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裁判例


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       主   文
一 被告が原告a、同b、同c、同dに対してした昭和五三年六月二〇日付減給一
月の各懲戒処分及び原告e、同fに対してした同日付戒告の各懲戒処分はいずれも
無効であることを確認する。
二 被告は
1 原告aに対し金五万四六八六円及びこれに対する内金三万九一一四円について
は昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇一五円については同年七月二一日から
2 原告bに対し金六万〇六四〇円及びこれに対する内金三万九七九五円について
は同年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から
3 原告cに対し金六万〇六四〇円及びこれに対する内金三万九七九五円について
は同年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月二一日から
4 原告eに対し金三万七八八二円及び内金三万三九四一円に対する同年六月二一
日から
5 原告dに対し金四万八五〇〇円及びこれに対する内金三万七六八〇円について
は同年六月二一日から、内金一万〇八二〇円については同年七月二一日から
6 原告fに対し金三万二九八八円及びこれに対する同年六月二一日から
 各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項同旨
2 被告(「被告」とあるのは承継前の「日本電信電話公社」をいうものとする。
以下同じ。ただし、日本電信電話公社は、昭和六〇年四月一日をもつて解散し、同
日成立した日本電信電話株式会社に承継されたことにより、同日後に関するものに
ついて「被告」とあるのは「日本電信電話株式会社」をいうものとする。)は原告
aに対し金五二万四六八六円及びこれに対する内金五〇万九一一四円については昭
和五三年六月二一日から、内金一万一〇一五円については同年七月二一日から支払
ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告bに対し金五三万〇六四〇円及びこれに対する内金五〇万九七九五
円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月
二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告cに対し金五三万〇六四〇円及びこれに対する内金五〇万九七九五
円については昭和五三年六月二一日から、内金一万一〇五〇円については同年七月
二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告は原告eに対し金三〇万七八八二円及び内金三〇万三九四一円に対する昭
和五三年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
6 被告は原告dに対し金五一万八五〇〇円及びこれに対する内金五〇万七六八〇
円については昭和五三年六月二一日から、内金一万〇八二〇円については同年七月
二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
7 被告は原告fに対し金三〇万二九八八円及びこれに対する昭和五三年六月二一
日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
8 訴訟費用は被告の負担とする。
9 第2ないし第8項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 被告は公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務等を行うため日本電信電話公
社法(以下「公社法」という。)に基づき設立された法人である。
2 原告らはいずれも被告の職員で、被告管下の仙台中央電報局(以下「仙台中
電」という。)に勤務し、原告a(以下「原告a」という。)は運用部配達課に、
原告b(以下「原告b」という。)及び同cは運用部電話通信課に、原告eは運用
部第一通信課に、原告d(以下「原告d」という。)及び原告f(以下「原告f」
という。)は運用部検査課に所属しているものである。
3 ところで、被告は、原告らがいずれも上長の就労命令に従わず、無断欠勤をし
たとして、昭和五三年六月二〇日(以下日付につき年度を示さないものは昭和五三
年度をさす。)付けで、原告らを別表(一)記載の各懲戒処分(以下これを適宜
「本件懲戒処分」という。)に付し、かつ、原告らが昭和五三年六月二〇日に受給
すべき賃金から同表記載の各金員を差し引いた(以下これを適宜「賃金カツト」と
いう。)。また、減給の懲戒処分に付した原告らに対しては、同年七月二〇日に支
給すべき賃金から同表記載の各減給額を差し引いた。
4 しかしながら、被告の本件各懲戒処分はいずれも違法、無効であり、被告は原
告らに対しそれぞれの賃金カツト額、また、原告a、同b、同c、同dに対しそれ
ぞれの減給額を支払う義務がある。
5 また、原告らは、被告の故意又は過失による違法な懲戒処分たる不法行為によ
り多大な精神的苦痛を受けており、これを金銭に評価すると、その損害は、減給の
懲戒処分を受けた原告らについては各金三五万円、戒告の懲戒処分を受けた原告ら
については各金一五万円を下らない。
 さらに、原告らは、違法な本件懲戒処分の無効確認、右慰藉料等の支払を求める
ための訴訟を弁護士に依頼することを余儀なくされたもので、原告各自につきその
手続費用金一五万円が右違法な懲戒処分と相当因果関係に立つ損害である。
6 よつて、原告らはそれぞれ被告に対し、本件懲戒処分の無効確認及び別表
(二)記載の各金員の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
 請求原因1ないし3は認め、その余は争う。
三 被告の抗弁
 被告が本件各懲戒処分を行うまでの経緯及び処分の理由は以下に述べるとおりで
あり、これらはいずれも適法、有効なものである。
1 被告事業の公共性とその廉潔性の保持
(一) 被告は「公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公
衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し並びに電気通信による国民の利便を確保す
ることによつて、公共の福祉を増進することを目的として」設立された公法人たる
公共企業体であり(公社法一条、二条)、その事業内容は、いわば国家社会の神経
系統の機能を営むものであり、無数の緊急を要する通信を昼夜をわかたず迅速に取
り扱うべき使命を有していることから、高度の公共性、独占性を有し、国家、国民
の日常活動にとつて不可欠の役務を提供しているものである。
(二) そして、右のような被告の事業内容の高度な公共性から、被告において
は、円滑な事業の運営の確保と並んでその廉潔性の保持を社会から強く要請ないし
期待されているのであつて、これがまた、被告職員の職場外における職務行為と無
関係な所為に対しても、一般私企業の従業員に比較し、より広くより厳しく規制が
なされうる合理的な理由となつている。このことは、後述するように、年次有給休
暇(以下「年休」という。)の処理、その他職員の服務の管理についても、右の観
点に立脚して行われなければならないことを意味するのであつて、いやしくも、社
会的批判の対象となるような服務の管理は、厳にこれを慎まなければならない。
2 仙台中電の所掌業務、組織、機構及び勤務体制
(一) 所掌業務
 仙台中電は、公衆電気通信役務の一つたる電報サービスの提供を主たる業務とし
ている。電報サービスは、全国に張りめぐらされた電報中継交換網により提供され
ているものであるが、仙台中電は、右中継交換網上東北地方の総括局として、同地
方に発着する電報の中継交換を行うという右ネツトワーク上の枢要な役割を果たし
ている。また、仙台中電は、電報の中継交換業務のほか、吉岡、松島を北限とする
宮城県中央部と白石市に至る県南地方を固有の受持区域とし、同区域内に発着する
電報の受付・配達業務を行つている。したがつて、仙台中電の行う電報中継交換及
びそのそ通業務が停滞するときは、自局管轄区域のみならず、東北地方に発着する
電報のそ通に重大な影響を及ぼすことになり、国民各層に対して回復しがたい損害
を与えるおそれが極めて強い。
(二) 組織機構
 仙台中電は、被告の宮城電気通信部の管轄下にある現場機関で、その組織は局長
以下次表のとおりである。
<06101-001>
 右のうち、直接電報業務に携わつているのは、運用部に属する配達課、電話通信
課、第一通信課、第二通信課、検査課の五課及び電報の受付、料金の収納などの窓
口業務を行う営業課である。
(三) 勤務体制
 仙台中電においては、直接電報業務に携わる運用部門の関係各課が二四時間(終
日)業務体制を採るため、右各課所属の職員を日勤、夜勤、宿直宿明勤務など就業
時刻を異にする服務形態を組み合わせた交替制による服務に従事させているが、右
のような勤務体制を円滑に実施し、時間帯ごとに予想される業務を支障なく処理す
るために必要な人員を確保することを目的として、職員の交替服務の仕方について
定めた「服務線表」(時間帯別要員配置表)を、全国電気通信労働組合(以下「全
電通労組」という。)の仙台中電における対応機関である全電通仙台中電分会と協
議のうえ決定し、右服務線表に基づき所属長(各課の課長)が、交替勤務に従事す
る各職員の具体的な勤務割を少なくとも四週間を下らない期間ごとに決定し、これ
を事前に各職員に通知することとしている。これにより被告は業務の円滑な遂行に
必要な人員を確保できる一方、職員においても、長期間にわたつて勤務日及びその
始、終業時刻並びに週休日が指定されることにより計画的な生活を送れるようにな
つている。なお、個々の職員に対する具体的な勤務割の指定は、服務線表に基づく
ものであるから、一定の順序をもつて規則正しく行われているが、その指定にあた
つては職員の技能、経験等も勘案され、職員の健康管理面にも充分配意されている
(例えば、午後四時から翌日の午前九時までの深夜二日間にわたる勤務((宿直宿
明勤務))の翌日には週休日を二日間連続して付与し、かつ、右のような深夜勤務
は一二日ごと、あるいは六日ごとに一日などの一定の間隔をおいてこれを設定して
いる。)。
 また、昭和五三年当時仙台中電の取り扱つた電報通数は、一日平均一万通(受持
区域内発着電報三〇〇〇通、中継電報七〇〇〇通)に及んでいたが、その利用形態
をみると、冠婚葬祭の慶弔電報が大半を占めているため、卒業祝い、結婚式などが
集中する三月ないし五月及び九月ないし一一月にかけて業務量が増大し、なかんず
く土曜日、日曜日あるいは祝日が大安日に当たる場合には、取り扱う電報数が平常
日の二倍かそれ以上に達するため(季節ないしは曜日による繁閑の差が著し
い。)、結婚式など多数の祝電が予想され、通常配置されている職員数では充分な
そ通業務を図ることができないと判断される日については、これを「繁忙日」とし
て臨時雇いを雇用するとか、管理者の応援計画を立てるなどの対応措置を講じてい
る。
3 原告aに対する懲戒処分等の適法性
 原告aに対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、同原告から
なされた昭和五三年五月二〇日、翌二一日の年休請求に対し、被告が適法な時季変
更権を行使したにもかかわらず、同原告が上長の命令を無視し右両日の勤務を欠い
たことを理由になされたものであり適法である。
(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯
(1) 原告aは、昭和五三年五月二〇日、翌二一日につき宿直宿明勤務(二〇日
午後四時から二一日午前九時まで)の指定を受けていたところ、同月一七日午後五
時頃、g配達課副課長(以下「g副課長」という。)に対し、諸休暇申出受付簿に
記入のうえ、右二日間につき年休の時季指定を行つた。
(2) 右申入れを受けたg副課長は、h配達課長(以下「h課長」という。)が
不在であつたため、自らの判断で、右時季指定にかかる原告aの服務が最低要員配
置の宿直宿明勤務であること、五月二〇日は大安の土曜日、翌二一日は日曜日のた
め仙台市内だけでも二〇日には七二組、二一日には四八組の結婚式があつて、多数
の慶祝電報の発着が予想される繁忙日にあたることなどを考慮のうえ、右時季指定
は事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使した。
(3) その後、g副課長は、原告aに対し、同月一七日午後七時三〇分頃、同月
一八日午前一一時頃及び同月一九日午後五時頃の三回にわたり、同月二〇日、二一
日は指定された宿直宿明勤務に就くよう命令し、また、h課長は、同月二〇日午後
四時一五分頃、出局してきた原告aから、二一日の年休時季指定を取り消すので宿
明勤務を日勤勤務(午前八時三〇分から午後五時まで)に変更してもらいたい旨の
申出を受けたが、宿直宿明勤務は連続した一つの勤務で分断できず、またその必要
性も認められなかつたことから、これを拒否したうえ、直ちに宿直宿明勤務に就く
よう命令を発した。
(4) しかし、原告aは、五月二〇日、翌二一日の宿直宿明勤務の就労を欠い
た。
(5) 被告は、原告aの右欠務が、上長の命令に服さず、みだりに欠勤したもの
で、公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一八号に該当すると判断し、右各法
条を適用し、その裁量権の範囲内で、昭和五三年六月二〇日付の本件懲戒処分、賃
金カツトを行つた。
(二) 時季変更権行使の正当性
(1) 原告aが所属する配達課の業務内容
 配達課の主たる業務は、電報の配達、電話による電報の送達、委託配達区域あて
着信電報の受託者への交付、配達不能電報の保管、荒巻、榴ケ岡駐在の電報配達業
務、配達関係事故電報の処理などで、その作業を大別すると、①「外配担当」すな
わち、長町、茂庭地区及び荒巻、榴ケ岡駐在地区を除く仙台市内宛の電報を自動二
輪車又は四輪乗用車を使用して配達するもの、②「荒巻、榴ケ岡駐在担当」すなわ
ち、仙台電話局荒巻分局、同榴ケ岡分局にそれぞれ駐在し、本局から送られてきた
荒巻、榴ケ岡地域宛の電報を自動二輪車又は四輪乗用車を使用して配達するもの、
③「話送担当」すなわち、電話により電報を送達するほか、電報配達受託者、荒
巻、榴ケ岡駐在へ電報を電話あるいは模写機を使用して送るもの、④「交付担当」
すなわち、受け付けた電報を当日配達分、翌日以降配達分に区分し、当日配達分に
ついては、外配(本局分)、荒巻、榴ケ岡駐在、話送、委託配達分に分類し、外配
分については、配達順路等の指示をして配達員へ交付し、その他の電報については
話送担当へ交付するもの、⑤「事故担当」すなわち、宛名人の住所が不明あるいは
不在等で配達できなかつたり、不在時に隣人へ照会し短期不在を確認して不在配達
した電報について調査、処理を行うものなどの各担当に分かれている。
(2) 配達課の構成人員と勤務体制
 配達課は、課長一名、副課長一名、運用係長四名、運用主任七名、運用係員(一
般職員)三四名の計四七名で組織され、原告aは運用係員である。
 ところで、配達課では、二四時間業務の体制が採られていることから、課員のう
ち、配達業務を主とする一般職員三四名と主任六名の計四〇名をA、B、C、Dの
各組に分け、A、B、Cの三組(各一二名)を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の交替服
務、D組を日勤、夜勤の交替服務とする勤務体制を採つている。そして、A組は運
用主任六名及び経験年数がおおむね六年以上で配達業務全般に熟知している職員を
もつて構成し、主として、配達区域の地理、道路状況、交通規制状況等に精通し、
豊かな経験を必要とする「交付作業」を担当するほか、事故電報の処理作業にあた
ることとなつており、原告aはこのA組に所属していた。
(3) 業務上の支障の存在
 原告aがその請求どおりに年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業の正
常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。
① 宿直宿明勤務は深夜帯をはさんで二日間にわたる長時間の勤務で、その間勤務
者は交替で仮眠、休憩をとりながら作業をするものであるところ、服務線表上同勤
務には三名の要員(A、B、Cの各組から一名ずつ)が配置され、右要員数は業務
を正常に処理するため最低必要なもの(「最低要員配置」)であることから、これ
に欠務者を生じた場合は、必ず代務者を補充しなければならず、しかも、原告aの
時季指定日は慶祝電報の発着が多数予想される「繁忙日」に当たつており、臨時雇
いを配置して(五月二〇日は日勤に五名、夜勤に三名雇用していた。)円滑な配達
業務の確保に努めていたのであつて、右宿直宿明勤務においても三名の人員を欠く
ことは絶対にできなかつた。
② 右宿直宿明勤務におけるA組職員は、経験の浅いB、C組職員を指導する立場
にあり、その日に扱つた配達電報の通数締切作業を行うなど重大な職責を担つてい
るところ、原告aの当日の担務は「交付指当」であつたため、当日勤務予定者三名
中、A組に所属し、「交付担当」と「通数締切作業」を担当できる者は同原告以外
におらず、当日の勤務に同原告を欠くことはできなかつた。
③ 原告aが欠務した場合にその代務者たりえた者は、A組に所属し、当日が週休
日に当たつている者のみで、それ以外の日勤あるいは夜勤勤務者を代務者に充てる
ことはそれだけ日勤あるいは夜勤勤務者を減少させることとなり、前記のごとく甚
だしい繁忙下においては全く採りえない措置であつた。
④ また、宿直宿明勤務は深夜帯をはさんだ特殊な勤務のため、前記のとおり、被
告は職員の健康管理や社会生活上の便宜に配慮し、同勤務を周期的に割り当て、か
つ日勤、夜勤などと相互に適切な順序に配列することにしているから、宿直宿明勤
務の欠務者を補充するとしても格別の配慮を必要とするのであり、その勤務割変更
は、本来厳に必要やむを得ない場合にとどめられるべきものである(被告就業規則
二六条)。
⑤ ところで、昭和五三年三月二六日、いわゆる成田空港開港阻止闘争において、
被告職員五名を含む多数の公務員、公共企業体職員が逮捕されたことを契機に、国
会、新聞、その他マスコミ等から被告職員の「服務規律」のルーズさが指弾され、
国民の強い批判を浴びたため、被告においては全機関に対し服務規律を正すよう副
総裁指示が発せられた。これを受けて、仙台中電においても、全管理者は、五月一
〇日頃i次長(以下「i次長」という。)から服務管理の関係法規程を遵守し、な
かんずく、年休については業務上の支障の有無を厳正に判断し、業務上支障がある
場合には、時季変更権を行使すること、また、勤務割変更については業務上の必要
を判断し、安易に勤務割変更を行つてはならないなど、厳正に服務管理を行うべき
こと、また、公社職員の信用を失墜することのないよう職員に周知徹底せしめるべ
きこと、特に、五月二〇日に予定された過激派集団による成田空港開港阻止闘争に
おいて、再び被告職員が参加し、逮捕され、右のような批判を浴びることのないよ
う格段の配慮をなすべきことの指示を具体的に受けていた。
⑥ 右①ないし⑤のごとき事情のもとにおいて、g副課長としては、代務者を確保
するとすれば前記のように週休者に勤務を求める以外にないのであるが、原告aに
やむを得ない事情があれば格別、週休者に逐一あたつて勤務割変更を行うという努
力までして代務者を確保することはできないと判断したものであつて、右は当時の
被告を取り巻く厳しい社会状況を考えれば、管理者として当然の所為というべく、
勤務割変更を命じなかつたことには合理的な理由があつた。
 このような勤務割変更をしないことに合理的な理由がある場合には、その結果と
して事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使も、適法、
有効と解すべきである。
 以上のとおり、原告aの本件年休請求は、勤務割変更による代務者の補充をしな
いことに合理的な理由があつた結果として、客観的に事業の正常な運営に支障を及
ぼすおそれのあつたものであり、また、実際にも、h課長は、原告aの欠務に対
し、やむを得ず同原告の担当を交付担当から外配担当に変更し、交付担当には荒巻
局の外配に予定していたjを、また荒巻局の外配には本局の外配に予定していたk
を充て(五月二〇日の午後五時以降は本局の外配担当者を臨時雇い三名だけとし
た。)、h課長が夜間の外配担当者の一員として、夜間三回にわたり、電報配達作
業に従事し、また、交付担当に指定されたjはB組に所属し交付作業も未経験なた
めg副課長がjの指導と通数締切作業を行つたほか、本来宿直宿明勤務者が行うべ
き配達日指定電報の配達票への記入作業、慶弔電報台紙貼付作業、電報配達受託者
へ交付する作業等に従事するなどして業務の停滞を防止したのであつて、g副課長
の時季変更権行使は適法なものであるから、同原告の無断欠勤等を理由に、裁量権
の範囲内で行つた本件懲戒処分、賃金カツトに何らの違法はない。
4 原告b、同cに対する各懲戒処分等の適法性
 右原告両名に対する各懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、原告
bについては昭和五三年五月二〇日、翌二一日の両日を年休とする同原告の時季指
定に対し、また原告cについては同月一九日、翌二〇日の両日を年休とする同原告
の時季指定に対し、被告がそれぞれ適法な時季変更権を行使したにもかかわらず、
右原告らがこれを無視して右各日時の勤務を欠いたことを理由になされたものであ
り適法である。
(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯
(1) l電話通信課長(以下「l課長」という。)は、昭和五三年五月一七日午
後八時二五分頃、諸休暇申出受付簿を見て、同年五月二〇日、翌二一日につき宿直
宿明勤務(二〇日午後四時から二一日午前九時まで)の指定を受けている原告bか
ら右両日を年休とする時季指定がなされていることを知り、直ちに、同原告に対
し、年休請求は諸休暇申出受付簿に記載するだけでなく、直接課長に申し込むべき
ことを注意したのち、請求にかかる五月二〇日、二一日は宿直宿明勤務にあたり
「最低要員配置」であること及び繁忙日に当たるため業務に支障があることを理由
に、五月二三日以降に時季指定するように告げ、時季変更権を行使した。
(2) m電話通信課副課長(以下「m副課長」という。)は、昭和五三年五月一
七日午後二時三〇分頃、諸休暇申出受付簿を見て、同年五月一九日、二〇日につき
宿直宿明勤務(一九日午後四時から二〇日午前九時まで)の指定を受けている原告
cから右両日を年休とする時季指定がなされていることを知り、直ちに、同原告に
対し、年休請求は直接行うように注意したのち、請求にかかる五月一九日、二〇日
は「最低要員配置」の宿直宿明勤務であり、業務の繁忙も予想される旨説明して指
定日の変更を促したが、同原告はこれに納得しなかつたため、l課長が業務に支障
のあることを理由に時季指定日を同月二三日以降に変更するよう告げて時季変更権
を行使した。
(3) ところが、原告両名はl課長の時季変更権行使に納得せず、これを無視し
て欠務する態度を示したことから、同課長は、原告両名に対し同月一九日午後一時
一〇分頃、さらに原告bに対して同日午後二時五〇分頃、それぞれ所定の宿直宿明
勤務に就くよう命じた。
(4) しかし、原告両名は、いずれも前記指定された宿直宿明勤務の就労を欠い
た。
(5) 被告は、原告両名の右欠務を公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一
八号に該当すると判断し、右各法条を適用し、その裁量権の範囲内で、昭和五三年
六月二〇日付の本件懲戒処分及び賃金カツトを行つた。
(二) 時季変更権行使の正当性
(1) 原告b及び同cが所属する電話通信課の業務内容
 電話通信課の主たる業務は、加入者からの電話による発信電報の受付及び郵便局
受付電報の受信(一一五扱い)、電報配達受託者、郵便局への模写、電話による電
報の交付あるいは宛名人への電話による送達、一一五扱い、模写通信に対する事故
処理等の附帯業務などで、その作業を大別すると、①「一一五席担当」すなわち、
加入者から発信される電報を受け、その内容をタイプライターを操作して印刷し、
受付担当へ送付するもの、②「受付担当」すなわち、一一五席から送られてきた電
報に配達局を指定し、電報の受付時刻、発信番号を記入したうえ、模写担当扱いと
検査課回しとに区分けして送付するもの、③「模写担当」すなわち、電報配達受託
者及び郵便局へ電報を模写機を使用して送信するものなどの各担当に分かれてい
る。
(2) 電話通信課の構成人員と勤務体制
 電話通信課は、課長一名、副課長一名、運用係長三名、運用主任八名、運用係員
(一般職員)四七名のほか、管理係長一名、管理係員二名、電報業務指導員二名の
計六五名で組織され、原告b、同cはいずれも運用係員である。
 電話通信課も二四時間業務の体制が採られていることから、職員をA、B、C、
Dの各組に分け、A1(六名・二組)、A2(六名・二組)の四組を日勤、夜勤、
宿直宿明勤務の六輪番制の交替服務、B1(一二名)、B2(一二名)の二組を日
勤、夜勤、宿直宿明勤務の一二輪番制の交替服務、C組(一〇名)を日勤、夜勤の
交替服務、D組(六名)を日勤、夜勤交替服務とする勤務体制を採つている。原告
b、同cは、いずれもB1組に所属して一二輪番服務を行つている。
(3) 業務上の支障の存在
 原告両名が各その請求どおりに年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業
の正常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。
① 電話通信課における宿直宿明勤務は、服務線表上四名の人員(A1A2B1B
2の各組から一名ずつ)が配置され、右人員は業務を正常に処理するために最低必
要な「最低要員配置」であることから、これに欠務者を生じた場合は必ず代務者を
補充しなければならず、しかも、両原告の年休請求期間を含む五月一八日から同月
二一日にかけては多数の慶祝電報の発着信が予想され、繁忙日対策として日勤帯及
び夜勤帯にも臨時雇いを配置するほか、管理職も動員して電報の円滑なそ通を期す
ることとしていたから、原告両名の時季指定にかかる五月一九日から同月二一日の
間の宿直宿明勤務にも四名の人員を欠くことは絶対にできなかつた。
② 原告両名が年休を取つた場合に代務者となりえた者は、A1A2B1B2の各
組に所属し、当日が週休に当たつている者のみであつた(それ以外の日勤あるいは
夜勤勤務者を代務者とすることはそれだけ当日の同勤務者を減少させることとなる
から、前記のごとき甚だしい繁忙期においては全く不可能であるし、またC、D組
の所属者を代務者に充てることも組の構成を考えれば論外のことであつた。)。
③ l課長は、前記のとおり成田空港開港阻止闘争に参加して逮捕された職員がで
たことを契機に被告の服務規律に対する厳しい社会の非難のなかで、職員の側に格
別の事由もないのに代務者補充のため逐一A1A2B1B2所属の週休者にあた
り、安易に勤務割の変更をすることはできないし、またそのようなことは従前の取
扱いにもないことであつて、代務者の補充は困難であると判断した(ちなみに、同
課長が同職に在任中、宿直宿明勤務の欠務者を補充するため勤務割変更を命じたの
は、訓練、出張、病気休暇など業務上やむを得ない場合のみであつて、年休取得者
の欠務補充のため勤務割変更を認めたことはない。)もので、右判断には合理的な
理由があり、このように勤務割変更をしないことに合理的な理由がある場合には、
その結果として事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使
は適法、有効なものと解すべきである(なお、原告両名の欠勤に対しては、l課長
及びm副課長の両名がそれぞれ原告両名の業務を代行して業務への影響を最小限度
に食い止めた。)。
 以上のとおり、原告両名の年休請求は、勤務割変更による代務者の補充をしない
ことに合理的な理由があつた結果として、客観的に業務の正常な運営に支障を及ぼ
すおそれのあつたもので、これを理由に行使されたl課長の時季変更権は適法なも
のであるから、原告両名につき無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で行つた本件各
懲戒処分及び賃金カツトに何らの違法はない。
5 原告eに対する懲戒処分等の適法性
 原告eに対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、昭和五三年
五月一九日についての同原告の年休の時季指定が無効、又は右時季指定に対し被告
が適法な時季変更権を行使したにもかかわらず、同原告が右日時の勤務を欠いたこ
とを理由になされたものであり適法である。
(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯
(1) 原告eは、昭和五三年五月一九日につき夜勤勤務(午後二時三〇分から同
一〇時三〇分まで)の勤務割指定を受けていたところ、勤務当日である一九日の午
前九時一八分頃、電話で、n第一通信課副課長(以下「n副課長」という。)に対
し、同日の夜勤勤務につき年休の時季指定を行い、同副課長の返答を待たずに一方
的に電話を切つた。
(2) o第一通信課長(以下「o課長」という。)は、同日午前一一時三〇分頃
n副課長より原告eの右年休請求の報告を受け、同日午後一時五分頃、電話で組合
事務室にいた同原告に対し、同日の夜間帯(午後五時から同九時三〇分)に既に二
名の欠務者が出ており、業務の繁忙が予想されることからこれ以上の夜間帯の欠務
者発生は業務に支障を生じる旨告げて時季変更権を行使した。
(3) 原告eは右時季変更権の行使に強く反発したため、o課長は、同日午後一
時四〇分頃、同原告からの電話に対し再三にわたり所定の夜勤勤務に就くよう命じ
た。
(4) しかし、原告eは五月一九日の夜勤勤務の就労を欠いた。
(5) 被告は、原告eの右欠務が、公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一
八号に該当すると判断し、右各法条を適用し、裁量権の範囲内で、昭和五三年六月
二〇日付の本件懲戒処分及び賃金カツトを行つた。
(二) 年休時季指定の無効(就業規則三九条違反)
 原告eの年休時季指定は、勤務指定当日になされたもので、交替服務に従事する
職員の年休時季指定は、指定日の前々日の勤務終了時までに行うべきものとする被
告就業規則三九条に違反するから本来無効である。
(三) 時季変更権行使の正当性
(1) 原告eの所属する第一通信課の業務内容
 第一通信課の業務は、電報の発信局から着信局までの中継作業を各種の機器を正
常に作動させながら円滑なそ通を図ることにあり、そのための主な作業として、電
報中継交換装置による電報の中継通信作業、異常時や通信ふくそう時における中継
ルートの設定変更等応急作業、気象電報を受信し、第二通信課へ送付すること、電
報中継交換通信関係の使用済印刷電信さん孔紙の整理保存がある。そして、仙台中
電が宮城、岩手、山形の三県に所在するすべての電報取扱局(加入局)及び青森、
福島局(中心局)を統轄する総括局として電報そ通の宰領、取扱い上の指導的立場
にあり、全国六つの総括局(札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡)及び水戸、
宇都宮、長野、新潟の各中心局との間に中継線をもつていることから、第一通信課
において、これらの地域と東北地方との間に発着する電報の機械中継を円滑に行う
ため、常に各種機器類の作動を監視し、通信を行つているものである。
(2) 第一通信課の構成人員と勤務体制
 第一通信課は、課長一名、副課長一名、運用係長二名、運用主任四名、運用係員
(一般職員)一三名の計二一名で構成され、原告eは運用係員である。
 第一通信課も二四時間の業務体制が採られていることから、職員をABCの各組
に分け、A(六名)、B(六名)の二組を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の六輪番交替
服務、C組(五名)を日勤交替服務とする勤務体制を採つている。原告eはB組に
所属していた。
(3) 業務上の支障の存在
 原告eがその請求どおりに年休を取得したとすると、次のとおり被告の事業の正
常な運営を妨げるおそれがあつたというべきである。
① 服務線表上、第一通信課における夜間帯(午後五時から同九時三〇分まで)の
人員配置は、夜勤勤務者三名、宿直宿明勤務者二名の合計五名であるところ、原告
eの年休時季指定日である五月一九日は既に宿直勤務に予定のpが忌引休暇を、夜
勤勤務に予定のqが年休を各取得していたため、午後五時以降の勤務予定者は原告
eを含め夜間帯の業務を処理するのに最低必要な三名のみとなつていた(なお、n
副課長は、五月一六日、rに右pの一九日の宿直勤務の代務を命じていたが、その
後o課長と検討の結果、同日は夜勤者の退局する午後九時三〇分までは夜間帯の業
務処理に必要な三名の人員が確保されており、それ以降は同副課長が補助的に代行
すれば足りるとの判断から右一六日のうちにfに対する代務命令を撤回し、一九日
は午後九時から同副課長が右pの事務を代行することとしていた。)。
② ところで、五月一九日は、仙台中電において繁忙日対策として種々の措置が講
じられていた日であり、第一通信課においても通信のふくそうが予想され、それに
伴つて運用する電報中継交換装置パトロール、さん孔くずの除去等の監視業務の増
大、事故処理業務の増量など著しい業務の繁忙が見込まれていたのであつて、当日
の夜間帯に三名の要員を欠くことは絶対に許されなかつた。
③ したがつて、原告eの欠務を認めるときは代務者を補充する必要があつたが、
同原告の時季指定が当日の午前九時一八分頃になされたことから、週休者は既に同
日の午前零時から終日就労義務を免除されており、他の者は既に勤務に就いている
ため代務者を補充することは客観的にみて全く不可能であつた。
 もとより、o課長は、原告eに年休を取得するだけの真にやむを得ない事情があ
つてそれが開示されるのであれば、週休者に事情を説明し無理を承知で代務を依頼
するか、あるいは管理者が代行するなどして年休を認める用意もあつたのである
が、同原告は、当日直前の時季指定であるにもかかわらず、何らの事情も説明する
ことなく、いたずらに同課長に反発するのみであつたから、右のような配慮をする
余地がなく、とりわけ当時の被告の服務管理に対する厳しい批判のなかでi次長よ
り服務規律厳正化の指示がなされていた以上、代務者を補充してまで同原告の年休
を承認することはできないことであつた。
④ 原告eの五月一九日の欠勤に対しては、o課長の指示によりn副課長がi次長
の了解を得て、同日午後五時から同九時まで従事することになつていた局舎警備を
とりやめ、同原告の夜勤勤務を代行し、各種テープ締切作業、通数チエツク作業等
に従事せざるをえなかつた。
 なお、本件当時、成田空港問題をめぐつて、被告の通信施設に対する破壊事件
(例えば、昭和五三年三月三一日の房総半島北部一帯の一〇万回線にのぼる通信麻
痺事件)が続発していて、このような不穏な情勢の中で四月二一日午後八時過ぎ
頃、仙台中電に対し三・二六解放同盟なるものから、三月二六日の成田空港開港阻
止事件で逮捕された被告職員に対する懲戒免職の撤回を要求し、それが容れられな
ければ、翌二二日に通信施設を爆破する旨のテレツクスがあつたため、同日以降同
年六月までの間、仙台中電の全管理者は、連日勤務終了後も局舎内に待機したほ
か、数名のグループごとに交替で深夜にわたる局舎内外のパトロールにあたり、五
月一九日はn副課長もその一員として午後九時まで局舎警備に従事し、午後九時以
降はpの忌引休暇取得の欠務を補充するため、宿直宿明勤務を行う予定であつた。
 以上のとおり、原告eの本件年休請求は被告就業規則に違反した無効なものであ
り、仮にそうでないとしても、右年休請求は客観的に事業の正常な運営に支障を及
ぼすおそれのあつたもので、これを理由に行使されたo課長の時季変更権は適法な
ものであるから、同原告の無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で行つた本件懲戒処
分及び賃金カツトに何ら違法はない。
6 原告d及び同fに対する各懲戒処分等の適法性
 原告dに対する懲戒処分及び賃金カツトは、以下に詳述するとおり、同原告の昭
和五三年五月二一日の勤務(午前八時三〇分から午後四時三〇分まで)を被告が祝
日代替休暇(以下「祝日代休」という。)として設定しなかつたにもかかわらず、
同原告が右勤務を欠いたこと、及び右両原告から申出のあつた原告dの同月二二日
午前九時から午後五時三〇分までの勤務と、同fの同日午後二時から午後一〇時ま
での勤務との交換、変更(以下「勤務交替」という。)を被告が承認しなかつたに
もかかわらず、原告dが指定された所定の勤務の一部を欠いたことを理由になされ
たものであり、原告fに対する懲戒処分及び賃金カツトは、被告が右両原告より申
出のあつた前記勤務交替を承認しなかつたにもかかわらず、原告fが所定の勤務の
うち午後五時四〇分から同一〇時までの間の勤務を欠いたことを理由になされたも
のであり、いずれも適法である。
(一) 懲戒処分及び賃金カツトに至る経緯
(1) s検査課長(以下「s課長」という。)は、昭和五三年五月一五日、原告
dから同月二一日の午前八時三〇分から午後四時三〇分までの勤務を祝日代休に、
また右原告両名から同月二二日の勤務につき両原告の勤務割(原告dは午前九時か
ら午後五時三〇分まで、同fは午後二時から同一〇時まで)を交換変更する勤務交
替の各申出が諸休暇申出受付簿に記載されているのを知つた。
(2) そこで、s課長は、直ちに原告両名に対し、右各申出は直接課長に申し出
るように注意したのち、五月一八日から二二日までの間は安易に祝日代休や勤務割
変更をしないよう指示されていること及びやむを得ない理由があれば検討する旨を
伝えた。
(3) これに対し、原告両名は、「理由を言う必要はない。」との一点張りでそ
の理由を明らかにしなかつたので、同課長は、祝日代休の申出については、五月二
一日は仙台市内の結婚式場で予定されている結婚式が四八組もあることから業務の
繁忙が予想され、臨時雇いを二名雇用するなどしてそ通対策を実施していた等の諸
般の事情を考慮のうえ、その場でこれを拒否し、また勤務交替の申出についてもそ
の必要を認めずこれを拒否して、原告両名に所定の勤務時間帯に就労するよう命
じ、原告両名に対し五月一七日午後五時一一分頃と同月一九日午前八時五二分頃の
二回にわたり、さらに原告dに対しては同日午後四時二七分頃にも前同様の就労命
令を発した。
(4) 原告dは、五月二一日の所定の勤務及び同月二二日の所定の勤務のうち午
前九時から午後二時までの五時間及び午後五時から同五時三〇分までの三〇分間に
ついて就労を欠き(早退、遅刻)、また、原告fは、同月二二日の所定の勤務のう
ち、午後五時四〇分から同一〇時までの四時間二〇分について就労を欠いた(早
退)。
(5) 被告は、原告両名の右欠務が公社法三三条、被告就業規則五九条三号、一
八号に該当するものと判断し、右各法条を適用し、裁量権の範囲内で、昭和五三年
六月二〇日付本件各懲戒処分及び賃金カツトを行つた。
(二) 祝日代休不承認の正当性
(1) 祝日代休制度
 被告は、職員の休日に関し、就業規則三三条で「職員は、国民の祝日に関する法
律(昭和二三年法律第一七八号)第三条に規定する休日に休日が与えられる」旨規
定し、祝日が被告の付与をまつてはじめて休日となることを明らかにしており、ま
た祝日と職員の週休日等が重複した場合についての取扱いにつき、昭和五〇年一〇
月二七日全電通労組との間で労働協約(五〇中了第一〇一七号)を締結し、日曜日
及び土曜日を週休日としている者以外の者については「毎年度四月一日以降祝日と
週休日等が重複した場合は、その祝日順に年度三日を限度とし、原則として三ケ月
以内に代替休日(祝日代休)を設定する」としている。このように祝日代休は被告
の付与(設定)をまつてはじめて休日となるものであるが、これを設定するか否か
は、使用者たる被告の労務指揮権の範囲に属する問題であるから、被告は右協約の
制限内で裁量的に祝日代休を設定することとなる。すなわち、職員から祝日代休の
申出を受けた所属上長(各課長)は、その職員の担当する職務の性質、内容、業務
の繁閑、代替要員の要否など諸般の事情を勘案したうえ、自らの管理責任において
祝日代休を決定するものである。ところで、従来検査課においては業務上特に支障
がなければ職員の希望日に祝日代休を設定していたが、所属上長がこれを設定する
にあたり職員の希望日に拘束されるいわれはなく、希望日はあくまでも祝日代休を
設定するにあたつての一事情として考慮されるにすぎないものである。
(2) 祝日代休不承認の理由
① 原告dが所属する検査課の主たる業務は、着信電報の検査、送信済電報原書の
取り集め及び検査、電報の配信、電報原書の保存、電報の事故処理などで、同課は
仙台中電内に発着する電報を集配する中心的部門を果たしており、その業務の停滞
は、仙台中電全体の電報サービスに重大な影響を及ぼすこととなる。
② 検査課は、課長一名、運用係長一名、運用主任二名、運用係員(一般職員)一
二名の計一六名で組織され、原告dは運用係員である。
 なお、検査課も二四時間の業務体制が採られていることから、職員一二名を日
勤、夜勤、宿直宿明勤務の一二輪番交替服務、二名を日勤交替服務、一名を日勤服
務とする勤務体制を採つており、原告dは一二輪番の交替服務に従事していた。
③ 原告dが祝日代休として希望した昭和五三年五月二一日は、前記のとおり多数
の慶祝電報が発着すると予想され、検査課においても、当日の日勤帯には服務線表
上の要員数四名に加え二名の臨時雇いを雇用するなどのそ通対策を実施していた。
④ しかるところ、当時i次長から服務規律の厳正化の指示を受けていたs課長
は、右のように五月二一日が業務の繁忙を予想される以上、原告dに特別の事情も
ないのに同日を祝日代休とすることは到底できないと判断したもので、同課長の判
断には合理的な理由があるから、右祝日代休を設定しなかつた措置に何ら違法はな
い。
(三) 勤務交替不承認の正当性
(1) 勤務交替の運用実態
 勤務割とは、前記のとおり当該職員の所属長が、服務線表に基づいて当該職員の
勤務すべき日における始終業の時刻を特定することによつて具体的服務を指定する
ことである。また、勤務割変更も所属長がさきに指定した勤務割を勤務の始終業時
刻が異なる他種の勤務に変更することをいうものであるから、勤務割と同様、使用
者として本来有する労務指揮権(業務命令)を行使するものであり、使用者の専権
に属するものであることはいうまでもない。そして、このことは、所属長が、当該
職員から交替要員として特定職員の同意を得ている旨を付し口頭あるいは所定の記
録簿への記入によつて勤務割変更の申出を受けた勤務交替の場合であつても変わる
ところはない。
 したがつて、所属長は、職員からの勤務交替の申出を受けた場合にもこれに拘束
されるいわれはなく、これに応じて勤務割変更を発するか否かは、挙げて所属長の
裁量にゆだねられている。所属長は、右申出を受けた場合業務運営及び要員配置の
状況、当該職員の事情(技能、経験、申出の動機ないし必要性)、交替要員の必要
性、交替要員が必要なときは所要の技能、経験を有する職員を勤務割変更によつて
求めうるかどうか(「前日」以降においては、その職員の「同意」を得られるかど
うか。)など諸般の事情を勘案し、右申出に応じて勤務割変更命令を発するか否か
を決することになる。そして、右申出に応じる場合、所属長は申出者及び交替要員
双方に口頭あるいは所定の記録簿に「認印」を押捺することによつてはじめて勤務
割変更(業務命令)の効果が生ずるものであつて、これがなされない限り、申出者
は当初の勤務割で労務に服すべき義務を負うのである。
(2) 本件勤務割変更不承認の理由
① 原告fは、同dと同様、検査課の運用係員として一二輪番の交替服務に従事し
ていた。
② s課長は、前記のとおり、成田空港開港阻止闘争に関連してi次長より、安易
な勤務割変更を行つてはならないなど服務規律の厳正化についての具体的な指示を
受けていたが、右原告両名から勤務交替の申出を受けた際、右申出にやむを得ない
事情があればこれを承認しないわけにもいかないとの意向のもとに、原告両名に対
し、何回となくその事情を問いただしたが、原告両名は一向にその理由を明らかに
せず、特に原告fにおいては、同人の申出どおりの勤務交替を認めるときは、同人
の五月一八日から同月二二日の間の連日の勤務割を変更したうえで、さらにそれを
変更することになることから、このような勝手な勤務交替の申出は到底承認できな
いと判断し、原告両名の右申出を承認しなかつたもので、右措置は、充分合理的
で、所属長としての裁量権の範囲内に属し、何ら違法なものではない。
 以上のとおり、原告dから申出のあつた祝日代休を設定せず、また、同原告及び
原告fから申出のあつた勤務交替を承認しなかつたs課長の措置はいずれも正当な
ものであるから、原告両名に対し、それぞれ無断欠勤等を理由に裁量権の範囲内で
行つた本件懲戒処分、賃金カツトに何らの違法はない。
四 被告の抗弁に対する原告らの認否及び主張
1 抗弁1の(一)は認め、同(二)は争う。
2 抗弁2の(一)ないし(三)については、服務線表に基づく個々の職員の具体
的勤務割の指定が職員の技能、経験等を勘案してなされているか否かは知らない
が、その余は認める。職員の具体的な勤務割を定めるについては、職員の意見も重
視され、勤務割の指定に反映されているものである。
3 抗弁3(原告a関係)について
(一) 抗弁3の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)は認める。同(2)
については、g副課長が時季変更権を行使したこと(但し、行使した時刻は五月一
七日午後七時三〇分頃であり、同日午後五時頃の時点では保留とされていた。)は
認め、その余は否認する。同副課長は、五月二〇日に開港が予定されていた成田空
港の開港阻止闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日ま
では勤務割変更や祝日代休等は認めない」、「年休を請求するならば理由を言え」
等と理不尽な対応をしたあげく時季変更権を行使したもので、事業の正常な運営に
支障を与える云々ということはこじつけにすぎない。
 同(3)については、h課長が原告aの勤務割変更の申出を拒否した点は認め、
その余は否認する。同(4)は認める。但し、五月二一日は午前八時三〇分から午
後五時まで日勤勤務に従事した。同(5)は争う。
(二) 抗弁3の(二)の(1)は認める。同(2)については、A組の構成が経
験年数がおおむね六年以上で配達業務全般に熟知している職員で構成されていると
の点を否認し、その余は認める。同(3)は、①を認め、その余は争う。
(三) 原告aの主張
(1) 代務者確保
 宿直宿明勤務の人員配置は最低要員配置であるから、宿直宿明勤務予定者が年休
を取得するためには勤務割変更による代務者の補充が必然的に要請されるが、この
ような場合、被告には、事業の正常な運営に支障がない限り代務者を捜して勤務割
変更を命ずべき義務がある。確かに勤務割変更は業務命令の一つであり、使用者の
権限に属するものであるが、年次有給休暇制度が存在する以上、使用者の基本的専
権事項である従業員の雇用についてさえ年休取得を可能ならしめるだけの要員の採
用確保が義務づけられているわけであつて、それと同様に、常日勤服務あるいは交
替服務といつた服務形態を問わず平等に年休の取得を可能ならしめるためには、最
低要員配置たる宿直宿明勤務に際し勤務割変更による代務者の確保を制度として保
障することが使用者に義務づけられていることは明らかで、逆からいえば、勤務割
変更その他による代務者確保の措置が制度上保障されてはじめて、一名の欠員も許
されないという最低要員配置の勤務形態を設定することが使用者に許されるのであ
る。そして、このことは、被告の東北電気通信局職員部が作成した労務関係法規集
においても、その質疑応答集のなかで、宿直宿明服務における年休付与方法として
「他の服務に勤務割変更をするよう努められたい」旨述べて代務者の確保を命じて
いることからも明らかである。
 したがつて、原告aの年休時季指定に対し、被告が服務規律の厳正化を理由に代
務者確保の制度を全く運用しないまま時季変更権を行使したのは、その要件を欠く
違法、無効なものである。
(2) 代務者確保の容易性
 原告aの代務者としては、左の表の各職員に代務を命じることが可能であつた
し、現に、tは、原告aやg副課長に同原告の代務に応じても良い旨話をしてい
た。
 原告aの代務可能者
<06101-002>
<06101-003>
 なお、被告は、A組に所属する原告aの当日の担務が交付作業及び通数締切作業
であつたから、A組以外の者では代務者として不適当である旨主張するが、交付、
通数締切作業はそれほどむずかしい作業ではなく、B組の者でも充分行えるもので
あるし、そもそも、宿直宿明勤務者の本来の職務は外配担当であり、交付担当は夜
勤のA組、通数締切作業は夜勤の係長又はA組の担当であつて(したがつて、宿直
宿明勤務者のなかにA組の者が必ずいなければならないものではなく、本件後にお
いても、宿直宿明勤務にA組の者がいなかつた例がある。)、原告aが当日これら
の勤務を命じられていたこともない。
 要するに、被告の時季変更権の行使は、被告職員を成田空港開港阻止闘争に参加
させないという理由のみからなされた違法、無効なものである。
4 抗弁4(原告b、同c関係)について
(一) 抗弁4の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)、(2)について
は、l課長が原告両名の年休時季指定に対し時季変更権を行使した点は認め(但
し、原告bは五月一七日午後四時一〇分頃、原告cは同日午後一時二〇分頃にそれ
ぞれ諸休暇申出受付簿に記載して年休の時季指定をし、これに対し同課長が時季変
更権を行使したのは、原告bに対しては同日午後八時二五分頃、原告cに対しては
同日午後五時頃である。)、その余は否認し、同(3)及び(4)は認める。同
(5)は争う。l課長は、五月二〇日に開港が予定されていた成田空港の開港阻止
闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日までは勤務割変
更や祝日代休等は認めない」「年休を請求するならば理由を言え」等と理不尽な対
応をしたあげく、時季変更権を行使したもので、業務の正常な運営に支障を与える
云々ということはこじつけにすぎない。
(二) 抗弁4の(二)の(1)、(2)は認める。同(3)の①は認め、その余
は争う。
(三) 原告両名の主張
(1) 代務者確保
 原告aの主張欄(1)と同一
(2) 代務者確保の容易性
 右原告両名の代務者としては、左の表の各職員に代務を命じることが容易に可能
であつた。
原告bの代務可能者
<06101-004>
原告cの代務可能者
<06101-005>
5 抗弁5(原告e関係)について
(一) 抗弁5の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)及び(2)のうち、
原告eが五月一九日につきその当日に年休の時季指定をしたこと、同日の夜間帯の
勤務予定者が五名であり、内二名の欠務者がいたこと、o課長が時季変更権を行使
したことは認めるが、その余は否認し、同(3)及び(4)は認める。同(5)は
争う。同課長が時季変更権を行使したのは、被告職員を成田空港開港阻止闘争に参
加させまいとする被告の方針の一つの表れであり、事業の正常な運営に支障を及ぼ
す云々ということはこじつけにすぎない。
(二) 抗弁5の(二)は争う。被告主張の就業規則の定めが存在することは認め
るが、仙台中電における右規定の運用の現実は被告の主張と全く異なり、従前から
年休時季指定の約八割以上は前日又は当日になされていた。
(三) 抗弁5の(三)の(1)及び(2)は認める。同(3)のうち、①につい
ては、五月一九日の夜間帯につき夜勤者一名が年休、宿直者一名が忌引休暇のため
欠務していたことは認めるが、その余は否認する。同②ないし④は否認する。
(四) 原告eの主張
(1) 第一通信課においては、夜間帯に夜勤勤務者が一人もいなくなるような年
休が従前から認められてきており、夜間帯に三名の人員が絶対必要なわけではな
い。
(2) 仮に、夜間帯に三名の人員配置が必要であつたとしても、pの代務者とし
てn副課長が勤務することになつていたから、原告eが年休を取得したとしても三
名の要員配置に欠けることはなく、何ら業務に支障を及ぼすことはなかつた。
(3) また仮に、n副課長の代務が被告主張のように午後九時からのものであつ
たとすれば、最低要員配置で必ず代務者を確保しなければならない宿直勤務の一部
に代務者を確保せず、しかも、本来管理職としての業務を遂行すべき者が一般職員
の職務を代行することとしたわけであるから、右の処置は、被告自らが事業の正常
な運営に反する状態を職場に作り出したものである。そして、このような正常でな
い状態は、pの代務者が見つからないという合理的な理由から生じたものではな
く、たまたま当時n副課長が管理者の一員として局舎警備のため遅くまで残ること
になつていたところ、o課長から同副課長の自宅が遠いので泊まつた方が良いとい
われたという業務上の必要性とは全く関係のない理由によるものである(その結
果、同副課長はいつたんrにpの代務を命じておきながらこれを取り消してい
る。)。
 このように、被告自らが何ら合理的な理由もないまま異常な状態を作り出してお
きながら、原告eの年休取得により夜間帯の最低配置定員三名を欠くことを理由に
(pの代務者が適正に補充されていれば、当日の夜間帯には同原告を除いても三名
の職員((宿直勤務者二名、夜勤勤務者一名))が確保されていた。)時季変更権
を行使するのは、権利の濫用であり、右時季変更権の行使は、違法、無効なもので
ある。
6 抗弁6(原告d、同f関係)について
(一) 抗弁6の冒頭及び末尾部分は争う。同(一)の(1)ないし(3)のう
ち、原告dが祝日代休の請求をしたこと(但し、右請求は、五月一二日諸休暇申出
受付簿に記載して請求している。)、右原告両名が勤務交替の申出をしたこと、s
課長が右申出をいずれも拒否した点は認め、その余は否認する。同(4)は認め
る。同(5)は争う。なお、右原告両名の勤務交替の申出は、原告fが五月二二日
に組合の職場委員会に出席する等の事由があつたため原告dに勤務交替を頼み、同
原告の同意を得て行つたものである。
(二) 抗弁6の(二)の(1)については、休日及び祝日代休に関し被告主張の
就業規則及び労働協約が存在することは認め、その余は争う。同(2)の①ないし
③は認め、④は争う。
(三) 抗弁6の(三)の(1)については、勤務割の概念及び勤務交替が被告の
承認によつて効力を生じるものであることは認め、その余は争う。同(2)の①は
認め、②は争う。
(四) 原告d及び同fの主張
(1) 祝日代休の運用に関する労使慣行の存在
 仙台中電においては、従前から、職員が日時を指定して祝日代休を申し出た場合
にはこれが業務に支障を及ぼすものでない限りそのまま承認されてきていたもの
で、祝日代休の申出は、年休の時季指定とは制度上異なるものの、これと同様に運
用する慣行が労使間に形成されていたから、祝日代休の設定は当然右慣行に従うべ
きである。
(2) 勤務交替の運用に関する労使慣行の存在
 仙台中電においては、従前から、勤務交替は職員相互の了解のもとに行われてい
たことから、一般の勤務割変更の場合に必要とされる組合への通知、勤務時間の調
整といつた制約がなく、また配置人員数にも影響がないため、業務に支障を及ぼす
ような特別な事情(同一人が長期間休暇をとらない結果が生じたり、長期間宿直宿
明勤務が連続する等)がない限り、当該勤務交替の理由を開示するか否かにかかわ
らず承認されることとなつており、それは労使間に慣行として確立されていたか
ら、被告は、原告d、同fからの本件勤務交替の請求に関しても右慣行に従つた処
理をすべきであつた。
(3) 被告の本件祝日代休の設定拒否及び勤務交替の不承認は、前記成田空港開
港阻止闘争に被告職員が多数参加するのを恐れ、「五月一八日から二二日までは勤
務割変更や祝日代休等は認めない」等の理不尽な対応をしたあげく、何ら義務に支
障がないのに右慣行を一方的に無視して行つたものであるから、原告両名がこれに
従わなかつたからといつて、それを理由に懲戒処分に付することは、明らかに処分
権の濫用といわなければならない(なお、原告両名からの勤務交替の申出が原告f
の都合((五月二二日午後に予定されていた組合集会に参加するための組合休暇を
取得する便宜))によるものであることは被告も充分認識していたのであり、それ
にもかかわらず、被告は、全くの偏見から前日の原告dの祝日代休とセツトにして
右勤務交替の申出を拒否したものである。)。
五 原告d及び同fの主張に対する被告の反論
 祝日代休の設定及び勤務交替の運用に関して、右原告らの主張するような労使慣
行は存在しない。
 特に勤務交替に関しては、勤務時間の長短の調整がなされていないため、これが
頻繁に行われた場合、労働基準法(以下「労基法」という。)所定の労働時間を超
えることもありうるのであつて、右原告らが存在すると主張する慣行は同法に抵触
するおそれのあるものであり、また仮に右慣行が存在するとすれば、職員は指定さ
れた勤務割が何であれ自己の欲するときに、その欲する時間帯の勤務を行い、また
就労を免れるというきわめて不合理な結果を招来させ、かくては使用者の固有の権
利である労務指揮権ないしは職場管理権を全く奪うことになり、この点からしても
右慣行の存在は認められない。
 また、右勤務交替が、原告fの組合の職場委員会に出席する等の事由によるもの
であつたとしても、右事由をs課長が知つていたか否かにかかわらず、勤務交替を
しなければ職場委員会に出席できないというものではないし、勤務時間の全部ない
し一部の時間帯において職場委員会が開催されるのであれば、その間必要によつて
全一日ないし半日の組合休暇を取得すれば足りることである(なお、組合休暇は無
給であるが、その間の賃金相当額が組合から補填される。)。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原告らの身分及び本件懲戒処分等の存在
 被告の性格及び原告らの身分に関する請求原因1及び2の事実並びに本件懲戒処
分及び賃金カツトの存在に関する同3の事実については当事者間に争いがない。
二 そこで、本件懲戒処分及び賃金カツトの適法性について検討する。
1 本件紛争の背景
 原告らの勤務する仙台中電の所掌事務、組織、機構及び勤務体制に関する被告の
抗弁2の事実(但し、服務線表に基づく個々の職員の具体的勤務割指定が職員の技
能、経験等も勘案してなされているとの点は除く。)と、原告らが、被告から無断
欠勤と扱われた日又は時間帯に上長の就労命令を無視して就労しなかつたこと自体
については、いずれも当事者間に争いがない。
 ところで、本件懲戒処分等は、被告及び原告ら双方の主張から明らかなように、
原告らからの年休時季指定、祝日代休の請求ないしは勤務交替による勤務時間変更
の申出の処理をめぐる対立に端を発するものであるところ、後記認定のとおり、こ
れまで仙台中電においては、右の処理をめぐつて労使間に紛争の発生をみるような
ことは殆どなかつたのであり(職員側の申出がそのまま受容されることが多かつ
た。)、本件紛争は、成田空港の再開港を間近に控え、仙台中電が年休、祝日代休
及び勤務交替を従前より制限的に運用する方針を採つたことに多く起因することを
否定できない。
 すなわち、成立に争いのない甲第一号証の一ないし六、乙第一号証の一二ないし
一六、一八、二二ないし二六、乙第七号証、証人i、同g、同h、同l、同o、同
n、同s、同uの各証言(但し、右各証言中、後記採用しない部分を除く。)、原
告らの各本人尋問の結果(原告bについては第一、二回)及び弁論の全趣旨を総合
すると、次の事実が認められ、右各証言中、同認定に反する部分は措信することが
できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。
① かねて政府が建設を進めていた成田空港(新東京国際空港)の開港日(昭和五
三年三月三〇日)を間近に控えた同月二六日、右開港に反対する集団が、同空港の
管制塔設備等の破壊を伴う違法な開港阻止闘争を激しく展開し、火災びんの使用等
の処罰に関する法律違反、兇器準備集合罪、公務執行妨害罪、傷害罪等の各罪によ
る逮捕者を多数出すまでに至つたが、右逮捕者の多くが公務員ないしは公共企業体
の職員であつたことから(そのうちには被告の職員が五名含まれていた。)、国会
をはじめとしてマスコミ、一般世論は、被告を含めた公法人の労務管理のあり方に
強い非難を浴びせるところとなつた。
② 右開港阻止闘争の影響を受け、成田空港の開港は同年五月二〇日に延期された
が、右再開港を控え、内閣官房長官は、郵政大臣らに宛て、異例の「公務員及び公
共企業体職員が再びこの違法な開港阻止闘争に参加することのないよう職員の管
理、監督に十分配慮願いたい」との要請文を発し、被告においても(同総裁に宛て
郵政大臣官房電気通信監理官から職員の管理監督について遺漏のないよう更に配意
されたい旨の通知がなされた。)、同月九日には副総裁名で各電気通信局長に対
し、「かかる不祥事の再演防止と公社としての社会的責任等の観点から更に職員の
日常管理について十分留意するとともに、服務規律の厳正化がはかられるよう切望
する」との指示を発しており、各電気通信局長は管内部局に右指示の伝達、徹底を
図つていた。
③ 従来、年休の時季指定、祝日代休の請求及び勤務時間変更の申出については、
職員側の申出どおり処理され、その処理をめぐつて労使間で紛争が発生するという
ことは殆どなかつた仙台中電においても、これらの指示のもとに、同月一〇日、i
次長が各課副課長以上の管理職全員を集め、右上部機関からの指示事項を説明する
とともに、職員の年休時季指定については、所定の手続(本人から直属上長への直
接申入れ)を履践させ、これに対する時季変更権の行使は、業務への支障のおそれ
を厳正に判断して行うこと、職員からの申出による勤務割変更の承認及び祝日代休
の設定についても業務上の必要性を厳正に判断し安易に応じないこと、特に成田空
港開港反対派による違法な開港阻止闘争が予想される同月一八日から二二日までの
間は、職員が右違法な開港阻止闘争に参加するのを極力防止するため、職員が同闘
争に参加しないことが明らかなような場合を除き、原則として、勤務割の変更、祝
日代休を認めないこととする旨の指示(以下、i次長によるこの指示を便宜「服務
規律厳正化の指示」と呼称する。)がなされた。
④ そして、仙台中電における年休、祝日代休及び勤務割変更に関する右のような
処理方針は、同月一二日頃、i次長らから口頭で全電通仙台中電分会書記長らにも
伝えられ、また、各職員に対し、宮城電気通信部長外二名の連名による「職員各位
にのぞむ」と題する書面(内容は、主に被告職員としての高度の公共的使命を充分
自覚し、違法な空港開港阻止闘争に参加することの絶対にないよう強く要請したも
の)及び仙台中電庶務課長名義の「お知らせ」と題する書面(内容は、年休の時季
指定及び諸休暇等の請求は本人が直接直属上長に申し出てこれをすることの徹底を
要請したもの)を各掲示した。
 右認定事実から明らかなように、仙台中電においては、成田空港の再開港を間近
に控え、職員が再び違法な開港阻止闘争に参加する事態の発生を憂慮し、極力これ
を防止するため、年休、祝日代休、勤務割変更の処理を厳格に管理することにした
もので(とくに五月一八日から同月二二日については原則として祝日代休、勤務割
変更を認めないという極めて制限的なもの)、要するに、職員の企業外の非行を事
前に防止することを眼目として年休等の申出を処理する方針を採つたことから、こ
れまでどおりに、年休の時季指定をし、祝日代休及び勤務交替を求める原告らとの
間に緊張対立を生じさせ、本件紛争の発生をみるに至つたと認められるのである。
以下、被告の抗弁の当否を各原告ごとに検討する。
2 原告a、同b、同c関係
 右原告らは、被告から無断欠勤とされた各欠勤は、適法な年休取得によるもので
ある旨主張するところ、被告は、原告らの時季指定に対して適法な時季変更権を行
使したにもかかわらず原告らは無断欠勤した旨主張しているから、原告らに対する
懲戒処分及び賃金カツトの適法性の有無はいつにかかつて時季変更権の行使の適法
性如何にある。
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
① 原告aの所属する配達課の業務内容、構成人員が被告主張のとおりのものであ
ること、配達課では二四時間の勤務体制が採られていることから、課員のうち配達
業務を主とする一般職員三四名と主任六名をA、B、C、Dの各組に分け、A、
B、Cの三組(各組一二名)を日勤、夜勤、宿直宿明勤務の交替服務に、D組を日
勤、夜勤の交替服務とする勤務体制を採り、原告aはA組に配属されていたこと。
② 原告b及び同cの所属する電話通信課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関
する抗弁4の(二)の(1)及び(2)の事実。
③ 原告aは、昭和五三年五月二〇日、翌二一日の勤務を宿直宿明勤務(二〇日午
後四時から二一日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出
受付簿に右両日を年休とする旨記入し、これをg副課長に提出して右両日につき年
休の時季指定を行つたが、同副課長は同日時季変更権を行使したこと。
④ 原告bは、昭和五三年五月二〇日、翌二一日の勤務を宿直宿明勤務(二〇日午
後四時から二一日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出
受付簿に右両日を年休とする旨記入し、年休の時季指定をしたが、l課長は同日時
季変更権を行使したこと。
⑤ 原告cは、昭和五三年五月一九日、翌二〇日の勤務を宿直宿明勤務(一九日午
後四時から二〇日午前九時まで)と指定されていたところ、同月一七日諸休暇申出
受付簿に右両日を年休とする旨記入し、年休の時季指定をしたが、l課長は同日時
季変更権を行使したこと。
(二) 「本件紛争の背景」に関する前記認定事実と右当事者間に争いのない事実
に、成立に争いのない乙第二号証の二ないし八、一一、乙第三号証の三ないし一
〇、証人hの証言により成立の認められる乙第二号証の四八、証人gの証言により
成立の認められる乙第二号証の四九、証人lの証言により成立の認められる乙第三
号証の四三、四四、証人g、同h、同lの各証言(但し、右各証言中、後記採用し
ない部分を除く。)、原告a、同b(第一、二回)、同cの各本人尋問の結果及び
弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右各証言中、同認定に反する部
分は措信することができず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。
① 右原告らが勤務割指定を受けていた宿直宿明勤務は、勤務時間が夜から朝にわ
たる特殊な服務のため、服務線表上その配置人員を、従来の業務量に照らしこれを
支障なく処理するために必要最少限度の員数にとどめており(いわゆる「最低要員
配置」。配達課は三名、電話通信課は四名と定められていた。)、これに欠務者を
生じる場合は、当然事業の正常な運営に支障を来すおそれがあるものとして、他の
職員の勤務割を変更するなどの方法により代務者を補充するのを原則としていた
(宿直宿明勤務が「最低要員配置」であり、これに欠務者を生じた場合、原則とし
て代務者を補充しなければならなかつたことについては、当事者間に争いがな
い。)。
② 右原告らが年休の時季指定をした宿直宿明勤務日も、その配置人員は服務線表
上の「最低要員配置」となつていた。
③ 原告aの年休に関し決裁権限を有していたg副課長並びに原告b、同cの各年
休に関して決裁権限を有していたl課長は、いずれもi次長から服務規律の厳正化
に関する指示を受けていたところ、右原告らの年休時季指定日は、右指示において
原則として勤務割変更等の措置を講じてはならないとされていた五月一八日から同
月二二日の期間中に当たり、しかも、原告らの年休利用目的も確知しえなかつた
(原告らは自発的に利用目的を明らかにするようなことはなかつた。)ことから、
あるいは原告らが年休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないか
との疑いを抱き、この時期に年休を取得させるのは妥当でないと判断して、他の職
員の勤務割変更などによる代務者確保の能否を全く考慮せず、むしろ意識的にこれ
を拒否して宿直宿明勤務が「最低要員配置」で服務線表上の人員を欠くことができ
ないこと、しかも、右原告らの時季指定日は、結婚シーズンで多数の慶祝電報が発
着し、繁忙が予想される五月のなかでも「大安」の土曜日(二〇日)、日曜日(二
一日)と、とりわけ多数の結婚式が予想される繁忙期で「最低要員配置」は絶対に
欠くことができないとして、時季変更権を行使した。
④ その後、原告aは五月二〇日午後四時一五分頃h課長に翌二一日の年休の時季
指定を取り消すので同日の宿明勤務を日勤に勤務割を変更してもらいたい旨申し入
れたが、同課長は、宿直宿明勤務は一つの連続した勤務で原則として分断できず、
同原告の二〇日の宿直勤務を年休として認めていない以上、翌二一日は宿明勤務に
就かなければならないとの考えから、右申出を受け入れず、直ちに当日の宿直と翌
二一日の宿明勤務に就くよう命じた。
(三) 右認定事実によれば、g副課長、l課長は、原告らが年休の時季指定をな
すにあたつてその利用目的を明らかにしなかつたことなどから、あるいは原告らが
年休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、
これを極力防止するためには年休を制限することもやむを得ないとの判断のもと
に、勤務割変更による代務者補充の措置を拒否したうえで、宿直宿明勤務が「最低
要員配置」であることを主たる理由に時季変更権を行使したことが認められる。
 ところで、労基法三九条が定める労働者の年次有給休暇の権利(年休権)は、同
条一項、二項の要件を充足することにより法律上当然に発生し、労働者が右要件の
下に年休の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の「事業の正常な運
営を妨げる」事由が存在し、かつ、これを理由に使用者が時季変更権を行使しない
限り、労働者の当該労働日の就労義務は消滅するものであり、また、年休の利用目
的は労基法の関知しないところであるから、休暇をどのように利用するかは使用者
の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相
当である(最高裁判所第二小法廷判決昭和四八年三月二日民集二七巻二号一九一
頁、二一〇頁)。
 そして、右のような労働者の権利としての年休制度を、使用者の事業運営上の利
益との調和のもとに実質的に保障するとの観点に立てば、単なる繁忙とか人員不足
との理由が時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当
するものでないことは明らかであつて、使用者は、本来、予想される業務量との対
応において、労働者が年休を取つたとしても直ちに事業の正常な運営に支障を来さ
ないだけの人員を配置しておく義務を負担しており、その上で、事前予測の困難な
事態の発生など特別な場合にはじめて時季変更権の行使が許されると解すべきこと
となる。したがつて、使用者が業務体制等の理由からやむを得ず日常の業務を支障
なく処理するに必要最低限の人員しか配置しえず、誰か一人が年休を取得すれば直
ちに事業に支障を来すような業務形態を採用した場合においては、あらかじめ代務
者を確保しておくか、少なくとも年休時季指定のあつた都度代務者を確保するため
に最大限の努力を払うことが使用者に対する法的義務として当然に要求されてくる
のであり、このことは、被告の宿直宿明勤務のように「最低要員配置」とすること
に職員側の同意があつた場合においても格別異とする理由はない。現に被告自身、
就業規則及び同規則の解釈例規(成立に争いのない乙第一号証の一、五)におい
て、交替服務に従事する職員についてのみ、職員の前々日の勤務終了時までは被告
においてその勤務割を自由に変更できるとの規定(就業規則二六条、なお、それ以
後の時点での変更は職員の同意を必要とする((右解釈例規三〇三頁))。)に対
応させ、その年休時季指定を休暇の前々日の勤務終了時までに行わなければならな
い旨規定していることが認められるのであるが(就業規則三九条、同解釈例規三一
一頁)、このような規定は、時季変更権行使の要否を判断するための時間的余裕を
被告管理者に付与するというような被告側の便宜を目的としたというよりも、むし
ろその主眼は、年休時季指定を被告職員に対する一方的勤務割変更が可能な時期ま
でに行使させることによつて、被告による代務者の確保を容易にし、もつて人員不
足等による時季変更権行使を出来る限り不要ならしめようとの配慮に出たものと理
解されるのであつて(右のような労基法に規定のない年休の時季指定に関する時期
制限規定は、このように理解することによりはじめて同法に抵触することなく有効
なものとなろう。)、右就業規則に則つた年休の時季指定が、そのままでは事業を
正常に運営するための人員に不足を招来させるような場合には、被告において勤務
割変更等による代務者確保に最大限努め、それにもかかわらず代務者の補充が困難
なことを時季変更権行使の前提要件としているものと考えられるのである。
 確かに、宿直宿明勤務の「最低要員配置」は職員側の同意に基づく措置であり、
その服務内容の特殊性からして、勤務割変更により欠員の代務を命じられた者には
かなりの負担をかけることになるから(それだけに、就業規則上は前々日の勤務終
了時までは勤務割変更を一方的に命じうるとしても、宿直宿明勤務への勤務割変更
については事実上職員の了解を必要とする場合が多いであろうし、そのために代務
者の確保が困難な場合も生じてこよう。)、宿直宿明勤務日の年休請求を良識の範
囲で自制するよう職員に期待すること自体あながち不合理とは考えられないし、ま
た、職員の勤務時間、週休日及び休暇の運用等に関する依命例規・規準(前掲乙第
一号証の五)においても、宿直宿明勤務者に対する休暇の付与方法について、被告
から、宿直宿明勤務を行う職員に休暇を与えることは一般に夜間帯における「最低
要員配置」を下回る結果となり業務上支障を来すので他の服務に勤務割変更するよ
う努められたい旨の指針が示されてはいるが(もつとも、これも宿直宿明勤務者の
当該勤務日の不就労を勤務割変更によつて実質的に保障しようとするものであ
る。)、それだからといつて、宿直宿明勤務日の年休は本来厳に必要やむを得ない
場合(職員側にやむを得ない事情のある場合)のみに許されるとの被告の主張は採
用し難いし、従来、宿直宿明勤務日の年休が労使間の合意等を得て、あるいは慣行
的に同主張のような基準のもとに処理されてきたとの事実も認められない(この点
に関しこれを肯定する趣旨の証人lの証言部分はにわかに措信できない。)。
(四) ところで、被告は、このような勤務割変更による代務者の補充の原則に対
して、勤務割変更はあくまでも被告の権利であることを前提に、成田空港開港阻止
闘争に関連した当時の被告に対する厳しい社会状況(厳格な服務管理の要請)に照
らせば、原告らに年休取得についての格別やむを得ない事情がない以上、勤務割変
更による代務者の選任をしないことに合理性があつたもので、このように勤務割変
更(代務者の補充)をしないことに合理性がある場合には、勤務割不変更の結果
「当該年休取得が事業の正常な運営を妨げる」として時季変更権を行使することも
許される旨主張する。
 しかしながら、宿直宿明勤務のような「最低要員配置」の服務において年休の時
季指定がなされた場合、使用者において少なくとも代務者の確保に最大限努めるべ
き法的義務を負担していると解すべきことは前記のとおりであるから、この場合の
勤務割変更を被告側の権利としてのみとらえる被告の主張はその前提において首肯
し難いばかりでなく、尽きるところ、被告の主張は、使用者は労基法三九条三項但
書の定める「事業の正常な運営を妨げる場合」以外の「合理的理由」なるものによ
つても労働者の年休権を一般的に制限しうるとの見解に帰着するのであつて、たと
え被告事業の特殊性(抗弁1の事実)を考慮したとしても、これが前記年休権の内
容(年休権は、労基法三九条一項、二項の要件を充足することにより当然発生し、
また使用者は労働者の年休利用目的を干渉しえない。)と相容れず、労使双方の利
益衡量のうえに立つて時季変更権の要件を定めた右労基法の規定に背馳する結果と
なることは避けられず、にわかに採用しえないところである。
 もつとも、年休の利用目的が使用者の干渉を許さない労働者の自由に属するもの
であるといつても、労働者が犯罪行為など企業秩序に著しい混乱を招来させる結果
となる反社会的行為のために年休を利用し、しかも、時季指定の際そのような利用
目的の反社会性が明白な場合(例えば、労働者自らが反社会的な利用目的を公言し
ているなど)には、当該時季指定を無効なものとして、使用者においてこれを拒絶
しうる余地もあると解されるが、それにしても、その判断は具体的、客観的に行わ
れなければならず、単なる反社会的利用の危険、あるいは疑いといつた程度の使用
者側の主観的判断のみによつて労働者の年休取得を制限するがごときは、年休自由
利用の原則を形骸化することとなり許されないものといわなければならない。しか
るところ、本件においては、原告らの各年休時季指定が被告において例外的に拒絶
しうるような事情を附帯させていたとの主張・立証はなされていないから、この点
においても被告の主張は採用しえないものである。
(五) 以上によれば、g副課長及びl課長が原告らの年休時季指定に対し、代務
者補充の余地があらかじめ全くなかつたというわけではないのに(原、被告間にお
いて、右原告らの代務者となりうる可能性のあつた者の範囲について争いがあるも
のの、少なくとも週休者((原告aに関してはA組に属する週休者))が代務者た
りうる可能性があつたことは被告が自陳しているところである。)、代務者の確保
に努めることはおろかこれを意識的に拒否したうえ、原告らの年休取得が「最低要
員配置」に不足を生じさせるとの理由をもつて行使した時季変更権は、違法、無効
なものと認められ、右原告らの各年休はその請求どおりに成立していたというべき
である(なお、前記のとおり、原告aは、五月二〇日午後四時一五分頃、翌二一日
の年休を取り消し、併せて同日の勤務を日勤に変更して欲しい旨申し入れたのに対
し、h課長がこれを拒絶している事実が認められるが、右拒絶の理由は、二〇日の
年休が取得されていないことを前提に宿直宿明勤務が一体をなしていることをもつ
てしてなされたものであるから、仮に宿直宿明勤務が一体として扱われるとして
も、原告aが二〇日につき有効な年休を取得している以上、二一日についての年休
取消しが無効になるにすぎないと解され((これを二一日の年休取消しは有効と
し、二〇日の年休も取り消されたと解するのは、原告aの意図に全く沿わないもの
であろう。))、前記判断に影響を及ぼすものではない。)。
3 原告e関係
 原告eは、被告から無断欠勤と扱われた日の欠勤は適法な年休の取得によるもの
である旨主張するところ、被告は、そもそも同原告の年休時季指定は就労日当日に
なされたものであるから、年休請求は就労日の前々日の勤務終了時までに行わなけ
ればならない旨定めた就業規則に違反し無効である旨、また、仮にそうでないとし
ても、右時季指定に対しては適法な時季変更権を行使したから同原告の年休は成立
していない旨主張しており、同原告に対する懲戒処分等の正当性の有無は、同原告
による年休時季指定の適法性及びその適法性が肯定された場合の被告による時季変
更権行使の適法性の有無にかかつている。
(一) 以下の事実は当事者間に争いがない。
① 原告eの所属する第一通信課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関する抗弁
5の(三)の(1)及び(2)の事実。
② 原告eは、昭和五三年五月一九日を夜勤勤務(午後二時三〇分から午後一〇時
三〇分まで)と指定されていたところ、同日午前九時一八分頃、電話でn副課長に
対し、同日を年休とする旨の時季指定をしたが、これに対し、o課長が時季変更権
を行使したこと。
(二) 「本件紛争の背景」に関する前記認定事実と右当事者間に争いのない事実
に、成立に争いのない乙第四号証の二ないし八、乙第八、第九号証、証人oの証言
により成立の認められる乙第四号証の九、証人o、同n、同vの各証言、原告eの
本人尋問の結果(但し、右各証言及び右本人尋問の結果中、後記採用しない部分を
除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右各証言及び右本
人尋問の結果中、同認定に反する部分は措信することができず、他に同認定を左右
するに足りる証拠はない。
① 原告eの所属する第一通信課では、服務線表上、午後五時以降同九時三〇分ま
での夜間帯の要員として、夜勤勤務者(午後二時三〇分から同一〇時三〇分まで
((但し、実質勤務時間は午後九時三〇分まで)))三名と、宿直勤務者二名を配
置し、同原告の年休時季指定日である五月一九日も、当初夜勤勤務者に同原告、q
係長及びw(A組)の三名が、宿直勤務者にp(A組)及びx(B組)の両名が勤
務割指定を受けていた。
② その後、右五名のうち、qが五月八日に年休を取得し、同月一六日にはpが特
別休暇(忌引)の取得をn副課長に申し出た。同副課長は、pの勤務が「最低要員
配置」の宿直勤務(また翌二〇日は宿明勤務)であつたため同人の代務者を補充す
ることとし、早速A組所属のrに了解を得て右代務を命じ(なお、同人は一九日は
日勤、二〇日は夜勤の勤務割指定を受けていた。)、同日(五月一六日)はその旨
をo課長に報告した。
③ ところが、右報告を受けたo課長は、一九日の夜間帯は代務者を補充しなくと
も三名の人員(原告e、w、x)が確保されていること、同課長自身一九日と翌二
〇日は病休の運用主幹に代わつて泊り、明けの勤務が予定され、n副課長も一九日
は午後五時から同一一時頃まで局内パトロール等の局舎警備(右局舎警備は、
「三・二六解放同盟」なる団体から昭和五三年四月二一日、先の成田空港開港阻止
闘争に参加して逮捕された者の身分保障等の要求と、これが容れられない場合同月
二二日に被告の通信設備を爆破する旨の予告があつたことから、仙台中電において
も全管理者により継続して行われていた。)を命じられていたことから、一九日の
午後五時以降のうち夜勤勤務者が勤務する同九時三〇分までは現在確保されている
三名の人員で業務に支障を生ずることはなく、宿直勤務者が一人となるそれ以降の
時間帯についてもn副課長に宿直勤務者の業務を補助的に代行させれば業務に支障
を生ずることはないと判断し、また、これにより、rに無理をして勤務割の変更を
命ずる必要もないし(同人が本来勤務割の指定を受けていた五月一九日、二〇日の
勤務時間帯の配置人員を減員せずにも済む。)、n副課長に夜半帰宅させる煩をと
らせずにも済むとの配慮から、同副課長に対し、右一九日の局舎警備は午後九時ま
でとするよう許可をとるから、同日午後九時三〇分以降はpの代務者を補充する代
わりに同副課長自身が宿直勤務(及び翌二〇日の宿明勤務)を補助的に代行するよ
う命じ、これを受けた同副課長は、rにpを代務する必要がなくなつた旨告げ、先
の勤務割変更を取り消した(右取消しも五月一六日に行われた。)。また、その後
間もなく、o課長もi次長から、右一九日のn副課長の局舎警備を午後九時までと
することで許可を得た。
④ 五月一九日午前九時一八分頃、n副課長は、電話で、原告eから同日の夜勤勤
務を年休としたい旨の申入れを受けた。同副課長は、同原告が年休を利用して成田
空港開港阻止闘争に参加するのではないかとの危惧を抱き(同副課長もi次長から
服務規律厳正化の指示を受けていた。)、成田空港に行つてはならない旨注意した
ところ、同原告から空港開港反対闘争に参加するかどうかは別にしてそれを理由に
職員の年休を制限しえないはずである旨反発されたことから、o課長らと年休の取
扱いを検討することにして、同原告にしばらく電話を切らずに待つているよう告げ
たが、同原告は同副課長の検討結果を聞くことなく電話を切つた。
⑤ n副課長は、同日午前一一時三〇分頃、o課長に原告eから年休の時季指定が
あつた旨報告したところ、同課長は、原告eが年休を利用して空港開港阻止闘争に
参加する疑いが残る以上(なお、同原告は翌二〇日の勤務につき既に年休を取つて
いた。)安易に年休を認めるわけにはいかないこと、当日の勤務予定者のうちから
既に夜勤勤務者及び宿直勤務者が各一名ずつ休暇を取つているため午後五時から同
九時三〇分までの夜間帯の配置人員は三名のみとなつており、当日は繁忙期にあた
つていたことからこれ以上の欠員は業務の正常な運営に支障を及ぼすと考えたこ
と、勤務当日の年休請求であるのに自発的に年休の利用目的が明らかにされず、格
別年休を必要とする事情も認められなかつたことなどから、勤務割変更による代務
者の補充を全く考慮しないまま、同日午後一時五分頃、組合事務所にいた同原告に
架電し、右人員配置状況を説明し、同原告の年休取得により夜間帯の事業に支障が
生じることを理由に同月二三日以降に年休を変更するよう促して時季変更権を行使
し、所定の勤務に就くよう命じたが、同原告はこれを拒否し電話を切つた。
⑥ 結局、原告eは、右一九日の夜勤勤務に就かなかつたことから、o課長は、そ
の対応策として、i次長にn副課長を当日の局舎警備からはずすことの許可を得た
うえ、同副課長を同日午後五時から同原告の代務に就かせた。
(三) 原告eの年休時季指定が就業規則に違反し無効であるとの被告の主張につ
いて
 被告の就業規則には交替服務に従事する職員の年休請求について休暇の前々日ま
でに時季指定をしなければならない旨定められていること及び原告eの年休請求が
右の規定に違背して勤務の当日になされたことはいずれも当事者間に争いがない。
しかしながら、年休の請求時期に関する右就業規則等の定めが、勤務割変更による
代務者の確保を容易にし、できる限り時季変更権の行使を不要ならしめることを主
たる目的としていると認められることは前記のとおりであるから、当該時季指定が
時季変更権の要否を判断する時間的余裕さえも与えない時期になされたような特別
な場合はともかく、単に右規定に反したとの一事をもつて直ちにこれを無効とする
ことは、年休時季指定の行使時期に条理上要求されるもの以上の格別の規制を加え
ていない労基法の規定に抵触して許されず、時季指定が右就業規則等に定められた
時期に遅れたことは、右特別な場合を除き、あくまでも代務者補充の困難等時季変
更権の要否を判断するにあたつての一事情として考慮されるにすぎないものと解す
るのが相当である(証人o、同n、同vの各証言及び原告eの本人尋問の結果によ
れば、実際の運用においても、昭和五三年当時、第一通信課では職員の年休請求が
休暇当日になされることがしばしばあつたが、これが就業規則等の定めに違背する
として直ちに無効とされるような例はなかつたことが認められる。)。
 しかるところ、原告eの年休時季指定は、前記認定のとおり就労開始時の約五時
間前になされているから、これが被告において時季変更権行使の要否を判断する時
間的余裕さえも与えないというような特別な場合に該当するとまでは言い切れず、
したがつて、同原告の年休請求が就業規則に定める時期制限規定に違背したことを
理由に右年休時季指定が無効であるとする被告の主張は失当である。
(四) 時季変更権行使の適法性について
 そこで、被告の時季変更権行使が、労基法三九条三項但書所定の要件を満たすも
のか否かについて検討する。
 前記(二)の認定事実によれば、第一通信課では、服務線表上夜間帯(午後五時
から同九時三〇分まで)の人員として、宿直勤務者の二名のほかに、夜勤勤務者三
名を配置しているところ、もともと宿直勤務は「最低要員配置」であるから、夜間
帯に宿直勤務者のほか夜勤勤務者をも配置しているということは、服務線表上は、
夜間帯の業務を支障なく処理するための要員として、少なくとも三名の人員を予定
しているものと考えられる。しかるところ、服務線表は、前記のとおり従前の業務
量等を参酌したうえ労使間の協議のもとに決定されたものであるから、服務線表が
ある時間帯に対し最少限必要な要員を予定しているような場合には、時季変更権行
使の要件となる事業の正常な処理に必要な要員数の判断にあたつても、特段の事由
がない限り右服務線表上の要員数によるのが相当である。そうすると、第一通信課
では夜間帯の業務を支障なく処理するために、最少限三名の人員が必要であり、三
名の人員を確保しえないときは、原則として時季変更権を行使できるものと解すべ
きこととなる。これに対し、原告eは、第一通信課においては夜間帯に三名の人員
が欠ける場合もあつた旨主張し、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、原本
の存在及び成立に争いのない甲第二二号証、証人o、同n、同vの各証言、原告e
の本人尋問の結果によれば、第一通信課においてはこれまでも夜間帯又は夜間帯の
一部に二名の人員しか配置されていない場合があつたことも認められるのである
が、そのような配置はまさに例外で、夜間帯には原則として三名以上の人員が確保
されてきたことが右各証拠からも充分認められるのであつて、右例外的事態の存在
によりこれまで三名以上の人員が確保されてきたとの認定が左右されるものではな
いし、本件において例外的な取扱いによつても事業の正常な運営に影響を及ぼすお
それはなかつたとの事情を窺わせるような証拠は存しない。そうすると、原告eが
その時季指定どおりに年休を取得したとすると、五月一九日の夜間帯の配置人員は
二名のみとなり、また、同原告の年休時季指定が当日なされたもので勤務割変更に
関する前記労使間の協約(前日又は当日の勤務割変更には本人の同意が必要)から
代務者の補充も客観的に困難な状況にあつたと認められるから、同原告の年休時季
指定は業務の正常な運営を妨げるおそれがあつたものとして、一応時季変更権行使
の要件を満たすこととなる。
 そこで、さらにすすんで右時季変更権行使が原告eの主張するごとく権利の濫用
に当たるものか否かについて検討する。
 五月一九日の夜間帯の配置人員が原告eを含めて三名となつたのは、当日宿直
(及び翌日の宿明)勤務を命じられていたpが特別休暇を取つたのに、o課長がそ
の代務者を選任せず、午後九時三〇分以降の時間帯についてのみn副課長に宿直勤
務の補助的代行を命じたためであることは前記のとおりである。ところで、宿直勤
務は、夜勤勤務者が実質的に勤務を終了する午後九時三〇分以降において「最低要
員配置」となることから、これに欠務者を生ずるときは代務者を補充する取扱いを
原則としていたことは前記のとおりである(その場合の代務者補充は、午後九時三
〇分以降のみでなく宿直((さらには宿明))勤務の全時間帯を通してなされ
る。)。したがつて、一九日について宿直(及び宿明)勤務の欠務に管理職の補助
的代行措置しか講じなかつたo課長の措置は、本来の取扱いに背くもので、その結
果として当日の午後九時三〇分以降の業務に影響を及ぼすおそれを招来させていた
し、そもそも、本来管理職としての業務を遂行すべき者に一般職員の担当業務を代
行させたこと自体業務の正常な運営に影響を及ぼすものであるから(この点は被告
の自陳するところでもある。)、特別の事情のない限り本来許されない措置であつ
た。そして、前記認定のとおり、一九日については一般職員による代務者の補充が
容易に可能であつたもので、これを選任しなかつたことについては、当時の業務体
制及びo課長が代務者を補充しなかつた動機においてもこれを不要若しくは不適当
とするまでの事情は全く窺えないのであつて(前認定の同課長が代務者選任を不要
と判断するにあたつて斟酌した諸事情は、どれをとつてみても、「最低要員配置」
の欠務に対する代務者補充という原則的措置を排除するに足るだけの合理性をもつ
ものではない。)、結局、五月一九日については、管理者のあやまつた人員配置上
の措置により午後九時三〇分以降の正常な業務に影響を及ぼす状態を招来させてい
たと評価されても仕方のないものであつた。
 しかるところ、o課長が本来の取扱いに則り、pの代務者を適正に選任していた
ならば、一九日の夜間帯の勤務者は原告eを含めて四名となつており、たとえ同原
告が年休を取得したとしても右時間帯の業務を正常に処理するために最少限必要な
三名の人員(夜間帯の業務処理に最少限三名の人員を必要とすると認められること
は前記のとおりであるが、o課長が五月一九日の夜間帯の業務を三名の人員で処理
できると判断していたことも前記認定のとおりであつて、同日の夜間帯について三
名を超える人員が必要であつたとの立証はなされていない。)は確保されていたの
であるから、代務者補充の能否を考慮するまでもなく、同原告の年休は取得される
べきはずのものであつた。それゆえに、本件で原告eの年休取得により発生するお
それのあつた業務への支障は、あくまでも被告管理職員の過誤による人員配置上の
異例な取扱いに起因するものというべきであつて、被告が右異例な人員配置を放置
したまま(したがつて、右人員の配置により自ら発生させている午後九時三〇分以
降の正常な事業に影響を及ぼす状態を放置したまま)、同原告の年休が事業に支障
を及ぼすおそれがあるとしてこれに制約を加えることは、恣意的な労務指揮ないし
は年休管理というべきであつて、被告の時季変更権行使は、公平及び信義則の観念
に照らして許されない違法、無効なものと解するのが相当である。
(五) 以上によれば、原告eの本件年休時季指定は適法、有効なものであり、一
方これに対するo課長の時季変更権行使は、信義則に照らし許されない違法、無効
なものと解すべきであるから、右年休は、その時季指定どおりに成立したものとい
わなければならない。
4 原告d及び同f関係
 原告dは、被告から無断欠勤と扱われた期日について、昭和五三年五月二一日は
祝日代休により休暇を取得しており、また、同月二二日は原告fとの勤務交替によ
る非就労時間帯である旨主張するところ、被告は、原告dの主張する祝日代休及び
勤務交替をいずれも設定、承認していない旨主張しているから、同原告に対する懲
戒処分、賃金カツトの正当性の有無は、同原告がその主張のとおりに祝日代休を取
得し、原告fとの間で勤務割を変更していたか否かにかかつている。また、原告f
も、被告から無断欠勤とされた時間帯について、原告dとの勤務交替による非就労
時間帯である旨主張するところ、被告は、右原告両名から申出のあつた勤務交替は
承認していない旨主張しており、原告fに対する懲戒処分、賃金カツトの適法性の
有無も、同原告がその主張のとおりに勤務割を変更していたか否かにかかつてい
る。
(一) 原告両名が本件懲戒処分及び賃金カツトを受けるまでの経緯
 右原告両名の所属する検査課の業務内容、構成人員及び勤務体制に関する抗弁6
の(二)の2の①、②、同(三)の(2)の①の各事実は当事者間に争いのないと
ころ、前掲乙第一号証の一六、乙第七号証、成立に争いのない甲第七号証の二、甲
第二四号証、乙第五号証の四、五、証人sの証言により成立の認められる乙第五号
証の六、証人s、同uの各証言、原告d、同fの各本人尋問の結果(右乙第五号証
の六及び証人sの証言中、後記採用しない部分を除く。)を総合すると、次の事実
を認めることができる。
① 原告dは、昭和五三年五月一二日、諸休暇申出受付簿の「その他の休暇」記載
欄に同月二一日の日勤(午前八時三〇分から午後四時三〇分まで)勤務を祝日代休
とする旨記載した。
② 昭和五三年五月二二日の勤務につき、原告dは午前九時から午後五時三〇分ま
での日勤、同fは午後二時から同一〇時までの夜勤と各指定されていたところ、原
告fにおいて、同日午後一時から同四時まで組合の職場委員会に出席する都合と
(組合業務に従事することなどを理由とする組合休暇は無給で、しかも一日又は半
日単位で付与されているところ((就業規則四三条))、右無給とされた賃金は組
合で補填するため、組合からできるだけ効率の良い組合休暇を取るようにとの指導
がなされており、本件における原告fのような場合には、夜勤を日勤に変更したう
えで組合休暇を取るのを常としていた。)同日夜に私用があつたため、同月一三日
頃、原告dに同月二二日の勤務割を交替することを頼み、その了解を得て両名の右
勤務交替を同日の諸休暇申出受付簿「勤務交替」欄に記載した。
③ 同月一五日、原告両名の祝日代休及び勤務交替に関し決裁権限を有するs課長
は、宮城電気通信部長外二名の連名による「職員各位にのぞむ」と題する書面及び
仙台中電庶務課長名義の「お知らせ」と題する書面(前記二の1「本件紛争の背
景」の④に記載したもの)を課内の掲示板に掲示したところ、原告両名から前者の
書面の内容に関し抗義を受け、その際原告両名から既に前記祝日代休及び勤務交替
の申出がなされていることを告げられた。そこで、同課長は、i次長から受けてい
た服務規律厳正化の指示に基づき、原告両名に対して五月一八日から同二二日にか
けては原則として祝日代休及び勤務交替を認めない方針である旨伝えるとともに、
ただやむを得ない事情があれば承認することも検討するから祝日代休及び勤務交替
を必要とする理由を明らかにするよう再三求めたところ、原告両名が従来から理由
を述べなくても承認されていたはずだとしてこれを明らかにすることを拒否したこ
とから、同課長は、原告両名が祝日代休若しくは勤務交替を利用して違法な空港開
港阻止闘争に参加するのではないかとの疑いを抱き、その場で原告両名の各申出は
承認しない旨申し渡した。
④ 同月一七日午後五時一一分頃、原告両名はs課長にその理由を明らかにするこ
とを拒否したまま前記祝日代休及び勤務交替の申出を承認するよう要求したのに対
し、同課長は、理由を明らかにしない以上承認しえない旨応答し、指定どおりの勤
務に就くよう命じた。
⑤ 同月一八日午後、原告fは、同月二二日の日勤につき、後半日を組合休暇とす
る願いを、s課長が不在であつたため運用部主幹に提出したところ、同原告の同日
の勤務は夜勤である(勤務交替の申出は承認していない。)ことを理由に不承認と
された。
⑥ 翌一九日午前八時五二分頃s課長は原告両名を呼び出し、原告fの組合休暇に
関し、指定された夜勤勤務を前提としての組合休暇なら認める旨述べ、また原告d
に対し重ねて祝日代休を必要とする理由を明らかにするよう求めたが、両原告はい
ずれもこれを拒否したため、やむなく両名に指定された勤務に就くよう命じた(そ
の後同課長は、同日午後四時二七分頃原告dに対し祝日代休及び勤務交替は承認し
ないゆえ所定の勤務に就くよう再度命じた。)。
⑦ しかし、原告両名は、s課長の命令に従わず、申し入れた祝日代休、勤務交替
はいずれも承認されたとして、前記のとおり指定された勤務に就労しなかつた。
(二) 祝日代休不承認の正当性
(1) 右認定事実によれば、s課長は、i次長の服務規律厳正化の指示に基づき
五月一八日から同月二二日までは原則として祝日代休を設定しないとの方針をもつ
ていたところ、原告dが祝日代休の利用目的を明らかにしなかつたことなどから、
さして確たる根拠もないまま、同原告が祝日代休を利用して違法な空港開港阻止闘
争に参加するのではないかとの疑いを抱き、祝日代休が右闘争に参加する手段とし
て利用されるのを回避する目的から同原告の祝日代休をその希望日に設定しなかつ
たことが認められる。
 もつとも、被告は、原告dの祝日代休を設定しなかつた理由として、業務の繁忙
が予想されていたことを主張し(業務の繁忙が予想される以上、服務規律厳正化の
指示に従い祝日代休を設定しなかつたことには合理性がある。)、証人sの証言及
び同人作成の報告書(前掲乙第五号証の六)中には右主張に沿う内容のものがある
が、前記認定のとおりs課長が原告dの祝日代休を承認しなかつたのは、五月一八
日から同月二二日までは原則として祝日代休は承認してはならないというi次長の
指示に従つたまでのことで、右指示に業務の繁忙に対する配慮は何ら含まれておら
ず、また、前掲乙第五号証の四、五、甲第七号証の二、成立に争いのない甲第六号
証の一、二、甲第七号証の一、乙第五号証の七によれば、原告dの祝日代休の申入
れがs課長に判明した昭和五三年五月一五日の時点では、同月二一日の日勤帯勤務
時間内の欠務者は一名のみで、同原告を除いても四名の人員(及び臨時職員二名)
が確保されていたが、他方、右二一日の業務量はその一週前に当たる同月一四日の
せいぜい二分の一程度と予想されており、右一四日の日勤帯勤務時間は年休取得者
一名、祝日代休取得者が二名承認されたため三名(及び臨時職員二名)の職員で業
務を処理していたこと、右二一日の実際の就労人員も、原告dの就労が期待しえな
い状況において、当日になつて病欠者一名がでているにもかかわらず、さらに他の
職員の当日なされた二時間の年休請求が何らの代替措置も採られることなく承認さ
れていることが認められるのであつて、右各事実に照らせば、五月二一日の業務に
繁忙が予想されていたとはいえ、s課長が正常な業務処理への影響という観点から
原告dの祝日代休を処理したとは到底認め難く、この部分に関する前記s証言及び
同報告書は措信し難いから、被告の主張はその前提において失当なものである。
(2) そこで、職員が企業外で非違行為(違法な空港開港阻止闘争に参加)に出
るのではないかとの疑いを抱き、これを理由として祝日代休を設定しなかつたこと
の当否について検討する。
 祝日代休に関しては、昭和五〇年一〇月二七日被告主張の内容の労働協約が被告
と全電通労組間に締結されていることは当事者間に争いのないところ、同協約(成
立に争いのない乙第一号証の四)には、祝日代休の設定方法に関し「毎年度四月一
日以降、法定休日と週休日等が重複した場合はその重視した法定休日順に年度三日
を限度とし、原則として三ケ月以内に代替休日を設定する。」と規定するのみで、
それ以上の運用に関する具体的な規定を何ら設けていないところから、被告は、祝
日代休の設定は右協約の範囲内で被告の裁量のもとに設定されるものである旨主張
し、原告dは、その設定に関し一定の慣行の存在を主張する。
 そこで、この点についてみると、前掲乙第五号証の六、証人s、同uの各証言
(但し、証人sの証言中、後記採用しない部分を除く。)、原告dの本人尋問の結
果及び弁論の全趣旨によれば、まず次の事実を認めることができる。
① 仙台中電における祝日代休の設定は、同制度の発足以来、祝日代休を取得する
資格のある職員がその希望する祝日代休日の諸休暇申出受付簿にその旨を記載して
所属上長(各課長)に申し入れるという方法によるのを通常としていた。
② 職員が右祝日代休の申入れをなすにあたり、所属上長からその利用目的を明ら
かにするよう求められたことはなく、また職員が自らこれを申し述べるようなこと
も一般にはなかつた(この点につき、証人sの証言中、右認定と異なる部分は措信
しえない。)。
③ 職員から申し入れられた祝日代休希望日は、当該職員の欠勤が業務の正常な運
営に支障を及ぼすものでない限り、例外なく所属上長によつてそのまま承認され、
祝日代休の設定をめぐつて労使間に紛争を生じるようなことはなかつた。
④ そのため、職員側においては、祝日代休は業務の正常な運営に支障を及ぼさな
い限り希望日どおりに設定されるとの意識が形成され、被告においても右のような
祝日代休の運営及び設定基準に格別異議を述べることはなかつた。
⑤ s課長は、検査課長在任中(昭和五二年三月から同五五年二月まで)、職員に
祝日代休希望日を変更させた例が年間二、三回程度あるものの、その理由はあくま
でも要員配置状況による正常な業務処理への影響を配慮してのものであつた。
 以上のとおり認められる。
 右によれば、仙台中電における祝日代休の設定は、右制度の発足以来継続して、
職員がその希望する祝日代休日を指定し、これが業務の正常な運営に支障を及ぼす
ものでない限り利用目的の如何を問わず承認(設定)されるという取扱いで被告に
も異議なく運営されてきたものであるから、このような祝日代休の設定方法に関す
る右慣行的取扱いは、労働協約の内容を補完、具体化する解釈基準として同協約の
内容を形成していたと解するのが相当である。そして、労働者の休日をして、単な
る労働能力の回復、涵養だけにとどまらず、広く労働者に文化的、社会的な生活を
営ましめるための余暇を保障するものと理解する限り、休日は業務に支障を及ぼさ
ない以上、労働者の希望日に与えられることが望ましく、またその利用目的も当然
労働者の自由にゆだねられるべきものとなるから、右祝日代休の慣行的設定方法は
その内容においてもすこぶる合理性をもつものであつて、仙台中電における職員
は、右協約上、業務に支障のない限り希望する日に祝日代休を受けうる権利を有し
ていたと解され、原告dも被告仙台中電の職員として同権利を有していたものと認
められる。
 そうすると、業務への支障の有無という観点からではなく、さして確たる根拠も
ないまま原告dが祝日代休を利用して違法な空港開港阻止闘争に参加するのではな
いかとの疑いを抱き、これを防止するとの目的から同原告の祝日代休を設定しなか
つたs課長の措置は、祝日代休の設定に関し同原告が有する協約上の権利を何らの
手続も採ることなく一方的に無視してなされたものとみるべきであるから無効とい
わなければならない。確かに、従業員の企業外の非行は企業の社会的評価を低下さ
せ、ひいては企業秩序を混乱させる危険を内包するものであるから(特に被告のよ
うな公的企業においては右危険の度合いは高度となろう。)、使用者が従業員の企
業外の非行に関してそれなりの関心をもつことは当然ともいえるが、前記のとおり
休日の利用目的が労働者の自由にゆだねられるものである以上、従業員が企業外で
非行を犯すのではないかとの漠然とした疑いを抱いたのみで当該従業員の休日取得
を制限するような取扱いは、本来自由であるべき従業員の私的生活領域をいたずら
に干渉する結果となりそもそも許されないと考えられる(この点において、従業員
の企業外非行に対する使用者の対応が、原則として日常の指導、啓蒙及び事後的な
懲戒等の処分によらざるをえないことはやむを得ないところであろう。)。
(3) 以上のとおり、原告dの祝日代休の申入れに対し、s課長が採つた不承認
の措置は前記労働協約に違背し無効なもので、本来右申出は承認されるべきもので
あつたから、同原告の祝日代休は、その申出どおり設定されたと解するのが相当で
ある。
(三) 勤務交替不承認の正当性
(1) 前記(一)の認定事実によれば、s課長が原告d、同fから申出のあつた
勤務交替を承認しなかつた理由は、原告dの祝日代休の申出を不承認としたと同
様、五月一八日から同二二日までの間は原則として勤務割変更を行わないとの方針
のもとに、右勤務交替が違法な空港開港阻止闘争に利用されるのではないかとの疑
いを抱き、これを回避することにあつたことが認められる。
(2) ところで、被告は、勤務割の変更は勤務割の指定と同様使用者が本来有す
る労務指揮権を行使するものでその専権に属するから、これを行うか否かは挙げて
所属上長の裁量にゆだねられており、勤務交替を承認するか否かも全く同様である
旨主張するのに対し、原告両名は、勤務交替の取扱いに関しても、一定の慣行の存
在を主張する。
 そこで、この点についてみると、前掲乙第一号証の五、乙第五号証の五、成立に
争いのない乙第一号証の二、証人s、同uの各証言(但し、証人sの証言中、後記
採用しない部分を除く。)原告d、同fの各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によ
れば、次の事実を認めることができる。
① 被告と全電通労組は、被告が職員に対して行う勤務割の変更に関して昭和四三
年四月労働協約を締結し、被告が職員の勤務割を変更する場合の一つとして、「本
人の申出に伴うもの」との事由を挙げていたところ、仙台中電においては、右協約
が締結されるかなり以前から、交替服務に従事する職員が指定された勤務割の就労
に何らかの不都合を生じた場合、同じ課の交替服務従事者の同意を得て、同人との
間で指定された勤務割を交換、変更する勤務交替の便法が採られていた。
② 右勤務交替は、これを希望する職員が該当日の諸休暇申出受付簿「勤務交替」
欄に勤務割を交換する職員両名の氏名と勤務時間を記載して所属上長に申し入れる
方法によつていた。
③ 職員が勤務交替の申入れをなすにあたり、所属上長からその理由を明らかにす
るよう求められたことはなく、また職員自らその理由を申し述べるようなことも一
般にはなかつた(この点につき、証人sの証言中、右認定と異なる部分は措信しえ
ない。)。
④ 勤務交替の申入れは、これが業務の正常な運営に支障を及ぼすものでない限り
所属上長によつて承認され、従来、勤務交替の取扱いをめぐつて労使間に紛争を生
じたようなことはなかつた。
⑤ 勤務交替の制度は、指定された勤務割の就労に支障があるとき年休等の休暇を
取ることなくこれに対処しうるため職員から頻繁に利用され、他方管理者側にとつ
ても、勤務交替は一般の勤務割変更の場合に必要となる代務者確保等の措置に煩わ
されることなく職員の勤務割変更の要望に応ずることができるためこれを積極的に
承認し(仙台中電が作成している諸休暇申出受付簿に「勤務交替」の欄が設けられ
ていることは前記のとおり)、ともすると、当該勤務交替が業務の正常な運営に及
ぼす影響を充分考慮しないまま安易に承認されていた。
⑥ 被告による勤務割の変更は、職員の計画的な生活に変更を余儀なくさせること
から、その恣意的行使を抑制するため、被告に対し、一週間分の勤務割変更を取り
まとめ組合に通知することを義務づけているのに対し、勤務交替による勤務割変更
の場合は、職員側からの申入れに基づくものであることを理由に右通知の対象外と
され、また、勤務割変更が職員の勤務時間数に増減を生じさせたときは、その後の
勤務割指定においてこれを調整する取扱いとなつていたことに対しても、勤務交替
の場合は、職員相互が了解のうえ行つていることを理由に何らの調整措置も採られ
ていなかつた。以上のとおり認められる。
 右によれば、仙台中電においては、かなり以前から、勤務割変更の一類型とし
て、同じ課で交替服務に従事する職員同士が、その合意のもとに指定された勤務割
を交換するという勤務交替の制度が慣用され、職員からの勤務交替の申出は、業務
の正常な運営に支障を及ぼさない限り、これを必要とする理由の如何を問わず所属
上長により承認されるという取扱いが行われてきたことが認められ(もつとも、と
もすると当該勤務交替が業務の正常な運営に支障を来たすか否かの検討が安易なも
のになつていたことは前記認定のとおりである。)、他方、被告の就業規則及びそ
の他の協約類に右のような勤務交替を否定する趣旨のものは窺われないことからす
ると、右勤務交替の制度は、被告と仙台中電職員(交替服務従事者)間における事
実たる慣習として個々の労働契約に転化し、その内容を形成しているものと解する
のが相当である。したがつて、仙台中電で交替服務に従事する職員は、労働契約上
業務に支障のない限り勤務交替により指定された勤務割の変更を受けうる権利を有
していたと認められ、原告d及び同fも被告仙台中電の職員として同様の権利を有
していたものとみるべきである。
(3) 被告は、右のような勤務交替の慣行に対して、仮にそのような慣行の存在
が認められるとしても、勤務交替には勤務時間の調整がなされないから、これを頻
繁に行つた場合労基法所定の労働時間を超えることもあり、結局、強行法規に抵触
するおそれのある慣行として何らの効力をもたない旨主張するが、労基法の規定に
抵触するような結果となる勤務交替の申出は、特定の職員に過重な労務を課すもの
であるから当然に業務の正常な運営にも支障を来たすものであつて、右慣行によつ
ても安易に承認することなく拒否すべき勤務交替の申出にすぎず、労基法に抵触す
るおそれを理由に右慣行の違法性を論ずる被告の主張は当を得たものではない。
 また、被告は、右慣行の存在を認めると、職員の指定された勤務割が何であれ、
当該職員はそれにかかわりなく自己の希望するがままに就労し、または就労を免れ
るというきわめて不合理な結果となり、かくては使用者の固有の権利である労務指
揮権ないしは職場管理権を全く奪うことになり違法というべきである旨主張する
が、前記認定のとおり、交替服務者に対する事前の勤務割指定の目的は、被告が二
四時間業務の体制を採るため、被告の業務を正常に処理するのに必要な人員をあら
かじめ確保するという被告側の利益と、交替服務に従事する職員にもできる限り計
画的な生活を送ることができるようにとの配慮にあるから、当該勤務交替が被告の
正常な業務の運営に影響を及ぼすことのない限り、被告が労務指揮権等を主張し、
職員の希望する余暇時間の選択に拘束を加えうる根拠はないはずであつて、この点
に関する被告の主張も採用し難い(なお、被告は、本件勤務交替を承認しなかつた
理由の一つとして、原告fが五月一八日から同二二日まで連続して当初指定された
勤務割を変更し、その上で右二二日につき勤務交替を求めたことを指摘し、これを
s課長が到底容認できない勝手な勤務交替と判断したことをあげるが、前掲乙第五
号証の四、五、成立に争いのない甲第二六号証、証人sの証言によれば、原告fの
五月一八日から同二二日までの連続的な勤務割変更は、当初指定されていた同月二
〇日、二一日の宿直宿明勤務をyの指定されていた同月一八日、一九日の宿直宿明
と勤務交替したため、これに必然的に伴う右yとその後の休日等の入れ換えの結果
((なお、この勤務交替の申出は、i次長による服務規律厳正化の指示が出される
以前に承認されていた。))によるものであることが認められ、これをもつて原告
fが数日間にわたつて勝手な勤務割変更をしていたとまでは到底評価できず、この
点の被告の主張も採用の限りではない。)。
(4) そうすると、原告dと同fとの勤務交替が業務の正常な運営に何ら影響を
及ぼすものではない(被告からこの点に関する具体的な主張・立証はなされていな
い。)にもかかわらず、これを承認しなかつたs課長の措置は、勤務交替に関する
前記慣行(原告両名の労働契約上の権利)を一方的に無視してなされた無効なもの
で、また、右慣行に従えば、両原告からの勤務交替の申出は承認されてしかるべき
ものであつたから、原告両名の五月二二日の勤務割はその申入れどおり変更された
と解するのが相当である。
5 以上のとおり、本件紛争の発端となつた原告らの各欠務は、いずれも適法な年
休の取得、協約による休暇ないしは勤務時間の変更による非就労時間におけるもの
であり、したがつて、被告が、これを上長の就労命令を無視した無断欠勤であると
して行つた本件各懲戒処分及び賃金カツトはその余の点を判断するまでもなく違
法、無効なものであるから、被告は、原告らに対し、未払賃金として別表(二)の
「賃金カツト」欄に記載の各金員とこれに対する支払日の翌日である昭和五三年六
月二一日(右支払日が同月二〇日であることは当事者間に争いがない。)から支払
ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、また、被告は、原告
a、同b、同c及び同dに対し、別表(二)の「減給処分」欄に記載の各金員とこ
れに対する支払日の翌日である同年七月二一日(右支払日が同月二〇日であること
は当事者間に争いがない。)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合によ
る遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。
 また、本件においては、労基法一一四条により、附加金として、被告に対し前記
未払賃金と同額の範囲内で各原告の請求にかかる金員の支払を命ずるのが相当であ
る。
三 不法行為責任の有無について
1 責任原因
 前記のとおり、被告の原告らに対する本件各懲戒処分はいずれも違法であり、弁
論の全趣旨によれば、右違法な懲戒処分は、被告管理職職員による年休制度に対す
る理解を誤まつた時季変更権の行使又は従来の祝日代休若しくは勤務交替に関する
慣行を一方的に無視した不承認を前提としてなされたものであることが認められる
のであつて、右各懲戒処分をなすにあたつて被告に少なくとも過失があつたものと
推認されるから、被告は、これにより被つた各原告らの損害を賠償すべき義務があ
る。
2 損害
(一) 慰藉料
 前掲原告らの各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告らが本件各懲戒
処分によりある程度の精神的苦痛を被つたことが認められるものの、各懲戒処分の
内容に鑑みると、右精神的苦痛は本件訴訟において、各懲戒処分の違法、無効が確
認・宣言(さらに減給処分を受けた者については同処分額の支給)されることによ
つて慰藉されうる程度のものと認められ、各懲戒処分の無効が確認・宣言されたの
みでは原告らの精神的苦痛を慰藉するに足りないとの事情を窺わせる証拠は存しな
い。したがつて、原告らの被告に対する慰藉料の請求は理由がない。
(二) 弁護士費用
 弁論の全趣旨によれば、原告らが本件各懲戒処分の違法性を争い、これによる不
利益を除去して自己の権利を擁護するためには、法律専門家たる弁護士に依頼して
各懲戒処分の無効確認の訴えを提起し、これを遂行する必要があり、原告らも本件
訴訟の提起・遂行を弁護士松澤陽明外三名に委任していることが認められるのであ
つて、本件事案の難易など諸般の事情に鑑みると、原告らが本件訴訟遂行等のため
支出を余儀なくされた弁護士費用のうち右被告の違法行為と相当因果関係のある損
害は、各原告につき金三万円とするのが相当である。
3 以上によれば、被告は、各原告らに対し、右違法な本件各懲戒処分によつて発
生した損害として、金三万円とこれに対する右不法行為の後である昭和五三年六月
二一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う
べき義務がある。
四 以上の次第であるから、原告らの本訴各請求は、原告らが本件各懲戒処分の無
効確認及び主文第二項記載の各金員の支払を求める限度で理由があるから右限度で
これを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法八九条、九二条但書を適用し、仮執行の宣言の申立てについてはその必要が
ないものとしてこれを却下し、主文のとおり判決する。
別表 (一)
<06101-006>
別表 (二)
<06101-007>
<06101-008>

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