弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中二三〇日を本刑に算入する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人斎藤鳩彦の上告趣意第一点について
 所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例(最高裁昭和五六年(あ)第一〇〇
四号同年一二月二一日第一小法廷決定・刑集三五巻九号九一一頁)は、殺害行為に
関与しないいわゆる共謀共同正犯者としての殺意の成否につき、謀議の内容におい
ては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせていたとしても、殺害計画を遂行
しようとする意思が確定的であつたときは、殺人の故意の成立に欠けるところはな
い旨判示しているにとどまり、犯意自体が未必的なものであるときに故意の成立を
否定する趣旨のものではない。換言すれば、右判示は、共謀共同正犯者につき、謀
議の内容においては被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体
が未必的なものであつたとしても、実行行為の意思が確定的であつたときは、殺人
の故意の成立に欠けるところはないものとする趣旨と解すべきである。しかるとこ
ろ、原判決には、所論の指摘するとおり、被告人は、本件殺人の共謀時においても、
将来、被害者といま一度話し合う余地があるとの意思を有しており、被害者の殺害
計画を遂行しようとする意思が確定的ではなかつたものとみているかに解される部
分もないではないが、原判決を仔細に検討すれば、それは共謀の当初の時期におけ
る被告人の意思を記述したにとどまることが明らかである。すなわち原判決は、被
告人は、A、B及びCとの間で、被害者から貸金問題について明確な回答が得られ
ないときは、結着をつけるために、暴力的手段に訴えてでも同人を強制的に連行し
ようと企て、当初は、被害者と貸金問題についていま一度話し合つてみる余地もあ
ると考えていたものの、一方では、このような緩慢な態度に終始していると舎弟頭
として最後の責任をとる羽目にもなりかねないとも考え、また、本件犯行現場に向
かう自動車内等でのAらの言動から、同人らが被害者の抵抗いかんによつてはこれ
を殺害することも辞さないとの覚悟でいるのを察知しており、Aらとともに本件犯
行現場に到着した際には、同人らに対し、被害者の応対が悪いときは、その後の事
態の進展を同人らの行動に委ねる旨の意思を表明していること、その後犯行現場に
おいてA及びBが刺身包丁で被害者の左前胸部等を突き刺したうえ転倒した同人を
自動車後部座席に押し込む際、「早よ足を入れんかい」などと指示し、さらに右自
動車内において、Bが刺身包丁で被害者の大腿部を突き刺したのに対してもなんら
制止することなく容認していたこと等の事実を認定したうえで、これらの事情を総
合して、被告人は、未必の故意のもとに、実行行為者であるAらと共謀のうえ被害
者を殺害した旨判示しているのである。右判示を全体としてみれば、原判決は、指
揮者の地位にあつた被告人が、犯行現場において事態の進展をAらの行動に委ねた
時点までには、謀議の内容においてはAらによる殺害が被害者の抵抗という事態の
発生にかかつていたにせよ、Aらによつて実行行為を遂行させようという被告人の
意思そのものは確定していたとして、被告人につき殺人の未必の故意を肯定したも
のであると理解することができる。
 したがつて、被告人につき殺意の成立を肯定した原判決の判断はなんら所論引用
の判例と相反するものではないから、所論は理由がない。
 同第二点について
 所論は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条、一八一条一項本文、刑法二一条により、裁判官全員一
致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和五九年三月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦

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