弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人久須美幸松提出の控訴趣意書記載のとおりであるか
ら、ここにこれを引用する。
 右控訴趣意第二点(事実誤認)の(一)について
 論旨は、原判示第一の(一)掲記の十万円は、Aが直接Bにその貸与方の申入を
なしたもので、被告人には右貸借の媒介をした事実はないとして事実誤認を主張す
るにあるが、原判決挙示中原判示第一の(一)の事実に関する証拠を綜合すると、
原判示のように、被告人がAとBとの間の十万円の貸借につきその媒介をした事実
を認めるこ十分である。右証拠中原審証人Bの証言には信用性がないとの所論ほ、
弁護人独自の心証構成というほかなく、論旨は理由がない。
 同(二)について
 論旨は、原判示第一の(二)および(三)の各金員貝媒介の点を否認し、右各金
員は、被告人がCからの借受金をAに貸与したものである。そうでないとしてもA
は、当時右貸借の相手方がCであることを知つていなかつたのであるから、結局当
事者双方に本件貸借は成立せず、従つて、その媒介の生ずる余地はないとして事実
誤認を主張するにある。
 しかし、原判決挙示中原判示第一の(二)および(三)の各事実に関する証拠を
綜合し検討すると、被告人がAからその経営するD株式会社のために融資の依頼を
受けるや、被告人は同人に対して他から借受けてやる旨を約してその承諾を得、つ
いでCに対しAを代理して同人の経営している前示会社に融資方を懇請し、原判示
のような経緯で両者の間に原判示のように各金銭貸借の媒介をした事実を認めるに
十分である。被告人の供述中右認定と牴触する部分は措信するに足らず、その他記
録を精査するも右認定を覆えすに足りる証拠がない。従つて、又、右貸借当時Aに
おいてその相手方がCであることを知らなかつたとしても、右貸借はもとより有効
に両者間に成立しているものというべきであるから、本件媒介の生ずる余地がない
との所論も採用し得ない。論旨はいずれも理由がない。
 同第一点(法律の適用の誤)について
 論旨は、本件貸付(原判示第一の(二)および(三)が所論にいう貸付でないこ
と前段説示のとおりであるから、自ら原判示第二の貸付に限定すべきものとなる)
は、元来被告人がその知人であるEの経営していたD株式会社の財政的窮状を救う
ため、被告人の有したF信用金庫G支所の支所長としての地位とは関係なく、全く
個人的好意からなしたものであり、しかも、被告人が右貸付のための資金を他から
借受けるにつきその地位を利用するところがあつたとしても、貸金業等の取締に関
する法律第十五条第一項は、かかる借受の行為を違反の対象としてはいないから、
被告人の本件貸付は、同法条に該当しない。しかるに、原判決が本件貸付を以て被
告人がその支所長の地位を利用してなしたものと認定して、これに対し右法条を適
用処断したのは法律の適用を誤つた違法があるというにある。
 <要旨>しかし、原判決挙示中原判示第二事実の関係証拠を綜合し検討すると、被
告人がAの経営するD株式会社に融資するため、自己がF信用金庫G支所の支所長
の地位にあるため知り得た同金庫の会員等に対し、自己の計算と責任において金員
の貸与方を申込み、原判示のように同会員等からその手持金を或は同会員等に同金
庫G支所から資金の貸付を受けさせ、又は同金庫G支所に対する預金の払戻しをさ
せる等して合計金七百二十四万円を借受けてこれを原判示のようにして右会社に貸
与したことおよび右会員等は、いずれも被告人が右地位にあつたればこそ、被告人
を信頼して右金員の貸与に応じたものであることが認められる。されば、右借受の
所為だけは貸金業等の取締に関する法律第十五条第一項の違反にあたらないこと
(原判決もこの点を捉えて処罰の対象としていないことは原判決書中罪となるべき
事実と法令の適用の各項を対照して明らかである)はいうまでもないが、前記認定
のような事情のもとにおいて、被告人のなした金員の借受は、明らかに被告人が前
示支所長の地位にあつたればこそ、よくこれをなし得たものというべきであり、従
つて、かかる資金にもとづいて、はじめて所期の融資の目的を達するためになし得
たような貸付も亦畢竟右法条にいう地位を利用したことに包含されるものと判断す
るのを相当とする。それ故原判決が前掲証拠によつて、被告人が前示支所長の地位
を利用して右借受金を第三者であるD株式会社の利益を図る目的で同会社に原判示
のように貸与した事実を認定し、これこ対し前示法条を適用処断したのは相当であ
つて原判決には法律の適用に誤はない。論旨は理由がない。
 同第三点(量刑不当)について
 本件記録ならびに原審で取調べた証拠によつて認められる諸般の事情を彼此勘案
すると、所論を考慮に容れても、原判決がすでに情状を斟酌して、被告人を懲役一
年六月(三年間右刑執行猶予)および罰金十万円に処したのは相当であつて、その
量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

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