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○ 主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告が原告に対してなした
1 昭和五二年九月二〇日付昭和五一年分所得税の決定処分のうち課税される所得
金額金二、八二二、〇〇〇円を超える部分に対する部分及び同日付無申告加算税賦
課決定処分(右各処分とも昭和五三年二月一六日付異議決定による一部取消後のも
の。)
2 昭和五三年九月六日付昭和五二年分所得税の決定処分及び無申告加算税賦課決
定処分をいずれも取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
(被告)
主文第一、二項同旨の判決
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は原告に対し、原告の昭和五一年分及び昭和五二年分の各所得税及び加算
税につき、それぞれ次のとおり決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をした。
(右各処分《但し昭和五一年分についでは後記異議決定による一部取消後》を、以
下、本件各処分という。)
(一) 昭和五一年分につき、昭和五二年九月二〇日付で
分離長期譲渡所得の金額二七、七六六、〇六〇円
納付すべき税額     六、六一九、七〇〇円
無申告加算税額       六六一、九〇〇円
右各処分は、原告の異議申立てに対する昭和五三年二月一六日付被告の異議決定に
より一部取消された結果、次のとおりとなつた。
分離長期譲渡所得の金額二六、五七七、六三〇円
納付すべき税額     六、一六一、五〇〇円
無申告加算税額       六一七、三〇〇円
(右一部取消後の右各処分を、以下、本件昭和五一年分各処分という。)
(二) 昭和五二年分につき、昭和五三年九月六日付で
分離長期譲渡所得の金額 四、六九〇、〇〇〇円
納付すべき税額       七五二、〇〇〇円
無申告加算税額        七六、四〇〇円
(右各処分を、以下、本件昭和五二年分各処分という。)
2 しかしながら被告の右各処分は次の理由により違法である。
(一) 原告は、その所有に係る岸和田市<地名略>、田七六〇平方メートル及び
同所<地名略>、田四九五平方メートル (以下本件各土地という。)を、別表一
番号1ないし11のとおり分筆したうえ番号1ないし9の各土地を備考欄記載のと
おり売却し、昭和五一年中に合計三一、四三七、五〇〇円、
昭和五二年中に六、二五〇、〇〇〇円の各収入金額を得た。
(二) 右資産の譲渡については、所得税法(以下法という。)六四条二項の規定
によつ、昭和五一年分は、二二、九七五、三九三円につき、昭和五二年分は、五、
三七六、九三七円につき、いずれも右譲渡所得金額の計算上収入がなかつたものと
みなされるべきであるのに、被告はその認定を誤り、これを収入金額として本件各
処分を行つた。
即ち
(1) 保証債務の履行
(大阪府中小企業信用保証協会《以下信用保証協会という。》に対する保証債務の
履行)
(イ) 原告は、訴外株式会社ユニオン・フアーマシー(昭和四九年一二月二〇日
株式会社ユニオン通商と商号変更)(以下ユニオン・フアーマシーという。)が金
融機関等から融資を受けるに当つて信用保証協会に保証を委託した際、同協会に対
し、ユニオン・フアーマシーが同協会に対して将来負担することのある債務につき
連帯保証をする旨約するとともに、右債務を担保するため、本件各土地につき根抵
当権を設定した。
(ロ) 主債務者ユニオン・フアーマシーは、昭和四八年六月一一日手形不渡を出
し、同月一四日大阪手形交換所より銀行取引停止処分を受けたため、金融機関等か
らの右借入金債務金額につき期限の利益を失つたが、これを支払うことができず、
そのため信用保証協会は同年八月三〇日及び同年九月二九日各関係金融機関に対
し、ユニオン・フアーマシーの債務合計四五、五六五、三五四円を代位弁済した結
果、同社に対する右同額の求償債権を取得し、原告に対し前記連帯保証債務の履行
を求めるとともに、右抵当権実行のため本件各土地につき競売手続開始申立をし、
右競売手続は進行した。
(ハ) そこで原告は、信用保証協会を相手方として、岸和田簡易裁判所に調停の
申立をし、その席上種々折衝した結果、昭和五一年、同協会との間で、本件各土地
を原告において任意売却し、その売却代金をもつて右債務の弁済に充てる旨の合意
が成立した。
右合意に基づき、原告は前記のとおり本件各土地を逐次売却し、その収入金中から
同協会に対し、昭和五一年四月三〇日一、二〇〇万円、同年七月三〇日四五〇万
円、同年一一月二五日三五〇万円(同年中に合計二、〇〇〇万円)、昭和五二年五
月一〇日四〇〇万円(他に昭和五三年五月二七日四七〇万円)を弁済した。
(株式会社興紀相互銀行《以下興紀相互銀行という。
》に対する保証債務の履行)
(イ) 原告は、訴外関西興和工業株式会社(以下関西興和という。)が興紀相互
銀行から融資を受けるのに当り、同銀行に対し、同社が同銀行に対して負担する債
務につき、連帯保証をするとともに、別表一番号12の宅地及び14の建物につき
根抵当権を設定した。
(ロ) 主債務者関西興和はその後倒産し、同銀行は原告に対し右保証債務の履行
を求めるとともに、右抵当権実行のため競売手続開始申立をした。そこで原告は同
銀行と折衝した結果、同銀行との間で、本件各土地売却代金中から分割弁済する旨
の合意が成立し、昭和五一年五月から同年末までの間に合計二、九七五、三九三
円、昭和五二年一月から同年末までの間に合計一、三七六、九三七円(他に昭和五
三年一〇月二〇〇万円)を同銀行に代位弁済した。
(2) 求償権の行使不能
(イ) ユニオン・フアーマシーは昭和四八年六月、前記銀行取引停止処分を受け
た後営業活動は行つておらず、登記簿上存在するが実体のない所謂幽霊会社の状態
であつて、同社に対する求償権の行使はその全部が不可能である。
同社の信用保証協会に対する債務については、原告の他にA、同B、Cも連帯保証
をしていたところ、A(同社の代表取締役)、同B八同人の妻)は昭和五一年三月
当時無資力でしかも現在に至るまで所在不明であつて、同人らの負担部分につき、
同人らに対する求償権の行使は全部が不可能であり、Cの右連帯保証債務は同協会
との示談によつて昭和四七年末免除され、同人に対してもその負担部分につき求償
権を行使することはできない。
(ロ) 関西興和は原告が代表取締役として経営に当つていた会社であるが、昭和
四六年頃から休業状態にあり、昭和四九年一二月三日、商法四〇六条の三第一項の
規定により、休眠会社として解散の登記がなされ、同社に対する求償権の行使はそ
の全部が不可能である。
(3) 確定申告書不提出についてやむをえない事情の存在
原告は本件各土地の譲渡による所得につき、昭和五一年分、昭和五二年分とも確定
申告書を提出していないが、厳格な事実認定のプロセスが保障されている訴訟手続
においては、実体的要件の具備が認定される限り、直ちに法六四条二項を適用して
も同条三項の法意に反しない。従つて本件訴訟においては同条三項の規定は排除さ
れるか、
又は確定申告書の提出があつた場合に準じて取扱われるべきである。
仮に右主張が認められないとしても、確定申告書の不提出は、被告の部下職員の誤
つた教示によるものであるから、右不提出につきやむをえない事情がある。
即ち、原告と信用保証協会との前記折衝において、本件各土地を逐次売却してその
代金をもつて保証債務を履行するとの合意が実質的に成立した後、最初の売却に先
立つて、原告の兄Dは、被告税務署資産税課に行き、右のような場合の申告の要否
について間合わせたところ、被告の部下職員である同課員は、本件各土地全部の売
却と、その代金による保証債務の履行が完了するまで申告の必要はない、旨教示し
た。右教示を受けた原告は、昭和五一年分及び昭和五二年分各所得税確定申告時期
ともそれぞれ本件土地には未だ未売却部分があり、保証債務の履行も完了していな
かつたから、申告の必要はないものと確信して、確定申告書の提出をしなかつたも
のである。
(三) 従つて、法六四条二項の規定により、前記各保証債務履行分、昭和五一年
分につき二二、九七五、三九三円(信用保証協会分二、〇〇〇万円、興紀相互銀行
分二、九七五、三九三円)、昭和五二年分につき五、三七六、九三七円(同協会分
四〇〇万円、同銀行分一、三七六、九三七円)は、譲渡所得金額の計算上なかつた
ものとみなされるべきである。そうすると、
(1) 昭和五一年分の課税される所得金額(分離長期譲渡所得金額)は、本件同
年分各処分中、分離長期譲渡所得金額二六、五七七、六三〇円(右金額に至る被告
の認定は争わない。)から右なかつたものとみなされる二二、九七五、三九三円を
差引き、更に扶養控除五二万円、基礎控除二六万円をそれぞれ控除した二、八二
二、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)である。
(2) 昭和五二年分の課税される所得金額は、本件同年分各処分中、分離長期譲
渡所得金額四六九万円(右金額に至る被告の認定は争わない。)から右なかつたも
のとみなされる五、三七六、九三七円を差引くと、その譲渡所得金額は零となる。
3 仮に法六四条二項の適用がないとしても、本件各土地の譲渡には法九条一項一
〇号の規定が適用されるべきであるのに、被告はこれを看過して本件各処分を行つ
た。
即ち、原告は本件各土地の逐次売却時、以下のように資力を喪失して債務を弁済す
ることが著しく困難であつた。
(一) 資産及び負債
(1) 本件各土地の第一回分割売却(昭和五一年三月一五日)直前原告が所有し
ていた資産は別表一番号1ないし16の不動産のみであり、その価額は番号1ない
し10の各土地(本件各土地)につき四六、七〇七、五〇〇円(現実の処分価
額)、番号12ないし16の宅地建物につき約一、四〇〇万円(番号12、13の
宅地についてはその地上に建物が存在するから近隣標準地公示価額を基準とした額
の平額である八五〇万円5相当であり、これに右建物の価額を固定資産評価額とほ
ぼ同額の五五〇万円としてこれを加算。)、合計六、〇七〇万円程度であつた。
(2) 一方負債は
(イ) 信用保証協会、右同日現在残元本二八、八三七、九九八円、損害金二〇、
二五六、三〇〇円、合計四九、〇九四、二九八円
(ロ) 興紀相互銀行、残元本六、七一七、四二一円、損害金一、五九五、八八〇
円、合計八、三一三、三〇一円
(ハ) 市中の金融業者、残元本四〇〇万円、利息約二〇〇万円、合計六〇〇万円
以上総計六三、四〇七、五九九円
(3) その債務超過額二、七〇七、五九九円
(4) その後各売却時の資産及び負債の状況は別表三(財産の評価額と債務額の
対比変遷一覧表(原告主張分))のとおりであつて、各時点とも大幅な債務超過で
あつた。
(二) 原告の職業
本件各土地売却時以降現在に至るまで日傭労務者(建設業手伝)として生計を立て
ている状態である。
(三) 本件各土地及び別表一番号12及び14の宅地建物について根抵当権に基
づく競売手続がすでに進行していた。
(四) 従つて、本件各土地の売却代金中、前記債務の履行に充てられた昭和五一
年分につき二二、九七五、三九三円、昭和五二年分につき五、三七六、九三七円に
ついては同法九条一項により所得税は課せられるべきではない。
4 被告のした本件各年分の無申告加算税賦課決定処分については、各年につきそ
の基礎となる納付すべき税額の一部又は全部がなく、残存分も、前記のとおり確定
申告書の不提出について正当な理由があるから、すべて違法である。
5 よつて本件昭和五一年分所得税の決定処分のうち、課税される所得金額二、八
二二、〇〇〇円を超える部分に対する決定処分及び同年分無申告加算税賦課決定処
分並びに本件昭和五二年分所得税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の取消
を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項、認める。
2 同第2項、争う。但し同項(一)の事実は認める。
同項(二)の(1)の各事実は不知。(2)の各事実については不知ないし争う。
(3)冒頭の法律上の主張については争う。事実の主張中、原告が両年につき確定
申告書を提出していないことは認め、その余は否認。
同項(三)、争う。
3 同第3項、争う。但し同項(一)の(1)のうち、原告が昭和五一年三月一五
日当時別表一番号1ないし16の各不動産を所有していたこと、そのうち番号1な
いし10の各土地の現実の処分価額が合計四六、七〇七、五〇〇円であつたことは
認め、番号12ないし16の各不動産の価額については争う。
同項(一)の(2)、(イ)、認める。(ロ)、争う。(ハ)、否認する。
同項(一)の(3)、(4)、争う。
同項(二)、(三)、不知。(四)、争う。
4 同第4、第5項、争う。
三 被告の主張
1 被告は、原告の本件各土地譲渡による所得につぎ、本件各処分を行つたが、そ
の内容は別表二記載のとおりである。
2 法六四条二項の適用を受けるためには、同項に定める実体的要件と同条三項で
定める手続的要件の両方の充足が必須の要件であるところ、原告は昭和五一年分及
び昭和五二年分ともに、右手続的要件である確定申告書の提出をしなかつた。
又右不提出についてもやむをえない事情はなく、本件各処分までには、原告は確定
申告書を提出する機会はいくらでもあつた。即ち、被告は昭和五一年分の所得税確
定申告時期、原告に対し申告の案内状を送付し、その後も電話等で来庁を促す等し
たが、原告はそのいずれにも応答しなかつた。又昭和五二年分については、昭和五
二年九月二〇日に本件昭和五一年分各処分を受けていることからも、当然確定申告
が必要なことは知つたはずである。
3 法九条一項一〇号の不適用について
同号の「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、債務
者の債務超過の状態が著しく、その者の信用、才能等を活用しても、現にその債務
の全部を弁済するための資金を調達することができないのみならず、近い将来にお
いても調達することができないと認められる場合をいい、これに該当するかどうか
は、これらの規定に定める資産を譲渡した時の現況により判定すると解されてい
る。
原告の本件各土地譲渡時における資力は以下のとおりである。
(一) 資産
昭和五一年三月一五日現在における原告所有不動産の価額は、合計六九、二六二、
〇四五円であり、その内訳は
(1) 別表一番号1ないし11の土地
四六、七〇七、五〇〇円(現実の処分価額による。)
(2) 同番号12ないし16の宅地建物
二二、五五四、五四五円
(内訳)
同番号12、13の宅地 一七、〇五〇、二四五円
(最も近い地価公示法の標準地の同年一月一日現在の公示価額による。)
同番14ないし16の建物
(同年分固定資産評価額による。)
(二) 債務
原告の昭和五一年三月一五日現在及びその後の土地売却時現在における債務の額
は、別表四(財産の価額と債務額との対比変遷一覧表(被告主張分))中債務の額
欄各記載のとおりである。
(三) 従つて原告の資産負債の状況は、同表差引金額欄記載のとおりとなり、各
譲渡のいずれの時点でも資産が負債を上廻り、この点から見ただけでも原告は各土
地譲渡時資力を喪失していたとはいえない。
4 以上の次第で、原告の本件各土地の譲渡に対しては、法六四条二項も法九条一
項一〇号も適用する余地はないから、被告が租税特別措置法三一条の規定に基づい
て行つた本件各決定処分及び本件各無申告加算税賦課決定処分は適法である。
四 被告の主張に対する答弁
1 被告の主張第1項、認める。なお別表二の(2)長期譲渡所得金額の内訳各欄
記載事項についての被告の認定は争わない。
2 同第2ないし第4項、原告の主張に反する部分はいずれも否認ないし争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因第1項の事実(本件各処分)については当事者間に争はない。
二 本件各処分の適法性について判断する。
1 原告がその所有に係る本件各土地を、別表一備考欄記載のとおり譲渡したこ
と、右譲渡中昭和五一年分及び昭和五二年分の各譲渡による所得に関して、被告が
本件各処分を行い、その処分の内容が別表二記載のとおりであることは、いずれも
当事者間に争はない。
2 法六四条二項の適用の要否について
原告は、右各譲渡所得金額の計算には、法六四条二項の適用がある旨主張するの
で、この点について判断すると、
(一) 法六四条二項の適用を受けるには、同項に規定されている実体的要件を充
足するとともに、同条三項の規定上、同条四項の例外的な場合を除き、同条三項に
定める手続的要件をも併せて充足する必要があるというべきところ、原告が右両年
の譲渡所得につき、同項に規定する確定申告書を提出しなかつたことは当事者間に
争はない。訴訟手続においては、右手続的要件の充足は排除されるとの原告の主張
は、原告独自の見解であつて採用できない。
(二) 右確定申告書の不提出につき、やむをえない事情があつたかどうかについ
て判断すると、
(1) 昭和五一年分申告について
証人Dの証言によれば、本件各土地売却の目的は、その代金で原告の信用保証協会
に対する保証債務を履行するにあつたが、同協会との折衝について原告より一任さ
れていた原告の実兄Dは、昭和五一年始め頃被告税務署を訪れ、居合わせた担当職
員に対して、このような場合の土地譲渡による所得に課税されるかどうか問合わせ
たところ、同職員は、理由がはつきりすれば課税されない旨回答したこと、Dはそ
の後本件各土地の第一回売却(同年三月一五日)に先立つて再び同署を訪れ、被告
部下の担当職員(前回の職員とは異る。)に対して、右土地譲渡は一括ではなく分
割売却の予定であるが、この場合売却の都度申告の必要があるかどうか質問したと
ころ、同職員は、その必要はなく、土地の譲渡と保証債務の履行が完了した後に理
由書を添えて申告書を提出すればよい旨教示したこと、但し右質問当時、右譲渡と
債務履行の完了時期については、D白身見通しを立てておらず、従つて右質問も右
各完了時期が昭和五二年以降にずれ込む可能性を明らかにしたものではなかつたこ
と、以上の各事実が認められ、同証言中右認定に反する部分はたやすく措信でき
ず、他に右認定に反する証拠はない。
右事実、就中、土地売却の目的が通常緊急を要する債務履行の源資獲得にあつたこ
と、Dの前記質問内容及びその質問時期が昭和五一年三月一五日以前であつたこと
に照らせば、担当職員の右教示は、土地譲渡と保証債務の履行が同年中に完了する
ことを当然の前提としたものであつたと認めるのが相当である。もつとも同証言に
よれば、Dが右教示の内容を、土地譲渡と保証債務の履行が何年にわたろうとも最
終的に確定申告書を提出すればよいとの趣旨と解したことが認められるが、右誤解
の責はむしろ同人の質問内容にあり、右質問に対して、前記事情のもとで、右完了
が翌年以降にずれ込む可能性まで配慮した教示をしなかつたことをもつて、被告部
下職員の誤つた教示ということは相当でない。
一方、いずれも成立に争いのない乙第二号証の一ないし五、第三号証の一、二、第
四号証、官署作成部分の成立については当事者間に争いがなく、その余の部分につ
いては証人Eの証言により真正に成立したと認められる乙第五号及び同証言によれ
ば、原告の昭和五一年中の土地譲渡の事実を把握した被告は、原告に対して、同年
分の確定申告期間に先立つ昭和五二年二月四日か五日頃、法六四条二項の適用を受
けるためには右期間中に所定事項を記載した確定申告書の提出が必要である旨の説
明部分もある譲渡所得についてのあらましの解説書を含む文書を、右期間中の同月
二五日頃には譲渡所得の申告についての案内書を、右期間後の同年四月五日頃及び
同年六月二〇日頃の二回無申告理由の照会書をそれぞれ発送し、右各文書はいずれ
もその頃原告に到達したこと、更に被告の本件担当者は同年四月二二日頃及び同年
六月二〇日頃原告方に電話をし応待に出た原告の息子に対し、被告担当者に至急連
絡をするよう原告に伝えてほしい旨依頼したこと、右同年六月一一〇日前後には原
告宅に同趣旨のメモ書を置いてきたが、原告はそのいずれに対しても応答すらしな
かつたことが認められ、右認定に反する証人Dの証言及び原告本人尋問の結果は採
用できず、他にこれに反する証拠はない。
以上認定の各事実のもとでは、被告の部下職員の前記教示(ないし右教示について
のDの誤解)をもつて、昭和五一年分の確定申告書不提出についてやむをえない事
情とすることはできず、他に右事情を認めるに足りる証拠はない。
(2) 昭和五二年分申告について
昭和五二年九月二〇日付で、原告に対し、無申告加算税賦課決定処分を含む本件昭
和五一年分各処分(但し異議決定による一部取消前)がなされたことは前記のとお
り当事者間に争はない。証人Dの証言によれば、原告から税務処理を一任されてい
たDは、直ちに税理士Fに対し、被告担当職員の前記教示の内容をも説明して右各
処分についての善後措置について相談したこと、これに対して同税理士は同人に法
六四条二項の適用を受けるには確定申告書の提出が必要なことを教示したことが認
められ、同税理士が教示したのは最終年分の譲渡所得の確定申告についてだけであ
つたとの同証人の証言部分は、たやすく措信できず、他に右認定に反する証拠はな
い。
この点については、成立に争のない甲第二〇号証によれば、被告の昭和五三年二月
一六日付異議決定書には、右無申告の事実の指摘はないことが認められるが、同税
理士の右教示を考えれば、右事実の存在することをもつて、昭和五二年分の確定申
告書不提出にやむをえない事情があつたとすることは到底できず、被告の部下職員
の前記教示も同様であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(三) そうすると、法六四条二項の適用の要否に関しては、その実体的要件の存
否を判断するまでもなく、被告が本件各処分につき、同項を適用しなかつたことは
違法ではないといわなければならない。
3 法九条一項一〇号の適用の要否について
原告は、本件各土地の譲渡による所得中、債務の弁済に当てられたものは法九条一
項一〇号により非課税とすべきである旨主張するので判断すると、
(一) 法九条一項一〇号及び同法施行令二五条の二、国税通則法二条一〇号によ
れば、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合において、担保権の
実行としての競売が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得
で、その譲渡にかかる対価が当該債務の履行にあてられたものについては、所得税
を課さない旨(本件に関係ある部分のみ抜萃)定められている。
(二) これを本件についてみると、原告が本件各土地を売却するに至つた経緯及
びその代金の使途について次の各事実が認められる。
即ち、前記甲第七号証の二、いずれも成立に争のない甲第五号証の一、二、第六号
証、第七号証の六、第九号証、第一〇号証の一ないし七、第一三号証の一、二、乙
第一五号証、いずれも証人Dの証言により真正に成立したと認められる甲第一、第
四号証の各一ないし六、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる
甲第二号証の一、二、四、六、第一八号証及び同証言によれば、原告はユニオン・
フアーマシーの信用保証協会に対する債務につき連帯保証をし、併せて本件各土地
につき、極度額合計六、〇〇〇万円の根抵当権を設定していたが、同協定は合計四
五、五八五、九五四円の元本及びこれに対する所定の損害金を請求金額として、昭
和四九年一〇月九日右抵当権実行のため競売を申立て、同月一一日右競売手続開始
決定をえたこと、そこで原告から委任を受けた伊藤増一弁護士及びDは同協会と折
衝をした結果、右競売手続によるよりは高対価がえられる任意売却をし右代金をも
つて同協会に対する債務の弁済に充てるとの合意に達したので、原告は昭和五一年
三月一五日以降、別表一備考欄記載のとおり本件各土地を譲渡したうえ、昭和五一
年には右代金合計三一、四三七、五〇〇円中、二、〇〇〇万円を、昭和五二年には
右代金六二五万円中、四〇〇万円を、それぞれ債務の弁済として同協会に支払つた
こと(なお同協会に対する債務は昭和五一年三月一五日現在残元本二八、八三七、
九九八円、損害金二〇、二五六、三〇〇円、合計四九、〇九四、二九八円となつて
いたことは当事者間に争はない。)、又原告は関西興和の興紀相互銀行に対する債
務についても連帯保証をし、別表一番号12の宅地及び14の建物につき、極度額
一、〇〇〇万円の根抵当権を設定していたが、同銀行は昭和五〇年八月二六日右抵
当権実行のため競売手続開始決定をえたこと、原告の同銀行に対する保証債務額
は、昭和五一年三月一五日現在、元本六八二万円、未払利息金二三、五四三円であ
つたが、右代金から、同年一一月一五二万円、同年一二月一〇〇万円、昭和五二年
五月一〇〇万円が支払われた(但しいずれも連帯保証人D名義による。)ことが認
められ、これに反する証拠はない。なお右代金中から市中金融業者に対する債務の
支払いが認められないことは後記のとおりである。
(三) ところで冒頭の「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である
場合」とは、被告がその主張第3項において主張するとおりの場合と解すべきであ
る(所得税基本通達九-一二の二参照)。
そこで本件各土地の各譲渡時原告が右の場合に当つたかどうかについて判断する
と、
(1) 資産
原告が本件各土地の第一回売却(昭和五一年三月一五日)直前別表一番号1ないし
16の各不動産を所有していたこと、右不動産中、番号1ないし1oの各土地の現
実の処分価額が同表備考欄記載のとおり合計四六、七〇七、五〇〇円であつたこと
はいずれも当事者間に争はなく、右番号1ないし10の各土地は各処分時以前にお
いても各処分価額と同額の価額を有していたと認めるのが相当である。弁論の全趣
旨によれば、同番号11の土地は同1ないし10の各土地のための道路であること
が認められるので、価額は零とする。
同番号12、13の宅地の価額については、同地上に同14ないし16の建物は存
在するものの、いずれも原告所有建物であつて、他人の権利によつて制限されてい
るわけではないから、通常の更地としての取引価額をその価額とすべきところ、い
ずれも成立に争のない乙第六ないし第八号証によれば、右宅地から北西方約八〇メ
ートルの地点に同じ市道に面して、地価公示法の標準地(岸和田一六)があり、右
標準地の昭和五一年一月一日現在の公示価額は一平方メートル当り三四、五〇〇円
であることが認められるので、右公示価額を右宅地の同年三月一五日現在の価額の
基準とすべきであり、そうすると右宅地(四九四・二一平方メートル)の右同日現
在の価額は一七、〇五〇、二四五円となるが、右価額は同年中及び昭和五二年中変
動はなかつたものと認めるのが相当である。同番号14ないし16の建物について
は、成立に争のない乙第九号証により認められる昭和五一年分固定資産評価額五、
五〇四、三〇〇円を同年中及び昭和五二年中の価額と認めるべきである。従つて番
号12ないし16の不動産の価額は合計二二、五五四、五四五円となる(なお官署
作成部分については成立に争はなくその余の部分については弁論の全趣旨により真
正に成立したと認められる乙第一〇号証によれば、興紀相互銀行は、昭和四七年七
月一一日現在、右宅地建物の価額を合計二五、二六七、〇〇〇円と評価したことが
認められる。)。以上の認定を左右するに足りる証拠はない。
以上原告は、昭和五一年三月一五日現在、合計六九、二六二、〇四五円相当の不動
産を所有していたということになる。
又前記認定の本件各土地売却代金と債務履行額を対比すると、土地売却費用を差引
いても、原告の手許にはかなりの現金が残つたものと推認できる(もつとも資産と
して残存した額については不明である。)。
他に見るべき資産の存在を認めるに足りる証拠はない。
(2) 負債
(イ) 信用保証協会
昭和五一年三月一五日現在、原告が同協会に対して、残元本二八、八三七、九九八
円、損害金二〇、二五六、三〇〇円、合計四九、〇九四、二九八円の債務を負担し
ていたことは前記のとおりであるが、前掲甲第六、第九号証によれば、原告はこの
他に三五一、九三六円の立替債務を負担していたことが認められ、これに反する証
拠はない。
前記認定の同協会に対する本件各土地売却代金からの弁済の詳細については、右甲
第九号証、前掲甲第一〇号証の一ないし七によれば、昭和五一年四月三〇日一、二
〇〇万円、同年七月三〇日四五〇万円、同年一一月二五日三五〇万円、昭和五二年
五月一〇日四〇〇万円であることが認められこれに反する証拠はない。右甲第六号
証によれば、原告は土地代金中からの右弁済のほか、同協会を相手方とする調停事
件に伴う不動産競売手続執行停止事件において供託していた一〇〇万円の担保を取
下げて同協会に支払つたこと(右支払期日については甲同証及び弁論の全趣旨によ
り昭和五一年八月一二日と認める。)、右各支払いはすべて前記残元本及び立替金
債務(合計二九、一八九、九三四円)に充当されたこと(但し弁論の全趣旨によれ
ば同年七月三〇日支払中、五二、九五六円は右立替金債務の支払いに充てられた後
損害金の支払いへ振替えられたことが認められる。)が認められ、これに反する証
拠はない。
前掲甲第一号証の一ないし六によれば、損害金の約定割合は年一八・二五パーセン
ト(日歩五銭)であること(但し甲第六号証によれば、右損害金の割合は、最終的
にはかなり減率されることが原告と同協会間で了解されていることが認められ
る。)が認められこれに反する証拠はない。
以上認定の事実に基づき、同協会に対する昭和五一年三月一五日以後の債務額を計
算すると、別表四付表「保証協会に対する債務額変遷一覧表」記載のとおりとな
る。
(ロ) 興紀相互銀行
前掲甲第一八号証によれば、同銀行に対する前記各支払いは、いずれも元本(昭和
五一年三月一五日現在六八二万円)に充当されたこと、前記未払利息二三、五四三
円も同月中に支払われたことが認められ、これに、反する証拠はない。
(ハ) 市中金融業者
昭和五一年三月一五日現在、市中金融業者に対し元利合計六〇〇万円の債務があつ
た旨の原告の主張に対しては、右主張に添う証人Dの証言は、その債権の存在につ
いての部分もその支払時期等に関する部分もいずれも具体性に欠け、本件ではこれ
を採用することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上認定の各事実を総合して、原告の本件各土地譲渡時の資力について見
ると、具体的な額については確知し難い現金を除き、信用保証協会に対する損害金
債務については上限の利率で計算しても、別表四(被告主張分)のとおりとなり、
各時点とも資産が負債を上廻るのであり、この点から見ても、右各時点において、
原告が資力を喪失したといえないことは明らかである。
(四) よつて被告が本件各決定処分に当り、法九条一項一〇号を適用しなかつた
ことに違法はない。
三 以上、被告が、原告の本件各土地譲渡による収入金額、昭和五一年分三一、四
三七、五〇〇円、昭和五二年分六二五万円の各全額を基礎にして譲渡所得金額を算
出(右算出に至る取得費、譲渡費についての被告の認定について当事者間に争はな
い。)し、これに租税特別措置法三一条を適用して行つた本件各決定処分に何らの
違法はなく(税額計算にも誤りはない。)、又以上認定の事実のもとでは本件各無
申告加算税賦課決定処分についても違法の点はない。
よつて原告の本訴請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負
担については行政事件訴訟決七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決
する。
(裁判官 乾 達彦 國枝和彦 市川正巳)
別表一~四(省略)

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