弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主     文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
            理     由
 上告代理人滝井繁男,同仲田隆明,同橋口玲,同太田健義の上告受理申立て理由
一について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は建築,土木工事の設計及び監理を目的とする有限会社であり,そ
の代表者であるDは一級建築士である。
 (2) E建設株式会社(以下「E」という。)は,大阪市東成区内において建売
住宅を建築し,販売することを計画し,平成6年5月30日,上告人に対し,建築
予定の本件建物につき,建築確認申請に用いるための設計図書の作成を依頼すると
ともに,建築確認申請手続の代行を委託した。本件建物の建築工事は,建築基準法
(平成10年法律第100号による改正前のもの。以下「法」という。)上,その
規模,構造から,一級建築士又は二級建築士の設計及び工事監理によらなければ,
することができないものであった(法5条の2)。
 (3) Dは,上記設計図書を作成し,平成6年6月2日,これらを添付図書とし
て,Eのために本件建物の建築確認申請(以下「本件建築確認申請」という。)を
行った。その際,Dは,建築確認申請書の工事監理者欄に一級建築士の肩書を付し
た自己の氏名を記載するとともに,Dを工事監理者とする旨の選定届(Dが工事監
理をすることを承諾する旨の記載及びDの記名押印のあるもの)を作成し,これを
上記建築確認申請書に添付した。
 大阪市は,建築基準法施行規則上,建築主が工事着手前にすべきものとされてい
る工事監理者の届出について,建築士による工事監理を義務付ける法的規制を実効
性のあるものとするため,建築確認申請の段階において,建築主に対し,申請に係
る建築工事の工事監理者を定め,これを建築確認申請書に記載すべきことを指導し
ていた。Dがした上記の記載等は,Eが,本件建築確認申請において,大阪市の上
記の指導に対処するため,Dに対し,工事監理者は未定であるが,建築確認申請書
にはDを工事監理者として記載しておいてほしい旨要請し,Dがこれに応じて作成
したものであった。当時,両者の間には,工事監理契約が締結されておらず,将来
,締結されるか否かも未定であった。
 (4) 建築主事は,同月24日,本件建築確認申請につき,添付された上記設計
図書及び工事監理者選定届等に基づき,建築物の計画が建築基準関係規定に適合す
るものであることの確認をした。上告人は,上記設計図書の作成及び建築確認申請
手続の代行の報酬として,Eから116万8000円の支払を受けた。
 (5) その後,上告人又はDとEとの間で,本件建物の建築工事につき工事監理
契約が締結されることはなく,Dが,本件建物の建築工事につき工事監理に当たる
こともなかった。Dは,本件建物の建築工事の開始時までに工事監理の依頼がない
場合には,Eがその従業員の中の有資格者を工事監理者とするなどして工事を実施
するものと考えており,また,建築確認申請の際の届出と異なる者に工事監理をさ
せる場合には,工事着手前に建築主が変更の届出をすれば足りる取扱いであったこ
とから,建築の確認がされて以降,本件建物の建築工事に関し,Eに上記の変更の
届出をさせる等の措置を何ら執ることなく,放置した。
 (6) Eは,建築主兼施工者として本件建物の建築工事を行ったが,その際,建
築確認を受けるために用いた上記設計図書を使用せず,これとは異なる施工図面に
基づき,しかも,実質上,工事監理者がいない状態で建築工事を実施した。そのた
め,上記設計図書によれば,1階部分の柱として断面の寸法200㎜×200㎜の
角型鉄骨を,2階及び3階部分の柱として同150㎜×150㎜の角形鉄骨を,そ
れぞれ使用すべきものとされているのに,実際には,いずれについても同148㎜
×100㎜のH型鋼を使用したり,基礎工事についても,べた基礎とし地中はりを
施工すべきものとされているのに,地中はりを施工せず,独立基礎としたりするな
ど,重要な構造部分において建築確認を受けた建築物の計画と異なる工事が実施さ
れ,その結果,本件建物は,法が要求する構造耐力を有しないなど,重大な瑕疵の
ある建築物となった。
 (7) 被上告人らは,同年9月1日,Eから本件建物をその敷地と共に購入し,
代金4420万円を支払った。ところが,本件建物は,新築であるにもかかわらず
,車両通行時の振動が大きいこと,外壁に多数の亀裂が生じたことなどから,被上
告人らは,その安全性に疑問を抱くようになった。被上告人らは,平成8年2月1
日,Eに対し,本件建物に瑕疵があるとして,本件建物及びその敷地の売買契約を
解除する旨の意思表示をした。
 2 本件は,被上告人らが,上告人に対し,Dは建築士法(平成9年法律第95
号による改正前のもの。以下同じ。)18条1項に基づき,建築士としてその業務
を誠実に遂行すべき義務を負っているのにこれを怠ったことにより,被上告人らが
損害を被ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。上告人
は,Eとの間では本件建物の建築工事についての工事監理契約を締結していないの
であり,本件建物に係る建築確認申請書にDを工事監理者とする旨の記載をしたか
らといって,これにより上告人が被上告人らに対して賠償責任を負うものとはいえ
ないなどと主張した。
 3 建築士法3条から3条の3までの規定は,各規定に定められている建築物の
新築等をする場合においては,当該各規定に定められている一級建築士,二級建築
士又は木造建築士でなければ,その設計又は工事監理をしてはならない旨を定めて
おり,上記各規定に違反して建築物の設計又は工事監理をした者には,罰則が科せ
られる(同法35条3号)。法5条の2の規定は,上記規制を前提として,建築士
法の上記各規定に定められている建築物の工事は,当該各規定に定められている建
築士の設計によらなければ,することができないこと,その工事をする場合には,
建築主は,各規定に定められている建築士である工事監理者を定めなければならず
,これに違反した工事はすることができないことを定めており,これらの禁止規定
に違反した場合における当該建築物の工事施工者には,罰則が科せられるものとさ
れている(法99条1項1号)。そして,建築士法18条の規定は,建築士は,そ
の業務を誠実に行い,建築物の質の向上に努めなければならないこと(同条1項)
,建築士には,法令又は条例の定める建築物の基準に適合した設計をし,設計図書
のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務があることを
定めている(同条2項,3項)。
 建築士法及び法の上記各規定の趣旨は,建築物の新築等をする場合におけるその
設計及び工事監理に係る業務を,その規模,構造等に応じて,これを適切に行い得
る専門的技術を有し,かつ,法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし,そ
の設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が
課せられている一級建築士,二級建築士又は木造建築士に独占的に行わせることに
より,建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ,その基準を守らせること
としたものであって,建築物を建築し,又は購入しようとする者に対し,建築基準
関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一
つとするものである。このように,建築物を建築し,又は購入しようとする者に対
して建築基準関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供すること等の
ために,建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与
えられていることにかんがみると,【要旨1】建築士は,その業務を行うに当たり
,新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法及び法の
上記各規定による規制の潜脱を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるよ
うな行為をしてはならない法的義務があるものというべきであり,建築士が故意又
は過失によりこれに違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建
築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当であ
る。
 このような見地に立って,本件をみると,【要旨2】前記の事実関係によれば,
上告人の代表者であり,一級建築士であるDは,前記1(3)記載のとおり,建築確
認申請書にDが本件建物の建築工事について工事監理を行う旨の実体に沿わない記
載をしたのであるから,Dには,自己が工事監理を行わないことが明確になった段
階で,建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため,本件建
物の建築工事が着手されるまでに,Eに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切
な措置を執るべき法的義務があるものというべきである。ところが,Dは,前記1
(5)及び(6)記載のとおり,何らの適切な措置も執らずに放置し,これにより,Eが
上記各規定による規制を潜脱することを容易にし,規制の実効性を失わせたもので
あるから,Dの上記各行為は,上記法的義務に過失により違反した違法行為と解す
るのが相当である。そして,Eから重大な瑕疵のある本件建物を購入した被上告人
らは,Dの上記違法行為により損害を被ったことが明らかである。したがって,上
告人は,被上告人らに対し,上記損害につき,不法行為に基づく賠償責任を負うと
いうべきである。
 4 そうすると,上告人の損害賠償責任を認め,被上告人らの請求の一部を認容
した原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認することができる。論旨は
採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷
 玄)

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