弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を岐阜地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人堀部進の控訴趣意は後記の通りであつて、検察官は原判決を破棄して相当
の裁判を求むと述べた。
 先づ控訴趣意について按ずるに、原判決は司法巡査に対するA及びBの各第一回
供述調書司法警察員に対するC及びDの各第一回供述調書、司法警察員に対する被
告人の第一回供述調書を綜合して被告人は昭和二十一年八月五日大垣区裁判所にお
いて贓物故買罪によつて、懲役一年罰金千円に処せられ当時其の執行を受け終つた
ものであるが、真実演芸興行をしていないのに拘らず、これが興行資金として金借
するものと申欺いて金銭を騙取しようと企て、
 第一、 昭和二十三年十二月十七日頃岐阜県揖斐郡a町b町A方に到り、同人に
対し興行場入場券様のものを示して、今夜c町で興行するが金が少し足らんで貸し
て呉れと虚構の事実を申向けて同人を欺罔し、金三千円を、
 第二、 同月二十九日頃同郡鶯村役場に於てCに対し、一月一日から三日間dで
芝居興行をやることになつてもう役者も到着するが、金がないから貸して呉れと虚
構の事実を申向けて同人を欺罔し金一万円を、
 第三、 同二十四年一月九日頃同郡a町eB方において同人に対し本月の十日、
十一日c町公民館でレビユーを興行するにつき芸人に給料の先払をせねばならぬか
らと虚構の事実を申向けて同人を欺罔し、金一万円を、
 各借受名義の下に交付せしめて騙取したとの事実を認定した上刑法第二百四十六
条第一項第四十五条第四十七条第五十六条第五十七条を適用して、被告人を懲役十
月に処したことが明かである。而して右の前科並びに受刑に関して同司法警察員に
対する被告人の第一回供述調書には論旨摘録の供述記載があり、特段の反証のない
本件としては、右の供述記載を以て原審判示の前科並びに受刑の事実を認むるに書
支えないのみならず、刑の加重事由の如きは刑事訴訟法第三百三十五条第一項に所
謂事実に該当せぬものであつて、必ずしも証拠説明を要する事項でないと解すべき
を以てこの点の論旨は採用し難い。然しながら、原審の法令適用において明かな<要
旨第一>ように本件は詐欺罪について累犯加重及び併合加重をなす場合であるから、
当然刑法第十四条の制限内においてその刑を加重すべき場合であるに拘
らず、その適用をなさない違法があり、且つ、右の違法は判決に影響を及ぼし得な
いとはなし得ないのであるから、原判決は刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条
によつて破棄を免れずこの点において論旨は理由あるものとせねばならない。
 <要旨第二>更に職権を以て調査するに、原審挙示の証拠中司法巡査に対するBの
第一回供述調書にはその供述者とされているBの署名も押印もないので
あつて、同人の供述調書としての証拠能力のないものとせねばならない。蓋し刑事
訴訟法は被告人以外のものの供述を録取した書面については、同法第三百二十一条
にその供述者の署名若くは押印あるものは左の場合に限りこれを証拠とすることが
できるとし、その供述者が自己の供述であること及びその供述内容の真実性を担保
する署名若くは押印のあるもの(但し供述者の署名若くは押印の存する場合と同視
し得る公判調書を除く)についてのみ一定の条件の下にこれを証拠となし得ること
を明かにしているからである。尤も原審公判調書によれば、被告人はBの供述調書
を証拠とすることに同意してはいるが、同法第三百二十六条による当事者の同意は
供述者の署名若くは拇印以外の右に所謂一定の条件を緩和する丈のものであつて、
その署名若くは拇印のないもの迄にその証拠能力を附与し得ないものと解すべく、
そのように解することはこの場合実体的真実発見の要請による当事者主義の制限と
して充分その合理的根拠があるものと考へられるのである。従つて原審がBの関係
即ち判示第三の証拠として挙示している司法警察員に対する被告人の第一回供述調
書、司法巡査に対するBの第一回供述調書、司法警察員に対するDの第一回供述調
書中、Bの供述調書は証拠能力がなく、又Dの供述調書は被告人の自白を補強する
に不十分であるから、結局原審は右第三事実を被告人の自白のみで認定し、これを
有罪としたことに帰着し、刑事訴訟法第三百十九条第二項に違反して被告人を有罪
とした違法があり、且つ右の違法は判決に影響を及ぼすこと明かであるから、原判
決は同法第三百七十九条第三百九十七条によつても破棄を免れない。
 而して本件は、少くとも右第三事実に関して尚審理を尽す必要があつて直に当審
において判決するに適しないと認められるから、同法第四百条本文に則つて原審岐
阜地方裁判所に差し戻すべきものである。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 薄井大介 裁判官 山田市平 裁判官 小澤三朗)

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