弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 高松高等検察庁検事長有安堅三の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りであ
る。
 旧労働組合法一一条の趣旨は同条所定の事由に基いて労働者に対し解雇其の他差
別的な待遇をすることを禁止したものであつて、所論のように広く労働者の地位利
益権利等に何等か具体的に実害を加えるもの一切を禁止する規定とはいい得ない、
原審の認定した事実は被告人が判示組合員に対し何等差別的待遇をしたものではな
く言論文章による既存組合の解散同組合からの脱退、新組合への加入等を勧奨した
にすぎないものであつて、未だ以て同条の所謂不利益な取扱をしたことに該当しな
いものと解するを相当とするから論旨は採用することを得ない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 以上は裁判官栗山茂同真野毅同島保同藤田八郎を除く裁判官全員の一致した意見
である。
 裁判官栗山茂同真野毅同島保藤田八郎の少数意見は次のとおりである。
 原判決の確定する事実に従えば、被告人は西条市A株式会社B長の職にあつた者
であるが、同工場の従業員等が労働組合法にもとずいて正当に設立した労働組合「
A株式会社B従業員組合」の存在は、右会社のため不利であるとし、これを解散せ
しめようと企て、右組合員等に対し判示のごとく或は全組合員に対して、声明書を
朗読して組合の解散を勧告し、或は一部組合員をして「現下の工場の実情に鑑みこ
の際一応組合を脱退して誠心誠意会社の為めに働くことを誓う」旨の誓約書に署名
捺印せしめる等、右組合の切崩しをした結果、C外二六名の同組合員をして該組合
から脱退せしめた上、別に被告人外四名の同工場職員の発企設立した「A株式会社
D組合」―いわゆる御用組合―に加入せしめたというのである。(これが御用組合
であることは愛媛県労働委員会も認め、旧労働組合法五条の届出があつた場合には、
同法二条一項に該当しないものとして受理することとしたこと、右D組合はその後
県労委の決議の趣旨に則り、自発的に解散することとなつたことは記録上明らかで
ある)
 元来法が御用組合を排斥するのは、御用組合は労働者が自己の利益の為に、自ら
結合して、その団結力を通じて団体交渉をすることを保護助成せんとする法の根本
目的を否定する結果となるからである。して見れ、被告人はB従業員組合の組合員
中C外二六名をして該組合を脱退せしめたことによつて、彼等が自己の利益の為に
行使していた自主的団結権を拠棄せしめた上、御用組合であるD組合に加入せしめ
たことによつて、右組合員を使用者の支配の下に置いて彼等が団体交渉其の他団体
行動を自主的になしうる権益を侵したものであることは明である。
 然るに原判決は前記の事実を認定しているにも拘らず「具体的には被告人の認識
して為し又は為さしめた行為は、差別待遇は勿論のこと、それにより威嚇や誘惑す
ら全然伴わぬ言論文章による既存組合の解散、同組合からの脱退、新組合への加入
等の勧奨の程度を出て居らぬのであるから、未だ旧労働組合法一一条所定の労働者
に不利益な取扱を為したものとは言えない。」と説示しているのである。この説示
によると原判決は労働者自身によつて真に自主的になされた新組合又は第二組合の
設立又はそれへの加入の場合と本件のごとき御用組合の設立又はそれへの加入の場
合とを混淆しているものである。なる程、真の自主的な新組合の設立又はそれへの
加入について、使用者が労働者に威嚇や誘惑等の手段によらず単なる勧奨をすると
いう程度では、これをもつて直ちに同条にいう不利益取扱とは言いえないのである。
 しかし、原判決の認定するところによつても前記D組合が御用組合であることは
明らかであり、又これが勧奨と云つても既に前記のごとき具体的な手段方法をとつ
ているのであつて、組合員が自由意思をもつて、自発的に旧組合を脱退し新組合に
加入したものでないことは、原判決の認定するところからして容易に窺知されると
ころである。使用者が御用組合を設立することは労働者の団結権を歪曲するもので
あることは勿論であつて、本件のごとく使用者が組合員をして正当な労働組合を脱
退せしめ、御用組合に加入せしめたことは、たとえ原判決のいうごとくその間威嚇、
誘惑を伴はなかつたとしても、労働者の労働法上の権益を侵害するものであつて、
旧労働組合法一一条にいう労働者に対する不利益取扱に相当するものといわなけれ
ばならない。
 そもそも、同条にいう不利益取扱とは、法によつて保護されている労働者の権益
を害する使用者の行為と解すべきものである。然るに本判決における多数意見は右
一一条の趣旨は同条所定の事由に基いて労働者に対し解雇其他差別的待遇をするこ
とを禁止したものであるとしている。しかし解雇減給等の差別的待遇が排斥せられ
る所以は、かかる差別的待遇が是認されるとすれば終局には労働者が自主的に同法
所定の行為をすることが制肘又は阻止されるに至り労働者が使用者の支配下に置か
れて、その為団結権の本質が歪曲される結果が招来されるからである。差別的待遇
も本質的には団結権の侵害の一態様に外ならないのである。同法一一条が不利益取
扱と規定して差別的待遇と規定しなかつたにも拘らず之を有形的な差別的待遇に限
局するのは法の保護する団結権の本質に反する解釈であつて賛同できない。
 以上の理由で原判決は旧労働組合法一一条の解釈を誤り且その理由に齟齬がある
から、上告論旨は理由があり、原判決は破棄さるべきものである。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二五年七月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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