弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 (当事者双方の主張)
 一 被控訴人の請求原因及び主張
 1 被控訴人は静和産業株式会社(以下「静和産業」という)に対し、別紙売買
代金目録(1)記載のとおり、昭和六〇年九月一二日から同年一〇月四日までの間
に、生コンクリート合計二二五・五立方メートルを代金合計金一七七万一三〇〇円
で、また別紙売買代金目録(2)記載のとおり、同月九日から同月二九日までの間
に、生コンクリート合計一三〇五・五立方メートルを代金合計金一一八〇万五四二
五円で、さらに別紙売買代金目録(3)記載のとおり、同月二一日、生コンフリー
ト三五立方メートルを代金四一万四七五〇円で、いずれも売り渡した(右売買代金
総計金一三九九万一四七五円の債権を以下「1の債権」という)。
 2 静和産業は株式会社日創(以下「日創」という)に対し、右期間内に右生コ
ンクリートを代金合計金一四二二万六三七五円で売り渡した(この債権を以下「2
の債権」という)。
 3 そこで、被控訴人は昭和六〇年一一月二八日東京地方裁判所に対し、1の債
権を請求債権とし、2の債権のうち1の債権額に満るまでの債権に対し債権仮差押
命令の申立てをしたところ(同裁判所昭和六〇年(ヨ)第八〇九三号・以下「1事
件」という)、同裁判所は同日仮差押決定をし、右決定正本は、同月二九日第三債
務者日創に、同年一二月一三日債務者静和産業にそれぞれ送達された。
 4 次いで、被控訴人は昭和六一年六月二八日東京地方裁判所に対し、2の債権
から中間利潤金二三万四九〇〇円を差し引いた金一三九九万一四七五円について、
1の債権にかかる動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、債権差押転
付命令の申立てをしたが(同裁判所昭和六一年(ナ)第一二五一号、同年(ヲ)第
四八五九号・以下「2事件」という)、同裁判所は同年七月一九日右申立てを却下
する旨の決定をしたので、被控訴人はさらに同月二五日東京高等裁判所に対し執行
抗告の申立てをしたところ(同裁判所昭和六一年(ラ)第四八九号)、同裁判所は
昭和六二年三月四日原決定を取り消したうえ、債権差押転付命令を発し、右決定正
本は、同月六日第三債務者日創に、同年四月一二日債務者静和産業にそれぞれ送達
された。
 5 一方、控訴人は昭和六一年六月二八日東京地方裁判所に対し2の債権につき
債権差押命令の申立てをしたところ(同裁判所昭和六一年(ル)第三二八一号・以
下「3事件」という)、同裁判所は同月三〇日債権差押命令を発し、右決定正本
は、同年七月一日第三債務者日創に、同月一五日公示送達の方法により債務者静和
産業にそれぞれ送達された。なお、控訴人の後記二の2の主張事実は認める。
 6 このため、日創は昭和六一年九月一一日、民事執行法一五六条二項に基づ
き、金一二七八万二六七三円を東京法務局に供託したうえ(同法務局昭和六一年金
六四二八二号)、同月二二日東京地方裁判所に対し事情届を提出した。
 7 そこで、東京地方裁判所は配当事件として(同裁判所昭和六一年(リ)第一
三七八号)手続を進め、別紙配当表記載のとおり、配当表を作成して、同年一〇月
二九日配当期日を開いたところ、被控訴人は控訴人の配当額について異議を述べ、
かつ、本件配当異議の訴えを提起した。
 8 被控訴人の異議についての法律上の主張は、次のとおりである。
 被控訴人は、2の債権に対し仮差押えの執行をしたうえ、配当要求の終期である
第三債務者の供託時までに、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、
担保権を証する文書を提出し、債権差押転付命令の申立てをした。その後右債権差
押転付命令を取得し、同決定正本は第三債務者である日創に送達されたのであるか
ら、右転付命令は日創のした本件供託金について効力が生じたものというべきであ
る。したがつて、被控訴人が本件供託金につき優先弁済権を有することは明白であ
る。
 9 よつて、東京地方裁判所が前記配当事件につき作成した配当表のうち、「控
訴人に対する交付額八八四万五五四二円」を「被控訴人に対する交付額八八四万五
五四二円」に変更することを求める。
 二 控訴人の答弁及び主張
 1 請求原因1、2の事実は知らない。同3ないし7の事実はいずれも認める。
 2 控訴人は静和産業に対し、(1)昭和六〇年五月二二日から同年六月二〇日
までの間に、生コンクリート金七四五万七八〇〇円相当と砂・砂利等金一万六〇〇
〇円相当を、(2)同月二一日から同年七月二〇日までの間に、生コンクリート金
七一〇万二九二五円相当と砂・砂利等金五万八〇〇〇円相当を、(3)同月二一日
から同年八月二〇日までの間に、生コンクリート金六六六万八三二五円相当と砂・
砂利等金一六万二六五〇円相当を、(4)同月二一日から同年九月二〇日までの間
に、生コンクリート金九一六万三九七五円相当を、(5)同月二一日から同年一〇
月二〇日までの間に、生コンクリート金三四二万六九〇〇円相当を、(6)同月二
一日から同年一一月二日までの間に、生コンクリート金一一万六一〇〇円相当をい
ずれも売り渡した。そして、控訴人は右代金債権のうち残額三〇八〇万九〇七五円
について確定判決を得たうえ、被控訴人主張のとおり、3事件により、2の債権に
つき差押命令を得たのである。
 3 控訴人の法律上の主張は、次のとおりである。
 被控訴人のした仮差押えの執行は、一般債権を保全する効力しか有せず、右仮差
押えの執行が、先取特権に基づく物上代位権の行使としての、民法三〇四条一項但
書にいう差押えに該当するということはできない。そして、被控訴人は、動産売買
先取特権に基づく物上代位権の行使としての差押転付命令の申立てをしたとはい
え、これを却下されたのであるから、その優先権を確保しようとするならば、配当
要求の終期までに、改めて担保権を証する書面を提出して、配当要求をすべきであ
つたのである。しかるに、被控訴人はこのような手続をしなかつたのであるから、
その後においてその主張のような転付命令を得たとしても、本件配当手続において
優先弁済権を主張することはできない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 一 請求原因3ないし7の各事実、及び控訴人の主張2の事実については、いず
れも当事者間に争いがない。
 そして、成立に争いのない甲第一号証によれば、請求原因12の各事実を認める
ことができ、右認定に反する証拠はない。
 二 右認定事実によると、被控訴人は2の債権のうち1の債権の金額に満るまで
の債権について、動産売買先取特権に基づく物上代位権を有していることが明らか
である。
 そして、また右認定事実によると、被控訴人は昭和六1年六月二八日東京地方裁
判所に対し、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、2の債権のうち
一の債権額に相当する債権について、債権差押転付命令の申立てをしたが、右申立
ては同裁判所で却下され、東京高等裁判所への執行抗告の後、右裁判所が原決定を
取り消したうえ、債権差押転付命令を発布したのは、昭和六二年三月四日であると
ころ、第三債務者である日創は、すでに昭和六一年九月一一日に民事執行法一五六
条二項に基づき金一二七八万二六七三円を東京法務局に供託したというのであるか
ら、右供託金に相当する債権については、第三債務者日創の債務者静和産業に対す
る債務としては消滅した結果、被控訴人が取得した右債権差押転付命令のうち、右
供託金に相当する債権については、債権不存在により、その効力が生じなかつたと
いわなければならないし、また、右債権差押転付命令が右供託金に対してその効力
が及んでいるということもできない。
 したがつて、2事件につき東京高等裁判所により債権差押転付命令が発布された
ことを、本件配当異議の理由とすることはできない。
 三 ところで、民事執行法(以下単に「法」という)一六五条によると、控訴人
による差押債権に配当加入するためには、同条が定める配当要求の終期までに、差
押え、仮差押えの執行又は配当要求をしなければならないとされている。そして、
前記認定の事実によると、本件における配当要求の終期は、第三債務者である日創
が本件供託をした昭和六一年九月一一日であることが明らかである。また、優先弁
済権を有する債権者であつても、右差押債権に対して配当加入するためには、法一
六五条の方法によらなければならないことはいうまでもない。
 1 そこでまず、被控訴人が差押えをしたかどうかの点について判断するに、被
控訴人の差押命令は本件供託金に対してその効力が生じていないのみならず、前記
認定の事実によると、被控訴人の申立てに基づき東京高等裁判所から発布された差
押命令が第三債務者である日創に送達されたのは、昭和六二年三月六日であつて、
それが本件配当要求の終期である昭和六一年九月一一日より後であることは明らか
であるから、被控訴人は法一六五条にいう差押えをしたものに該当しないといわな
ければならない。
 2 次に、被控訴人が仮差押えの執行をしたかどうかの点については、なるほど
被控訴人は1事件について東京地方裁判所から仮差押決定を取得し、その執行をし
たことが認められるが、被控訴人は一般債権者の地位に基づいて右仮差押えの執行
をしたにすぎないから、被控訴人は右仮差押えの執行をしていても、一般債権者と
しての地位に基づき配当加入をなしうるだけであつて、右仮差押えの執行を根拠に
優先弁済権を主張することはできない。
 3 さらに、被控訴人が配当要求をしたかどうかの点について検討する。
 動産先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、その配当要求の終期まで
に、担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求をなす外、こ
れに準ずる先取特権行使の申出をした場合も、前記配当要求をしたという要件を充
足するものというべきである(最高裁判所昭和六〇年(オ)第二三二号、同六二年
四月二日第一小法廷判決・判例時報一二四八号六一頁参照)。
 しかるところ、被控訴人が本件配当要求の終期までに、配当要求をしたとの点に
ついては、何ら主張立証がない。
 また、右仮差押えの執行について、先取特権者として権利を行使する旨の意思表
示を執行裁判所にしたとの点についても、主張立証がない。
 <要旨>そこで次に、2事件について被控訴人が動産売買先取特権に基づく物上代
位権の行使として、債権差押転付命令の申立てをした時に、その申立てをも
つて先取特権に基づく配当要求をしたことに準ずる取扱いをなしえないかというこ
とが問題となる。本来債権差押命令は、第三債務者に送達されなければ、その効力
が生じないが(法一四五条四項)、差押えの申立時に配当要求の効力を認めようと
する見解も少なくない。しかしながら、当裁判所は、差押えが申し立てられたのみ
で未だ差押えの効力が生じていないのに、それに配当要求に準じた効力を認めよう
とするのは相当でないと判断する。その理由は次のとおりである。即ち、(1)配
当要求は、執行裁判所に対して、配当要求を理由づける債権の原因及び額を記載し
た書面を提出してすることになるが(民事執行規則一四五条、二六条)、その際ど
の差押事件に配当要求するのかも当然に明らかにしなければならない。ところが、
差押えの申立書に配当要求をなすべき差押事件の記載がなされるはずがない。また
債権差押命令を発布する管轄執行裁判所は、原則として債務者の普通裁判籍の所在
地によつて定まるところ(法一四四条一項)、それが必ずしも一つであるとは限ら
ない。しかも第三債務者による陳述は常になされるわけではないから(法一四七条
一項参照)、配当裁判所が第三債務者の陳述によつて、後行の差押えの申立てがな
されたこと及びその申立ての時期を常に知り得るとはいえない。したがつて配当要
求の終期の時点では未だ差押えの申立てをしたにすぎない者にまで配当加入を認め
ようとすると、そのような者が存在することを配当裁判所は必ずしも容易に把握で
きず、またこのような場合に備えた手続規定も存しないのであるから、通常事情届
に基づいて配当を実施すれば足りる配当裁判所にあつては、配当を受けるべき債権
者をすべて把握できない事態が起こりうる。このような事態を招来することとなる
見解は、執行事件の手続の安定を阻害するものであり、簡明な手続きにより迅速円
滑な執行を図ろうとする民事執行法の基本的な考え方とはなじまないものというべ
きである。なおこのため差押命令の発令裁判所が同一である限りにおいて、後の差
押えの申立てにも配当要求の効力を認めようとする見解も生ずるのであるが、この
ような見解は便宜的にすぎるというべきである。(2)差押えの申立てが数個なさ
れても、差し押さえるべき債権の額が執行債権の合計額以上の場合には、差押えの
競合の問題は起こらない。この場合、各債権者はそれぞれ差し押さえた債権から個
別に満足を受けることができる。また、差押えの競合が生じても、先行の差押えが
差し押さえるべき債権の一部についてのみなされていた場合には、差押債権額は差
し押さえるべき債権の全額にまで拡張される。ところが、差し押さえた債権に配当
要求がなされた場合には、これによつて差押債権額が拡張されるわけではないか
ら、配当加入が認められるかどうかは、先行の差押債権者にとつて、その影響する
ところが極めて大きいといわなければならない。したがつて、法が明文をもつて定
める場合以上に配当加入をなしうる者を拡張し、殊に債権執行において平等主義を
拡大することに対しては、慎重な態度が要求されるというべきである。(3)もと
もと、配当要求をなしうる債権者は、直ちに強制執行または先取特権の行使として
の差押えをなしうる資格を有するものである(法一五四条一項参照)。その債権者
が配当要求の方法ではなく、より多額の満足が得られることを期待して差押えの方
法を選択した以上、差押えの効力の発生時期が遅れ、その結果配当が受けられなく
なつたとしても、やむをえないところというべきである。(4)もつとも、法八七
条一項によれば、不動産執行の場合には、配当を受けるべき差押債権者は、配当要
求の終期までに差押えの申立てをした者とされている。しかし、債権執行の場合に
は、法一六五条に、配当要求の終期までに差押えの申立てをした者も含まれるとい
う趣旨の文言がないし、不動産執行の場合であれば、差し押さえられた不動産の売
却代金全額が配当の原資になるのに対し、債権執行の場合には、配当の原資は差押
債権額に限定されるのであるから、両者を同一に取り扱わねばならない必然性はな
い。
 したがつて、配当要求の終期までには、債権差押転付命令の申立てをしたのみ
で、配当要求をしていない被控訴人に対しては、右差押えの申立てを根拠に、先取
特権に基づく配当要求をしたことに準ずる取扱いはなしえないものといわなければ
ならない。
 4 以上において検討してきたところに従えば、被控訴人は本件供託金につい
て、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として、優先弁済権を主張するこ
とはできないことが明らかである。
 四 そうすると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却
すべきである。
 よつて、右と異なる原判決を取り消して、被控訴人の請求を棄却することとし、
訴訟費用の負担について民訴法九六条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 枇杷田泰助 裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林亘)
別 紙
<記載内容は末尾1添付>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛