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平成18年(行ケ)第10008号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年5月23日
判決
原告田中金属株式会社
訴訟代理人弁理士新関和郎
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人岩井芳紀
同藤正明
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004-23889号事件について平成17年11月16
日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意
匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラ
インドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35195号。以
下「本件出願」という。)し,特許庁が平成16年10月14日拒絶査定を
したので,原告は,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2004-23889号事件として審理した結
果,平成17年11月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。
2審決の内容
別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,別紙審決書
写し添付の別紙2記載の意匠登録第1154659号の意匠(以下「引用意
匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するので,意匠登録を
受けることができないというものである。
審決がその判断の前提として認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び
相違点は,次のとおりである。
(共通点)
(1)一定の断面形状で長手方向に連続する中空材であって,背面側(引用意
匠においては底面側,以下同様)に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁の
大部分を角パイプ状に形成し,嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部
に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突
き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本
構成。
(2)中空部の対向位置にタッピングホールを1個ずつ設けている点。
(相違点)
(1)係止片の形態について,本願意匠においては,係止片を単なる平板状と
しているのに対し,引用意匠においては,各係止片の裏面中央に小幅な突
出片を設けている点。
(2)タッピングホールの配置について,本願意匠においては,嵌合部内奥の
隔壁両隅にもタッピングホールを1個ずつ設けているのに対し,引用意匠
においては,当該部位にタッピングホールを設けていない点。
(3)厚みに対する全幅(突き当て面からの張り出し幅)の比率について,本
願意匠においては,略1:3.5程度としているのに対し,引用意匠にお
いては,略1:2程度としている点。
第3当事者の主張
1原告主張の審決の取消事由
審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,相違点を看過した
結果,本願意匠が引用意匠と類似するとの誤った結論に至ったものであるか
ら,違法として取り消されるべきである。
(1)共通点(1)の認定の誤り
ア本願意匠の嵌合部は,隔壁,一対のリップ状係止片,上壁及び下壁,
開口とによって構成される部分であり,引用意匠の嵌合部は,隔壁,一
対のリップ状係止片,上壁及び下壁,開口,リップ状係止片の裏面側に
設けた突出片とによって構成される部分である。
審決は,共通点(1)において,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁と
リップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成す
る形状と認定し,嵌合部を構成している構成部材のうち,上壁及び下壁
並びに突出片を除外し,輪郭の定めのない抽象的な形状のものとして,
視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観
念上の形状としてとらえている。しかし,空間の形は,外郭の形状によ
って認識できるものであるから,外郭形状の特定を除いた「背面側に開
口するチャネル状空間」なる空間の形状は,視覚を通じて美感を惹起さ
せる形状,模様を対象とする意匠において,視覚を通じて認識し得る嵌
合部の構成を特定したことになっていないものであり,審決における両
意匠の全体の基本構成(共通点(1))についての認定は,まず,この点に
おいて誤りである。
イ(ア)本願意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係止片
とで構成される断面視で略正方形の角筒状で,内部に形成される空間
が,外郭が略正方形をなして背面側に開口するチャネル状の形状であ
る形態である。
一方,引用意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係
止片,内腔に仕切壁状の突出片,開口とで構成される断面視で縦長の
角筒状で,内部に形成される空間が,チャネル状(水路状)から離れ
た背面側に開口する櫛歯状をなす形状である形態である。
このように,両意匠の嵌合部は,それぞれ形態を異にし,内部に形
成される空間の形状も,本願意匠がチャネル状で,引用意匠が櫛歯状
の形状とそれぞれ異にしているから,審決が,共通点(1)として,「嵌
合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチ
ャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に
揃えた一対のリップ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が
全体の基本構成を共通にすると認定したのは誤りである。
(イ)これに対し被告は,両意匠の嵌合部の形態及びその内部に形成さ
れる空間の形状の相違は,係止片の形状の相違として相違点(1)で認定
しているから審決に誤りはない旨主張するが,係止片の形状をどのよ
うに記載しても本願意匠の嵌合部の形態(「リップ溝形鋼状」の形
態)を構成できるものではないから,被告の上記主張は失当である。
(2)相違点の看過
ア前述のとおり,本願意匠の嵌合部は,断面視において略正方形の角筒
状で,内部に形成される空間が略正方形のチャネル状をなす形態であ
り,引用意匠の嵌合部は,断面視において内腔に仕切壁状の突出片を有
する縦長の角筒状で,内部に形成される空間が背面側に開口する櫛歯状
をなす異様な形態であり,この両者の嵌合部の形態は著しく相違する。
しかも,嵌合部は,物品の取付構造部を構成する部位で,需要者であ
る設計者・建築工事者が注視し,有意の差異として認識する部分である
にもかかわらず,この嵌合部の形態の相違を審決は看過している。
イ(ア)25ミリメートル(以下,「ミリメートル」を「ミリ」とい
う。)という寸法は,建築業界においては,建具の枠等の見付け寸法
がほとんど25ミリであるように,狭くも広くもない最も整った寸法
として用いられている。
本願意匠は,平成16年12月20日付け手続補正書(甲4)に添
付の資料1の図1記載のとおり,黄金律ともいうべきこの寸法25ミ
リを物品ルーバーの見付け寸法(正面から見た寸法)に取り込んだ
上,ルーバー材となる物品が組付け施工されたときの強度を国土交通
省告示(平成12年建告第1454号)に示されている台風圧強度が
得られるように,物品の見込み寸法(物品の奥行き寸法)を十分な強
度が得られるまでに延ばして,平板状にデザインし,これにより風圧
の荷重試験(甲2)に耐え得るものとしている意匠である。
(イ)本願意匠は,見付け寸法を25ミリとしている形態のため整った
優美な印象を与えるのに対し,引用意匠は,寸法25ミリから外れた
形態であることで,ずんぐりした印象を与える点で,両意匠は顕著に
相違する。審決は,25ミリを見付け寸法としている本願意匠の特異
な形態を看過し,これを両意匠の相違点として認定しなかった誤りが
ある。
(3)類否判断の誤り
ア前記のとおり,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の
認定には,視覚では認識できない観念上の形態を構成要素とし,かつ,
顕著に相違する両意匠の嵌合部の形態を同一視した誤りがあるから,こ
の誤った全体の基本構成の対比に基づいてした両意匠の美感・類似性に
ついての審決の判断は誤りである。
イまた,意匠の類否の判断基準は,取引者において物品の誤認混同を示
すおそれがあるほど似ているか否かを基準とすべきであり,取引者は,
特に目につき易い部分ないし注意を強く惹く部分を観察し,異同を認識
し取引するものであるところ,需要者が設計者・建築工事者である物品
ルーバー材においては,ルーバー材の取付構造を構成する嵌合部は,必
然的に注視される部位であり,この部位の形状の差異は,意匠の類否判
断を左右するものである。
前記のとおり,嵌合部の形態について,本願意匠では,内面側に突起
部のないきれいなチャネル状の形状としているのに対し,引用意匠で
は,内面側に下駄の歯のような2本の突起部を設けた櫛歯状の異様な形
状としているという差異があり,この嵌合部の形状の差異は,著しい特
徴の差異となっており,両意匠を誤認混同させることなく区別し得る明
瞭な差異である。
しかも,前記のとおり,本願意匠は,見付け寸法を黄金律ともいうべ
き25ミリとすることで,落ち着いた特有の美感を惹起させるようにし
ているから,引用意匠とは全く別異の独特な意匠である。
したがって,本願意匠は引用意匠と類似していないから,これが類似
するとした審決の判断は誤りである。
2被告の反論
(1)共通点(1)の認定の誤りに対し
ア審決認定の共通点(1)は,願書記載の意匠の説明及び願書添付の図面に
基づいて両意匠を全体的に対比し,観察した結果として,両意匠の主要
な構成要素である外観形態に焦点を置き,視覚を通じて形成された形態
的印象を事実に即して摘記し,それが意匠全体の基本構成を成している
としたものである。
一般に,視覚を通じて感知した形象に基づいて,観察者が対象物のイ
メージ又は形態の観念を形成することは当然のことであり,審決が,共
通点(1)において,嵌合部の形態の概要を端的に表現するため,「チャネ
ル状空間」の語を用いて認定したことに誤りはない。
そして,①嵌合部の内部に形成される空間自体の形状は物品の使用時
には内奥に隠れてしまう部位に係るものであり,両意匠の構成要素とし
ては枝葉に属するものであること,②両意匠の取付部材に対する固着手
法又は接続構造に関与する主な部位は,背面側に設けられた一対のリッ
プ状係止片であって,上記空間自体の形状ではないこと,③上記空間自
体の形状は,外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形状に基づいて,従属
的かつ一義的に決定されるものであることから,外周壁,隔壁及びリッ
プ状係止片の形態における共通点及び相違点を認定した上で,嵌合部に
ついて意匠の構成要素としての軽重を評価すれば十分であるため,審決
は,両意匠の類否判断に際し,原告主張の上記空間自体の形状を敢えて
取り上げるべきではないと判断したものであり,審決の共通点(1)に示す
全体の基本構成の認定手法及び認定内容に誤りはない。
イ原告は,共通点(1)に示す全体の基本構成が,嵌合部の形態及びその内
部に形成される空間の形状の相違を看過してなされた誤ったものである
旨主張するところ,上記主張は,要するに,審決が,両意匠における係
止片の具体的形状を全体の基本構成として認定していないことの誤りを
いうものと解されるが,審決は,全体の基本構成を共通点(1)のとおり認
定した上で,係止片の形状の相違を相違点(1)として具体的に認定してい
るから,審決に誤りはない。
(2)相違点の看過に対し
ア審決は,前記(1)ア①ないし③に挙げたのと同様の理由により,原告の
主張する「嵌合部そのものの形態」については,両意匠の類否判断に際
して敢えて取り上げるべきものはないと判断し,また,嵌合部を構成す
る係止片の形状の相違については,相違点(1)として認定していることは
前記(1)イのとおりであるから,審決に誤りはない。
なお,本願意匠の「嵌合部そのものの形態」は,単なるリップ溝形鋼
状のありふれたものである(乙1,2)。
イ原告主張の本願意匠における見付け寸法が25ミリであるとの点は,
本件出願当初の願書及びその後提出された補正書においても,一切開示
されておらず,本願意匠の構成要素とは成し得ないものであるから,見
付け寸法を25ミリとしているか否かが両意匠の相違点であるとする原
告の主張は失当である。原告提出の平成16年12月20日付け手続補
正書(甲4)は,本件の審判請求書の補正に関するものであって,本件
出願当初の願書の記載事項又は願書添付の意匠を記載した図面を補正す
るものではない。
なお,審決は,相違点(3)において,厚み(見付け寸法)に対する全
幅(突き当て面からの張り出し幅)の比率として,両意匠の全体的な寸
法比率の差異を認定した上で,意匠の構成要素としての軽重を判断して
いるから,この点においても,審決に原告主張の上記相違点の実質的な
看過はない。
(3)類否判断の誤りに対し
前述のとおり,審決に共通点(1)の認定の誤り及び相違点の看過はなく,
本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の類否判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1共通点(1)の認定について
(1)本願意匠(甲3)と引用意匠(甲5)を対比すると,両意匠が,「一定
の断面形状で長手方向に連続する中空材であって,背面側に嵌合部を設
け,嵌合部を除く外周壁の大部分を角パイプ状に形成し,嵌合部について
は,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形
成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状
係止片を設けた全体の基本構成」を有する点(共通点(1))で共通している
とした審決の認定は,是認することができる。
(2)ア原告は,審決が,両意匠の嵌合部の形態について,外郭形状の特定を
除いた「背面側に開口するチャネル状空間」なる空間の形状を認定して
いるのは,視覚によっては感知することのできない観念上の形状として
とらえているものであり,視覚を通じて認識し得る嵌合部の構成を特定
したことになっていない旨主張する。
しかし,審決認定の共通点(1)の記載によれば,両意匠は,「長手方向
に連続する中空材」であり,「嵌合部を除く外周壁の大部分を角パイプ
状に形成」し,嵌合部は,「平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開
口」し,その「開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対
のリップ状係止片を設け」ているものであるから,①両意匠の嵌合部
は,開口部を有し,その開口端の両縁部に一対のリップ状係止片が設け
られていること,②嵌合部の開口部の内奥部に平板上の隔壁が設けられ
ていること,③長手方向に連続する中空材である以上,嵌合部は外周壁
で囲まれていることを理解することができる。
そうすると,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,一対のリップ
状係止片,外周壁とで構成された,輪郭のある具体的な形状を有するも
のであって,視覚を通じて感知することができるものであることは明ら
かである。そして,共通点(1)にいう「背面側に開口するチャネル状空
間」は,上記認定の形状を有する嵌合部の内部に形成される空間を意味
するのであるところ,本願意匠の【背面図】,【右側面図】及び【斜視
図】(甲3)と引用意匠の【底面図】,【正面図】及び【A-A断面図
】(甲5)を見れば,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネ
ル状(溝状ないし水路状)である点で共通することを視覚を通じて感知
することができるものであり,この形状は,原告がいうような単なる観
念上の形状であるとはいえない。
したがって,審決が,嵌合部の形態について,視覚によっては感知す
ることのできない観念上の形状としてとらえているとの原告の上記主張
は,採用することができず,審決の共通点(1)の認定が嵌合部の構成の特
定を欠いているということもできない。
イ原告は,本願意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係
止片とで構成される断面視で略正方形の角筒状で,内部に形成される空
間が,外郭が略正方形をなし,背面側に開口するチャネル状をなす形状
である形態であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下
壁,上下に一対の係止片,内腔に仕切壁状の突出片,開口とで構成され
る断面視で縦長の角筒状で,内部に形成される空間が,チャネル状(水
路状)から離れた背面側に開口する櫛歯状をなす形状である形態であ
り,このように両意匠の嵌合部は,形態を異にし,内部に形成される空
間の形状も異にしているから,審決が,共通点(1)として,「嵌合部につ
いては,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空
間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対の
リップ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が全体の基本構成
を共通にすると認定したのは誤りである旨主張する。
(ア)前記ア認定のとおり,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,
一対のリップ状係止片,外周壁とで構成されており,また,上記外周
壁は,原告主張の「上壁及び下壁」に相当するものであるから,原告
が主張する両意匠の嵌合部の構成上の相違点は,引用意匠が「内腔に
仕切壁状の突出片」を有するのに対し,本願意匠はこれを有していな
い点であるということができる。
しかるに,審決は,相違点(1)として,両意匠は,「係止片の形態に
ついて,本願意匠においては,係止片を単なる平板状としているのに
対し,引用意匠においては,各係止片の裏面中央に小幅な突出片を設
けている点」で相違すると認定し,これにより,引用意匠には「各係
止片の裏面中央に小幅な突出片」があるが,本願意匠にはこのような
形状の突出片がないことを認定している。
そして,審決にいう「各係止片の裏面中央に小幅な突出片」は,原
告主張の「内腔に仕切壁状の突出片」に相当するものであるから,審
決は,原告が主張する両意匠の嵌合部の構成上の相違点を実質的に認
定している。
(イ)原告は,本願意匠の嵌合部は断面視で略正方形の角筒状であるの
に対し,引用意匠の嵌合部は断面視で縦長の角筒状である点で,両意
匠は相違する旨主張する。
たしかに,本願意匠の【右側面図】及び【斜視図】(甲3)と引用
意匠の【正面図】及び【A-A断面図】(甲5)によれば,原告が主
張するような嵌合部の断面視における差異がみられるものの,上記差
異は,略正方形の角筒状か,縦長の角筒状というもので,微弱な差異
にとどまるものであって,看者の注意を惹くような差異ではない。
したがって,上記差異は,審決の共通点(1)の認定を左右するもので
ないことはもとより,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものでもな
い。
(ウ)原告は,本願意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,外郭が略
正方形をなし,背面側に開口するチャネル状をなす形状であるのに対
し,引用意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,チャネル状(水路
状)から離れた背面側に開口する櫛歯状をなす形状である点で,両意
匠が相違する旨主張する。
しかし,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状(溝
状ないし水路状)である点で共通していることは前記アのとおりであ
り,このことは両意匠の空間が断面視で略正方形か縦長であるかによ
って左右されるものではないし,引用意匠において係止片の裏面中央
に突出片があることも,その形状,大きさ等に照らせば,引用発明の
嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状のものであると認識する
ことの妨げとなるものではないというべきである。したがって,引用
意匠の嵌合部の内部に形成される空間が,原告がいうように「チャネ
ル状から離れた」形状であるということはできず,両意匠の嵌合部
が「平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間
を形成」している点で共通しているとした審決の認定に誤りはない。
なお,原告がいう引用意匠の上記空間が「櫛歯状」をなす形状であ
るとの点は,引用意匠の係止片の裏面中央にある突出片を「櫛歯」に
例えて上記空間を表現したものであると理解することができる。しか
し,引用意匠の上記突出片の位置,形状,大きさ等に照らすと,上記
空間を全体的に観察した場合に,その空間を原告のいうように「櫛歯
状」のものと表現することは妥当とはいえず,引用意匠の上記空間を
チャネル状のものとした審決の認定は相当である(なお,仮に「櫛歯
状」のものととらえ得るとしても,前記(ア)のとおり,審決は,相違
点(1)において,引用意匠には係止片の裏面中央に突出片があるが,本
願意匠には突出片がないことを認定しており,突出片の有無による差
異については,相違点(1)の評価において実質的に判断しているもので
ある。)。
(エ)以上によれば,審決が,共通点(1)として,「嵌合部については,
平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形
成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリッ
プ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が全体の基本構成を
共通にすると認定したことの誤りをいう原告の上記主張は,採用する
ことができない。
2相違点の看過について
(1)原告は,嵌合部が,物品の取付構造部を構成する部位で,需要者である
設計者・建築工事者が注視し,有意の差異として認識する部分であるにも
かかわらず,審決は,両意匠の嵌合部の形態が著しく相違するのに,これ
を看過した旨主張する。
しかし,原告がいう両意匠の嵌合部の形態の相違は,前記1(2)イ(ア)な
いし(ウ)記載の原告の主張と同旨のものであって,先に説示したとおり,
微弱な差異であって両意匠の類否判断に影響を及ぼさないものか,あるい
は両意匠の差異に当たるといえないものか,又は審決が相違点(1)において
実質的に相違点として認定しているものであるから,相違点の看過をいう
原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,本願意匠は,見付け寸法(正面から見た寸法)を25ミリとし
ている形態のため整った優美な印象を与えるのに対し,引用意匠は,寸法
25ミリから外れた形態であることで,ずんぐりした印象を与える点で,
両意匠は顕著に相違するのに,審決は,上記相違点を看過した誤りがある
旨主張する。
しかしながら,原告がいう本願意匠の見付け寸法が25ミリであるとの
点は,原告作成の平成16年12月20日付け手続補正書(甲4)に添付
の資料1の図1の記載を根拠とするものであるが,甲4に,「【審判番号
】不服2004-23889」(1頁5行),「【補正対象書類名】
審判請求書」(同17行),「【補正対象項目】請求の理由」(同18
行)との記載があることから明らかなとおり,甲4は,本件の審判請求書
を補正する手続補正書であって,本件出願に係る願書の記載事項及び願書
添付の意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を補正する書面では
なく,他に本願意匠の見付け寸法が25ミリであることが本件出願に係る
願書及び上記図面に記載されていることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本願意匠の見付け寸法が25ミリであるものとは認められ
ないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用することが
できない。
3類否判断について
審決は,①「共通点(1)に示す形態は,両意匠の骨格を成すものであるとと
もに,両意匠の支配的基調を形成するものであり,これによって,観察者に
共通の美感を起こさせるとともに,両意匠間に強い類似性をもたらしている
ものと認められる。」とした上で,②「相違点(1)の係止片の形態における差
異については,本願意匠の嵌合部の形態が単なるリップ溝形鋼状のありふれ
たものであって,本願意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであること
から,全体的に見れば,その差異は局所的微差に止まり,前記共通点に基づ
く類似性を凌ぐものではない。」,③「相違点(2)のタッピングホールの配置
における差異については(判決注・審決の「差異ついては」は誤記と認められ
る。),本願意匠のタッピングホールの配置態様が常套的手法に基づく月並み
なものであって,本願意匠を特徴付ける要素とは成し得ないものであること
から,その差異は局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではな
い。」,④「相違点(3)の厚みに対する張り出し幅(全幅)の比率における差
異については,その差異は僅かであって,両意匠の基調を異にする程のもの
ではない。」,⑤「これらの相違点に係る態様が相俟って表出する効果を勘
案しても,前記共通点から惹起される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効
果を認めることはできない。」として,本願意匠は引用意匠に類似すると判
断している(審決書2頁18行~38行)。
(1)原告は,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定に
は,視覚では認識できない観念上の形態を構成要素とし,かつ,顕著に相
違する両意匠の嵌合部の形態を同一視した誤りがあるから,この誤った全
体の基本構成の対比に基づいてした両意匠の美感・類似性についての審決
の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,審決の共通点(1)の認定に,原
告主張の誤りはない。
そして,本願意匠と引用意匠を比較すると,審決が上記①で指摘するよ
うに,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の支配的基調を形成するもので,
これによって,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象
として両意匠間に強い類似性をもたらしているものということができる。
(2)また,原告は,両意匠の嵌合部の形態について,本願意匠では,内面側
に突起部のないきれいなチャネル状の形状としているのに対し,引用意匠
では,内面側に下駄の歯のような2本の突起部を設けた櫛歯状の異様な形
状としているという差異があり,この嵌合部の形状の差異は,著しい特徴
の差異となっており,両意匠を誤認混同させることなく区別し得る明瞭な
差異であるから,本願意匠は引用意匠と類似していない旨主張する。
しかし,本願意匠と引用意匠を比較すると,係止片の裏面中央に小幅な
突出片を設けているか否かの差異は,突出片の形状,位置,大きさ等に照
らし,審決が上記②で指摘するように,局所的で微弱なものであって,共
通点(1)によって醸し出される両意匠の類似性を凌駕するものであるという
ことはできない。また,乙1,2及び弁論の全趣旨によれば,本願意匠の
係止片の形状は,従来からあるありふれた形状であって,本願意匠に独特
の美感を生じさせるものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)原告は,本願意匠は,見付け寸法を黄金律ともいうべき25ミリとする
ことで,落ち着いた特有の美感を惹起させるようにしているから,本願意
匠は引用意匠と類似していない旨主張するが,前記2(2)で説示したとお
り,本願意匠の見付け寸法が25ミリであるものとは認められないから,
原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。
(4)前記(1)のとおり,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の支配的基調を形
成するもので,これによって,看者に共通の美感を起こさせるものであ
り,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものであ
るところ,審決が上記⑤で指摘するとおり,相違点(1)ないし(3)に係る態
様が相俟って表出する効果を勘案しても,上記共通点から醸し出される両
意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできないから,本願
意匠は引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはないというべきであ
る。
4結論
以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消す
べき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官佐藤久夫
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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