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平成17年(行ケ)第10416号特許取消決定取消請求事件
平成18年5月17日口頭弁論終結
判決
原告スティヒティングディーンストランドボウクンディヒオンダー
ツーク
訴訟代理人弁護士吉武賢次,宮嶋学,弁理士中村行孝,紺野昭男,横田修孝
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人鐘尾みや子,秋月美紀子,唐木以知良,青木博文
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-70906号事件について平成16年12月7日にし
た決定を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
,「」「」,,「」分がありスクラピースクレイピーは文献の表題を除き引用部分も含めてスクラピー
で統一した。
本件は,発明の名称を「プリオン病の検出方法」とする後記本件発明の特許権者
である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決
定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲5)
特許権者:スティヒティングインスティチュートフォールディールハウデ
レイエンディールゲゾントヘイト(原告の合併前の商号)
発明の名称:プリオン病の検出方法」「
特許出願日:平成9年4月2日パリ条約による優先権主張:平成8年1996((
年)4月3日,ヨーロッパ特許庁)
設定登録日:平成14年7月26日
特許番号:第3333213号
(2)本件手続
特許異議事件番号:異議2003-70906号
決定日:平成16年12月7日
決定の結論:特許第3333213号の請求項1ないし11に係る特許を取り「
消す」。
決定謄本送達日:平成16年12月20日(原告に対し)
(,「」。)2本件発明の要旨以下請求項の番号に応じて本件発明1などという
【請求項1】異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に
対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織
中に異常タンパクを検出することを特徴とするプリオン病の検出方法。
【請求項2】該動物が哺乳類であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】該組織がリンパ系であることを特徴とする請求項1記載または2記
載の方法。
【請求項4】該組織が扁桃であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】異常タンパクと正常タンパクとを識別することを特徴とする請求
項1,2,3または4記載の方法。
【請求項6】該正常タンパクを除去することを特徴とする請求項5記載の方法。
請求項7該プリオン病を前臨床段階で検出することを特徴とする請求項1~6【】
のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】請求項1~7のいずれか1つに記載の異常タンパクの免疫学的検出
方法を実施するためのプリオン病検出用試験キットであって,異常タンパクのプロ
テアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対して誘導した少なくとも1種の
抗体を含むことを特徴とする試験キット。
【請求項9】酵素もしくは標識結合または非結合抗体をさらに含むことを特徴と
する請求項8記載の試験キット。
【請求項10】ヒトおよび動物のプリオン病の診断に使用する,または動物起源
生成物中の異常タンパクの検出に使用することを特徴とする請求項1~7のいずれ
か1つに記載の方法。
【請求項11】ヒトおよび動物のプリオン病の診断に使用する,または動物起源
生成物中の異常タンパクの検出に使用することを特徴とする請求項8または9記載
の試験キット。
3決定の要旨
決定は,本件発明1~11は,いずれも後記刊行物1~3に基づいて当業者が容
易に想到し得たものであるから,特許法29条2項の規定に違反し,取り消される
べきであるとした。
(1)引用刊行物
刊行物1(本訴甲2の1:ArchVirol(1993)134:pp.427-432)
刊行物2(本訴甲3:VetPathol32:pp.299-3081995))
刊行物3(本訴甲4:THEJOURNALOFINFECTIOUSDISEASES,VOL.146,NO.5,NOVEMBER)
1982,pp.657-664
(2)本件発明1について
ア刊行物1との対比
「刊行物1には,正常なタンパクではないPrPのプロテアーゼK抵抗性部分であるPr
Sc
Pのコアフラグメント(PrP)が,中枢神経系(CNS)におけると同様に,脾臓お
Sccore
よびリンパ節でウエスタンブロットにより検出可能であり,ヒツジの生検リンパ節でのPrP
の観察で,PrP-検出が症状発現前のヒツジにおけるスクラピーの診断に使用できる
corecore
ことが提案され(前記記載(1b)参照。判決注:本判決では刊行物1~3の記載事項の摘示
は省略する。以下,同様,PrP検出のためのウエスタンブロットでは,ウサギの抗ヒ。)
core
ツジPrP血清をヒツジPrPの一次抗体とし,抗ヒツジPrPを検出するための二
corecore
,(()),次抗体として酵素標識した抗ウサギIgG-ロバIgGを使用し前記記載1c参照
生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPの検出により症状発現前の段階で天然の
core
スクラピーに感染したヒツジを確認でき,この結果が致死的方法を使用することなく天然のス
クラピーを診断する最初のケースであること(前記記載(1g)参照)が記載されている。そ
して,スクラピーはプリオン病の代表的なものであり,生検リンパ節は生存動物から標本調整
可能な組織に他ならないから,刊行物1には,少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物か
ら標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法が記載されている。
そこで,本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点
は下記のとおりである。
(一致点)
「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを
検出するプリオン病の検出方法」である点。
(相違点)
本件発明1においては,抗体として「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからの
ペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」を使用するのに対して,刊行物1には,
このような抗体を使用することについては記載がない点。
上記相違点について検討するに,本件発明1において使用している「異常タンパクのプロテ
アーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」は,本件
明細書の上記抗体を作成するための「ペプチド合成および抗ペプチド抗血清」の項の記載(本
件特許公報第10欄41行~11欄末行参照)によれば,刊行物2に記載された抗体に他なら
ない(前記記載(2c)参照。)
そして,刊行物2には,該抗体が異常タンパクであるPrPを未消化状態でもプロテアー
Sc
ゼK処理後であってもウエスタンブロット上で特異的に検出できることも記載されている前,(
記記載(2c)参照)し,さらに該抗体は,PrP(プリオンタンパク)の5つの異なるエピ
トープに対するものであって,全ての5つの抗血清と他のタンパク質との交差反応の可能性を
除外できることが記載されている(前記記載(2d)参照。)
免疫反応を利用し抗原物質を検出する検出方法においては,使用する抗体が検出対象抗体の
,,みと反応し他の抗原物質と交差反応しないものがより好適であることは技術常識であるから
刊行物1記載のように,抗体を用いて生存動物から標本調整可能な組織中において異常タンパ
クを検出しようとする際に,異常タンパクのアミノ酸配列(一次構造)からエピトープを特定
した上で形成され交差反応の可能性が除外できる刊行物2記載の抗体を使用してみるようなこ
とは,当業者が容易になし得る事項である。
したがって,本件発明1は,刊行物1~2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであり,その効果についても予測される範囲内のものである」。
イ刊行物2との対比
「刊行物2には,ヒツジPrPに対して生じさせた抗ペプチド抗血清を使用してヒツジの脳
におけるPrPの存在を調べたことが記載されており(前記記載(2a)参照,抗ペプチ
Sc

ド抗血清が異常タンパクであるPrPを未消化状態でもプロテアーゼK処理後であっても,
Sc
ウエスタンブロット上で特異的に検出できることが記載され(前記記載(2c)参照,さら)
に抗ペプチド抗血清は,PrP(プリオンタンパク)の5つの異なるエピトープに対するもの
であって,全ての5つの抗血清と他のタンパク質との交差反応の可能性を除外できることが記
載されている(前記記載(2d)参照。そして,刊行物2記載の抗ペプチド抗血清は,本件)
明細書の抗体を作成するための「ペプチド合成および抗ペプチド抗血清」の項の記載(本件特
許公報第10欄41行~11欄末行参照)を勘案すれば,本件発明1において使用されている
「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくと
も1種の抗体」と同じものであると認められる(前記記載(2c)参照。)
そこで,本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点
は下記のとおりである。
(一致点)
「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なく
とも1種の抗体を使用して,組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」である
点。
(相違点)
本件発明1の検出方法においては,異常タンパクの検出を「生存動物から標本調整可能な組
織中」で行うのに対して,刊行物2の検出方法においては,殺された後のヒツジの脳から得ら
れた組織中で行っている点。
上記相違点について検討するに,刊行物1には,正常なタンパクではないPrPのプロテ
Sc
アーゼK抵抗性部分であるPrPのコアフラグメント(PrP)が,中枢神経系(CN
Sccore
S)におけると同様に,脾臓およびリンパ節でウエスタンブロットにより検出可能であり,ヒ
ツジの生検リンパ節でのPrPの観察で,PrP-検出が症状発現前のヒツジにおけ
corecore
るスクラピーの診断に使用できることが提案され(前記記載(1b)参照,PrP検出の)
core
ためのウエスタンブロットでは,ウサギの抗ヒツジPrP血清をヒツジPrPの一次抗体
core
とし,抗ヒツジPrPを検出するための二次抗体として,酵素標識した抗ウサギIgG-
core
ロバIgGを使用し(前記記載(1c)参照,生検により得られる末梢リンパ節におけるP)
rPの検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認でき,こ
core
の結果が致死的方法を使用することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースであること
(前記記載(1g)参照)が記載されている。そして,スクラピーはプリオン病の代表的なも
のであり,生検リンパ節は生存動物から標本調整可能な組織であることから,刊行物1には,
少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出
するプリオン病の検出方法が記載されているものと認められる。
刊行物1記載の方法も刊行物2記載の方法も,いずれも抗体を使用して組織中の異常タンパ
クを検出するプリオン病の検出方法である点では共通しているものであるから,刊行物2記載
core
の方法において刊行物1に記載された生検により得られる末梢リンパ節におけるPrP,,
の検出により症状発現前の段階でスクラピーに感染したヒツジを確認し,致死的方法を使用す
ることなくスクラピーを診断するような方法を勘案して,生存動物から標本調整可能な組織中
で異常タンパクを検出するような方法を試みることは,当業者であれば容易になし得ることで
ある。
したがって,本件発明1は,刊行物1~2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであり,その効果についても予測される範囲内のものである」。
(3)本件発明2,3について
「刊行物1の対象動物は哺乳類であるし,記載された生検組織のリンパ節はリンパ系である
から,対象動物が哺乳類であることを特定する本件発明2,および生検組織がリンパ系である
ことを特定する本件発明3は,本件発明1と同様,刊行物1~2に記載された発明に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものである」。
(4)本件発明4について
「1982年の論文である刊行物3は,動物のプリオン病の原因がウイルスであることを前
提として記載されているが,原因物質が存在しているか否かを採取組織の懸濁物をマウスの大
脳に注射し神経学的疾患の発生が有るかないかで判断している手法は,原因物質が異常タンパ
((),())クであることを認識した上で採用されている刊行物1の記載前記記載1d1f参照
にもみられるように,ウイルスが原因物質である場合のみに使用される方法ではないから,刊
行物3の発行以降10年以上が経過し,刊行物1,2にもあるように原因がウイルスではなく
異常タンパクであることが既に知られるようになっていた本件特許の優先権主張日当時の技術
水準からみれば,各種の組織における原因物質の存在量を測定している刊行物3の記載は,原
因物質が,リンパ節や脾臓と同じく,扁桃にも存在することを示していると理解できるもので
ある。
そうすると,刊行物1記載のリンパ節や脾臓と同じように,扁桃も異常タンパクの検出対象
する組織として選択することは,刊行物3に示唆されている。
したがって,本件発明4は,本件発明1についての上記(1)での検討をも勘案すれば,刊
。」行物1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
(5)本件発明5~7,10について
「刊行物1記載の方法は,PrPすなわち正常なPrPではない異常タンパクのPr
coreC
PのプロテイナーゼK抵抗性部分であるPrPのコアフラグメントを検出しているもので
ScSc
ある(前記記載(1b)参照)から,本件発明5のように異常タンパクと正常タンパクとを識
別して検出するものである。
また,刊行物1,2の前記記載(1b(2b)にもある異常タンパクのプロテイナーゼK),
抵抗性や前記記載(2c)の該酵素処理後の検出からして,その性質の相違を利用して,本件
発明6のように該正常タンパクを除去することも,必要に応じて当業者が適宜行うことにすぎ
ない。
また,刊行物1記載の方法は,本件発明7のようにプリオン病を前臨床段階で検出する方法
であるし,本件発明10のように動物のプリオン病の診断に使用できる,または動物起源生成
物中の異常タンパクの検出に使用できることが教示されている方法である。
そうすると,本件発明5~7,10は,本件発明1~4と同様に,刊行物1~3に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」。
(6)本件発明8,9,11について
「さらに,抗体を使用する免疫学的検出方法においては,検出に必要な抗体を,酵素もしく
は標識結合した抗体や非結合抗体の形で,使用する免疫学的検出方法に応じて含む試験キット
の形で用意することが,常套手段にすぎないから,試験キットについての本件発明8,9およ
び11も,格別の技術的創意を必要とするものではない。
そうすると,本件発明8,9,11は,本件発明1~7と同様に,刊行物1~3に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」。
(7)特許権者(原告)の主張について
「特許権者は,刊行物1について,その種々の試験結果の開示は明瞭でなくまた相反する試
験結果も開示しているので,刊行物1が少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本
調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法を開示しているとは認めら
れない旨,主張している。
その主張は,刊行物1の実験に用いられたヒツジについての前記記載(1c)に関して,ま
core
ずA群のヒツジがすべてスクラピー病に罹患したものであることを前提とした上でPrP,
検出結果の矛盾を指摘し,刊行物1記載の生検試験方法がスクラピーの存在,不存在に関係が
あるものとはいえないとするものである。
しかしながら,刊行物1の前記記載(1c)には「散発的にスクラピーの発症が見られる北
日本の複数の地域から,様々な目的で本大学農場に運ばれた36頭のヒツジが用いられた。ヒ
ツジは全て健常と見られた。36頭中4頭は同じ牧場の2頭の雌親から生まれ,内1頭は死亡
した(原因は不明)が,残り3頭は末梢リンパ節におけるPrPの発現を監視するための生検
Sc
,,。,用および観察用として飼育した(表1A群)残り32頭のヒツジは様々な実験目的で用い
安楽死の際には,脳,脾臓,リンパ節をこの研究に供した(表1,B群。B群のヒツジの雌)
親に関する情報はない」とあるだけで,実験に使用されたA群及びB群のヒツジがすべてス。
クラピー病に罹患したものであるとは記載されていないことから,A群の中にも罹患していな
いヒツジは存在し得るものであり,A群のヒツジがすべてスクラピー病に罹患したものである
との誤った前提に基づく主張は認められない。
また特許権者は,B群のヒツジについて,脳にPrPが検出されないのに,脾臓とリン
core
パ節,あるいはリンパ節に検出されたヒツジが存在することは,スクラピー罹患ヒツジであれ
ば脳に異常タンパクが高濃度に蓄積しているはずで,検出できない刊行物1の試験結果は信頼
がおけないものであるし,マウスへの脳と脾臓の組織ホモジネートの接種結果も,スクラピー
罹病の裏づけとなるものでもなく,刊行物1に開示の試験方法は,感染していないヒツジを感
染していたと誤って判定したことになるなどと主張している。
しかしながら,PrPは,感染初期段階では,マウスの経験に基づいた症状で,脾臓と
core
リンパ節で検出されることが刊行物1以前に報告され(前記記載(1b)参照,刊行物3に)
も,原因物質をウイルスと誤解している点はあるものの「扁桃,咽頭後方,および腸管膜門,
脈リンパ節,および腸管におけるウイルスの早期の出現は,一次感染が,栄養路を通して,あ
るいは羊膜液におけるウイルスから出生前にまたは汚染された環境におけるウイルスから出生
後に起こることを示唆する」という教示がある(前記記載(3a)参照。そして,刊行物1。)
においては,疾患発症以前でヒツジS2でリンパ節陰性であったり,マウス接種結果がすべて
のマウスにスクラピーを生じさせなかったことについても,種の壁や原因物質の接種量の少な
さなどについて考察している(前記記載(1h)参照)から,スクラピー潜伏期であって発症
していないB群のヒツジについての脳では陰性であったという試験結果をもって,刊行物1の
「我々は,生検により得られる末梢リンパ節におけるPrPの検出により症状発現前の段
core
階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認することができた」という知見記載(前記記。
載(1g)参照)を,特許権者が主張するように誤りであると解釈すべき根拠とすることはで
きない。
また特許権者は,刊行物2記載の「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペ
プチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体」を刊行物1記載の方法に適用する動機付け
がない旨主張しているが,免疫反応を利用し抗原物質を検出する検出方法においては,使用す
る抗体が検出対象抗体のみと反応し,他の抗原物質と交差反応しないものがより好適であるこ
とは技術常識であるから,刊行物1記載のように,抗体を用いて生存動物から標本調整可能な
組織中において異常タンパクを検出しようとする際に,異常タンパクのアミノ酸配列(一次構
造)からエピトープを特定した上で形成され交差反応の可能性が除外できる刊行物2記載の抗
体を使用してみるようなことは当業者であれば容易に想到できるものであるなお刊行物2,。,
における免疫組織化学的方法とウエスタンブロット法との感度等の相違を指摘する主張は,特
許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
さらに特許権者は,刊行物3はウイルス感染試験に関するものであって,免疫学的検出方法
の改良方法を示唆するものではないと主張しているが,刊行物3の記載については上記(4)
においても検討したとおり,本件特許の優先権主張日当時の技術水準からみれば,スクラピー
の原因物質が,リンパ節や脾臓と同じく,扁桃にも存在することを教示していると理解できる
ものである。
したがって,特許権者の上記の主張は採用できない」。
(8)結論
「以上のとおりであるから,請求項1~11に係る発明の特許は,特許法29条2項の規定
,,。」に違反してされたものであるので同法113条2号に該当し取り消されるべきものである
第3原告の主張の要点
決定は,刊行物1記載の発明の認定を誤った結果,本件発明1及びこれを前提と
する本件発明2~11の進歩性の判断を誤り,さらに本件発明4及び7において特
定された構成の進歩性も誤って否定したものであり,違法として取り消されなけれ
ばならない。
1取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤り)
(1)決定は,刊行物1と本件発明1を対比し,刊行物1には「症状発現前の段,
階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認でき,この結果が致死的方法を使用
することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースである」ことが記載されて
いるとした上で,同刊行物に記載された発明を「少なくとも1種の抗体を使用し,
て,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検
出方法が記載されている」と認定し,これを前提として「少なくとも1種の抗体を
使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン
病の検出方法」を一致点と判断した。また,決定は,刊行物2と本件発明1を対比
し,一致点及び相違点を認定した上で(一致点及び相違点については認める,。)
相違点の判断において,刊行物1記載の発明について,上記と同様の認定をし,本
件発明1の進歩性を否定した。しかしながら,刊行物1は,以下のとおり「症状,
発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認でき,この結果が致死的
方法を使用することなく天然のスクラピーを診断する最初のケースである」とはい
えないのであるから,刊行物1に記載された発明についての決定の認定は誤りであ
る。
アB群のヒツジD4,D5,D7について
刊行物1には,B群のヒツジD4,D5,D7の脾臓又はリンパ節から異常タン
パクが検出されたことが報告されているが,スクラピー病において異常タンパクの
蓄積が必ず見られるはずの脳において異常タンパクが検出されていないのは,極め
て奇異である。これは,脾臓又はリンパ節における異常タンパクの検出が,真の陽
性ではなく,実際は偽陽性であったことを示すものである。
(ア)刊行物1(甲2の1)には,実験に使われた32頭のB群のヒツジについ
て「PrPは,安楽死させられたB群のヒツジ32頭のうちの3頭に検出され,core
た(表1。この群の29頭のPrP陰性ヒツジは,表1より割愛した。3頭の)core
ヒツジのうち2頭(D4とD5)から得られた脾臓及びリンパ節と残る1頭のヒツ
ジ(D7)のリンパ節は,PrP陽性であったが,脳からは検出されなかったcore
(表1(429頁下から4行~430頁1行)と記載されている。)」
刊行物1の表1にも示されているように,ヒツジD4及びD5にあっては脾臓及
びリンパ節から,ヒツジD7にあってはリンパ節から,異常タンパクが検出された
とされているが,いずれも脳からは検出されていない。本件特許出願時,さらには
その後のスクラピーに関する研究によれば,異常タンパクPrPは脳中に高濃度Sc
に蓄積されることに照らすと,上記結果は明らかに奇異である。
そもそも,スクラピー病は,中枢神経系組織病理学的試験によって診断されるも
のであり,脳内におけるPrPの蓄積に密接に関連しているものである。このこSC
とは,刊行物1に「この疾病の進展は脳中での正常な膜糖タンパク質であるPr
Pのイソ型であるPrPの蓄積に密接に関連している(427頁21~23CSC
。」
行)と記載されているとおりである。
また,本件特許出願後の文献ではあるが,甲6にも「全ての伝達性海綿脳症に,
おいて,PrP-resまたはPrPと呼ばれる,異常かつ感染に関連したプロSc
テアーゼK抵抗性タンパク質が脳に蓄積される。幾つかの種にあっては,PrP-
resがそれ以外の組織にも蓄積される。ヒツジの胎盤,脳,脾臓およびリンパ節
を,PrP-resおよび感染力について詳細に調べた。共に,スクラピー感染ヒ
ツジの,全ての脳および脾臓サンプル,胎盤中と,並びに80%のリンパ節に観察
された(949頁「要約」2~7行)と記載され「全てのTSEsでは,Pr。」,
P-resまたはPrPと呼ばれる特徴的なプロテアーゼK抵抗性タンパク質Sc
が,感染した動物の脳に蓄積される(949頁左欄下から3~1行)と記載され。」
ている。
このように,スクラピー病が脳内におけるPrPの蓄積に密接に関連しているSC
SC
ことに照らすと,刊行物1のヒツジD4,D5,D7のいずれの脳からもPrP
core
が検出されなかったことは極めて奇異でありD4D5D7に関するPrP,,,
陽性は,異常プリオンタンパク質の存在によるものではなく,スクラピーとは無関
係な何かが測定されたことが原因として強く疑われる。すなわち,ヒツジD4,
D5,D7は「偽陽性」にすぎないと認定されるべきである。,
(イ)決定は,刊行物1の参考文献3(甲7)及び8(甲8)を指摘しつつ,P
rPが感染初期段階において脾臓とリンパ節から検出されることは,刊行物1core
以前に報告されていると指摘する。
しかしながら,甲7及び8のスクラピー病感染は,天然又は自然感染ではなく,
腹腔内への人工的・実験的感染である。強制的に異常タンパク質を腹腔内に投与さ
れたマウスにおいて,その投与部位たる腹部に近い脾臓又はリンパ節が短期間のう
ちに異常タンパク質により汚染されることは容易に想像できるが,このような実験
から,脳内に異常タンパクが蓄積されることを特徴とするスクラピー病の自然感染
について,脳内に異常タンパク質が検出される前に脾臓において検出されるとの結
論を導くのは無理である。したがって,甲7及び8の記載に基づき,刊行物1のB
群のヒツジにおいて,脳に異常タンパク質を検出されなかったことを説明すること
は適切ではない。
仮に,感染初期段階では脳には異常タンパクが検出されず,脾臓とリンパ節で検
出されるとしても,ヒツジD5は安楽死された時点で既に48月齢であったのであ
るから,D5の脳に異常タンパクが検出されなかった理由としては合理性を欠く。
このような高齢のヒツジにおいて,脾臓とリンパ節から異常タンパクが検出されな
がら,脳から検出されなかったことは,この実験の信憑性を疑わせるものである。
(ウ)さらに,甲9には,以下の記載がある。
「細胞性プリオンタンパクPrPの発現は,伝達性海綿脳症の進行に不可欠であり,ゆえ

に当該疾病に関連した異型PrPの蓄積にも不可欠である。したがって,PrPの組織分
Scc
布を,量的,質的の双方のレベルでタンパク量を調べた。PrPは,精製ヒツジ組換えプリ

オンタンパク質(rPrP)により標準化されたツーサイトエンザイムイムノメトリックアッ
セイ法により定量した。最もPrPが多い組織は,脳であり,そして肺,骨格筋,心臓,子

宮胸腺そして舌と続きこれら組織における濃度は脳におけるPrPの20~50分の1,,,

であった。これらの組織におけるPrPの濃度はヒツジ間で似ていた。しかし,他の組織で

は異なり,かつ低く,調べた個体動物によってタンパク質レベルは相違した。消化管由来の組
織についてもまた同様であった。最もPrPの濃度が低かったのは肝臓であり,脳の564

~16000分の1の濃度であった(2017頁「要約」1~11行)。」
甲9の上記記載は,PrPの脳内濃度が他の組織と比較して非常に高いことをc
示している。PrPは正常タンパク質であるから,このタンパク質の濃度が高いc
ことから異常タンパク質PrPの濃度が高いとは直ちにいえないが,この存在がSc
なければ異常タンパク質PrPの生成及び蓄積がされないのであるから,PrPSc
の脳内濃度と,PrPの蓄積濃度には,特にその高濃度の蓄積が必ず見られるcSc
脳内においては,相関関係があると考えるのが合理的である。
(エ)刊行物1では,ヒツジD4及びD5の脳,脾臓又はリンパ節から調製した
組織ホモジネートを,その濃度又は投与経路を変えてマウスに接種する実験を行っ
ているがその中でスクラピー感染が疑われるのはD4の脾臓の20%ホモジネー,,
トを接種した2匹のマウスの脳にPrPを検出した例のみであり,他はスクラcore
ピー病の感染は確認できなかったと評価されるべき内容である。決定は「種の壁,
や原因物質の接種量の少なさ」を理由に,ヒツジD4,D5,D7がスクラピー病
に感染していたことを否定できないとするが「種の壁や原因物質の接種量の少な,
さ」だけを理由に,この実験結果からスクラピー病に感染していたことを肯定する
のは困難である。
(オ)刊行物1の実験において「擬陽性」の結果を示したのは,組織試料の処理
方法及び抗血清を得る方法が不適切であったことが原因として考えられる。刊行
物1に記載の組織試料を処理する方法及び抗血清を得る方法を詳細に見ると,異常
タンパクPrPは組織中に極めてわずかな量しか存在しないにもかかわらず,遠Sc
心分離等の操作が繰り返され,さらには首尾一貫しない矛盾した操作を行っている
ことが認められ,その結果,異常タンパクの多くが失われ「偽陽性」の結果が生,
じたことが考えられる。
イA群のヒツジについて
刊行物1のA群のヒツジに関する実験は,わずか4頭の群れの羊に対するもので
あり,その結果から偶発性を排除できず,スクラピー病の感染個体と非感染個体と
を高い確度で峻別し得る手法であるとは評価できない。また,A群のヒツジに対す
る個別的な試験結果も,以下のとおり,生存動物から標本調整可能な組織中におけ
る異常タンパク質の検出に成功したことを示すものとはいえない。
(ア)ヒツジS1
ヒツジS1について,刊行物1には「ヒツジS1(A群)は意外にも生後10,
,。」ヶ月目までに後部の協調運動障害及びうつを示したがそう痒は見られなかった
(429頁20~22行)と記載され,極めて早い段階で(10月齢より早い)スク
ラピーの臨床徴候を示したことが報告されている。他方,甲10には「スクラピー
は中枢神経系が障害を受ける疾病で,好発年齢は2~5歳,3.5歳にピークとな
る。1歳半より若齢の症例はまれである(92頁下から11~10行)との記載。」
がある。したがって,10月齢より早い時期にスクラピーの臨床徴候が現れるのは
刊行物1も「意外にも」としているように異例であり,この点でまずスクラピー病
であったのか疑わしい。
また,この実験では,ヒツジS1を安楽死させ,異常タンパク質が生験後の脳,
脾臓,及びリンパ節試料に存在することを明らかにしたとしているが,これは,発
症前診断でも,生存動物における試験でもない。
したがって,ヒツジS1についての記載は「生存動物から標本調整可能な組織,
中に異常タンパクを検出する」方法を開示するものではない。
(イ)ヒツジS2
ヒツジS2については,発症前診断が試みられた。しかし,このヒツジは,12
月齢において,異常タンパクをリンパ節試料から検出することができず,15月齢
においても,異常タンパク質をリンパ節試料から検出することに成功しなかった。
結局,このヒツジは,19月齢でスクラピーの臨床徴候を示し,安楽死の後,異常
タンパク質が脳,脾臓,及びリンパ節試料から検出されている。この実験は,症状
発現前段階において「生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出す
る」ことに成功した事例ではない。
(ウ)ヒツジS3
ヒツジS3は,14月齢において運動障害を示したとされており,試験がされ
た12月齢において既にスクラピー病の進行期に入っていたと思われるが,運動不
能が見られる直前の12月齢にリンパ節試料で異常タンパク質が検出されたとされ
ている。しかし,14月齢において運動障害を示したとされたことについては,ヒ
ツジS1と同様に,通常よりも早期に臨床徴候が現れており,真にスクラピー病を
発症していたのか疑わしい。このように,3例のうち2例で通常より早期の臨床徴
候が現れていることは,A群のヒツジから得られた陽性の結果が,実際は偽陽性で
あることを示している。
(2)以上のとおり,刊行物1に「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物
から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」が開
示されているとした決定の認定は誤りである。
決定は刊行物1と本件発明1とを対比判断するとともに刊行物2と本件発明1,,
を対比判断し,いずれによっても,本件発明1は刊行物1及び2に記載された発明
に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると判断しているが,決定がいずれ
の対比判断においても基礎とした刊行物1記載の発明の認定が誤りである以上,こ
の認定の誤りが本件発明1及び同発明を前提とする本件発明2~11の進歩性の判
断の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2取消事由2(本件発明4で特定された構成に関する判断の誤り)
本件発明4は,本件発明1における「生存動物から標本調整可能な組織」を「扁
桃」とすることを内容とするものである。
(1)リンパ系組織のうち,扁桃には,PrPが他のリンパ系組織に比較してSc
特に高い比率で存在し,その結果,扁桃はPrPの検出に極めて有利な組織であSc
る。本件明細書(甲5)には,刊行物2記載の抗体を用いて,スクラピー病と診断
された55頭のヒツジのリンパ系組織について,免疫組織化学の手法により,異常
タンパクPrPを検出したことを内容とする実験が記載されている(9欄25行Sc
~11欄2行,12欄1行~13欄2行。この実験によりリンパ系組織に異常タ)
ンパクが存在することが確認され,さらに,PrPは55頭のスクラピー罹患ヒSc
ツジのうち,54頭(98%)の脾臓,扁桃,咽頭後リンパ節及び腸間膜リンパ節
から検出された。さらに,PrPを含むリンパ小節の割合を脾臓,扁桃及びリンSc
パ節の切片について見積もったところ,98%のスクラピー罹患ヒツジの口蓋扁桃
では,60%を超えるリンパ小節がPrPを含み,93%のスクラピー罹患ヒツSc
ジの扁桃では,PrP陽性の示すリンパ小節の割合が80%を超えていたのに対Sc
し,脾臓又はリンパ節において,リンパ小節に60%を超えるPrPの蓄積をみSc
たのは30%を下回るヒツジにおいてのみであった(12欄45行~13欄2行参
照。)
上記実験の結果は,リンパ系組織のうち扁桃において,PrPを含むリンパ小Sc
節の割合が極めて高いことを示しており,この実験は,学術論文に投稿され,本件
特許の優先日の後に掲載されている(甲12の表1(1230頁左欄。))
以上によれば,動物がスクラピー病に罹患し,体内に異常タンパクが存在する場
合に,扁桃はその異常タンパクPrP検出を高い確度で保証する組織であり,異Sc
常タンパクを検出することによりスクラピー病の検出を行う上で極めて有利な組織
であることは明らかである。
(2)また,本件明細書には,11頭の生きたヒツジから,扁桃組織を得て,そ
れについて刊行物2の抗体を用いて,免疫組織化学手法により異常タンパクの検出
を試み「ヒツジ11頭のうちの8頭はスクラピー陽性であることが証明され,一,
方,3頭は陰性となっていた。この事実は組織学的に,また死後実験に際しての脳
組織のIHCにより確認した。8頭の陽性動物全ての扁桃生検がIHCで陽性の免
疫染色を示したが,3頭の陰性例では免疫染色が検出できなかった(13欄50。」
)。,「」行~14欄5行との結果を得たことが記載されているこの実験により扁桃
を「生存動物から標本調整可能な組織」として用いるとの本件発明4の作用効果は
確認されている。
(3)決定は「生存動物から標本調整可能な組織」として扁桃を選択することは,
刊行物3に示唆されているというが,刊行物3は,プリオン病の原因物質が他のリ
ンパ系組織と同様に扁桃にも存在することを示唆しているにすぎず,扁桃が「生存
動物から標本調整可能な組織」として有利であることを示唆するものではない。し
たがって「生存動物から標本調整可能な組織」として扁桃を選択することは,刊,
行物1~3に記載された技術事項から,当業者が容易に想到し得たものではなく,
また,これらの刊行物から本件発明4の奏する顕著な効果について予測することも
困難である。
したがって,本件発明4の進歩性を否定した決定の判断は誤りである。
3取消事由3(本件発明7で特定された構成に関する判断の誤り)
本件発明7は,プリオン病を前臨床段階で検出するために本件発明1の方法を行
うことを内容とする。決定は,刊行物1記載の方法は,本件発明7のようにプリオ
ン病を前臨床段階で検出する方法であるとするが,刊行物1から,相当の確率で前
臨床段階においてスクラピー病を検出できるとの合理的な教示又は示唆が得られる
とはいい難い。すなわち,刊行物1のA群の4頭のヒツジは,極めて高い確率でス
クラピー病に感染している上,4頭のヒツジのうち,わずか2頭(S2とS3)に
ついてのみ生検が行われたにすぎず,さらに4頭のうち1頭(S3)について,生
検によりスクラピー病の検出に成功しているにすぎない。このように,わずか4頭
の群のヒツジにおいて実施された試験では偶発性を排除できず,当業者であれば,
スクラピー病の感染個体と非感染個体とを高い確度で峻別し得る手法であると客観
的に評価することはできない。
以上に加え,刊行物1のB群のヒツジにあっては,異常タンパクを脳に検出しな
,,「」いという奇異な結果が得られていることも勘案すると刊行物1が前臨床段階
で「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常
タンパクを検出するプリオン病の検出方法」を開示しているとはいえない。
したがって,本件発明7の進歩性を否定した決定の判断は誤りである。
第4被告の主張の要点
1取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤り)に対して
(1)本件発明1は,①異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペ
プチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用すること,②生存動物から
標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出すること,の2つの構成を有するプリ
オン病の検出方法である。
刊行物3にも示されるように,1980年代の初めにはプリオン病はウィルスに
起因するものであるという説もあったが,その後,例えば乙3に示すように,通常
存在する正常プリオンタンパクPrPの立体構造が変化した異常プリオンタンパc
クPrP,PrPが原因物質であることが明らかとなり,また乙2に示すよscCJD
うに,スクラピーに感染したヒツジの脳,脾臓,リンパ節にプロテアーゼK抵抗性
のタンパクが検出されることも明らかとなった。
sc
このような状況で,プリオン病の診断や予防には異常プリオンタンパクPrP
の存在を検出することが当然の課題となり,いくつかの検出方法が試みられてきた
,,,がなかでも代表的なものは乙4に示されるウエスタンブロット法であり次いで
刊行物2に示される免疫組織化学的手法を用いた新たな検出方法が提案された。こ
の免疫組織化学的手法は,甲3の299頁左欄下から3行~右欄8行に記載されて
いるとおり,従来の方法より簡単で,実用的なものであった。
本件発明1で用いられているプリオンタンパクの免疫組織化学的検出方法及び抗
体は,決定において引用された刊行物2に記載された方法及び抗体と全く同じもの
である。刊行物2記載の方法においてはヒツジの脳から採取した組織切片を用いて
いることから,本件発明1の構成のうち「標本調整可能な組織中に異常タンパクを
検出する」という構成を備えたプリオン病の検出方法は,既に刊行物2に開示され
ており,唯一「生存動物から」標本調整可能な組織を得ることのみが刊行物2には
記載されていない。
core
刊行物1には「我々は,生検により得られる末梢リンパ節におけるPrP,
の検出により症状発現前の段階で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認するこ
とができた(430頁下から3~1行)と明記され,刊行物1において引用され。」
ている参考文献3(甲7)にも「脾臓試料を用いた際には,このタンパク質は,前
臨床状態にあるマウスから検出され(投与から4週間後,スクラピー病の臨床的)
徴候は投与から22週後に数匹のマウスにおいて観察された955頁要約7。」(「」
~9行と記載され同参考文献5乙1にもさらに感染後14ヶ月のグルー),()「,
プDのヒツジ3のリンパ節にPrPが検出され,さらに6ヶ月後に運動失調の臨床
的徴候が現れ始めた(273頁右欄31行~34行)と記載され,いずれも症状。」
発現前のヒツジやマウス等の生存動物から得られた組織試料からPrPあるいはSC
SAF(scrapieassociatedfibrils)を検出したことが記載されている。これに
よれば,刊行物1の論文が発表された時点において「生存動物から」得た標本調,
整可能な組織から異常タンパクを検出することが既に行われていたとみるのが妥当
であり,いずれにしても,最終的に脳において異常タンパクが検出されたか否かと
は全く関係なく,生存動物から標本調整可能な組織を得ることは刊行物1に十分に
開示されている。
そして刊行物1にこの研究で我々はPrPの検出は天然のスクラピー,「,,core
の症状発現前の段階での臨床的意義を有することを示す(428頁2~3行)と。」
記載され,乙1に「この研究結果は,リンパ節の生検を行うことにより臨床的徴候
が発現する前にスクラピーに感染したヒツジを特定できる可能性を示すものであ
る(273頁右欄34~36行)と記載されているように,生存動物から得た組。」
織から異常タンパクを検出することが臨床前のプリオン病の診断に極めて有効な手
段であることが既に認識されていることからみて,刊行物2に記載されたプリオン
病の検出方法において,生存しているヒツジから標本調整可能な組織を採取するこ
とは,当業者であれば容易に想到できるものである。
(2)これに対し,原告は,刊行物1における実験において,B群の各ヒツジの
脳から異常タンパクが検出されなかったのは極めて奇異であり,症状発現前の段階
で天然のスクラピーに感染したヒツジを確認できていないと主張する。
アB群のヒツジについて
B群のヒツジについて,刊行物1には「残り32頭のヒツジは様々な実験目的,
で用い,安楽死の際には,脳,脾,リンパ節をこの研究に供した(表1,B群」)。
(428頁9~12行)と記載されており,D4,D5,D7のヒツジはそれぞれ
の実験目的に用いられ,安楽死させられた時に脾臓,リンパ節にPrPが検出core
されたもので,安楽死に至るまでの間に臨床徴候の発現はない。
脳における異常タンパクの存在と臨床徴候の発現とは密接に関連していることか
ら,臨床徴候がまだ発現していない感染初期においては,脾臓,リンパ節にPrP
が検出され,脳において検出されなくても何ら不思議はない。このことは,甲7SC
に「脾臓試料を用いた際には,このタンパク質は,前臨床状態にあるマウスから検
出され(投与から4週間後,スクラピー病の臨床的徴候は投与から22週後に数)
匹のマウスにおいて観察された(955頁「要約」7~9行)と記載され,乙1。」
に「感染後14ヶ月のグループDのヒツジ3のリンパ節にPrPが検出され,さら
に6ヶ月後に運動失調の臨床的徴候が現れ始めた(273頁右欄31~34行)。」
として,臨床徴候の発現する前に脾臓やリンパ節で異常タンパクPrPが検出さSC
れたことが記載されていることからも明らかである。
原告は,甲6に基づき,スクラピー病では脳内のPrP蓄積が観察されることSC
,,が必須であると主張するが甲6は臨床徴候が発現したヒツジに関するものであり
発症前のヒツジに必ず脳内のPrP蓄積が観察されることを示すものではない。SC
また,原告は,ヒツジD5は安楽死された時点で48月齢であり,このような高
齢のヒツジにおいても脳内に異常タンパクが検出されなかったことは実験の信憑性
を疑わせるものであると主張するが,甲10に「無作為的に選んだヒツジに接種し
ても潜伏期は一定ではなく,発症せずに一生を終える場合もある。また汚染群内の
スクラピーの自然発症は通常数%,高くても20%程度である。自然例では個体に
よる感染の有無,病原体の摂取量の違い等を考慮することは当然としても,このよ
。」()うな潜伏期のばらつきの原因は宿主の遺伝的な不均一さにある95頁5~8行
と記載されているように,プリオン病は他の感染症とは異なり個々の遺伝子と密接
なつながりがあるため,その潜伏期は個体によってかなりの差があり,ヒツジD5
は,潜伏期の長いヒツジであったことも考えられるので,他のヒツジよりも高齢で
あったことだけを理由として実験全体の信憑性を論ずることは意味がない。
さらに原告は,刊行物1で引用されている参考文献3(甲7)及び8(甲8)に
開示されている事項はいずれもマウスによる人工的・実験的感染であると指摘する
が,刊行物1の論文が発表された時点においてマウスやハムスターによる実験は既
に一定の評価を得ていたのであるから,甲7,8の内容は参照するに値するもので
ある。
イA群のヒツジについて
原告は,A群のヒツジのうち,S1に関し,極めて早い段階で臨床徴候を示して
いるのは,甲10の記載に照らすと異例であり,ヒツジS1がスクラピー病であっ
たのか信頼性に欠けると主張するが,遺伝的情報,臨床徴候,異常タンパクの存在
を総合的に判断すれば,ヒツジS1はスクラピー病に罹患していたとみるのが自然
であり,上記のとおり,スクラピー病の潜伏期はその個体によって変動するため一
定ではないことを考慮すると,1歳半より若齢の症例はまれであるという定説が存
在するというだけで,ヒツジS1がスクラピー病ではなかったと結論付けることに
は無理がある。また,ヒツジS1は臨床徴候が現れていることから既にスクラピー
病に罹患していたと判断されたため生検を行わなかったにすぎず,ヒツジS1につ
いての検査が「生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出する」方
法を開示するものでないとの主張は失当である。
また,原告は,S2のヒツジについて「生存動物から標本調整可能な組織中に,
異常タンパクを検出する」ことに失敗したと結論付けているが,ヒツジS2におい
ても15月齢から19月齢までの間に生検を行っていればリンパ節に異常タンパク
が検出できた可能性を全く否定することはできない。
原告は,ヒツジS3についても,ヒツジS1と同様,通常より早期の14月齢で
臨床徴候を示しているため,真にスクラピー病を発症していたのか疑わしいとして
いるが,スクラピー病の潜伏期はその個体によって変動するため一定ではなく,ま
た,A群の3頭のヒツジは同じ牧場から集められたものであり,同じ雌親から生ま
れた可能性もあることから,同じような短い潜伏期を有していても何ら不思議では
なく,このような事実のみをもってスクラピー病の発症が疑わしいとするのは失当
である。ヒツジS3は臨床徴候を示す前の12月齢で,既にリンパ節において異常
タンパクが検出されているのであるから,まさに「生存動物から標本調整可能な組
織中に異常タンパクを検出する」ことに成功しているものである。
(3)刊行物1に記載されているようなヒツジを用いてのスクラピー病の臨床実
験は,時間もかかり,さまざまな要因が関係するので,必ずしも明確な因果関係が
得られない場合もあり得るが,上記のとおり,刊行物1の記載事項等を総合的に勘
案すれば,刊行物1には「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調
整可能な組織中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」が開示されてい
るということができる。したがって,刊行物1記載の発明に関する決定の認定に誤
りはなく,刊行物1記載の発明に関する決定の認定に誤りがあることを理由として
本件発明1~11の進歩性判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
2取消事由2(本件発明4で特定された構成に関する判断の誤り)に対して
Sc
原告は,扁桃が他のリンパ系組織と比較して,高い比率で異常タンパクPrP
陽性を示したリンパ小節を含み,異常タンパクの検出に有利な組織であるとの事項
は,刊行物1~3には開示も示唆もされていないと主張する。
しかしながら,刊行物1及びこれに開示されている参考文献には,プリオン病の
検出方法において,生存動物から標本調整可能な組織としてリンパ組織を用いるこ
とが記載されており,刊行物3には,プリオン病の原因物質が他のリンパ系組織と
同様に扁桃にも存在することが記載されているのであるから,当業者であれば生存
動物から標本調整可能な組織として扁桃を用いることは容易に着想できたものであ
り,それに付随する効果についても当業者が容易に見出し得たものである。
プリオン病の検出方法については,動物のさまざまな組織において異常タンパク
を検出する試みがなされてきているが,その検出対象となる動物の組織について,
それまで対象とされていた組織をそのまま用いるのは当然のことである。例えば,
(),,「」,本件明細書9欄49行~10欄3行には検査対象となる組織として脾臓
「口蓋扁桃「肩甲骨前リンパ節「大腿前リンパ節「咽頭後リンパ節「気」,」,」,」,
管気管支リンパ節「腸間膜リンパ節「回腸」が挙げられているが,これらの」,」,
組織は,刊行物3の表1及び2に挙げられている「脾臓「扁桃「前方肩甲骨」,」,
リンパ節「前方大腿リンパ節「咽頭後方リンパ節「気管支縦隔リンパ節,」,」,」,」
「」,「」,,腸間膜-門脈リンパ節回腸にすべて対応しており本件特許の発明者らは
刊行物2に記載された新たな免疫組織化学的手法を用いた検出方法を行うに当た
り,従前から検査試料として採取されていた動物の組織を同じように試料として用
いたものと推測される。
また,刊行物1には,生検によりリンパ節を採取して試料としたことが記載され
ているところ,扁桃が生検で採取できる組織であることは当業者にとって明らかで
ある。
,,原告は扁桃を選択した場合の顕著な効果とその予測困難性について主張するが
本件優先日よりも14年も前の文献である刊行物3において,検査すべき試料とし
て扁桃が挙げられているのであるから,プリオン病の検出に試料として扁桃を用い
ることは,まったく予想されないことではなく,新たな検出方法と公知の採取試料
との組合せの効果がたとえ顕著であったとしても,このような効果は生存動物から
標本調整可能な組織として単に扁桃を選択したことに付随する効果にすぎない。
3取消事由3(本件発明7で特定された構成に関する判断の誤り)に対して
原告は,刊行物1には,相当の確率で前臨床段階においてスクラピー病を検出で
きるとの合理的な教示又は示唆がなされておらず前臨床段階で少なくとも1,「」「
種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出す
るプリオン病の検出方法」を開示していないと主張している。
しかしながら,前記のとおり,刊行物1記載の方法は,本件発明7のようにプリ
オン病を前臨床段階で検出する方法であり,本件発明10のように動物のプリオン
病の診断に使用し,又は動物起源生成物中の異常タンパクの検出に使用できること
が教示されている。
したがって,本件発明7についての決定の認定判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件発明とその背景
本件発明は,海綿状脳症(SEs)とも呼ばれるプリオン病の検出方法に関する
ものである。
プリオン病は,ヒツジのスクラピー,牛海綿状脳症(BSE,狂牛病,ヒトのク)
ロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)及びクールーなどを含み「プリオンタンパク,
の摂取あるいは接種を経て伝染し得るものであり,医原性に発生するが,伝染の証
拠のない何らかの理由であるいは遺伝的根拠によっても起こる(本件明細書」
(甲5)の3欄13~16行)ものである。
プリオン病は,中枢神経系の疾患であり,潜伏期間は非常に長いが,一度発症す
ると治療が不可能である。この疾病に罹患した動物の脳や中枢神経系等には,異常
なプリオンタンパク(scrapieformofPrP(PrP))が蓄積し,脳は数多くの空胞Sc
の形成により海綿状となる(甲5,10,13。)
プリオン病の原因因子については,異常なプリオンタンパクそれ自体であるとい
う考え方とこれに同意しない考え方があるが,本件明細書には「異常タンパクそれ
自身が原因因子とみなされ,感受性動物がそのような異常タンパクを体内に取り込
んだ場合…,連鎖反応が起こり,最終的にプリオン病の臨床的徴候に至ることにな
る「全ての研究者が,PrPが原因因子であるという声明に同意するわけでは。」Sc
ないが,全員ではないにしてもほとんどがPrPの存在と疾患の関係が確かに立Sc
証されていることに同意していると記載され甲5の4欄2~8行4欄下から6」(,
~3行,いずれにしても,異常なプリオンタンパクがプリオン病の原因の中心に)
あるとの認識が示されている。
異常なプリオンタンパクの検出方法について,本件明細書には「PrPはウ,Sc
エスタン・ブロッティングあるいは免疫組織化学などの免疫学的手法により検出可
能である。後者の手法は次第にヒトおよび畜産SE分野の双方において,臨床場面
での信頼できる診断手技として益々受け入れられるようになっている(甲5の4。」
欄31~35行)と記載され,本件優先日当時,ウエスタン・ブロッティング法と
免疫組織化学法が知られていたことが示されている。
,,,しかしながらプリオン病に罹患した動物及びヒトは疾患特異免疫応答を欠き
一般の感染症に用いられる抗体検出による感染の有無の検査を用いることができな
いことから,本件優先日当時,プリオン病の前臨床段階における実用的な診断は困
難であり,本件明細書にも「前臨床段階に用い得る実用的な感度のよい特異的診断
法が存在(3欄33~34行)せず「スクラピーおよび他の伝染性海綿状脳症の」,
確定診断は,この病気の臨床徴候のある動物またはヒトから死後試験期間中に採取
した脳の組織学的試験に依存していた(3欄43~46行)と記載されている。。」
本件発明は,プリオン病の疑いがある場合の早期診断に寄与することを課題とし
て,プリオン病の検出方法を提供する発明である。
(なお,本判決中では「PrP「SAF「PrP」との用語が用いられ,」]ccore
ているが「PrP(cellularformofPrP)とは動物の体内にも存在する正常な,」c
プリオンタンパクSAF(scrapieassociatedfibrils)とはPrPが集まっ,「」Sc
た微細線維状物質,PrPとはPrPの一部が水解除去されて残った抵抗性coreSc
の部分を意味する(品川森一ほか「スクレイピー」人と動物のプリオン病
(甲10)103頁15~19行,105頁5~9行参照))。
以下,原告の主張する取消事由を検討する。
2取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤り)について
決定は,本件発明1は当業者が容易に発明し得たものと結論付けたが,その理由
,。を刊行物1との対比判断と刊行物2との対比判断の2通りの方法で説明している
すなわち,決定は,まず,刊行物1と本件発明1を対比し,刊行物1には「少な,
くとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパク
を検出するプリオン病の検出方法が記載されている」と認定し,これを前提として
「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タ
ンパクを検出するプリオン病の検出方法」を一致点と判断した上で,刊行物1と本
件発明1の相違点について,当業者が容易に想到し得たものと判断した。次に,決
定は,刊行物2と本件発明1を対比判断し,一致点及び相違点を認定した上で,そ
の相違点の判断において,刊行物1記載の発明について同様の認定を行い,これを
基礎として本件発明1の進歩性を否定している。
このように,決定は,刊行物1,2のいずれを主引用例とする説示においても,
刊行物1が「少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織
中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法」を開示していると認定してい
る。原告の主張する取消事由1は,刊行物1記載の発明についての決定の上記認定
の誤りをいうものである。
以下,刊行物2を主引用例とした決定の認定判断に基づいて,検討する。
(1)本件特許の請求項1は「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインか,
らのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から
標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出することを特徴とするプリオン病の検
出方法」というものである。。
決定は,上記請求項1の記載のうち「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ド,
メインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して,組織
中に異常タンパクを検出するプリオン病の検出方法という点において本件発明1」,
と刊行物2記載の発明とは一致し,異常タンパクの検出を「生存動物から標本調整
可能な組織中」で行うのか(本件発明1,死んだヒツジの脳から得られた組織中)
で行うのか(刊行物2記載の発明)という点において,両発明は相違すると認定し
た。この点については当事者間に争いがない。
そうすると,本件発明1についての争点は,刊行物2に記載された抗体を使用し
て異常タンパクを検出するに当たり,その対象を,死んだ動物の脳から得られた組
織ではなく,生存動物から標本調整可能な組織とすることが,刊行物1に基づき,
容易に想到し得たかどうかに尽きるということになる。
(2)本件明細書に「今日まで,スクラピーおよび他の伝染性海綿状脳症の確定
診断は,この病気の臨床徴候のある動物またはヒトから死後試験期間中に採取した
脳の組織学的試験に依存していた(3欄43~46行「実用的前臨床診断試。」),
験の探求は研究の主たるトピックであったし現在もそうである4欄36~37,。」(
行「ほとんどの研究者がPrPを検出する方法に焦点を絞った(4欄44),。」Sc
~45行)などと記載されているとおり,本件優先日当時,異常プリオンタンパク
を生存動物,とりわけ臨床徴候が現れる前の動物から検出する技術の開発は,周知
の課題であったものと認められる。刊行物2及びその他の本件証拠には,刊行物2
記載の抗体を使用して組織中に異常タンパクを検出する方法が,死んだ動物から標
本調整可能な組織のみに使用し得る旨の記載ないし示唆はないのであるから,当業
者であれば,刊行物2記載の検出方法を用いて,生存動物から標本調整可能な組織
に異常プリオンタンパクを検出しようと試みるのは当然のことということができ
る。
実際のところ,臨床症状が発生する前の動物も含め,生存動物から標本調整可能
な組織に異常プリオンタンパクを検出する試みが,本件優先日当時,既に行われて
いたことは,刊行物1(甲2,SatoshiDoi外「WesternBlotDetectionof)
Scrapie-associatedFibrilProteininTissuesoutsidetheCentralNervous
SystemfromPreclinicalScrapie-infectedMice」J.gen.Virol.(1988)(甲7,)
Y.Ikegami外「Pre-clinicalandclinicaldiagnosisofscrapiebydetectionof
」()PrPproteinintissuesofsheepTheVeterinaryRecord(March23,1991)乙1
に記載されているとおりである。すなわち,刊行物1のA群のヒツジのうち,S2
については,臨床症状発生前の生後12か月及び15か月の時点で,生検により腸
骨下部リンパ節を採取し,S3については,同じく臨床症状発生前の生後12か月
目に生検で腸骨下部のリンパ節標本を採取し,S4についても健常と見られる生
後15か月目でリンパ節を生検で採取し,それぞれPrPの検出が試みられ,core
S3のヒツジからPrPが検出されたと報告されている(429頁20~41core
行。)
さらに,甲7にも,マウスの脾臓試料を用いた場合において,前臨床状態のマウ
スからSAFを検出したことが記載され(955頁「要約」7~9行,乙1にも)
感染後14ヶ月のグループDのヒツジ3のリンパ節にPrPが検出されさらに6「,
ヶ月後に運動失調の臨床的徴候が現れ始めた(273頁右欄31行~34行)と。」
記載され,臨床的徴候が現れる前の生存動物から得られた組織試料から異常プリオ
ンタンパクを検出したことが記載されている。
以上によれば,異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配
列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用し,異常タンパクを検出するに当た
り,その対象を生存動物から標本調整可能な組織とすることは,当業者が容易に想
到し得たことであるというべきである。
(3)これに対し,原告は,刊行物1における組織から検出されたのは異常プリ
オンタンパクではなかった疑いが強いなどとして,刊行物1に「少なくとも1種の
抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出するプ
リオン病の検出方法」が記載されているとの決定の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,前記判示のとおり,本件発明1の抗体を用いて,スクラピーに罹
患し死亡したヒツジから異常プリオンタンパクを検出し得ることは既に刊行物2,,
に記載されており,刊行物1は,その記載に接した当業者が,生存動物から組織を
採取することを容易に想起し得るかという点において考慮されるにすぎない。刊行
物1には,前記判示のとおり,生存動物から標本調整可能な組織を採取して異常プ
リオンタンパクの検出を試みた旨の記載がある以上,その記載に接した当業者は,
これを刊行物2記載の発明に適用し,刊行物2記載の抗体を使用して生存動物から
採取した標本調整可能な組織中から異常タンパクを検出することを容易に想起し得
たものであり,刊行物1記載の実験において採取された組織から検出された物質が
実際に異常プリオンタンパクであったかどうかは,相違点の判断の結論を左右する
ものではないというべきである。
(4)仮に,原告の主張するとおり,刊行物1のA群及びB群のヒツジから採取
した組織から検出されたのが異常プリオンタンパクであったかどうかが,本件発
明1と刊行物2記載の発明の相違点の判断に影響を及ぼすものであるとしても,以
下のとおり,原告の主張には理由がない。
アB群のヒツジについて
原告は,刊行物1のB群のヒツジD4,D5,D7の脳から異常タンパクが検出
されていないのは,極めて奇異であり,脾臓又はリンパ節における異常タンパクの
検出は偽陽性であったことを示すと主張する。
しかしながら,刊行物1に「残り32頭のヒツジは様々な実験目的で用い,安楽
死の際には,脳,脾,リンパ節をこの研究に供した(表1,B群(428頁9)。」
~12行)と記載されているとおり,D4,D5及びD7のヒツジは,安楽死させ
られた時点で,いずれも臨床徴候は発現していない。
そして,甲10には「病原体の感染価測定をマウスを用いて一般のウイルスで行
われている段階希釈資料を接種して終末点を求める方法で実施し,末梢から感染さ
せたマウス体内での病原体の複製と分布を調べた。その結果,1週後から脾臓に,
次いでリンパ節,胸腺及び唾液腺,小腸および脊髄,最後に脳の順に感染価が検出
できるようになることを示した(99頁下から12~8行)との記載がある。。」
甲10の上記記載は,甲7の「SAFは,腹腔内投与の24週後に脳の資料にお
いて検出された。脾臓試料を用いた際には,このタンパク質は,前臨床状態にある
マウスから検出され(投与から4週間後,スクラピー病の臨床的徴候は投与か)
ら22週後に数匹のマウスにおいて観察された(955頁「要約」7~9行)と。」
の記載,RichardRubenstein外「Scrapie-InfectedSpleens:Analysisof
Infectivity,Scrapie-AssociatedFibrils,andProtease-ResistantProteins」
JID1991:164(July)(甲8)の「感染価およびSAFは,脾臓において,脳より前
または同時に検出された。加えて,感染価およびSAFの最大値は,脳よりも前に
脾臓において観察された(31頁右欄下から8~5行)との記載,乙1の「感染。」
後14ヶ月のグループDのヒツジ3のリンパ節にPrPが検出され,さらに6ヶ月
後に運動失調の臨床的徴候が現れ始めた(273頁右欄31~34行)との記載。」
とも整合するものである。
これらの記載によれば,臨床徴候がまだ発現していない時期に安楽死させられた
D4,D5,D7のヒツジの脾臓やリンパ節にPrPが検出され,脳において検SC
出されなくても,格別不自然ということはできない。なお,原告は,甲7,8は腹
腔内への人工的・実験的感染であるから参考にできないと主張するが,腹腔内への
人工的・実験的感染は,例えば病原体に汚染された食物を経口的に摂取した場合な
どと比較して,異常タンパクの体内各部への移動や蓄積において有意的な差異があ
るとは認め難い。
また,原告は,ヒツジD5は安楽死された時点で48月齢であり,このような高
齢のヒツジにおいても脳内に異常タンパクが検出されなかったことは実験の信憑性
を疑わせるものであると主張する。しかしながら,甲10に「無作為的に選んだヒ
ツジに接種しても潜伏期は一定ではなく,発症せずに一生を終える場合もある。…
自然例では個体による感染の有無,病原体の摂取量の違い等を考慮することは当然
としても,このような潜伏期のばらつきの原因は宿主の遺伝的な不均一さにある。
…潜伏期の長短の性状は絶対的なものではなく,病原体との組み合わせで決まり,
異なった病原体が感染すると潜伏期の長短が逆になることもある(95頁5。」
~13行)と記載されているように,プリオン病の潜伏期は,個体によってかなり
の差があり,しかも遺伝的な条件等によっても左右されることを考慮すると,ヒツ
ジD5は,潜伏期の長いヒツジであったとも考えられ,D5の脳内に異常タンパク
が検出されなかったからといって,D5から検出された異常タンパクが「擬陽性」
であるということはできない。
さらに,原告は,刊行物1の実験において「擬陽性」の結果を示したのは,組織
試料の処理方法及び抗血清を得る方法が不適切であったことが原因として考えられ
,,るなどと主張するが原告の主張は単なる推測や可能性の域を出ないものであって
ヒツジD4,D5,D7から検出された異常タンパクが陽性であったとの実験結果
の信憑性を覆すに足るものではない。
以上のとおり,B群のヒツジD4,D5,D7における異常タンパクの検出が偽
陽性であるとの原告の主張は,採用できない。
イA群のヒツジについて
(ア)刊行物1には「ヒツジS1は意外にも生後10ヶ月目までに後部の協調運,
動障害およびうつを示したが,そう痒は見られなかった。したがって,生検は実施
しなかったが,脳,脾,およびリンパ節については解剖後PrPの存在を検査core
した。これら3臓器はPrP陽性であった(表1(429頁20~22行)core
)」
との記載がある。
これに対し,原告は,ヒツジS1が極めて早い段階で臨床徴候を示しているのは
異例であり,ヒツジS1が真にスクラピー病であったのか疑問であると主張すると
ころ,確かに,甲10には「スクラピーは中枢神経系が障害を受ける疾病で,好,
,.。。」発年齢は2~5歳35歳にピークとなる1歳半より若齢の症例はまれである
(92頁下から11~10行)との記載がある。
しかしながら,ヒツジの個体によってスクラピーの潜伏期が異なることは前記の
とおりでありまたS1のヒツジの親の一方はスクラピーで死亡している甲2,,,(
の1の428頁7~8行。原文は"oneofwhichdiedofanunknowncause,andthe
otherofscrapie"である。甲10には「スクラピーに感染している母親から生。),
まれた子ヒツジ(は)…,母親との接触時間が長くなるにしたがってスクラピーに
なる頻度が高くなることから,子は生後密接に母親と接触している時期に感染を受
けることが示された(93頁下から12~7行)との記載が存在することにも照」
らすと,S1の潜伏期間が短いとしても不自然とはいえず,いずれにしても,臨床
core
徴候を示したのが極めて早い段階だったことから直ちにS1についてのPrP,
陽性との結果が信頼性を欠くということはできない。
(イ)刊行物1には,ヒツジS3について「健常と見られるヒツジS3から生,
後12ヶ月目に生検で腸骨下部のリンパ節標本を採取したところ,…PrP特core
異的バンドが見られた…このヒツジはヒツジS1に生検から2ヶ月後の生後14。,
ヶ月の時点で観察されたものと同じ徴候を示し,生後16ヶ月目に安楽死させた。
このヒツジのCNS(判決注:中枢神経系,脾およびリンパ節にPrPが検出)core
された」との記載があり,臨床徴候の発症前に採取した生検から異常プリオンタン
パクが検出されたことが報告されている。
原告は,ヒツジS3についても,極めて早い段階で臨床徴候を示しているのは異
例であると主張するがS3のヒツジもS1と同じ親を持つヒツジであり上記(ア),,
と同様の理由から,S3についてのPrP陽性との結果が信頼性を欠くとの原core
告主張は採用し得ない。
(ウ)また,原告は,刊行物1のA群のヒツジに対する実験は,わずか4頭の羊
,,に対するものであるから同刊行物1に記載されたとおりの結果が生じたとしても
その結果から偶発性を排除できず,スクラピー病の感染個体と非感染個体とを高い
確度で峻別し得る手法であるとは評価できないと主張する。しかしながら,本訴で
問題になっているのは,刊行物1に接した当業者が,生存動物から組織を採取する
ことを容易に着想し得たかどうかであり,刊行物1に記載された抗体やそれを用い
た実験方法が,スクラピー病の感染個体と非感染個体とを高い確度で峻別し得る手
法であると評価できるかどうかは,本件発明1と刊行物2記載の発明の相違点の判
断を左右するものではない。
(5)以上のとおり,刊行物1記載の発明は,A群のヒツジについても,B群の
ヒツジについても,決定の認定に誤りはなく,本件発明1は,当業者が,刊行物1
及び2の記載に基づき,容易に想到し得たものというべきである。また,刊行物1
記載の発明に関する決定の認定に誤りがあることを理由として本件発明1~11の
進歩性判断の誤りをいう原告の主張も理由がない。
3取消事由2(本件発明4で特定された構成に関する判断の誤り)について
本件発明4は,本件発明1における「生存動物から標本調整可能な組織」を「扁
桃」とすることを内容とするものであるところ,原告は,動物がスクラピー病に罹
患し,体内に異常タンパクが存在する場合に,扁桃はその異常タンパクPrP検Sc
出を高い確度で保証する組織であり,異常タンパクを検出することによりスクラ
ピー病の検出を行う上で極めて有利な組織であるのであるから,本件発明4は進歩
性を有すると主張する。
本件明細書には「抗ペプチド抗血清の免疫組織化学的検定」による「リンパ系,
組織中のPrPの分布」の結果として「PrPを含むリンパ小節の割合は脾ScSc

臓,扁桃およびリンパ節の切片について見積もった。98%のスクラピー罹患ヒツ
ジの口蓋扁桃では60%を超えるリンパ小節がPrPを含んでいたスクラピー,。Sc
をもつヒツジ93%の扁桃では,PrP陽性のリンパ小節の割合が80%を超えSc
ていた。脾臓またはリンパ節において,リンパ小節に60%を超えるPrPの蓄Sc
積をみたのは30%を下回るヒツジにおいてのみであった(12欄45行~13。」
欄2行)との記載がある。この記載は,各組織切片において,その切片中に存在す
るリンパ小節がどのくらいの割合で染色されたかを表しており,扁桃の場合には,
各切片に存在するリンパ小節の80%以上が染色された切片の割合が,扁桃の切片
のうちの93%を占め,各切片に存在するリンパ小節の60%以上が染色されたも
のは98%を占めることを表し,これに対して,脾臓や他のリンパ節では,各切片
に存在するリンパ小節の60%以上が染色されたものは30%を下回ったことを示
すものである。原告は,この結果に基づき,組織として扁桃を用いることには格段
の効果があると主張するものと理解できる。
しかし,本件発明4に係るプリオン病の検出方法は,請求項1に記載された抗体
を使用して,扁桃中に異常タンパクを検出するものであって,検出の手法について
は何ら限定がされていない。原告の主張する効果は,免疫組織化学的検定により検
出を行った場合のみ意味のある事項であり,例えば,ウエスタンブロット法のよう
に,組織をホモジネートしてしまう場合には,リンパ小節の染色割合の大小は意味
がない。そうすると,原告が主張する有利な効果は本件発明4が全体として奏する
効果ということはできない。
また,原告の主張するとおり,扁桃は,リンパ小節が染色される割合が高く,異
常タンパクの存在を確認しやすいという長所があるとしても,その長所は,リンパ
小節が染色される割合が高いということにすぎず,他の部位においては扁桃の場合
と比べリンパ小節が染色される割合が低いとしても,異常プリオンタンパクの最終
的な検出精度に影響を与えるものであると認めるに足る証拠はない。そうすると,
原告が主張する作用効果は,予期し得ない顕著な効果であるとまではいえない。
扁桃は,末梢リンパ性組織に属するものであり(免疫学事典,乙5,リンパ「」)
core
節から異常プリオンタンパクが検出されることは,例えば刊行物1に「PrP
,」()は感染の初期段階で脾臓およびリンパ節で検出された427頁26~27行
と記載されているようによく知られたことであるまたRichardRace外Scrapie。,「
InfectivityandProteinaseK-ResistantPrionProteininSheepPlacenta,Brain,
Spleen,andLymphNode:ImplicationsforTransmissionandAntemortem
Sc
Diagnosis」JID1998;178(October)(甲6)には「PrP-resまたはPrP,
と呼ばれる特徴的なプロテアーゼK抵抗性タンパク質が,感染した動物の脳に蓄積
される。幾つかの種,例えばヒツジにおいては,PrP-resが,…扁桃腺のよ
うなリンパ系組織にも蓄積され(949頁左欄下から3行から右欄2行)と記載」
,,(),されまた本件優先日よりも14年も前の文献である刊行物3甲4において
検査すべき試料として扁桃が挙げられているように(657頁「要約」9行,本)
件優先日当時,プリオン病の検出に試料として扁桃を用い得ることは,当業者に知
られていたものと認められる。
したがって,本件発明4は,刊行物1~3に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであり,予期し得ない顕著な効果があるとも認められないのである
から,その進歩性を否定した決定の判断に誤りがあるということはできない。
4取消事由3(本件発明7で特定された構成に関する判断の誤り)について
本件発明7は,プリオン病を前臨床段階で検出するために本件発明1の方法を行
うことを内容とするものとであるところ,原告は,本件発明1とほぼ同様の理由か
ら,本件発明7の進歩性を否定した決定の判断は誤りであると主張する。
しかしながら本件明細書に実用的前臨床診断試験の探求は研究の主たるトピッ,「
クであったし,現在もそうである(4欄36~37行)などと記載されていると。」
おり,本件優先日当時,異常プリオンタンパクを臨床徴候が現れる前の動物から検
出する技術の開発は,周知の課題であったものと認められ,当業者であれば,刊行
物2記載の検出方法を用いて,臨床徴候の出現する前の生存動物から得た組織から
異常プリオンタンパクを検出しようと試みることは当然であるということができ
る。
また,刊行物1には,A群のヒツジのうち,S3について,臨床症状発生前の生
後12か月目に生検で腸骨下部のリンパ節標本を採取し,PrPが検出されたcore
と報告されており,甲7にも,マウスの脾臓試料を用いた場合において,前臨床状
態のマウスからSAFを検出したことが記載され,乙1にも臨床的徴候が現れる前
の生存動物から得られた組織試料から異常プリオンタンパクを検出したことが記載
されていることは,前記判示のとおりである。
これに対し原告は刊行物1から相当の確率で前臨床段階においてスクラピー,,,
病を検出できるとの合理的な教示又は示唆が得られるとはいい難い,刊行物1のB
群のヒツジにあっては,異常タンパクを脳に検出しないという奇異な結果が得られ
ているなどと主張するが,いずれも,上記2で判示したとおり,理由がない。
以上によれば,本件発明7は,刊行物1~3に基づいて当業者が容易に発明する
ことができたものであるとの決定の判断に誤りがあるということはできない。
5結論
以上のとおり,本件発明1~11は,特許法29条2項の規定により特許を受け
ることができないとした決定の判断は是認でき,原告主張の決定取消事由は,いず
れも理由がない。よって,原告の請求は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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