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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 差戻し前及び後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は全部控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)(主位的申立て)
 被控訴人の予備的訴えを却下する。
(予備的申立て)
 被控訴人の予備的請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件通路部分」という。)の
一部を所有する被控訴人が,本件通路部分について,建築基準法(以下「法」とい
う。)42条2項所定の要件及び控訴人が告示をもってした法42条2項道路(以
下「2項道路」という。)の指定処分の要件が存在しないとして,同要件が存在す
るとした処分の無効確認(主位的請求)及び同指定処分が存在しないことの確認
(予備的請求)を求めた事案である。第1審では,主位的訴えを却下したが,本件
告示による指定が一定の条件に合致する道について一律に2項道路に指定するいわ
ゆる一括指定の方法によるものであって,内容的に抽象性をもつ処分ではあるが,
その処分によって受ける拘束が現実的,具体的であって,当該拘束を排除すること
についての訴えの利益がある場合には,当該処分の効果として生じる義務の存在を
争うことが認められるとして,予備的請求を認容した。差し戻し前の控訴審では,
一括指定の方法による指定は,本件通路等の特定の土地について個別具体的にこれ
を指定したものではなく,いわゆる一般処分に当たるもので,告示自体によって建
築制限等の私権の制限が生じるものではないとして,本件告示による2項道路の指
定の処分性を否定して,控訴人敗訴部分を取り消し,予備的訴えを却下した(な
お,被控訴人は主位的訴えを却下された部分について控訴しなかった。)。上告審
は,一括指定の方法による指定も許容されるとした上で,控訴人のした告示は,一
括して2項道路として指定するものであるが,これによって,法第3章の規定が適
用されるに至った時点において建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道の
うち本件告示の定める条件に合致する道のすべてについて2項道路としての指定が
されたことになり,その敷地所有者は法による私権の制限を受けることになるか
ら,本件告示のような一括指定の方法による2項道路の指定も抗告訴訟の対象とな
る行政処分に当たり,その処分の不存在の確認を求める本件予備的訴えは,行政事
件訴訟法3条4項にいう抗告訴訟であって,同法36条の要件を満たす適法なもの
であるとして,上記控訴審判決を取り消して,差し戻した。
2 争いのない事実等(証拠は各項中に掲記のとおりである。)
 原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」中の「二 争いのない事実等」
欄に摘示(原判決3頁8行目から7頁6行目まで)のとおりであるから,これを引
用する。ただし,原判決6頁7行目の「住友林業株式会社」の次に「(以下「住友
林業」という。)」を加える。
3 争点
(1) 控訴人が本件告示をもってした2項道路の指定処分は処分性を有するか。
また,被控訴人に処分の不存在確認を求める訴えの利益があるか。
(2) 被控訴人の予備的請求は,禁反言の原則に反し,訴権の濫用となり,又は
権利保護の利益を欠くか。
(3) 本件通路部分は,基準時(昭和25年11月23日)において,法42条
2項の要件及び控訴人が本件告示をもってした2項道路の指定要件を充たしていた
か,すなわち,①幅員4メートル未満1.8メートル以上の道であること,②現に
建築物が立ち並んでいることの各要件を充たしていたか
4 争点に関する各当事者の主張
 次のとおり付加訂正するほかは原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」
中の「四 争点に関する各当事者の主張」欄に摘示(原判決11頁1行目から15
頁3行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決11頁1行目の「2 争点2について」を「1 争点(1)につい
て」と改める。
(2) 同頁6行目の「原告は」から7行目の「受けているから」までを「被控訴
人は,本件告示をもってした指定処分により,2項道路内の建築制限(法44条)
等の私権の制限が受けることとなり,現に,被控訴人は,前記のとおり,奈良県高
田土木事務所長から,法44条違反であるとして,838番1及び838番3の土
地上に構築した塀を撤去するよう指示,勧告されているから,」と改める。
(3) 同12頁9行目の次に,改行の上,次を加える。
「2 争点(2)について
(控訴人の主張)
 被控訴人は,本件通路部分につき,2項道路の存在を容認し何らの異議も挟まず
長年利用し,自宅の建築確認処分を受けるためにも積極的に本件通路部分が2項道
路であることを利用してきた。しかるに,Aらとの本件通路部分の通行をめぐる紛
争を契機に同人らの通行に支障を及ぼすことを企図して,被控訴人は本件訴えを提
起した。
 本件訴えは,被控訴人自らの先行行為に反して禁反言に触れ,極めて不当な目的
のためにされているので,訴権の濫用ないし権利保護の利益を欠くもので,不適法
である。
(被控訴人の主張)
 被控訴人は,奈良県高田土木事務所の指導に基づいて,本件回答を得て,自宅の
建築確認申請を行ったものであり,また,837番1の土地の西側には公道がある
ので,本件通路部分を利用しなくとも建築確認を得られたものである。Aらとの紛
争の原因も奈良県にあり,控訴人が訴権の濫用等の主張をすることは,信義に反し
許されない。」
(4) 同12頁10行目の「争点3」を「争点(3)」と改める。
(5) 同13頁10行目の次に,改行の上次を加える。
「 また,現に建築物が立ち並んでいる道というのは,その道のみで接道義務を充
足する建築物が複数存在することであり,被控訴人も2つの建物の存在を認めてい
ること自体からもこの要件の存在が推認される。
 なお,本件予備的請求のような処分の不存在確認訴訟における実体要件の主張立
証責任は,被控訴人が負う。」
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 争点(1)についての判断は,当裁判所は上告審の判断に拘束されるから,それ
に従い,次のとおり判断する。
(1) 法42条2項は,同条1項各号の道路に該当しない道であっても,法第3
章の規定が適用されるに至った時点において,現に建築物が立ち並んでいる幅員4
メートル未満の道で,特定行政庁の指定したものは,同項の道路とみなし,その中
心線から水平距離2メートルの線を道路の境界とみなすものとしている。
 同条2項の特定行政庁の指定は,同項の要件を満たしている道について,個別具
体的に対象となる道を2項道路に指定するいわゆる個別指定の方法でされることが
ある一方で,本件告示のように,一定の条件に合致する道について一律に2項道路
に指定する一括指定の方法でされることがある。同項はこのような一括指定の方法
による特定行政庁の指定も許容しているものと解することができる。
 本件告示は,幅員4メートル未満1.8メートル以上の道を一括して2項道路と
して指定するものであるが,これによって,法第3章の規定が適用されるに至った
時点において,現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道のうち,本件
告示が定める幅員1.8メートル以上の条件に合致するものすべてについて2項道
路として指定がされたことになり,当該道につき指定の効果が生じるものと解され
る。
 そして,本件告示によって2項道路の指定の効果が生じるものと解する以上,こ
のような指定の効果が及ぶ個々の道は2項道路とされ,その敷地所有者は当該道路
につき道路内の建築等が制限され(法44条),私道の変更又は廃止が制限される
(法45条)等の具体的な私権の制限を受けることになるのである。そうすると,
特定行政庁による2項道路の指定は,それが一括指定の方法によでされた場合であ
っても,個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させ
るものであり,個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができ
る。
 したがって,本件告示のような一括指定の方法による2項道路の指定も,抗告訴
訟の対象となる行政処分に当たると解するべきである。
(2) そして,本件訴えは,本件通路部分について,本件告示による2項道路の
指定の不存在確認を求めるもので,行政事件訴訟法3条4項にいう処分の存否の確
認を求める抗告訴訟であり,同法36条の要件を満たすものということができる。
2 争点(2)について
 前記認定した事実と証拠(甲10,62の1・2,乙6,7,10,証人B)並
びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
 被控訴人,C及びDは,平成元年2月28日付けで奈良県建築主事に対し,83
7番1及び同番2の土地上の建物新築工事についての建築確認申請をしたが,被控
訴人から同工事の注文を受けた住友林業は,それに先立ち,昭和63年12月20
日ころ,その建物建築敷地面積が1000平方メートルを超え,都市計画法上の開
発行為に該当することが考えられたことから,高田土木事務所に,建築法規上考慮
しなければならない問題について相談したが,その際,そこでは本件通路部分が2
項道路であるか否かも検討すべき問題であるとされた。その後,上記被控訴人ら
は,平成元年1月中旬ころ,住友林業職員を介し,奈良県高田土木事務所に対し
て,資料を添えて,本件通路部分が2項道路に当たるか否かについて問い合わせた
ところ,同事務所では,現地調査を行った上,建築課長(建築主事)が,本件通路
部分は2項道路である旨の本件回答をした。その結果,住友林業では,手続的に
も,時間的にも被控訴人側にとって最も負担が少ない方法として本件通路が2項道
路であることを前提に,建築確認申請を行った。また,被控訴人は,昭和27年に
は本件通路部分の東方の北側に建物を建築して所有し,時期は必ずしも明らかでは
ないが,その出入り口を本件通路部分に設置し,その後は,長年にわたり,本件通
路を道路として利用してきた。また,Aらは,被控訴人らが本件通路部分を2項道
路と判定されたことから,平成元年5月ころ,本件通路東奥の通路について2号指
定道路であることを前提に,その通路南側の832番3等の土地上の住宅新築工事
について建築確認申請をし,その確認を得た上,同建物を新築した。
 被控訴人は,その別件の本人尋問や陳述書(甲10,45,66)において,住
友林業が本件通路部分を2項道路として建築確認申請をしたのは,同社が勝手にし
たことであり,被控訴人はそのことを聞いていなかったし,住友林業がそのような
申請をしたのは,高田土木事務所の指導に従ってなされたものである旨を述べてい
る。しかし,上記認定の事実によれば高田土木事務所が本件通路部分を2項道路と
して申請するように住友林業を指導したことはないことが認められ,また,被控訴
人が本件通路部分を2項道路として建築確認をしたことを知らないとの部分は,前
記建物新築が都市計画法上の開発行為に該当するか否かという,工事の進行に関す
る重大な問題と関連していることに照らして,また,前記証拠(甲62の1,2)
に照らして直ちに採用し難い。
 そこで控訴人の主張を検討するに,前記認定の事実によれば,被控訴人が,自ら
が建物を新築するために,その敷地に接する本件通路部分が2項道路と判定される
必要があり,そのために前記問い合わせをしたとしても,その際に虚偽の資料等を
使用するなどしたわけではなく,また,2項道路に該当しているか否かについては
高田土木事務所の判断が不可欠であることからすれば,なるほど,被控訴人の本件
訴訟における本件通路部分が2項道路ではないとの主張は,上記建築確認申請にお
ける事実の申告とは食い違うが,上記事実に徴すると,このことだけをもって本件
訴えの提起が禁反言の原則に反するものということはできない。また,被控訴人が
本件通路部分が2項道路ではないと主張するに至ったのはAらの本件通路部分の通
行を巡る紛争が契機となっているとしても,本訴の提起がもっぱらAらの通行を妨
害しようとの意図で提起したものとまでは認められないから,結局,本件訴えが訴
権の濫用ないし権利保護の利益の欠くものであるということはできない。付言すれ
ば,本件通路部分の2項道路とする指定処分が存在しないことが確定したとして
も,その判決の効力は第3者に及ぶものではないから,別件訴訟において認容され
た(乙11)Aらの本件通路部分の通行権が確定判決に基づくものであるならば,
その権利に影響を及ぼすものではない。
 したがって,控訴人の争点(2)の主張は理由がない。
3 争点(3)について
 争点(3)についての判断は,次に付加訂正するほかは,原判決「事実及び理
由」の「第四 争点に対する判断」欄の「三 争点3(二項道路の要件該当性)に
ついて」(原判決20頁2行目から22頁6行目まで)に認定説示のとおりである
からこれを引用する。
(1) 原判決21頁5行目の末尾に「なお,この要件の具備についての立証責任
は控訴人にあると解するのが相当である。」を加える。
(2) 同21頁6行目から22頁6行目までを次のとおり改める。
「 しかしながら,Aの父のEを含めた近隣居住者らは,本件通路部分が拡張され
たのは昭和39年ころであって,それ以前の本件通路部分は田の畦道であり幅員約
1メートルないしそれ以下であったと供述しており(甲9,10,29,44),
実際,証拠(乙8,9)によれば,元来,本件通路部分には幅員0.91メートル
の里道があり,本件通路部分から東側に続く通路にも幅員1.21メートルの里道
があったことが認められるのである。被控訴人は,高田土木事務所が平成元年1月
27日ころに現地調査をした結果では,そのときの本件通路部分の幅員が約3メー
トルあったこと(乙7),昭和38年10月撮影の航空写真に写っている本件通路
部分が他の畔よりも広いこと(甲5)をもって本件通路部分が2項道路に当たると
推定したことは相当であると主張するが,いずれも本件告示とは大きく時点が異な
るうえ,後者は不明瞭な印象にすぎないことを考慮すると,それのみをもって上記
供述等を覆すことは到底困難である。そして,上記供述等からすれば,基準時であ
る昭和25年11月23日当時の本件通路部分の幅員が1.8メートルに満たなか
ったことは明らかであるというべきである。
 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,本件通路部分が2項道路
にあたらないことは明白であるので,本件通路部分につき控訴人による2項道路の
指定処分は存在しないというべきである。」
4 よって,被控訴人の予備的請求は理由があり,これと同旨の原判決は相当であ
って,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
大阪高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 吉原耕平
裁判官 小見山進
裁判官 瀧華聡之

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