弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人青木正芳の上告理由について
 原判決は、訴外D地所株式会社(旧商号株式会社E興業。以下「D地所」という。)
は、その所有の本件建物につき、訴外Fに対する債務を担保するため根抵当権を設
定し、その旨の登記を経由していたところ、右根抵当権の実行により、昭和四三年
四月二二日競売開始決定があり、同日競売申立記入登記がされた、との事実を確定
したうえ、上告人は、本件建物につき設定された最先順位の抵当権に対抗しうる訴
外Gの賃借権を、その適法な譲受人である訴外Hから、更に賃貸人D地所の承諾を
得て譲り受けたとの上告人の主張につき、上告人がD地所から賃借権譲渡の承諾を
得たのは競売申立記入登記後のことであり、右承諾は競売開始決定の差押の効力に
より禁止された処分行為にあたるとして、上告人は、競落により本件建物の所有権
を取得した被上告人に対抗しうる占有権原を有しない、と判断しているのである。
 思うに、競売開始決定当時目的不動産につき対抗力ある賃借権の負担が存在する
場合において、競売開始決定により差押の効力が生じたのちに賃貸人のした右賃借
権譲渡の承諾は、特段の事情のない限り、右差押の効力によつて禁止される処分行
為にあたらず、賃借権の譲受人は、競売申立債権者ひいて競落人に対する関係にお
いて、賃借権の取得をもつて対抗しうるものと解するのが相当である。けだし、競
売開始決定の差押の効力は、競売開始時における目的不動産の交換価値を保全する
ため、債務者ないし目的不動産の所有者の処分権能を制限し、目的不動産の交換価
値を消滅ないし減少させる処分行為を禁止するものにほかならないところ、賃借権
の譲渡に対する賃貸人の承諾は、その承諾に伴つて賃貸借契約の内容が改定される
等特段の事情のない限り、これによつて賃借人の交替を生ずるにとどまり、他に従
前の賃貸借関係の内容に変動をもたらすものではないから、右承諾は、目的不動産
に新たな負担又は制限を課するものではなく、目的不動産の交換価値を消滅ないし
減少させる処分行為にあたるということはできないからである。そうして、競売開
始決定の目的不動産について他に先順位の抵当権が設定されている場合には、右抵
当権は、競落の効果として民訴法六四九条二項又は競売法二条二項によりすべて消
滅するのであるから、右不動産について存在する賃借権は、最先順位の抵当権を基
準とし、これとの優劣により、その対抗力の有無を決すべきものである(最高裁昭
和四四年(オ)第一二一一号同四六年三月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一〇
二号三八一頁参照)。
 そうすると、Gの賃借権の存否及びこれと最先順位の抵当権との優劣等を顧慮す
ることなく、賃貸人D地所の賃借権譲渡の承諾が競売開始決定の差押の効力発生後
にされたとの理由のみによつて本件建物の占有権原についての上告人の主張を斥け
た原判決は、競売開始決定の効力に関する法令の解釈適用を誤つたものというべき
であり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は
理由がある。
 よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理を尽くす必要があるから、これを原審
に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨

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