弁護士法人ITJ法律事務所

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          主        文
 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴人らの申立て
 1 原判決主文2,3項中,被控訴人らに関する部分を取り消す。
 2 被控訴人らは,控訴人らに対し,各自,別紙請求金額一覧表の各控訴人に対
応する請求額欄記載の各金員及び同各金員に対する平成8年12月6日から各支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 4 2項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
   事案の概要は,以下のとおり加除訂正するほか,原判決の事実及び理由中の
「第2事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原審で
確定済の被告A及び同Bに対する請求に関する部分を除く。)。
 1 原判決4頁7行目末尾の後に,「また,原告C及び原告Eは,本訴提起後原
審口頭弁論終結前(原告Cについて平成11年2月9日,原告Eについて平成12
年12月15日)に死亡し,それぞれの被控訴人らに対する本件損害賠償請求権及
び本件訴訟上の地位を,原告Cについては,同人の養子であるD(当事者目録第1
の328番。なお,同324番と同一人物。)が単独で承継し,原告Eについて
は,同人の子であるF,G及びHの3名(同451番-1ないし3)が,各1/3
の割合で承継した。さらに,控訴人Iは,本件控訴後の平成14年1月18日に死
亡し,同人の被控訴人らに対する本件損害賠償請求権及び本件訴訟上の地位をその
妻であるJ(同143番)が単独で承継した。」を付加する。
 2 同5頁6行目の「本件許可当時」を「同社は,被控訴人県の指導を受けて金
融業を分離するにあたって,顧客からの預かり金を単に帳簿上Kファイナンスに移管
しただけでその実態は従前と全く変更していなかった。すなわち,L相互住宅は,
本件許可申請のために金融業を分離した当時」と改め,同8行目から9行目の「あ
ったものであるから」を「あり,分離後も顧客に対して同積立金の返還義務を負担
していたにもかかわらず,許可申請書に添付された分離後の同社の決算書類からは
これらの積立金返還債務の大部分が除去されて,それらは同社の簿外負債となって
いたのである。したがって,」と改める。
 3 同6頁9行目の「したがって」から同17行目末尾までを以下のとおり改め
る。
 「 仮に,上記のように和歌山県知事がL相互住宅の金融業の分離や積立式宅建
業の許可申請に積極的に関与したとまでは認められないとしても,被控訴人県の担
当職員は,同許可前から同社が顧客から積立金を預かっていたのを宅建業者に対す
る一斉調査で認識していたこと,本件許可申請にあたって提出された同社の登記簿
や定款には積立式宅建業の業務が記載されていたこと,本件許可申請に伴って提出
された同社の金融業分離直前の決算書類には,約12億円の短期借入金がある一
方,同様に提出された取引銀行の回答書によれば当時の銀行借入は1億円あまりで
あり,このことからすれば短期借入金の大部分が積立金として顧客から預かったも
のであり,金融業分離にあたり同社が顧客との関係でもこの積立金返還債務を免れ
ていなければそれがすべて同社の簿外債務となることは容易に想像がつく事柄であ
ったこと,さらに,同様に許可申請に伴って提出された分離前3年間の比較損益計
算書,比較貸借対照表は本法5条1項2号の資産要件をクリアできるか否かに関わ
る多額の違算や不審点が複数ある杜撰なもので,とりわけ,分離直前の昭和49年
5月期の貸借対照表と損益計算書には3800万円もの不一致があって,その内容
からも容易に同社の財務内容の健全性に問題があると読みとれることなどの事情に
照らせば,同社には許可申請時点で簿外に多額の積立金返還債務があって本法5条
1項2号の許可要件を欠くことや,この積立金返還債務について積立金保全措置が
なしえないことについて,少なくとも容易に認識可能であった。
   さらに,L相互住宅は,被控訴人県の指導を受けて金融業を分離するにあた
って,顧客からの預かり金を単に帳簿上Kファイナンスに移管しただけでその実態は
従前と全く変更していなかったが,被控訴人県の担当職員は,建設省との相談・協
議の中で,その趣旨が,積立式宅建業者が金融業を兼業する場合,本法の積立金が
金融業の貸付金の原資に流用されるおそれがあるためであることを認識したうえ
で,金融業の分離を指導したのであるから,この金融業分離が実態を反映し,分離
後のL相互住宅に関する許可要件の審査が適正に行われうるものであるかを確認す
る必要があったのに,分離について形式的に書類を提出させただけで実態を把握し
なかったものである。
   以上のとおり,本件許可は明らかに許可要件を欠く違法なものであるとこ
ろ,和歌山県知事はそれを知りつつ,少なくとも,許可要件を欠くことを窺わせる
様々な事情から本件許可が違法であることを認識し得たにもかかわらず,何ら実質
的な審査をしないまま,これを許可したものであるから,和歌山県知事が本件許可
を行ったことは国賠法上も違法であり,本件許可後,同社は許可業者として営業を
継続したものであるから,この違法性は許可の取消等があるまで継続するというべ
きである。そして,以上に指摘した事情によれば,和歌山県知事において,同社が
本件許可後も従前と同様の積立金業務を継続し,その顧客獲得のために本件許可を
錦の御旗として最大限利用すること,是正について十分監督していなければ,同社
が違法な積立金業務を続け,原告らのような被害者が生じることは予見可能で,予
見義務もあった。
   被控訴人らは,本法の許可制度は,当該許可業者の不正な取引により個々の
取引関係者が被る具体的な被害の防止ないし救済を直接の制度目的とするものでは
ないなどとして,仮に本件許可が違法であっても,控訴人らに対する関係で国賠法
上も違法性があるとはいえないと主張するが,本法が顧客の保護を目的として前受
金保全措置などを導入した宅建業法の改正と抱き合わせで審議・成立したという立
法経過や本法の前記立法趣旨を理解しないものである。許可基準に適合していない
業者が積立式宅地建物販売のマーケットに参入すれば,マーケットにおいて問題を
起こし,消費者に損害を与えることは本法が想定しているところであり,本法はそ
れを前提に許可基準や監督処分などの制度を制定しているのであるから,本法によ
る権限行使は消費者保護のために行われるものと解すべきであり,したがって,消
費者に損害が発生している事態は違法な許可という違法な公権力行使に起因するも
のであって,許可基準に適合しない業者に許可を与える違法な行為は控訴人らに対
する関係においても,国賠法1条1項の違法性があると解すべきである。」
 4 同19行目の「『10年間での是正』という脱法行為まで指南して」を「そ
の」と改める。
 5 同7頁21行目の「根拠のない推論である。」の後に「L相互住宅について
宅建業の一斉調査を行った被控訴人県の担当職員は本来の調査目的外の積立金の内
容について十分調査し得たわけではなく,そもそも本件許可申請前に同社が行って
いた積立金の預かりは本法に基づくものでなく金融業によるものと認識していたの
であり,その後の積立式宅建業の許可申請においても,和歌山県知事はその許可を
するか否かを審査したのであって,同社の簿外資産の有無を把握するために審査を
したのではない。したがって,本件許可前の積立金について本法の積立金保全措置
を行わなければならないとの認識を持っていたわけではないし,この積立金につい
ては,本件許可申請に伴って行われた金融業の分離により,許可後の同社は引き継
がないものと認識していたのである。控訴人らは,和歌山県知事が金融業務との分
離を指導した以上,知事はそれが実態を反映した適切なものかを調査する必要があ
ったと主張するが,知事は,L相互住宅から金融業を完全に分離した旨の財務諸表
の提出を受けていたのであり,分離によりKファイナンスが新たに設立された後は同
社に対する調査の権限を有しないのであるから,控訴人らの主張は失当である。」
を付加し,同24行目の「おもんばかった」を「慮った」と訂正し,同25行目の
「裏付けるものではない。」の後に「控訴人らは,許可申請に添付されたL相互住
宅の商業登記簿や定款に記載された目的や,申請に伴って提出された過去の財務諸
表に違算等があることを指摘して,同社が本法の許可要件に欠けることを疑わせる
事情であるとも主張するが,これらは単なる違算と考えられるし,そもそも本法の
許可要件は許可申請時の財務状態について検討すべきものであって,過去3期分の
分離前後の財務諸表は念のための参考資料に過ぎず(特に,分離後のものとして作
成された部分は,既に分離しない状態で決算を終えたものについて仮に作成された
ものである。),これらの財務諸表の内容や登記・定款上の目的の記載から,同社
が多額の簿外債務を有しており,本法の許可要件を欠く業者であると認識すること
はできないというべきである。」を付加する。
 6 同9頁20行目の「いたことを知り,」の後に「また,前記のとおり,同社
が許可当時から健全な財政的基盤を有しておらず,多額の簿外負債も存在し,本法
5条1項2,3号の許可要件を欠くことを認識し,少なくとも認識可能性を有して
いたのであり,さらに,」を付加する。
 7 同10頁16行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
 「 被控訴人らは,本法が定める監督処分権限の行使は知事等の専門的判断に基
づく合理的裁量に委ねられている旨主張するが,前記のとおり,本法の重要な目的
が購入者等の利益保護にあることや,これを受けて通達(昭和46年12月14
日・計宅政発184号・各都道府県知事あて建設省計画局長通達)においても『許
可を与えた業者に対しては,その実体を十分把握し,法令違反等の事実がある場合
には,許可の取消し,業務の停止等の厳重な処分を行う必要があるが,この業にお
いては,業者の経営が不振となった場合や不健全な業務運営が行われている場合に
は,相手方が不測の損害をこうむるおそれが特に大きく,許可の取消しや業務の停
止処分のみによってはその保護を十分図ることはできないので,このような事態が
生じないよう,常時,必要な指導,助言又は勧告を行うとともに,万一業者の財産
の状況又は業務の運営につき是正を加えることが必要かつ適当と認められるような
事態が生じたときは,すみやかに法第42条に規定する改善命令を行うことができ
るよう執行体制を整備すること。』と命じていることからすれば,そのように解す
ることは到底できないというべきである。」
 8 同11頁6行目の「その旨認識していた」の後に,「又は認識し得た」を付
加する。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人らの本訴各請求をいずれも棄却すべきと判断するとこ
ろ,その理由は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由中の「第
3争点に対する判断」欄記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原審
で確定済の被告A及び同Bに対する請求に関する部分を除く。)。
  (1) 原判決16頁9行目の「甲B3ないし10,」の後に「甲B14,15」
を,同11行目の「甲D34,」の後に「甲D42,甲D45」を,同12行目の
「証人M,」の後に「当審における証人N,」を,同13行目の「枝番を含む。」
の後に「人証については,当審における証人N以外はすべて原審におけるものであ
る。以下同じ。」を,それぞれ付加する。
  (2) 同17頁10行目の「被告県の職員は,法令の手付金額」を,「被控訴人
県の担当職員Mは,同社が建設大臣からでなく和歌山県知事からの免許しか取得し
ていないにも関わらず,大阪府泉南市にも支店を設置して営業していることや,取
引の中に法令で制限されている手付金額」と改める。
  (3) 同15行目から16行目の「金融業は建築課の権限の範囲外であるので」
を,「同社の説明を信用し,金融業としての積立金ならば積立式宅建業法上の積立
金ではなく,建築課の権限の範囲外であると考えて,仮にそれが金融業として行わ
れていれば出資法に違反することなどには思いが至らず」と改める。
  (4) 同18行目の「同社は」の前に,「上記調査結果を受けて,同社は,被控
訴人県(住宅課)に相談に赴いたところ,法令で制限された以上の手付金の受領を
しないことや建設大臣からの免許を取るまで泉南支店での営業を廃止することを指
導され,これに従うことを約束するとともに,積立式宅建業の許可を申請したい意
向を示し,その後もこの許可申請手続のために複数回住宅課を訪れて担当職員のM
らに手続について相談し教示を受けたりした。そのうえで,」を付加する。
  (5) 同25行目冒頭から同18頁2行目末尾までを,以下のとおり改める。
  「 被控訴人県からの上記指導を受けて,L相互住宅の代表者であったOは,
金融業を分離させるためにKファイナンスを設立し,従前のL相互住宅の資産・負債
を帳簿上同社とKファイナンスとに分け,従前の積立金業務による顧客から預かった
積立金はKファイナンスに移管することにしたが,これは,帳簿上の処理のみであっ
て,顧客との関係では,積立金返還債務の債務者をKファイナンスに移転するなどの
手続きはとられず,従前のままであり,また,上記分離の結果,L相互住宅の泉南
支店は商業登記簿上も閉鎖したものの,Kファイナンスの泉南支店として従前同様積
立金業務を行うことになった。」
  (6) 同12行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
  「 これら直前3年間の比較決算書類は,既に分離しないまま決算が終了した
ものについて,仮のものとして分離後の計算をしたものであったが,比較貸借対照
表には,分離前には短期貸付金が約8億円ないし12億円計上されている一方,分
離後には2億円ないし3億円しか計上されておらず,銀行取引証明書に記載されて
いる銀行借入は1億円あまりだけであった。また,比較損益計算書,比較貸借対照
表には,違算と思われる数値の一致しない部分が複数あり,特に分離直前の昭和4
9年5月期(14期)には3800万円もの不一致があるうえ,分離により売上高
や支払利息が増加しているなど不合理な点が存在するものであった。さらに,実際
に分離するにあたっての昭和49年7月期(15期)の財務諸表も,単に帳簿上L
相互住宅の資産・負債を同社とKファイナンスに振り分けただけのもので,実態と合
致するものではなかった。」
  (7) 同19行目の「法的処理はどのようになされたか」の後に,「,分離後の
L相互 住宅は従前の積立金の返還債務を負担していないのか」を付加する。
  (8) 同19頁10行目の「資金であったので,」の後に「顧客との関係では,
L相互 住宅が通帳や証書を発行して積立金を預かるものの,それはそのまま」を
付加する。
  (9) 同21頁6行目の「しかし,」を,「この事業報告書自体は,L相互住宅
の宅建 業及び積立式宅建業の業務が順調に推移していることを示す内容となって
いたが,これは,」と改める。
  (10) 同19行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
  「 また,Pに監査証明を依頼したQも,自らは事業報告書に添付する決算書
類の作成にもほとんど関与せず,自己の会計事務所の職員であるNに同社から受領
した試算表をもとに決算書類を作成させたのみで,同社が作成する試算表の内容や
その原資料の確認をしていなかった。」
  (11) 同24行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
  「(5) 以上の認定に対し,控訴人らは,前記のとおり,被控訴人県は,昭和4
8年に実施した宅建業法に基づく立入調査を契機にL相互住宅が本法に違反して上
記認定にかかる積立金業務を行っていることを知り,金融業を分離する段階でも同
社には約100億円(帳簿上でも約11億円)の簿外債務があり,本法の資産要件
(5条1項2号3号)を満たしていないことを知りながら,同社に本法の許可をと
らせる一方で金融業を分離して今後10年間で上記のような業務状態を改善するよ
う脱法行為を指南した旨主張するところ,平成9年3月27日当時被控訴人県の土
木部建築課長であったRが本件許可当時の被控訴人県の担当職員であった前記Mか
ら聞き取りを行った際のメモ(甲B6の4)には,L相互住宅が本法の許可申請を
行った経緯について,Mが「同社を宅建業の指導の中で立入検査をし,帳簿か何か
を見ていた際,積立式宅地建物販売業と言えるような内容を行っていることを見つ
けた。社長の解釈では,金を集める方は金融業で,土地を売る方が宅建業だという
ことであったが,そのままの状態では法律違反になってしまうため,是正のため指
導し積立式宅地建物販売業法の許可を取らせた。」と,本件許可申請当時,Mが同
社を問題のある会社と知りつつ許可が取れるよう指導したとも理解できる記載があ
るほか,証人S,併合前の証人Aの証言中にもこれに沿う部分がある。
     しかしながら,Mは,その証人尋問において,上記立入調査当時L相互
住宅が行っていた積立金業務について,同社から金融業の積立だと説明を受けてそ
のように理解したと証言していること,同メモの記載とMの証言との相違は当時の
Mの認識という微妙な言い回しによってニュアンスが大きく変わる点であるとこ
ろ,上記Rのメモは,L相互住宅が倒産し,その違法な積立金業務が明るみに出た
後に,Rが,本件許可申請当時の事情を聞き取るために呼び出してヒヤリングを行
い,後になってMの説明に関する自らの理解したところを記載したもので,正式な
報告文書でもなく,Mに見せたり読み聞かせたりして確認したものでもないことか
らすれば,上記Rのメモの記載の信用性を特に高く評価することはできないという
べきであるし,そもそも,同メモの記載内容は,控訴人らの主張するような被控訴
人県の行為全部を裏付けるものとは到底解されない。また,上記証人S及び同Aの
証言部分についても,両名の刑事事件における捜査段階の供述と一致しない部分が
散見され(被控訴人県から『10年以内で業務状態を改善せよ』と指導されたとの
部分は捜査段階では全く供述していない。),その一致しない部分の多くは自己の
責任を回避する方向に変遷していることや,証言内容自体,死亡したOからの伝聞
であることに照らせば,その信用性を高く評価することはできない。さらに,本件
全証拠に照らしても,被控訴人県には,L相互住宅が本法の許可要件を欠いている
ことを知りながら,敢えて同社に本件許可を与えなければならない特段の事情も認
められない。これらによれば,上記Rのメモや証人S及び同Aの証言から控訴人ら
の上記主張事実を認定することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はな
い。」
  (12) 同22頁1行目の「2条」を「2章」と,1行目,4行目(2か所),
6行目,8行目から9行目,10行目,13行目,19行目,24行目及び25行
目の「免許」をいずれも「許可」と改め,同20行目から21行目の「許可を付与
した業者の人格,資質等を一般的に保証し」を「許可を付与した業者の業務内容の
適正さや財務内容,財産的基礎等を個々の取引関係者に対して一般的に保証し」
と,同23行目の「解しがたく」を「にわかに解しがたく」と,それぞれ改める。
  (13) 同23頁3行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
  「 これに対し,控訴人らは,前記のとおり,本法における許可官庁及び監督
官庁は積立式宅建業者により一般的消費者が被る被害について保証人的立場に立
つ,などとして,許可基準に適合しない業者に許可を与える行為は,そのことをも
って控訴人らに対する関係においても国賠法1条1項の違法性があると解すべきで
あると主張し,本法の立法趣旨や,本法が,許可基準に適合していない業者が積立
式宅建業を行った場合に個々の取引相手に不測の損害を与える危険性があることを
想定して許可基準や監督処分などの制度を設けていることからすれば,これらは積
立式宅建業というシステムの不可欠の前提であって,それが十分審査され厳格な権
限行使ができないのであれば,そのこと自体が本法に違反するのであり,むしろ積
立式宅建業自体を禁止すべきであったとも主張するが,個々の取引関係者の利益保
護の側面のみを過度に強調する見解であって採用できない。」
  (14) 同4行目冒頭から同24頁10行目までを,以下のとおり改める。
  「② 以上の見地から,本件について判断する。
     上記1で認定した事実関係によれば,控訴人ら主張のとおり,L相互住
宅は,積立式宅建業の許可申請前から,顧客から『短期積立金』『長期積立金』の
名目で金員を預かる積立金業務(その実質は銀行等の定期預金と同じで,正確には
本法の積立金ではないが,長期積立金は積立の形式において本法の積立金に類似す
る。)を行っており,それが業務の大部分を占めていたため,これに応じた多額の
積立金返還債務を負っていたこと,Oは同社が本件許可申請をするにあたり,被控
訴人県の指導を受けて金融業を分離するためにKファイナンスを設立し,帳簿上,従
前のL相互住宅の資産・負債を同社とKファイナンスに分けた結果,これらの積立金
返還債務の大部分はKファイナンスの債務とされ,同許可申請時点でL相互住宅が被
控訴人県に提出した分離後の同社の決算書類においては,負債として計上されてい
なかったこと,ところが,この金融業の分離は帳簿上の操作を行っただけのもので
あり,顧客との関係では分離後のL相互住宅も上記積立金返還債務を負担していた
ため,これらは同社の簿外債務となり,これを正規に負債に計上すれば,許可申請
当時のL相互住宅は本法5条1項2号,3号の要件を満たさない状態であったとい
うことができる。
     しかしながら,上記認定にかかる,和歌山県知事は,本件許可申請にあ
たり,L相互住宅に対し,本法にのっとった業務が行われるべく,金融業務の分離
及び約款の内容等に関する指導を行っており,同社も(その真意はともかく)指導
に従う姿勢を見せており,同社が本件許可申請に際して提出した資料においては,
同社が本法5条1項各号の積極的要件を満たしていて,6条の消極的要件に該当す
る事由はなかったことや,本件許可後同社が平成8年に破産するまで,同社の顧客
から被控訴人県への苦情やトラブルの報告はなかったこと,控訴人らが行った積立
は,被控訴人県に提出されていた同社の約款の内容とは異なるもので,高金利がう
たい文句となり,控訴人らが積立をする動機となったと思われること(なお,積立
式宅建業の場合,利息をつけての払い戻しなどは予定していない。違約金をつけて
返還することはあるが、それは契約が解除になり、その責任や原因が業者側にある
場合だけである。)などの事情に照らせば,上記のとおり本件許可自体は本法所定
の許可基準に適合しないものであったとしても,本件許可の概ね15年以上後に同
社と取引関係を持つに至った控訴人らに対する関係で,これが直ちに国賠法1条1
項にいう違法な行為にあたるものではないというべきである。
     これに対し,控訴人らは,和歌山県知事はL相互住宅の多額の簿外負債
の存在,すなわち同社が本件許可基準を満たしていないことを認識していながら,
脱法行為を指南し敢えて本件許可を行ったものであり,少なくとも同社が本件許可
要件を欠いていることを容易に認識し得たものであるから,本件許可は国賠法上も
違法である旨主張する。
     しかしながら,和歌山県知事が,L相互住宅が本件許可基準を満たして
いないことを認識していながら,脱法行為を指南し敢えて本件許可を行った事実が
認定できないことは前記のとおりである。
     また,上記認定にかかる,被控訴人県は,その内容の詳細はともかく,
本件許可申請当時,L相互住宅が積立金業務を行っていることを認識していたこ
と,積立式宅建業者が金融業を兼業する場合本法の積立金が金融業に流用されるお
それがあるため,同社に金融業を分離するよう指導していたこと,本件許可申請に
伴って提出された同社の分離前3年分の比較決算書類には,計算の不一致や不合理
な点が複数存在していたことなどの事情に照らせば,確かに,被控訴人県が,これ
らの事情を端緒として,同社の本件許可前の積立金業務の内容を調査確認し,金融
業分離及び本件許可申請の際に,提出された財務諸表の内容を精査し,帳簿上の金
融業分離が実態に合致しているか否かや分離後の同社に関する計算書類の内容が真
実か否かについて踏み込んだ調査を行い,同社がこれに正直に応じていれば,同社
が従前の積立金返還債務という多額の簿外負債を負担していて本法の資産要件を満
たさないことが判明し,和歌山県知事が本件許可をしなかった可能性はあったと考
えられる。しかしながら,被控訴人県がL相互住宅の積立金業務の存在を認識した
のは宅建業に関する立入調査においてであり,上記認定にかかる同調査の目的・調
査対象からすれば,同調査の時点で帳簿類を見るなどして同社の積立金業務の内容
や規模の実態を認識し得たとは認めがたいし,それを把握するための調査を行うべ
き義務も認めることはできない。また,金融業分離については,金融業を完全に分
離した旨を記載したO名義の説明書が提出されており,控訴人らが指摘する金融業
分離前3年間の比較決算報告書の計算の不一致や不審点も,それらの決算書類は,
そもそも既に分離しない状態で決算がなされた同社の会計について,以前に分離が
なされていた場合を仮定して仮に計算し直した計算上のものであるうえ,同社の積
立金業務の実態を把握していない当時の被控訴人県の認識に立ってこれを検討した
場合にも,その記載から容易に分離後の同社の簿外負債の存在を推認させるような
ものとはいえないというべきである。これらの事情をも併せ考えれば,上記の事情
から,和歌山県知事が,本件許可当時同社に許可要件が欠けていたことを容易に認
識し得たとまで認めることはできず,本法において業者の財産的基盤に関する許可
要件が設けられた趣旨やその重要性を十分考慮しても,なお,和歌山県知事の本件
許可行為をもって,控訴人らに対する関係で国賠法上違法な行為にあたるとまで解
することはできないというべきである。
   ③ さらに,上記②に検討した事情によれば,和歌山県知事において,L相
互住宅に本件許可を付与することが控訴人らの損害を生じさせることを予見し,ま
たは予見可能性があったとも認められないというべきであるから,和歌山県知事に
過失を認めることもできない。
   ④ 以上の次第で,和歌山県知事がL相互住宅に本件許可を付与したことに
ついて国賠法上の違法性も過失も認められないから,控訴人らの主張する本件許可
付与による賠償責任はこれを認めることができない。」
(15)同25行目末尾の後に,行を改めて,以下のとおり付加する。
  「 この点,控訴人らは,前記のとおり,本法の重要な目的が購入者等の利益
保護にあることや,これを受けて通達(昭和46年12月14日・計宅政発184
号・各都道府県知事あて建設省計画局長通達)が『常時,必要な指導,助言又は勧
告を行うとともに,万一業者の財産の状況又は業務の運営につき是正を加えること
が必要かつ適当と認められるような事態が生じたときは,すみやかに法第42条に
規定する改善命令を行うことができるよう執行体制を整備すること。』と命じてい
ることからすれば,和歌山県知事の監督処分権限の行使がその合理的裁量に委ねら
れているとは解されない旨主張するが,既に認定,判断したとおり,本法が許可制
度を設けた趣旨は,直接的には相当な財産的基礎と適格な人的構成を有しない業者
の関与を未然に排除することにより,積立式宅建業務の適正な運営と積立式宅建取
引の公正を確保することにあり,本法における監督処分権限の趣旨がこの許可制度
及び法の定める各種規制の実効を確保する趣旨のものであることや,本法における
監督処分権限に関する規定の内容に照らし,採用できない。」
  (16) 同25頁20行目の「何らの非も認められない」を「格別の落ち度があ
るとまではいえない」と改め,同26頁9行目末尾の後に,行を改めて,以下のと
おり付加する。
  「 これに対し,控訴人らは,L相互住宅は,本件許可当時から本法の許可要
件を欠いていたところ,和歌山県知事はそのことを認識し,少なくとも認識可能性
を有していたものであり,また,本件許可後においても同社は許可要件が欠け続け
ていたのであるから,もともと許可をすべきでなかったし,許可を与えた後は許可
の取消しや契約締結禁止命令を発するべきであったと主張するが,本件許可当時,
和歌山県知事が同社に本件許可の要件が欠けていたことを認識し又は認識し得たと
認められないことは,既に認定,判断したとおりである。
    さらに,控訴人らは,和歌山県知事は,本件許可にあたって,積立金の金
融業への流用のおそれがあることから,同社から金融業を分離させて許可以前から
の積立金をKファイナンスに移管させたのであるから,そのような流用が行われない
よう,常時,より厳格な形で監督を行うべきであったとも主張するが,上記に認定
した諸事情(和歌山県知事は,本件許可当時金融業は分離されたものと認識してお
り,Kファイナンス設立後,同社とL相互住宅とは帳簿類も別々に作成され,同社が
毎年提出していた事業報告書上,同社の状況について格別問題性は見あたらず,同
報告書には公認会計士の監査証明が添付されていたこと)に照らせば,本件許可当
時,同社に金融業を分離させたことから,和歌山県知事に控訴人ら主張のような厳
格な監督義務までを認めることはできないというべきであるから,控訴人らの上記
主張も採用できない。」
 2以上によれば,原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないか
らこれを棄却し,民事訴訟法302条,67条,61条,65条を適用して主文の
とおり判決する。
     大阪高等裁判所第1民事部
         裁判長裁判官   横    田    勝    年
            裁判官   松    本    哲    泓
            裁判官   末    永    雅    之

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