弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2本件を原審に差し戻す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が,都市計画法(平成18年法律第46号による改正前
のもの。特に断らない限り以下同じ。以下「法」ということがある)21。
条1項に基づき,横浜国際港都建設計画α地区(以下「本件地区」とい
う)について地区計画を変更する旨の決定(以下「本件変更決定」とい。
う)をしたところ,本件地区の周辺に居住する控訴人らが,本件変更決定。
は,周辺住民への周知が不十分であり,周辺住民に公述の機会を与えること
なくされたもので,手続上の瑕疵があり違法であるとして,本件変更決定の
うち原判決別紙物件目録記載の各土地に関する部分の取消しを求めた事案で
ある。
原審は,控訴人らの訴えを却下したので,控訴人らがこれを不服として控
訴した。
2基礎となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認定できる事実)
()被控訴人は,昭和61年12月23日付けで,横浜市β及びγに位置す1
る本件地区(面積約10.1ヘクタール)につき,都市計画法12条の4
(昭和62年法律第63号による改正前の規定)に基づき,地区計画を定
める都市計画決定(以下「本件都市計画決定」という)をした。。
,本件都市計画決定により,原判決別紙図面のとおり,本件地区はA地区
B地区,C地区の3地区に区分されたが,このうち,A地区の大部分は,
建築物の高さの最高限度を31メートルと定めた第7種高度地区であり,
同地区の残りの部分は,建築物の高さの最高限度を20メートルと定めた
第4種高度地区であった(甲1,14,乙4,6,11。)
()本件地区内の土地所有者の1人が,平成17年6月20日,被控訴人に2
対し,A,B地区について,法21条の2第1項に基づき,建築物の高さ
の最高限度を緩和することなどを内容として本件都市計画決定を変更する
ことを提案した(乙4,以下これを「本件提案」という。これを受けて,。)
被控訴人は,平成18年6月15日付けで,本件都市計画決定を変更する
旨の本件変更決定をした(法21条1項,甲1。)
本件変更決定により,原判決別紙図面のとおりA地区はA−1地区及び
A−2地区に区分され,また,A−1地区における建築物等の高さの最高
限度は高層部100メートル,中層部31メートル,低層部15メートル
とされた(乙4。本件変更決定中の土地利用の方針においては,A−1,)
A−2地区につき,駅前のにぎわいと出会いを演出するため,専門店・ホ
テル・ホール・カルチャーセンター・スポーツ施設等の立地を図るととも
に,地域拠点にふさわしい質の高い都市型住宅施設の立地を図るという方
針により土地利用を誘導することとされている。なお,本件変更決定の対
象であるA−1地区,A−2地区及びB地区はいずれも商業地域であり,
a線δ駅の西側に隣接している。
控訴人らが取消しを求めているのは,本件変更決定のうち上記A−1地
区に関する部分であり,上記A−1地区は,原判決別紙物件目録記載の各
土地から構成されている(甲8の1ないし9,10。)
()控訴人らは「b」及び「c(以下,併せて「本件各マンション」と3,」
いう)の区分所有者又はその住戸の居住者であり,本件各マンションは。
本件地区外の東側約200メートルないし250メートルに位置している
(甲34ないし44,乙3の5ないし7,19。)
()控訴人らのうち平成▲年(行ウ)第▲号事件原告らは平成18年8月44
日,同第▲号事件原告らは同年10月12日,本件変更決定のうち原判決
,別紙物件目録記載の各土地(A−1地区)に関する部分の取消しを求めて
本件訴訟を提起した。
第3争点
1本件変更決定が行政処分に当たるか。
2控訴人らに本件変更決定の取消しを求める法律上の利益(原告適格)が認
められるか。
3都市計画決定の一部の取消しを求める訴えは適法か。
4本件変更決定が適法か。
第4争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実
及び理由」第4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(当審における控訴人らの主張)
()本件変更決定の処分性について1
ア都市計画決定における提案制度について
都市計画法では,決定権者は提案者より提出された素案を無視あるい
は裁量で自由に変更することはできず,変更した場合もしくは決定等を
する必要がないと判断した場合であっても,必ず都道府県都市計画審議
会等に提出して,その調査と審議を受けることになる。国土交通省より
示された都市計画運用指針(甲2,以下「運用指針」という)によれ。
ば,決定権者はただ素案を提出するだけでなく,変更する理由あるいは
決定等の必要がないと判断した理由を十分に説明し,必要に応じて提案
者に都道府県都市計画審議会において意見を述べる機会を設けることが
望ましいとされている。このように法が都道府県都市計画審議会におい
て調査と審議を受けるよう求めた趣旨からすれば,決定権者の権原及び
裁量の範囲は,提案によらない場合と異なることは明らかである。
運用指針によれば,提案制度の狙いは,まちづくりへの住民参加のあ
り方自体をより実質的なものへと高めていくこと,まちづくり全体の有
様についてより広範に住民の合意形成が図られることにあるとされてい
る。このような趣旨からすれば,提案内容は決してアイデア,きっかけ
の類として参考程度に流されていいものではない。このことは,法が提
出された案について遅滞なく判断すること,内容を変更し又は決定等の
必要なしと判断した場合には都道府県都市計画審議会による調査審議を
経てその意見を聴き,決定等の必要なしと判断した場合には速やかに提
案者に通知することなどの各種義務を決定権者に課していることからも
明らかである。提案制度はまさに,住民参加を実質的に高めるために創
設された制度なのであって,住民に提案に係る都市計画を実現する申請
権に類する権利を与えたものと解すべきである。
さらに,提案制度は提案による都市計画の決定又は変更により建築制
限の緩和等を得て,土地開発を進めたい地権者に利用されることが多い
ことから,特定の地権者による土地開発許可申請に対する承認に等しい
のであって,実質的には特定人を名宛人とした個別具体的な処分として
の性質を有している。本件でも,1法人に属する土地を1つの独立の地
区(A−1地区)として扱い,そこだけの高さ制限を従来の3倍以上に
まで大幅に緩和することで高層建築物の建築を可能とすることを内容と
しているのであって,このような提案制度に基づく都市計画決定は特定
の地権者による開発許可申請に対する承認に等しいのであって,実質的
には特定人を名宛人とした個別具体的処分としての性質を有している。
そして,本件では,提案者によって都市計画の変更決定があることを
見越した高層ビルの建築計画が被控訴人の説明会において説明されてお
,り,都市計画変更決定による法的効果が具体的に予測でき,控訴人らは
眺望の利益が損なわれるという直接的な影響を受けるべき地位に立たさ
れている。
イ本件事案は司法審査になじむものであること
法は,16条,17条,18条の2等において,公聴会の開催等,住
民の意見を都市計画決定に反映させるために必要な措置を講じることを
。求めており,運用指針は,公聴会を原則として開催することとしている
ところが,被控訴人は,説明会を実施し,被控訴人の管理するホーム
ページにおいて告知する等したが,原則として開催することとされてい
る公聴会は開催しなかった。説明会をもって公聴会に代えることは運用
指針においても認められているが,住民が説明会の開催を十分に把握し
得る場合であって,かつ,当該説明会において住民の意見陳述の機会が
十分確保されていることという条件が付されている。しかるに,被控訴
人が行った説明会の告知は広く周辺住民に周知させるようなものではな
く,よほど丹念に被控訴人の広報誌やホームページをチェックしていな
い限り,見付けることのできないような小さなものであり,そのために
後に意見を提出した者で,当時既に横浜市に居住していた700人以上
もの周辺住民でさえ,この時点では本件変更決定の提案を全く知らなか
ったのであって,本件では前記のような条件を満たす説明会は一切開か
れていない。
その後,本件では,法17条に基づく法定縦覧の実施後に提出された
住民の意見書が,都市計画案と共に横浜市都市計画審議会に付議され,
多くの住民に意見を述べる機会が与えられ,実際に多くの住民が意見を
述べた。しかし,横浜市都市計画審議会は,実際には開催されなかった
公聴会が開催されたものと誤解し,住民に対して本件変更決定が周知徹
底されたとの誤った認識を持った上,意見書を提出した住民のほとんど
が公述の手続後に転居してきたものであるから,周知されていなかった
としても仕方ないとの事実誤認をしている。さらに審議会は,住民らが
主張する眺望の利益を眺望権と混同し,法的保護に値しない権利を主張
しているものと誤解した。このように重要な部分についていくつもの致
命的な事実誤認をした状態で行われた審議会での審議により,手続的瑕
疵が治癒されたとは到底評価できない。
控訴人らは,本件変更決定の内容の当否を問題としているものではな
く,上述したような本件変更決定手続及び横浜市都市計画審議会におけ
る手続上の瑕疵を問題とし,これについての審理を求めているのである
から,本件訴えを却下する理由はない。
ウ本件請求以外に控訴人らを真に救済する場はないこと
原判決は,当該地区内で地区計画に即した内容の建築行為等を阻止し
ようとする者達が当該建築行為等に係る行政庁の具体的処分を対象とし
て取消訴訟を提起することも可能であるとするが,後続の具体的処分の
段階で改めて争ったところで事情判決を受ける可能性が高いことを看過
している。
後にされる開発許可を争うことになれば,控訴人ら住民は開発計画が
持ち上がるたびに取消訴訟ないし差止訴訟を提起しなければならず,極
めて煩雑であり,訴訟経済上も不合理である。
また,開発を行おうとする者にとっても,後の処分が取り消されたり
差し止められた場合には,それまでに費やした資金等が無駄になるので
あり不経済極まりない。
エ最高裁平成20年9月10日大法廷判決について
以下のとおり,最高裁平成20年9月10日大法廷判決(以下「大法
廷判決」という)の示した判断基準に照らし,本件でも処分性を肯定。
できることは明らかである。
大法廷判決は,適法に決定された事業計画についてその内容の適否が
問題とされた事例であるのに対し,本件はそもそも都市計画の変更決定
に重大な手続的瑕疵があり,その点でも違法無効との判断を免れないと
いう事案であって,大法廷判決以上に処分性を認めるべき事案である。
大法廷判決の根底には,行政計画による規制の内容が暫定的な規制に
止まらない直接的かつ究極的なものであるか,対象となる地域の範囲が
かなり限定的なものとなるかなど,その行政計画の内容を具体的に検討
して処分性の有無を判断すべきであるとの見解があると考えられる。し
かるところ,本件変更決定は建築物の高さ制限を変更するものであり,
本件変更決定がされれば,これを提案した地権者が直ちに高層建物の建
築に着手し,控訴人らの眺望の利益を侵害することが特段の事情のない
限り確実視されるのであるから,その規制の内容は暫定的ではない直接
的かつ究極的なものであり,規制の対象も限定されて明示されている。
したがって,本件は,大法廷判決の上記見解に従えば,処分性を認める
べき事案である。
本件変更決定に処分性を認めた場合,公定力が生じるとの指摘がされ
ているが,本件変更決定の手続自体に明白な違法事由があるのであるか
ら,本件訴訟の段階でその適否を決着させた方が,後になってこれを争
うよりも合理性があるから,本件変更決定に処分性を認めることにより
公定力が生じても問題はない。
本件変更決定により眺望の利益が害されることになる建物を処分しよ
うとする者にとっては,本件変更決定の段階で大幅な価格下落は避けら
れないのみならず,後続の行為というものも考えられないから,利害関
係者の救済のためには本件変更決定に処分性を認めて,取消訴訟を起こ
すことを認めるしかないのである。
加えて,本件変更決定に基づいて建物が完成してしまってからでは,
控訴人らの眺望の利益は決定的に害され,かつ,差止め訴訟を提起して
も訴えの利益なしとして却下される可能性がある。
()控訴人らの眺望の利益は法的保護に値するものであること2
眺望の利益が法的保護に値する権利であることは,最高裁判所平成18
,年3月30日判決等,裁判例において繰り返し確認されてきたことであり
眺望の利益の保護を求める控訴人らは,本件訴訟の原告適格を有するもの
である。
控訴人らは,富士山を望める高層マンションを建設し,住民を誘致しよ
うという被控訴人の都市計画に従い,富士山を一望できるという優れた眺
望をうたい文句にした高層マンションを購入し,現在の住居に入居した者
である。にもかかわらず,入居した直後に本件変更決定により,まさに控
訴人らの住居から富士山を望む方角に高層建築物が建築できるよう都市計
画が変更されてしまい,控訴人らの住居が有する最大の価値であった眺望
の利益はほとんど全く害されることになった。
控訴人らは,優れた眺望を有する住居だからこそ,住居としての価値を
見出し,高額の対価を了承して購入したのである。それが入居直後になっ
て眺望の利益が全く失われるに等しい事態となるのであれば,優れた付加
価値としての眺望の利益を失うに止まらず,雄大な景色を眺めて暮らそう
,と考えて入居してきた期待利益の侵害や,美しい眺望を遮られるどころか
外を見ても圧迫感を覚えるだけという精神的な損害を被ることになるので
あり,本件変更決定を知っていたなら,現在の住居を購入しなかったとい
う者も多い。
このような本件において,控訴人らの生活利益を守るには,後続の具体
的な処分に対して争うだけでは目的を達成することができず,本件変更決
定そのものを取り消す以外にないのである。
さらに,本件変更決定が提案制度によるものであることは,当事者適格
の判断においても重要な意味がある。すなわち,従来都市計画に関する取
消訴訟において否定的な判断をする裁判例が多かったのは,都市計画とい
うものの公共性と特定の住民の個人的利益とを比較衡量していたためとい
う側面がある。しかるに,提案制度に基づいて都市計画を変更するという
場合,その実態は特定地権者による開発許可申請に等しいのであって,こ
こで比較衡量されるべきなのは,公共性と個人的利益ではなく,特定地権
者の土地利用・開発による利益と,住民の生活利益という私人と私人の権
利である。本件におけるA−1地区の都市計画変更決定は,特定の地権者
による高層建築物建設のために高さ制限を緩和するという内容なのであっ
て,通常の都市計画のような公共性は存在しない。しかも,A−1地区の
開発は,他の地区とは異なる方針の下に土地利用を誘導することとされて
いるから,A−1地区に関する本件変更決定を取り消しても他地区の土地
利用に影響が出る懸念もないのであって,本件は公共性という観点から控
訴人らの受忍を求める必要のない事案である。
控訴人らの訴える眺望の利益は,権利とまでは呼べないにせよ,生活環
境,経済活動等と密接な関連性を有する重要な利益であり,都市計画法の
手続内で,都市計画の変更により眺望の利益を侵害される住民らが意見を
述べ,その意思を都市計画に反映させていくとの限度において保護される
べきものである。このような眺望の利益を含め,住民からの多様な意見を
反映させるために,法16条等が都市計画の決定手続への住民参加を認め
たにもかかわらず,本件において,被控訴人は本件変更決定について極め
て不十分な周知方法しか採らず,控訴人ら住民の本件変更決定手続への参
加を事実上不可能とした。
眺望の利益は,権利性までは認められていないからこそ,法16条等の
定める住民参加手続における利害調整によってしか守ることができないの
であって,被控訴人による控訴人らの眺望の利益に対する侵害は,社会的
に容認され得ない,相当性を欠く行為であり,眺望の利益を侵害された控
訴人らには法的保護を求める資格がある。
()都市計画決定の一部の取消しを求める訴えは適法であること3
本件における従来の都市計画自体が,ε地区をA,B,Cの3地区に分
けていたところ,本件変更決定はそのうちのA,B地区のみを変更の対象
としているのであって,本件変更決定自体が旧来の都市計画の一部を切り
離して変更するとしており,都市計画が常に絶対不可分でないことを認め
ているに等しい。また,控訴人らが問題とする高さ制限が100メートル
以下にまで緩和された地域は,A地区からさらに特定されたA−1地区の
みである。このように,本件変更決定自体が,明確に地区を区分し,それ
ぞれについての方針により土地利用を誘導することとしており,これによ
ればA−1地区についての本件変更決定を取り消したところで,他の地区
はそれとは異なる方針の下に土地利用を誘導するのであるから,A−1地
区を切り離して本件変更決定を取り消しても,他の地区には何ら影響は及
ばないことになる。したがって,本件変更決定の一部の取消しを求める訴
えは適法である。
()本件変更決定手続の抱える手続的瑕疵の重大性4
法16条等がまちづくりへの住民参加を求めている趣旨は,まちづくり
の結果について実質的利益・不利益を受ける住民自らがまちづくりに主体
的に関与し,その利害関係を調整できるようにすることにある。本件変更
決定が住民の提案による都市計画の変更という制度の中でなされていると
いう特殊性を考慮すれば,他の住民の意見を反映することはより一層重視
されるべきである。
本件変更決定手続の瑕疵が重大であるとする根拠は,住民らに利害調整
の場を提供し,住民らの意見を都市計画に反映させていくべきものとした
法16条等を形骸化させ,実質的に住民らに意見表明の機会を与えず,眺
望の利益等を守るための唯一の機会を失わせたことにある。法16条等に
定める都市計画変更決定等への住民参加は,その前提として,当該都市計
画変更決定等の手続について,住民が手続に参加できるよう周知されてい
るものでなければならない。
にもかかわらず,被控訴人の周知方法は,広報誌内における小さな文字
での記載及び都市計画変更の提案があったことを知っていて探さない限り
まず見付けられないようなホームページ上の記載という極めて不十分な方
法であったために,控訴人らを含むほとんどの住民は本件変更決定の提案
があったことすら知らなかった。本件における都市計画変更の提案は,住
民の利害関係に大きな影響を及ぼす内容であるのに,これを十分に周知徹
底せず,控訴人ら住民が都市計画変更の提案があったことすら知らなかっ
たのでは法16条等は全くの空文と化し,これらの規定が目指した地域住
民の利害関係の調整や,まちづくりへの住民参加は全く実現されないこと
になる。
また,後続の横浜市都市計画審議会における審議においても,被控訴人
による不十分な説明や,出席委員によるミスリードにより,控訴人ら住民
の主張が正しく理解されず,適切な審議がされなかっため,手続的瑕疵が
治癒されることはなかった。
このままでは,本件変更決定に係る手続において調整されるはずであっ
た控訴人ら住民の生活利益は何ら顧みられることはなく,一部地権者によ
る土地利用・土地開発の利益のための犠牲にされることになり,法16条
等の定めた住民の利益調整という都市計画決定手続への住民参加を認めた
趣旨は全く失われることになる。
このように,法の規定との関係でも本件変更決定の手続的瑕疵は重大で
あり,取消しを免れない。
(当審における被控訴人の主張)
()本件変更決定の処分性について1
ア都市計画決定における提案制度について
提案制度に基づく提案は,都市計画の提案である以上,法1条,2条
の趣旨に則った総合的なまちづくりの計画としての提案でなければなら
ず,そのような提案に基づいてなされた都市計画決定も,通常の都市計
画決定と全く同様に,総合的にみて適正なまちづくりを図るものとして
決定されるのであり,提案制度に基づく都市計画決定は特定の者に対し
て具体的な利益を与えるためのものでも,提案者の開発行為を許可する
といった性質の行為でもないことは明らかである。したがって,都市計
画の提案制度は特定の者に申請権ないしそれに類する権利を付与するも
のではなく,それに対して行政庁が提案を採用して都市計画決定をする
ことは,申請を認容する行政処分とは違うし,また,都市計画の提案を
採用しないという決定をすることは,申請に対する拒否処分とは全く性
質を異にするものである。提案制度において,提案があったら遅滞なく
必要性を評価し(法21条の3,必要がないと判断したときは都市計)
画審議会の意見を聴いて通知しなければならない(同法21条の5)も
のとされているが,これは提案の採否の手続について行政に一定の手続
上の義務を課しているものに過ぎず,これにより提案者に申請権ないし
それに類する権利を付与するものとはいえない。
イ大法廷判決について
そもそも,大法廷判決において判例変更すべきものとして挙げられて
いるのは昭和41年の青写真判決及び平成4年10月6日の判決のみで
あって,本件で問題となっている都市計画決定の処分性を否定した一連
の最高裁判決は大法廷判決によっても変更されていないのであるから,
本件変更決定に処分性がないものとして,本件訴えが却下されるべきこ
とは,大法廷判決以降においても何ら変わるところはない。
また,大法廷判決の多数意見は,土地区画整理事業の事業計画決定に
伴う建築制限のみでは処分性を認めるに足りる法律効果とはいえず,後
続する換地処分の法律効果を含めることで初めて処分性を認めるに足り
る法律効果であるとしており,建築制限のみによって処分性が認められ
るとの見解を採用していない。
大法廷判決が処分性を肯定した土地区画整理事業計画決定に引き続い
て行われる換地処分では,その対象となる土地の所有者全員について権
利変換の効果が生じるのに対し,いわゆる完結型と呼ばれる都市計画決
定においては,将来における仮定的な行為選択(建物の建築)に対する
拘束しか受けておらず,現実的な行為決定に対する拘束を受ける者の範
囲が確定されないという意味において,立法行為と同じく一般的抽象的
な性格を有しているという違いがある。
都市計画決定(地区計画)がされた場合に当該地区内の住民の法的地
位に対する影響として考えられるのは,①地区整備計画内の土地の区画
形質の変更についての届出義務(法58条の1第1項,93条1号,)
②基準に適合しない開発行為の不許可(法33条1項5号,③地区整)
備計画の内容を制限として定める条例が制定された場合における建築確
認の制限(法58条の3,建築基準法68条の2第1項,④地区整備)
計画に即して指定された道路あるいは予定道路内における建築制限(建
築基準法44条,68条の7第4項)であるが,このうち①は何らの法
的強制力を伴ったものではないし,②については大法廷判決の上記多数
意見によれば,将来において地区整備計画の区域内において基準に適合
しない開発行為を行おうとする者に対して開発行為の許可申請をした場
合に許可されないという一般的抽象的な法的効果に過ぎないから,これ
は処分性を認める根拠とはならない。③及び④による制限はいずれも条
例の制定あるいは道路,予定道路の指定に伴うものであり,必ずしも地
区計画どおりの条例や道路の指定がされるとは限らないのであって,地
区計画決定によって当然に③,④のような建築制限を受ける地位に立た
されるということはできないから,これにより本件変更決定に処分性を
認めることもできない。
さらに,大法廷判決は,土地区画整理事業の事業計画決定がされた場
合における土地所有者等の実効的な権利救済を図るという観点からの検
討を行っているが,本件変更決定のような完結型土地利用計画の場合に
は,例えば各種用途地域において例外許可が認められることもあるよう
に,仮に個別開発許可や建築確認等の段階でその許可等の拒否処分が争
われ,その前提問題として計画自体の違法性が認定されて取消判決がさ
れたとしても,そのことから直ちにシステムの全体に著しい混乱をもた
らすということにはならない。
()控訴人らに原告適格がないことについて2
処分の相手方以外の第三者について処分の取消しを求めるについての法
律上の利益の有無を判断するに際しては,改正行政事件訴訟法9条2項に
基づいて判断されることになるが,法及び関連法令を見ても,控訴人らの
主張する眺望の利益を個別的利益として保護すべきものとする趣旨の規定
は全く見当たらないから,控訴人らの主張する眺望の利益を根拠に控訴人
らの原告適格を基礎づけることはできない。
控訴人らが指摘する景観利益についての最高裁平成18年3月30日判
決は,控訴人らが主張する眺望の利益に関するものではないことは措くと
しても,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求についての被侵害利益と
しての法律上の利益について論じているものであって,行政事件訴訟法の
行政処分の取消訴訟における原告適格を基礎づける法律上の利益に関する
議論とは全く局面を異にするものである。
行政処分の取消訴訟における原告適格を基礎づける法律上の利益は,当
該行政処分の根拠法規又はその関連法規が,当該利益を個別的利益として
保護している趣旨か否かという観点から判断されるものであって,民法上
の不法行為の被侵害利益として保護される利益であっても,当該行政処分
の根拠法規又はその関連法規が個別的利益として保護しているものでなけ
れば,当該行政処分の取消しを求める原告適格を基礎づける法律上の利益
となり得ないことは明らかである。
また,控訴人らは,法16条,17条,18条の2を根拠に控訴人らが
法律上保護された利益を有しているかのように論じているが,これらの規
定は,いずれも関係市町村の住民に対して,公聴会での公述や意見書の提
出を認めている規定に過ぎず,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公
益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益
としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものとは考えられない。
第5当裁判所の判断
1争点1(本件変更決定の処分性)について
()処分性検討に関する観点1
控訴人らは,本訴において本件変更決定の取消しを求めているが,この
ような訴えにおける取消しの対象となる行為は,行政庁の処分その他公権
力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という)であることを要する。
(行政事件訴訟法3条2項,同6項。)
上記にいう行政処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為
のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確
定することが法律上認められているものをいうと解されるから(最高裁昭
和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照,)
控訴人らの訴えを適法と認めるためには,本件変更決定について,これに
より直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認
められていなければならないということになる。この観点から本件変更決
定が行政処分に当たるか否かについて判断する。
()本件都市計画決定の処分性の検討2
本件変更決定が行政処分に当たるか否かについて判断するに先立ち,本
件変更決定が変更の対象とした本件都市計画決定について,それが行政処
分に当たるか否かについて,まず検討することとする。
本件都市計画決定は,都市計画法12条の4(昭和62年法律第63号
による改正前の規定)に基づいて地区計画を定める都市計画であり,同法
15条1項中の市町村が定める都市計画の一つであり,その手続は,同法
16条以下に規定されている。都市計画法に定められている都市計画の内
容は様々であり,本件都市計画決定が行政処分に当たるか否かを判断する
に当たっては,まず,本件都市計画決定が都市計画法の中でどのような目
的ないし内容であると位置付けられ,これによってどのような法律効果が
生じるかを検討していく必要がある。
都市計画法上の都市計画は,大別すると,都市計画決定後に何らかの事
業が予定されていて当該都市計画事業の認可決定に向けて進行する事業施
行型の都市計画と,事業の施行は予定されておらず土地利用の規制を図る
ことによって目的を達しようとする完結型の都市計画とに区分される。本
件都市計画決定は,後者,すなわち完結型に属するものであり,地区計画
を定め,建築物の建築形態,公共施設の配置等からみて,一体としてそれ
,ぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し
開発し,及び保全するための計画である(法12条の5第1項。)
,地区計画においては,主として街区内の居住者等の利用に供される道路
公園等の地区施設及び建築物等の整備並びに土地利用に関する計画を定め
るものとされる(同条2項。また,地区計画においては,地区計画の目)
的を達成するため必要な地区施設の配置及び規模のほか(同条6項1号,)
建築物等の用途の制限,建築物の容積率の最高限度又は最低限度,建築物
の建ぺい率の最高限度,建築物の敷地面積又は建築面積の最低限度,建築
物等の高さの最高限度又は最低限度,建築物等の形態又は色彩その他意匠
の制限等の建築物等に関する事項(同項2号)を定めるものとされる。
()地区計画を定める都市計画決定による権利制限の内容3
都市計画法上の地区計画が決定された場合における当該地区内の土地利
用等についての権利制限の内容及び程度は,次のとおりである。
ア届出義務
地区計画の区域において土地の区画形質の変更,建築物の建築等を行
おうとする者は,事前にその内容を市町村長に届け出なければならず,
これに違反する場合には罰則の適用がある(法58条の2第1項,93
条1号。届出を受けた市町村長は,届出に係る行為が地区計画に適合)
しないと認めるときは,設計の変更その他必要な措置を執ることを勧告
することができる(法58条の2第3項。)
しかし,届出の内容が地区整備計画に適合していなかった場合になさ
れる勧告は,これに従わない場合の措置について定めがないから,法的
強制力を伴ったものとはいい難く,結局のところ,この勧告は,当該勧
告の段階では,あるべき都市計画に向けての勧奨であるにとどまり,こ
れをもって当該地区内の土地所有者等の法的地位に直接的かつ確定的な
影響を及ぼすものということはできない。
イ開発行為の制限
地区計画の区域において開発許可の申請がなされた場合,開発行為に
係る敷地上の予定建築物の用途又は申請に係る開発行為の設計が地区計
画の内容に即していることが,開発許可の基準となる(法33条1項5
号。したがって,地区計画を定めた都市計画決定が告示によって効力)
を生ずると,地区計画の区域内においては,開発行為の設計及び開発行
為に係る敷地上の予定建築物の用途等につき従前と異なる基準が適用さ
れ,それが基準を厳格化するものである場合には,新たな基準に適合し
ない開発行為は許可を受けることはできず,ひいてはその開発行為をす
ることができないこととなり,それが基準を緩和するものである場合に
は,従来許可を受けることができなかった開発行為が許可されることと
なる。
このような効果を生じさせる地区計画の決定が,当該地区内の土地所
有者等に都市計画法上新たな制限を課し又は従来の制限を緩和すること
により,その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは
否定できない。しかし,この法的効果は,当該決定時における当該地区
内の土地所有者等のみならず,当該地区内で開発行為を行おうとするど
の者にも等しく及ぼされるものであり,また,この地区計画決定は,そ
の後これに基づいて事業の施行を予定するものではなく,しかも,後記
()のとおり,将来に向けて時期的な制約なく変更が可能なものである。4
したがって,仮に地区計画の決定時における当該土地の所有者等が特定
かつ少数の者であったとしても,この地区計画の決定は,当該地区内で
開発行為を行おうとする不特定多数の者に対し一般的かつ抽象的な規範
を定立するにとどまり,具体的な開発行為について許可又は不許可の処
分がなされる前に,この地区計画の決定によって,直接国民の権利義務
を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとい
うことはできない。
ウ条例による建築制限
市町村は,地区計画の区域において,地区計画の内容として定められ
た区域内の建築物の敷地,構造,建築設備又は用途に関する事項を,条
例でこれらに関する制限として定めることができる(法58条の3,建
築基準法68条の2第1項。)
この規定により条例で定めることができる権利制限の範囲は,建築基
準法施行令によって限定されており,また,条例という地方自治を体現
する手段に基づいて権利制限が行われ,住民はこの条例の制定及び改廃
について請求権を有するものであって(地方自治法74条,権利制限)
は自治的,間接的である。
この条例による制限又は制限の緩和の効果もまた,上記イで説示した
とおり,不特定多数の者に対する一般的,抽象的なものであり,また,
地区計画から条例の内容が一義的に定まるものではなく,地区計画は条
例を制定する場合の準則としての位置付けを受けるものであるから,当
該地区計画によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定
することが法律上認められているものということはできない。
エ道路位置指定による建築制限
市町村長等の特定行政庁(建築基準法2条33号)が,地区計画の区
域において道路位置の指定を行う場合,原則として,地区計画に定めら
れた道の配置又は区域に即して行わなければならない(同法68条の
6。また,特定行政庁は,上記区域において,地区計画に定められた)
道の配置及び規模又は区域に即して予定道路の指定を行うことができる
(同法68条の7。道路位置の指定,あるいは予定道路の指定がなさ)
れれば,当該道路内における建築物の建築は原則として禁止される(同
法44条,68条の7第4項。)
しかし,道路位置地区計画を定めた都市計画決定が告示されても,道
,路位置指定等がなされるまでは建築制限が課せられることはない。また
建築基準法68条の6及び68条の7は,地区計画等に定められた道の
配置(及び規模)又はその区域に即して道路あるいは予定道路を指定す
ることを定めているが,地区計画により難いと認められる場合の適用除
外や,敷地となる土地の所有者等利害関係人の同意を要する旨の規定を
置いており,必ずしも当該地区計画で定めたとおりに道路あるいは予定
道路の指定がなされるとは限らない。したがって,地区計画の内容は,
道路位置指定等の準則の地位にとどまっているに過ぎず,当該地区計画
の決定によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する
ことが法律上認められているものということはできない。
()都市計画決定の変更の要件4
都市計画決定は,都市計画を変更する必要が生じたときは,遅滞なく変
更されるべきものとされており(法21条1項,変更の要件は「変更の)
必要が生じたとき」とされているのみであり,変更の時期についても定め
がない。これを本件都市計画決定のような完結型の都市計画決定について
,みると,完結型の都市計画決定は,その後の事業を前提としないことから
当該都市計画決定が事業の進行により終了するということがないものであ
り,しかも,当該区域の社会,経済状況等の変化に応じていつでもどのよ
うな内容にでもこれを変更することができることから,都市計画決定が確
定するということもなく,都市計画は,都市計画決定に描かれた内容で計
画として存在し続け,必要に応じて必要な範囲内でこれを変更していくこ
とが,制度として予定されているものといえる。
本件変更決定により変更された都市計画決定についても,これをさらに
変更することが都市計画法上可能であり,その時期の制限もない。
()本件都市計画決定及び本件変更決定の処分性5
以上の認定に基づいて考えると,地区計画を定める都市計画決定による
,権利の制限又は制限の緩和は,一般的,抽象的な権利制限の範囲を超えて
直接的ないし確定的に国民の権利を制限し又は制限を緩和するものである
ということはできず,しかも,終期に制限を設けることなく,変更の範囲
も制約することなく,必要があるときは都市計画決定自体を変更すること
ができるものとされているものである。
このような地区計画を定める都市計画決定の内容からすると,本件都市
計画決定は,国民の法的地位に確定的な変動をもたらし,直接国民の権利
義務を形成し,又はその範囲を確定するものということはできないものと
いわなければならない。
このように解すると,本件都市計画決定の実質的な内容を争うには,例
,えば,建築の許可,不許可等の具体的処分を対象とした争いの前提として
本件都市計画決定が違法である旨の主張をすることになるが,仮にその主
張に応じて本件都市計画決定が違法であるとの判断がされたときは,これ
を契機として本件都市計画決定を見直し,これを変更することが可能なの
であり,現実にそのような変更がされるかどうかは,当該地方の自治機能
の実情によって決まるものの,制度的には,その柔軟な構造をもって後の
司法判断に対し合理的な対処を可能とするものということができる。
以上に認定判断したとおり,本件都市計画決定については,これを行
政処分であるということができないのであり,したがって,これを変
更する決定である本件変更決定も,同様に行政処分であるということ
ができず,本件変更決定を抗告訴訟の対象とすることはできないもの
というべきである。
()控訴人らの主張に対する判断6
ア控訴人らは,①原判決は後続の具体的処分の段階で改めて争ったとこ
ろで事情判決を受ける可能性が高いことを看過しており,②後にされる
開発許可を争うことになれば,控訴人ら住民は開発計画が持ち上がるた
,びに取消訴訟ないし差止訴訟を提起しなければならず極めて煩雑である
③開発を行おうとする者にとっても後の処分が取り消されたり差し止め
られた場合には,それまでに費やした資金等が無駄になるのであり不経
済極まりない旨主張する。
しかし,上記のとおり,本件変更決定を前提としてA−1,A−2地
区に建築される建物が,専門店,ホテル等の商業施設や都市型住宅とし
て利用されることが予定されていることに照らすと,本件変更決定の後
に行われる処分を本件変更決定の違法を理由として取り消すこととして
も,それが公の利益に著しい障害を生ずる場合(行政事件訴訟法31条
1項)に当たるという事態は想定し難いといわざるを得ない。開発計画
が持ち上がるたびに住民は取消訴訟を提起しなければならないという主
張は,地区計画を定める都市計画決定が判決確定後も修正されないこと
を前提とした主張である。しかし,一般に取消判決における理由中の判
断は,関係行政庁を拘束すると解すべきであり,判決理由中で違法であ
ることを指摘する判決が確定した場合に,それを都市計画に反映させる
かどうかは,当該地方の自治機能の実情によって決められることである
ものの,被控訴人はその後当該理由中の判断に反する処分等ができなく
なるのである。開発を行おうとする者が都市計画決定の違法性を認める
判断によって不利益を受けることがあり得ることは,訴訟その他の事後
救済制度一般にいえることであり,特別の不利益とはいえない。控訴人
らの上記主張はいずれも採用することができない。
イ控訴人らは,提案制度を利用して行われた本件変更決定は,特定の地
権者による土地開発許可申請に対する承認に等しく,実質的には個人を
名宛人とした個別具体的処分と同視し得るとも主張する。上記主張は,
土地開発を目論む特定の地権者の提案制度に係る提案に基づく都市計画
の決定又は変更が,当該地権者の開発許可申請に対する承認に等しく,
その意味で処分性を有すると主張する趣旨であると解される。
そこで検討するに,提案制度(法21条の2ないし同5)は,平成1
4年改正(平成14年法律第85号)において新設された,提案者が決
定権者に対して都市計画の決定等を提案できるとする制度であり,提案
者は,都市計画基準(法13条等)に適合する都市計画の素案を添付し
て提案を行い,決定権者は,遅滞なく決定等の要否を判断し,上記素案
の内容と異なる決定等をしようとする場合には,上記素案を都道府県都
市計画審議会等に提出しなければならず,決定等を要しないと判断した
場合にも,都道府県都市計画審議会等に上記素案を提出してその意見を
聴かなければならず(法21条の2第1項,同3項1号,21条の3,
21条の4,21条の5第2項,決定権者が都市計画の決定等を要し)
ないと判断した場合には,遅滞なく,その旨及びその理由を提案者に通
知しなければならない(法21条の5第1項)とされている。法の規定
する提案制度は,一体として整備,開発,保全するのがふさわしい一定
の広さ以上の一団の土地について,その所有者等から,都市計画の素案
を添付して,都市計画の決定又は変更の提案をすることを認める制度で
あって(法21条の2,それにより住民等による自主的なまちづくり)
を推進しようとするものである。この規定に基づく提案が充足すべきも
のとして法が規定するのは,それが一体として整備,開発,保全するの
がふさわしい一定の広さ以上の一団の土地を目的とするものであること
(法21条の2第1項)及び対象となる土地の区域内の所有者等の3分
の2以上の同意を得ていること(法21条の2第3項2号)の他は,法
第13条その他の法令の規定に基づく都市計画に関する基準に適合する
ものであることという要件だけであって,当該都市計画の提案が内容的
に充足すべき要件はそれ以外の一般の都市計画が充足すべき要件と全く
同一である。
以上に認定したところに照らせば,都市計画についての提案制度は,
地域の住民に自主的なまちづくりについての提案を行う機会を与えると
ともに,それについて慎重に審議,判断する手続を規定したものである
にとどまり,計画提案に基づいて都市計画を決定し又は変更するには,
法定の要件を満たす必要があり,また,これを前提として開発行為を行
うことが予定されているときでも,それを実施するためには別途開発行
為の許可を受けることを要する(法29条1項)のであるから,提案制
度に基づく都市計画決定又はその変更決定が特定の地権者による開発許
可申請に対する承認に等しいということはできない。
ウ控訴人らは,本件変更決定により眺望の利益が害されることになる建
物を処分しようとする者にとっては,本件変更決定の段階で大幅な価格
下落は避けられないのみならず,後続の行為というものも考えられない
から,利害関係者の救済のためには本件変更決定に処分性を認めるしか
ない旨主張するが,この主張は,制度としては地区計画を定める都市計
画決定が柔軟性を有するものであることを考慮しないものであって理由
がない。ただし,実際に都市計画決定が柔軟に運用されるかどうかは,
当該地方の自治機能の実情により決定されるものである。
2争点2(控訴人らに原告適格が認められるか)について
控訴人らは,本件各マンションから富士山を眺望する利益は生活環境,経
,済活動等と密接な関連性を有する重要な利益であり,都市計画法の手続内で
,都市計画の変更により富士山の眺望の利益を侵害される住民らが意見を述べ
その意思を都市計画に反映させていくとの観点において保護されるべきもの
であるから,当該眺望の利益の保護を求める控訴人らは本件訴訟の原告適格
を有する旨主張する。
行政事件訴訟法9条1項の規定する当該処分の取消しを求めるにつき「法
律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保
護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうの
であり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一
般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的
利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,
このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によ
りこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取
消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成17年
12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照。)
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘
案すべきものである(同条2項。)
このことを前提として検討するに,本件変更決定は,a線δ駅西側に隣接
するα地区地区計画を変更するものであるところ,法が規定する都市計画基
準(法13条1項14号)においては,地区計画を含む都市計画は公害防止
計画に適合することを要し,地区計画は良好な環境の形成又は保持のためそ
の区域の特性に応じて合理的な土地利用が行われることを目途として定める
べきこととされている。そして,地区計画の変更決定において控訴人らの主
張する利益が法律上保護された利益といえるかどうかを判断するに当たって
は,法が,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある
発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(法1条,都市計画は,)
健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこの
ためには適正な制限の下に土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理
念として定めるものとされていること(法2条)を考慮すると,都市計画法
と目的を共通にする関係法令として環境基本法及び環境影響評価法の趣旨及
び目的をも参酌することを要すると考えられる。以上に挙げた法の趣旨,目
的に照らすと,地区計画において達成すべき目的の一つとされている公害の
,防止や良好な環境の形成・保持とは,大気,水質,土壌の汚染や騒音,振動
地盤低下等による人の健康又は生活環境に係る被害の発生を防止することに
よって住民の健康で文化的な生活を確保することを指しているものと解する
ことができる(環境基本法1条,2条3項,16条,環境影響評価法1条。)
しかし,本件各マンションは本件変更決定に係る地区計画の区域外にある
,ものであり,控訴人らが享受しているこのマンションからの富士山の眺望は
将来の事情の変化によっては,居住する階数によって状況に違いがあり得る
ものの,当該地区計画の区域内の建築物のみならず,当該マンションと富士
山との間の何らかの物体によって遮られる可能性があるのであり,都市計画
法その他の上記規定及び関係法令の趣旨,目的を斟酌してみても,都市計画
法が予定する保護法益の中に,このような眺望の利益が含まれるものと見る
のは困難である。本件各マンションから富士山を眺望する利益は,そのマン
ションと富士山との間に,富士山の眺望を遮る物体が何一つ存在しないこと
によって得られる利益であり,本件変更決定に係る地区計画の区域の建築規
制によって保障される性質のものではないからである。富士山の眺望の観点
からいえば,控訴人らが区分所有し又は居住する本件各マンションも,その
東側にある一定範囲内の建物からの富士山の眺望を妨げているのであって,
ある風物の眺望の利益をめぐる利害調整は,地区計画の区域限りの建築規制
によって達成されるものではない。本件において控訴人らが主張する富士山
眺望の利益は,本件各マンションの区分所有者又は居住者である控訴人らと
その眺望を遮る結果を生む可能性のある建築物の建築主間の個別の問題であ
るといわざるを得ない。
したがって,控訴人らの主張する眺望の利益が都市計画法において法律上
保護された利益であると解することは困難であり,控訴人らの主張する眺望
の利益に基づいて,控訴人らに本件変更決定の取消しの訴えを提起する原告
適格を認めることはできないものといわざるを得ない。
第6結論
以上のとおりであって,本件訴えは処分性及び原告適格において不適法で
あり,却下すべきであるから,本件各控訴をいずれも棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京高等裁判所第10民事部
裁判長裁判官園尾隆司
裁判官藤山雅行
裁判官藤下健

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