弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告らは,原告Aに対し,連帯して2309万7122円及びこれに対する平成12
年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告Bに対し,連帯して2309万7122円及びこれに対する平成1
2年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告らに生じた費用の2分の1と被告Cに生じた費用を被告Cの
負担とし,原告らに生じたその余の費用と被告Dに生じた費用を被告Dの負担
とする。
事実及び理由
第1 被告Dに対する請求について
1 請求
 (1) 被告Dは,原告Aに対し,被告Cと連帯して3335万9047円及びこれに対する
平成12年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 被告Dは,原告Bに対し,被告Cと連帯して3335万9047円及びこれに対する
平成12年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 事案の概要等
  本件は,被告らの暴行等によって死亡した日系ブラジル人訴外Eの両親である原
告らが,被告らに対して,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
  (1) 争いのない事実等(認定にかかる事実については証拠を掲げる。なお,争いのな
い事実であっても参考のため証拠を掲げている部分がある。)
   ア 訴外Eは,昭和55年4月5日,原告らの息子として,ブラジル連邦共和国サンパ
ウロ州プレジデンテ・ベルナルデス市において出生し,17歳で現地の学校「プ
レジデンテ・ベルナルデス」を中退し,平成9年8月24日,来日した(原告B本
人,甲1)。
   イ 訴外Eが来日した際,同人の父,姉が既に日本に来ており,同年10月には,同
人の母も来日した。訴外Eの在留資格は「定住者」(出入国管理及び難民認定
法別表第二)であり,入国当初在留期間は1年であったが,死亡時には在留期
間は3年となっていた(原告B本人,甲8)。
   ウ 訴外Eは,平成9年12月,栃木県黒磯市に転居し,有限会社アルファコーポレ
ーションという人材派遣会社に勤務し,同社からブリヂストン栃木工場に派遣さ
れ,平成11年には,給与として年間395万0625円の支給を受けていた。しか
し,平成12年9月初旬,前月に起こした交通事故を理由にブリヂストンを解雇
された(原告B本人,甲5)。
   エ 被告らが,平成12年9月10日午前3時ころ,宇都宮市a町で女性を交際等に誘
ういわゆる「ナンパ」をしていたところ,訴外Eを含むブラジル人6名に大声でし
つこくやじられたために,被告Cがブラジル人らに対して詰め寄っていったが,
逆にブラジル人らに取り囲まれて倒される暴行を受けた。
     ところが,被告らの仲間が加勢に現れたために,ブラジル人らは一斉に逃げ始め
たが,被告Cは,逃げ出したブラジル人らに対し,何としてでも仕返しをしようと
考え,被告Dも被告Cの意図を知り被告Cに加勢しようと考えた。被告らは,逃
げ遅れた訴外Eを捕まえ,共謀の上,こもごも同人の顔面や腹部等を多数回に
わたり足蹴りするなどの暴行を加え,さらに,訴外Eから逃げたブラジル人らの
行方を聞き出そうと考え,訴外Eを車に連れ込み,宇都宮市b町まで移動し,同
所において,同人に対し,被告Cがその顔面を足蹴りし,被告Dがカッターナイ
フでその右太腿を切るなどの暴行を加えた。
     訴外Eは,被告らのかかる暴行により脳挫傷等の傷害を負い,同月13日午後4
時30分ころ,済生会宇都宮病院において,脳挫傷等により抵抗力及び免疫機
能が低下したために発症した肺炎により死亡した(甲3,4,7,乙2)。
   オ 原告らは,訴外Eの両親として,同人の有した権利義務を各2分の1ずつの割合
で相続した(弁論の全趣旨)。
  (2) 争点
本件の争点は,被告らの不法行為によって生じた損害がいくらかである。
  (3) 原告らの主張
 本件により,訴外Eに生じた損害及び原告らに生じた損害は次のとおりである。
ア 逸失利益
訴外Eは,人材派遣会社である有限会社アルファコーポレーションに所属し,
同社からブリヂストン栃木工場に派遣され,同工場で稼働していたが,アルファ
コーポレーションからは,年額(平成11年度)395万0626円の給与を受けて
いた。また,訴外Eは,死亡当時20歳であり,就労可能年数47年に相当するラ
イプニッツ係数は17.981である。したがって,逸失利益は,当時の年収に所
定のライプニッツ係数を乗じ,生活費としてその50パーセントを控除した3551
万8094円となる。
   イ 慰謝料
被告らの行為は極めて残虐であり,訴外Eに発生した慰謝料は3000万円
が相当である。
   ウ 葬儀費用
葬儀費用は120万円である。
  (4) 被告Dの主張
    ア,イは不知。ウは認める。ただし,訴外Eは,平成12年9月初旬に交通事故を理
由にブリヂストンを解雇されている。また,本件は被告Cと外国人グループとの喧
嘩闘争に関連して偶発的に発生したものであり,損害額の認定に際して斟酌され
たい。
3 当裁判所の判断
  (1) 被告らの暴行等により訴外Eが死亡したことは原告らと被告Dとの間では争いが
ない。本件では,訴外Eの死亡による損害額が争点である。
  (2) 逸失利益について
   逸失利益は,事件による死亡の事実がない場合に被害者が将来得たであろう収
入を根拠として算出されるものであるから,その数式は,「年収×(1-生活費控
除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」となる。
   本件においては,前記「争いのない事実等」によれば,訴外Eは本件事件当時は
ブリヂストン栃木工場を解雇され,新たな派遣先が見つからない状態であったの
であるから,所属は確かに派遣会社であるとはいえ,実質的には収入がない状態
にあったと解するのが相当である。また,前記「争いのない事実等」によれば,訴
外Eは,17歳でブラジルの学校を中退し,来日したのであるから,その最終学歴
は,学習内容等については彼我の差があることが窺われるものの,その年齢から
いって,日本における高等学校に相当する教育機関を中途で退学したと解するの
が相当であり,かかる点からすれば逸失利益を算出する基礎となる年収について
は,中卒男性労働者の平成12年の賃金センサスによるのが相当であり,その額
は305万2900円である。
   生活費控除率については,死亡当時,訴外Eは独身であり,原告B本人尋問の結
果によれば,原告らと栃木県黒磯市で同居していたことが認められるから,0.5と
解するのが相当である。
   就労可能年数については,訴外Eがブラジル国籍を有する外国人であることから
問題となるが,訴外Eは「定住者」の在留資格を有しており,出入国管理及び難民
認定法上,「定住者」は,「日本人の子として出生した者の実子に係るもの」(平成
2年法務省告示第132号3項),「日本人の子として出生した者でかって日本国民
として本邦に本籍を有したことがあるものの実子の実子」(同4項)等がこれに該
当するとされ,在留活動の範囲についての制限はなく,日本においてあらゆる活
動に従事することができる(同法19条参照)とされている。したがって,「定住者」
については,同法別表第1に定める在留資格よりも日本との結びつきは強いとい
うことができ,早期に出国することが明らかな場合などを除いて,就労可能年数は
日本人の場合と同様に解するのが相当である。本件についてみるに,証拠(原告
B本人)及び弁論の全趣旨によれば,訴外Eの在留期間は死亡時には外国人の
在留期間としては最長の3年となっていたこと,原告らをはじめ,家族のほとんど
は日本に来ており,父親である原告Aがブリヂストンに勤務するなど,その生活の
本拠は日本にあったと評価しうること,また,特に訴外Eらが早期に帰国する予定
もなかったことが認められるのであるから,訴外Eの就労可能年数は日本人と同
様に算出すべきである。しかしながら,我国における就労可能年数は日本人の平
均寿命を前提に算出されており,我国が世界史上稀にみる高齢化社会であること
からすれば,母国における平均寿命をもとに就労可能年数を計算し直すことが必
要であり,そして,本件においては訴外Eの母国であるブラジル連邦共和国にお
ける男性の平均寿命は64.7歳(1997年;公知の事実)であることから,就労可
能年数は,「67歳×64.7歳÷77.64歳」で算出されるべきであり,55歳(小数
点以下切り捨て)となる。したがって,就労可能年数に対応したライプニッツ係数
は16.3741となる。
 以上より,訴外Eの死亡による逸失利益は,「305万2900円×(1-0.5)×1
6.3741」で算出され,2499万4244円と認められる。
  (3) 慰謝料について
証拠(原告B本人,甲1,3,7,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件におい
ては,訴外Eが20歳という,将来に多くの夢と希望を抱いていたであろう時に,無
惨にも,突如として生命を奪われていること,被告らの暴行は,訴外Eの顔面,頭
部,腹部を多数回蹴りつけ,肉親でさえ見分けがつかないほどに顔が変わるまで
行われており,訴外Eが血だらけとなり意識を失ってからも,カッターナイフで斬り
つけるなど,激しくかつ執拗なものであったこと,その後,訴外Eは,全裸で道路上
に遺棄され,3日半ほどの間死線をさまよった末,無念にもこの世を去ったことな
どの諸事情が認められる。一方,今回の事件は,訴外Eを含めたブラジル人グル
ープが被告Cをからかい,詰め寄った被告Cに対して暴行を加えたことが発端とも
なっているとの事情も認められる。
以上のほか,本件口頭弁論に提出された一切の事情を考慮すれば,訴外Eの
死亡に対する慰謝料は2000万円と換算するのが相当である。
 (4) 葬儀費用
弁論の全趣旨によれば,本件と因果関係のある葬儀費用は120万円が相当
であり,原告らが各2分の1ずつ出損したことが認められる。
 (5) 結論
したがって,訴外Eの死亡により生じた損害額は4619万4244円であり,逸失
利益と慰謝料については,原告らが各2分の1相続し,葬儀費用については,原
告らが被った損害として,結局,原告ら各自は,被告Dに対して,それぞれ2309
万7122円の損害賠償請求権を有することが認められる。
第2 被告Cに対する請求について
1 原告らは,「(1)被告Cは,原告Aに対し,被告Dと連帯して3335万9047円及びこ
れに対する平成12年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。(2)被告Cは,原告Bに対し,被告Dと連帯して3335万9047円及びこれに対す
る平成12年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」という
判決を求め,請求原因として,別紙請求原因事実記載のとおり述べた。
2 被告Cは,適式の呼出しを受けながら本件口頭弁期日に出頭せず,答弁書その他
の準備書面も提出しないから,請求原因事実を明らかに争わないものと認め,これ
を自白したものとみなす。
3 損害額については,裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相
当な損害額を認定することができるから,前記第1の3と同様,原告ら各自は,被告
Cに対して,それぞれ2309万7122円の損害賠償請求権を有することが認められ
る。
第3 結語
  以上によれば,原告らの本訴請求は,原告ら各自が,被告らに対し,連帯して2309
万7122円宛及びこれに対する不法行為日である平成12年9月10日から支払済み
まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるか
らその範囲で認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
(平成13年7月5日 被告Cにつき口頭弁論終結,同年8月30日 被告Dにつき口頭弁
論終結)
宇都宮地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官   永田誠一 
裁判官   林 正宏
裁判官   宮田祥次
(別紙)
請求原因事実
1.訴外Eは,平成12年9月10日午前3時20分ころ,宇都宮市a町b番c号ベビーショッ
プe南側路上において,被告らから,顔面・頭部等を手拳で殴られる,足で蹴られる等
の暴行を受け,「脳挫傷」,「脳腫脹」,肺背側硬結(肺炎)」の傷害を負い,同月13日
午後4時30分,「脳挫傷による肺炎」により済生会宇都宮病院において死亡した。
2.被告らは,上記暴行の後,上記現場から自家用トラックの荷台に瀕死の訴外Eを乗
せ,同人を全裸にして,JR宇都宮駅西口まで運び,同所で訴外Fらに命じて,宇都宮
市a通りb丁目c番d号eハイツ東側まで運ばせ,同所の路上に同人を放り出して放置し
た。
3.原告らは訴外Eの両親であり,訴外Eが死亡したことにより,同人の権利義務を各2分
の1ずつの割合で相続した。
4.訴外Eに発生した損害は以下のとおりである。
 (1) 逸失利益
3551万8094円
(2) 慰謝料
3000万円
5.原告らには葬儀費用120万円の損害が生じており,各2分の1ずつ出捐している。
6.よって,原告ら各自は,被告らに対し,連帯して不法行為に基づく損害賠償として333
5万9047円及びこれに対する不法行為日である平成12年9月10日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

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