弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請   求
 被告は,原告A1,同A2,同A3,同A4に対し,各金829万800円,原告A5,
同A6,同A7に対し各金249万6933円及びこれに対する平成5年11月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,被告の設立する足利赤十字病院(以下「被告病院」という。)で入院治
療を受けていた際に死亡したC(昭和10年7月18日生。以下「C」という。)の相
続人である原告らが,Cの死亡は被告病院の担当医師の過失によって招来され
たものである,被告病院の担当医師はCの死因を解明すべき義務等を怠ったと
主張して,被告に対し,債務不履行による損害賠償請求権に基づいて,Cの死
亡による逸失利益,慰謝料等を請求している事案である。
1 前提となる事実
  (1) 被告は,栃木県足利市s丁目t番地(以下,栃木県内の地名については,「栃
木県」の記載を省略する。)に被告病院を設置している。
  (2) Cは,平成5年11月8日,被告病院にて入院治療中に死亡した。Cは,D(昭
和21年10月16日死亡。以下「D」という。)とE(昭和48年1月20日死亡。以
下「E」という。)の子(五女)であるところ,原告A1(次男。Cの兄。以下「A1」と
いう。),同A2(長女。Cの姉。以下「A2」という。),同A3(三女。Cの姉。),同
A4(四女。Cの姉。)は,いずれもDとEの子らであり,同A5,同A6,同A7
は,いずれもDとEの子(次女。Cの姉。)であるF(大正15年11月20日生,
平成2年9月9日死亡。)の子らであり,その身分関係は別紙相続関係図記載
のとおりであって,原告らはいずれもCの相続人である。
  (3) Cは,平成5年9月5日,足利市の行っている健康診断で腹部のレントゲン検
査を受けた結果,精密検査の必要性を指摘され,同月13日,被告病院の内
科の診察を受けた。
  (4) 被告病院の内科医師は,同年10月15日,外来受診時,Cに対し,胃部に前
ガン症状が認められ,初期症状であるが手術をした方がよい旨告げ,Cに対
し,手術を勧めた。Cは,同月18日,被告病院外科を受診したところ,その
際,被告病院の外科の担当医から,潰瘍瘢痕を伴うⅡc型早期ガン(印環細
胞ガン)のため手術が必要と勧められた。
  (5) Cは,平成5年10月21日,被告病院の外科へ入院したところ,同日までに,
被告との間で,適切な診療行為を受ける旨の診療契約を締結した。
  (6) Cは,被告病院外科入院後,胃ファイバーによる内視鏡検査及び細胞の組織
検査を受けた。
  (7) Cは,被告病院にて,被告に勤務する被告病院外科のG医師(以下「G医師」
という。)の執刀により,平成5年11月5日午後12時12分から約4時間7分
にわたる手術(以下「本件手術」という。)を受けたところ,手術により,胃の幽
門部側の約2分の1を切除され,胆嚢にもその底部に小指大の腫瘤が認めら
れたため,合わせて胆嚢も摘出され,手術後は同日午後5時15分,集中治
療室に移された。
  (8) G医師は,本件手術後,当初予定された手術の他,胆嚢にも病変があったの
で,胆嚢も切除し,手術は無事成功した旨説明した。
  (9) 平成5年11月6日午前10時におけるCの血圧は,最大血圧132㎜Hg/最
小血圧74㎜Hg(以下単位の記載は省略し,血圧については「最大血圧値/
最小血圧値」で表示する。)であり,Cは,同日昼から夜にかけて,特に腹痛や
苦痛,嘔気は示さず,同日午後2時時点で,体温は38.4度,血圧は130/
70であり,その時までにガスは通じていなかった。
  (10) 同月7日午前6時30分ころには,胃チューブの方には特に出血は認められ
ず,Cの血圧は110/70であったが,同日午後1時の血圧は90/60と低下
し,同日午後6時には,嘔吐があったことを告げ,このときの血圧は92/52,
同日午後9時の血圧は86/50を示し,Cの血圧は低下していった。
  (11) 同日午後10時15分以降,G医師の指示により,Cに対する痛み止めの注
入が中止され,心電図モニターがCに装着された。
  (12) 同月8日午前零時,Cの血圧は92/58であった。
  (13) Cは,平成5年11月8日午前7時50分,被告の指示に従ってベッドから降り
て排尿したときそのまま立てなくなった。ナースコールを受け,看護婦が駆け
つけ,同女をベッドの上へ横臥させ,着物の前を開いた。その際,Cは,顔面
及び口唇蒼白であり,気持ち悪いと訴え,呼吸はやや努力様であり,ベッドへ
移された後,「昨日より気持ち悪かった。」と訴え,まもなく,問いかけにも答え
られなくなり,眼球が一点凝視の状態となり,意識が薄れ,呼吸停止となっ
た。その後,医師,看護婦が駆けつけ,酸素吸入等の緊急措置がとられた
が,Cの意識は戻らず,遺族は,同日午後2時10分過ぎ,Cの死亡を告げら
れた。
  (14) Cは,死因解明のための死体解剖がなされることなく,荼毘に付された。
 2 主たる争点
  (1) Cの死因。
   (原告らの主張)
 鑑定人H医師(以下「鑑定人H」という。)及び鑑定人I医師(以下「鑑定人I」と
いう。)の各鑑定結果並びに両名の各証言等に照らせば,Cは,肺動脈塞栓
症(以下「肺塞栓」という。)によって死亡したものと認めるのが相当である。 
鑑定人Hによれば,肺塞栓は,術後の急性死亡の原因としてまず考慮すべき
疾患であり,その機序は,術前後の安静によって形成された下肢の静脈中の
血栓が,体動などの何等かのきっかけによって剥がれて遊離し,静脈血の流
れに乗って,大腿静脈ついで下大静脈から右心系を通過して,肺動脈内に達
して詰まる現象を指しており,その結果,肺内の血液循環が阻害され,呼吸
不全の状態に陥るものであるところ,Cは,肥満傾向のある中年の女性であ
り,下肢部分に静脈瘤もあり,肺塞栓の危険因子を十分に保持しており,半
日位の経過での突然の死亡に至る経過も,肺塞栓の症状に合致しており,C
の死因としては,肺塞栓の可能性が最も高いものとされる。また,鑑定人Iによ
れば,比較的肥満傾向にある中年女性が術後1日目から2日目に動き始めた
ときに,急死した場合には,肺塞栓が最も疑われ,臨床経過からいっても,C
の死因については,肺塞栓が最も疑われるとされている。胃摘出手術施行後
の合併症および死因としては,肺梗塞,すなわち,肺塞栓の他に,一般的に,
胃吻合部の縫合不全や手術創からの感染などによる重篤な感染症(敗血
症),腸閉塞,術後の多量出血,無気肺,虚血性心不全ないし心筋梗塞,胸
部大動脈瘤破裂による心嚢血腫ないし胸腔内出血,脳卒中,すなわち脳出
血ないし脳梗塞,あるいは脳くも膜下出血,嘔吐による気道閉塞(窒息)など
が挙げられるが,鑑定人Hによれば,臨床経過に照らし,肺塞栓以外の術後
の細菌感染による敗血症性のショック,腸閉塞,術後の多量出血,無気肺,
虚血性心不全ないし心筋梗塞,胸部大動脈瘤の破裂,脳卒中すなわち脳出
血ないし脳梗塞,あるいは脳クモ膜下出血の可能性は否定されるものであ
り,鑑定人Iによれば,Cの死因として,肺塞栓の他に,出血,心筋梗塞,頭蓋
内の血管障害が考えられるが,肺塞栓以外の死因については,いずれもこれ
らに反する臨床経過などから,いずれの可能性も否定されるものである。
(被告の認否・反論)
 Cの死因は不明である。そして,原告らは,被告の契約上の義務違反に起
因するCの死亡による損害賠償を請求しているから,当該義務はその違反が
死亡と因果関係を持つものでなければならないところ,死因が不明であれば,
原告が主張立証責任を負う(最高裁判所昭和54年(オ)第903号,同56年2
月16日第2小法廷判決,民集第35巻第1号56頁参照),その死亡を回避す
べき被告の義務の内容を特定しえず,ひいては義務違反に該当する事実を
主張立証し得ないことになって,義務違反の有無を問題とすることができなく
なるから,その余について議論するまでもなく,原告らの請求に理由がないこ
とが明らかである。
 また,本件に現れた証拠に照らして,Cの死因を敢えて特定するとすれば,
肺塞栓による死亡であって,それ以外の死因を想定あるいは特定することは
困難である。すなわち,鑑定人Iは,Cの死因については,不明であるが,推測
した場合には肺塞栓の可能性が1番高いとする一方,出血,心筋梗塞等もそ
の可能性として挙げる。しかし,鑑定人Iによれば,心筋梗塞の可能性につい
ては,心筋梗塞でも循環不全を説明しうるものの,その場合には広範囲な梗
塞が起きていなければならないところ,そのような広範囲な梗塞の場合に現
れる所見が本件では認められていないことから,積極的に心筋梗塞の可能性
を挙げることができないとされている。また,鑑定人Iによれば,出血の可能性
についても,本件のような急変を説明するためには,かなり大きな血管からの
出血を前提としないと半日位の経過での死亡を説明するのは困難であるとさ
れ,平成5年11月8日のヘモグロビン(血色素)の値として,10.7グラム/
デシリットル(以後単位の記載は省略する。)から9.7への低下を指摘してい
る。しかしながら,このヘモグロビンの数値自体は,何ら致死的な数値ではな
いし,同日の急変直後の血液検査データによれば,Cのヘモグロビンの値
は,11.6であったもので,この値自体は,被告病院の臨床参考域(女性の
場合11.0から15.0である。)の範囲内にあるから,急変の原因をヘモグロ
ビンの低下あるいは「かなりの大きな血管からの出血」とすることはできない。
なお,その後のヘモグロビン値から「薄くなっているようにみえる」のは,被告
病院において,Cに対する蘇生処置の一環として中心静脈を確保し,そこから
急速輸液を行っているからであり,なんら重篤な出血を示唆するものではな
い。したがって,敢えてCの死因と特定するとしても,肺塞栓以外の死因を特
定することはできない。
  (2) Cの死亡についての被告の責任の有無。
   (原告らの主張)
① 診療上の医師の高度な注意義務
 医療行為はときに人の生死を左右するほどに重大な意味をもつものであ
るから,これに携わる医師は,専門家としての高度の医学知識に基づき,
自己の取りうる最善を尽くして患者の生命身体の安全を守るべき義務を担
っており,その義務に反してとるべきでない措置をし,とりうべき必要な措置
をとらないことによって,手だてを尽くせばまもり得たはずの患者の生命身
体の健全性を害する結果を招来したときは,当該医師が法律上の過失責
任を負担すべきことは当然である。すなわち,「いやしくも人の生命及び健
康を管理すべき業務(医業)に従事する者は,その業務の性質に照らし,危
険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは己む
を得ないところと言わざるを得ない(最高裁判昭和36年2月16日判決)」の
であって,医師の医療上の注意義務は,高度・万全・最善を尽し,万が一に
も誤ってはならないものである。そして,被告病院は,全国的規模を誇り国
民の診療に当たっている被告直轄の総合病院であり,栃木県第2の人口を
持つ地域の中核都市である足利市にあって,最大の規模と施設を備えて
いる。周辺地域に他に大学付属の病院などがないことも合わせて,地元の
みならず近隣の市町村の住民から大きな期待を寄せられている医療施設
である。したがって,被告の病院としてはより高度な医療知識及び医療技
術と,これに伴う非常に高度な注意義務を負わされていると言わざるをえな
い。そして,手術は常にそれを受ける人間や様々な要素により1回毎に異
なり,術後の容態も違う。医療に携わる人間は高度に専門的な知識と熟練
した技能を持つと共に,常に真摯に細心の注意を払って患者の容態の変
化を見逃さない努力をすべきである。勿論,医療には限界があり,細心の
努力を払っていても対応できない容態の急変もあることは否めない。しか
し,重要なのは知識や経験におごることなく,常に真摯に細心の注意を払
おうという姿勢である。Cは,早期ガン(胃粘膜内に限られたもの)と診断さ
れ,担当医のG医師の説明は,「ガン細胞は胃のフン門部分に存在する
が,早期に発見され,この時点で手術すれば百パーセント大丈夫である。
他への転移はない。胃は約2分の1切除する。」というものであり,付随的
に(被告主張によると,胆嚢の底部に小指大の腫瘤を認め,),胆嚢の摘出
を行ったものであって(もっとも,これに対して,Cや家族は同意していな
い。),結果的に胆嚢も合わせて摘出したとしても,Cが入院の前提として罹
患していた疾患はあくまでも早期の胃ガンである。そして,Cが他に特に患
っていた病気もなく,健康体であったことからしても,現在の高度に発達した
わが国の医療水準,ガン治療の水準からすれば,上記G医師の言葉どお
り,百パーセントに近い割合で完治できるはずであり,それは医療関係者
のみならず一般的な常識になっている。にもかかわらず,Cは死亡するに
至ったものであって,上記医学の現状に照らして,本件の診療行為におけ
る医師の注意義務の懈怠があったことは明らかである。
② 肺塞栓の予見可能性
Ⅰ 下肢表在静脈瘤の存在
 下肢の深部静脈血栓症の存在は肺塞栓の危険因子として最も高いも
のである。ところで,Cには,下肢に顕著な表在静脈瘤があり,下肢のふ
くらはぎが脹れてパンパンになるほどであったところ,下肢の静脈瘤は,
下肢の深部静脈のうっ滞と共に起こるものであり,下肢に表在静脈瘤が
ある場合には,大腿深部の方に血栓がある場合が多く,ひどい深部静脈
血栓の場合には,表在静脈瘤が起きる可能性があることからすると,下
肢の表在静脈瘤の存在は,深部静脈血栓の存在の蓋然性を高めるもの
である。したがって,仮に,表在静脈瘤が直接,肺塞栓の誘因とはならな
いとしても,少なくとも,肺塞栓に対する注意を喚起すべきものであった。
Ⅱ 平成5年11月6日の動脈血ガス分析によって判明した低酸素血症
 平成5年11月6日午前11時25分のCの動脈血ガス分析結果は,PO
2(酸素分圧)値が59.0㎜Hg(以下単位の記載を省略する。),PCO2
(炭酸ガス分圧)値が44.0㎜Hg(以下単位の記載を省略する。)であり,
低酸素血症を示している。すなわち,血中酸素濃度の臨床参考域は,P
O2値80ないし100であるが,あくまでもこれは参考域,めやすのもので
あって,個人差は当然あり,Cについて言うならば,手術前の平成5年1
0月22日のデータによると,PO2値は72.3であるから,Cは普段から
若干血中酸素濃度は低めではあったようであるが,これを斟酌しても,
通常の酸素濃度の範囲に,±10というのがせいぜい許容できる範囲で
あるから,術後1日目(平成5年11月6日土曜日)の血中酸素濃度が,P
O2値59.0というのは低すぎる数値であった。この低酸素血症が,血栓
が少しずつ飛ぶことにより,肺動脈の末梢部分を閉塞していることによっ
て生じている可能性も十分に考えられることであるから,この低酸素血症
に注意を払い,動脈血ガス分析を繰り返すことによって,平成5年11月
8日の肺塞栓を発症する原因となる大きな血栓を飛ばすことを回避する
ことは,可能であった。その意味で,動脈血ガス分析によって判明した低
酸素血症に注意を払っていれば,肺塞栓の予見も可能であった。Cの死
亡と類似するこの種の突然死については,この事件の10年以上前から
日本医事新報などで,数多く事例も紹介されており,1980年代,1990
年代にかけての医学文献によっても,血液検査で異常低値は概ねPO2
が70以下であるとされ,血栓溶解療法で,急性肺血栓塞栓症について
も,数多くの改善例が示されている。
Ⅲ Cの身体的特性等
 肺塞栓は,やや小太りの体型でしかも女性に圧倒的に多い合併症であ
り,その機序は,下肢の深部に生じた血栓が静脈血に混ざって肺に移
り,その結果,肺の梗塞を起こすものであるが,Cには,前記のとおり,
下肢部分に静脈瘤があり,Cについて,事前に全身的な特性を十分に認
識していれば,合併症として肺塞栓を生じるかもしれない可能性は予見
できた筈である。
Ⅳ 手術後のCの容態
 Cは,平成5年11月7日,体調が思わしくなく,吐き気があったのに,こ
の日,担当の看護婦から,「(手術後3日目からは)自分でポータブルトイ
レで(排尿)するように」と申し渡され,同日午前6時30分にポータブルト
イレで排尿した際には立ちくらみを感じ,同日午前9時30分,排尿の際
にはベッドからの上り下りが大変辛く,吐き気もあり,同日午後1時の排
尿の際は,辛うじて看護婦に手を貸しもらえたが,この時もCは,目眩,
気持ちが悪くなったことを訴え,同日午後6時の排尿の際には,Cの症状
を見かねた付添いの原告A2が意を決して「お願いです。トイレするのを
手伝って下さい。」と懇願したにもかかわらず,看護婦に他の患者もして
いることであるとしてにべもなく断られており,その結果,Cは排尿後,吐
き気に襲われ,嘔吐し,正中のガーゼへの出血がみられていた。
Ⅴ かかる諸事情に照らせば,肺塞栓の発症の予見は可能であった。
③ Cの死亡についての結果回避可能性(肺塞栓の発症予防とCの救命可能
性)
 被告が,手術直後から手術の合併症としての肺塞栓の危険性を重視し
て,以下のような予防措置を講じていれば,肺塞栓の発症は予防でき,C
の死亡は回避できたものである。すなわち,術後の早期にヘパリンを1日
量として3000単位から5000単位持続注入することで,あらたな血栓の形
成を予防することは当時からも行われており,当時臨床現場で一般的に行
われている予防方法であった。また,可能であれば,術前にできるだけ安
静を避けることも考えられる。下肢を一定時間毎に縛って,血流のうっ帯を
防ぎ,血栓形成を予防する方法もあり,近年は全身麻酔後には一般的方
法となりつつある。また,深部静脈血栓症が診断された場合は下大静脈に
パラシュート状の骨組を留置して血栓が肺へ飛ぶことをあらかじめ防止す
る方法もある。Cの死因が肺塞栓であった場合,プロティンCなどの血清蛋
白異常によるものが考えられるが,その場合には,へパリン治療での予防
効果はある程度期待できた。また,低酸素血症に関しては,一般的な酸素
投与でなく,酸素吸入をし,その他様々な方法により酸素を肺に送り,低酸
素状態を解消するとともに,動脈血ガス分析の検査は術後であれば1日に
何回でもする必要すらあり,ましてや平成5年11月6日のデータが低酸素
状態を示し,必ずしも通常の状態にないのであるから,動脈血ガス分析デ
ータを2回,3回と重ねて,酸素濃度の推移に注意をよせ,少なくとも同日
(平成5年11月6日土曜日)の午後に1度,翌日(平成5年11月7日日曜
日)に1度,ないし,経過によっては2度,3度と動脈血ガス分析検査をする
ことは必要不可欠であった。動脈血ガス分析の検査を日に何度も行うこと
は臨床的に決してめずらしいことではなく,経過の良くない時は普通に行わ
れることである。また,Cは,気管支炎も保険病名としてあったのであり,手
術前の動脈血ガス分析検査でもPO2値が72で,その原因として,気管支
炎などの換気障害が認められている患者であったのであるから,術後にお
いて,動脈血酸素飽和度を表示するパルスオキシメーターによるモニター
を装着することが可能であったし,必要でもあった。肺塞栓または心筋梗塞
のいずれかであったとするなら,動脈血ガス分析を頻繁に行うことで,比較
的早期に発見されて処置でき,危険性が減少した可能性が高い。そして,
被告がCの低酸素状態に対して,相応な処置を施し,血液中の酸素濃度を
正常値に高めていれば,平成5年11月8日のCの容態の急変を防げた可
能性は高い。また,胸痛の有無についての問診,頚動脈の怒脹の有無,下
肢の静脈瘤の程度,心電図での右心負荷の存否,胸部X線写真での血管
陰影の消失の有無などについて確認した上で,血栓溶解剤の投与を行うな
ど,低酸素状態の原因の把握と治療に当たるべきだったものである。Cの
場合,急激な肺塞栓が発症して臨床症状を呈して死亡に至った可能性が
あり,急激な肺塞栓が発症した臨床症状からのへパリン治療のみでは救命
効果は期待できない可能性もあったが,被告が,低酸素血症などにきちん
と対応して,早期に肺塞栓の発症を疑って,早期にウロキナーゼなどの血
栓溶解剤を用いた場合は,救命しえた可能性が極めて高いものである。
④ 被告の予見義務・結果回避義務違反
 被告に勤務するG医師は,以下のとおり,手術後のCの低酸素血症を放
置したことにより,肺塞栓の発症についての予見義務に明らかに違反した
ものである。
 手術の翌日である平成5年11月6日午前11時25分に行われた採血の
血液検査では,CのPO2値が参考域を大きくはずれた59.0を示してお
り,低酸素血症といえる値であり,異常な容態を呈していた。にもかかわら
ず,G医師は,ただ漫然と術後の患者に通常施す酸素投与を施すのみで,
その予後,回復も確認しないまま,すなわち,血液検査もせず,同日が土
曜日であったこと,そして翌日同月7日が日曜日であったことから,患者で
あるCの異変を無視し,あるいは注意すればすぐにわかる異変に気づかな
かった。
 血中酸素濃度の臨床参考域は,PO2値80ないし100であるが,あくま
でもこれは参考域,めやすのものであって,個人差は当然あり,術後の血
中酸素濃度については,外科医はその患者の術前の(酸素投与などする
以前の平常値の)酸素濃度のレベルを維持できるように,手術直後から神
経を使うものであり,Cについていうならば,手術前の平成5年10月22日
のデータによると,PO2値72.3であるから,Cは普段から若干血中酸素
濃度は低めではあったようであるが,これを斟酌しても,通常の酸素濃度
の範囲に,±10というのがせいぜい許容できる範囲であるから,術後1日
目(平成5年11月6日土曜日)の血中酸素濃度が,PO2値59.0というの
は低すぎる数値データであった。この点,被告は,Cの平成5年11月6日の
動脈血ガス分析のPO2の値に対し,被告病院において酸素を投与して経
過を観たことに,なんら不適切なところはなく,改めて動脈血ガス分析検査
を行う必要はないというが,仮に,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の
PO2値について,Cの全体症状に鑑みて,酸素投与のみにて経過を観察
することを是としても,酸素投与の結果,PO2の値が好転するかどうかに
つき,再度,動脈血ガス分析を行わない限り,その後のCの症状はわから
ないものである。そして,低酸素血症を放置した場合,低酸素によって血管
が攣縮するということは知られており,肺塞栓を発症する可能性があること
からすると,低酸素血症に対して,酸素投与をするのみならず,概ね40分
後くらいに動脈血ガス分析検査を行う必要があったし,心電図によって右
心負荷の存否も知り得たはずで,胸部レントゲン写真などで,肺塞栓は予
知も発見もし得たものである。にもかかわらず,G医師は,これらをなさなか
ったものであり,このように低酸素状態の原因究明及び迅速な対応を怠っ
たことなどにより,Cは,前記のとおり,肺塞栓に陥り,これが致命傷となっ
たものである。すなわち,本件においては,患者が開腹という大きな侵襲を
受けており,患者であるCが亡くなる前日である平成5年11月7日(日曜
日)の昼間に「息苦しい。気持ち悪い。」,「吐気がする。(吐いた)」という症
状を呈しており,Cの低酸素血症の原因が不明であれば,低酸素状態の原
因究明のために,動脈血ガス分析を行うべきであったし,死因が不明であ
れば剖検すべきであり,本来,外科医で開腹術をしたり,術後の合併症な
どを少しでも学習しているものであれば,すぐに肺塞栓を疑うべきであるの
に,G医師は,手術後の合併症としての肺塞栓や最悪の結果の死について
思いも至らず,平成5年11月6日(土曜日)の低酸素血症PO2値59の値に
対しては,臨床的に,術後には創痛などで換気不十分となることは珍しくな
く,この程度の低酸素状態は,術後第1日目のものとしては,よく見られるも
のとの判断の元に,酸素投与で足るものと判断し,それ以上の処置はして
おらず,患者Cの訴えに対しても,手術直後である平成5年11月6日(土曜
日),同月7日(日曜日)には,手術後のCの体調について,自ら回診すらして
おらず,他の医師による回診もなされていなかった。結果として,Cの訴え
は無視されたまま,Cの容態は,平成5年11月8日午前7時50分ころか
ら,急速に悪化し,Cは,ベッド脇のポータブルトイレで排尿後,ベッドへ移さ
れ,「昨日より気持ち悪かった」と訴え,間もなく問い掛けに答えられなくな
り,意識が薄れ,呼吸停止となり,緊急処置を受けたが,意識も戻らず,同
日午後2時10分に死亡した。平成5年11月7日には,Cはポータブルトイ
レで排尿中,倒れ,「目眩,気持ちのわるさ」を訴え,ドレーンも相変わら
ず,腹部と右側の両方から血性の浸出があり,特に,血圧は同日午後1時
に90/60まで落ち,同日の午後10時になって,血圧は86/50に至った
が,この間になされたことといえば,同日午後10時を過ぎてから,G医師
が,看護婦からこの経過を知らされ,G医師より心電図モニターの装着とエ
ピドラ中止(中枢性鎮痛剤レペタン投与の中止)の指示が出されたにすぎな
い。また,Cは,平成5年11月7日,体調が思わしくなく,吐き気があったの
に,この日,担当の看護婦から,「(手術後3日目からは)自分でポータブル
トイレで(排尿)するように」と申し渡され,同日午前6時30分にポータブルト
イレで排尿した際には立ちくらみを感じ,同日午前9時30分,排尿の際に
はベッドからの上り下りが大変辛く,吐き気もあり,同日午後1時の排尿の
際は,辛うじて看護婦が手を貸しもらえたが,この時もCは,目眩,気持ち
が悪くなったことを訴え,同日午後6時の排尿の際には,Cの症状を見かね
て付添いの原告A2が意を決して「お願いです。トイレするのを手伝って下さ
い。」と懇願したにもかかわらず,看護婦に他の患者もしていることであると
してにべもなく断られており,その結果,Cは排尿後,吐き気に襲われ,嘔
吐し,正中のガーゼへの出血がみられていた。にもかかわらず,被告病院
の看護婦は,Cの容態を的確に把握せず,容態に配慮することなく,マニュ
アル的対応に終始した。G医師が,手術前においても,事態の急変後にお
いても,手術後の合併症としての肺塞栓に対する予見を欠いていたこと
は,G医師がカルテ等に,Cの死亡前日の平成5年11月7日(日曜日)欄に
「排尿しようとして倒れた?」と記載し,平成5年11月8日のCの事態急変
後で朝8時に呼び出しを受けた後に,突然の急変と思われるとして,緊急C
T検査として頭部の断層写真を撮るも,「出血は無い」「広範な脳梗塞か」な
どとして,「経過からして,脳梗塞と思われる」と記載し,「ECG(心電図)は
変化しているが,CPR(心蘇生術)後でもあり,原因なのか,結果なのか,
分からない」,「とりあえず全力をつくすが,状況は厳しい」と記載し,「死亡
ムンテラ」として,「2PODまでは,no trouble」と記載し,全くCの事態の
変化がわからないと言っていたのに,死亡後家族に対するムンテラ前に,C
の死因として,「①脳梗塞,② 脳出血,③ 心筋梗塞,④ 肺梗塞,⑤ 多
出血の順と考えられる。」と記載していることなどからも明らかである。すな
わち,G医師が,死因の第1として記載している脳梗塞が,このような急激
な症状であれば,頭部CTスキャンで先ず明らかになるし,広範な脳梗塞で
あれば,言語障害,機能障害,神経症状が前兆としてあらわれるのであっ
て,G医師が肺塞栓についての予見を欠いていたことが明らかである。
 以上のとおり,Cの死因は,手術直後からの低酸素状態に被告病院のG
医師を中心とする看護婦等治療スタッフが気付かず,何らの措置を施さず
においたことによるものであって,低酸素状態の原因としては,肺塞栓の発
症又はその前兆が最も疑われ,肺塞栓に起因する低酸素状態に対する対
策として酸素吸入を行い,動脈血ガス分析を行い,他に前記のような措置
をすべきであったのにこれを怠ったことにより,Cは死亡したものである。
⑤ 被告の責任
 以上のような被告病院の対応は,被告病院に求められる高度な注意義
務とはかけはなれたもので,注意義務違反があり,被告はその結果に対し
て債務不履行責任を負う。
(被告の認否・反論)
① 肺塞栓について
Ⅰ 肺塞栓発症の機序
 本件で肺塞栓が起こったとすれば,それは深部静脈血栓症の存在が
最も問題となる。深部静脈血栓症は,既往症としてそれがある場合と術
後の安静臥床によって深部の静脈に血栓ができる場合とがあるが,本
件では後者が最も考えられる。なお,原告らは,Cに表在静脈瘤があっ
たと主張し(ただし,被告病院のG医師はその存在を否定している。),こ
こから血栓が飛んで肺塞栓を引き起こした旨主張するが,下肢の表在静
脈瘤内の血栓がちぎれて肺に飛んで直接肺塞栓を惹起することはない
と考えられている。前記のような安静臥床にともなう深部静脈血栓の形
成とそれが飛んで肺塞栓を引き起こすことは,近時いわゆる「エコノミー
クラス症候群」と呼ばれる,飛行機内で長時間(といっても12時間程度で
も起こっている。)一定の姿勢で座っていることにより深部静脈血栓が形
成され,それによって肺塞栓が引き起こされることが指摘されているのと
同様の機序で起こるものである。
Ⅱ 事前の対応
ⅰ 肺塞栓の予見可能性について
 本件で肺塞栓の発症を具体的に予見することはできない。なぜな
ら,既往症として深部静脈血栓症の存在を疑わしめる所見がないう
え,肺塞栓の危険因子といわれるものも特に認められないからであ
る。鑑定人Iによれば,ガンは肺塞栓の危険因子の一つであるが,本
件のように極めて早期の胃ガンの場合に肺塞栓が術後に発症するこ
との危険性が特に高くなるかは明確な判断材料はないとされる。
ⅱ 予防処置について
 本件で肺塞栓が予見不可能である以上,それをあらかじめ予防すべ
き義務は生じない。また,本件のような極めて早期の胃ガンの場合,
そのためにことさら予防処置を講ずることも一般にはない。Cは,本件
事故当時の医療水準に照らせばもちろん,現在でも,肺塞栓について
ハイリスクの患者ではない。したがって,本件当時Cのような患者に対
し,肺塞栓の予防処置を行わねばならない理由はない。すなわち,本
件事故当時の医療水準に照らせば,Cが肺塞栓のハイリスク患者で
あったと認めることができない以上,Cのような患者に対しては,日本
で最高レベルの病院であっても,平成5年の時点では予防的なことは
行わなかったのである。
Ⅲ 事後の対応
ⅰ 肺塞栓の発症時期
 本件でCの死因が仮に肺塞栓であったとした場合,術後の肺塞栓で
は動き始めに血栓が飛ぶのが通常であるから,その発症時期は,鑑
定人Iが最も可能性が高いとする,Cの容態の急変が生じた,ポータブ
ルトイレに立って顔面蒼白となったという時期である平成5年11月8
日の午前7時50分ころと考えねばならない。なお,鑑定人Iによれば,
平成5年11月8日午前6時ころ,Cに「指先のしびれ」があったとすれ
ば,それは後方視的に見て(要するに後から考えて)過換気による症
状とも考えられ,肺塞栓であれば過換気になるから,同日午前6時こ
ろの可能性もある旨述べられているが,同日午前6時ころにCが指先
のしびれを訴えていた事実は認めがたいし,過換気の症状は「指先の
しびれ」などよりも,より大きなわかりやすい症状として,頻呼吸や呼吸
動作が大きくなることが認められるはずであるところ(頻呼吸や呼吸動
作が大きくなるから「過換気」となるのである。),そのような事実は認
められないから,本件での肺塞栓の発症をこの時期と特定するには合
理的根拠がない。
ⅱ 肺塞栓発症後の対応について
 本件でCの死因が仮に肺塞栓であり,その発症が平成5年11月8日
午前7時50分ころであったとしても,その時点で急変の原因を肺塞栓
と診断することは困難である。このことは,鑑定人Iが,本件の死因を
肺塞栓の可能性が最も高いとしながらも,そのように特定せず,この
ため肺塞栓と診断すべき時期を特定していないことからも明らかであ
る。仮に「指先のしびれ」を根拠に肺塞栓の発症時期を午前6時ころと
認定するとしても,そのような判断は後方視的なものであって,臨床経
過においてそのように診断することが困難であることは,鑑定人Iが認
めるところである。鑑定人Iによれば,肺塞栓と診断できた場合を前提
に,ヘパリンやウロキナーゼ投与という治療方法を挙げているが,ヘ
パリンは血液凝固阻止剤,ウロキナーゼは血栓溶解剤であって,いず
れも出血している患者,出血する可能性のある患者に対しては禁忌あ
るいは慎重投与とされており,鑑定人Iは,本件で急変の原因として出
血の可能性を否定していないから,本件でこれら薬剤を当然に用いる
べきであるとする趣旨ではない。したがって,本件でこれら薬剤が用い
られていないことをもって被告病院の対応が不適切であったなどと帰
結することは到底できない。なお,本件において被告病院でなされたC
に対する蘇生処置は一般的なものであり,この蘇生処置が不適切で
あったなどと到底いえないし,不適切であったとする根拠も本件記録
上存在しない。
ⅲ 救命可能性について
 鑑定人Iによれば,本件が肺塞栓であるなら,急激な臨床経過からす
るとかなり大きな梗塞であり致命率が高いものであり,肺塞栓が発症
して臨床症状を現してからのヘパリン治療のみでは救命効果は期待
できず,早期にウロキナーゼなどの血栓溶解剤を用いた場合は救命
しえた可能性はあるが,極めて厳しい状態であったものである。したが
って,仮に早期に肺塞栓と診断し(本件でそのように診断すべきであっ
たといえないことは前記のとおり),上記の薬剤投与を早期に行ったと
しても,救命の可能性はなかったと認めるのが相当である。
Ⅳ 以上のとおりであるから,仮に本件でCの死因が肺塞栓であったとして
も,被告病院の対応になんら不適切なところはないし,同女を救命できた
などともいえない。したがって,原告らの請求は失当である。
② 平成5年11月6日の動脈血ガス分析結果に対する対応について
 原告らは,動脈血ガス分析のPO2(動脈血酸素分圧)の値だけを問題と
しているが,それだけでなく,他の結果やCの症状,所見をも総合して,同
人の低酸素状態の程度を判断しなければならないところ,Cの平成5年11
月6日の動脈血ガス分析結果は,pH値7.406,PCO2値44.0,O2SA
T(動脈血酸素飽和度)値94パーセントで正常範囲内にあり,術前の同年1
0月22日の結果とかわりがない。また,Cには,動脈血ガス分析検査当時
も,検査後も,ともに呼吸困難はなく,チアノーゼも認められず,症状,所見
に変化は認められていない。そして,Cには,軽度ではあるが閉塞性換気
障害が認められていた。臨床的に,術後には創痛などで換気不十分となる
ことは珍しくなく,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになっ
た低酸素状態は,術後第1日目のものとしては,よくみられるものであり,こ
れに対しては,酸素投与を続行し,経過を観たことで対応したことに何ら不
適切なところはなく,改めて動脈血ガス分析検査を行う必要はない。鑑定人
Iによれば,低酸素状態に対して十分に対応をしていたかは疑問があるとさ
れているが,他方で,同日の動脈血ガス分析結果は,手術翌日の数字とし
ては異常ではなく,しかも本件ではこの結果を受けてその後持続的に酸素
投与2L/分が行われているのであるから,呼吸管理として問題のないこと
は明らかであるとされており,鑑定人Iが指摘する内容は,酸素投与後の動
脈血ガス分析を行っていないということに尽きる。すなわち,鑑定人Iによれ
ば,平成5年11月6日の動脈ガス分析のための動脈血採血時には酸素が
投与されておらず,そのような状態での酸素分圧,酸素飽和度が前記のと
おりであったが,その後,毎分2リットルの酸素が投与されていたのであれ
ば,呼吸状態が変わらなければ,これぐらいの酸素を流せば,どれくらい回
復するかということは,大体予測がつくものであって,酸素不足で致命的な
ことは起こりえないとされ,酸素投与はなされていたものである。鑑定人Iに
よれば,仮に,酸素を投与しても,低酸素状態がさらに進行していったとい
うことであれば,肺塞栓であればかなり大きいものが飛んだと,劇的なこと
が起きてしまったことも考えられるとされるが,鑑定人Iの仮説に過ぎず,本
件においては,低酸素状態の進行があったとすれば,Cに息苦しさが継続
的に認められてしかるべきところ,平成5年11月7日午後6時に「R苦(呼
吸苦)なし」との記載があるほか,平成5年11月8日午前6時の記載でも
「息苦しさなし」との記載があり,低酸素状態の進行があったというに足りる
臨床症状が認められておらず,本件で低酸素が進行していると考える根拠
はなく,本件でこの推論に依拠することができないことは明らかである。
   ③ Cの術後の容態
 Cは,原告らが血圧が目立って低下し始めたとする平成5年11月7日午
後1時以降も,特段の異常を示しておらず,看護婦からの問いかけに対し
ても十分な応答ができており,自らポータブルトイレでの排尿もでき,中枢
性鎮痛剤の硬膜外投与を中止してからは血圧も順調に回復している。
  (3) Cの手術に関する説明義務違反,Cの死亡に関する被告の死因解明義務の
存否及びその懈怠の有無。
   (原告らの主張)
① 術前の説明義務違反
 平成5年11月4日の術前面談において,被告病院のG医師は,C及び原
告A1,同A2に対し,「この時点で手術すれば100パーセント大丈夫であ
る。他への転移はない。胃は約2分の1切除する。」と説明しているが,開
腹という手術前の面談での説明が極めて不十分であり,Cの胃ガンがⅡc
型であること,もし,手術を施さなかった場合の患者に予期される事態およ
び治療方法,手術を施した場合の予想される合併症,開腹の際に他への
転移が見られた場合の処置等について,なんらの説明や相談もなかった。
実際に,手術の際にCは胃部と共に胆嚢の摘出もされているところ,これに
ついて正に手術を受けているCは無理としても,立ち会った親族の承諾すら
も得ずに行っているものである。医師と患者というのは,対等の力関係に立
てないことは誰もが認めるところであり,医師が「100パーセント大丈夫」と
いう言葉を使えば,素人である患者は「先生にお任せ」するしかないという
のが通常である。医師の言葉を全面的に信頼して自分の生命を託すので
あるから,医師は責任の重みを自覚すべきであり,説明を十分にするべき
である。近年,インフォームドコンセントということが重要視されているのは
この所以である。Cの死という最悪の結末となった本件において,従前から
原告らが指摘している「解剖」のことも含めて,被告病院がCの治療にあた
って十分な説明義務を果たしたとはいえない。
② 死因解明義務違反
 G医師は,C死亡直後の遺族に対する説明の中で,「死亡の原因疾患とし
ては,脳梗塞が最も考えられ,次に心筋梗塞,肺梗塞の順に考えられる
が,確たる証拠はありません。原因を追求するなら,解剖をお勧めします
が,(中略)御了解いただけるなら,このまま御帰宅いただこうかと思いま
す。」と述べている。鑑定人Hによれば,上記のG医師の説明に関し,手術
後3日目の急死ということからすると,死因究明の上からも,手術と死亡と
の関連性を否定する意味からしても,解剖,(中略)院内での病理解剖ない
しは警察に届け出た上のでの司法解剖(中略)を,家族を説得して勧める
べきであり,Cの場合手術後急に亡くなったもので,異常死体であることに
は間違いなく,警察に届け出て,行政解剖あるいは司法解剖をすべきだっ
たのに,異常死体の届出義務をG医師が怠ったところに一番の発端がある
と指弾されている。G医師は,本件Cのガン手術については,ほぼ100パ
ーセントの確率で完治できるものと原告ら家族に説明していたし,本件ガン
摘出手術については,ほぼ完璧に成功したものとG医師自身考えていたも
のであって,そのような状況の中での手術後3日目の急死であるのだか
ら,主治医として手を尽くした医師ならば,「何故か」その原因を知りたいと
考えるのが医師としての通常の心理であろう。また,死亡後に司法解剖を
施せば,その原因はほぼ解明できたことは間違いない。G医師には,思い
もかけない結果に気が動転している原告ら遺族に対し,予想できない事態
の発生を説明し,死因究明のために必要不可欠な解剖の重要性について
説明する義務が存したものである。にもかかわらず,G医師は前記のように
説明しているのみで,説明義務を尽くしているとは到底いえず,むしろ,自
身は解剖を望まないという趣旨のことを述べているのである。医師として,
本件の如き,原因不明の突然の死に際しては,原因究明をするというのが
本来の医師の姿であるべきところ,被告病院の医師の言動は解剖に消極
的であり,原因究明を怠ったものである。この点,G医師は,「私最後にちょ
っと余りにも御遺体が心肺蘇生のときに損傷がかなりあるんで,これ以上
身体に傷をつけることは非常に気の毒な思いに駆られていましたんで,」
(解剖を特に勧めなかった)と述べているが,死因がある程度特定できる本
件事例については,現在の解剖技術をもってすれば,身体に傷をつけると
言っても大したことはなく,また,解剖後は綺麗に整体されるので,殊更に
遺族の心情を傷つけるものではなく,本件における解剖の必要性に比べ,
G医師の理由付けはあまりに軽く,到底,原告らが納得しえるものではな
い。死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)によれば,2人以上の医師
が診療中であった患者が死亡した場合において,主治の医師を含む2人以
上の診察中の医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要を
認め,かつ,解剖について遺族の承諾を得るいとまのないような場合には
遺族の承諾がなくても解剖することができるものとされている(7条)。さら
に,死体の解剖は,特に設けた解剖室においてしなければならないものと
され(同法9条),一定規模以上の病院には解剖室が備えられている。この
ように,死因が判明しない場合の解剖について法律に規定が設けられてい
るのは,人の死亡という重大かつ厳粛な事態が生じた場合には,できる限
り死因を明らかにすることが公衆衛生の向上及び医学の進歩の上で必要
であり(同法1条),かつ,解剖が死因解明の最も直接的かつ有用な手段で
あることが社会的に承認されているためである(東京地方裁判所平成9年
2月25日判決)。このような実定法の定めと,病院の機能及び役割並びに
死者を悼む遺族の感情を考慮すると,本件のように病院に入院中の患者
が死亡した場合において,死因が不明であり,又は,病院側が特定した死
因と抵触する症状や検査結果があるなど当該死因を疑うべき相当な事情
がある場合,病院としては,遺族に対し,病理解剖の提案又はその他の死
因解明に必要な措置についての提案をして,それらの措置の実施を求める
かどうかを検討する機会を与える信義則上の義務を負っているものという
べきである(前記東京地方裁判所判決参照)。原告らは,被告病院の死因
解明義務違反の行為により,Cの死亡後遅滞なくその死因を知る機会を失
ったものであり,死因の解明を求めて本件訴訟を提起さざるを得なかったも
のである。被告の病院が死因解明義務を尽くさなかったことにより原告らに
生じた精神的苦痛に対し,原告らは慰謝料請求をするものである。
(被告の認否・反論)
① 説明義務違反がないことについて
Ⅰ 本件でCは早期胃ガン(印環細胞ガン)であったのであり,早期手術が
必要なことは明らかである。原告らは,手術をしなかった場合の予期され
る事態について説明をすべきなどと主張しているが,胃ガンが発見され
たにもかかわらず放置すれば,ガンが進行して死亡するにいたることは
説明されるまでもなく明らかなことであるとともに,根治療法が手術によ
る切除以外にないことも明らかである。そして,Cが,早期胃ガンで発見
されたにもかかわらず,手術を受けなかったなどと想定することは合理
的ではない。また,本件でとくにそのように認めるに足りる根拠もない。本
件では,合併症を含め十分な術前の説明がなされているが,仮にそれが
不十分であると仮定したとしても,肺塞栓の危険性は極めて低く,これに
対し印環細胞ガンを放置すれば確実に死亡するのであるから,Cがこと
さら胃ガン手術を拒絶したなどと認めるに足りる根拠はない。したがっ
て,原告らの説明義務違反についての主張は失当である。
Ⅱ 原告らは,本件で胆嚢が合併切除されたことをもって説明義務違反を
いうようであるが,このような主張は失当である。胃ガン手術は,胃を切
除することが目的なのではない。ガンに対してこれを切除することに目的
がある。患者の手術に対する同意も,その主眼はガンの切除についての
ものである。したがって,胃のみならず,周辺臓器にガンを疑わしめる病
変が認められれば合併切除することは通常の患者の意思に合致し,術
前の同意に包括的に含まれるものである。そして,病変に対しどの範囲
で切除するかは,医師の合理的な裁量に委ねられた事項である。本件で
は,術中胆嚢底部に硬結を認めたため,胆嚢摘出術をも併せて行ったも
のであり,術前の同意の範囲内でありかつ医師の合理的裁量の範囲内
のことである。原告らの主張によれば,胃ガン切除についての同意を得
たのであれば,術中いかに転移あるいは浸潤を疑わせる所見があって
も,合併切除してはならず,そのまま閉腹すべきということになる(患者は
その時点では麻酔中であるから患者の意思を確認することはできない。
また,患者の自己決定権は一身専属的であるから,親族によって代替で
きるわけではない。)。このような主張がいかに荒唐無稽であるかは明ら
かである。
② 死因解明義務について
 G医師は,原告らに対し,死因について不明な点があれば解剖によって
明らかにする方法がある旨説明しており,その上で,原告A1は解剖不要と
回答したものである。G医師は,原告らに死因解明のための解剖を提案し
ている以上,それを行うかどうかは原告らの判断である。原告らの引用する
東京地方裁判所判決の事案は,医師が解剖について提案しなかった事案
であり,本件とは前提事実が異なる。そして,原告らが死因解明のための
解剖について提案を受けながらあえて解剖に踏み切らなかったのは,原告
らの判断の結果であり,その点についてG医師を論難することは自己決定
と矛盾する態度である。なお,原告らの引用する東京地方裁判所判決は,
控訴審(東京高等裁判所)において覆され,請求棄却とされている。
  (4) Cの死亡による損害。
   (原告らの主張)
① 逸失利益
 Cは居住地において,喫茶店を経営し,その収入は同年代の同じ高卒の
人に比べて少なくない収入を得ていたもので,平成5年度の賃金センサス
企業規模計,旧中,新高卒,55ないし59歳の平均賃金をもとに,同女の
平均余命年数の2分の1について労働可能であり,生活費控除率を4割と
して計算すると1745万4000円となる。
② 慰謝料 2000万円
 なお,原告らは,被告の病院の担当医G医師の死因解明義務違反に基
づいて慰藉料請求をしているところ,原告1名につき金200万円宛,合計1
400万円の慰藉料を請求するものである。これは,全体の請求との関係で
は,一部請求の関係に立つものである。
③ 弁護士費用 400万円
(被告の認否・反論)
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 証拠(甲1の1ないし8,同2,同3の1及び2,同4,同5の1ないし3,同6の1な
いし4,同7の1ないし5,同8ないし同10,同11の1及び2,同12の1ないし3,
同13の1及び2,同13ないし同17,同18の1ないし5,同19及び同20,同21
の1ないし9,同22及び同23,同24の1及び2,同25ないし同28,乙1ないし
同7,鑑定人医師H及び同医師Iの各鑑定結果,証人G,同H,同J,同K,同Iの
各証言,原告A1,同A2各本人尋問の結果。なお,甲8ないし同10,同15ない
し同17,同22,乙3,鑑定人医師H及び同医師Iの各鑑定結果,証人G,同H,
同J,同K,同Iの各証言,原告A1,同A2各本人尋問の結果のうち,以下の認
定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,本件の経過は,以下のと
おりと認められる。
(1)① Cは,昭和49年6月,原告A1の住所地において,「O」の屋号で原告A1
とともに,喫茶店を開業していたところ,所得税青色申告決算書によれば,
Cの年間所得金額は,平成2年分(平成2年1月1日から同年12月31日ま
で)が113万4352円,平成3年分(同年1月1日から同年12月31日まで)
が132万6414円,平成4年分(同年1月1日から同年12月31日まで)が
146万4441円,平成5年分(同年1月1日から同年10月31日まで)が10
4万8266円であった。
② Cは,平成元年4月ころから,高血圧があり,L診療所より処方された降圧
剤を内服しており,平成3年5月11日,腹痛を訴えて被告病院を受診し,超
音波断層検査,CTスキャン検査等を受け,脂肪肝と診断されところ,その
際,Cは,喘息がある旨被告病院に申告していた。Cの右足のふくらはぎの
皮膚の表面には,血管の一部が瘤状に膨れてできたような静脈瘤様の模
様が肉眼で確認でき,Cは,知人らに仕事が終わるとその当たりが痛いこと
があると漏らすことがあったが,これについて特段医師の診察を受けたこと
はなく,また,肺塞栓を引き起こす可能性のある下肢の深部静脈血栓症が
存在することを示す症状はなかった。他に既往症として,18才から38才く
らいまでの間に,アレルギー性鼻炎等により鼻の治療を受けたり,平成5年
5月から同年7月ころまで,五十肩で治療を受けことがあったが,特に健康
状態に問題はなかった。
(2)① Cは,平成5年9月5日,足利市の行っている健康診断で上部消化器造
影検査を受けた結果,胃の幽門及び前底部中央部に疑隆起性病変と判断
される異常陰影が認められ,精密検査の必要性を指摘され,同月13日,
被告病院の内科外来の診察を受けた。
② Cは,同月20日,被告病院内科にて胃内視鏡検査を施行されたところ,
同検査において,潰瘍瘢痕と疑隆起が認められ,検体を病理組織検査した
ところ,印環細胞ガンと判明し,肉眼的分類はⅡc型で,早期胃ガンと診断
された。
③ 被告病院内科担当医であるM医師は,同年10月15日,Cに「前ガン症
状」と説明したうえで,外科での手術を勧めた。
④ Cは,同月18日,被告病院外科外来を初診したところ,その際,Cは,被
告病院に提出された検査前調査用紙に喘息がある旨記載した。Cの担当
医は,G医師であり,同医師は,Cに対し,Cの病気が潰瘍瘢痕をともなうⅡ
c型早期ガン(印環細胞ガン)であることを明らかにしたうえで,肉眼的形
態,病理型などから手術が必要である旨説明し,Cは,これを了解し,手術
目的で入院の予約をした。なお,Cは,同日,心電図検査を施行されたとこ
ろ,検査所見によれば,慢性P波の疑いが認められ,慢性閉塞性肺疾患
(代表的なものとして,慢性気管支炎と肺気腫が挙げられる。)は否定でき
ないものと判断された。慢性肺気腫は,気管支喘息と診断された患者によ
くみられるものである。また,同日,胸部及び腹部のXP検査がなされた。
(3)① Cは,平成5年10月21日午後1時45分,胃ガン手術を目的として,被告
病院外科に徒歩にて入院し,G医師が,主治医となったところ,入院時のC
の身長は162センチメートル,体重は59キログラムであったが,医学的に
みて,肥満とはいえない。なお,保険病名としては,胃ガンの他,1週間前
から風邪の症状があるとして,感冒が記載され,気管支炎も記載された。
② Cは,同月22日,採血のうえ,血液について各種検査を施行されたとこ
ろ,検査結果に照らし,手術の障害となる異常は認められず,腎機能(糸球
体機能)も検査されたところ,結果はGFR(糸球体濾過値)106と良好であ
った。なお,動脈血ガス分析の結果は,PO2値が72.3で臨床参考域(80
ないし100)を若干下回っていたものの,pH値は7.383,PCO2値は4
5.9(臨床参考域は34から46である。),O2SAT(酸素飽和度)値は96
パーセント(以下単位の記載を省略する。なお,臨床参考域は95から98で
ある。)で,特に異常というものではなかった。同日のCのヘモグロビン値は
14.1(なお,臨床参考域は女性の場合11.0から15.0である。),白血
球数は5700μリットル(以後単位の記載は省略する。なお,臨床参考域
は3600から9300である。),赤血球数は453万/μリットル(以後単位
の記載は省略する。なお,臨床参考域は女性の場合360から490であ
る。),血小板数は33.5万/μリットル(以後単位の記載は省略する。な
お,臨床参考域は14.5から38.0である。),血清総タンパク値は7.4グ
ラム/デシリットル(以後単位の記載は省略する。臨床参考域は6.5から
8.1である。)であった。
③ 同月24日のCの体重は57.5キログラムであった。同日の回診時G医師
は,咳がおさまらないと訴えるCに対し,気管支炎の症状であり,薬を飲む
よう説明した。
④ Cは,同月25日,呼吸機能検査を受けたところ,%VCが92.64%,FE
V1.0%が69.07%であり,流量-気量曲線から,軽度の閉塞性肺換気
障害が認められたが,手術に支障をもたらすものではないものと判断され,
胸部単純X線写真撮影を受けたが,特に異常は認められず,病変部につい
ての胃X線造影検査を受けたが,これによっては病変部は明らかとならな
かった。
⑤ Cは,同月30日,胃内視鏡検査を受けたが,内科外来で施行されたとき
(平成5年9月20日)と比較しても,大きな変化は認められず,G医師は,C
に再度胃ガンである旨説明した。翌同月31日のCの体重は56キログラム
であった。
⑥ Cは,平成5年11月2日,尿検査を受けたが,大きな異常は認められな
かった。
⑦ G医師は,同月4日,C及び付添の原告A1,原告A2と術前の面接をした
ところ,その際,Cらに対し,Cの疾患に対する手術の必要性,内容,危険
性等に関し,平成5年10月18日にCにしたと同様の説明を行なうととも
に,さらに,Cが罹患している早期胃ガンに対し,現時点で手術をした場合
の術後の相対5年生存率は統計的に100パーセントであって,良好な予後
を期待できる,術式は,幽門側胃切除であり,その後の障害としては小胃
症状が最も大きな生活障害因子となる,術前の検査では,手術の障害とな
る異常はなく,一般的な条件のもとに手術が行なわれる,手術の内容から
考えて輸血は用意するが,施行しない予定である旨説明した。そして,C及
び原告A1は,「わたくしは,上記の手術が必要なことについて医師から説
明を受けましたので,それを受けることについて同意いたします。(中略)な
お,このたびの手術に関連して,緊急の場合又は医学上の立場から,処置
の変更をする必要がある場合には,その処置を受けることについても同意
いたします。」との記載のある手術承諾書に署名押印してこれを被告病院
に差し入れ,本件手術に対する同意をした。予定された手術は,胃幽門側
胃切除手術であり,G医師は,問診等からCについては,既往歴として特記
すべきものはないものと認識し,前記心電図検査の結果及び呼吸機能検
査の結果から判明した肺の異常については軽度のもので,手術上特に問
題となるものではない(さらにいえば,治療の必要もない)ものと判断し,前
記の諸検査等の結果から,Cの手術に関し,手術リスクはないものと判断し
ていた。なお,血液検査がなされたところ,同日のCのヘモグロビン(血色
素)値は13.1,白血球数は5900,赤血球数は423,血小板数は29.
0,血清総タンパク値は7.0であり,同日,胸部XP検査がなされた。
(4) Cは,G医師の執刀,被告病院外科に勤務するN医師の助手により,平成5
年11月5日,本件手術を受けたところ,Cは,同日午前11時30分に手術室
に入室し,本件手術は,同日午後12時12分開始された。本件手術において
は,上中腹部正中切開にて開腹され,開腹所見によれば,腹水並びに明らか
な癒着を認めず,胃には腫瘤を触知しなかったが,胆嚢底部に小指頭大の硬
結を認め,肝,脾,結腸,小腸には異常を認めず,明らかなリンパ節腫脹を認
めなかったもので,開腹所見から,当初予定されていた幽門側胃切除術に併
せて胆嚢摘出術が施行され,Cは,胃の幽門側2分の1(幽門より1.5センチ
メートル,噴門より5センチメートルの部分)及び胆嚢を切除された後,BI法に
より再建し,結節による吻合を確認のうえ,右横隔膜下にドレーンを留置し
て,腹壁を閉層し,午後4時19分,本件手術は終了し,手術時間は4時間7
分であった。本件手術の際の術中の出血量は252グラム,病室帰室までの
尿量は1100ミリリットル,術中の輸液量は3550ミリリットルであり,手術室
退室時の血圧は120/80,脈拍数は72回/分(以下単位の記載を省略す
る。),体温は35.8度であり,術中全く問題なく経過したものである。切除胃
肉眼所見によれば,腫瘍の大きさは縦2.2センチメートル,横1.9センチメー
トルであり,その位置は切除断端までの距離が噴門側8.5センチメートル,
幽門側1.5センチメートルの位置であり,胆嚢にポリープが存在していたもの
である。手術中に行われた動脈血ガス分析の結果は,同日午後12時24分
に行われた際のそれが,pH値7.38,PCO2値41.3,PO2値146であり,
午後4時49分に行われた際のそれが,pH値7.287,PCO2値55.4,PO
2値301.6,O2SAT値104.3であった。なお,手術中Cには心電図モニタ
ーが装着されていたが,モニター画面で確認していただけで,記録紙としては
残さなかった。
(5)①Cは,同日午後5時15分,半覚醒の状態で帰室したところ,呼名に対して
開眼するが,すぐにうとうとしてしまう状態であり,そのときの血圧は120/
80,脈拍数は70,呼吸数は20回/分(以下単位の記載を省略する。),
体温は33.5度であり,肺雑音,呼吸苦,浸出はなかった。
② 同日午後5時40分のCの血圧は110/70,脈拍数は72,呼吸数は1
6,体温は34度であった。
③ 同日午後6時のCの血圧は140/80,脈拍数は60,呼吸数は18,体温
は34.1度であり,肺雑音,浸出及び創痛はなかった。
④ 同日午後8時15分のCの血圧は124/74,脈拍数は62,呼吸数は1
8,体温は36.6度であり,その際,G医師が診察し,包交したところ,特に
Cの容態に異常は認められなかった。
   ⑤ 同日午後10時のCの血圧は134/88,脈拍数は66,呼吸数は18,体温
は37.7度であり,浸出はなかったが,体温が高めであったので,クーリン
グを施行した。
⑥ 手術後毎分4リットルの酸素を朝まで投与する旨の指示がなされ,4リット
ルの酸素投与が7時間なされた。また,同日は,心電図モニターが7時間
装着されていたが,その結果は,記録紙に残さなかった。
  (6)① 平成5年11月6日午前0時20分のCの血圧は116/88,脈拍数は72,
呼吸数は18,体温36.2度であり,正中創ガーゼにコイン大に血液が滲み
出している痕があったが,創痛はなかった。
② 同日午前3時のCの血圧120/80,脈拍数は72,呼吸数は16,体温は
37.1度であり,肺雑音,呼吸苦,創痛及び嘔気はなかった。
③ 同日午前6時30分のCの血圧は130/84,脈拍数は68,呼吸数は1
6,体温は37.9度であり,正中創ガーゼにコイン大に血液が滲み出してい
る痕があったが,正中創ガーゼの血液の滲みの増量はなく,腹満はなかっ
たが,体温が高めとなったので,再度クーリングを施行した。
   ④ 同日午前8時のCの血圧は124/80,脈拍数は72,体温は37.5度であ
った。
⑤ 同日午前10時のCの血圧は132/74であった。
⑥ 同日午前11時25分に採血された血液による動脈血ガス分析の結果はP
H7.406,PO2値59.0,PCO2値44.0,O2SAT値94.0(臨床参考
域95ないし98)であり,PO2値が臨床参考域(80ないし100)を下回って
いたが,G医師は,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに
呼吸困難がなく,チアノーゼも認められず,症状,所見に変化がなかったこ
と,O2SATの値は正常値であったこと,Cには,術前の検査で,軽度では
あるが慢性肺気腫によるものと推測される閉塞性換気障害が認められて
いたこと,臨床的に,術後には創痛や臥床の継続などで換気不十分となる
ことは珍しくなく,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになっ
た低酸素状態は,室内気のもとでの術後第1日目のものとしては,よくみら
れるものであったことから,特に異常なものとは考えなかったが,これに対
しては,酸素投与を続行し,経過を観ることとした。すなわち,同日10時間
酸素投与がなされた後,酸素投与が中止されていたが,同日午後5時20
分から毎分2リットルの酸素投与を行うよう指示がなされ,同日毎分2リット
ルの酸素が6時間投与された。
⑦ 同日午後2時のCの血圧は130/70,体温は38.4度であり,創痛,排
ガスはなかった。
⑧ 同日午後6時のCの血圧は124/72,体温は35.5度であり,呼吸苦,
嘔気,排ガスなく,創痛は自制内であったが,正中下部に血性の浸出があ
り,包交した。
⑨ 同日午後9時には,浸出はなかった。
⑩ 同日のCのヘモグロビン(血色素)値は12.1,白血球数は8600,赤血
球数は390,血小板数は21.7,血清総タンパク値は5.3であった。
⑪ 同日午前11時22分,胸部XP検査が行われた。同日は,10時間心電図
モニターが装着された後,中止となったが,心電図の結果は記録紙に残さ
なかった。。
  (7)① 平成5年11月7日午前0時,同日午前3時にはCは入眠しており,同日午
前6時30分のCの血圧は110/70,体温は36.3度であり,腹満,腹痛
及び排ガスはなかった。
② 同日午前9時30分のCの血圧は120/62であった。この時点で,導尿
を終了し,Cは,ポータブルトイレで排尿をするよう指示され,ポータブルトイ
レに排尿していた。
③ 同日午後1時のCの血圧は90/60,体温は37.2度であり,腹満,排ガ
スはなかったが,正中創のガーゼに血液の滲みがあった。その際,Cは,
少し前にポータブルトイレのため,ベッドを降りたとき,めまいがして気持ち
悪かった,今だんだんと落ち着いてきたと申告したが,創痛は自制内であっ
た。排尿時には,看護婦が介助をした。
④ 同日午後3時のCの血圧は92/60であった。
   ⑤ 同日午後6時のCの血圧は92/54であり,脈拍は104,体温は35.9度
であり,めまい,呼吸苦,創痛及び排ガスはなかった。その際,Cは,当日
貧血になったとき,黄色っぽいものを少し吐いたと申告したが,その時点で
嘔吐はなかった。また,正中創のガーゼ下層に血液の滲みがあった。原告
A2は,看護婦に対し,Cの排尿時に手伝って貰いたい旨要望したが,看護
婦から,他の患者と同じように手術後3日目からはポータブルトイレで排尿
するよう言われた。
⑥ 同日午後9時のCの血圧は86/50であった。Cは,原告A2に手伝って
貰って,ポータブルトイレで排尿しており,Cにめまいはなく,嘔吐もなかっ
た。
⑦ 前記のとおり,血圧が低下傾向にあったため,看護婦がG医師に指示を
仰いだところ,G医師の指示により,同日午後10時15分,Cは心電図モニ
ターを装着した(なお,この際も心電図はモニターで確認していたが,記録
紙には残さなかった。)。Cの脈拍は100台で,洞調律であり,心電図検査
によれば,落ち着いている様子なので,様子を見ることとした。前記の血圧
の低下は,術後に鎮痛目的で5日間の予定で硬膜外チューブから投与して
いた中枢性鎮痛剤レペタンの影響と考えられたことから,G医師は,その中
止を指示し,硬膜外チューブをクランプした。
⑧ なお,同日は,酸素投与が24時間なされた。
(8)① 平成5年11月8日午前0時Cは入眠しており,Cの血圧は92/58であっ
た。
② 同日午前3時Cは入眠しており,Cの血圧は100/66,脈拍は94であっ
た。同日午前4時に一旦目を覚まし,付添の原告A2と一言二言言葉を交
わし,再び入眠した。
③ 同日午前6時のCの血圧は104/70であり,創痛は軽度で,嘔気,呼吸
苦,排ガスはいずれもなかった。ドレーン部に淡黄色のもの少量の浸出が
あった。前日から装着された心電図モニター上は,同日午前7時50分まで
異常は認められなかった。また,同日も前日に引き続き酸素投与がなされ
ていた。
  (9) 同日午前7時50分ころ,Cは,ポータブルトイレ使用後に立てなくなったため,
原告A2が,同日午前7時50分,ナース・コールをし,担当看護婦が駆け付け
ると,Cはポータブルトイレに座っており,Cの顔面及び口唇は蒼白で,チアノ
ーゼが出現し,問いかけには返答はあったが,やや意識が朦朧とし,呼吸は
やや努力様で,Cは,看護婦に対し,「気持ち悪い。息苦しい。トイレは済んだ
んだけど。」と訴えた。看護婦と付添の原告A2とが,Cをベッドへ移して,臥床
させたところ,Cは,「気持ち悪い。昨日より。」と申告し,血圧は100であり,
その後,急激にCの意識は低下し,眼球は一点を凝視し,呼吸も停止し,心停
止状態に陥った。被告病院においては,ただちに,医師,看護婦らが,蘇生処
置の一環として中心静脈を確保し,そこから急速輸液を行うなど,Cに対し,
人工換気,体外心マッサージの他諸々の心肺蘇生を行なったが,蘇生するこ
となく,体の痙攣が生じたりした他,血圧の測定も不可能となり,瞳孔散大が
生じ,対光反射がなくなり,心拍もなくなるなどした後,同日午後2時10分Cの
死亡が確認された。なお,G医師が到着したのは同日午前8時10分過ぎころ
である。Cの容態急変後,胸部XP検査が行われたほか,容態の急変から,頭
蓋内の病変が生じたことが疑われたため,緊急で頭部のCT検査が行われた
が,出血病巣は認められず,脳内出血の可能性は否定された。心肺蘇生後
である措置開始後である同日午前11時にドレーンから出血があったが,それ
までは出血はなく,心電図モニターは急変前までは異常はなかったが,呼吸
停止後には徐脈を呈していた。Cの容態が急変した後に行われた同日午前8
時25分時点での動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は6.981,PO2値
は10.4,PCO2値は92.8,O2SAT値は7.3であり,同日午前9時時点で
の動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は7.090,PO2値は372.7,P
CO2値は92.6,O2SAT値は98.6であり,同日午前11時20分時点での
動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は7.282,PO2値は353.1,PCO
2値は52.2,O2SAT値は99.2であり,Cのヘモグロビン値は,急変直後
である同日午前8時25分時点での1度目の測定値が11.6,2度目の測定
値が10.7,3度目が9.7であった。
  (10) Cの輸液(点滴)及び胃チューブ,腹部ドレーンなどからの排液量の詳細は
別紙「輸液・排液一覧表」記載のとおりである。なお,被告病院においては,輸
液については通常当日午前8時から翌日午前8時までの量をいうが,平成5
年11月5日は,本件手術終了して帰室した午後5時15分からの計測であり,
排液については,通常前日の午後3時から当日の午後3時までの量をいう
が,平成5年11月5日は,本件手術が終了して帰室した午後5時15分から
の計測である。胃チューブからの排液及び尿は,いずれもビニールパックに
貯められるため,量の読取誤差が不可避である。平成5年11月7日午前9時
30分以降は,Cは,ポータブルトイレに排尿していた。
  (11) G医師は,Cの死亡確認後,原告A2に対し,Cの死因及び死因解明のため
の解剖の有用性に関し,手術前リスクはなく,手術時も順調であり,手術後2
日目までは問題なく推移し,手術後2日目に立ちくらみがあったが,明らかな
異常とは判断できず,急変時までは特に異常は認められなかった,急変時の
状況からみて,原因疾患としては,脳梗塞が最も考えられ,次に心筋梗塞,肺
梗塞の順に考えられるが,確たる証拠はなく,原因を追及するするなら,解剖
を勧めるが,それでも100パーセント死因が解明できるとは断言できない,被
告病院側としても,患者から教えて貰いたいこともあり,Cの死因について診
断を得たいと考えるのならば,解剖する方がよいが,遺族の希望が大事なの
で,遺族の判断に従うので,説明に納得できないのであれば,解剖する方が
よく,説明を了解してもらえるのであれば,帰宅いただこうと思う旨説明した。
原告A2は,Cの解剖の要否について,原告A1と電話で相談した結果,解剖
をする必要はないものと判断し,G医師にその旨回答し,Cの遺体を引き取っ
て被告病院を後にした。G医師は,同日,死亡診断書には,Cの死亡の原因と
して,直接死因として脳梗塞を,脳梗塞の原因は不詳である旨記載し,カルテ
の外科病歴総括として,入院中合併症として,脳梗塞又は肺塞栓を記載し
た。
  (12) 原告A1及び同A2は,本件訴訟提起に先立ち,平成6年6月30日,当裁判
所に,被告を相手方として,Cの診療録,レントゲン写真,各種検査表,看護
記録その他診療上作成された資料の形状,内容の検証を求める証拠保全の
申立及び検証物の提示を求める提示命令の申立(当裁判所平成6年(モ)第1
07号証拠保全申立事件)をし,当裁判所は,平成6年7月11日,被告病院に
おいて,Cの診療録,レントゲン写真,各種検査結果票,看護記録その他診
療に関し作成された一切の文書又は写真等の記録を検証する旨の証拠保全
決定及び相手方は検証物を提示せよとの提示命令を行い,同月21日,被告
病院において,前記決定にかかる検証物についての検証が行われたところ,
その際,Cの診療においてなされた心電図検査の結果の記録として被告が所
持していたのは,Cの外来受診時において行われた際の心電図の記録のみ
であり,これのみが検証の対象となった。
  (13) Cが罹患していた早期胃ガンは,本件手術時点においては,手術をした場合
の術後の相対5年生存率は統計的に100パーセントであって,良好な予後を
期待できるものであったが,放置をすれば,確実に死に至る病であり,Cにつ
いては,前記本件手術の医学的適応があった。なお,早期胃ガンの中でも,
長径5ミリメートル以下の微少胃ガンのうち病変の範囲が広がりの浅い(概ね
ガンの深さが粘膜内にとどまっているもの),リンパ節転移のないものについ
ては,内視鏡的粘膜切除術によっても高い治癒率が得られるようになってき
ているとする医学的知見がある(なお,早期胃ガンにしめる微少胃ガンの発生
頻度は,内視鏡の進歩に伴い高まる傾向にあるが,知見が前提とする資料を
前提にして,2.4パーセント程度にとどまるものである。)が,前記認定のとお
り,Cは,早期胃ガンに罹患していたものであったが,微少胃ガンではなかっ
た。
  (14)① 一般に胃ガン摘出術施行後の合併症及び死因としては,肺塞栓,気管支
喘息発作,多量出血,術後感染症(敗血症),腸閉塞,虚血性心不全ない
し心筋梗塞,頭蓋内血管障害,胸部大動脈瘤破裂による心嚢血腫ないし
胸腔内出血,無気肺,嘔吐による気道閉塞などがあげられ,そのうち,肺
塞栓が先ずもって考慮されるべき疾病であるが,前記認定の臨床経過等
に照らし,Cの死因として,肺塞栓以外の死因の可能性は否定される。
   ② 肺塞栓は,静脈系に発生した血栓が遊離し,肺血管床で捕捉され,それが
肺のフィルター機能の生理的範疇を逸脱し,種々の症状を呈するに至った
ものをいい,本件で問題となるのは,急激な発症・経過を辿る急性肺血栓
塞栓症である。血栓の起源はそのほとんどが下肢,骨盤腔の深部静脈で
あり,特に,下肢の深部静脈血栓症の存在は,血栓が肺に至って肺塞栓を
起こす危険性が高く,肺塞栓の危険因子として最も可能性が高いものであ
るが,皮膚に近い静脈にできる血栓あるいは静脈瘤が肺塞栓を引き起こす
可能性は極めて低い。静脈血栓の誘発因子としては,(数日以上の)長期
臥床,うっ血性心不全,長時間の飛行機搭乗,肥満,妊娠などによる血流
停滞,静脈炎,外傷,手術,各種カテーテル検査による静脈壁異常,プロテ
インC減少症,プロテインS減少症,AT-3減少症,ループアンチコアグラ
ント陽性,外傷,手術,悪性疾患,経口避妊薬,エストロゲン製剤,脱水,
多血症,ネフローゼ症候群などによる血液凝固能亢進が挙げられる。急性
の肺塞栓は,長期臥床を伴う入院中の患者に発症することが多く,手術,
血管カテーテル検査などの観血的処置後の症例の割合が高く,たとえば,
手術後初めての歩行練習,とりわけ排尿・排便動作など体を動かすときに
起きる場合があり,肥満,高齢者,ガン患者,腹腔鏡手術患者について,危
険性があるとされる。術後に肺塞栓を起こす危険因子としては,前記の深
部静脈血栓症以外に,ガン,肥満,長期間(数日以上)動かない状態,ホル
モン療法,ループアンチコアグラントの存在,遺伝性凝固異常疾患などが
あるが,Cについて,これらの危険因子に当てはまるものは認められない。
なお,Cは,ガンに罹患していたが,本件のように極めて早期の胃ガンの場
合に肺塞栓が術後に発症することの危険性が特に高くなることを示す判断
材料はなく,また,そのためにことさらに予防処置を講ずることは一般には
ない。手術後の患者が肺塞栓を発症する機序は,概ね,術前後の安静に
よって形成された下肢の静脈中の血栓が,体動などの何等かのきっかけに
よって剥がれて遊離し,静脈血の流れに乗って,大腿静脈ついで下大静脈
から右心系を通過して最初の細くなる血管である肺動脈に達して詰まると
いうものであり,肺で酸素の供給を受ける肺動脈が詰まることによって肺内
の血液循環が疎外され,急激に低酸素となり,呼吸不全の状態に陥り,動
脈中の酸素分圧が低くなるのみならず,それを補うために過換気となり,動
脈中の炭酸ガス分圧が低下して,呼吸アルカローシスとなるのが特徴であ
り,急激に右心系に負担がかかり心電図で特徴的な右心負荷所見が現れ
るのが特徴である。急性の肺塞栓の問題点として,この疾患が肺梗塞,急
性肺性心,説明不能の呼吸困難というような非特異的臨床像を呈すること
から,診断が容易ではなく,これに由来して死亡率が高くなる危険性が指
摘されている。また,肺塞栓の原因疾患となる深部静脈血栓症について
も,腫脹を起こしたそれを別にして,臨床的にサイレントな深部静脈血栓症
の診断は必ずしも容易ではなく,サイレントなものほど急性肺塞栓を起こす
頻度が高いとする医学的知見もある。なお,表在静脈瘤の存在と深部静脈
血栓症の存在との間には医学的に有意な関連性はない。急性の致死性肺
塞栓(肺塞栓の発症即死亡する症例及び発症とともに循環虚脱・意識不明
となりそのまま数日間生存するが回復の兆しを認めず死亡する症例)は,
発症から診断までの時間が十分与えられず,そのため多くは診断名不明
のまま剖検で初めて発見されることが多く,その発症率は,我が国におい
ては,確たる統計的資料がなく,医学的知見によれば,欧米より低い頻度
の発症率とされてきたが,最近では,増加傾向がある,あるいは,欧米に近
い割合で発症する可能性が高いとされるようになってきている。肺塞栓の
診断の方法は,臨床症状,所見,血液生化学・凝血学的検査,動脈血ガス
分析,胸部X線,心電図,肺シンチグラム,心エコー,下肢静脈エコー,造
影CT,MRA,肺動脈造影などを利用することが挙げられるが,急性肺塞
栓については,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全,肺炎,気管支喘息,胸
膜炎,神経症との鑑別が重要であり,肺塞栓の発症を疑わなければ,極め
て診断が難しい疾患とされる。
   ③ 肺塞栓に有効な治療法としては,酸素吸入,昇圧薬,鎮静薬等によって,対
症的に低酸素血症,ショック,胸痛などを治療するとともに,抗凝固療法
(例:ヘパリン5000単位を静注で与え,その後1日量1万ないし2万単位を
3日間ないし7日間持続点滴で与え,その後,ワーファリンに切り替え
る。),血栓溶解療法(例:ウロキナーゼを1日量体重1キログラムあたり1
万単位を5日間ないし7日間持続点滴静注する。他に,t-PA静注法,カテ
ーテル吸引法などがある。)を行うことが挙げられ,急性肺塞栓であっても,
早期診断・血栓溶解療法等による早期治療がなされた場合には,数多くの
改善例が示されているが,ウロキナーゼは肺塞栓について保険適用が認
められていないから,第1義的には,ヘパリンの投与を優先するものとされ
る。ただ,ヘパリンは血液凝固阻止剤,ウロキナーゼは血栓溶解剤であっ
て,いずれも出血している患者,手術後の患者など出血する可能性のある
患者に対しては,禁忌あるいは慎重投与とされている。また,深部静脈血
栓症が診断された場合には,下大静脈フィルターを留置して,血栓が肺へ
飛ぶことを予め防止する方法もある。心肺停止あるいはそれに近い重症の
肺塞栓については,抗凝固療法,血栓溶解療法のみでは,救命効果を期
待できない場合が多く,出血などの血栓溶解療法の副作用の問題がありこ
れが禁忌なものについては,直ちに救命措置を施す必要があるとともに,
肺動脈血栓摘除術の医学的適応が認められる場合もあるが,心肺停止が
あった場合には,無かった場合に比べ,致死率は高率となり,診断即手術
を行う以外方法はないとする医学的知見もある。したがって,特に致死性
急性肺塞栓の発症の防止においては,血栓の発生の予防が重要である。
手術後の肺塞栓の予防法としては,手術後比較的早い時期に排尿などで
ベッドで降りるように指導する,手術後なるべく早く歩行練習をするなど早
期リハビリをする,手術中や手術後に足のマッサージ機を使用する,入院
中の頻回の体位変換,受動的及び他動的な下肢の運動,弾力包帯ストッ
キングの着用により,下腿の静脈血流をよくして血栓を押さえる,危険性が
高いグループについて下肢を一定時間毎に縛って血流のうっ滞を防ぐ,手
術前に安静を避ける,極端な肥満など危険の高い患者については予め薬
剤で血栓を防ぐ,すなわち,低用量ヘパリン療法(5000単位のヘパリンを
8時間毎あるいは12時間毎に皮下注射する。),低用量ワーファリン療法
(1日1ないし2ミリグラムのワーファリンを内服で与える。)などの方法を行
うことが挙げられ,特に,深部静脈血栓症の予防が重要である。平成12年
9月30日に公刊された医学文献(甲24)に記載された医学的知見におい
て,1996年に公刊された欧米の文献を引用して,急性肺塞栓・致死性急
性肺塞栓の発症頻度が高いことが知られる欧米では,静脈血栓塞栓症の
リスク分類と推奨される予防法に関するマニュアルが示され,これによれ
ば,40歳を超える患者の一般手術は,致死的肺塞栓が0.2ないし0.5パ
ーセントで発症する危険性のある中等度リスクの血栓症イベントに分類さ
れ,予防法として,低用量ヘパリン(1日2回5000U)又はエアー式間欠的
圧迫法が挙げられていることが紹介され,我が国においても,日本人の血
液凝固性に配慮した予防マニュアルの構築が必要と考えられると指摘さ
れ,臨床現場で,患者に対する早期離床の目的の十分な説明,ベッド上で
の下肢の運動の奨励,自発運動ができるまでの看護婦による腓腹部の定
期的なマッサージの励行,凝固異常症に対する1日2回の3000ないし40
00単位程度のヘパリンの皮下注射の実施が行われている実例が紹介さ
れている。これらの予防法は近年では一般的となりつつあるが,平成5年
当時においては,術後の肺梗塞の発症の危険性が高いと思われる症例に
ついて,術後の早期にヘパリンを1日量として3000単位から5000単位持
続注入することで新たな血栓の形成を予防することが行われていたもの
の,危険性が必ずしも高くない症例については,余り行われていなかった。
   ④ 平成11年ころから,マスコミなどにおいて,手術後の突然死として,肺塞栓
が原因となった可能性がある事例が紹介されるようになり,血栓の予防薬
(ウロキナーゼ)について保険の適用が認められていないことなどにより,
医療側に予防意識が低い傾向にあるが,認識を改める必要がある旨指摘
されるようになってきている。
  (15) PO2の値は,一般的に年齢とともに低下するものといわれ,(100-0.4×
年齢)がその通常値を示すとする医学的知見もあり,これによれば,Cの年齢
の患者のPO2の通常値は100-0.4×58=76.8となり,PO2=102-
0.33×年齢±+3.3が正常値の平均値となるという医学的知見もあり,こ
れによれば,Cの年齢の患者PO2値は102-0.33×58±+3.3=86.
16~79.56となる。低酸素血症の原因疾患としては,別紙「低PO2を起こ
す疾患」と題する書面記載のごとき疾患が挙げられるが,手術後に認められ
る低酸素血症を術後低酸素血症といい,その原因には,麻酔によるもの,手
術に関したものがあり,手術後の疼痛もその原因の一つであり,術後の疼痛
には早期に十分に対応し,低酸素血症が生じたのであれば,酸素吸入を行
い,動脈血ガス分析を行い,適正な酸素分圧が保たれるまで動脈血ガス分析
値を参考にして吸入酸素濃度調節すべきものとされる。平成5年11月6日に
施行された動脈血ガス分析の結果明らかになったPO2値の59.0という値
は,低めではあるが,手術翌日の値としては,異常ではないものの,本件の
場合も酸素投与を行い吸気酸素濃度を上げることで動脈中酸素分圧を一定
以上に保ち,手術後のPO2値としては,少なくとも60以上を保つ必要があ
り,適正な酸素分圧が保たれるまで動脈血ガス分析を参考にして吸入酸素濃
度を調節する必要があるが,その後毎分2リットルの酸素が投与されていた
のであれば,致命的なことは起こりえないものである。
 2 争点(1)(Cの死因)について
(1) 前記第3の1(14)①認定のとおり,Cの死因として,肺塞栓以外の死因の可
能性は否定されること,肺塞栓は,術後の急性死亡の原因として先ず考慮す
べき疾患であること,前記第3の1(14)②認定のとおり,急性の肺塞栓は,術
後の安静後に排尿動作などで初めて体を動かすときに発症する割合が高い
ことが知られており,Cが手術後3日目である平成5年11月8日の午前7時5
0分に排尿動作を行った後に容態が急変した臨床経過は,これに整合するこ
とからすると,Cの死因は,急性の肺塞栓によるものと認めるのが相当であ
る。そして,術後の肺塞栓においては,動き始めに血栓が飛ぶのが通常であ
ることからすると,その発症時期は,ポータブルトイレで排尿をすませた際に
チアノーゼが生じ,Cの容態が急変した平成5年11月8日午前7時50分と認
めるのが相当であって,それ以前に,肺塞栓が発症したことを認めるに足りる
確たる証拠はない。
(2) なお,鑑定人Iの鑑定結果は,Cの死因が急性肺塞栓であるとすれば,その
急激な経過からいってかなりの広い範囲か太い血管が詰まったと考えられる
ため,動脈中の酸素分圧のみならず炭酸ガス分圧が低下する,右心系に負
担がかかり心電図で特徴的な右心負荷所見が現れるなどの肺塞栓に特徴的
な所見が必ず現れるといってよいが,それを指示する所見は認められないこ
と,肺塞栓を起こす危険因子がいずれも認められないことから,肺塞栓を死
因として特定することはできないとするが,前記認定のとおり,肺塞栓以外の
他の死因の可能性が否定されていること,急性の肺塞栓は,術後の安静後
に排尿動作などで初めて体を動かすときに発症する割合が高いことが知られ
ており,Cが手術後3日目である平成5年11月8日の午前7時50分に排尿動
作を行った後に容態が急変した臨床経過は,これに整合すること,急性の肺
塞栓の鑑別診断は,必ずしも容易ではなく,急性の致死性肺塞栓は,臨床経
過によっては,診断名不明のまま,剖検によって初めて発見されることが多い
ことなどからすると,Cの死因を不明とするのは相当ではなく,訴訟上の事実
認定としては,前記のとおり,Cの死因は急性の肺塞栓によるものと特定する
のが相当である。
 3 争点(2)(Cの死亡についての被告の責任の有無)について
(1)① 前記第3の1において認定したCの年齢,体格,罹患していた疾病,臨床
経過等に照らせば,Cについて,前記第3の1(14)②記載の術後に肺塞栓,
ないし,深部静脈血栓症を引き起こす危険因子があったものとは認められ
ないから,具体的に肺塞栓の発症の予見可能性があったものとは言い難
く,前記第3の1(14)③認定のとおり,かかる危険因子が認められない患者
について,前記第3の1(14)③認定の術後の肺塞栓の発症の予防法を行う
ことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措置とは言い難
かったものであり,被告において,Cについて,急性肺塞栓の発症を疑い,
前記第3の1(14)③認定の術後の肺塞栓の発症の予防法を行うべき債務
ないし義務が課されていたものと認めることはできない。
② Cが本件手術を受けた平成5年当時においても,術後の肺梗塞の発症の
危険性が高いと思われる症例では,術後の早期にヘパリンを1日量として
3000単位から5000単位持続注入することで新たな血栓の形成を予防す
ることは行われており,仮にこれが行われておれば,血栓の発生が予防さ
れ,Cについて,急性肺塞栓の発症を防止できた可能性は否定できない。
そして,平成5年当時においても,術後の肺塞栓による突然死の問題は医
学的知見として知られていたこと,本件手術で治療の対象となったCの疾
患については良好な予後が期待できたことも踏まえれば,予想もしなかっ
た容態の急変によりCを失った原告らが,地域の基幹病院である被告病院
におけるCの救命の可能性を指摘する問題意識は理解できないではない。
前記第3の1(14)④認定のとおり,近時マスコミなどにおいて,手術後の突
然死の原因疾患としての肺塞栓の問題が取り上げられているのも,同様の
問題意識を背景とするものといえ,かかる問題意識を背景に,医療現場に
おいても,手術後の肺塞栓の発症の予防に関する医療措置が手厚くなりつ
つあることが認められる。しかしながら,術後の肺塞栓,ないし,深部静脈
血栓症の危険因子が認められない患者について,術後の肺塞栓の発症の
予防法を行うことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措
置とは言い難かったものである。
③ 原告らの主張には,被告が,手術後3日目から,Cに対し,ポータブルトイ
レでの排尿を指示したことを論難する部分もあるが,前記第3の1(14)③認
定のとおり,術後早期に体を動かすことは,肺塞栓の原因となる血栓の発
生を予防するという医学的側面があるものである。
④ 原告らは,平成5年11月7日には,Cは,めまい,吐き気を訴えていたほ
か,顕著な血圧低下がみられていたのに,適切な対応をとらなかった旨主
張するが,同日Cに認められためまい,ふらつき感,吐き気,血圧低下はレ
ペタンの副作用と認められるところ,前記認定のとおり,同日午後10時15
分,G医師が,看護婦からの報告を受け,臨床経過を確認した上で,レペタ
ンの投与の中止の措置をとっており,適切な対応をとっていなかったとする
指摘は当たらないものである。
(2) 前記第3の1(9)認定の急変後の心肺停止を伴う臨床経過に照らせば,Cが
発症した急性肺塞栓は,かなり重症で大きな梗塞であったことはあきらかであ
り,抗凝固療法,血栓溶解療法のみでは,救命効果を期待できないこと,手
術後3日目ということもあり,出血などの副作用の懸念からこれらの治療法が
適切でない可能性も否定できないこと,本件の臨床経過からは,肺梗塞との
確定診断が極めて困難であったこと(このことは,本件でCの死因が主たる争
点となり,2度にわたり医師による鑑定がなされているにもかかわらず,死因
を断定する鑑定結果がないことからも明らかである。),心肺停止を伴う急性
肺塞栓については致死率が高いとされていることからすると,Cが発症した急
性肺塞栓は極めて致死率の高いものであり,救命可能性は無かったものと認
めるのが相当である。
(3) 原告らは,平成5年11月6日に行われた動脈血ガス分析の結果明らかとな
ったPO2値の低値に示される低酸素血症について,動脈血ガス分析を繰り
返す,パルスオキシメーターを装着する等の方法によって,低酸素血症の原
因究明,迅速な対応を怠ったことにより,Cは肺塞栓に陥った旨主張するとこ
ろ,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに呼吸困難がなく,チ
アノーゼも認められず,症状,所見に変化がなかったこと,O2SATの値は正
常値であったこと,Cには,術前の検査で,軽度ではあるが慢性肺気腫による
ものと推測される閉塞性換気障害が認められていたこと,臨床的に,術後に
は創痛や臥床の継続などで換気不十分となることは珍しくなく,平成5年11
月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになった低酸素状態は,室内気のもと
での術後第1日目のものとしては,よくみられるものであることからすると,低
酸素状態の原因は,閉塞性換気障害及び術後の換気不十分によるものと認
めるのが相当であり,そのように判断したG医師が原因究明を怠ったものとは
言い難いし,前記第3の1(6)⑥,(7)⑧,(8)③認定のとおり,その後,Cに対し,
継続的に酸素投与がなされていたことからすると,仮にその後の動脈血ガス
分析の実施によって,酸素分圧の改善が確認されなかったとしても,前記第3
の1(15)認定のとおり,致命的なことは起こりえないものである。そして,平成5
年11月6日時点の動脈血ガス分析の結果から,その時点で血栓が生じてい
た,あるいは,肺塞栓が生じていたものと判断する医学的根拠はない。
 4 争点(3)(説明義務違反ないし死因解明義務違反の有無)について
  (1) 説明義務違反について
 Cが罹患していた疾患の内容,これに対してなされた本件手術の内容,本件
手術に先立ってCに対してなされた本件手術に関する説明の内容,Cがなし
た本件手術に関する同意の内容,本件手術後に本件手術の結果についてな
された説明の内容は,前記第2の1(8),前記第3(2)②及び④,同(3)⑤及び
⑦,同(4)記載のとおりであって,Cは,罹患している疾病の内容,本件手術に
関する十分な説明の下に,本件手術について同意をなしたものと認めるのが
相当であり,本件手術の主眼がガンの切除にあることからすると,手術前の
諸検査によって判明せず,手術後の開腹所見によって初めて明らかとなった
胆嚢底部の硬結について,胆嚢摘出術を併せて施行したことは,Cの合理的
意思に合致し,本件手術に関する同意の範囲内に属するものであるととも
に,医師の合理的な裁量の範囲内の行為と認めるのが相当である。確かに,
本件手術前に,前記第3の1(14)①認定の疾病が胃ガン摘出術施行後の合
併症及び死因として挙げられることが説明されたことを認めるに足りる証拠は
ないが,Cの罹患していた疾病の内容・程度からすれば,その説明がなされた
からといって,Cが本件手術に同意をしなかったものと認めるのは困難であ
る。
(2) 死因解明義務違反について
 Cが死因解明のための解剖がなされることなく荼毘に付された経過は,前記
第3の1(11)認定のとおりであり,G医師からの死因を解明する方法として解
剖をする方法があるとの示唆に対し,原告らが,Cの解剖の要否について,原
告A2及び原告A1が相談した上で,解剖を希望しない旨回答した結果,Cの
解剖がなされなかったことは明らかであって,このように原告ら自身の判断の
結果について,被告を論難するのは当を得ないものである。
 5 なお,原告らは,心電図データについて,文書提出命令の申立(平成9年(モ)第
74号)を行っているが,前記認定のとおり,被告病院においては,平成5年10
月18日以外に行われた心電図検査の結果は,記録紙には残さなかったものと
認められ,文書提出命令にかかる書証が存在しないことは明らかであるから,こ
れを却下することとする。
 6 よって,その余について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がないか
ら,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
宇都宮地方裁判所足利支部
裁 判 官   藤井聖悟

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