弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人らに対して平成五年九月二〇日付けでした公文書非公開決定
処分を取り消す。
三 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 控訴人ら
主文と同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人らは、平成五年九月七日、兵庫県の「公文書の公開等に関する条例(昭
和六一年兵庫県条例第三号。以下「本件条例」という。)」に基づいて、被控訴人
に対し、控訴人Aの平成五年五月七日の分娩に関し「とみた産婦人科」から兵庫県
社会保険診療報酬支払基金に提出され須磨社会保険事務所に送付された診療報酬明
細書(以下「本件公文書」という。)の公開を求めた。
2 被控訴人は、平成五年九月二〇日、本件公文書の公開を行わないことを決定し
た(以下「本件処分」という。)。
その理由は、本件条例第八条は「個人の健康状態等心身の状況等に関する情報であ
って、特定の個人が識別され得るもののうち、通常他人に知られたくないと認めら
れるもの」(第一号)については公開しないことができる旨を規定しているとこ
ろ、本件公文書は同号所定の公文書に該当するというものであった。
3 控訴人らは、平成五年一〇月一四日、被控訴人に対し本件処分につき異議を申
し立てたが、被控訴人は、平成六年二月九日付け決定で右異議申立を棄却した。
4 しかし、本件条例第八条第一号は特定の個人(以下「当該本人」という。)の
プライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるから、公開を求める当該本人
のプライバシーに属する事項を記載した本件公文書は同号には該当せず、また、い
わゆる個人情報保護条例が未だ制定されていないからといってその公開を拒むこと
はできないというべきであり、本件処分は違法である。
よって、控訴人は、被控訴人がした本件処分の取り消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の事実は認める。
同4の事実中、本件条例第八条第一号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定
されたものであること、個人情報保護条例が未だ制定されていないことは認める
が、その他の点は否認する。本件公文書は、控訴人Aの健康状態等心身の状況等に
関する情報であり、当該本人が識別され得るもので、通常他人に知られたくないと
認められるものが記録されている公文書であるから、本件条例第八条第一号に該当
するものであることは明らかである。それが公開を求める当該本人のプライバシー
に属する事項を記載した公文書であるからといって、同号所定の公文書でなくなる
わけではない。もともと、公文書の公開を請求する権利と自己情報の開示を請求す
る権利とは別個のものであり、本件条例によって非公開の対象となった自己情報
は、いわゆる個人情報保護条例が制定されてはじめて具体的な権利としてその開示
を請求することができることとなるものである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがないので、以下、本件公文書が
本件条例の第八条一号に該当するかどうかについて検討する。
1 乙七号証によれば、本件条例は、「公文書の公開を請求する権利を明らかにす
るとともに、公文書の公開及び情報提供の推進に関して必要な事項を定めることに
より、地方自治の本旨に即した県政の推進と県民生活の向上に寄与することを目
的」として制定されたものであることが認められ、これが、公文書は広く一般に公
開されるべきであるとの原則を宣明するものであることは明らかというべきである
が、一方、すべての公文書を公開することから生じる諸般の不都合を考慮して、特
定の公文書に限って例外的に非公開とすることにより、そのような不都合の発生を
回避するよう配慮していることも認められるのであって、それが本件条例第八条各
号の規定にほかならないと解することができる。
そうすると、第八条各号の規定は、右のとおり例外的規定であるから、その規定の
趣旨に即してできる限り狭く解するのが相当であり、これを拡張して解釈したり、
その文理にこだわって規定の趣旨を無視するような解釈をすることは厳に慎むべき
であるといわなければならない。
2 そこで、本件条例第八条第一号により公開しないことができるとされている公
文書について考えるに、「個人の思想、宗教、健康状態、病歴・・・等に関する情
報であって、特定の個人が識別されるもののうち、通常他人に知られたくないと認
められるもの。」がこれに当たると規定されていることからすれば、いわゆる個人
のプライバシーの保護を趣旨とするものであることが明らかであって、公文書公開
の原則といえども個人のプライバシー保護の要請の前には道を譲るべきであるとし
たものにほかならない。
このことは、反面、個人のプライバシー保護の要請が存在しない限り、たとえ個人
情報の記載された公文書であっても、原則に戻って公開としなければならないこと
を意味するのであって、形式的に同号の規定に該当するという理由でこれを非公開
とするのは相当でないといわなければならず、いわゆる個人情報保護条例が制定さ
れているかどうかによってその結論が左右されるものではないというべきである。
すなわち、本件条例第八条第一号の規定は、そこに記載されている個人情報が当該
本人以外の者に公開されることによって当該本人のプライバシーが侵害されるのを
防止することをもってその趣旨とするものであり、その趣旨からすれば、公開を請
求する当該本人の個人情報を記載した公文書は同号所定の公文書には含まれないも
のと解するのが相当であり、当該本人からの請求であるにもかかわらず、形式的に
同号所定の公文書に該当するとしてその公開を拒むのは、制度の趣旨を無視し、文
理にとらわれた形式論というよりほかはない。
3 いま、これを本件について考えるに、本件公文書は控訴人Aの「とみた産婦人
科」での分娩に関する診療報酬明細書であり、同控訴人の個人情報に関する公文書
であって、そのプライバシーの保護が要請されるのはもつぱら同控訴人の利益のた
めであるから、同控訴人が自ら本件公文書の公開を請求する場合には、プライバシ
ー保護の要請はなんら存在せず、これを非公開とすべき理由はないといわざるをえ
ないのであって、この場合、本件公文書は本件条例第八条第一号の公文書に該当す
るものではないというべきである。
そうすると、本件処分は、本件公文書が本件条例第八条第一号に該当しないのに、
該当するとしてなされたものであり、かつ、これを公開することにより生ずるその
他の具体的弊害、被控訴人の事務事業の公正円滑な執行に障害が生ずるなどの不都
合については被控訴人の主張立証しないところであるから、違法の行政処分という
よりほかはない。
二 よって、これと異なる原判決は不当であって本件控訴は理由があるので、原判
決を取り消した上、控訴人らの請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、
行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決す
る。

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