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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 請求
一 被告徳島県知事が、社団法人徳島県柔道整復師会に対し、法人県民税、法人事
業税の賦課、徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
二 被告A、同B、同社団法人徳島県柔道整復師会、同C、同D及び同Eは、徳島
県に対し、各自金一一九六万八四〇〇円及び平成六年四月三〇日(訴状送達の日)
から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告社団法人徳島県柔道整復師会(以下「被告柔整会」とい
う。)は、保険請求審査の手数料収入の申告をせず、賃料収入等があるのに収益事
業会計が赤字であるとの虚偽の申告をして税の納付を免れ、被告徳島県知事(以下
「被告知事」という。)は、柔整会が納付を免れている法人県民税及び法人事業税
を賦課・徴収しなければならないのにこれを怠り、被告Aは、徳島県福祉生活部保
険課長として、被告柔整会に右保険請求の審査を委任して虚偽の申告による税の納
付の免脱を加担・助長し、被告Bは徳島県保険環境部医務課長として被告柔整会が
実質的には公益法人の資格がないのに放任して右税法違反に加担・助長していると
各主張して、被告知事に対し、公金の賦課・徴収を怠る事実の違法の確認(地方自
治法二四二条の二第一項三号)を求めるとともに、被告柔整会、その役員である被
告C、同D及び同E、並に被告A及び同Bに対し、損害金(平成元年から平成五年
まで納付を免れた法人県民税、法人事業税、過少申告加算金及び延滞金の合計)の
支払(同法二四二条の二第一項四号後段)を求めた住民訴訟である。
(争いのない事実等)
一 当事者
l 原告は徳島県に居住する住民である。
2 被告知事は徳島県の事務を管理執行する機関の長であり、社団法人認可の主務
官庁の長の職にある者、被告柔整会は徳島県内の柔道整復師の一団体、被告Cは被
告柔整会の会長などの役員を歴任してきた者、被告D及び同Eは被告柔整会の副会
長などの役員を歴任してきた者、
被告Aは平成四年四月一日から平成六年三月三一日まで徳島県福祉生活部保険課長
の職にあった者、被告Bは平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで徳島県保
険環境部医務課長の職にあった者である。(争いがない。)
二 被告柔整会の税務申告、同被告に対する課税等
1 被告柔整会の設立
被告柔整会は、昭和五三年三月二七日、被告知事から、民法三四条に定める公益性
がある団体であると認定されて社団法人の許可を受けた。(争いがない。)
2 被告柔整会の税務申告
(一) 賦課金または定率会費の税務申告
被告柔整会は、平成元年三月期(昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日ま
で)の通常総会において、収入の部に賦課金という名目で決算額として二二六五万
〇〇七八円を計上し、これを課税対象となる収益事業とせず、非課税の本体的会計
の収入として税務申告し、また平成二年三月期から平成五年三月期まで(いずれも
前年四月一日から当年三月三一日まで)の各通常総会において、収入の部に定率会
費という名目で決算額として、一六九八万九六一四円(平成二年三月期)、一六二
一万七二二七円(平成三年三月期)、一四六六万〇〇四三円(平成四年三月期)、
一四八六万九六七七円(平成五年三月期)を計上し、いずれの年もこれらを課税対
象となる収益事業収入とせず、非課税の本体的会計の収入として税務申告した。
(甲三ないし一二)
(二) 家賃収入等の税務申告
被告柔整会は、平成元年三月期から平成五年三月期まで(いずれも前年四月一日か
ら当年三月三一日まで)の各通常総会において、収入の部に賃貸料収入という名目
で決算額として、四二一万二〇〇〇円(平成元年三月期)、四四〇万〇一六〇円
(平成二年三月期)、四四〇万〇一六〇円(平成三年三月期)、三六一万九一八〇
円(平成四年三月期)、五〇四万二一六〇円(平成五年三月期)を計上し、右賃料
収入に保険手数料収入や管理収入を加えた額から建物の償却費、会館関係費用及び
事務費・会議費の経費を差し引くといずれの年も収益事業による所得が赤字である
との税務申告した。(甲三ないし一二)
3 徳島県の課税
徳島県は、法人県民税については国が賦課した当該年度の法人税額を課税標準と
し、法人事業税については国が賦課した当該年度の法人税の課税標準とされた所得
を課税標準として算出し、平成元年度から平成五年度まで、
いずれの税についても課税しなかった。(争いがない。)
4 原告の監査請求と提訴
原告は、平成六年一月一七日、徳島県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に
基づき監査請求したが、監査委員は、同年三月一八日、右監査請求を棄却した。原
告は、同年四月一五日、右監査請求を不服として本件訴えを提起した。(争いがな
い。)
(争点)
一 被告知事の地方税の賦課徴収懈怠の有無(請求一について)
1 原告
(一) 前記賦課金ないし定率会費は、被告柔整会の会員らが診療報酬を請求する
際に同被告が審査の手数料として徴収するものであり、同被告はこれを収益事業と
して税務申告すべきである。また、家賃収入等の収益事業会計についても、被告柔
整会は本来経費に算入すべきでない費用を算入するなどして虚偽申告をしている。
(二) 地方公共団体には、国とは別に課税権(賦課権)が与えられており、県知
事には申告納税制度の下においても国と別に調整権限が与えられ、その賦課徴収に
あたる県税務職員をして調査させ、適正な課税を行うよう定められている。
被告知事は、国の税務当局よりも適正な課税の判断をするための資料を容易に入手
し得る立場にあるし、被告柔整会に地方税法等を正しく適用すれば収益として課税
すべき範囲が変わることは明白であるから、被告知事は、修正申告をするよう指導
することもできるし、更正または決定処分をすることができる。仮に、被告知事
は、直ちに独自の調査、決定、更正をすることができないとしても、法人事業税に
ついては、地方税法七二条の四〇により、税務官署に更正または決定の請求をして
是正すべきであるし、地方税法七二条の四一により、県知事の調査による法人の事
業税の更正及び決定をすべきである。したがって、被告知事が本件地方税の賦課徴
収を怠っていることは明らかである。
2 被告知事
法人県民税は、均等割額及び法人税割額の合算額によって課されることになってお
り(地方税法二四条)、法人税割額は、国が賦課した法人税額を課税標準として賦
課されるものである。法人事業税は、法人の行う事業に対し、特定の事業にあって
は収入金額、その他については所得及び清算所得を課税標準として賦課され(同法
七二条)、被告柔整会に賦課すべき法人事業税の課税標準は、当該年度の法人税の
課税標準とされた所得を基準として算定する定めになっている(同法七二条の一
二、七二条の一四一)。地方公共団体は、右法条に従って国が賦課した法人税額も
しくはその計算基礎とした所得額を基準として法人県民税、同事業税を賦課すべき
ものであり、これと異なる賦課をすることは法律上許されない。
なお、県は、法人県民税につき、申告書に記載された内容(法人税額またはこれを
課税標準として算定した法人税割額)が、税務署における法人税の申告、修正申
告、更正または決定の内容と異なるときに、法人県民税の法人税割額の更正ができ
るものとされており(同法五五条)、県が独自に法人に対して税務調査を行い、当
該調査結果に基づき、申告のあった法人県民税の法人税割額を更正するものとはさ
れていない。また、法人事業税につき、県が独自の調査を行うのは限られた場合で
(同法七二条の四一)、本件はこれに該当せず、地方税法七二条の三九第一項の規
定により、法人事業税の申告書に記載された法人事業税の課税標準である所得が、
税務署における法人税の申告、修正申告、更正または決定の内容と異なるときに法
人事業税を更正することができるものとされている。
本件において、被告知事は、法人県民税の法人税割額は国の法人税額、法人事業税
は国の法人税の所得を基準として算定して各税を賦課徴収したものであるが、前記
のとおり、申告が適正かどうかは国の税務官署である税務署の資料に基づく範囲で
更正すべきで、知事が独自に税務調査を行って更正するものではなく、したがっ
て、被告知事に怠る事実や違法性が存在しないことは明白である。
二 被告知事を除く被告らに対する監査請求の有無(請求二について)
1 原告
原告は、被告柔整会、同C、同D及び同Eに対し、適法な監査請求をした。
2 被告柔整会、同C、同D及び同E
原告の被告柔整会、同C、同D及び同Eに対する訴えは、原告のした本件監査請求
の対象事項及びこれに密接に関連する事項ではないから、監査請求を経ない不適法
な訴えである。
三 被告知事を除く被告らの不法行為とその損害(請求二について)
1 原告
(一) 被告柔整会、同C、同D及び同Eについて
被告柔整会、同C、同D及び同Eは、被告柔整会の会員らが請求する各種保険料に
対し、定率会費と称して二パーセントの手数料を徴収しているが、これは収益事業
に係るもので収益事業として税の申告納付をすべきであるのに申告をせず法人税の
徴税を免れ、よって法人県民税の徴収を免れた。また、同人らは、被告柔整会の所
有する建物を賃貸している賃料収入の他、保険手数料収入や管理収入があるのに、
必要以上の経費を計上する方法で収益事業による所得が赤字であるとの虚偽の申告
をし、よって法人事業税の徴収を免れた。
(二) 被告A、同Bについて
被告A及び同Bは、被告柔整会が被告知事あてに提出しているはずの収益事業に係
る決算書から収益事業について虚偽の申告という税法違反を犯していることが明ら
かであるから、正しい法人税特に県事業税の申告を指導すべきであるのに、被告柔
整会の役員らと共謀して赤字であるとの虚偽の税務申告をさせてきた。また、被告
A及び同Bは、被告柔整会に対し、同会の会員から徴収する保険請求手数料を収益
事業として税の申告をするように指導すべきであるのに、被告柔整会の役員と共謀
して収益事業として申告させなかった。
(三) 損害
被告柔整会の保険審査手数料と家賃収入に係る収益事業の課税所得を計算して法人
税額を算出して当てはめると、平成元年三月期から平成五年三月期までの法人県民
税は合計一四二万一六〇〇円(一〇〇円未満切り捨て。以下同じ。)と過少申告加
算金及び延滞金となり、法人事業税は合計一〇五四万六八〇〇円と過少申告加算金
及び延滞金となる。
2 被告ら
(一) 被告柔整会、同C、同D及び同E
否認する。
(二) 被告A、同B
否認する。
第三 判断
一 被告知事の地方税の賦課徴収懈怠の有無について(請求一について)
地方税法の定めによると、収益事業を行う公益法人について、法人県民税は、均等
割額と法人税割額の合算額によって課され(同法二四条、二五条一項二号)、右の
うち法人税割額は、国が賦課した法人税額を課税標準として賦課される(同法二三
条一項三号)。また、法人事業税については、法人の行う事業に対し、特定の事業
にあっては収入金額、その他については所得及び清算所得を課税標準として賦課さ
れ(同法七二条の一二)、課税標準は当該各事業年度の法人税の課税標準とされた
所得を基準として算定することとしている(同法七二条の一四)。そして、同法が
右両税の課税標準を右のように定めたのは、同一所得について国の税務署と地方自
治体の双方が重複調査を行い、異なる所得計算をすることを避けるとともに、納税
者に対しても、同一の申告に基づいて納税することを可能とすることにあり、した
がって、地方公共団体としては、国の賦課した法人税額、法人税の課税標準とされ
た所得等を課税標準として法人県民税、法人事業税を賦課徴収すれば足り、被告知
事が、右の定めに従って被告柔整会に右両地方税を賦課徴収することが違法不当で
あるとはいえない。
ところで、地方税法には、法人県民税について、申告された法人税割額が法人税に
係る確定された法人税額に基づいて算定される法人税割額と異なることを発見した
場合には、道府県知事はこれを更正することができ(同法五五条)、法人事業税に
ついて、申告等に係る事業税の課税標準額が、法人税の課税標準を基準として算定
した事業税の基準課税標準と異なることを発見したときや、申告書等に記載された
事業税額の算定について誤りがあることを発見したときは、道府県知事は当該税額
を更正し(同法七二条の三九第一項)、また法人税基準の法人について、申告に係
る課税標準が過少であると認められる場合において、その申告書の提出期限後一年
を経過した日までに、法人の課税標準について、法人税の更正が行われないとき等
に、道府県知事は、税務官署に対し更正の請求をすることができ(同法七二条の四
〇)、さらに、課税標準の算定方法が法人税と大きな差異がある一定の法人の場
合、申告に係る収入金額、所得又は事業税額が道府県知事の調査と異なるときは、
更正をする(同条の四一)と定められている。しかして右各規定は、右両税につい
て右のとおり課税標準を定めた前記趣旨からすると、道府県知事としては、先ず当
該申告が法人税額あるいは法人税の課税標準と一致するか否かを調査すると共に、
国の税務官署の資料及び当該法人から当該地方公共団体に提出された資料から、法
人税の課税標準等について計算誤謬その他算定方法の誤り等を発見した場合には更
正ないし更正の請求を行うもので、右資料等とは無関係に積極的に独自の調査をす
べきことまでを予定しているということはできない。そして、本件において国の税
務官署の資料及び当該法人から当該地方公共団体に提出された資料(甲三ないし一
二)によっても申告に係る課税標準が過少であるとか算定方法の誤りがあるとかの
理由で更正ないし更正の請求をするべきであると認めることはできない。よって、
被告知事に対する請求は理由がない。
二 被告知事を除く被告らに対する監査請求の有無について(請求二について)
被告柔整会、同C、同D及び同Eは、監査請求前置主義に反する訴えであるとして
却下を求めているが、その理由とするところは、本件提起前の監査結果中に、地方
税法七二条の四〇第一項第一号の規定による被告知事の税務官署に対する更正の請
求の要否を判断する上で、被告柔整会については、当該申告所得が過少であると認
定するための前提となる他の地方税(特別地方消費税等)に係る調査の対象となっ
ていないとしたことによるものと考えられるところ、原告は監査請求で、右被告ら
に対し、損害を填補させる等適切な措置を求めるとしているのであるから、同被告
らに対する訴えについて監査請求を経ていることは明らかである。
三 被告知事を除く被告らの不法行為について(請求二について)
道府県知事としては、前記一で判断したとおり、原則として国の税務官署の賦課し
た法人税額や認定した課税標準に従って法人県民税及び法人事業税を賦課徴収する
ものとされ、本件において、被告知事は、法の定めに従って右両税を賦課徴収して
おり、これを怠っていると認められないから、徳島県としてもその損害は生じてい
ないものというべきであり、したがって、その余について検討するまでもなく、被
告知事を除く被告らに対する不法行為の主張は失当である。
第四 結論
以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求
は理由がないからいずれも棄却する。
(裁判官 松本 久 大西嘉彦 善元貞彦)

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