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判決 平成13年12月27日 神戸地方裁判所 平成13年(わ)第244号 各
不正競争防止法違反,食品衛生法違反事件
主    文
被告人A株式会社を罰金150万円に,被告人Xを懲役1年にそれぞれ処
する。
被告人Xに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予す
る。
理    由
(罪となるべき事実)
 被告人A株式会社は,京都市B区CDa番地に本店を置き,生鮮食料品の卸,小
売業等を営むもの,被告人Xは,被告人A株式会社の代表取締役として,その業務
全般を統括するものであるが,被告人Xは,被告人A株式会社の業務に関し,食肉
製品を販売するためには,その製造者又は加工者の氏名(法人にあっては,その名
称)等を容器包装を開かないでも容易に見ることができるように当該容器包装又は
包装の見えやすい場所に記載して表示しなければならないにもかかわらず,かつ,
不正の目的をもって,需要者の間に広く認識されているV株式会社(本店所在地 
兵庫県城崎郡EFb番地,代表取締役 G)の商品等表示である「製造者W農業協
同組合」等が表示されたポリ袋及び段ボール箱に同社が生産加工処理したものでは
ない若鶏もも肉を順
次詰め込んだ上,平成12年10月13日及び同月18日の2回にわたり,大阪市
H区Ic丁目d番e号所在の株式会社J第一工場冷蔵庫前において,Y株式会社に
対し,前記包装に係る若鶏もも肉各2400キログラム(合計4800キログラ
ム)をそれぞれ販売し,さらに,同月25日,前記同所において,Y株式会社に対
し,前記包装に係る若鶏もも肉2400キログラムを販売のために展示し,もっ
て,他人の商品等表示と同一の商品等表示を使用した商品を譲渡し,又は譲渡のた
めに展示して他人の商品と混同を生じさせるとともに,同月13日及び同月18日
の2回にわたり厚生大臣が定めた基準に合う表示がない食品を販売したものであ
る。
(証拠の標目)
 省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,V株式会社の商品等表示である「製造者W農業協同組合」等の表示
が需要者の間に広く認識されていなかった旨主張し,被告人Xは,当公判廷におい
て,その旨供述するところ,関係各証拠によれば,前記商品等表示が需要者の間に
広く認識されていたと優に認めることができるのであるが,所論に鑑み,補足して
説明を加える。
2 前掲関係各証拠によれば,①V株式会社は,昭和38年に設立され,兵庫県内
に本店を置き,資本金1億2000万円,従業員約170名(ただし,W農業協同
組合の従業員も含む。),年商約80億円の株式会社であり,大阪,姫路に支店を
置き,近畿圏を中心に約150社に対して鶏肉を販売しており,近畿一円では最大
手の業者であること,②W農業協同組合は,その主たる事務所をV株式会社の本店
所在地と同一地に定め,同社の製造部門として,同社の委託を受けて,一月当たり
約60万羽の但馬産の鶏の成鳥の処理加工を行っており,平成11年4月以降,他
の業者からの委託は全く受けていないこと,③W農業協同組合がV株式会社の食鳥
処理場であることは,全国で唯一国産ブロイラーもも肉の先物取引を行っているK
商品取引所が作成し
,取引関係者に配布するブロイラー受渡マニュアルにも,全国に約49社ある月間
30万羽以上を処理加工する業者の1つとして明記されており,また,全国食鳥新
聞,鶏鳴新聞,食肉流通新聞等の業界新聞でも紹介されていること,④本件若鶏も
も肉を譲り受けたY株式会社(本店・大分県L市)の代表者であるMにおいても,
現にW農業協同組合をV株式会社と関連する処理場であると認識していたことがそ
れぞれ認められ,これらの事情に加え,被告人Xの捜査段階における各供述調書に
よれば,同被告人がW農業協同組合をV株式会社の生産加工処理部門であると知っ
ていた旨自認していたこと等に照らすと,証人N,同O及び同PがV株式会社やW
農業協同組合がV株式会社の食鳥処理場であることを知らない,又は有名ではない
旨供述していること
を考慮しても,なお「製造者W農業協同組合」等の表示は,少なくとも同社と直接
取引のある近畿圏を中心に食鶏業者の間ではV株式会社の商品であることを積極的
に表示する程度に認識されていたことは明らかであるから,V株式会社の商品等表
示として需要者の間に広く認識されていたと認めるに十分である。
  これに対し,被告人Xは,当公判廷において,本件犯行当時,「製造者W農業
協同組合」との表示がV株式会社の商品等表示であることを知らなかったし,自ら
行ったアンケート調査の結果から,多くの鶏肉専門業者がこのことを知らなかった
ことが判明した旨供述するが,その供述はブロイラー先物取引関係者らの供述と符
合しないこと,前記被告人Xの各供述調書は,同被告人が本件犯行を強く否認して
いる最中に作成されたものであり,その記載内容も具体的で不自然不合理な点がな
いことから高度の信用性が認められること,前記アンケート調査は,その対象選定
やアンケート方法に問題がある上,回収できたアンケート数自体も極少数にとどま
り実態を反映したものとは言い難いこと等に照らすと,被告人Xの公判供述はいず
れの点においても信
用できない。
3 したがって,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
 被告人A株式会社の判示所為のうち,商品主体混同行為を行った不正競争防止法
違反の点は包括して平成13年法律第18号(不正競争防止法の一部を改正する法
律)附則2条により同法による改正前の不正競争防止法13条1号(2条1項1
号),14条に,食品の表示基準に違反した点は包括して平成11年法律第160
号(中央省庁等改革関係法施行法)1303条により同法597条による改正前の
食品衛生法31条1号(11条2項,1項,同法施行規則5条1項1号ハ,別表第
3の4号),33条にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れ
る場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として重い不正競争防
止法違反の罪の刑で処断することとし,その所定金額の範囲内で被告人A株式会社
を罰金150万円に処
することとし,被告人Xの判示所為のうち,商品主体混同行為を行った不正競争防
止法違反の点は包括して平成13年法律第18号(不正競争防止法の一部を改正す
る法律)附則2条により同法による改正前の不正競争防止法13条1号(2条1項
1号),14条に,食品の表示基準に違反した点は包括して平成11年法律第16
0号(中央省庁等改革関係法施行法)1303条により同法597条による改正前
の食品衛生法31条1号(11条2項,1項,同法施行規則5条1項1号ハ,別表
第3の4号),33条にそれぞれ該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触
れる場合である(法的評価を離れ,構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で,
行為者の動態・商品の販売が社会的見解上一個のものと評価を受ける場合に該当す
る。)から,刑法5
4条1項前段,10条により1罪として重い不正競争防止法違反の罪の刑で処断す
ることとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人Xを懲役1
年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間
その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人Xが,被告人A株式会社の業務に関し,不正の目的をもって,需
要者の間に広く認識されている被害会社V株式会社の商品等表示が表示されたポリ
袋及び段ボール箱に同社が生産処理加工したものではない若鶏もも肉を詰め込んだ
上,商品先物取引の相手方会社Y株式会社に対し,これらを販売し,又は販売のた
めに展示したという不正競争防止法違反,食品衛生法違反の事案である。
被告人Xの供述によれば,同被告人は,平成12年9月26日に成立した被告人
A株式会社と相手方会社との間の国産ブロイラーもも肉の商品先物取引に関し,そ
の詳細は必ずしも明らかではないが,自らが指定した被害会社の商品を調達できな
かったことなどから,本件犯行に及んだというのであるが,いずれにせよその動機
に酌むべき事情は認められない。その犯行態様をみるに,被告人Xは,被害会社の
商品等表示の入ったポリ袋及び段ボール箱を偽造させる等した上,これらに被害会
社が生産処理加工したものではない若鶏もも肉を詰め込んで本件犯行に及んだもの
であり,前記ポリ袋等が真正なものと寸分違わない精巧なものであり,本件犯行に
係る若鶏もも肉はその一部が鮮度の悪い粗悪品であったこと等に鑑みると,非常に
計画的で極めて巧妙
悪質である。本件犯行は,そもそも被害会社の営業上の信用や公正な競争秩序を害
するばかりか,公衆衛生の観点から厚生大臣が定めた基準にも違反するものであ
り,相手方会社が現に被害会社の商品であると信じて本件若鶏もも肉を受領させら
れ,これらを転売できなかったことにより約283万円の財産的損害を被ったこと
等に照らすと,犯行の結果も軽視できない。被告人Xは,本件犯行が発覚するや,
事実関係を完全否認して種々の罪証隠滅工作に及び,公判においては,ようやく概
ね事実を認めるに至ったが,なおも不合理な弁解を繰り返すなど,犯行後の行状も
甚だ芳しくない。
 以上の諸点に照らすと,その犯情は悪く,被告人両名の刑事責任は重いといわざ
るを得ない。
 しかしながら,幸いにも本件犯行が相手方会社の商品受領後すぐに発覚したた
め,本件若鶏もも肉が相手方会社を通じて市場にほとんど出回らず,被害会社の営
業上の信用や公正な競争秩序を著しく侵害することはなかったこと,被告人A株式
会社は,本件犯行の発覚後,相手方会社に商品の差し替え等の被害回復措置を講じ
たこと,被告人A株式会社は,本件犯行のマスコミ報道等により,営業上の信用を
失墜して売上げも大幅に減少しており,被告人Xも,相当期間の身柄拘束を受ける
など,ともに社会的制裁を受けたこと,被告人Xは,約30年前の業務上過失傷害
罪による略式罰金前科を除き,前科前歴がないこと,被告人Xの家族が同被告人の
指導監督を誓約していること,被告人A株式会社は,従来から障害者雇用や過疎地
での高齢者雇用の推進
に努める等の社会的貢献を果たしていたことなど,被告人両名のために酌むべき事
情も認められる。
 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人両名に主文掲記の刑をそれぞれ科し
た上で,被告人Xに対してはその刑の執行を猶予することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成13年12月28日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  杉森研二
   裁判官  溝國禎久
   裁判官  林 史高

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