弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊達秋雄、同小谷野三郎、同中村巖の上告理由について
 一 公共企業体等の職員につき争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法(以
下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないこと
は、既に当裁判所の判例とするところである(昭和四四年(あ)第二五七一号同五
二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)。したがつて、郵政職員が禁
止を犯して争議行為を行つた場合には、法令遵守義務を定めた国家公務員法(以下
「国公法」という。)九八条一項、信用失墜行為避止義務を定めた同法九九条、職
務専念義務を定めた同法一〇一条一項等に違反したものとして同法八二条一号に該
当し、更に行為の態様によつては同条三号にも該当することがあり、懲戒処分の対
象とされることを免れないと解すべきである。この場合に、公労法三条一項が労働
組合法(以下「労組法」という。)七条一号本文の適用を除外していないことを根
拠として、公労法一七条一項違反の争議行為のうちにもなお労組法七条一号本文の
「正当な行為」にあたるものと然らざるものとがあるとし、右「正当な行為」にあ
たる争議行為については国公法八二条による懲戒処分をすることができないという
ような解釈は、これを採用することができない。けだし、公労法三条一項によれば、
公共企業体等の職員に関する労働関係については、公労法の定めるところにより、
同法に定めのないものについてのみ労組法の定めるところによるべきものであると
ころ、右職員の争議行為については公労法一七条一項にいつさいの行為を禁止する
旨の定めがあるので、その争議行為について更に労組法七条一号本文を適用する余
地はないというべきであるからである。公労法三条一項が労組法の右規定の適用を
除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については公労法に定めがな
いので、これに労組法の右規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱
を禁止するためであつて、公労法一七条一項違反の争議行為についてまで「正当な
行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団
的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失わ
れるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲
戒責任を免れえないことも、多言を要しないところである。
  右と異なる見解を主張する所論は、採用することができない。
 二 本件において、上告人に対する懲戒処分事由として原審の認定した事実は、
原判決がその理由(その引用する第一審判決の理由を含む。)において詳細に判示
するとおりであつて、これを要約すれば、おおよそ次のとおりである。
 1 酒田郵便局及び横手郵便局の件
   D労働組合(以下「D」という。)は昭和四〇年春闘において、公共企業体
等労働組合協議会(以下「E労協」という。)がILO八七号条約批准、スト権奪
還、大巾賃上げ等の要求を貫徹するため第一波統一ストライキを同年三月一七日に
実施する旨決定したのに呼応して、全国の拠点郵便局で同日午前八時三〇分から一
時間の時限ストライキを行うことを決定し、各地方本部に対して拠点となる候補局
を報告するよう指令した。盛岡郵便局所属の郵政事務官であつた上告人は、当時、
DF地方本部(以下「F地本」という。)の執行委員長として組合業務に専従して
いたが、右指令に基づき、傘下の地区本部と協議し、F地本内の候補局を選定して
D本部に報告した結果、最終的に酒田郵便局及び横手郵便局(以下、それぞれ「酒
田局」、「横手局」という。)が拠点局として決定された。このストライキについ
て、郵政当局側は、再三、D本部及び各地方本部執行委員長らに対し中止を申し入
れ、これが実施されたときは厳正な処分をもつて臨む旨の警告を発した。
  (一) 上告人は、酒田局における右ストライキの実施責任者として現地に赴き、
同局の組合員を指導して、三月一七日午前八時三〇分から勤務時間内一時間のスト
ライキを実施させ、当日勤務すべき同局の職員六一名がこれに参加した。右参加人
らは、同日午前八時三〇分ごろから酒田市a地区労働会館に集合して集会を開き、
上告人がストライキの目的、情勢等について演説したのち、上告人を先頭に隊列を
組んで同局に向い、午前九時二三分ごろに就労したが、その間の欠務時間は五三分
であつた。このストライキの間、同局の貯金及び保険の窓口業務は当局側管理者が
代つてその処理にあたり、また、貯金及び保険の外務員の集金、募集のための出発
が定刻より約四五分遅れた。
  (二) 横手局においては、F地本書記長Gが、上告人と意思相通じたうえ、同
局の組合員を指導して、三月一七日午前八時三〇分から勤務時間内一時間のストラ
イキを実施させ、当日勤務すべき同局の職員三六名がこれに参加した。右参加者ら
は、同日午前八時三〇分ごろから横手市b町cH旅館において集会を開き、その終
了後隊列を組んで同局構内中庭に入り、円陣を作つて集会を開き気勢をあげたのち、
午前九時二〇分ごろ解散し、同二二分就労したが、その間の欠務時間は五二分であ
つた。このストライキの間、同局の貯金及び保険の窓口業務は当局側管理者が代つ
てその処理にあたり、また、貯金外務員の集金、募集のための出発が定刻より約三
〇分遅れたほか、同局局長において、一般利用者に対し他局の利用を願う旨の掲示
をせざるをえなかつた。
 2 仙台郵政局の件
  (一) Dは、昭和四〇年春闘の要求項目である大巾賃上げ等の早期実現をはか
るため、各地方本部及び地区本部に対し、郵政局との交渉強化とビラ貼りの実施を
指令した。これを受けたDI地区本部は、先に東北E労協から配布されていた「団
結の力で破れ低賃金」「家計簿は七五〇〇円待つている」等と記載されたステツカ
ーを、E労協の統一行動日である同年四月一五日に仙台郵政局庁舎内に貼付するこ
とを決定し、その旨F地本に連絡し、同地本青年部長Jの指導及び協力を要請した。
そして、四月一五日午前三時二五分ごろから同四時一五分ごろまでの間にかけて、
I地区本部執行委員長Kに指揮された同本部青年部組合員約二〇名及び右Jらが、
管理者の制止を無視して、同局庁舎一階表玄関ホールのガラス壁及び大理石壁等に
約一四三〇枚、二階保険部事務室のガラス壁等に約五四〇枚、三階局長室のガラス
壁等に約三三〇枚、合計約二三〇〇枚の前記ステツカーを貼付した。上告人は、こ
れが終わる直前ごろ現場に赴き、管理者の中止要求に対して「まあまあ」といつた
り、組合員らに「では引き揚げようか。」と声をかけたりし、右貼付行為について
I地区本部役員らと互いに意思相通じていたものである。
  (二) 上告人らF地本の役員は、郵政局との交渉を強化すべき旨のD本部の指
導に従い、F地本執行委員会において、同年四月一五日に組合員を動員して仙台郵
政局長と集団交渉を実施し、その際同局庁舎内で集団示威行進をも併せて行うこと
を決定した。そして、四月一五日午前九時一五分ごろ、F地本副委員長Lが同局人
事部管理課長室に赴いて、賃上げ、職員宿舎の設置、日曜配達の廃止等につき局長
又は人事部長と集団交渉したい旨要求したが、これを拒絶されたので、午前九時三
一分ごろ、あらかじめ同局玄関前に動員され鉢巻をつけ労働歌を合唱して気勢をあ
げていた組合員約一〇〇名が、F地本青年部長Jらの指揮のもとに、管理者の制止
を実力で押し返して玄関から庁舎内に入り、表階段と裏階段の二手に分かれて階段
を昇り始め、表階段を昇るグループ約五〇名は「わつしよい、わつしよい」と掛声
をかけながら一階から四階までの階段を示威行進し、四階で裏階段から昇つてきた
他のグループ約五〇名と合流したうえ、三階に降り、三階の局長室前のホールでも
同様の掛声で二、三回示威行進をしたのち、局長との集団交渉を求めて同ホールに
坐り込み、携帯マイクによる指導に従つて労働歌を合唱した。上告人は、右組合員
らに続いて庁舎内に入り、同ホールで事態の推移を見ていた。当局側は、右組合員
らに対し立札あるいはマイクで解散及び庁舎外退去を命じたが、まつたく無視され
た。午前九時四七分ごろからL副委員長が管理課長と会つて再び集団交渉を要求し、
押問答を繰り返した末、結局、午前一〇時四五分すぎころ組合代表二〇名が管理課
長室に入室し(上告人も遅れて入室した。)、同課長に対して要求書を読みあげる
などしたうえ、「今日はこれで要求することを打ち切る。」旨宣言して、午前一一
時二〇分ごろ退室した。この間、ホールに坐り込んでいた組合員らは、午前一〇時
一四分ごろ、「人事部長会見に応じろ、代表団がんばれ、大巾賃上げを闘いとろう。」
とのシユプレヒコールを繰り返し、一部組合員が管理課長室に入室しようとする動
きを見せ、更に、午前一〇時四七分ごろには、気勢をあげるため、全員が立ち上つ
て隊形を整え、約一二分間「わつしよい、わつしよい」と掛声をかけ、「人事部長
に会わせろ。」等のシユプレヒコールを繰り返し、渦巻行進をしたり、あるいは人
事部長室に入室するかのような気勢を示したりし、このため付近はかなり喧噪状態
となつた。かくするうち、午前一一時二〇分ごろ上告人を含む組合代表が管理課長
室からホールに戻り、L副委員長が組合員に要求打切りの経過を報告したので、労
働歌を合唱したのち、同三〇分ごろ上告人の音頭により大声で「団結がんばろう。」
と三唱し、前と同様に集団示威行進をしながら庁外に退去し。解散した。
  (三) DI地区本部は、前記のように仙台郵政局庁舎内にステツカーを貼付し
たが、その後更に同じステツカーが約一二〇〇枚残つているのを発見したので、こ
れを再び同庁舎内に貼付することを決定し、同年四月二二日午後八時一六分ごろか
ら同二六分ごろまで及び同日午後九時一五分ごろから同二〇分ごろまでの二回にわ
けて、同地区青年部の組合員約二〇名が、管理者の制止を無視しあるいは密かに、
同庁舎一階から二階にかけてのガラス壁、入口扉、階段の手摺等に右ステツカー全
部を貼付した。上告人は、当日の夕方そのことを知り、貼付が始つたころにその現
場に赴き、貼つている組合員の後をついてまわりながら、貼付されたステツカーの
めくれた個所を手で押さえたり、中止を求める管理者に対し「あまりがやがやする
な。」「たいしたことはない。」「ビラ貼りは労働者の労働運動で最小限のものだ。」
などと答えたりし、右貼付行為についてI地区本部役員らと互いに意思相通じてい
たものである。
 3 仙台郵便局の件
  (一) Dは、E労協が第二波半日ストライキを同年四月二三日に実施すること
を決定したのに呼応して、全国の中央郵便局及び統轄局又はこれに準ずる局で半日
ストライキを行うこととし、前記1とほぼ同様の経過を経て、F地本における拠点
局を仙台郵便局(以下「仙台局」という。)と決定した。これに基づき、D中央執
行委員Mが仙台局に赴き、上告人らとも意思相通じたうえ、同局の組合員を指導し
て、四月二三日朝から半日ストライキを実施させ、当日勤務すべき同局の職員三九
九名がこれに参加した。右参加者らは、同日午前八時五〇分ごろから一一時一〇分
ごろまで仙台市N七階ホールにおいて集会を開き、その終了後一一時四六分ごろ就
労したが、欠務時間は、午前七時から同一一時四六分まで(保険課職員は一一時四
八分まで)最高四時間四六分、最低四六分にわたつた。右ストライキによつて業務
に生じた影響は、次のとおりである。(1) 仙台局の自動車運送便等の郵便物は当
局側管理者が代つて処理した。(2) 仙台市内外一〇二区の一号便の配達が全部欠
便となり、それによる持出不能郵便物数は合計九万通に達した。(3) 速達便の配
達がストライキ中行われず、配達の出発が定刻より五時間四〇分遅れた。(4) 貯
金外務員の出発が定刻より三時間三〇分遅れ、持出不能集金票は七〇〇件に達した。
(5) 保険外務員の出発が定刻より四時間三〇分遅れ、持出不能徴収原簿は八三七
件、取立不能徴収原簿は七四八件に達した。(6) ストライキ中に発信申込のあつ
た五通の電信のうち、四通は発信者に事情を説明して電報局から発信することの了
承を得、一通は午後に発信することの了解を得た。(7) ストライキ中の郵便、貯
金、保険の各窓口業務は当局側管理者が代つてその処理にあたつた。
  (二) 上告人及び後記の組合役員らは、仙台局における右ストライキの前後に、
互いに意思相通じて次のような行為をした。
   上告人は、(1) 四月二三日午前七時九分ごろ同局一階郵便課事務室に無断
入室し、管理者の退去要求を拒否して同一五分ごろまで留まり、(2) 同七時五七
分ごろ同局通用門付近で同局会計課長から局長名のピケ解散要求書を出されたが、
「ピケではない。」といつてこれを返還し、(3) 同八時一六分ごろ他の組合役員
とともに前記郵便課事務室に再度無断入室し、(4) 前記Nで開かれた集会ののち、
午前一一時三六分ごろ参加者の先頭に立つて歌をうたい手を叩きながら仙台通用門
から構内に入り、同四六分ごろ同局裏庭において無許可集会を実施し、「団結がん
ばろう。」の三唱の音頭をとつた。
   F地本書記長Gは、(1) 四月二二日午後一一時四〇分ごろ同局庁舎内に無
断入室して局内を徘徊し、(2)翌二三日午前四時二〇分ごろ前記郵便課事務室に無
断入室した。
   DI地区本部書記長Oは、(1) 四月二三日午前八時二五分ごろ前記郵便課
事務室に無断入室し、管理者の退去要求を無視して留まり、(3) 同一一時二一分
ごろ同局裏広場において、前記Nの集会から帰つてきた組合員に対し、携帯マイク
をもつて「ご苦労さんです。一一時五〇分まで集会をやりますからしばらくお待ち
願います。」と呼びかけ、同一一時四六分ごろ解散させた。
   DI地区本部執行委員Pは、四月二三日午前四時二〇分ごろ前記郵便課事務
室に無断入室した。
   D仙台地方郵便局支部書記長Rは、四月二三日午前四時三分ごろ他の組合役
員とともに前記郵便課輸送係室に無断入室した。
 原審のした以上の事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして是認することがで
きるものであり、所論経験則の違背又は理由不備の違法はない。
 右認定事実によると、上告人が酒田局、横手局及び仙台局においてストライキを
実施させた行為は、公労法一七条一項に違反し、また、その他の行為は、官職の信
用を傷つけ又は官職全体の不名誉となるようなものであるから、全体として同法九
九条に違反し、同法八二条一号及び三号の懲戒事由に該当するものといわなければ
ならない。
 三 ところで、国家公務員に懲戒事由がある場合において懲戒権者が裁量権の行
使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと
認められるものでない限り、違法とならないことは、既に当裁判所の判例とすると
ころである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷
判決・裁判所時報七三〇号四頁)。
  本件についてみると、酒田局、横手局及び仙台局におけるストライキは、その
主目的が賃上げ等の経済的要求にあつたとしても、公共性の強い郵便局の職場全体
で大規模に、しかも当局の再三の警告を無視して行われたものであり、それによつ
て生じた業務阻害の結果も、軽視することができない。また、その他の行為のうち
特に仙台郵政局において多数組合員が集団交渉を要求して庁舎内に立ち入り集団示
威行進や坐込みをした行為は、右集団交渉の要求自体公労法の定める団体交渉の手
続を無視した不当なものであるばかりでなく、その態様が著しく粗暴で喧騒にわた
つており、それによつて業務運営その他に及ぼした影響も深刻なものであつたこと
が推認されるのであるから、組合における上告人の地位にかんがみれば、これらの
行為に関する上告人の責任は重大であるといわなければならない。これに加え、原
判決が適法に確定したところによれば、上告人は過去において七回停職処分を受け
た経歴を有するというのであつて、更に本件のような行為を繰り返したことは、全
体の奉仕者としての自覚と責任の欠如を示すものとみられても、やむをえないとこ
ろである。もつとも、昭和四〇年春闘によつて懲戒処分を受けたD各地方本部の執
行委員長のうちには、上告人より過去の処分歴の多い者がいたにもかかわらず、停
職一〇月ないし一年の処分を受けたにとどまり、免職処分を受けたのは上告人のみ
であつたことが明らかであるけれども、原審の認定するところによれば、他の地方
本部執行委員長に対する処分においては、同年三月一七日及び四月二三日の統一ス
トライキを実践指導したことが処分理由となつており、仙台郵政局で行われたよう
なステツカー貼付、庁舎内集団示威行進及び坐込み等についてまで責任を問われて
いるものではないというのであるから、単純に処分の結果のみを比較してその軽重
を論ずることは、相当でない。
  このような上告人の本件各行為の性質及び態様等諸般の事情を考慮すれば、右
行為のうちにD本部からの指令ないし指導に従つたものがあることを斟酌しても、
なお、本件免職処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、懲戒権者に委された裁量権
の範囲を超えたものということはできない。この点に関する原審の認定判断は、正
当である。
 四 以上のとおりであるから、原審の説示には一部右と異なるところがあるけれ
ども、本件免職処分に取り消すべき瑕疵がないとした結論は是認すべきものであつ
て、原判決に所論の違法はなく、所論違憲の主張は、前記大法廷判例に徴して失当
である。論旨は、すべて採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
環昌一の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官環昌一の意見は、次のとおりである。
 私の意見も、本件上告理由がいずれも採用しがたいものであるとする結論におい
ては多数意見と異なるところはない。しかしながら多数意見は、基本的に、その引
用する昭和五二年五月四日の当裁判所大法廷判決に依拠するものと解されるところ、
私は、右判決における反対意見(以下意見(1)という。)において公務員特にいわ
ゆる五現業の職員の労働関係についての基本的立場をのべ、その後この立場から、
多数意見引用の当裁判所昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小
法廷判決の反対意見(以下意見(2)という。)及び当裁判所昭和四七(行ツ)第一
号同五三年三月二八日第三小法廷判決の意見(以下意見(3)という。)において若
干の私見をのべる機会があつたので、これらの意見との関連で本件上告理由に即し
て私の見解をのべておくのが適当であると思う。
 一 上告理由第一点ないし第三点について
  所論は、これを要約すると、(ア) 公労法一七条一項の規定するところは、
いわゆる中野中郵事件判決(最高裁昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二
六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁)が、争議行為等に対する具体的制約に
ついての憲法判断において考慮することを要する条件として挙示するところに従う
としても、いわゆる五現業の職員等のそれぞれについて、その職務の公共性の強弱、
争議行為の種類、態様の如何、国民生活に及ぼす障害の程度を考慮することなく、
争議行為を全面一律に禁止したものであつて、右大法廷判決にいう合理性の認めら
れる必要最少限度の制約の範囲をこえているから、憲法二八条に違反する、(イ)
 公労法の適用をうける職員に対して、労組法七条一号によれば正当とされるよう
な争議行為をしたことを理由として懲戒処分をすることは、憲法二八条に違反する
ものであり、それは中野中郵事件判決論理の当然の帰結である、また、その正当性
の判断の基準は民間企業の場合のそれと大きな差異があるべきではない、本件争議
行為はその具体的事実から見て正当性の範囲をこえるものではない、(ウ) 争議
行為が暴力の行使等に当らない限り、前記の基準に照らして正当性を具備しない場
合であつても、これに参加した個々の職員に対し国公法の懲戒規定を適用すること
は許されない、それは、元来、争議行為は団体行動であつて個々人の行動として把
握されうるものではない、憲法二八条の保障の下で争議行為自体を違法視すること
は許されず、したがつてこれに参加した個々人の行為を信用失墜行為ないし全体の
奉仕者たるにふさわしくない非行と評価することはできない、国公法八二条の保護
法益は職場秩序の維持であり、公労法一七条一項のそれは国民生活全体の利益であ
る、などの理由によるものである、したがつて公労法一七条一項の違反者に対して
使用者がなしうるのは、同法一八条による解雇のみであり、懲戒処分をすることは
許されない、国公法八二条一号に「この法律」とある中には公労法は含まれていな
い、仮に右の見解が誤りであるとしても、本件争議行為は正当なものであるから懲
戒処分の対象とはならない、というのである。
  私は、すでに前記意見(1)において、公労法の適用をうける五現業、三公社の
職員(以下特に五現業の職員を「現業職員」又は「職員」と略称する。)の労働基
本権とその制約については、所論引用の中野中郵事件判決の判示する基本的見解に
従がうべきものであり、現業職員の性格は、五現業の事業の実体、職員の職務の内
容等からみて、非現業公務員よりはるかに私企業労働者に近似する、そのため職員
と使用者(実定法上は政府、窮極においては国会によつて最終的に代表される国民
全体)との間には、私企業の場合に近い労使関係の存在が認められる、公労法一七
条一項の規定は、五現業等の業務が安定した秩序の下に継続して能率よく遂行され
ることによつて確保される国民全体の利益を、業務の停廃による侵害から守ること
を目的とするものであり、その実効確保のため、その違反行為に対して解雇(同法
一八条)や損害賠償(同法三条一項、労組法八条)等の規定が設けられたものであ
る、このように右公労法一七条一項の規定自体は、右の労使関係の実質に照らすと
労働基本権に対する強い制約であることは否めないか、それでもなおその内容が、
違反行為について民事法上の効果のみを伴なうものとするに止め少なくとも刑事法
上の責任を問うことはないものとしている点において、前記中野中郵事件判決の判
示する基準に則つても合理的範囲を逸脱するものとまではいえず、結局これを違憲
無効の規定とすることは相当でない、との趣旨の見解をのべた。ただ右意見が刑事
事件についてのべられた関係上、意を尽さなかつた点もあり、また、論旨が右規定
は争議行為を全面一律に禁止するものであるから違憲である旨主張するので、以下
において右の民事法上の効果の点を中心に私見を補足したい。
  等しく公労法の適用をうける勤労者といつても、その所属する事業の公共性や
勤務の内容等に差異があるため、その勤労者としての性格は一様ではないから、こ
れに対する争議行為等の制約を定めるに当つては、これを国公法の適用をうける公
務員たる五現業の職員と、それぞれの事業法によつて律せられる三公社の職員に大
別し、更には、この両種別に分属する事業の職員等を事業毎に分別し、それぞれの
性格に応じた、適切で、かつ、合理的限度をこえない、できる限り個別的、具体的
な規定を設けることが、憲法二八条の趣旨に、より一層沿う所以であるとすること
ができるであろうが、私は、同法一七条一項の規定が、五現業、三公社の職員さえ
も分別せず、まして所論指摘のような争議行為の種類、態様等を区別することなく、
その文言上、全面一律に制約するものと認めるからというだけで、右規定を違憲無
効のものと断ずるのは相当でなく、その合憲性は関係法律全体の規定の趣旨を総合
考慮して判断すべきものであると思う。以上の見解は、先に非現業公務員に対する
団体協約締結権の問題について前記意見(3)においてのべたところとその基本を同
じくするので、その参照を求める。また私は、先に前記意見(2)において、公務員
と使用者との間には高度の信頼関係が存在するというべきであること、公務員の中
にも公務員としての特殊性の強いものから一般私企業の従業員と変らない労使関係
にあるとみられる者までがあり、右の信頼関係にもこれに応じてその性質、程度に
差異があることを指摘した。私のいう信頼関係とは、使用者においては、職員がそ
の職務の高い公共性と職責の重さを認識して争議行為等を自制することに信頼し、
他方、職員においては、使用者が職員の生存権確保のため労働関係に誠実に対処す
ることに信頼するという関係の存在を前提として労使双方が相互に相手方の信頼を
破らない義務を負うことを意味する。そして、現業職員等は前述のように一般私企
業に近似する性格をもつものであるから、使用者の、職員の信頼を尊重する義務は
特に重いものといわなければならない。そこで以上の見地から公労法一七条一項に
違反する争議行為等の民事法上の効果について考えてみると、このような行為は右
にのべた使用者の信頼に対する侵犯であるから、これをした職員においてそれが争
議行為であることを理由として民事法上の免責を主張することはできないといわな
ければならない。しかしながらその反面、民事法上の効果の内容、軽重の判断に当
つては、使用者の側(窮極において国民全体・その最終の代表としての国会)の対
応の誠実の度合いが特に重要な資料として考慮されなければならないこととなる。
このような解釈原理によつて民事法上の効果を調整し、適正な結果を求めるべきこ
とは公労法が当然のこととして予定するところというべきであるが、更に同法が団
体交渉権や団体協約締結権等について制度としてこれを保障していることなどにか
んがみると、同法が、職員の生存権の確保と国民全体の利益の擁護という現実にお
いて対立する二つの憲法上の要請の、調和し均衡した労働関係を実現するための立
法政策上の配慮を、明らかに不合理というべきほど欠いているものとは思われない。
前記論旨がいう憲法判断における労働基本権の制限の限度の問題は、結局、その違
背に対する民事法上の効果如何と表裏をなすものというべきであるが、右に検討し
たところからすれば、公労法の前記規定が総合的見地よりして合理的制約の限度を
こえるものとするのは相当でない。また、それが一方的に職員にのみ犠牲を強いる
ものともいえない。所論違憲の主張は採用し難い。
  なお、右にみたように現業職員はみずからした行為が争議行為であることを根
拠として民事法上の免責を主張することができないから、現業職員の争議行為につ
き、私企業のそれの場合における正当性の基準をあてはめて論ずることが、そもそ
も前述した法の趣旨と相容れないものであることは明らかである。そして、このよ
うに解することは前記中野中郵事件判決と矛盾しないばかりかむしろその趣旨に沿
うものと考えられるし、また、公労法、労組法の関係規定の文理解釈の上からもそ
の結論を異にしないことは多数意見の判示するとおりである。この点に関する論旨
も理由がない。ただ前述のように、使用者の背信行為は、これに対応する団体行動
の民事法上の効果を左右する重要性をもつから、具体的な場合にその背信の度合い
が著しいため、客観的にみて前記信頼関係がこれにより一方的に破壊されたと認め
られるような特段の事情が存するときには、これに対応してなされた争議行為その
ものが、その目的、態様などにおいて相当であれば、憲法上の正当性を回復して民
事法上の関係においても正当行為と評価される場合のあることは理論上肯定されよ
う。
  そこで進んで論旨が争議行為に参加した個々の組合員たる職員に対しては争議
行為を理由として懲戒処分をすることが許されない旨主張するところについて考え
る。公労法が、その一七条一項に違反する行為の効果につき、直接これを定める規
定として同法一八条の規定を置いたこと、同条は「解雇」という特別の表現を用い
ていること、懲戒に関しては公労法に規定を設けず国公法や三公社のそれぞれの事
業法にこれを置いていることなど、関係法律の構成、体裁ないし表現等にかんがみ
ると、この解雇は、法の目指す争議行為等の制約の実効を挙げ将来の発生を防止す
るため、特定の職員を企業外に排除することが必要やむをえない場合には、国公法
や各事業法の職員に対する身分保障の規定ないし労組法の不当労働行為に関する規
定にかかわらず、使用者において当該職員との労働契約を解除して企業外へ排除す
ることを許容する趣旨のものと解される。すなわち右解雇は、当該職員の行為を企
業秩序との関連で個別的な違法行為としてとらえてされる懲戒処分とは異なり、行
為の責任を問うというよりも、むしろ他の分限上の処置に類似する性質を有する特
別の処置とみるべきであつて、このような特別の規定を設けた法の趣旨にかんがみ
ると、公労法一七条一項の規定に違反したこと自体を理由として使用者のすること
ができる民事法上の処置としては、右の解雇があるのみで、別に国公法の規定を通
して同法の懲戒規定、特にその八二条一号を適用して懲戒処分をすることが許され
ると解することは相当でないこと論旨のいうとおりであろう。しかしながら、上述
のように現業職員が争議行為を行うことは原則として法の認めないところであるか
ら、その際、職員が事実上使用者の業務上の管理を離れて組合の管理に服したこと
をもつて、労働契約関係の適法な一時的消滅とみることはできず、争議行為の実体
そのものである個々の職員の業務不提供の事実が、法的に使用者に対する労働契約
上の義務の違背と評価されることは否定することができない。また、その法的効果
が団体たる組合にのみ生ずると解すべき根拠も見出し難い(そこには「代表」の観
念を容れる余地はないし、組合自身使用者に対し労務提供の義務を負うものではな
い。)。いずれにしても現行法体系の下では、労働関係の法的特殊性を考慮しても、
個々の職員の行為が団体の行為の中に解消し何らの法的考慮の対象にもならないと
解することには十分な理論的根拠があるとは思われない。そして職員の争議行為避
止の義務は、上来のべてきたように使用者たる国民全体との間の、企業秩序の安定
による国民全体の利益の確保を目的とする前記の信頼関係に根ざすものであり、法
律によつて明定されたものであるから、その違反は、私企業における労働協約上の
いわゆる平和義務の場合とは異なり、いわば公序に反するものとしての違法性をも
つとの評価を免かれ難い。以上の見地からすると、職員の行為を個々の行為の面で
とらえ、それが法令や就業規則に定める懲戒処分事由に該当する場合には、職員は
その行為自体に即した個人的責任として懲戒処分をうけることもやむをえないもの
という外はない。なお論旨は保護法益の相違をいうが、公労法一八条による解雇も、
懲戒処分も、いずれも事業が安定した秩序の下に遂行されることをねらいとするも
のであり、その間に対立し矛盾するところはなく、また、右両処置は上述のように
それぞれの見地からなされる別異の処置と解すべきものであるから、所論の点は職
員の個人的責任を否定する根拠とはなりえないというべきである。そして、具体的
な個々の職員の行為が右にのべた解雇又は懲戒免職の要件をいずれも充たす場合に
は、具体的な事案に即して使用者の合理的な裁量によりそのいずれをとるかが許さ
れるものと解されるのである。以上のような観点から考えると、争議行為に際して
した職員の個々の行為が、使用者たる国民全体に対する背信行為として、国公法九
九条にいう信用失墜行為ないし同法八二条三号にいう全体の奉仕者たるにふさわし
くない非行に該るものと認められ、懲戒処分の対象とされることもやむをえないも
のというべく、論旨も結局理由がない。
 二 上告理由第四点について
  所論は、これを要するに、(ア) 一審判決を引用する原判決は、横手局にお
けるストライキ、仙台郵政局におけるビラはり、仙台局におけるピケ解散要求の拒
否行為等につき上告人に共謀の事実があつたとして、これを処分事由の一つとして
認定しているが、その事実認定には経験則に反する等の違法があり、上告人として
は、それらの行動が実施されることを知りこれを容認していたにすぎないものであ
るか、もしくは内心で支持、支援しながら傍観していたにすぎないものであつて、
これらの事実は上告人に対する懲戒処分事由としての構成要件を充たすものではな
い、(イ) 上告人に対する本件懲戒免職処分は、処分権者のもつ裁量権の範囲を
逸脱するもので違法無効である、というにある。
  一審判決を引用する原判決の事実認定に所論のような違法のないことは多数意
見の判示するとおりであるが、所論横手局その他における行動についての上告人の
関与が所論のような程度のものであつたとしても、これを他の本件行動における上
告人の行為と総合してみると、上告人が本件争議の実施に当つて、後述のように強
い指導力、影響力をもつていたことが認められるから、原判決が右の事実を上告人
の民事法上の責任を判断する一つの資料としたことは必ずしも是認できないもので
はない。
  次に被上告人の本件処分における裁量権の範囲の逸脱をいう論旨について考え
る。私は、前記意見(2)において非現業公務員についてのべたところと同様の基本
的見解に立つものであるが、前述のように上告人が私企業労働者に近似する性格を
もつ現業職員であることから、これに対して国公法の懲戒規定を適用し、上告人の
本件行為により労使間の信頼関係が失われたとして免職処分を選択するには、上告
人の右の性格に応じた格別の考慮が払われなければならないと思う。しかしながら、
上告人が、DF地本執行委員長という組合の指導的地位にあるにふさわしい者とし
て組合員により選任されて組合業務に専従し、過去において少なからぬ被処分歴を
もつことや、原審が処分事由として認定した本件一連の団体行動における上告人の
関与の態様などからみるとき、本件行動に関する上告人の指導力、影響力のほどを
うかがうに難くないのであつて、これに多数意見の判示する業務阻害の結果、本件
行動の態様、前記上告人の被処分歴(月日、回数、内容)等諸般の事情を併せ考え、
かつ、本件行動には、前述のような特段の事情も、またその際における被上告人側
の態度に特に責められるべき点も見当らないことをも考慮すると、被上告人におい
て上告人との間の信頼関係が失われたものと考えたことも首肯するに足るものであ
り、前記のような特段の配慮の下でも、被上告人に、社会観念上著しく合理性を欠
くような裁量権の範囲の逸脱があつたとすることは相当でない。論旨はいずれも理
由がない。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    環       昌   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛