弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役十月に処する。
     ただし本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     被告人から一億一千八百二十八万七千円を追徴する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意については、それぞれ弁護人ならびに検察官が差し出した各控
訴趣意書の記載を、また検察官の控訴趣意に対する弁護人の答弁については、弁護
人が差し出した「上申書」と題する昭和三四年一一月一〇日付書面の記載を各引用
する。
 弁護人の控訴趣意は、これを要するに、原判決には判決に影響を及ぼすことが明
らかな事実の誤認があるとし、原判示にかかるたばこの販売は、被告人がA株式会
社の使用人としてこれを取り扱つたもので、被告人自身がその販売当事者ではな
い、したがつて原判決が被告人に対し科した追徴は本来右会社に対しこれをしなけ
ればならないものである、と主張するほか、被告人が前記会社の使用人としてした
原判示たばこの無指定販売については適法な告発がないから、訴訟条件を欠くもの
として公訴を棄却すべきにかかわらず、原判決が有罪の判決をしたのは明らかに違
法といわなければならない、というのであり、また検察官の控訴趣意は、原判決に
は判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認および法令適用の誤があると言
い、本件公訴にかかるたばこの販売は、すべて被告人がその主体であるにかかわら
ず、原判決が、右たばこ販売の主体はいわゆるCであつて被告人は右Cからたばこ
の販売をまかされたに過ぎないから、その責任はあげて右Cの理事長らが負うべき
もので被告人には責任がないとし無罪を言い渡したのは、その前提において事実の
誤認があるばかりでなく、仮に原審の認定事実を前提とする場合においても、被告
人とCの理事長らとの間に共犯関係の成立が考えられるだけであつて、実行行為者
としての被告人の罪責を免れしめるいわれのないことは、たばこ専売法七七条の規
定からしても明白であるから、原審は法令の解釈適用をも誤つたものである、と主
張するのである。
 よつて案ずるに、本件公訴事実にあるとおり、昭和三一年一〇月一五日ごろから
昭和三二年八月二三日ごろまでの間、被告人の手を通じて合計十六個所のパチンコ
遊技場に対し、日本専売公社の製造たばこである「ピース」合計百五十八万七千百
個、「いこい」合計九十八万七千八百個、「光」合計十二万八千七百個、「新生」
合計三万四千八百個、「ホープ」合計二千個、「みどり」合計千個および「パー
ル」合計千個が、代金合計一億一千八百二十八万七千円で販売されたこと、そのう
ち昭和三十二年八月五日以降の分「ピース」合計十三万五千個、「いこい」合計六
万六千八百個、「光」合計一万一千七百個、「新生」合計三千六百個、「ホープ」
合計八百個および「みどり」合計八百個(この代金合計九百三十万七千円)は、A
株式会社名義で納入されたものであるが、その余の分の納入は、すべてB堂名義に
よつていたこと、ならびに被告人自身は、前記専売公社からその製造たばこの小売
人たる指定を受けていなかつたことは、記録上明らかで争の余地はない。そしてさ
らに、記録によれば、右B堂はC連合会が、その事務局の運営費に充てるため、昭
和二六年一二月ごろ、法人格がないので、当時の理事長Dの個人名義で日本専売公
社からその製造たばこの小売人の指定を受け、東京都庁内の一隅を借り受け、たば
この販売を始めた店の名称であつて、右Dが昭和二八年九月ごろ理事長辞任後も、
名義の切替をなさずD名義を使用してそのままたばこの販売を継続していたこと、
ならびに被告人は中途から右B堂の仕事に携わるようになり、その後昭和三〇年三
月九日付でDの使用人届を日本専売公社に提出し、引き続いてB堂のたばこの仕入
れ等に従事してきたことが認められる。ここで弁護人は、検察官の控訴趣意に対
し、前述の被告人の手を経てB堂名義でパチンコ遊技場にたばこが納入された分に
ついて、被告人は指定たばこ小売人DすなわちCの使用人としてたばこの買受およ
び販売の一切を任されていたものであるから、右販売の主体はあくまでCであつて
被告人ではない、と主張し、原判決もまた、同様の理由により、右販売の主体はC
であつて被告人でないとし、D理事長辞任後のB堂におけるたばこの販売は指定小
売人でない者がしたことになるが、その責任はあげてD以後のCの理事長が負うべ
きもので、被告人にはその責任がなく、無罪であるとしたのであるが、しかし、被
告人の検察官に対する昭和三二年九月一三日付供述調書によれば、被告人は、「何
か収入の道を得たいと思い、紹介されてCのたばこ販売店の仕事を手伝うことにな
つたが、それは、Cの売店で売るものとしてたばこの配給を受け、これを自分で見
つけたパチンコ店等に売り、この分の利潤を自分の収入とする狙いがあつたからで
あり、そこで自分で金を借り集めてたばこを買取りあちこちのパチンコ屋に納めた
が、そのたばこはすべてCのたばこ買受帳を使つて買つたもので、これによる収入
はもちろん自分の手に納めていた、なおB堂の店売たばこの仕入代金は売上金の中
から渡して貰つており、その売上は売子が毎日記帳し毎日利潤を計算し事務局長に
渡しており、その店でのたばこの利益に関しては、自分は一切関係していなかつ
た」、というのであり、またDの検察官に対する昭和三二年九月一一日付供述調書
によれば、「Cは何ら収益事業を持つていなかつたので、全然財源がなかつたた
め、都の民生局に頼んで地下食堂の一隅を無償で借り受け、たばこ小売店を開業す
ることになつたが、Cには法人格がなかつたので、当時理事長である自分名義で指
定を受けた関係上、理事長辞任後は後任の理事長に対し速かに名義を書き換えるよ
う催促したが、その後再三の申入れにかかわらず、なかなか実現するにいたらなか
つた」、というのであつ<要旨>て、これによると、Cが販売の主体であると認める
べきは、Cがその計算において仕入れならびに販売をしていたもの、換言す
れば、みずから仕入資金を支出し販売の利潤はあげて自己に収入していたB堂の店
売りに関するものにかぎるのが相当であつて、被告人がみずから仕入資金を調達し
てその利潤はそのまま全部自己の手に納めていた本件公訴にかかるパチンコ遊技場
に対する販売分については、当然被告人がその販売主体であると認むべきであり、
この分についてまで被告人がCの使用人として販売を任されていたと認むべきでは
ない。またDの指定小売人名義の使用についても前述のようにDはその名義の性質
上理事長辞任後は速かに後任理事長に名義を書き換えるよう督促していたのであつ
て、ただ事実上名義書換がなされるまでCのため従前どおり名義の使用を容認せざ
るを得ない立場にあつたとみられるにしても、被告人がその自己の計算において仕
入れおよび販売に当つていた前記パチンコ遊技場に対する販売分についてまでDの
使用人としてその指定小売人名義の使用を承認していたとは、とうてい考えられな
い。被告人が当時自己の収入に帰属した利潤の中から若干(当審証人Eの供述によ
れば、年間三、四万円、後にその倍額ぐらいになつたという)寄付金として醵出し
ていたこと、あるいはCが被告人に対し雇傭契約書を作成し、もしくは被告人のた
めDの使用人届を専売公社に提出した事実があるにせよ、それらは何ら右認定に影
響を及ぼすものでないし、仮に当時Cの当局者が内々被告人の本件パチンコ遊技場
に対するたばこ販売の事実を察知していたとしても、それでただちに前記認定を覆
すことにもならない。以上説明したところにより、本件のB堂名義でたばこを納入
した分については、被告人がその販売主体であり、しかも被告人自身は指定小売人
でないから、被告人に対し、公訴どおり有罪の認定をなすべき筋合であるにかかわ
らず、原審がこの部分について被告人を無罪としたのは、判決に影響を及ぼすこと
が明らかな事実の誤認を犯したものといわなければならないことはいうまでもな
い。検察官の控訴は、爾余の点につき論ずるまでもなく、すでにこの点において理
由があり、原判決は破棄を免れない。
 次にA株式会社の名義で納入された原判示にかかるたばこ販売分について、弁護
人の控訴趣意の当否を考えると、被告人の原審公判廷における供述によれば、A株
式会社は、たばこの販売その他を営業目的として被告人が設立を企画したもので、
それは当時被告人がCからB堂を辞めてくれという話を受けており、被告人として
は職を失うことになるので、別個にたばこ販売の店を開くことを考えた結果、みず
から指定を受けるまで得意先をつないでおくため、Aの名前で納品を始めたわけで
あるというのであり、なお被告人自身はその会社の役職員として名をつらねてはい
ないが、それは第三国人の名を出すと対外的に具合が悪くなると心配したからであ
る、と述べており、また原審公判廷における証人Fの供述によれば、同人は当時A
株式会社に勤務していたが、その会社の社長はG名義であるが、実際の仕事は被告
人がやつていて、パチンコ店からたばこ代金を受け取ると、それは銀行の被告人名
義の預金に入れていたことなどが認められ、これらと前にすでにあらわれた各証拠
とを総合すれば、A名義で納品した分についても、その実体は被告人が自己の計算
において仕入れおよび販売をしたものというべく結局被告人を販売の主体と認むべ
きことは、B堂名義で納入した場合と少しも変るところはないといわなければなら
ない。この点に関し、当審において取り調べた証人Gは被告人はAの手伝人に過ぎ
ず本件のたばこ買入資金も自分が出したものであるなどと述べているけれども、同
人は別にたばこの指定小売人の名義も持つており、前述の各証拠に照らし同証言は
にわかに信じがたく、また被告人も当審において原審の供述を変更しているがこれ
を採用しない。したがつて、この点について被告人に有罪の言渡をした原判決は正
当であつて、何ら事実の誤認はない。なお、右原審が有罪と認定した事実につい
て、被告人に対する適法な告発がないから訴訟条件を欠くとの弁護人の所論につい
ては、その理由として縷々詳述するところは、要するに、「記録添付の告発書の記
載によれば、被告人ほか二名を嫌疑者とするけれども、同書面に記載されたたばこ
の無指定販売の事実については、単にHおよびEの両名を告発しているに過ぎず、
被告人に対しては告発の存しないことは明白である」という主張を前提としている
ように解されるのである。なるほど同告発書を一見すると文中」H、Eは昭和三十
年八月頃より共謀の上これをB堂店舗並にパチンコ遊技場に無指定で販売していた
もので……」と記載されであつて、それだけでは、あたかもたばこの無指定販売に
ついては、単にHおよびEの両名の共謀にかかるものとしているに過ぎないように
見えないわけではないけれども、もしこの点をとらえて、同告発書が被告人をも嫌
疑者としながら、右は単に前記両名を告発したにとどまると解したとするならば、
それは全く誤つた皮相の見方といわなければならないのであつて、同告発書を仔細
に点検すれば、その冒頭にIを筆頭として次にHおよびEの氏名を各列記したう
え、「右の者のたばこ専売法違反嫌疑事件について調査の結果は左の通りでありま
す」と記し、次いで「第一事実」と標記し「嫌疑者JことI並にC連合会理事長
H、同事務局長Eの参名は日本専売公社の指定したたばこ小売人でないのに……」
と事実の叙述を続けているのであつて、その体裁から言つても、またその内容から
見ても、被告人とHおよびEとが共謀のうえたばこの無指定販売をしたとして右三
名を告発する趣旨に出たことは歴然である。すなわち右告発書は、前記「H、Eは
……共謀の上」とある部分について、被告人の氏名をも併記すべきを書き誤つてこ
れを遺脱したか、もしくはそうでなければ文拙くしてその旨意について読者の誤解
を招いたものと解しなければならないのであつて、このことは記録中右告発書の次
に編綴されたK作成の上申書による告発人の釈明ならびに当審公判廷における右K
証人の供述によつても明らかである。これを要するに原判示事実について適法な告
発が存することは前記告発書により認められ疑をいれる余地なく、訴訟条件欠缺の
抗弁はいわれがない。したがつて本件被告人の控訴はその理由がないといわなけれ
ばならない。
 よつて検察官の控訴を理由ありと認め、刑事訴訟法三九七条により原判決を破棄
し、同法四〇〇条但書にしたがいただちに自判することとする。
 (犯罪事実)
 被告人は、日本専売公社の指定したたばこ小売人でないのに、たばこ販売により
不法に利を得ようと企て、単一意思の下に、昭和三一年一〇月一五日ごろから同三
二年八月二三日ごろまでの間、東京都中央区銀座八丁目九番地の九パチンコ遊技場
「L」ほか十五個所の同種店舗において右「L」支配人Mほか十五名に対し、前記
公社の製造たばこ「ピース」合計百五十八万七千百個、「いこい」合計九十八五七
千八百個、「光」合計十二万八千七百個、「新生」合計三万四千八百個、「ホー
プ」合計二千個、「みどり」合計千個、「パール」合計千個を代金合計一億一千八
百二十八万七千円で販売したものである。
 (証拠説明省略)
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は、たばこ専売法二九条二項、七一条五号に該当するので、所
定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役十月に処し、被告人が本件
犯行に際し冒用した指定小売人名義のいわば所有者たるCと被告人との関係、本件
が専売公社から告発されるにいたつた経緯、後に述べるように一般刑法上の追徴と
異り懲罰的性質を有つと解されている本件追徴金額がきわめて莫大な数額に達する
点など記録上うかがわれる諸般の情状を斟酌して刑法二五条一項を適用し本裁判確
定の日から三年間右刑の執行を猶予し、本件犯罪にかかるたばこは没収することが
できないので、たばこ専売法七五条二項によりその価額一億一千八百二十八万七千
円を被告人から追徴し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文にした
がい全部被告人の負担とする。
 (裁判長判事 兼平慶之助 判事 足立進 判事 関谷六郎)

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