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判決言渡平成21年2月10日
平成20年(行ケ)第10311号商標登録取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年1月13日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士谷山守
被告特許庁長官
指定代理人林二郎
同酒井福造
主文
1特許庁が異議2007−900349号事件について平成20年7
月2日にした決定を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が商標登録を有する下記商標(登録第5040036号。以下
「本件商標」という。)に対し,プーマアーゲールドルフダスラースポー
ツ(ドイツ連邦共和国。以下「プーマ社」ということがある。)が登録異議の
申立てをしたところ,特許庁が,本件商標は下記引用商標1に類似するから商
標法4条1項11号に違反するとして,上記商標登録を取り消す旨の決定をし
たことから,原告がその取消しを求めた事案である。
争点は,本件商標が下記引用商標1との関係で類似するか(商標法4条1項
11号),である。

(1)本件商標
・商標・指定商品
第25類
「Tシャツ,帽子」
(2)引用商標1(登録第3324304号)
・商標・指定商品
第25類
「被服,ガーター,靴下止め,ズ
ボンつり,バンド,ベルト,履物,
運動用特殊衣服,運動用特殊靴」
・出願平成6年12月20日・登録平成9年6月20日
・公告平成8年12月16日・商標権者プーマアーゲールドルフ
ダスラースポーツ
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成19年4月13日に登録された本件商標登録第504003
6号の商標権者である(出願平成17年6月21日,登録審決日平成19
年3月6日,商標公報発行日平成19年5月22日)。
上記商標登録に対し,平成19年7月23日,プーマ社から商標法43条
の2に基づく登録異議の申立てがなされたので,特許庁は,これを異議20
07−900349号事件として審理した上,平成20年7月2日,「登録
第5040036号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし,その謄本
は同年7月22日原告に送達された。
(2)決定の内容
決定の内容は,別添「異議の決定」写しのとおりである。その理由の要点
は,本件商標は上記引用商標1と類似し,指定商品も引用商標1の指定商品
に包含されるから,その登録は商標法4条1項11号に違反する,というも
のである。
(3)決定の取消事由
しかしながら,決定は,本件商標と引用商標1との類否判断を誤ったもの
であるから,違法として取り消されるべきである。
ア決定は,本件商標の構成について,「…本件商標は,下段に書された文
字部分『』及び『−』OKINAWANORIGINALGUARDIANSHISHIDOG
の文字は,その上段に書された『−』の文字と比較すると極めて小SHISA
さく表され,またその構成文字もデザイン化されており,看者をして,こ
の文字自体が何を意味するものなのか直ちに判断することはできないもの
というべきである。その上段の欧文字『−』の文字は,太字で文字SHISA
全体を横長方形の枠の中一杯に書された様に表されている。そして,この
『−』の文字部分をシルエット風動物が飛び越すように跳躍してなSHISA
り,『−』の文字部分と図形部分は,一体的にまとまりの良い構成SHISA
態様となっている」(13頁27行∼36行),「そうとすると,本件商
標を全体的に観察した場合,自他商品識別標識として機能する部分は,『
−』の文字部分と跳躍した動物のシルエット風図形部分にあるといSHISA
うべきであり,本件商標をその指定商品『Tシャツ,帽子』について使用
した場合,『』及び『−OKINAWANORIGINALGUARDIANSHISHI
』の文字部分は,付記的部分とみるのが相当である」(13頁下2行DOG
∼14頁3行)とした。
しかし,本件商標は,①の文字を中央に太字で顕著に表す
と共に,②上段右に沖縄伝統の獅子として知られるシーサが跳躍した様を
側面から捉えた図形を配し,③下段に及
びの文字を配して成り,上記①∼③
をもって商品識別,出所表示,品質保証及び宣伝広告という商標の機能を
発揮できるよう,一体不可分のものとして構成されている。
そして,上記③の及び
の文字部分は,の文字部分や動物図形部
分と比べ小さく表記されているものの,これらの部分と一体のものとして
全体的にバランスよく配置されているのであって,説明文や単なる付記的
表示といえるほど小さい表示ではない。
したがって,上記③の
の文字部分は,本件商標の構成要素から排除されるも
のではなく,これらの部分を含む全体が看者の印象に残るものである。
イまた決定は,本件商標と引用商標1との対比について,「…図形部分
は,本件商標と引用商標1とは,右から左上方へ跳躍している動物をシル
エット風に表してなるところ,動物の首回り,尻尾,脚部の細部において
若干の差異が認められるものの跳躍角度,頭部,胴部,前脚部,後脚部,
尻尾部を含め全体的に観た場合,シルエットの構成自体は近似しているも
のというべきである」(13頁22行∼26行),「…本件商標と引用
商標1の構成中『−』の欧文字及び図形の部分とは,横長方形の枠SHISA
の中一杯に書された様に表された太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配
してなる点において構成の特徴を共通にするものであり,しかも,両欧文
字部分とも,縦線を太くし横線を細くした書体で表現されているから,両
者を対比観察すれば,細部に相違するところあるとしても,全体として外
観上,近似するものといわなければならない」(14頁7行∼12行),
「してみれば,本件商標と引用商標1の構成中『−』の欧文字及びSHISA
図形の部分とは,その構成の軌を一にするものであり,共通の印象を看者
に与えるものであるから両者を時と所を異にして離隔的に観察した場合に
は,外観において彼此相紛れるおそれが極めて高い類似の商標と判断する
のが相当である」(14頁下1行∼15頁4行)とした。
(ア)aしかし,四足動物をモチーフとしてデザインする場合に,動物が跳
びかかる姿とすることは,極めて一般的に行われている手法の一つで
ある。
すなわち,犬や猫などの四足動物においては,歩く,走る,跳びか
かるという動作は基本的なものであって,動作する四足動物を描こう
とする場合に,走ったり跳び上がろうとする姿を描くことは当然に思
いつくことである。そして,跳びかかる四足動物を描く場合に,どの
ような位置からみた図案とするかの選択肢としては,正面図,背面
図,左右側面図,平面図,底面図及び斜視図のいずれかに限られ,こ
の中でも側面から描くことは最も分かりやすく四足動物の動作を表現
するものとして極めて自然である。
このようにして描画対象を跳びかかる四足動物としてこれを側面よ
り描くこととした場合,誰が描いても,前足を前方に向け,地面を蹴
った後の後ろ足が後方に伸びる姿として描かれ,また特に跳び上がっ
た直後の四足動物であれば,上半身を上方にしてやや傾くように描か
れる。そして,上半身を上方にして傾くように側面から描かれた四足
動物図形を文字と組み合わせる際には,文字の右肩又は左肩の角を覆
うように配することが自然である。
b次にという文字部分についても,横長の長方形の枠内
にはめ込まれたように欧文字が表記されることは一般的に行われてい
るものである。また,上記文字部分が縦線を太くし横線を細くした書
体で表現されているという点についても,このような書体は極めて一
般的な書体である(なお,本件商標において横線を細くしてなるのは
の文字のみである。)。
cしたがって,このような一般的描画法により描かれた四足動物図形
と文字を組み合わせた図案について引用商標1と類似するものとすれ
ば,およそ第25類に属する指定商品に関して,跳びかかる四足動物
を側面から描いた図案についての独占排他権が実質的に認められるこ
ととなり,第三者の商標選択の余地を狭め,経済活動における表現を
不当に制限することとなる。
なお,四足動物を側面から描いた図形商標は,第25類の指定商品
に関して多数登録されており,かかる登録例の中には,引用商標1に
近似した図案から成る商標も少なからず見受けられる。また,「標章
の図形要素の細分化ウィーン分類表」(ウィーン分類第5版準拠第
2版,特許庁商標課平成17年8月発行,乙9)においても,小分類
「四足獣(シリーズⅠ:ネコ科,イヌ科(たぬき(3.5.5.01を除3.1
く),クマ科,パンダ科)」中の「3.1.115」に付属する補助分類とし-
て「飛び上がっているシリーズⅠの動物」という項目が設けA3.1.21
られており,第25類の指定商品に限って検索しただけでも180件
存在する(甲7,甲8の1∼83)。
(イ)そして,本件商標と引用商標1における動物図形を比較すると,本件
商標には沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴が表されているのに対し,引
用商標1における四足動物はピューマ()を表すものであることがpuma
明らかであり,外観上異なった印象を与えるものであって,四足動物を
側面から描いた図案であるという抽象的なレベルにおいてのみ共通する
ものである。
aすなわち,本件商標においては,沖縄伝統の獅子(シーサ)の特徴
である,鬣(たてがみ)ないし首飾り,牙を剥き出した口,前足・後
足の巻髪,丸みを帯び巻髪を伴う尻尾といった部分が表現されてい
る。一方,引用商標1にはこのような表現は見られず,口元や前足・
後足部分は黒く塗りつぶされ,尻尾は斜め上方にピンと伸びている。
そのほか,頭部や肩の大きさ,足先の形状などにおいても両商標は相
違する。
これらの中でも特に尻尾の形状については,引用商標1における斜
め上方にピンと伸びた独特の形状が「」ブランドを象徴するもPUMA
のとして取引者・需要者に強く認識されてきたのに対して,本件商標
における尻尾部分は,太くふっくらとして何物も寄せ付けない力強さ
をもった獅子特有の尻尾を表現するため,巻髪を伴った広がりのある
独特の形状を呈しているものであり,看者に対し全く異なった印象を
与えるものである。
bこれに対し被告は,本件商標における跳躍するイメージは沖縄伝統
の獅子(シーサ)とは程遠いと主張するが,シーサには様々なものが
あり一つの型に固定されているものではない(甲9,10,24,3
1)。また,シーサは本来,今まさに跳びかかろうとする躍動感と気
迫に満ちているものであり,本件商標は,躍動感溢れるシーサをイメ
ージしながらデザインされたものである。シーサも動物である以上動
きがあるのは当然であり,架空の動物だから動きがないとするのは誤
った固定観念である。
(ウ)以上のように本件商標の動物図形から沖縄伝統の獅子(シーサ)の特
徴が看取されるほか,本件商標の文字部分からもシーサを表すものであ
ることが明確である。すなわち,本件商標におけるの文字
部分が沖縄伝統の獅子であるシーサを表すものとして大きく表示される
と共に,及び
の文字部分から,「沖縄伝統の守り神,獅子犬」等
の意味合いにより,直ちに沖縄伝統の獅子であるシーサが想起される。
これに対し引用商標1は,という文字部分から,四足動
物の図形部分がピューマを表したものであることが認識されるものであ
る。
(エ)したがって,本件商標と引用商標1とは外観上異なった印象を与える
ものであり,さらに本件商標からは沖縄伝統の獅子である「シーサ」の
観念・称呼が,引用商標1からは「ピューマ」の観念・称呼が生じるも
のであるから,混同を生じる余地はなく,本件商標が引用商標1に類似
するということはできない。
(オ)なお,被告は,引用商標1の周知著名性をもってその主張の根拠とし
て主張する。たしかに,引用商標1が一定分野において周知著名である
ことは原告も争わないが,被服のように比較的長期にわたり使用される
商品については,取引者・需要者は購入に際して商品に付された商標を
念入りに検討するものであり,特に,商標の著名性が高い場合には真正
品を選ぼうとする需要者等の注意力は相当程度に高くなるのであるか
ら,引用商標1が著名であることにより出所の混同を生ずる可能性はむ
しろ低くなるものである。
ちなみに原告は,本件商標を付したTシャツ等を実際に販売している
が,需要者等に「」ブランドの商品と取り違えられたことはなPUMA
い。また,本件商標が出願されてから審査,審判を経て商標登録される
までの間,「」ブランドの商標が引用されたことは一度もなく,PUMA
プーマ社により本件異議申立てがなされて初めて引用商標1が取り上げ
られたものである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
本件異議の決定の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
PUMAAG(1)引用商標1の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ社(
)は,スポーツ用品・スポーツウェア等を世界的に製造RudolfDasslerSport
販売している多国籍企業である。1920年(大正9年)にアディ・ダスラ
ー及びルドルフ・ダスラーの兄弟が靴を販売する「ダスラー兄弟商会」を設
立したのがそもそもの始まりであり,その後,兄弟が1948年(昭和23
年)にそれぞれ独立し,弟ルドルフがプーマ社を設立した。引用商標1の由
来は,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をそのま
ま表現し,ブランドマークとしたものである(なお,プーマ〔〕は「ピpuma
ューマ」ともいい,ヒョウくらいの大きさのネコ科の哺乳類である。)。創
業当初はスポーツシューズ専門メーカーであったが,現在では,スポーツウ
ェア,バッグ等スポーツ関連グッズの総合メーカーとして,引用商標1から
なる「」ブランドが世界で知られている(乙2,乙3)。PUMA
引用商標1は,遅くとも1980年代には我が国で使用が開始され,その
後今日に至るまで「」ブランドを表すものとして広く親しまれていPUMA
る。その使用の一例は,ブランドの出発点ともいえるサッカーシューズを始
め,各種スポーツシューズ,スポーツウェア,バッグ,さらには本件商標の
指定商品でもあるTシャツや帽子を含む幅広い商品について,長年使用され
てきたものである(乙4∼乙7)。
このように,引用商標1は,スポーツシューズ,スポーツウェア等に使用
された結果,プーマ社の業務に係る商品を表すものとして,本件商標の登録
決定時(平成19年3月6日)より前にその指定商品の分野の取引者・需要
者の間に広く知られるに至っていたものである。
(2)以上を前提として本件商標と引用商標1とを対比する。
ア本件商標は,中央に太字で大きく表されたの文字部分,こ
の文字部分を跳び越えるように右側から左上方に向けて跳躍する動物を側
面から捉えたシルエット図形のほか,それらの下部に
及び(小文字と大文
字が同じ大きさで表されている)の欧文字が上記の文字部分
に比較して極めて小さく表されているものである。
そして,上記の文字部分はあたかも横長の長方形の枠内に
はめ込まれたかのごとく縦長かつ太字で表され,この文字部分を右側から
左上方に向けて跳び越すように動物図形が配されており,これらが一体的
にまとまりの良い構成となっている。そして,
及びの文字は「−SHI
」の文字に比較して極端に小さい文字によりデザイン化されて表されてSA
いることから,本件商標に接する需要者等はの文字部分及び
動物図形部分に着目するものであり,これらの部分が本件商標を全体的に
観察したときに独立して自他商品識別標識として機能する部分であるとい
うべきである。
イ一方,引用商標1の構成は,動物の跳躍した様のシルエット図形部分と
の文字部分から成るところ,の文字部分は縦長の
欧文字で,太字により,あたかも横長の長方形の枠内にはめ込まれたごと
く表されている。また上記動物図形は,上記文字部分を跳び越えるように
右側から左上方へ向けて跳躍するネコ科の大型動物と思しきものを側面か
ら捉えたシルエット図形であり,跳躍の角度,前脚の縮め具合及び後ろ脚
や尾の伸ばし具合の角度,背中・胸部・腹部・腰部・大腿部の曲線の形状
において,本件商標と引用商標1とはほぼ一致するものであり,視覚的に
著しく似通ったスマートな印象を与えるものである。
ウそして,前記(1)で述べたとおり,引用商標1は我が国において本件商
標の指定商品の分野の取引者・需要者の間に広く知られるに至っていたも
のであり,そのことは当然に,本件商標に接する需要者等の印象,記憶,
連想等に強く影響を与えるものというべきである。加えて,「Tシャツ,
帽子」という指定商品の性質上,その需要者(一般消費者)は,商品に付
された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多いもの
である。
エしたがって,引用商標1の周知著名性や需要者の注意力等に関する取引
の実情を考慮すると,本件商標がその指定商品である「Tシャツ,帽子」
に使用された場合,これに接した需要者等は,「本件中央文字」及び「本
件図形」に着目して,引用商標1及びこれを使用する特定の出所を想起
し,その出所について混同を生じるおそれがあるから,本件商標と引用商
標1とは外観において類似するというべきである。
(3)以上に対し原告は,本件商標からは沖縄伝統の獅子(シーサ)の観念・称
呼が生じると主張する。
アしかし,「広辞苑第六版」(乙8)によれば「シーサー」は沖縄で瓦屋
根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像で,魔除けの一種とされてお
り,頭部が異様に大きく,胴体部も比較的太く,守り神として鎮座してい
るものであって,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠い架空の動
物である(甲9,10)。したがって,本件商標の動物図形から沖縄伝統
の獅子「シーサー」を表したものと理解することは容易でない。
イこれに対し原告は,本件商標においては沖縄伝統の獅子(シーサ)の特
徴である,鬣(たてがみ)ないし首飾り,牙を剥き出した口,前足・後足
の巻髪,丸みを帯び巻髪を伴う尻尾といった部分が表現されていると主張
する。
しかし,前記(2)で述べたような両商標の構成の共通点が需要者等の目
を引く基本的な構成要素に係るものであって,それぞれ強く印象付けられ
るものであるのに対して,原告が主張する上記差異点は,両商標に離隔的
に接した場合には明瞭に把握できない程度の微差,あるいは構成上の細部
にわたる要素の差異に過ぎない。そうすると,そのような差異点から需要
者等が受ける印象の相違は,上記の外観全体の共通点から受ける視覚的印
象をそれほど減殺するものではなく,簡易・迅速を重んじる取引の実際に
おいては明瞭に意識されないものである。
ウまた,本件商標における「−」等の文字部分に関しても,仮にSHISA
の文字部分を「シーサ」等と読むことができ,
及びの文字部分を「オ
キナワンオリジナルガルディアンシシドッグ」と読むことができると
しても,引用商標1の周知著名性を考慮すれば,本件商標が外観において
引用商標1を想起することから引用商標1と観念上の錯誤が生じやすく,
本件商標から「周知著名なプーマの商標」の観念さらには「プーマ」の称
呼が生じることを否定できないものである。
したがって,本件商標と引用商標1とは,外観において類似するばかり
でなく,観念及び称呼においても紛れるおそれがある。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(決定の内容)の各事実
は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由について
原告は,本件商標と引用商標1との類否判断の誤りを主張するので,以下こ
の点について検討する。
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場
合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決す
べきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に
考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具
体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観
念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のお
それを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうちその
一つにおいて類似するものでも,他の2点において著しく相違することその
他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認
めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和
43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
そこで,上記の観点から以下検討する。
(2)本件商標及び引用商標1の内容
ア本件商標は,前記第2,記(1)のとおりの文字が横書きで
大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び
上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシル
エット風に描かれると共に,の文字の下に2段にわたって
及び
という文字が,比較的小さく表記されているものである。
イ引用商標1は,前記第2,記(2)のとおり,の文字が横書
きで大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて
跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿で
シルエット風に描かれているものである。
(3)本件商標と引用商標1の対比
ア外観
(ア)共通点
本件商標と引用商標1は,アルファベットの文字(
と)が横書きで大きく表示されている点,その右上方に,
四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大き
く開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で
共通する。
また,本件商標におけるの文字と引用商標1における
の文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかの
ごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点で共通してい
る。
そして,両商標における動物図形は,その向きや基本的姿勢のほか,
跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から
足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。
(イ)差異点
本件商標において大きく表示された文字はであり,引
用商標1において大きく表示された文字はであって,アル
ファベットの文字数,末尾のを除き使用されているアルファベッ
トの文字が異なるほか,本件商標においてはとの間にハイ
フン(−)が表記されている点で異なっている。
そして,両商標における動物図形については,本件商標の動物の方が
引用商標1の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件
商標においては,口の辺りに歯のようなものが描かれ,首の部分に飾り
のような模様が,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような
模様が描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖ってお
り,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。これに対し,引用
商標1の動物図形には模様のようなものは描かれず全体的に黒いシルエ
ットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高く
しなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となってい
る。
(ウ)このように,本件商標と引用商標1とはないし
の文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通して
いるものの,その違いは明瞭に看て取れるものである。
イ観念
(ア)本件商標から生じる観念
a本件商標の動物図形からは直ちに特定の動物を想起しうるものでは
なく,という文字は「シーサ」「シ・サ」「シサ」と様
々に読めるものであって直ちに特定の観念を想起させるものではない

という文字からは「沖縄のオリジナル」「保護者,守護者」「獅子
犬」などの意味を読みとることができ,の文字及び動物
図形と相まって,沖縄にみられる伝統的な獅子像である「シーサー」
の観念が想起される。
bこれに対し被告は,及び
の文字はの文字部分
に比較して極端に小さい文字によりデザイン化されて表示されている
ことから,本件商標に接する需要者等から着目される部分ではないと
主張する。しかし,上記文字部分は相対的に小さくデザイン化されて
いるとはいえ,十分に読みとることができるものであり(小文字の
「」「」「」も大文字と同じ大きさで表記されており,全体としngh
て読みにくいものではない),被告の上記主張は採用することができ
ない。
cまた被告は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」は沖縄で瓦
屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像であり,本件商標のよう
な跳躍するイメージとは程遠いものであると主張するので,この点に
ついて検討する。
(a)「シーサー」とは,沖縄で広くみられる獅子像であり,地域によ
り「シーシ」とも呼ばれる。地上に据えられる大型のものと,主に
民家の屋根に設置される小型のものがあり,材料も石・漆喰・陶器
・木など様々であるが,いずれも魔除けの目的で設置されるもので
ある(渡邊欣雄ほか編「沖縄民俗辞典」236頁,平成20年7月
20日吉川弘文館発行,甲33)。
その語源は,中国語でライオンを意味する「獅子」が沖縄に伝わ
って,沖縄風に「シーサー」と発音されたものであり,古代オリエ
ントやインドで発祥した獅子像がアジアやヨーロッパへ広まり,中
国を経由して沖縄に伝来したとされている(SHISA編集委員会
著「シーサーあいらんど」14頁∼19頁,平成15年9月18日
有限会社沖縄文化社発行,甲10)。
(b)このように「シーサー」は架空の動物であり,その形状には様々
なものがあるが,概ねその特徴とされる点を挙げれば,たてがみな
いし首飾り,剥き出した牙,前足・後足の関節部分の毛,太くふっ
くらとした尻尾などである。また,その姿勢としては,上体を起こ
した状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,
前かがみのもの,後足だけで立ち上がったもの,逆立ちしているも
のなど様々な形態があり,また多くの場合には尻尾が上空に向かっ
て炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる(甲9,甲10,甲
31,甲33)。
(c)そこで本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べ
ると,本件商標に描かれた動物は上方へ向けて跳び上がるように前
足と後足を大きく開いているところ,このような姿勢は「シーサ
ー」の形態として一般的なものとはいえない。他方,本件商標に描
かれた,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾り
ないし巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖
った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされている
ところと一致する。
そうすると,本件商標に描かれた動物図形は「シーサー」の特徴
とされているいくつかの点を備えているということができ,動物図
形だけをみて直ちに「シーサー」と理解されることがないとして
も,の文字や」及び
の文字とあわせて見れば,「シ
ーサー」を描いたものと理解することができるものである。
dしたがって,本件商標からは,沖縄にみられる獅子像である「シー
サー」の観念が想起される。
(イ)引用商標1から生じる観念
a引用商標1にはと大きく表記されており,上方へ向け
て跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって,
動物の「ピューマ」の観念が想起される。
「ピューマ」(,日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記puma
される)とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカ
ライオン,ヤマライオン,クーガーなどの別名がある。体長は1.5
mほどになり,運動活発で跳躍力に強く,シカなどを捕食する(「広
辞苑第六版」,乙1)。
bまた,引用商標1はドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等
のメーカーであるプーマ社の業務を表す「」ブランドの商標とPUMA
して著名であり(乙2,乙5∼7),引用商標1からは「」ブPUMA
ランドの観念も生じる。
(ウ)したがって,本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサ
ー」の観念が生じ,引用商標1からはネコ科の哺乳類「ピューマ」,
「」ブランドの観念が生じるから,両商標は観念を異にする。PUMA
ウ称呼
(ア)本件商標からは,の文字あるいは上記のような沖縄の獅子
像の観念から「シーサ」あるいは「シーサー」の称呼が生じる。
(イ)引用商標1からは,の文字から「ピューマ」あるいは「プ
ーマ」の称呼が生じる。
(4)以上に対し被告は,引用商標1の著名性を考慮すると,本件商標と引用商
標1とに観念上の錯誤が生じ,その結果,本件商標から「周知著名なプーマ
の商標」(「」ブランド)の観念及び「プーマ」の称呼が生じると主PUMA
張するので,この点につき検討する。
ア(ア)「」ブランドは,ドイツのバイエルン州ヘルツオーゲンアウラPUMA
ッハを拠点としてスポーツシューズを販売していたダスラー兄弟の弟ル
ドルフが1948年(昭和23年)に独立して会社を設立し,「俊敏に
獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をブランド・マーク
としたものである(乙2,乙3)。
(イ)「」ブランドに関して,ピューマの動物図形を用いた商標で我PUMA
が国で商標登録されたものとしては,次のものがある(甲3∼5,7
〔枝番を含む〕)。
①(登録第4637003号,引用商標2)
②(登録第1884350号,引用商標3)

(登録第1925032号,
引用商標4)

(登録第1949358号)

(登録第2068537号)

(登録第2071905号)

(登録第2104254号)

(登録第2143504号)

(登録第2290252号)

(登録第2290264号)
⑪(登録第2499723号)
⑫(登録第2570742号)

(登録第2602056号)

(登録第3077519号)

(登録第3248427号)

(登録第3328662号)

(登録第4161490号)

(登録第4356663号)

(登録第4907491号)
これらの商標の構成をみると,「」の文字と動物図形が組み合PUMA
SPORTCATFLYINGPUMAPUMAわされたもののほか,「」,「」,「
」,「」などの文字と組み合わされたもの,DISCSYSTEMPUMACELL
動物図形のみのものなど多岐にわたるが,上方へ向けて跳び上がるよう
に前足と後足を大きく開いているピューマが側面から見た姿でシルエッ
ト風に描かれているという点で共通している。
これらのピューマの図柄は,体全体の輪郭が流れるような曲線によっ
て描かれている点や,先端だけ若干丸みを帯びた細長い尻尾が右上方に
高くしなるように伸び,大きく後ろへ伸びた後足と対称をなしている点
で特徴的であり,全体として敏捷でスマートな印象を与えるものであ
る。このようなピューマの図柄は,上記各商標においてほぼ統一された
ものとなっている。
(ウ)そして,我が国において販売されているスポーツシューズ,スポーツ
ウェア,バッグ等のカタログでも,上記商標に描かれているものと同様
のピューマの図柄が商品に使用されている(乙5∼乙7)。
(エ)以上によれば,「」ブランドは,上記のような特徴的なピューPUMA
マの図柄によって取引者・需要者に印象付けられ,記憶されているもの
ということができる。
イこれに対して本件商標における動物図形は,たしかにその向きや基本的
姿勢,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中
・腹から足にかけての曲線の描き方において上記「」ブランドの商PUMA
標と似ている点があるものの,取引者・需要者に印象付けられる特徴は
「」ブランドの商標とは異なるものである。PUMA
すなわち,本件商標に描かれた動物は,「」ブランドのピューマPUMA
に比べて頭部が大きく,頭部と前足の付け根部分とが連なっているため
に,上半身が重厚でがっしりとした印象を与える。また,「」ブラPUMA
ンドのピューマには模様は描かれず,輪郭のラインやシルエットですっき
りと描かれているのに対し,本件商標では首,前足・後足の関節,尻尾に
飾りや巻き毛のような模様が描かれている。さらに,「」ブランドPUMA
のピューマの特徴である,右上方に高くしなるように伸びた細長い尻尾の
代わりに,全体的に丸みを帯びた尻尾が描かれている。
このように本件商標の動物図形は,「」ブランドのピューマとはPUMA
異なる印象を与えるものである(なお,甲19∼29〔枝番を含む〕によ
れば,本件商標は主として,原告が代表取締役を務める観光土産品等の販
売等を行う有限会社沖縄総合貿易が観光土産品たるTシャツ・エコバッグ
・雑貨等を販売する際に使用されている。)。
ウそうすると,「」ブランドのピューマを記憶している取引者・需PUMA
要者は,本件商標に接したときに「」ブランドのピューマを連想すPUMA
ることがあるとしても,本件商標を「」ブランドの商標とまで誤っPUMA
て認識するおそれはないというべきである。
エしたがって,本件商標から「」ブランドの観念や「プーマ」の称PUMA
呼が生じるということはできない。
(5)以上のとおり,本件商標と引用商標1とは,外観においても観念・称呼に
おいても異なるものであり,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品
に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると
はいえないから,本件商標は引用商標1に類似するものではなく,決定は商
標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものである。
3結語
よって,本件異議決定の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから認
容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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