弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被申立人が申立人らに対し別表記載の日付でした各退学拠分の効力は、いずれも本
案判決が確定するまでこれを停止する。
申立費用は被申立人の負担とする。
       理   由
(申立ての趣旨および理由)
申立人ら代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由としてつぎのように主張し
た。
一 申立人らは、いずれも北海道立江別高等学校の学生であつて同校三年次に在学
していたものであるが、被申立人は、申立人らに対し、それぞれ別表記載の日付で
退学処分を行つた。
二 しかし、右処分はつぎの理由で違法であるから取消しを免れない。
(一) 北海道立高等学校学則第二三条によれば、「懲戒による退学を命ずるのは
左の各号の一に該当する場合に限る。
  性行不良で改善の見込がないと認められる者
  著しく学習を怠り成業の見込がないと認められる者
  正当の理由がなくて出席が常でない者
  学校の秩序を乱しその他生徒としての本分に反した者」と規定されているが、
申立人らには右学則各号に該当する行為はない。被申立人が主張する別紙記載の各
行為は、一部は真実に合致するものもあるが、大部分はその趣旨や程度が歪曲誇張
されていて到底承認することのできないものである。
(二) 憲法第三一条の規定は、行政機関が懲戒処分という人の権利義務に重大な
影響をおよぼす処分を行う場合にも当然適用されると解すべきである。しかるに被
申立人は、昭和四五年一二月一九日夜形式的に申立人らから事情聴取を行つただけ
で全く弁明の機会を与えずに処分したものであるから、本処分の手続は憲法の右規
定に違背する。
三 申立人らは、本年二月に実施される卒業試験を受け、卒業となる見込であつ
た。しかるに本処分によつて、申立人らは授業を受けることはもちろん校内に立入
ることさえ許されていない。また申立人らはいずれも大学進学を希望しているが、
卒業試験を受ける機会も与えられず、被申立人から卒業見込証明書の交付も受けら
れないので、入学願書を提出することもできない。憲法第二六条第一項は、国民の
教育を受ける権利を保障しているが、申立人らは、本処分によつてこの基本的な人
権の一つである教育を受ける機会を阻止されている。
 以上のとおり本処分によつて申立人らは回復不能の損害を被るおそれがあり、し
かも時々刻々その損害が拡大していくのであるから、これを避けるため本処分の効
力を停止する緊急の必要がある。
(被申立人の意見)
被申立人は、「申立人らの本件申立てを却下する。」との裁判を求め、申立ての理
由に対しつぎのように主張した。
一 申立ての理由一の事実は認める。
二 同二の(一)について
 申立人らは、別紙記載のとおりの各行為を行い、再三にわたる本校の指導にもか
かわらずこれに応じなかった。申立人らの右行為は、前記学則第二三条第四号に該
当するから、かかる事実と理由にもとづいて被申立人がなした本処分には何らの違
法もない。
三 同二の(二)について
 申立人らに対しては、本処分前再三にわたつて前記各行為に対する弁明を求め、
また説得指導をくり返したが、申立人らは、その都度これを拒否したものであつ
て、被申立人が本処分をなすについては生徒である申立人らに対する指導的配慮を
十分尽しており、手続上何らの瑕疵もない。
四 同三について
(一) 申立人らは、本処分によつて、本校における生徒としての権利は失つたが
高等学校教育を受ける機会は失つていない。すなわち、二年修了までの単位修得は
公的資格として認められ、その修得単位を基として高等学校教育を受けることは本
人の意思によつて可能である。また被申立人は、申立人らに修学の意思があるなら
ば、本校はその手続および指導を十分に行なう旨を、本処分を申し渡した際に申立
人らおよびその親権者らに対して伝えている。
(二) 申立人らは、本処分の結果、本校の授業を受けることおよび学校内への立
入は許されず、もちろん卒業試験を受験する機会はなく、卒業見込証明書の交付も
受けられない。したがつて、今年度の大学受験は不可能である。しかし、本人の意
思によつては前記の資格によつて将来の大学進学の機会は保障されている。
以上のとおり、本処分によつて申立人らが回復不能の損害を被ることはない。
(当裁判所の判断)
一 被申立人が申立人らに対し別表記載の日付で退学処分を行つたこと、および右
処分当時申立人らがいずれも公立学校である北海道江別高等学校の生徒で、同校三
年次に在学していたことは当事者間に争いがない。
二 申立人らが本件退学処分によつて、江別高校において行なわれる授業および卒
業試験を受けることができなくなり、被申立人から卒業見込証明書の交付を受ける
こともできないので、今年度の大学進学は時期的に不可能となることについては当
事者間に争いがなく、また、疎明によると、申立人Aは東京都立大学法学部又は室
蘭工業大学に、同Bは曰本大学芸術学部に、同Cは札幌商科大学にそれぞれ進学す
ることを希望していることおよび、右各志望校の入学願書の締切日は切迫しかっ江
別高校における卒業試験も本年二月中旬に行なわれることが一応認められる。
 右のように、申立人らが本件退学処分によつて江別高校における在学関係を失
い、ひいては、それぞれの志望大学の今年度の入学試験を受けることもできないと
いう不利益は、行政事件訴訟法第二五条の規定にいわゆる「回復の困難な損害」に
あたるものと解すべきである。けだし、右のような不利益は、本件退学処分によつ
てもたらされる当然の結果であり、また、申立人らが失つた右の在学関係それ自体
は、本案において勝訴の確定判決を得ることによつて回復することができるもので
あるとしても、申立人らが本案で勝訴するためには一定の時間を必要とする必上、
それによつて回復することができた在学関係は、心身の発達に応じて適切に施され
なければならないという学校教育の特殊性を考えると、申立人らにとつては還らな
い時を経た後のものとして本件処分がなかつたならば現存するはずの在学関係と同
じものではありえないし、また、その後における申立人らの卒業や進学等と現在に
おけるそれとの間において、申立人らの物心両面にわたる利害得失が同じであるな
どとは誰しもいいえないからである。しかも、前記のように、申立人らが志望する
各大学の今年度の入学願書受付の締切日や江別高校の卒業試験が切迫している以
上、申立人らには、右の回復の困難な損害を避けるため本件退学処分の効力を停止
すべき「緊急の必要」があるものというべきである。
三 公立高等学校における校長の懲戒処分は、その判断が社会観念上著しく妥当を
欠くものと認められる場合を除いては、原則として校長の裁量にまかされるものと
解されるが、被申立人が本件退学処分の理由としてあげる別紙記載の各行為をどの
ような資料によつて認定したうえで右の処分を決定したのかという点についての疎
明は何もない。しかも、前記のように、申立人らが右行為の趣旨や程度を根本的に
争つている本件の現段階では、いまだ本案について理由がないとみえると速断する
ことはできない。
四 なお、本件においては、申立人らに対する退学処分の効力を停止すると、江別
高校において今後行なわれる授業その他の教育課程の実施が阻害される等公共の福
祉に重大な影響をおよぼすおそれが生ずるものと認むべき資料はない。
五 以上のとおり申立人らの本件申立は理由があるのでこれを認容することとし、
申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
別表
別紙
一 申立人Aについて
(一) 昭和四五年六月一三日
 申立人は、午前一一時頃当校記念館前でヘルメツト覆面着用のうえ、被申立人の
説得を無視して①安保粉砕②江高解体③新聞局入局弾圧反対をさけび無届集会およ
びデモを指導した。
(二) 同年七月六日
 申立人から午前八時四〇分まで生徒大会即時開催をアピールする集会の申込みが
あつたが、被申立人は学校運営上支障があると考え却下した。しかし申立人は、こ
れを無視して記念館内で授業を放棄して無届集会を行ない、かつ各教室を廻つて参
加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。
(三) 同月八日、九日
 生徒会執行部の自己批判、生徒大会即時開催学校側の無条件開催承認を理由に期
末試験を放棄して、被申立人の数度にわたる説得を聞きいれず、本校前庭において
ハンガーストライキを強行した。
(四) 同年九月一五日
 八月二三日の文書指導を無視して、札幌市における出入国管理法案粉砕デモに無
届参加、同日公務執行妨害等で逮捕された。
(五) 同一〇月一七日
 たび重なる不法行為に対して申し渡した無期自宅謹慎に従わず登校した。
(六) 同月二三日
 前記自宅謹慎に対して反省と確約がなされたので被申立人はこれを解いたが、一
二月一日の生徒大会において申立人はこれを否定した。
(七) 同年一二月九日および一一日
 九日の期末テスト第二時限目および一一日の期末テスト第二時限目のテスト実施
中学校内規を無視する行為があつた。
(八) 同月一七日
 午後九時四〇分頃当校放送室屋根裏に侵入し職員会議の盗聴行為を行なつた。
(九) 同月一八日
 本校校長室封鎖を計画し、翌一九日江別高等学校生徒Dの下宿先において封鎖計
画を謀議し、かつその場で同席の生徒に対して勧誘を行ない封鎖実行行為を行なわ
せた。また、申立人自身も午後七時第二次封銷に加わる予定であつたが封鎖が被申
立人により事前に解除されたため実行できなかつた。
二 申立人Bについて
(一) 昭和四五年六月一三日
 申立人は、午前一一時頃当校記念館前でヘルメツト覆面着用のうえ、被申立人の
説得を無視して①安保粉砕②江高解体③新聞局入局弾圧反対をさけび無届集会およ
びデモを行なつた。
(二) 同年七月六日
 第一時限より授業を放棄し、生徒大会即時開催をアピールする無届集会を開き、
かつ各教室を廻つて参加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。
(三) 同月八日、九日
 期末試験を放棄し、ハンガーストライキに同調して校内前庭で座込みを行なつ
た。
(四) 同年一〇月一六日
 当校前庭において無届集会に参加した。
(五) 同年一二月一八日
 申立人Aの処分反対等を理由として校長室を封鎖する計画をした。
(六) 同月一九日
 谷藤病院食堂および本校生徒の下宿先において校長室封鎖の実行行為を謀議し
た。
(七) 同日
 午後六時頃、校長室封鎖のため侵入し破壊行為を行なつた。
三 申立人Cについて
(一) 昭和四五年六月一三日
 申立人は午前一一時頃、当校記念館前で、被申立人の説得を無視して無届集会お
よびデモを行なつた。
(二) 同年七月六日
 第一時限より授業を放棄し、生徒大会即時開催をアピールする無届集会を開き、
かつ教室を廻つて参加を呼びかけるなど学校運営を著しく阻害した。
(三) 同月八日、九日
 生徒会執行部の自己批判、生徒大会即時開催、学校側の無条件開催承認を理由に
期末試験を放棄して、被申立人の数度にわたる説得を聞きいれず、本校前庭におい
てハンガーストライキを強行した。
(四) 同年一二月一八日
 申立人Aの処分反対を理由として校長室を封鎖する計画をした。
(五) 同月一九日
 谷藤病院食堂および本校生徒下宿先において校長室封鎖のための実行行為を謀議
した。
(六) 同日
 午後六時頃、校長室封鎖のため侵入し破壊行為を行なつた。

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