弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
1 原判決中被上告人に係る部分を次のとおり変更する。 
    第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 被上告人は,上告人に対し,753万9239円及びこれに対する平成9
年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 上告人の被上告人に対するその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その1を上告人の,その余を被上告人の負担
とする。
         理    由
 上告代理人田中豊,同堀井敬一,同藤原浩の上告受理申立て理由について
 第1 原審の適法に確定した事実関係等は,次のとおりである。
 1 上告人は,第1審判決別紙カラオケ楽曲リスト及び同追録記載の音楽著作物
(以下「本件管理著作物」という。)につき,著作権者から著作権の信託的譲渡を
受けてこれを管理している。上告人は,本件当時から,カラオケ装置により上映又
は演奏される音楽著作物の大部分について著作権の信託的譲渡を受けて管理する,
我が国唯一の音楽著作権仲介団体である。
 被上告人は,茨城県南部を中心とした地域において業務用カラオケ装置のリース
及び販売業務を行っている有限会社である。Dは,「E」及び「F」(以下「本件
各店舗」という。)の共同経営者の1人である。
 2 被上告人は,Dとの間で,Eについて平成3年9月30日,Fについて同年
12月27日,それぞれカラオケ装置のリース契約を締結し(以下「本件リース契
約」という。),同人にレーザーディスク用カラオケ装置各一式を引き渡した。本
件リース契約に係る書面には,「本物件を営業目的で使用する場合には,借主は上
告人から著作物使用許諾契約を締結するよう求められます。当該契約の締結につい
ては,借主の責任で対処するようにして下さい。」との記載があり,被上告人は,
本件リース契約締結時に,Dに対し,口頭でもその旨説明したが,上記カラオケ装
置の引渡しに際し,Dが著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認し
なかった。Dらは,本件各店舗において,本件各リース契約締結の日から平成7年
6月8日まで,上告人の許諾を受けることなく,被上告人からリースを受けた上記
カラオケ装置を操作してレーザーディスクを再生することにより,本件管理著作物
である歌詞及び楽曲を上映し,客や従業員に歌唱させ,もって店の雰囲気作りをし
て営業上の利益の増大を図った。
 3 被上告人は,平成7年6月9日以降,Dが上告人申立てに係るカラオケ装置
の使用禁止等の仮処分命令の執行を受けたことを知り,初めてDらが上告人と著作
物使用許諾契約を締結していなかったことを認識するに至った。しかし,Dが責任
を持って解決し被上告人には迷惑を掛けない旨誓約したため,同年9月9日,新た
に同人との間で,本件各店舗につき,それぞれカラオケ装置のリース契約を締結し
,同人に通信カラオケ用カラオケ装置各一式を引き渡した。Dらは,Eにおいて平
成8年12月20日まで,Fにおいて平成7年10月20日まで,上告人の許諾を
受けることなく,被上告人からリースを受けた上記カラオケ装置を操作して,本件
管理著作物である楽曲を再生し,客や従業員に歌唱させ,もって店の雰囲気作りを
して営業上の利益の増大を図った。
 4 上告人が本件各店舗から本件管理著作物に係る著作物の使用につき受けるべ
き金額は,それぞれ1箇月当たり7万3542円である。
 第2 本件は,上告人が,被上告人の行為はDらの著作権侵害行為と共同不法行
為を構成すると主張して,被上告人に対し,使用料相当損害金の賠償を請求した事
案である。
 第3 原審は,平成7年9月以降の期間における被上告人の過失を認めて上告人
の損害賠償請求を認容したが,次のとおり判示して,同年6月8日までの期間にお
ける被上告人の過失を否定した。
 1 カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置が著作権侵害の道具として使用
されないよう配慮すべき一般的な注意義務を負うが,リース契約締結時に契約の相
手方に対し,口頭又は書面により,著作物使用許諾契約を締結すべき法的義務のあ
る旨を指導すれば,通常の場合上記注意義務を果たしたものというべきである。そ
して,カラオケ装置のリース業者は,契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し
ない可能性が相当程度予見できるような場合や,リース契約締結後も著作物使用許
諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情がある場合には,上記
契約締結を確認するまでカラオケ装置を引き渡さないようにし,引渡し後であれば
これを引き揚げるなど,著作権侵害を生じさせない措置を講じなければならないが
,一般的にリース契約の締結後カラオケ装置の引渡しに先立って,相手方が上告人
に対し著作物使用許諾契約締結の申込みをしたことを確認すべき注意義務や,カラ
オケ装置を引き渡した後においても,随時上記契約締結の有無を確認すべき注意義
務を負うものではない。
 2 本件リース契約に係る書面には上告人と著作物使用許諾契約を締結するよう
注意書きが記載され,被上告人はDにその旨口頭でも説明し,本件リース契約締結
当時同人が著作物使用許諾契約を締結する意思のないことや,本件リース契約締結
後も著作物使用許諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情を認
めるに足りないから,平成7年6月8日までの期間の注意義務違反はない。
 第4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,
次のとおりである。
 1 飲食店等の経営者が,音楽著作物である歌詞及び楽曲の上映機能を有するレ
ーザーディスク用カラオケ装置又は音楽著作物である歌詞の上映及び楽曲の再生機
能を有する通信カラオケ用カラオケ装置(以下「カラオケ装置」という。)を備え
置き,客に歌唱を勧め,客の選択した曲目につきカラオケ装置により音楽著作物で
ある歌詞及び楽曲を上映又は再生して,同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させ
るなど,音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるためにカラ
オケ装置を使用し,もって店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益をあげるこ
とを意図しているときは,上記経営者は,当該音楽著作物の著作権者の許諾を得な
い限り,客や従業員による歌唱,カラオケ装置による歌詞及び楽曲の上映又は再生
につき演奏権ないし上映権侵害による不法行為責任を免れない(最高裁昭和59年
(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁
参照)。
 2 【要旨】カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結し
た場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ
又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当
該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知する
だけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は
申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を
負うものと解するのが相当である。けだし,(1)カラオケ装置により上映又は演
奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば,カラオケ装置
は,当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経
営者による前記1の著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置ということができる
こと,(2)著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法11
9条以下),(3)カラオケ装置のリース業者は,このように著作権侵害の蓋然性
の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであ
ること,(4)一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結す
る率が必ずしも高くないことは公知の事実であって,カラオケ装置のリース業者と
しては,リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたこと
が確認できない限り,著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること,
(5)カラオケ装置のリース業者は,著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをし
たか否かを容易に確認することができ,これによって著作権侵害回避のための措置
を講ずることが可能であることを併せ考えれば,上記注意義務を肯定すべきだから
である。
 3 これを本件についてみるに,Dが本件管理著作物を上映し又は演奏して公衆
に直接見せ又は聞かせるためにカラオケ装置を使用するものであることは明らかで
あるから,被上告人は,本件リース契約に基づきカラオケ装置を引き渡すに際し,
著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認する措置を講じてDらによ
る著作権侵害が行われることを未然に防止すべき注意義務を負っていたにもかかわ
らず,被上告人は,Dに対し,上告人との間で著作物使用許諾契約を締結するよう
告知したのみで,著作物使用許諾契約の締結又は申込みをしたことを確認すること
なく,漫然と同人にカラオケ装置を引き渡したものであって,前記条理上の注意義
務に違反したものである。それによりDらの著作権侵害が行なわれたものであるか
ら,被上告人の上記注意義務の懈怠とDらの著作権侵害による上告人の損害との間
には相当因果関係があるものといわざるを得ない。
 したがって,被上告人には平成7年6月8日までの期間の注意義務違反がないと
した原審の前記判断は,法令の解釈適用を誤り,その違法が原判決の結論に影響を
及ぼすことが明らかであり,論旨は理由がある。
 第5 進んで,被上告人の賠償すべき損害額について判断する。
 上告人の1箇月当たりの損害額は7万3542円であり,著作権侵害の期間は,
Eにつき平成3年9月30日から平成7年6月8日までの44月10日間及び同年
9月9日から平成8年12月20日までの15月12日間,Fにつき平成3年12
月27日から平成7年6月8日までの41月13日間及び同年9月9日から同年1
0月20日までの1月12日間であることは,前記のとおりである。そうすると,
上告人の損害額は,Eにつき439万1168円,Fにつき314万8071円の
合計753万9239円となる(日割計算に係る部分は円未満切捨て。)。
 よって,上告人の被上告人に対する本件請求は,753万9239円及びこれに
対する不法行為の日の後である平成9年3月13日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,
その余は失当として棄却すべきものである。
 第6 以上に説示するところにより,これと異なる第1審判決は上記のとおり変
更されるべきであるから,原判決中被上告人に係る部分を本判決主文第1項のとお
り変更することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川
弘治 裁判官 梶谷 玄)

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