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平成14年(ネ)第3649号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判
所平成11年(ワ)第12586号〔甲事件〕、平成13年(ワ)第3381号〔乙事
件〕)
判決
控訴人(1審被告)   日本食研株式会社
(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士   平野和宏
補佐人弁理士   大西正夫
被控訴人(1審甲事件原告)   日本繊食有限会社
(以下「原告会社」という。)
被控訴人(1審乙事件原告)   B
(以下「原告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士   小林淳郎
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、被告(控訴人)の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、被告(控訴人)敗訴部分を取り消す。
2 原告ら(被控訴人ら)の被告(控訴人)に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、1、2審とも原告ら(被控訴人ら)の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、「筋組織状こんにゃくの製造方法及びそれに用いる製造装置」の特
許発明に係る特許権及び「表面筋状薄肉こんにゃく」の考案に係る実用新案権の各
権利者である原告B及び各専用実施権者である原告会社が、被告及びやまと食品工
業株式会社(以下「やまと食品」という。)に対し、主位的には、被告らの製造、
販売するこんにゃくは、上記特許発明の技術的範囲に属する製造方法等を使用して
製造されたものであることを理由とし、予備的には、同こんにゃくは上記考案の技
術的範囲に属することを理由として、その製造等の差止め等と損害賠償及び不当利
得返還(仮保護の権利に基づくものを含む。)を請求した事案である。
 原審は、原告らの請求につき、それぞれその一部を認容したので、これを不
服として被告が控訴を提起した(なお、やまと食品との関係では、やまと食品が控
訴を提起しなかったため、原判決どおり確定した。)。
2 争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付
加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1及び
2並びに「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを
引用する(ただし、原判決を引用した部分中、「別紙」とあるのを「原判決別紙」
と、「被告日本食研」とあるのを「被告」と、「被告やまと」とあるのを「やまと
食品」と、「被告ら」とあるのを「被告」と、それぞれ読み替える。)。
(1) 6頁10行目の「OEM生産」の次に「(被告が販売することを前提に、
被告の製品であることを示す包装表示を付して商品として完成させ、それを被告に
販売するもの。弁論の全趣旨)」を加え、同15行目及び同16行目、同17行目
の「及び別紙第2製品目録」並びに同21行目の「及び「寄せ鍋糸こんにゃく」を
除く別紙第2製品目録」をいずれも削る。
(2) 9頁19行目の「明白な無効理由」の次に「・新規性及び進歩性の欠如と
要旨変更」を、同22行目末尾の次に改行の上、「(7) 差止め等の必要性」を各加
える。
(3) 11頁15行目の「述べている」を「述べており、また、本件考案に係る
こんにゃくが「引例のこんにゃくでは得られない均一な薄肉製品」である旨の記載
もある」と、同20行目の「扁平は」を「扁平な」と各改め、12頁2行目末尾の
次に「そして、その明細書には、「押し出されるこんにゃく原料は断面で2等辺3
角形の各頂点位置の小孔より柱状体となって出てくるが、出た瞬間に2等辺部分の
隣接する柱状体同志が付着する」こと(6欄12行~15行)及び「こんにゃくは
水分を与え、凝固剤を加えることにより著しく膨張しつつ凝固する性質があり、本
発明の絞り出しノズルはこの性質を利用して」いること(同欄21行~24行)が
記載されており、糸こんにゃくが圧力開放により外力を加えることなく一体化する
という、本件発明と同様の一体化の機構についての技術思想も開示されている。」
を加える。
(4) 13頁13行目末尾の次に「なお、バラス効果は、管の吐出口において生
じる粘弾性流体の流動挙動であり、圧力開放による膨張は吐出口において起こるも
のであるから、目皿からの吐出後0.5cm以上落下した時点以降は圧力開放によ
る膨張は起こらないことからすると、ロ号目皿を使用した場合、圧力開放による膨
張によって糸状こんにゃくのりが一体化するものではないことは明らかである。」
を加える。
(5) 17頁21行目の「欠如される」を「欠如する」と改める。
(6) 18頁25行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、次のとおり主張を敷衍する。
ア 本質的部分について
 本件発明とイ号方法・装置とでは、「多孔ノズル」という構成と「主
孔部分と連通孔部分とから成る連通孔付目皿」という構成、「(当初は分離した状
態の)糸状こんにゃくのり同志が…外力を加えることなく接して…一体化する」と
いう構成と「(糸状こんにゃくのりが)連通孔部分から吐出されたスリット状のこ
んにゃくのりによって繋がった状態で吐出される」という構成との差異があり、こ
れらの差異は、本件発明の本質的部分における差異である。
 なお、発明の本質的部分は、当該発明自体において定めるべきもので
あって、侵害物件との対比において定めるべきものではなく、特に作用効果につい
ては、異なる技術的思想に基づき作用効果を奏する場合もあり得るのであるから、
差異部分から顕著な作用効果の差異が生じないことをもって、それが発明の本質的
部分でないと判断するのは相当でない。
イ 置換可能性について
 イ号目皿と単独孔目皿によって製造されたこんにゃくには、引き延ば
し力や断面形状に差異があり、これによって、主孔のみから押し出す場合と比較し
て、こんにゃくのりの押出しが円滑になされ、押出し後のこんにゃくのりが一体化
不十分なために分離したり、こんにゃくを幅方向に切断しても長手方向に分離した
りなどすることがない等の本件発明には見られない作用効果を奏するのであるか
ら、本件発明とイ号方法・装置とでは、その作用効果に同一性はない。
ウ 置換容易性について
 イ号方法・装置は、連通孔を設けることによって、本件発明には見ら
れない作用効果を奏するから、当業者が容易に想到することができたものとはいえ
ない。
エ 禁反言の法理について
 本件特許の特許権者である原告Bは、本件実用新案権の出願手続にお
いて、乙3公報を引用例とする拒絶理由通知に対して、乙3公報のこんにゃくと本
件考案のこんにゃくとは内容が異なり、作用効果に顕著な差がある旨述べており、
初めから一本の凹凸のあるリボン状に押し出されて成形されるこんにゃくは、本件
考案の技術的範囲に属しないことを明言している。
 本件特許出願と本件実用新案権の登録出願は、別個の出願手続である
が、上記意見を述べた時点で本件発明と本件考案の出願人は同じ原告Bであり、同
人が上記意見書において公開特許公報に開示された本件発明の内容について記載し
ていることからすれば、本件発明についても、こんにゃくのりが初めから一本の凹
凸のあるリボン状に押し出されて成形されるような構成のものについては、その技
術的範囲から、少なくとも外形的に意識的に除外したと解される行動をとったもの
というべきである。」
(7) 21頁1行目と2行目との間に「(新規性又は進歩性の欠如)」との行を
挿入し、22頁3行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「(4) また、ハタノヤが請求した本件特許権及び本件実用新案権に係る各無
効審判事件(無効2002-35294及び無効2002-35295)におい
て、口頭審理及び証人尋問が行われ、次の点が明らかとなった。
ア カネマタ目皿は、上記各無効審判事件においてハタノヤが提出した
目皿(以下「検証目皿」という。)の交換用の目皿であり、いずれも、カネマタ食
品が松田機械工業株式会社(以下「松田機械」という。)から購入した、昭和56
年5月11日の4枚、同年9月2日の4枚、同年10月30日の3枚(合計11
枚)の「巣板」から、Cが製作したものである。
イ カネマタ食品は、検証目皿等を使ってしゃぶしゃぶ用こんにゃくを
製造したが、これは、目皿から押し出される糸状こんにゃくのりが膨張して隣接す
る糸状こんにゃくのりと接着することを利用したものであり、また、こんにゃくの
りが圧力開放によって膨張することは昭和56年以前から公知であった。
ウ 昭和56年当時カネマタ食品の営業を担当していたC(現専務取締
役)が「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」製造用の目皿を開発したのは、昭和55年に
株式会社川口屋スーパーチェンのDから新製品開発の話を持ちかけられたことが端
緒となったものであり、Cは、色々な目皿を試作し、その結果、昭和56年に検証
目皿を開発するに至ったものである。
エ カネマタ食品の旧工場は、昭和58年当時、第三者の出入りが制限
されていなかったもので、カネマタ食品と取引のある株式会社清水万蔵商店のE、
カネマタ食品に「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」の包材を納品した三星セロファン株
式会社のF、株式会社川口屋スーパーチェンの従業員、工場見学者等の守秘義務を
負わない者が実際に旧工場内に立ち入り「しゃぶしゃぶ用こんにゃく」及びその製
造状況やその製造に用いる目皿を目撃している。」
(8) 21頁18行目冒頭の「(2)」を「(3)」と、同21行目冒頭の「(3)」を
「(4)」と各改め、22頁23行目の「特許第1487034号」の次に「。甲7
2」を、23頁11行目末尾の次に改行の上、次のとおり、各加える。
「(4)ア 被告が当審で援用する前記各無効審判事件におけるハタノヤの主張
は、検証目皿等の目皿は、カネマタ食品が松田機械から購入した11枚の「巣板」
からCが製作したというものであるが、検証目皿等が、上記11枚の「巣板」から
製作されたものとは考えられない。すなわち、
(ア) 乙135の3(公正証書)の別紙1の松田機械のカネマタ食品
に対する売掛台帳には、次の事項が記載されている。
(昭和56年)
 日付       品名       数量 売上金額
5月6日 スネークポンプ付大型連続機 1台 2,000,000
5月ll日 巣板      4枚  32,000
9月2日  巣板    4枚  32,000
10月9日 スネークポンプ付小型連続機1台 1,750,000
10月30日 巣板       3枚 24,000
(イ) 「巣板」という言葉は、孔の開いた状態の板を指し、孔の開い
た板(目皿)を簀板(すいた)とも呼ぶところ、Cも、「機械を買うと目皿は付い
てくる」、「孔の開いたものが巣板である」旨の供述をしている。他方、前記売掛
台帳には「砲金切板」又はムクの板であるとの記載は全くない。また、上記公正証
書中には松田のカタログが添付されず、白銅株式会社(東京都中央区所在)のカタ
ログ(別紙4)が添付されているから、そもそも、松田機械は「砲金切板」を製造
していないものと推測される。
(ウ) 以上によれば、カネマタ食品は、昭和56年の、5月6日に大
型連続機を買った数日後の同月ll日に巣板4枚を買い、さらに10月9日に小型
連続機を買い、同月30日に巣板3枚を買っているところ、これら7枚の巣板は、
既に孔の開いた目皿であったことが明白である(なお、9月2日の4枚の巣板は、
5月6日購入の大型連続機の目皿の予備として購入したとも、又はそれより以前に
購入した機械のために目皿を追加購入したとも考えられる。)。
イ また、次の事情からしても、カネマタ食品が、本件特許出願前にこ
んにゃく製造に検証目皿等を使用していたとは考えがたい。
(ア) 被告は、原審において、本件特許出願前の公然実施に係る証拠
であるとして、カネマタ食品が製作したと主張するカネマタ目皿の写真(乙30)
を提出し、その後、昭和61年ころから目皿の孔を大きくしたものであるとして、
乙47の目皿の写真を提出した。
(イ) 被告は、上記乙47提出の当初、同目皿には、スリット(連通
孔)が入っていないと主張していたが、後に、同目皿にはスリット(連通孔)が入
っていることが明らかとなった。
(ウ) Cは、乙56の陳述書中で、孔を大きくしたのは、こんにゃく
のりが詰まるからであると述べているが、そうであれば、孔を大きくすれば足りる
もので、わざわざスリットを入れる必要はない。また、孔を大きくした時期は、昭
和61年ころではなく平成7年ころであると考えられる。けだし、本件特許の出願
公告日は平成6年5月18日であり、本件実用新案の出願公告日は平成7年2月1
日であるところ、単独孔目皿を製造、販売していたハタノヤは平成7年2月に単独
孔目皿の製造をやめて、同年3月ころからスリットの入った連通孔付目皿の製造に
切り替えたところ、こんにゃく業界の情報の伝播の速度からして、カネマタ食品も
また、ハタノヤ等の動きを知って直ちに単独孔目皿(検証目皿及びカネマタ目皿)
をスリット(連通孔)付目皿(乙47)に切り替えたものと考えられるからであ
る。
(エ) そして、被告が、いったん乙47の目皿の写真を提出しなが
ら、その後、同目皿について全く言及していないこと(ハタノヤも同様で、特許庁
に検証目皿の外、乙135の4の1~7及び乙135の5の合計9枚の目皿を提出
しながら、乙47の目皿は提出していない。)も、カネマタ食品が本件特許出願前
に単独孔目皿を使用していなかったことを推認せしめる事情ということができる。
  (要旨変更・当審における新主張)
〔被告の主張〕
 本件発明の出願当初の明細書(乙121)においては、特許請求の範囲
に「こんにゃくのりをノズル押出し直後の成形体間のすき間を小さくした多孔のノ
ズルで押出して糸状こんにゃく同志がゲル化前の短時間のうちに接するように」な
る構成が記載されていたが、平成5年11月12日付手続補正書(乙122)によ
り、「押出し直後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸状こんにゃく
のり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接するように」とされ
た。
 しかし、「糸状こんにゃく」と「糸状こんにゃくのり」とは異なるもの
であり、上記出願当初の明細書には、「押出し後の糸状こんにゃくのりの一体化」
について記載されていないから、上記補正は要旨の変更に当たる。
 そうすると、本件特許の出願日は平成5年11月12日となり、本件発
明に係る公開特許公報(乙123)に記載された発明により、本件発明は進歩性を
欠如し無効であることが明らかである。
 したがって、本件特許権には明らかな無効理由(進歩性の欠如)が存す
るから、本件特許権に基づく請求は権利濫用に当たり許されない。
〔原告らの主張〕
 被告主張の補正は、ノズルから押し出された直後の一体化する前のこん
にゃく原料の状態を、「こんにゃく」と記載していたものを、より正確に表現する
趣旨で「こんにゃくのり」との記載に変更したものであるから、これらの記載の補
正によって当該記載部分が示す技術内容が変わるものではない。
 なお、当業界においては特に必要がなければ「こんにゃく」と「こんに
ゃくのり」の用語を区別せずに用いているのが実情であり、オリヒロの平成7年出
願に係る「こんにゃく成形用目皿」の登録実用新案公報(第3015566号。甲
163)にも、請求項1「こんにゃくが押し出される孔が形成された押出し部を有
するこんにゃく成形用目皿において、…」、【0002】【従来の技術】「従来、
糸状こんにゃくを製造するには押出し装置を用い、押出し装置で混練されたこんに
ゃくのりを、孔が形成された目皿を通して温水中に押し出ている。この目皿の孔の
形状を変えることで、任意の断面形状のこんにゃくを押し出し成形することができ
る」、【0004】「…こんにゃくは押出し直後の圧力の開放により膨張する。」
との記載があるし、ハタノヤの「多条蒟蒻」の登録実用新案公報(第301555
0号。甲54)の10頁にも、「【実施例3】…多条蒟蒻10は千鳥配列の糸状蒟
蒻2と連結蒟蒻4とを一体に連結された状態で押し出して、…。この場合は…、そ
の小孔1と薄い連通路3とから蒟蒻糊を押し出して成形する。」との記載があ
る。」
(9) 23頁18行目及び同20行目の各「連通孔付き目皿」をいずれも「連通
孔付目皿」と、同21行目から22行目にかけての「いずれも目皿の製造業者では
なく、被告日本食研はこんにゃくの製造業者でもない」を「目皿やこんにゃくの製
造業者ではない」と、同24行目の「少なくとも、」から24頁1行目末尾までを
「過失の推定規定は適用されないし、また、原告会社の被告に対する警告も、権利
者側の一方的な主張にすぎない上、最高裁判所が平成10年2月24日に均等論の
適用のための5要件を示す前になされたものであって、均等論が適用される事案で
あることや、何が均等論の適用要件であり、イ号製品の販売が当該要件を充足する
ということについて何ら明らかにされていないのであるから、少なくとも、イ号方
法・装置の使用又はイ号こんにゃくの製造・販売が本件特許権又は本件実用新案権
を侵害することについて、目皿やこんにゃくの製造業者ではない被告に過失がある
とはいえない。」と各改める。
(10) 24頁7行目から8行目にかけての「いずれも目皿の製造業者ではない
し、被告日本食研はこんにゃくの製造業者でもない」を「目皿やこんにゃくの製造
業者ではない」と、同11行目及び同15行目の各「連通孔付き目皿」をいずれも
「連通孔付目皿」と各改める。
(11) 24頁末行から25頁1行目にかけての「負う」の次に「(被告サラダ
製品の製造、販売については、被告及びやまと食品は共同不法行為責任を負
う。)」を加え、同行目の「別紙第1製品目録」から同2行目の「負う。」までを
削り、同26頁1行目及び同4行目の各「被告ら」をいずれも「被告及びやまと食
品」と改める。
(12) 27頁4行目から29頁1行目までを削り、同2行目冒頭の「エ」を
「イ」と、同6行目冒頭の「オ」を「ウ」と、同12行目の「請求第5項」を「原
判決「第1 請求」第5項」と、同17行目から18行目にかけての「請求第6
項」を「原判決「第1 請求」第6項」と各改め、同19行目から同末行までを削
る。
(13) 30頁13行目から31頁16行目までを削り、同17行目冒頭の
「エ」を「イ」と、同18行目冒頭の「アないしウ」を「ア」と、同21行目の
「被告日本食研」から同22行目末尾までを「50万円が相当である。」と、同2
3行目冒頭の「オ」を「ウ」と各改め、同24行目冒頭の「(ア)」を削り、32頁
3行目の「請求第8項」を「原判決「第1 請求」第8項」と改め、同4行目から
同9行目までを削る。
(14) 33頁14行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 このことは、被告サラダ製品の平成13年9月ないし11月の売上高
(ただし、須藤食品製造分を含む。)と、被告が被告サラダ製品の販売中止後に海
藻やドレッシングをセットした「サラダセット」として販売している新商品「いき
いきサラダ 海藻とこんにゃくのサラダ」(以下「被告新製品」という)の平成1
4年9月ないし11月の売上高と対比すると、次のとおり、むしろ、被告新製品の
方が売上高が増加しており、こんにゃくの形状が売上に影響していないことからも
裏付けられるところである。
A:被告製品(平成13年)、B:被告新製品(平成14年)、売上
高比(B/A×100)
9月
A 426万2021円
B 503万3842円
        118.1%
10月
A 307万6309円
B 425万2149円
        138.2%
11月
A 217万0845円
B 279万3817円
        128.7%
合計
 950万9175円
1207万9808円
    127.0%」
(15) 33頁24行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、上記実施許諾契約においては、本件発明だけでなく本件考案の実
施許諾まで含んで3%の実施料率とされていることからすれば、仮に被告が実施料
相当額の損害賠償債務及び不当利得返還債務を負担するとしても、実施料率は3%
よりもさらに低いものとされなければならず、また、被告が販売する被告製品は、
こんにゃく単独で販売しているのではなく、海藻やドレッシングとセットして販売
するというセット販売企画のため、それにかかわる諸経費等に莫大な経費がかか
り、実際には純利益が出せない商品であることも斟酌されるべきである。
 また、不当利得返還請求においては、原告らが被告に実施許諾した場合
に得られるであろう実施料相当額が、原告らにとって損失であり、被告にとって利
得に当たると考えられる以上、実際になされた本件発明の実施許諾契約締結の申込
みにおける実施料率3%を大幅に上回るのは相当とはいえない。」
(16) 33頁25行目の「ア」から34頁6行目末尾まで及び同7行目冒頭の
「イ」をいずれも削り、同10行目及び同24行目の各「被告ら」をいずれも「被
告及びやまと食品」と、同末行の「請求第5項」を「原判決「第1 請求」第5
項」と各改める。
(17) 35頁10行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
 「7 争点(7)(差止め等請求の必要性)について
〔被告の主張〕
 被告は、イ号こんにゃくの販売をやめ、その在庫も有しておらず、現
在は、被告新製品を販売している。
 また、やまと食品は、平成14年7月には手形の不渡りを出し、銀行
取引停止処分を受け、倒産状態にあり、今後、被告がやまと食品が製造したイ号こ
んにゃく及びロ号こんにゃくを同社から購入して販売するおそれはない。
 なお、ロ号こんにゃくについては、やまと食品が平成7年3月9日こ
ろにイ号目皿を購入した後は、製造されておらず、在庫もない。
 したがって、仮に被告によるイ号こんにゃく及びロ号こんにゃくの販
売が本件特許権を侵害するとしても、原告会社の被告に対するイ号こんにゃく及び
ロ号こんにゃくの販売等の差止めや廃棄を認める必要性はない。
〔原告ら〕
 やまと食品が倒産状態にあったとしても、会社そのものは現在も存続
している。やまと食品にしろ、被告にしろ、今後本件特許権の侵害品を製造、販売
するおそれは充分に考えられる。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告らの被告に対する請求は、いずれも、原判決主文掲記の限
度で理由があり、その余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないものと
判断する。
 その理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の「事実及び理
由」中の「第4 争点に対する判断」1ないし9に記載のとおりであるから、これ
を引用する(ただし、原判決を引用した部分中、「別紙」とあるのを「原判決別
紙」と、「被告日本食研」とあるのを「被告」と、「被告やまと」とあるのを「や
まと食品」と、「被告ら」とあるのを「被告」と、それぞれ読み替える。)。
(1) 38頁16行目の「本件発明」から同18行目の「含まないと」までを
「被告主張のとおりに」と改め、39頁4行目の「ありません。」」の次に「、
「従来のスライスこんにゃくや引例のこんにゃくでは得られない均一な薄肉製品
で、薄い上に凹凸縞模様で表面積が大なアク抜き良好、調味料の保持力が大な美味
かつ舌触りの良好なものとなります。」」を、同13行目から14行目にかけての
「公開特許公報に」の次に「、実施例として具体的に」を各加え、同16行目の
「ものを」を「もの等を」と改め、同16行目の「認められない。」の次に「な
お、被告指摘の「引例のこんにゃくでは得られない均一な薄肉製品」なる記載にい
う「引例のこんにゃく」も、本件特許明細書に具体的に記載された形状のこんにゃ
くを意味するものであることは、上記意見書における当該記載の前後関係等に照ら
して明らかである。」を加え、40頁3行目の「一方、」から同6行目の「記載さ
れていない」までを削る。
(2) 46頁9行目の「主張中心間」を「主孔中心間」と改め、49頁4行目末
尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 この点に関し、被告は、圧力開放による膨張は吐出口において起こるも
のであるから、目皿からの吐出後0.5cm以上落下した時点以降は圧力開放によ
る膨張は起こらないことからすると、ロ号目皿を使用した場合、圧力開放による膨
張によってこんにゃくのりが一体化するものではないことは明らかである旨主張す
るが、0.5cm以上落下した時点以降は圧力開放による膨張は起こらないという
被告主張の前提が正しいか否かの点はおくとしても、被告指摘の点から直ちに被告
主張のように断定することができるかは疑問といわざるを得ないから、上記被告の
主張を採用することはできない(なお、この点は、後記のイ号目皿についても同様
である。)。」
(3) 56頁17行目の「できない」の次に「(なお、被告は、発明の本質的部
分は当該発明自体において定められるべきものであることを根拠として、侵害物件
における差異部分から顕著な作用効果の差異が生じないことをもって、当該部分が
発明の本質的部分でないと判断するのは相当でない旨の指摘をしているが、ここで
は、前記のように既に認定判断した本件発明の本質的部分について、当該差異部分
がこれに属するか否かの判断をしているものであるから、上記被告の指摘は当たら
ない。)」を加える。
(4) 57頁3行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、被告は、上記置換によって本件発明には見られない作用効果を奏
するから、本件発明とイ号方法・装置とでは、その作用効果に同一性はない旨主張
するが、イ号方法・装置においても、単独孔の部分(主孔)を有するのであり、こ
の部分から吐出された糸状こんにゃくのりに関し、圧力開放による膨張とこれによ
る接着が生じるものである以上、イ号方法・装置において、付加的に、何らかの作
用効果が生じたとしても、イ号方法・装置においても本件発明と同様の作用効果が
生じることを否定することはできない。」
(5) 57頁20行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、被告は、上記置換により顕著な作用効果が生じる旨主張するが、
上記置換によって生じる作用効果の差異が顕著なものとはいえないことは既にみた
とおりである上、付加的なものにすぎないともいえるから、上記被告の主張は採用
できない。」
(6) 58頁3行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 被告は、本件特許の特許権者である原告Bは、本件実用新案権の出願手
続において、乙3公報を引用例とする拒絶理由通知に対して、乙3公報の第4図記
載のこんにゃくと本件考案のこんにゃくとは内容が異なり、作用効果において顕著
な差がある旨述べている(乙7の意見書)として、本件発明についても、こんにゃ
くのりが初めから一本の凹凸のあるリボン状に押し出されて成形されるような構成
のものは意識的に除外されたものと解すべきである旨主張しているところ、乙3公
報には、こんにゃくの押出し成形孔の側壁部に突条部を設け、こんにゃくの表裏両
面に切込み条を存在させて押出し成形されるようにすること等が示されてはいる
が、同考案は、糸状こんにゃくのり同士の接着に、吐出直後の圧力開放によるこん
にゃくのりの膨張を利用するものではないから、被告指摘に係る意見書の記載をも
って、イ号方法・装置におけるような構成まで意識的に除外したものと認めること
はできない(なお、乙3公報記載の考案からイ号方法・装置の構成が容易に推考し
得るものでもない。)。」
(7) 58頁9行目から同11行目にかけての括弧書き及び同12行目から13
行目にかけての「、被告やまとに対して別紙第2製品目録記載の各製品の、それぞ
れ」をいずれも削り、同15行目の「請求第1項及び第2項」を「原判決「第1 
請求」第1、2項」と、同17行目の「証拠はなく」から同20行目末尾までを
「証拠はない。」と、同21行目の「また、」を「なお、被告は、差止めや廃棄請
求を認めるべき必要性はない旨主張するところ(争点(7))、」と、同24行目の
「できない」を「できないし、他に被告主張の点を確認するに足りる証拠はない」
と各改める。
(8) 58頁25行目と同末行との間に「(新規性及び進歩性の欠如)」との行
を挿入し、60頁14行目の「昭和57年秋から」を「昭和56年中に」と改め、
同16行目の「思いつき、」の次に「昭和57年秋から、」を加え、63頁10行
目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、カネマタ目皿や検証目皿(乙142)が本件発明の構成を備える
ものであることは、これをうかがえないではないところ、その製作時期に関し、被
告は、乙135の3の公正証書に添付された松田機械のカネマタ食品に対する売掛
台帳に基づき、これらの目皿が、カネマタ食品が松田機械から購入した昭和56年
5月11日の4枚、同年9月2日の4枚、同年10月30日の3枚(合計11枚)
の「巣板」から同年中に製作されたものである旨主張する。
 しかし、上記売掛台帳には被告の主張に沿う記載はあるものの、いずれ
も「巣板」と記載されているものであり、原告らも主張するとおり、「巣板」と
は、一般には「孔の開いた板」のことを指すものと考えられることや(乙125、
126参照)、その直前に巣板を要する連続機が購入されていること等に照らす
と、これによって、上記売掛台帳の記載と検証目皿等とを直接関連づけることはで
きないものといわざるを得ない。
 また、乙125には、Cが上記「巣板」から検証目皿等を製作した旨の
供述記載があるものの、上記供述記載によっても、目皿に開ける孔を、検証目皿等
のような新規な構成にすることをどのようなきっかけで思いついたのかについて必
ずしも明らかではないといわざるを得ないし、最初の試作品(Cらは、それが検証
目皿であると供述している。)を製作するについても、当該目皿に開ける孔の孔径
や孔間隙等をどのようにするか、当該目皿を用いてこんにゃくを製造する際のポン
プの回転速度や押出しの速度等の条件をどのようにするかについて試行錯誤した形
跡もうかがわれないことに照らすと、乙125におけるCの供述は、にわかに採用
しがたいものというほかない。
 そして、昭和57年ころに薄肉帯状のこんにゃくの形状を見たなどとす
る乙126ないし129の供述記載を含め、他に、検証目皿等の製作時期等に関す
る被告の主張を認めるに足りる証拠はない。」
(9) 63頁13行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
「 被告は、本件発明の出願当初の明細書(乙121)においては、特許請
求の範囲に「こんにゃくのりをノズル押出し直後の成形体間のすき間を小さくした
多孔のノズルで押出して糸状こんにゃく同志がゲル化前の短時間のうちに接するよ
うにし、」なる構成が記載されていたが、平成5年11月12日付手続補正書(乙
122)により、「押出し直後の圧力開放により糸状こんにゃくのりが膨張して糸
状こんにゃくのり同志がゲル化前の短時間のうちに外力を加えることなく接するよ
うに」と補正された点について、要旨の変更に当たる旨主張しているが、上記補正
は、ノズルから押し出された直後の一体化する前のこんにゃく原料の状態につい
て、当初は「こんにゃく」と記載していたのを、より正確に表現する趣旨で「こん
にゃくのり」と変更したものにすぎず(なお、甲54、163の公報にも、「こん
にゃく」と「こんにゃくのり」を特に区別しないで記載している例がみられ
る。)、また、上記補正によって当該記載部分が示す技術内容が変わるものではな
いとも解されるから、上記補正が要旨変更に当たるとの被告の主張も採用できな
い。」
(10) 64頁19行目から20行目にかけての「いずれも目皿の製造業者では
ないことや、被告日本食研は」を「目皿や」と改める。
(11) 65頁2行目冒頭の「ア(ア)」を「ア」と改め、同13行目の「なる」
の次に「(なお、乙77の1により認められるやまと食品の売上額と、被告のやま
と食品からの仕入額(乙93の4)とは一致しない部分があるが、弁論の全趣旨に
よれば、それはやまと食品の売上計上時期と被告が仕入れを検収する時期のずれに
よるものであると認められる。)」を加え、同20行目から67頁6行目までを削
る。
(12) 68頁2行目から同9行目まで、同15行目の「甲5~10」を「甲5
~8」と改め、同16行目の「、「蒟蒻海藻サラダ」」及び同22行目から23行
目にかけての「、「こんにゃくと海藻のヘルシー最強コンビ」」並びに同25行目
から69頁6行目までをいずれも削り、同21行目末尾に改行の上、次のとおり加
える。
「 なお、被告は、被告サラダ製品の平成13年9月ないし11月の売上高
と被告新製品の平成14年9月ないし11月の売上高と対比することにより、こん
にゃくの形状は売上げに影響しない旨主張しているが、売上高はこんにゃくの形状
のみを要因とするものではなく、種々の要因によって生じるものであると考えられ
るから、被告主張の点も、上記認定判断を左右しない。」
(13) 71頁5行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、被告は、乙101に基づいて相当な実施料額を争っているが、乙
101は、その記載に照らし、既侵害者に対する申入れ書であることがうかがわれ
るところ、その内容は、既侵害者に対して差止めを求める前提としての条件提示で
あるとも考えられるから、そのような特定の条件の下における原告会社提示の実施
料率をもって、あたかも絶対の基準であるかのようにいう被告の主張には、にわか
に賛成することはできない。」
(14) 71頁21行目から72頁15行目までを削り、同16行目冒頭の
「(オ)」を「(イ)」と、同23行目の「請求第5項」を「原判決「第1 請求」第
5項と、同24行目の「被告ら」を「やまと食品及び被告」と、73頁1行目の
「請求第6項」を「原判決「第1 請求」第6項」と各改め、同5行目から同24
行目まで及び74頁4行目から同17行目までをいずれも削り、同18行目の
「c」を「b」と改める。
(15) 75頁12行目から同25行目までを削り、同26行目の「(エ)」を
「(ウ)」と、76頁14行目及び同18行目の各「主文」をいずれも「原判決主
文」と、同24行目の「被告ら」を「被告及びやまと食品」と、同26行目の「請
求第5項」を「原判決「第1 請求」第5項」と、77頁3行目の「請求第5項」
を「上記第5項」と各改める。
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照ら
し、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判
決を含め、当審の認定、判断を左右するほどのものはない。
第4 結論
 以上の次第で、原告らの被告に対する請求は、原判決主文(ただし、やまと
食品のみに係る部分は除く。)掲記の限度で理由があり、原告らの被告に対するそ
の余の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないものというべきところ、こ
れと同旨の原判決は相当であって、被告の本件控訴はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
 (平成16年3月26日口頭弁論終結)
    大阪高等裁判所第8民事部
     裁判長裁判官  竹  原  俊  一
           裁判官  小  野  洋  一
              
           裁判官  中  村     心

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