弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     原審における未決勾留日数中五十日を右本刑に算入する。
     本件公訴事実中、強姦未遂の点は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人坂谷由太郎および被告人提出の各控訴趣意書記載のと
おりであるから、ここにこれを引用する。
 右弁護人の控訴趣意第一点および被告人の控訴趣意(いずれも事実誤認)につい

 各所論は、原判示当時被告人と被害者Aとは、いわゆる内縁の夫婦関係を結んで
いたのであるから、かかる身分関係あるものに対しては、強姦罪の成立する余地な
く、従つて、それにもとづいての本件恐喝罪の成立する理由もない。かりに然らず
としても、被告人には、本件各犯行についての犯意がなかつたものであるとして、
いずれも事実誤認を主張する。
 <要旨>しかし、刑法第百七十七条にいう強姦罪の客体は、婦女たることを要し、
又これを以て足り、その身分関係の如何は、同罪の成立には何等消長なきも
のと解するを相当とするから、各所論前段の主張は到底採用し得ない。
 そこで、各所論後段について按ずるに
 (一) 原判決か判示第一事実として認定するところは、被告人は、昭和二十九
年十二月下旬頃からA(昭和五年九月二十九日生)と慇懃を通じ、将来を誓い合つ
ていたが、翌三十年二月上旬頃に至り、同女が自己と結婚する意思のないことを聞
き知り、内心穏かならぬものがあつたところ、同三十年二月八日午前十一時半頃上
川郡a村b町の鉄道線路踏切附近を通行中の右Aを認めるや、同女を伴い、同村c
町所在の旧B工場宿舎C方茶の間に誘い込み、同日午後四時半頃までの間、或はそ
の非を詰問し、或は懇請して同女の気持を確かめたが、遂に婚姻の意思なきことを
知るにおよび、自己の純情をふみにじられたものと考え寧ろ同女を姦淫して欝憤を
はらそうと決意し、嫌がる同女の手を掴み同所奥六畳の間に連行し、同女に対し
「お前も俺にいたずらしたんだから俺もいたずらしてやるんだ」と申向け、同女を
布団の上に仰向けに押倒し、その体に斜めに乗り、右手を同女の首の下に廻してそ
の右手首を掴み、左手で同女のスボンをずりおろしその反抗を抑圧し、強いて姦淫
しようとしたが、同女が容易に応じなかつたためその目的を遂げなかつたものであ
るというにありその挙示する証拠を総合すると、被告人に姦淫の意思のあつたこ
と、そのためAを原判示六畳間に連行し、そこに敷いてあつた布団の上に仰向けに
押倒し、原判示のような行為に出たことは首肯し得る。
 しかし、右証拠中被告人およびAの各調書ならびに検証調書を仔細に検討し、こ
れに当審で取調べた証人Aの証言を併せ考えると、被告人とは一ケ月余の期間では
あつたが互に将来を誓つて慇懃を通じ合い、一旦は心中までしょうとした仲にあつ
たAがにわかに被告人をうとんじはじめたのに対し、被告人は、或はその理由を正
し、或はその飜意を求めて同女と数時間に亘つて話しつづけたにもかかわらず、つ
いに同女の飜意を得られなかつたので、同女に対する最後の未練として右行為に出
たものと見られないでもないこと、一方Aにおいても、被告人と別れる気持になつ
たのは、もともと同女の友人からの忠告を信じてのことにすぎず、心底から被告人
を嫌悪していたものとは認められないこと、されば、被告人の右行為に遭遇した同
女は、これを極力避けようとすれば、同所から廊下一つ距てた隣室に脱出し、容易
に救を求め得られる状態にあつたにもかかわらず、敢えてこの挙に出ることなく、
単に身もだえ、言葉のうえで拒否しつづけてはいたが、被告人とはこれまでの関係
もあり、いざとなれば身を委せてもよいと考えていたこと、しかるに、被告人は、
たやすくAの言葉を容れて、更に進んで特別の姿態に出ることもなく同女を解放し
て、所期の目的を遂げようとしなかつたこと等が窺える。これ等の事実からする
と、被告人の右行為は、Aの抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであるとは認
め難く、寧ろ、同女が応ずれば姦淫しようとする程度のものに止まり、その応諾が
ないにもかかわらず、強いてこれを遂げようとする意思のもとになされた行為では
なく、従つて被告人には強姦の犯意がなかつたものとみるのが相当である。
 (二) しかし、原判示第二および第三においては、原判決挙示の証拠を総合す
ると、被告人は、前示の事情に藉口して夫々原判示のように申向ければ、Aが畏怖
して被告人の要求に応ずることを意識しながら、同女から原判示第二のようにして
現金千円の交付を受け、同第三のようにして現金二千円の交付を受けようとして遂
げなかつたことを認めるに足る。被告人の供述中右認定に反する部分は措信し得
ず、その他記録を精査するも右認定を左右する証拠がない。
 されば、原判決には原判示第二および第三においては事実の誤認ありとはいえな
いが、原判示第一においては、判決に影響をおよぼすこと明らかな事実の誤認があ
る。而して原判決は右判示第一の所為とその余の所為とを併合罪として一個の刑を
科しているのであるから、全部破棄を免れない。結局論旨は理由がある。
 よつて弁護人その余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七
条第一項、第三百八十二条により原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い当審に
おいて更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は
 第一、 昭和三十年二月八日上川郡a村c町所在の旧B工場宿舎C方茶の間にお
いて、折角将来を誓い合い屡屡慇懃を通ずる仲であつたA(昭和五年九月二十九日
生)が、一ケ月余もたたないうちに被告人を見かぎる態度に変じたのを或は詰問
し、或は懇請してその飜意を促すところがあつたが、同女にはついに被告人と婚姻
する意思のないことを知るにおよび、未練の情愈々募り、一旦は、同女を同所奥六
畳の間に連行し、同女に対し「お前も俺にいたずらしたんだから俺もいたずらをし
てやるんだ」と申向け、同女を布団の上に仰向けに押倒し、その体に斜めに乗り、
右手を同女の首の下に廻してその右手首を掴み、左手で同女のズボンをずりおろ
し、やがて応ずれば姦淫しようとしたが、同女の哀願もあり、被告人も亦強いて姦
淫しようとする意思がなかつたのでこれを止めて再び前記茶の間に伴い来たつたも
のの、このまま同女との関係を絶つに忍び難く、寧ろこの機を利して同女から金員
を喝取するにしかずと決意し、同女に対し「金を貸せ」「俺はお前を叩いたり、殺
したりはせんが、お前が何処へ行つても精神的に苦しめてやる」「一万円都合して
くれ」等申向け、前記行為の直後ではあり若しこの要求に応じない場合は、如何な
る危害を加えられるかも知れない旨暗示して同女を畏怖させ、よつて即日同村d村
e区の同女方前路上において、同女から現金千円の交付を受けてこれを喝取し
 第二、 翌九日以来連日に亘り、右Aを訪れ、同女に対し「俺と一緒に行くか、
それともおとしまえにするか」等と申向け、結婚しなければ金を出せと要求して同
女を困惑させていたが、同月十三日同村c町附近道路上において、同女に対し「お
としまえはぬきにして、二千円貸して呉れ、十一時までに駅に持つて来い、きれい
に別れてやる」と申向け、これに応じなければ、如何なる危害を加えられるかも知
れない旨暗示して同女を畏怖させて、金員を喝取しようとしたが、同女がこれに応
じなかつたため、その目的を遂げなかつた
 ものである。
 (証拠の標目)
 一、 当番証人Aの供述を追加したほかは、原判決摘示のとおりであるから、こ
れを引用する。
 (累犯となるべき前科)
 被告人は、昭和二十七年九月六日札幌地方裁判所において窃盗罪により懲役一年
の刑に処せられ、当時その刑の執行を受け終つたものであり、右の事実は、検察事
務官作成の前科調書によつて明らかである。
 (法令の適用)
 被告人の判示第一の所為は刑法第二百四十九条第一項に、判示第二の所為は同法
第二百四十九条第一項、第二百五十条に該当するところ被告人には、前示前科があ
るので、同法第五十六条、第五十七条により夫々累犯の加重をなし、右は同法第四
十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条、第十四条に則り犯情の重
い判示第一の恐喝罪の刑に法定の加重制限をなした刑期範囲内で被告人を懲役六月
に処し、同法第二十一条により原審における未決勾留日数中五十日を右本刑に算入
し、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書に従い原審ならびに当審における訴訟費用
は被告人に負担させないこととする。
 本件公訴事実中、被告人が昭和三十年二月八日午後四時半頃上川郡a村c町所在
の旧B工場宿舎C方奥六畳の間で、かねて慇懃を通じ、将来を誓い合つていたAに
対し、同女がわずか一ケ月余で被告人と婚姻する意思がなくなつたことに腹立て寧
ろ姦淫をしてこの欝憤をはらそうと決意し「お前も俺にいたずらしたんだから俺も
お前にいたずらしてやるんだ」と申脅し、布団の上に同女を仰向けに押倒し馬乗り
となり、右手で同女の右手を掴み左手で同女のズボンをずりおろし、その反抗を抑
圧して強いて姦淫しようとしたが同女において容易に応じなかつたため、その目的
を遂げなかつたとの旨の点については、前説示のとおり、被告人には強姦の犯意が
なく、従つて罪とならないところ、右は判示第一および第二の各所為と併合罪の関
係にあるから、刑事訴訟法第四百四条、第三百三十六条により、この点につき被告
人に対し無罪の言度をなすべきものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

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