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判決 平成14年1月8日  神戸地方裁判所 平成13年(わ)第824号詐欺被
告事件
           主       文
    被告人を懲役1年6月に処する。      
    未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
             理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,AからBの殺害を依頼されたことを奇貨として,AからB殺害の請負
着手金名下に金員を詐取しようと企て,C及びDと共謀の上,平成12年3月24
日ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号所在の居酒屋「E」において,真実は,被
告人らにおいてB殺害を実行する意思は全くなく,何らその準備もしていないの
に,Aに対し,被告人が「5000万円でやったるから金段取りせえ。」と申し向
け,Aが手付金3000万円,成功報酬として2000万円の分割払いを申し出る
や,「そしたらそれでええわ。銭持ってきたらいつでもやったるわ。」などと申し
向けた上,同席させていたFを指差しながら,「こいつが行くやつや。もう行く人
間も段取りしとるんや。」などと申し向け,Aをして,被告人らが真実B殺害を引
き受け,既に殺害の実行役まで準備しており,着手金を交付すれば直ちにB殺害を
実行してくれるものと誤信させ,よって,同年4月21日午後3時ころ,福岡県北
九州市f区gh丁目i番j号所在のG株式会社H駅改札口前付近において,DがA
から現金2200万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させたものであ
る。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法60条,246条1項に該当するので,その所定刑期の
範囲内で,被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中6
0日をその刑に算入することとする。
(争点に対する判断)
 弁護人は,被告人らが,被害者に対し,殺人を請け負う旨申し向けて欺き,現金
2200万円を騙し取ったことは事実であるが,被害者は,刑法上の保護を受ける
べき財産上の損害を負ったものとはいえないから,被告人らの本件行為に詐欺罪は
成立しない旨主張する。
 しかしながら,詐欺罪の本質は,相手方を欺罔して財物を騙取し,あるいは財産
上不法の利益を得るなどして,その財産権を侵害する点にあると考えられるとこ
ろ,欺罔手段を用い,それによって相手方を錯誤に陥れ,その占有する財物を交付
せしめて,その財物に対する支配権を侵害した以上,たとえ相手方の財物交付が不
法原因に基づくものであり,民法上その返還等を請求できない場合であっても,相
手方の財物に対するもともとの占有自体は刑法上の保護に値するものであるし,不
法原因となるべき話を欺罔手段に用いて財物を騙取する行為が違法であることも明
らかであるから,詐欺罪の成立を否定すべき理由は存しない。
 弁護人は,本件において詐欺罪の成立を否定すべき理由として,①殺人の請負話
は,もともと被害者自身が持ち込んだ話であって,被告人らから持ちかけた話では
ないこと,②殺人の請負は,不法原因給付のなかでも,違法性の最も高度なもので
あること,③被害者の騙し取られた現金は,被害者が本件のために他から調達した
ものであって,もともと被害者自身のものではなかったことなどを挙げるのである
が,これらの諸点はいずれも本件における詐欺罪の成否とは関係のない事柄である
から,詐欺罪の成立を否定すべき理由とはなしえない。
 弁護人の上記主張は採用できない。 
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,共犯者らとともに,被害者からの殺人の依頼を請け負うかの
ように装って被害者を欺き,現金2200万円を騙し取ったという詐欺の事案であ
る。
 被告人は,被害者から判示B殺害を依頼されるや,それに乗じて,その殺害の報
酬名目で金員を騙し取ることを企て,本件犯行を敢行したものであって,その利欲
的な動機に酌量の余地は存しないこと,被告人は,被害者を信用させるため,詳細
を知らない人間を実行役であるかのように見せかけたり,被害者の面前において共
犯者らに殺害のための準備を指示したりするなどの策を弄した上,金策に時間のか
かった被害者に対し,その報酬を早く用意するよう何度も迫るなど,その犯行態様
は巧妙かつ悪質であること,被害金額は2200万円と相当に高額であること,被
告人は,犯行計画の立案においても,その実行においても,共犯者の中で最も中心
的な役割を果たしている上,被害者から騙し取った現金2200万円のうち,最も
多額の1000万円を分け前として受け取っていることなどに鑑みると,犯情は悪
く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 加えて,被告人は,長年,暴力団組員として活動し,本件犯行もその地位を利用
し以前の配下の組員と共謀して敢行したものであることや,被告人は,平成9年3
月に道路交通法違反の罪により懲役4月,3年間執行猶予の判決を受けていて,本
件はその執行猶予期間満了後間もなくの犯行であるほか,傷害罪や暴力行為等処罰
に関する法律違反の罪による罰金前科3犯があることも,量刑上看過するわけには
いかない。
 してみると,被告人が本件犯行に及んだのは,被害者自身から積極的にB殺害の
依頼を受けたことに由来するなど,被害者にも本件犯行を惹起した原因が多分にあ
ること,本件において被告人らに交付された金員は,民法上被害者が返還を請求で
きる性質のものではないこと,被告人は,被害者との間で,平成13年12月に2
00万円を支払い,平成14年1月以降毎月15万円を支払う,被害者の被告人に
対する法的請求権は認めず,また,支払合計が1000万円に達した時点で,被害
者は被告人に対するその余の請求を行わないものとすることなどを内容とする合意
を成立させ,既に上記200万円の支払いを済ませていること,被告人も現在では
反省していること,本件で約4か月間身柄拘束を受けていること,所属していた暴
力団から破門され,被告人自身も今後暴力団組織に戻るつもりはないと述べている
こと,被告人の家族も被告人の更生に協力的であり,監督を約束していることなど
の,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の実刑は免れないところ
である。
(検察官の科刑意見 懲役3年)
 よって,主文のとおり判決する。            
  平成14年1月8日
     神戸地方裁判所第2刑事部
            
         裁判長裁判官   森   岡   安   廣
  
裁判官  溝   國   禎   久
裁判官  山   田   智   子

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