弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(ワ)第14687号 特許権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成16年3月16日)
             判      決
     原      告        三洋電機株式会社
     訴訟代理人弁護士        大場正成
     同               尾崎英男
     同               嶋末和秀
     同               飯塚暁夫
     被      告        加賀電子株式会社
     被      告        加賀デバイス株式会社
     上記被告両名訴訟代理人弁護士  佐瀬正俊
     同               米川勇
     同               島由幸
     同               東海林利哉
     同               加藤潮子
     被      告        グローバル電子株式会社
     訴訟代理人弁護士        小堀樹
     同               室賀晃
     同               牧野利秋
     同               鈴木修
     同               嶋田英樹
             主       文
1 被告加賀電子株式会社及び被告加賀デバイス株式会社は,いずれも,平
成21年8月10日まで,別紙物件目録9記載のLCD表示ドライバICの使用,
譲渡,貸渡し,輸入,譲渡の申出及び貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告グローバル電子株式会社は,平成16年9月18日まで,別紙物件
目録3記載のLCD表示ドライバICの使用,譲渡,貸渡し,輸入,譲渡の申出及
び貸渡しの申出をしてはならない。
3 被告加賀電子株式会社及び被告加賀デバイス株式会社は,原告に対し,
連帯して1万0500円及びこれに対する平成15年12月20日から支払済みに
至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告グローバル電子株式会社は,原告に対し,47万2120円及びこ
れに対する平成15年12月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金
員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用については,これを5分し,その2を原告の,その余を被告ら
の各負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第4項につき仮に執行することができる。
             事実及び理由
第1 原告の請求
 1 被告らは,いずれも,平成21年8月10日まで,別紙物件目録2,9及び
10記載の各LCD表示ドライバICの使用,譲渡,貸渡し,輸入,譲渡の申出及
び貸渡しの申出をしてはならない。
 2 被告らは,いずれも,平成16年9月18日まで,別紙物件目録記載の各L
CD表示ドライバICの使用,譲渡,貸渡し,輸入,譲渡の申出及び貸渡しの申出
をしてはならない。
 3 被告らは,それぞれその占有に係る別紙物件目録記載の各LCD表示ドライ
バICを廃棄せよ。
 4 主文第3項と同じ。
 5 主文第4項と同じ。
第2 事案の概要
 1 訴えの要旨
   原告は,後記のとおり,データ転送方式に係る装置の発明の特許権(以下
「第1特許権」という。)及び半導体装置の製造方法の発明に係る特許権(以下
「第2特許権」という。)を有している。
   原告は,別紙物件目録2,9及び10記載の各LCD表示ドライバIC(以
下,同目録記載の製品をその番号に従い「被告製品1」などという。また,被告製
品1ないし10を総称して「被告各製品」ということがある。)は,第2特許権に
係る発明の技術的範囲に属する方法により製造されたものであると主張して,被告
らがこれら各製品を輸入・販売等する行為は同特許権を侵害するものであるとし
て,被告らに対し,同特許権の存続期間満了日である平成21年8月10日までこ
れら各製品の輸入・販売等の差止めを求めている(前記第1,1参照)。また,同
目録1~10記載の各製品(被告各製品)は,第1特許権の発明に係る物の生産に
のみ用いられるものであり,被告らがこれら各製品を輸入・販売等する行為は,特
許法101条1号の間接侵害に該当すると主張して,第1特許権の存続期間満了日
である平成16年9月18日までこれら各製品の輸入・販売等の差止めを求めてい
る(前記第1,2参照。被告製品2,9及び10については予備的請求)。さら
に,被告らの占有に係る被告各製品すべてにつき,廃棄を求めている(前記第1,
3参照)。
   また,原告は,被告加賀電子株式会社(以下「被告加賀電子」という。)及
び被告加賀デバイス株式会社(以下「被告加賀デバイス」という。)に対し,被告
加賀デバイスが輸入し,被告加賀電子が販売した被告製品9を対象に,上記各特許
権の侵害を理由に損害賠償金1万0500円及び遅延損害金(平成15年12月1
5日付け訴えの追加的変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割
合)の連帯支払を求める(前記第1,4参照)とともに,被告グローバル電子株式
会社(以下「被告グローバル電子」という。)に対し,同被告が輸入・販売した被
告製品3を対象に,損害賠償金47万2120円及び遅延損害金(前同)の支払を
求めている(前記第1,5参照)。
 2 前提となる事実(当事者間で争いがないか,当該箇所に掲げた証拠により容
易に認められる。)
  (1) 当事者
   ア 原告及び原告各製品
     原告は,各種電子機械器具,通信機械器具及び電子部品の製造,販売等
を業とする株式会社である。
     原告は,別紙製品対照表の原告製品欄記載に係る,自動車用オーディオ
装置の液晶表示の駆動に用いられるLCD表示ドライバICを開発・製造し,専ら
自動車用オーディオ装置メーカーに販売している(なお,上記製品対照表の原告製
品欄記載に係る各製品を,以下その番号に従い「原告製品1」などという。また,
原告製品1ないし10を総称して「原告各製品」ということがある。)。
   イ 被告加賀電子及び被告加賀デバイス
     被告加賀電子は,電子機器用のエレクトロニクス部品等の輸出入・仕入
販売等を業とする株式会社であり,日本国外で製造されたLCD表示ドライバIC
を輸入し,日本国内の自動車用オーディオ機器メーカーに販売若しくは販売の申出
をしている。
     被告加賀デバイスは,電子機器用のエレクトロニクス部品の輸出入,仕
入販売等を業とする株式会社であり,被告加賀電子の子会社である。
   ウ 被告グローバル電子
     被告グローバル電子は,電子部品の輸出入,販売等を業とする株式会社
であり,被告加賀電子と同様に,日本国外で製造されたLCD表示ドライバICを
輸入し,日本国内の自動車用オーディオ機器メーカーに販売若しくは販売の申出を
している。
  (2) 訴外PTC社及び被告各製品
    訴外普誠科技股有限公司は台湾台北縣新店市(以下省略)に所在する台
湾の会社で,プリンストン・テクノロジー・コーポレーション(Princeton
TechnologyCorporation)あるいはPTCの名称で事業を行っている(以下,上記
の訴外普誠科技股?有限公司を「訴外PTC社」という。)。
    訴外PTC社は,1986年に設立され,テレビオーディオコントロー
ル,赤外線リモコン等の機器用のICを製造販売しているが,1999年ころから
原告のLCD表示ドライバICと互換性を有するカーオーディオ用ICの製造販売
を始め,別紙物件目録記載1ないし10の各LCD表示ドライバIC(被告各製
品)を製造・販売している(甲3の1,2)。
  (3) 被告らによる被告製品の輸入・販売
   ア 被告加賀電子及び被告加賀デバイス
     被告加賀デバイスは,訴外PTC社から被告製品9(PT6578)を
1000個輸入し,被告加賀電子に販売した。
     被告加賀電子は,平成15年4月3日,この1000個の被告製品9を
訴外三洋マルチメディア鳥取株式会社(以下「訴外三洋マルチメディア鳥取」とい
う。)に販売した。
   イ 被告グローバル電子
     被告グローバル電子は,平成15年1月30日から同年5月13日まで
の間,訴外PTC社から被告製品3(PT6524)を輸入し,日本国内で少なく
とも11万8400個販売した。その販売合計額は,944万2400円であっ
た。
  (4) 原告の特許権
    ところで,前記のとおり,原告は,第1特許権及び第2特許権の2つの特
許権を有する。第1特許権の特許番号等は下記アのとおりであり,第2特許権の特
許番号等は下記イのとおりである。
   ア 第1特許権
      特許番号   第1667399号
      発明の名称 データ転送方式
      出 願 日 昭和59年9月18日(特願昭59-195317
号)
      出願公告日 平成3年5月2日(特公平3-31298号)
      登 録 日 平成4年5月29日
   イ 第2特許権
      特許番号   第2589184号
      発明の名称  半導体装置の製造方法
      出 願 日  平成1年8月10日(特願平1-208146号)
      登 録 日  平成8年12月5日
  (5) 第1特許発明
   ア 特許請求の範囲
     第1特許権に係る明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである
(以下,この発明を「第1特許発明」という。本判決末尾添付の同発明に係る特許
公報〔甲23〕参照。なお,この公報を以下「第1公報」という。)。
     「データ入力用シフトレジスタのアドレス指定を行なうためのアドレス
コード及びデータをシリアルデータとし,制御信号の第1状態において前記アドレ
スコード及びクロック信号を送出し,送出後,前記制御信号を第2状態とし,該第
2状態の期間に前記データ及び前記クロック信号を送出すると共に,前記クロック
信号に基づいて前記アドレスコードを取込む第1シフトレジスタと,該第1シフト
レジスタの出力をデコードするデコーダと,該デコーダの出力に応じてアドレス指
定され,前記クロック信号に基づいて前記データを取込むデータ入力用の第2シフ
トレジスタと,前記制御信号が第1状態から第2状態へ変化したことに応答して前
記クロック信号を前記第2シフトレジスタへ印加せしめ,前記制御信号が第2状態
から第1状態に変化したことに応答して前記第2シフトレジスタへの前記クロック
信号の印加を禁止する制御回路と,前記第2シフトレジスタに接続され前記制御信
号が第2状態から第1状態へ変化した後に前記第2シフトレジスタの内容が書込ま
れるラッチ回路とを設けて,前記データを前記ラッチ回路に転送するようにしたこ
とを特徴とするデータ転送方式。」
   イ 構成要件の分説
     第1特許発明は,下記のとおり,構成要件に分説することができる(以
下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件A1」などという。)。
     A1 データ入力用シフトレジスタのアドレス指定を行なうためのアド
レスコード及びデータをシリアルデータとし,
     A2 制御信号の第1状態において前記アドレスコード及びクロック信
号を送出し,
     A3 送出後,前記制御信号を第2状態とし,該第2状態の期間に前記
データ及び前記クロック信号を送出すると共に,
     B 前記クロック信号に基づいて前記アドレスコードを取込む第1シフ
トレジスタと,
     C 該第1シフトレジスタの出力をデコードするデコーダと,
     D 該デコーダの出力に応じてアドレス指定され,前記クロック信号に
基づいて前記データを取込むデータ入力用の第2シフトレジスタと,
     E1 前記制御信号が第1状態から第2状態へ変化したことに応答して
前記クロック信号を前記第2シフトレジスタへ印加せしめ,
     E2 前記制御信号が第2状態から第1状態に変化したことに応答して
前記第2シフトレジスタへの前記クロック信号の印加を禁止する制御回路と,
     F 前記第2シフトレジスタに接続され前記制御信号が第2状態から第
1状態へ変化した後に前記第2シフトレジスタの内容が書込まれるラッチ回路とを
設けて,前記データを前記ラッチ回路に転送するようにしたことを特徴とする
     G データ転送方式。
   ウ 作用効果
     第1特許発明は,システムコントローラ(CPU)と多数の各種周辺I
Cとの間で行われるデータ転送方式に係る装置に関するものである。
     従来の方式では,システムコントローラから周辺ICにデータを転送す
る際,まず所定のICを指定するアドレスとクロック信号を送出し,次に所定のI
Cに向けたデータとクロック信号を送出し,その後にパルス状のストローブ信号を
送出して,ストローブ信号に応じて当該ICにおけるラッチ回路にデータを書き込
んでいた。しかるに,このような方式では,所定のICに対するデータ転送中以外
の期間(所定のIC以外のICに別のデータが転送されている期間等)に,システ
ム全体に共通して伝達されるストローブ信号やクロック信号にノイズが乗ると,誤
データが当該ICのラッチ回路にも書き込まれてしまい,周辺回路ICにこの誤デ
ータが転送されて誤動作を生じるという問題があった(第1公報2欄12行~3欄
44行)。
     これに対し,第1特許発明においては,各ICにアドレスコード入力用
のシフトレジスタ(第1シフトレジスタ)とデータ入力用のシフトレジスタ(第2
シフトレジスタ)が設けられ,データ入力用の第2シフトレジスタには,制御信号
が第2状態の期間のみクロック信号が印加され,第2状態の終了後はクロック信号
の印加が禁止されるので,所定のICに向けたデータ転送中以外の期間に,システ
ム全体に共通して伝達される制御信号やクロック信号にノイズが乗っても,当該I
Cの第2シフトレジスタの内容は変化せず,ノイズにより誤データが当該ICのラ
ッチ回路に転送されることがほとんどなくなり,もってシステムコントローラと周
辺回路とのデータ転送において,周辺回路の誤動作を防止するという作用効果を奏
する(同4欄21行~31行,12欄6行~12行)。
  (6) 第2特許発明
   ア 特許請求の範囲
     第2特許権に係る明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載は,次の
とおりである(以下,この発明を「第2特許発明」という。本判決末尾添付の同発
明に係る特許公報〔甲25〕参照。なお,この公報を以下「第2公報」とい
う。)。
     「金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを
有するリードフレームを形成する工程と,前記リードフレームは打ち抜き面に抜き
ダレを,反対面に抜きバリを有し,前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に
半導体素子を固着する工程と,前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリー
ドとを金属細線にて電気的に接続する工程と,前記リードフレームをモールド金型
に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレ
ームの隙間から前記リードフレームの打ち抜け面とは反対の面へ樹脂を回り込ませ
るようにして樹脂モールドする工程と,を具備することを特徴とする半導体装置の
製造方法。」
   イ 構成要件の分説
     第2特許発明は,下記のとおり,構成要件に分説することができる(以
下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件a」などという。)。
     a 金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードと
を有するリードフレームを形成する工程と,
     b 前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリ
を有し,
     c 前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着す
る工程と,
     d 前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線
にて電気的に接続する工程と,
     e 前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレーム
の打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレ
ームの打ち抜け面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする
工程と,
     f を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。
   ウ 作用効果
     第2特許発明は,リードフレームに半導体素子を固着し樹脂モールドす
る樹脂封止型の半導体装置の製造方法に関するものである。
     リードフレームは,一般に,まず金属板から,中央に半導体素子を固着
するタブ部と,その周囲に半導体素子の電極を外部と接続するためのリードを,パ
ンチにより打ち抜くことにより形成される(別紙参考図面6-1は,金属板を打ち
抜いた状態を示す。この時点では,各リードがバラバラにならないように相互に支
えるためのタイバーが残されている。)。このようにして形成されたリードフレー
ムのタブ部に半導体素子を固着し,半導体素子の端子とリードの内端を金属細線で
電気的に結合する。次いで,このようにして形成された半導体素子とリードを,樹
脂で封止する(別紙参考図面6-2で薄く網かけされているのが樹脂の部分であ
る。リードのうち樹脂内のリードをインナーリード,樹脂の外に突出されるリード
をアウターリードと呼ぶ。)。その後,タイバー(上記図面6-2においては,濃
い網掛けで示されている。)を切断してリードを電気的に分離し,さらにアウター
リードの先端を適宜折り曲げて半導体装置が完成する。
     このような半導体装置の製造工程において,半導体素子を金型で樹脂封
止する時には,従来,第2公報第4図のようにリードフレームの打抜き面を上にし
ている。また,リードフレームの打抜き面の角部には,リードフレームの打抜きに
よる形成時に丸み(抜きダレ)が生じ,反対の面の周辺に抜きバリが形成される。
そのため,金型の樹脂注入口が下金型にあると,抜きバリが流入抵抗となって樹脂
厚の薄いものでは良好にリードフレームを固定できないという問題があった。さら
に,樹脂封止後に,タイバーカット工程で,リード間に生じた樹脂バリをも同時に
パンチで除去するが,同公報第6図のように樹脂バリを完全に除去できないという
問題があった(同公報3欄15~41行)。
     第2特許発明は,このような,打ち抜き面に抜きダレが,反対面に抜き
バリが生じるリードフレームにおいて,リードフレームの打ち抜き面と反対の面に
半導体素子を固着し,リードフレームの打抜き面側より樹脂を流入し,リードフレ
ームの隙間からリードフレームの打抜き面と反対側の面に樹脂を回り込ませるよう
に樹脂モールドをするものである(同公報第2図参照)。これによって,抜きダレ
を下面にするためリードフレームに与える樹脂の流動性が向上し,樹脂厚の薄いも
のでも良好にリードフレームを固定できるようになり,不具合を防止できる。ま
た,リード間に発生する樹脂バリが,第1図のように,打抜き面とは反対の面から
打抜き除去されるので,パンチにより樹脂バリを完全に除去できるという効果を奏
する(同公報3欄42行~右欄6行)。
 3 争点
  (1) 被告製品2,9及び10が,第2特許発明の技術的範囲に属する半導体装
置の製造方法により製造されたものと認められるか(争点1)
  (2) 被告各製品が,第1特許権の発明に係る物の生産にのみ用いられるもの
(特許法101条1号)と認められるか(争点2)
  (3) 差止め及び廃棄の必要性(争点3)
  (4) 原告の損害額(争点4)
第3 当事者の主張
 1 争点1について
  (1) 原告の主張
    被告製品2(PT6523),9(PT6578)及び10(PT658
3)の観察結果から,これら各製品のICのリードフレームおよび樹脂封止に関し
て,次の各事実が明らかである(甲30,35及び36)。
   ① リードフレームの上側に半導体チップが固着されている(別紙参考図面
図1-1及び1-2参照)。
   ② リードフレームのリードの下側に抜きダレが形成され,上側に抜きバリ
が形成されている。したがって,リードフレームに複数本のリードを形成する際
に,リードフレームの下側面から上側面に向けてパンチによる打ち抜きが行われた
(同図面図2ないし4参照)。
   ③ 半導体チップの電極端子とリードフレームのリードは金属細線で電気的
に接続されている(同図面図1-1及び1-2参照)。
   ④ ICの樹脂による封止を行うために,金型中において,金型側面の,リ
ードフレームの水平面より下側の位置から,金型中に樹脂が注入された(同図面図
5参照)。
    これら各製品は,いずれも金属を打ち抜いて半導体チップ固定用のタブ部
と復数本のリードを有するリードフレームを用いる製品であるから,「金属板を打
ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを
形成する工程」(構成要件a)を経ている。
    また,上記②のとおり,リードフレームの下側面から上側面に向けて打ち
抜かれており,打ち抜き面(下側)に抜きダレを,反対面(上側)に抜きバリを有
しているから,「リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを
有し」(構成要件b)との文言を充足する。それとともに,上記①のとおり,リー
ドフレームの上側に半導体チップが固着されているから,「リードフレームの打ち
抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」(構成要件c)の文言を充足す
る。
    さらに,上記③のとおり,半導体チップの電極端子とリードフレームのリ
ードは金属細線で電気的に接続されているから,「半導体素子の電極と前記リード
フレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程」(構成要件d)を経て
いることは明らかである。それとともに,上記④のとおり,ICの樹脂封止の際,
金型側面の,リードフレームの水平面より下側の位置から金型中に樹脂が注入され
ており,したがって,注入口から注入された樹脂は,リードフレームの隙間からリ
ードフレームの上面側に樹脂を回り込ませるように樹脂モールドされているはずで
あるから,「リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち
抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの
打ち抜け面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程」
(構成要件e)も経ている。
    上記によれば,被告製品2,9及び10は,いずれも上記構成要件a~e
を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法(構成要件f)により製造され
たものであり,いずれも第2特許発明の技術的範囲に属する半導体装置の製造方法
により製造されたものと認められる。
  (2) 被告加賀電子及び被告加賀デバイスの主張
    被告製品2,9及び10が,第2特許発明の技術的範囲に属する方法によ
り製造されたものであるか否かについては,不知。
  (3) 被告グローバル電子の主張
    被告製品2,9及び10が,第2特許発明の技術的範囲に属する方法によ
り製造されたものであるか否かについては,不知。
    被告製品1~10のうち,被告グローバル電子が扱ったことがあるのは,
被告製品3のみである(第2,2(3)イ)。その上,そもそも同被告は,電子部品の
輸出入・販売等を業とする商社であり,日本国内における訴外PTC社の販売代理
店にすぎない。したがって,同被告は,被告製品2,9及び10の製造方法につい
て知り得る立場にない。
 2 争点2について
  (1) 原告の主張
    別紙製品対照表記載のとおり,訴外PTC社が製造する被告各製品は,そ
れぞれ対応する同表「原告製品」欄記載の原告各製品と,製品番号の末尾2桁が共
通しており,原告各製品との互換性を有する製品であることが分かる。
    本件訴訟においても,被告加賀電子及び被告加賀デバイスは,同被告らが
輸入・販売した被告製品9が原告製品9(LC75878)の互換品であることを
争っていない。また,被告グローバル電子も,同被告が輸入・販売した被告製品3
が原告製品3(LC75824)の互換品であることを争っていない。
    ところで,被告各製品が原告各製品と互換性を有するということは,原告
各製品に入力される信号を対応する被告各製品に入力した場合,液晶表示器にデー
タが正しく出力されるということである。原告各製品においては,① 各ICを指
定するアドレスコード(原告独自の「CCBバスフォーマット」により定められて
いる。)及び表示用データからなるシリアルデータ(構成要件A1),② クロッ
ク信号(同A2及びA3),③ 第1状態(Lレベル)及び第2状態(Hレベル)
からなる制御信号(前同)の3種類の信号がコントローラから出力され,上記①は
DI端末から,同②はCL端末から,同③はCE端末からそれぞれLCD表示ドラ
イバICに入力される。
    しかるところ,訴外株式会社メイテックが被告製品9を解析した結果(甲
37)によると,同製品における,表示データを一時的に記憶しておくラッチ回路
までの回路構成(甲37のFig.1),CCBインターフェイスと表記された回路
の回路構成(同Fig.2)及びコントロールレジスタと表記された回路の回路構成
(同Fig.3)は,それぞれ甲37添付の各図面のとおりである。これらの回路構
成をブロック図で示すと,別紙参考回路構成図記載のとおりとなるが,同図に示さ
れた回路構成は,第1特許発明の構成要件に開示された回路構成そのものにほかな
らない。
    そもそも,上記構成要件は,原告が独自に開発したCCB方式のフォーマ
ットによって構成される表示データを,コントローラから受け取って液晶表示器に
表示する上で,LCD表示ドライバにとって不可欠の構成だけを抽出したものであ
る。したがって,被告各製品が,対応する原告各製品と同じく,CCB方式によっ
てコントローラから送り出される表示データをLCD(液晶表示器)に表示できる
という事実は,被告各製品を上記CCB方式フォーマットによる自動車用オーディ
オシステムに組み込んだ場合,このシステムが全体として同発明の構成要件をすべ
て充足することを示すものである。
    以上によれば,被告各製品(LCD表示ドライバIC)は,同発明の物の
生産にのみ用いられるもの(特許法101条1号)というべきである。
  (2) 被告加賀電子及び被告加賀デバイスの主張
    被告製品1~10が第1特許発明の技術的範囲に属するか否かについて
は,不知。
  (3) 被告グローバル電子の主張
    被告製品1~10が第1特許発明の技術的範囲に属するか否かについて
は,不知。
    前述のとおり,被告グローバル電子が扱ったことがあるのは,被告製品3
のみである(第2,2(3)イ)上に,そもそも同被告は輸入商社にすぎないから,被
告各製品の構成や技術内容の詳細を知らない。
 3 争点3について
  (1) 原告の主張
   ア 紛争の背景事情
     本件における紛争の実質は,台湾の企業である訴外PTC社が原告のI
Cを解析し,実質上同一の電子回路を有するICを製造して,これを原告ICの互
換品として,主として原告の既存の顧客に販売しようとしていることにある。
     本件における差止め及び損害賠償の対象製品(IC)である被告各製品
は,台湾のメーカーである訴外PTC社により海外で製造される。このICを購入
するのは,多くの場合日本のカーオーディオメーカーであるが,被告各製品は,必
ずしも日本に輸入されて日本国内でカーオーディオ製品に組み込まれるのではな
く,中国,シンガポール等における日本のカーオーディオメーカーの生産拠点に送
られ,これらのメーカーによりカーオーディオ製品に組み込まれた上,当該製品が
日本に輸入されるのが実情である。
     このような状況の下において,被告らが果たす役割は,台湾のPTC社
が製造するICのユーザーとなる日本のメーカーをさがし,同社に取り次ぐことに
ある。メーカーは,PTC社のICを採用するためには日本で評価試験を行う必要
があるので,被告らがICのユーザーとなる日本メーカーをさがして評価・採用に
至るように働きかけるのである。互換品への切替えの働きかけは,カーオーディオ
メーカーが製品を新しいモデルに切り替えるタイミングを狙って行われる。
     したがって,被告らは,日本のカーオーディオメーカーが,日本でPT
C社のICを評価するために,サンプル品を供給するだけでよく,必ずしもPTC
社のICを日本で販売する必要はない。PTC社のICがカーオーディオメーカー
に採用されたならば,PTC社のICは台湾からシンガポールや中国等の生産工場
に送られる。
   イ 差止め及び廃棄の必要性
     被告加賀電子及び被告加賀デバイスは,後記のとおり,PTC社のPT
6578(被告製品9)を平成15年4月に訴外三洋マルチメディア鳥取に100
0個販売したのみで,それ以外の販売行為はしておらず,今後も特許権侵害のおそ
れのあるPTC社製のICを販売しないし,販売の申出もしないから,原告の求め
る差止め及び廃棄の必要性はない旨主張している。
     しかし,同被告らは,過去に他の日本のオーディオメーカーに対して販
売の申出をしていた事実を,明らかにしていない。また,上記アで述べたとおり,
被告らの事業は必ずしも日本での販売を必要とするものではなく,サンプル品の無
償譲渡・貸与によってもユーザーが評価を行うことはでき,目的は達成される。ち
なみに,被告加賀電子は香港に子会社を有するから,PTC社の製品がユーザーに
採用された後は,海外の子会社を通じて海外で販売することも可能である。
     上記のような事情の下では,被告加賀電子及び同加賀デバイスに対する
差止め及び廃棄の必要性は,なお認められるというべきである。
     他方,被告グローバル電子は,これまでに扱ったのはPT6524(被
告製品3)のみで,他のICについては輸入・販売した実績はないばかりか,PT
6524の販売を既に中止し,進行しつつあった商談についても顧客に事情を詳し
く説明した上で中止したから,差止め及び廃棄の必要性がない旨を主張している。
     しかしながら,仮に同被告がこれまでPT6524以外の訴外PTC社
製品を販売したことがないとしても,同社の製品のうち,どの製品が輸入・販売の
対象となるかは,顧客のニーズ(顧客が今後行う製品のモデルチェンジ)によって
決まることである。上記アで述べたとおり,被告らのような販売代理店は,顧客の
ニーズに応じてどのようなICでも取り扱うものであるから,本件において,被告
グローバル電子に対する差止め及び廃棄の必要性は,なお認められるというべきで
ある。
  (2) 被告加賀電子及び被告加賀デバイスの主張
    被告加賀電子及び被告加賀デバイスは,本件訴訟に先立ち,平成15年5
月8日付け通告書(乙1,2)を原告から受け取り,直ちに事実関係の調査に着手
した。そして,同月12日付け回答書(乙3,4)をもって,① 被告加賀デバイ
スが被告製品9(PT6578)合計1000個を訴外PTC社から輸入し,被告
加賀電子が,同年4月3日,これらを訴外三洋マルチメディア鳥取に販売したこ
と,② それ以外の被告製品は一切扱っていないこと,③ 被告製品9を今後扱わ
ないこと,④ 訴外三洋マルチメディア鳥取においても,同製品を使用しない予定
であることなどを原告宛てに回答した。
    以上から分かるとおり,被告加賀電子及び被告加賀デバイスは,原告から
の通知ないし警告に一貫して誠実に対応している。本訴における同被告らの答弁も
上記①~④のとおりであって,同被告らは,上記回答書において確約したとおり,
原告の特許権を侵害するおそれのある訴外PTC社の製品を以後一切扱っていな
い。上場企業である被告加賀電子及びその子会社である被告加賀デバイスが,上記
のような確約をしている以上,同被告らが訴外PTC社の製品を扱うおそれは存在
しない。したがって,本件においては,差止めの必要性は存在しない。
    また,現に訴外三洋マルチメディア鳥取に納入された上記被告製品9につ
いては,そもそも被告加賀電子及び被告加賀デバイスは,もはや同製品を占有して
いない上に,訴外三洋マルチメディア鳥取は,当該被告製品を組み込んだオーディ
オ製品から被告製品を既に取り外しており,同被告らがその費用の負担を申し出て
いる状況にある。したがって,廃棄の必要性はないというべきである。
  (3) 被告グローバル電子の主張
    被告グローバル電子は,原告と約15年にわたる電子部品の取引関係があ
り,例えば平成14年7月から同15年3月までの原告に対する納入額は十数億円
余に上る。このような関係にあるにもかかわらず,原告は何らの事前交渉もなく,
本件訴訟に先立ち仮処分事件(東京地裁平成15年(ヨ)第22048号)を申し立
てた。
    しかるに,同被告は,上記申立てを受けて,原告との取引関係を維持する
べく,被告製品3(PT6524)の販売を取りやめ,進行しつつあった商談につ
いても,顧客に詳しく事情を説明するなどした上で中止した。この結果,同被告の
販売した被告製品3の数量は,一社に対する合計11万8400個にとどまってい
る。
    以上のとおり,被告グローバル電子は,現在何ら原告の権利を侵害する行
為をしていないので,本件においては,差し止めるべき侵害が存在しないし,まし
てや廃棄の必要性も存在しない。上述のとおり,同被告は,原告との取引関係維持
を重視する姿勢を明らかにしているのであるから,同被告が今後訴外PTC社の製
品を扱うことはあり得ない(なお,原告は,訴外PTC社を被告とせず,製造には
一切関わっていない同被告らを相手に,原告の各特許権が侵害されたことを技術的
に確認する趣旨で本件訴訟を提起しているが,仮に侵害の事実を確認する判決が得
られたとしても,それにどれほどの意味があるのか,疑問といわざるを得な
い。)。
 4 争点4について
  (1) 原告の主張
   ア 被告加賀電子及び被告加賀デバイスに対する請求
     第2,2(3)ア記載のとおり,被告加賀デバイスは,訴外PTC社から被
告製品9(PT6578)を1000個輸入し,被告加賀電子に販売した。被告加
賀電子は,平成15年4月3日,この1000個の被告製品9を単価210円で訴
外三洋マルチメディア鳥取に販売した。
     ところで,第1特許発明及び第2特許発明の実施料率は,5%とみるの
が相当である。これは,これら特許の実施料率の合計が5%という趣旨ではなく,
実施された特許がこれらのうち1件だけでも,あるいは2件でも,特許の実施され
た製品の販売価格の5%が実施料率として支払われるべきという趣旨である。仮
に,実施された各特許の実施料率を加算すべきとの見解に立つのであるならば,第
1特許発明及び第2特許発明の実施料率がそれぞれ5%で合計10%であるとこ
ろ,そのうち総計5%の範囲内で一部請求するとの趣旨である。
     以上によれば,被告加賀電子及び被告加賀デバイスの,上記被告製品9
の輸入・販売についての実施料相当額は,少なくとも1万0500円(210円×
1000個×5%)を下らない。
     したがって,特許法102条3項に基づき,被告加賀電子及び被告加賀
デバイスが連帯して原告に支払うべき損害賠償金の額は,上記1万0500円であ
る。
   イ 被告グローバル電子に対する請求
     第2,2(3)イ記載のとおり,被告グローバル電子は,平成15年1月3
0日から同年5月13日までの間,訴外PTC社から被告製品3(PT6524)
を輸入し,日本国内で少なくとも11万8400個販売した。その販売合計額は,
944万2400円であった。
     ところで,上述のとおり,実施された特許が第1特許発明1件だけで
も,その実施料率はこれを5%とみるのが相当である。
     以上によれば,被告グローバル電子の上記被告製品3の輸入・販売につ
いての実施料相当額は,少なくとも47万2120円(944万2400円×5
%)を下らない。
     したがって,特許法102条3項に基づき,被告グローバル電子が原告
に支払うべき損害賠償金の額は,上記47万2120円である。
  (2) 被告加賀電子及び被告加賀デバイスの主張
     被告加賀デバイスが訴外PTC社から被告製品9(PT6578)を1
000個輸入して被告加賀電子に販売し,その後の平成15年4月3日,被告加賀
電子がこの1000個の被告製品9を訴外三洋マルチメディア鳥取に販売した事実
は認める(第2,2(3)ア)。ただし,訴外三洋マルチメディア鳥取に対する販売単
価は,1個当たり230円である。
     損害に関するその余の原告の主張は,不知ないし争う。
  (3) 被告グローバル電子の主張
     被告グローバル電子が平成15年1月30日から同年5月13日までの
間,訴外PTC社から11万8400個の被告製品3(PT6524)を輸入・販
売した事実,及び,その販売合計額が944万2400円であった事実は,いずれ
も認める(第2,2(3)イ)。
     しかるに,原告が損害賠償請求算定の対象としているのは,上記被告製
品3(PT6524)のみであるところ,原告は,同製品については,第1特許権
の侵害を主張するのみであり,第2特許権の侵害は主張していない(第2,1参
照)。
     他方において,原告は,第1特許発明及び第2特許発明の実施料率は5
%とみるのが相当であるとして,これら特許の実施料率を加算したものが5%と受
け取れるかのような主張をしているのであるから,第1特許権の実施料率を5%の
半分の2.5%とみて,原告が被告グローバル電子に対して請求できるのは,原告
主張に係る損害額47万2120円の半分の23万6060円にとどまるというべ
きである。
第4 当裁判所の判断
 1 争点1について
   証拠(甲30,35及び36)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2,9
及び10について,次の各事実が認められる。
  (1) 透過X線で透視した結果によると,これらの被告各製品は,半導体素子固
定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレーム(構成要件a)からな
り,上記半導体素子の電極と同リードフレームのリードが,金属細線によって電気
的に接続された(同d)半導体装置である。
  (2) リードフレームを形成する際には,リードがバラバラになるのを避けるた
め,リードをタイバーで連結した上で,金属板を金型とパンチで打ち抜いてリード
を形成し,リードフレームに半導体チップを載せて樹脂で封止した後にタイバーを
切断する手順が採られる。したがって,半導体素子のリード側面には,リードフレ
ームを打ち抜いた際の切断面や,タイバーを切断した際の切断面があらわれる。ま
た,例えばチップの搭載されたタブ面を上方向(上面)として,ある面を上から下
に打ち抜いた場合には,打ち抜く方向に沿って,面の上側にはダレ面が,下側には
バリ面がそれぞれ形成される。
    以上を前提に,上記被告各製品のタブから伸びるリード側面を各方向から
観察した結果によると,切断面の形状からみても,また,リード打ち抜き箇所にお
いては,チップの搭載された上面の側にバリ面が,下面の側にダレ面がそれぞれ形
成され,逆に,タイバー切断箇所においては,上面の側にダレ面が,下面の側にバ
リ面がそれぞれ形成されている(構成要件b)ことからしても,リードは下から上
に打ち抜かれ,タイバーは逆に上から下に切断されたものと認められる。
    したがって,上記被告各製品においては,金属板を打ち抜いてリードフレ
ームを形成した後に,その打ち抜き面と反対の面に半導体素子(チップ)を載せ
て,これを固定する工程(同c)を経ているものと認められる。
  (3) 上記被告各製品の角側面を観察した結果によると,チップの搭載された面
を上側の面とみて,リードが形成されたタブ平面よりも下の位置に,金型に樹脂を
注入する際の注入口の痕跡が存在する。このことと,上記(1),(2)で認定した各事
実とを併せ考えれば,これら被告各製品においては,リードフレームの打ち抜き面
(すなわち,チップを載せたのとは反対の面)側から樹脂を注入した(構成要件
e)ものと認められる。
    そして,このように樹脂を注入した場合には,注入された樹脂が,リード
フレームの隙間からリードフレームの打ち抜き面と反対の面に回り込むことによっ
て,モールドが可能になるものと考えられるから,被告各製品においても,このよ
うな樹脂モールドの工程(前同)を経たものと認められる。
   以上の各事実を総合すれば,上記被告各製品は,「金属板を打ち抜いて半導
体素子固定用のタブ部と複数本のリードとを有するリードフレームを形成する工
程」(構成要件a)と,「前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードと
を金属細線にて電気的に接続する工程」(同d)とを経た半導体装置であることは
明らかであるところ,チップの搭載された面を上側とみて,リードが形成されたタ
ブの平面よりも下の位置に樹脂注入口が存在し,かつ,リード側面の打ち抜き箇所
において,チップの搭載された上面の側にバリ面が,下面の側にダレ面がそれぞれ
形成されている以上,上記リードフレームが「打ち抜き面に抜きダレを,反対面に
抜きバリを有し」(同b)ているのはもちろんのこと,これらの製品は,「前記リ
ードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程」(同c)と,
「前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面
側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜
け面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程」(同
e)をも経たものであると認められる。
   上記によれば,被告製品2,9及び10は,構成要件a~eの各構成をすべ
て具備することを特徴とする半導体装置の製造方法(構成要件f)によって製造さ
れたものと認められる。したがって,これら被告各製品を輸入・販売等する行為
は,第2特許権を侵害する行為に該当する(特許法2条3項3号参照)。
 2 争点2について
   証拠(甲26~29,33,37~40及び44)及び弁論の全趣旨によれ
ば,被告各製品について,下記の各事実が認められる。
  (1) 被告製品2(PT6523)とこれに対応する原告製品2(LC7582
3)を比べると,前者のICチップの寸法やピンの配置は後者のそれと同一であ
り,被告製品7(PT6554),9(PT6578)及び10(PT6583)
と,これらに対応する原告製品7(LC75854),9(LC75878)及び
10(LC75883)についても,それぞれ同様である。
  (2) 被告製品9(PT6578)の回路配置写真を約1500倍に拡大して回
路素子の配置を読み出し,これに基づき対応する電子回路素子の回路図を作成した
結果によれば,第1特許発明における「第1シフトレジスタ」(構成要件B),
「第2シフトレジスタ」(同D)及び「ラッチ回路」(同F)に相当する各回路が
存在する。
    また,同製品において,実際に半導体基板上に形成された回路配置は,こ
れに対応する原告製品9(LC75878)の回路配置と必ずしも同じではない
が,上記回路図等に照らし,少なくとも電子回路の論理構造としては同じと評価で
きる。
  (3) 被告製品2(PT6523)について,原告会社(甲8)及び訴外PTC
社(甲9)の各カタログに記載されたのと同じ回路を組み,当該回路図でDIと表
示された端子に第1特許発明における「シリアルデータ」(構成要件A1)を,C
Eと表示された端子に「制御信号」(同A2等)を,CLKと表示された端子に
「クロック信号」(同A3等)をそれぞれ転送したところ,同発明における「第1
状態」に相当する状態においては,ICを指定する「アドレスコード」に相当する
信号及び「クロック信号」が出力され,他方,「第2状態」に相当する状態におい
ては,液晶表示器で表示されるべき「データ」及び「クロック信号」が出力されて
いるのが確認された。
  (4) 原告製品2(LC75823)を作動させた場合に,液晶表示器にアルフ
ァベット大文字で「A,B,C,‥‥‥,O」と表示されるべきデータを,これに
対応する被告製品2に実際に転送して実験してみたところ,同製品を用いた液晶表
示器においても,上記のとおり「A,B,C,‥‥‥,O」と正しく表示された。
  (5) 被告各製品の製品番号の下2桁が,原告各製品に付された製品番号の下2
桁とそれぞれ同一であるのみならず,市場における評価や流通の実態に照らして
も,被告各製品は,それぞれに対応する原告各製品と互換性を有する(すなわち,
上記(4)の記載と同様に,対応する原告製品を用いた場合と同様の作動をし,同様の
液晶表示結果が得られる)ものと認められる。
   上記のとおり,被告各製品は,アドレス指定のためのアドレスコード及び表
示データをシリアルデータとし(構成要件A1),制御信号がある一定の状態(第
1状態)の下でアドレスコード及びクロック信号を送り出し(同A2),これらの
信号を送り出した後,前記制御信号をまた別の状態(第2状態)とし,その状態の
下で表示データ及びクロック信号を送り出す(同A3)オーディオシステムのLC
D表示ドライバとして使用した場合に,それぞれ対応する原告各製品と全く同様に
表示データを読みとり,液晶表示器に表示する機能を有するもので,市場において
は,原告各製品の互換品として評価され,流通している。しかも,これらの被告各
製品は,対応する原告各製品とそれぞれ同一と評価できる電子回路の論理構造を有
し,第1特許発明における「第1シフトレジスタ」,「第2シフトレジスタ」及び
「ラッチ回路」に相当する回路を備えたものである。
   そうすると,被告各製品は,それぞれ対応する原告各製品と同一の回路構成
を有するものと事実上推定されるというべきであり,被告らから被告各製品の具体
的な回路構成の開示のない本件においては,これら被告各製品は,原告各製品と同
一の回路構成,すなわち,制御信号が第1状態にある場合には,クロック信号に基
づき第1シフトレジスタにアドレスコードを取り込み(構成要件B),同レジスタ
から出力された信号をデコーダで解析する(同C)。その結果,アドレスが指定さ
れている場合には,制御信号が第1状態から第2状態に変化したことに伴い,クロ
ック信号を第2シフトレジスタに印加し(同E1),この信号に基づき表示データ
を第2シフトレジスタに取り込む(同D)。その上で,制御信号が第2状態から第
1状態に再び変わった場合には,制御回路により,第2シフトレジスタに対するク
ロック信号の印加を禁止する(同E2)とともに,第2シフトレジスタに取り込ま
れた表示データをラッチ回路に転送する(同F)。以上のような回路構成を有する
ものと認めるのが相当である。
   そして,このような回路構成を有するLCD表示ドライバは,事実上,第1
特許発明に係るデータ転送方式に組み込んで使用する以外に用途がないというべき
であるから,被告各製品(被告製品1~10)は,構成要件A~Fの各構成をすべ
て具備することを特徴とするデータ転送方式(構成要件G)の生産にのみ用いられ
るものと認められる。したがって,これら被告各製品を輸入・販売等する行為は,
第1特許権を侵害する行為に該当する(特許法101条1号)。
 3 争点3について
   証拠(乙1~5,丙1)及び弁論の全趣旨によれば,① 被告加賀電子及び
被告加賀デバイスは,本件訴訟に先立ち,原告からの通知を受けて,被告加賀デバ
イスが被告製品9(PT6578)合計1000個を訴外PTC社から輸入した
上,被告加賀電子が,平成15年4月3日,これらを訴外三洋マルチメディア鳥取
に販売した旨の調査結果を回答したこと,② この回答と併せて,今後被告製品9
を扱わない予定であり,販売先の訴外三洋マルチメディア鳥取においても,被告製
品9の使用を中止する予定である旨を原告に回答したこと,③ その後現在に至る
まで,上記被告両名は被告製品9を扱っておらず,また,訴外三洋マルチメディア
鳥取においても,被告製品9を組み込んだカーオーディオ製品から同被告製品を取
り外したこと,④ 被告グローバル電子は,本件訴訟に先立つ仮処分事件(東京地
裁平成15年(ヨ)第22048号)の申立ての後,原告との取引関係を維持するべ
く,同被告が扱った被告製品3(PT6524)の販売を取りやめ,進行しつつあ
った商談についても,顧客に事情を説明した上で中止したこと,以上の各事実が認
められる。
   被告らはいずれも輸入・販売等を業とする商社であり,顧客である販売先の
要望に応じ,廉価で性能の変わらない製品の提供を求められることのあり得る立場
にあって,現に原告との取引関係を継続する一方で,被告加賀電子及び被告加賀デ
バイスは被告製品9(PT6578)を,被告グローバル電子は被告製品3(PT
6524)をそれぞれ取り扱ったことなど,本件に表れた諸事情を勘案すると,被
告加賀電子及び被告加賀デバイスに対して被告製品9の輸入等の差止めを求め,被
告グローバル電子に対して被告製品3の輸入等の差止めを求める利益は,現在もな
お存在するというべきである。
   したがって,被告加賀電子及び被告加賀デバイスに対して被告製品9の輸入
等の差止めを求め,被告グローバル電子に対して被告製品3の輸入等の差止めを求
める請求は理由がある。
   しかしながら,その余の被告製品(被告加賀電子及び被告加賀デバイスに対
して被告製品9以外の被告製品,被告グローバル電子に対して被告製品3以外の被
告製品をいう。以下,同じ。)については,被告らが現に輸入販売等を行った具体
的事実が証拠上認められないから,これらの被告製品について被告らに対し輸入等
の差止めを求める請求は理由がない。
   また,被告各製品の廃棄請求については,被告製品9及び被告製品3につい
ても,被告らがこれらの被告製品を輸入して販売する商社にすぎず,被告らが現在
もこれらの被告製品を占有している事実は認められないから,廃棄を求める必要性
が,現時点においてなお存在するとまでは認められない。したがって,被告加賀電
子及び被告加賀デバイスに対して被告製品9の廃棄を求め,被告グローバル電子に
対して被告製品3の廃棄を求める請求は,理由がない(なお,その余の被告製品に
ついては,上記のとおり差止請求が認められないのであるから,廃棄請求が認めら
れないのはもちろんである。)。
 4 争点4について
  ア 被告加賀電子及び被告加賀デバイスに対する損害賠償請求
    第2,2(3)ア記載のとおり,被告加賀デバイスが,訴外PTC社から被告
製品9(PT6578)を1000個輸入して被告加賀電子に販売し,被告加賀電
子が,平成15年4月3日,この被告製品9を訴外三洋マルチメディア鳥取に販売
した事実は,当事者間に争いがない。被告加賀デバイスが被告加賀電子の完全な子
会社であることからすれば,両被告は互いに意を通じ一体として上記輸入・販売を
したものというべきところ,弁論の全趣旨によれば,上記被告製品9の販売単価は
230円と認められるから,これら両被告が一体として行った上記輸入・販売の総
額は,23万円(230円×1000個)と認められる。
    ところで,上記1及び2で認定したところによれば,上記被告製品9の輸
入・販売は,第1特許権及び第2特許権の双方を侵害するものである。原告は,本
件において請求する特許法102条3項に基づく損害賠償請求につき,第1特許権
及び第2特許権のうち1つの特許権が侵害された場合でも,双方の特許権が侵害さ
れた場合であっても,損害額としては対象製品の販売価格の5%を主張する旨を述
べているところ,これらの各特許権の内容,被告各製品の内容,単価,販売数量等
の事情を勘案すれば,これらの各特許権の実施料相当額としては,第1特許権及び
第2特許権のいずれも販売価格の5%を下らないものであり,これらの特許権の双
方を併せて実施する場合の実施料相当額もまた販売価格の5%を下回らないと認め
られる。
    そうすると,第1特許発明及び第2特許発明の双方が侵害されたものと認
められる本件において,これらの特許権の双方の実施につき「受けるべき金銭の額
に相当する額の金銭」を販売額の5%とする原告の主張は,理由がある。
    したがって,両名で一体として被告製品9を輸入・販売した被告加賀電子
及び被告加賀デバイスが,原告に対し,連帯して支払うべき損害賠償の額は,上記
23万円の5%に相当する1万1500円と認めるのが相当である。よって,同被
告らに対し,1万0500円の連帯支払を求める原告の請求は,理由がある。
  イ 被告グローバル電子に対する損害賠償請求
    第2,2(3)イ記載のとおり,被告グローバル電子が,平成15年1月30
日から同年5月13日までの間に,少なくとも11万8400個の被告製品3(P
T6524)を輸入・販売した事実,及び,その販売合計額が944万2400円
である事実は,当事者間に争いがない。
    上記2で認定したところによれば,上記被告製品3の輸入・販売は,第1
特許権を侵害するものである。上記アにおいて述べたとおり,原告は,本件におい
て請求する特許法102条3項に基づく損害賠償請求につき,第1特許権のみが侵
害された場合でも,損害額としては対象製品の販売価格の5%を主張する旨を述べ
ているところ,第1特許権のみの実施料相当額としては,販売価格の5%を下らな
いものと認められるから,第1特許権の実施につき「受けるべき金銭の額に相当す
る額の金銭」を販売額の5%とする原告の主張は,理由がある。
    したがって,被告製品3を輸入・販売した被告グローバル電子が,原告に
対して支払うべき損害賠償の額は,上記944万2400円の5%に相当する47
万2120円と認めるのが相当である。よって,同被告に対し,47万2120円
の支払を求める原告の請求は,理由がある。
 5 結論
   上記1ないし4によれば,被告加賀電子及び被告加賀デバイスに対して第2
特許権の侵害を理由として,同特許権の存続期間満了日である平成21年8月10
日まで被告製品9の輸入・販売等の差止めを求める原告の請求は理由がある。被告
グローバル電子に対して第1特許権の間接侵害を理由として,同特許権の存続期間
満了日である平成16年9月18日まで被告製品3の輸入・販売等の差止を求める
原告の請求も,また理由がある(被告製品9については,原告が主位的に求める,
特許権の存続期間の残期間の長い第2特許権に基づく差止請求を認容する。)。し
かしながら,被告らに対してその余の被告製品の輸入・販売等の差止めを求める請
求及び被告各製品の廃棄を求める請求は,いずれも理由がない。
   また,被告製品9の輸入・販売に関し,被告加賀電子及び被告加賀デバイス
に対して損害賠償金1万0500円及び遅延損害金(平成15年12月15日付け
訴えの追加的変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合)の連帯
支払を求める請求,及び,被告製品3の輸入・販売に関し,被告グローバル電子に
対して損害賠償金47万2120円及び遅延損害金(平成15年12月15日付け
訴えの追加的変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合)の支払
を求める請求は,いずれも理由がある。
   よって,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第46部
          裁判長裁判官   三  村  量  一
             裁判官   吉  川     泉
     裁判官青木孝之は,退官のため署名押印できない。
          裁判長裁判官   三  村  量  一
 (別 紙)           物件目録
   
 
 普誠化技股有限公司(台湾台北縣新店市(以下省略))の製造・販売する下記
型番号を有する各LCD表示ドライバIC
               (型番号)
         1     PT6522
         2     PT6523
         3     PT6524
         4     PT6533
         5     PT6534
         6     PT6553
         7     PT6554
         8     PT6574
         9     PT6578
        10     PT6583
 (別 紙)           製品対照表
           原告製品           被告製品
     1    LC75822        PT6522
     2    LC75823        PT6523
     3    LC75824        PT6524
     4    LC75833        PT6533
     5    LC75834        PT6534
     6    LC75853        PT6553
     7    LC75854        PT6554
     8    LC75874        PT6574
     9    LC75878        PT6578
    10    LC75883        PT6583
(別紙)
参考図面参考回路構成図

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛