲は概ね500メートル未満とする」との被告主張の基準をも満たしてい
ないことも認められる。
 これに対し,被告は,状況類似地区10は,杉・檜を主体とした人工造林地区で
あって,山林の利用条件に違いはないから,状況類似地区を区分しなければならな
いほどの標高,傾斜方向の違いはみられないと主張するが,樹種が同一であるから
といって,山林の利用条件が同一といえないことについては,前記に述べたとおり
であるから,被告の上記主張は失当である。
 また,被告は,標準山林の傾斜方向が南西方向であるのに対して,原告らが状況
類似地区10の地区内に所有する山林のうち9筆は北又は北東方向への傾斜方向の
山林であり,残り5筆は南西あるいは南東方向ものであるから,樹木の生育に適し
た北又は北東方向への傾斜方向の山林について,評価額を引き上げる補正をしなけ
ればならないことになり,原告らには傾斜方向についての主張をする法律上の利益
がないと主張する。
 しかし,原告らは,評価基準に従って決定された価額に基づく納税義務を負って
いるのであって,評価基準によれば,状況類似地区の区分は傾斜方向,傾斜角度,
標高といった地勢,土層,林産物の搬出の便等を総合的に考慮して状況が類似して
いるか否かを判断して行なわれるものであり,必ずしも評価基準に従って状況類似
地区が区分された場合には本件各山林の価格が本件各決定による価格を上回るとは
限らないのであるから,原告らには,傾斜方向も含めて状況類似地区区分が評価基
準に従って行われたものであるかどうかについて主張する法律上の利益(行政事件
訴訟法10条1項)があるというべきである。
b 次に,土層について検討すると,上記認定事実によれば,状況類似地区10
は,土質の異なる部分を含むことが認められるが,本件全証拠によっても,表土,
全土層等の土層の厚さが類似しているか否かは不明である。
 また,土層と密接な関係があるといわれる地勢について状況類似性が認められな
いことは前記のとおりである。
 そうすると,状況類似地区10が,土層の点からみて,同地区内の13の各小字
相互に状況が類似していると認めるに足りる証拠はないというほかない。
c さらに,林産物の搬出の便についてみると,状況類似地区10には,標準山林
10,本件山林6ないし9の各山林などのように,支線道路を使用しなければ幹線
道路に搬出できない山林がある一方,本件山林3,4,10ないし14の各山林の
ように直接幹線道路に林産物を搬出できる山林が存することが認められる(弁論の
全趣旨)。
 そして,支線道路を利用する山林については,その距離に応じて「山林の比準
表」によって補正することが可能であるが,そもそも,支線道路を利用しなければ
ならない山林と直接幹線道路を搬出地点とする山林とでは林産物の搬出の便を大き
く異にするというべきである。
 しかも,上記認定事実によれば,青梅市においては昭和39年度以降,林道整備
が進められてきたと認められるが,本件各決定に係る状況類似地区区分に際して,
状況類似地区10の地区内における支線道路,幹線道路の道路事情の変化に応じ
て,各山林が,どのような支線道路及び幹線道路を使用して搬出されているのか,
それらの道路の粗悪度が全て同程度であるか否かについて考慮された形跡は窺われ
ない。
 そうであるとすれば,状況類似地区10は,林産物の搬出の便の点からみて,同
地区内の13の各小字相互に,その状況が類似していると認めるに足りる証拠はな
いというほかない。
 これに対し,被告は,林道と山林の関係は搬出距離で考慮することができるので
あり,林道の新設が直ちに別の状況類似地区の設定と結びつくわけではないと主張
するが,林産物の搬出の便は,搬出距離のみを考慮すれば足りるものではなく,支
線道路及び幹線道路の粗悪度等,林道の質にも影響を受けるものであり,これらの
道路事情は,状況類似地区区分において考慮すべきこととされていることは前記の
とおりであるから,被告の上記主張は失当である。
d 以上によれば,状況類似地区10は,地勢,土層,林産物の搬出の便等を総合
的に考慮すると,同地区内の13の各小字相互に状況が類似しているとは認めるこ
とはできない。
イ 状況類自治区11について
a まず,状況類似地区11の地勢の類似性についてみると,上記認定事実によれ
ば,同地区には,4つの川ないし沢と3つの尾根があり,山麓に位置する山林や頂
上に位置する山林が混在しているため,同地区内の最高標高地点と最低標高地点と
の標高差は723メートルに及び,傾斜方向も様々なものがあるほか,傾斜角度も
15度未満の部分から40度以上のものまで含んでいることが認められる。
 そして,同地区内の小字ごとの相違をみると,上記認定事実によれば,標高につ
いては,例えば字富士峰が最高標高920メートル・最低標高666メートル,字
円山が最高標高929メートル・最低標高723メートル,字裏山が最高標高91
4メートル・最低標高694メートルであるのに対し,字集峡戸は最高標高406
メートル・最低標高212メートル,字中野は最高標高362メートル・最低標高
215メートル,字琴沢は最高標高353メートル・最低標高280メートルであ
るなど,各小字によって大きく異なる特徴を示しているほか,同地区の小字の中に
は,字夏沢入及び字琴沢入などのように,一つの小字の中の最高標高と最低標高の
高低差が600メートルを超えるようなものもあること,傾斜方向については,同
地区全体として東から北西にかけての斜面の割合の高い小字が多いと認められるも
のの,東南から西にかけての斜面の割合が50パーセントを超える小字(字矢崎,
字滝本,字南御坂)もあるなど,小字ごとにある程度の特徴を示していること,傾
斜角度についても,字円山,字裏山及び字南御坂では,傾斜角度が15度未満の地
点が3地点あって平均斜度がいずれも概ね15度以下であるなど,特徴的な状況を
示す小字も存することが認められる。
 なお,上記認定事実によれば,樹種の点で,雑木の割合が30パーセントを超え
る字富士峰,字円山及び字裏山の地勢をみると,これらの各小字は,いずれも標高
が高い,傾斜角度が緩やかであるなどの特徴を有していることが窺われる。
 これらによれば,状況類似地区11は,地勢の点からみて,同地区内の15の各
小字相互に,その状況が類似していると認めることは困難である。
 また,上記認定事実によれば,状況類似地区11は,「概ね800メートル未満
と800メートル以上の部分に区分する。」,「一つの状況類似地区の標高差の範
囲は概ね500メートル未満とする。」,「傾斜角度が多様な場合については15
度未満,15度以上40度未満,40度以上に区分している。」などの被告主張の
基準をも満たしていないことも認められる。
 これに対し,被告は,状況類似地区11は,林業経営に対する個人的意欲の違い
に起因すると見られる樹種の違いを除けば,杉・檜を主体とした人工造林地区であ
って山林の利用条件に違いはないから,状況類似地区を区分しなければならないよ
うな地勢の違いはないと主張するが,樹種の違いを林業経営に対する個人的意欲の
違いによるものと認めるに足りる証拠はなく,かえって,樹種の違いは地勢の相違
との関連を窺わせている状況も認められるから,被告の主張は,その前提において
すでに失当であるほか,樹種が同一であれば山林の利用条件に違いがないとの主張
が採用できないことは,既に述べたとおりである。
 また,被告は,仮に,状況類似地区11を一つの状況類似地区としたことが評価
基準に適合しないとしても,樹種の著しく異なる字裏山,字円山及び字富士峰と標
高が高く緩やかな傾斜地が多い字南御坂だけを別の状況類似地区とすれば足り,そ
れによって原告ら所有の山林の評価には影響がないとも主張するが,字富士峰,字
円山,字裏山,字南御坂以外の各小字についても,その地勢に違いがみられるの
で,被告の主張は,前提を欠いており失当である。
b 次に,土層について検討すると,上記認定事実によれば,状況類似地区は,土
質の異なる部分を含むことが認められるものの,本件全証拠によっても,表土,全
土層等の土層の厚さが類似しているか否かは不明である。
 また,土層と密接な関係があるといわれる地勢について状況類似性が認められな
いことは前記のとおりである。
 そうすると,状況類似地区11が,土層の点からみて,同地区内の15の各小字
相互に状況が類似していると認めるに足りる証拠はないというほかない。
c さらに,林産物の搬出の便についてみると,状況類似地区11には,標準山林
11のように直接幹線道路に林産物を搬出できる山林がある一方,本件山林15の
ように,支線道路を使用しなければ幹線道路に搬出することができない山林も存す
る。また,本件山林16も,その搬出地点を,被告が主張するように大沢川沿いの
市道沢κ線(以下「κ線」という。)に求めるとすれば,κ線は支線道路であるか
ら,支線道路を使用しなければ幹線道路に搬出することができないことになる(弁
論の全趣旨)。
 しかも,青梅市においては昭和39年度以降,前記のとおり,林道整備が進めら
れてきたことが認められるが,本件各決定に係る状況類似地区区分に際して,状況
類似地区11の地区内における支線道路,幹線道路の道路事情の変化に応じて,各
山林が,どのような支線道路及び幹線道路を使用して搬出されているのか,それら
の道路の粗悪度が全て同程度であるか否か等について考慮された形跡は窺われな
い。
 そうであるとすれば,状況類似地区11は,林産物の搬出の便の点からみて,同
地区内の15の各小字相互にその状況が類似していると認めるに足りる証拠はない
というほかない。
d 以上によれば,状況類似地区11は,地勢,土層,林産物の搬出の便等を総合
的に考慮すると,同地区内の15の各小字相互に状況が類似していると認めること
はできない。
ウ 状況類似地区23について
a まず,状況類似地区23の地勢の類似性についてみると,上記認定事実によれ
ば,同地区には2つの小河川と3つの尾根があり,山麓に位置する山林や頂上に位
置する山林が混在しているため,同地区内の最高標高地点と最低標高地点との標高
差は476メートルあり,傾斜方向も様々なものがあるほか,傾斜角度も15度未
満の部分から40度以上のものまで含んでいることが認められる。
 そして,同地区内の小字ごとの相違をみると,上記認定事実によれば,標高につ
いては,例えば,字永栗が最高標高634メートル・最低標高373メートルであ
るのに対し,字坂下は最高標高296メートル・最低標高172メートル,字白谷
は最高標高296メートル・最低標高167メートル,字蜆沢は最高標高296メ
ートル・最低標高176メートル,字日影蜆沢は最高標高288メートル・最低標
高176メートルであるなど,各小字によって異なる特徴を示していること,傾斜
方向についてみると,様々な傾斜方向を有する小字が多いものの,東から北西にか
けての斜面の割合が80パーセントを超える小字(字竹ノ入,字堂ノ入,字日影蜆
沢,字吹上入,字桑久保,字臼之沢,字大細入,字南沢,字中野,字からかい,字
向立ヶ谷,字大久保,字すけ沢,字古庵沢,字一里久保,字ふしき,字堂淵,字山
下入)や,東南から西にかけての斜面の割合が80パーセントを超える小字(字坂
下,字蜆沢,字赤新田,字漆尾,字細久保,字古久女久保,字立ヶ谷,字夕倉,字
さかん沢,字めうが)などがあるなど,特徴的な状況を示す小字も存すること,傾
斜角度についても,平均斜度が15度未満の小字(字吹上入,字野間倉,字大細
入,字南沢,字からかい,字大久保,字すけ沢,字鈴山,字さかん沢)がある一
方,平均斜度が30度を超える小字(字吹上,字細久保)もあるなど,特徴的な状
況を示す小字も存することが認められる。
 これらによれば,状況類似地区23は,地勢の点からみて,同地区内の59の各
小字相互に状況が類似していると認めることは困難である。
 また,上記認定事実によれば,状況類似地区23は,「傾斜角度が多様な場合に
ついては15度未満,15度以上40度未満,40度以上に区分している。」との
被告主張の基準も満たしていないことが認められる。
 これに対し,被告は,状況類似地区23は,林業経営に対する個人的意欲の違い
に起因する樹種の違いが一部みられるほかは,杉・檜を主体とした人工造林地区で
あって山林の利用条件に違いはないから状況類似地区を区分する必要があるような
地勢の違いはないと主張するが,被告の上記主張が失当であることは既にイaに述
べたのと同様である。
b 次に,土層について検討すると,上記認定事実によれば,状況類似地区23
は,土質の異なる部分を含むことが認められるが,本件全証拠によっても,表土,
全土層等の土層の厚さが類似しているか否かは不明である。
 また,土層と密接な関係があるといわれる地勢について状況類似性が認められな
いことは前記のとおりである。
 そうすると,状況類似地区23が,土層の点からみて,同地区内の59の各小字
相互に状況が類似していると認めるに足りる証拠はないというほかない。
c さらに,林産物の搬出の便についてみると,状況類似地区23には,標準山林
23のように直接幹線道路に林産物を搬出できる山林がある一方,本件山林17の
ように支線道路を使用しなければ幹線道路に林産物を搬出できない山林も存するこ
とが認められる(弁論の全趣旨)。
 しかも,前記のとおり,青梅市においては昭和39年度以降,林道整備が進めら
れてきたことが認められるが,本件各決定に係る状況類似地区区分に際して,状況
類似地区23の地区内における支線道路,幹線道路の道路事情の変化に応じて,各
山林が,どのような支線道路及び幹線道路を使用して搬出されているのか,それら
の道路の粗悪度が全て同程度であるか否か等について考慮された形跡は窺われな
い。
 そうであるとすれば,状況類似地区23は,林産物の搬出の便の点からみて,同
地区内の59の各小字相互にその状況が類似していると認めるに足りる証拠はない
というほかない。
d 以上によれば,状況類似地区23は,地勢,土層,林産物の搬出の便等を総合
的に考慮すると,同地区内の59の各小字相互に状況が類似しているとは認めるこ
とはできない。
(5) 結論
 以上のとおり,本件各決定に係る状況類似地区の区分は,地勢,土層,林産物の
搬出の便等の観点からみて,相互に当該状況が類似しているとは認められない複数
の小字をまとめて一つの状況類似地区として区分した点において,評価基準に適合
しない違法があるというべきである。
3 争点2について
 前記のとおり,本件各決定に係る状況類似地区の区分が評価基準に適合している
ものとはいえないから,各状況類似地区ごとに選定されるべき標準山林の選定も,
評価基準に適合したものということはできないことになる。
 そうであるとすれば,本件各決定は,これらの点において既に違法であり,いず
れも取り消されるべきものというべきであるが,原告らは,標準山林に対する評点
数の付設方法も評価基準に従っていない違法があると主張し,原告らが違法である
と主張する点は,個別の標準山林に対する評点数付設固有の違法ではなく,標準山
林に対する評点数付設方法一般に関するものであるので,この点についてもさらに
判断をする。
 前記法令の定め等記載のとおり,評価基準によれば,標準山林の評点数の付設
は,①売買山林の売買実例価額について,その内容を検討し,正常と認められない
条件がある場合においては,これを修正して,売買山林の正常売買価格を求め,②
当該売買山林と標準山林の位置,地形,土層,林産物の搬出の便等の相違を考慮
し,売買山林の正常価格から標準山林の適正な時価を評定し,その際,基準山林と
の評価の均衡及び標準山林相互間の評価の均衡を総合的に考慮するという方法によ
って行うことを定めている。
 ところが,標準山林10,11,23の各山林に対する評点数の付設は,昭和3
9年度に選定した標準山林をそのまま維持し(状況類似地区23については,従前
の標準山林が採石場となったため,平成3年度以降,標準山林23を標準山林とし
ている。)の評価額に一定倍率を乗じたものをもって各評価年における評価額と
し,平成6年度の評価においては,平成3年度の評価額のままで据え置き,平成9
年度においてもその価格を据え置くという方法によって行われ,その結果,標準山
林10の1平方メートル当たりの評価額が36・75円,標準山林11の1平方メ
ートル当たりの評価額が38・70円,標準山林23の1平方メートル当たりの評
価額が32・40円とされている。
 この点について,被告は,形式的には評価基準の定めと異なる方法によって標準
山林の評点数を付設していることにはなるが,平成9年度の評価について参照され
るべき山林の売買実例は7件にすぎず,全ての状況類似地区に山林の売買実例があ
るわけでもないから,売買実例価額を基準として適正な時価を求めることは現実に
は不可能であるところ,昭和39年度以降,青梅市においては林道の整備が進めら
れてきたものの,地形や土層等には特段の変動がないこと,基準山林である標準山
林11の評価額は,東京都知事が青梅市における基準山林の「適正な時価」として
調整した価額(1000平方メートル当たり3万8700円)と一致することに照
らせば,評価基準と異なる方法であっても,評価の均衡は保たれており,標準山林
の評点数の付設は適正に行われていると主張する。
 しかし,評価基準は,前記のとおり,「標準山林の位置,地形,土層,林産物の
搬出の便等の相違を考慮した上で,売買山林の正常売買価格から標準山林の適正な
時価を評定する」としていることからすれば,各状況類似地区ごとに売買実例が存
せずとも,青梅市内の売買実例から各標準山林の適正な時価を評定することは不可
能ではないというべきである。
 そして,証拠(乙8)によれば,青梅市内には,平成9年度の評価において参照
可能な7件の山林の売買実例があったことが認められるから,これらの売買実例に
ついて,正常と認められない条件があるか否かについて検討せずに,評価基準によ
らない方法をとることは許されないというべきである。
 また,上記の点を措くとしても,昭和39年度に行われた評価が適正であったの
か否か自体必ずしも明らかではない上,被告も認めるとおり,昭和39年以降,青
梅市においては林道整備が進められてきたのであるから,それによって,林産物の
搬出の便の良否の点で,山林の評価に大きな影響があることは明らかであるにもか
かわらず,各標準山林の評点数付設に際して,林道整備の有無を確認,考慮した形
跡が全くないことからすれば,昭和39年度の評価額に一定の倍率を乗じるという
手法による評点数付設に合理性があるとは認められない。
 以上によれば,標準山林10,11,23の各山林に対する評点数の付設は,評
価基準の定めに従って行われたとは認められず,その手法に合理性があると認める
こともできないから,評価基準に適合しない違法があるというべきである。
4 争点3について
(1) 「山林の比準表」の適用における評価基準適合性
ア 原告らは,本件各山林を標準山林に比準して本件各山林の評点数を付設するに
際しての比準割合が誤っているとも主張し,その根拠として,本件山林1ないし
3,5,10,16の各山林の「搬出地点の標高」と本件山林4,16の各山林の
「山林の中央部の標高」に誤りがあると主張しており,これらは,状況類似地区区
分,標準山林選定,標準山林に対する評点数とは独立した違法事由であるので検討
する。
イ 「山林の中央部の標高」について
 原告は,山林の傾斜角度,標高,面積を勘案して「山林の中央部の標高」を決す
るべきであると主張するのに対し,被告は,図面上の中央部の標高をもって「山林
の中央部の標高」と決すれば足りると主張する。
 そこで,検討するに,「山林の中央部の標高」をどのように決すべきかについて
は,評価基準,取扱通達のいずれにも定められていないことからすれば,各地方公
共団体の実情に応じた市町村長の裁量的判断に委ねられているものと解すべきであ
り,その取扱いが評価基準の適用における一般的合理性を害しない時は,評定され
た山林の価格が客観的時価の範囲内にあり,その取扱いによって著しい不均衡が生
じない限りは評価基準に適合したものというべきである。
 そして,比準山林の傾斜角度,標高,面積は各山林ごとに様々であるのが普通で
あるから,原告が主張するように,大量の山林の全てについて傾斜角度,標高,面
積等を一つ一つ勘案して「山林の中央部の標高」を決することは,現実的ではな
く,図面の中央部の標高をもって「山林の中央部の標高」とすることには合理性が
あり,また,それによって,その評価に著しい不均衡を生じさせるものとはいえな
い。
 したがって,本件山林4及び16の各山林の各決定に係る「山林の中央部の標
高」は,評価基準に適合したものと認められる。
ウ 「搬出地点の標高」について
 原告らは,本件山林1及び本件山林2の搬出地点とされている市道沢λ線(以下
「λ線」という。)は,幅員1・5メートル未満の木馬等が通行可能な程度の人道
にすぎず,支線道路又は幹線道路のいずれにも当たらないから,本件山林1及び2
の各山林に係る決定は,「搬出地点の標高」に誤りがあると主張する。
 そこで,検討するに,「山林の比準表」によれば,「搬出地点の標高」とは,
「林産物が通常搬出される支線道路(支線道路がなく直接幹線道路に搬出されると
きは幹線道路)の地点」によるものとされ,「支線道路」とは,「幹線道路以外の
道路で牛馬車又はそりの通行できる道路並びに管流路」をいうとされているとこ
ろ,本件全証拠によっても,λ線が牛馬車又はそりの通行できる道路であると認め
るに足りる証拠はない。
 したがって,本件山林1,2の各山林に係る各決定は,搬出地点の標高に誤りが
あり,評価基準に適合せず違法というべきである。
 その他,原告らは,本件山林3,5,10,16の各山林について,作業スペー
ス,集材スペースの観点から,上記各山林に係る各決定は,「搬出地点の標高」に
誤りがあるとも主張するが,評価基準及び取扱通達において,搬出地点となる支線
道路に作業スペース,集材スペースがあるか否かを考慮すべきことを窺わせる規定
はなく,また大量の比準山林に係る全ての搬出地点について,作業スペース,集材
スペースを考慮して決することは現実的でもないこと,証拠(乙31の1,3,
4,5,6)によれば,上記各山林の搬出地点として被告主張の各地点にも合理性
があると認められることから,原告らの上記主張は採用できない。
(2) 比準割合の補正等の必要性の有無
 原告らは,本件山林16について,崩壊地や砂地が存在するので不良土層を理由
とする比準割合の補正が必要であると主張するが,証拠(乙32の4)によれば,
本件山林16の地積3万6892平方メートルに対し,原告らが崩壊地であると主
張する部分の地積はおよそ854平方メートルに留まり,割合にして2・3パーセ
ント程度にすぎないことが認められるから,崩壊地が存することにより比準割合の
補正を要するとまでは認められないというべきである。
 さらに,原告らは,各山林から林道までの距離,傾斜方向,山頂・山林上部の地
積の割合,樹種雑木林である割合などによっても比準割合を補正し,あるいは,別
途比準表を作成する必要があるとも主張する。
 しかし,既に述べたとおり,本件各決定に係る状況類似地区の区分が評価基準に
適合せず,本件各決定を全体として取消し,被告において改めて状況類似地区の区
分をやり直すことが相当と判断されることからすれば,本件各決定に係る状況類似
地区の区分を前提に比準割合の補正の要否あるいは別途の比準表の作成の要否を論
じても意味がなく,また,状況類似地区がどのように区分されるかがわからない段
階で,比準割合の補正の要否あるいは別途の比準表作成の要否を判断することは不
可能というほかないから,原告らの上記主張を判断する必要はないというべきであ
る。
第4 結論
 以上のとおり,本件各決定は,いずれも,状況類似地区の区分,標準山林の選
定,標準山林の評点数の付設方法が評価基準が定める方法によって行われていない
点において評価基準に適合しない違法があり,本件山林1及び本件山林2に係る各
決定については,「搬出地点の標高」を誤った点においても,評価基準に適合しな
い違法があるというべきである。
 なお,本件において提出された全証拠によっても,本件各山林の具体的な価額は
算定できないといわざるを得ない。
 よって,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも
理由があるので,全部認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 市村陽典
裁判官 森英明
裁判官 馬渡香津子

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