弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田中染吉の上告理由第一点について。
 まず、論旨中主要と認められる部分を要約すれば、株式会社の平取締役にも代表
取締役の業務の執行を監視する任務があり、また、取締役は辞任するもその退任の
登記があるまでは、対外関係においては取締役としての責を免れないものと解すべ
きところ、訴外D株式会社(以下、D会社と略称する)の取締役であつた被上告人
は、辞任による退任の登記前においては、D会社の代表取締役Fの行為を監視すべ
き任務があつたにかかわらず、悪意又は重過失によりその任務を怠り上告人に損害
をこうむらしめたのであるから、商法二六六条の三の規定により右損害を賠償する
責を免れないものである。しかるに、原判決が、被上告人は取締役としてなんらの
職務を行わず、また、この点につき懈怠のないものであるから、同条による責任は
ない旨判示したのは、商法の右規定ならびに一二条の解釈適用を誤つた違法がある
というにある。
 よつて、案ずるに、昭和二五年の改正後の現行商法は、株式会社の業務の執行は
取締役会の決するところによる旨を規定するとともに、会社の代表はとくに選任さ
れた代表取締役のみがこれを行うものとしているところからみれば、個々の取締役
は、商法に特別の規定がある場合を除いては、取締役会の一員として、取締役会の
審議ないし決議を通じで会社の業務に関与する権利義務を有するに過ぎないものと
解するほかはない。しかし、他面において、取締役は、すべて、委任に関する規定
に従い善良な管理者の注意をもつて事務を処理すべき責任を有し、かつ、会社のた
め忠実にその職務を遂行する義務を負うばかりでなく、原則として、取締役会を招
集する権限を有し、また会社の業務を執行すべき代表取締役及び支配人の選任及び
解任は取締役会の決するところによるものとされていることなどにかんがみれば、
個々の取締役は、取締役会の審議ないし決議を通じて代表取締役、支配人らの業務
の執行を監視すべき権利義務を有するものと解するのが相当である。したがつて、
取締役が悪意又は重過失により右監視義務を怠つたことにより第三者に損害をこう
むらしめた場合には、商法二六六条の三の規定による損害賠償責任を免れないもの
というべきである。
 次に、取締役の右損害賠償責任と商法一二条の規定との関係を考えてみるに、商
法二六六条の三の規定は、職務の執行につき悪意又は重過失のある取締役を対象と
するものであるから、辞任により退任した取締役は、商法二五八条の特別規定によ
りなお取締役としての権利義務を有するものとせられる場合を除いては、取締役と
しての職務をなんら有しないこととなる関係上その者に対し、商法二六六条の三を
適用する余地はもはやないものといわなければならない。もつとも、商法一二条に
よれば、取締役の退任は、その登記及び公告をしなければ、善意の第三者に対抗し
えないのであるから、取締役が退任したにかかわらず、その退任の登記、公告前、
なお積極的に取締役としての対外的又は内部的な行動を敢えてした場合においては、
その行為により損害をこうむつた善意の第三者は、登記、公告がないためその退任
を自己に対抗しえないことを理由に、右行為を取締役の職務の執行とみなし、商法
二六六条の三の規定によりその損害の賠償を求めることはこれを容認しなければな
らないであろう。しかしながら、退任により取締役の権利義務をなんら有しなくな
つた者が、職務行為と認めるべき行為を行わないのは当然かつ正当なことであるか
ら、なんらの行為を行わなかつたことをもつて任務懈怠ということはできない。し
たがつて、この場合においては、退任の登記、公告の前であつても、その者に対し
商法二六六条の三の規定を適用することのできないことは自明の理であると解され
る。
 これを、本件についてみるに、原審が確定したところによれば、被上告人は昭和
二七年六月三〇日D会社の取締役を辞任し(同年八月二九日退任の登記がなされた)、
同年七月一五日被上告人に代り訴外Gが取締役に就任したが、被上告人は当時会社
の運営にはなんら関係するところがなく、同年八月二三日の本件乙手形の支払につ
いてもD会社の取締役としてなんらの職務を行つたものとは認められないというの
であり、右によれば、被上告人は辞任し後任取締役の選任がなされた後は、D会社
の取締役としての権利義務を有せず、また、前記のごとく取締役としての行為をな
んら行わなかつたのであるから、被上告人には、取締役としての任務、ことに前示
監視義務の懈怠はなく、したがつて商法二六六条の三による損害賠償責任を負うべ
き筋合はないこと、前に説示したところに照し明らかである。原判決のこの点に関
する判示は、やや簡に失したきらいがないではないが、結局、以上説示したところ
と同趣旨と解されるので、正当としてこれを肯認するに足る。論旨は、ひつきよう、
独自の見解の下に原判決を論難するものであり、採用することをえない。
 なお、上告人は、論旨のその余の部分において、被上告人が代表取締役である訴
外H商事株式会社の本件乙手形取得に関する種々の事情を述べて原判決を論難する
ところがあるが、右は、上告人が原審において主張しない事実又は原判示に副わな
い事実を前提とするものであつて、ひつきよう、原審が適法にした事実の認定又は
法的判断を非難するに帰し、すべて採用に価しない。
 同第二点について。
 所論は、結局(一)乙手形金の取得が被上告人とFとの共謀によるものとは認め
られず、また、(二)上告人が甲手形金相当の損害を受けているものとは認められ
ないとした原審の判断を非難するものと解されるが、右(一)の共謀の事実を認め
るに足る証拠がないとの原審の認定はこれを肯認するに足り、また、原審の右(二)
の判断もこれを肯認しえないではない。論旨は、いずれも採用し難い。
 同第三点について。
 原判決及びその引用する第一審判決ならびに本件記録に徴するも、上告人が原審
において所論のごとき主張をしたことはこれを明認し難い(昭和三〇年一〇月一五
日付準備書面中に所論のごとく解される主張のあることは認められるが、右主張に
関する部分は、第一審及び原審の口頭弁論において陳述されていない)。よつて、
所論は、原審において主張せず、したがつて原審の判断を受けなかつた事項を問題
とするものであり、適法な上告理由とは認め難い。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛