平成18年(ワ)第5240号産業廃棄物処理施設建設差止請求事件
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,別紙施設目録記載の産業廃棄物処理施設の操業をしてはならない
(なお,原告らは操業差止請求に係る施設の種類を廃棄物の処理及び清掃に関
する法律施行令7条3号,4号,5号,7号,8号,8号の2,13号の2に
規定する産業廃棄物処理施設とするのに対し,後記第2の1(2)アのとおり現
実に建設され,被告が操業を予定している施設には,同条4号,7号,8号の
2に規定する施設が含まれないことが証拠(甲1,3)上明らかであるところ,
施設としての同一性があるものと認め,施設の種類を別紙施設目録のとおり訂
正した。)。
第2事案の概要
本件は,被告が別紙施設目録記載の設置場所(以下「本件設置場所」とい
う。)に同目録記載の産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)を建
設し,その操業を予定しているところ,本件施設の周辺に居住又は就業する原
告らが,本件施設が操業されると,本件施設から排出されるダイオキシン類に
暴露され,原告らの生命,健康が侵害されるおそれが極めて大きいなどと主張
して,被告に対し,人格権に基づき,本件施設の操業差止めを求めた事案であ
る。
1争いのない事実等(認定事実は末尾に証拠を掲記する。)
(1)当事者
ア原告ら
原告らは,愛知県春日井市,名古屋市○区,同市○区に居住又は就業す
る住民である。(甲127[以下,枝番のある書証については,特記しな
い限りすべての枝番を含む。],弁論の全趣旨)
イ被告
被告は,風俗営業(パチンコ・マージャン)の遊戯場経営,産業廃棄物
・一般廃棄物の中間処理場及び最終処理場の建設,運営及び管理等を目的
とする株式会社である。(弁論の全趣旨)
(2)本件施設の設置許可及び建設と被告の操業予定
ア被告は,平成13年5月23日,愛知県知事に対し本件施設の設置許可
を申請し,平成16年4月28日,愛知県知事から廃棄物の処理及び清掃
に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)15条1項の規定に基づ
く設置許可を受けて,本件設置場所において本件施設の建設を開始し,平
成19年10月22日これを完成させ,本件施設の操業を予定している。
(甲1,3,124,弁論の全趣旨)
イ被告は,次の各期間,合計3回にわたり本件施設の試運転を実施した
(以下,下記(ア)の試運転から順に「第1回試運転」,「第2回試運転」,
「第3回試運転」という。)。(弁論の全趣旨)
(ア)平成19年10月22日から同年11月3日まで
(イ)平成20年3月4日から同月31日まで
(ウ)平成20年9月9日から同年10月14日まで
ウ産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は都道府県知事の許可(業
許可)を受ける必要があるところ(廃棄物処理法14条6項),被告は,
愛知県知事に対し業許可を申請する予定であるものの,現在までに,業許
可を申請しておらず,業許可を受けていない。(弁論の全趣旨)
(3)本件施設の概要
ア焼却予定物
被告は,本件施設において,廃棄物処理法にいう産業廃棄物(以下単に
「廃棄物」ということもある。)のうち,汚泥,廃油,廃プラスチック類,
紙くず,木くず,繊維くず,動植物性残さ,金属くず,ガラスくず及び陶
磁器くず,並びに感染性産業廃棄物(すべての品目について,廃PCB,
PCB処理物及びPCB汚染物等を除く。また,廃プラスチック類,金属
くず,ガラスくず及び陶磁器くずについては,自動車等破砕物を除く。)
を焼却処理することを予定している。(甲1別紙3,甲3)
なお,廃棄物処理法にいう産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃
棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類
等をいう(同法2条4項,同法施行令2条)。
イ焼却炉
本件施設において廃棄物を焼却するための焼却炉は,株式会社A設計・
製作に係る傾斜回転床炉KR−4001型である(以下「本件炉」とい
う。)。(甲1別紙6−9・10,乙14の1)
ウ処理能力
本件施設の処理能力は,混合処理の場合において,43.2t/日(1.
8t/h)である。(甲1,3)
(4)ダイオキシン類等の発生
廃棄物の焼却処理に伴い,ダイオキシン類が不可避的に発生するほか,ば
いじん,窒素酸化物,硫黄酸化物及び塩素ガス等の有害物質,並びに水銀,
カドミウム,クロム,鉛,ヒ素及び銅等の重金属類が発生する。
2争点
原告らは,被告に対し,人格権に基づき,本件施設の操業差止めを求めるこ
とができるか。
第3争点に関する当事者の主張
(原告らの主張)
1立証責任について
人格権侵害に基づく本件施設の操業差止めが認められるためには,本件施設
から有害物質が発生すること,発生した有害物質が本件施設外に流出すること,
流出した有害物質が原告らの下に到達すること,これにより原告らの健康が侵
害されることが必要であるが,原告らが上記各事実のすべてについて立証責任
を負うと解するのは妥当でない。本件施設からダイオキシン類等の有害物質が
いったん発生し,原告らの下に到達した場合には原告らに取返しのつかない健
康被害が生じること,被告は廃棄物処理業についての専門的な事業者であり,
本件施設を支配し,維持管理し,その支配及び維持管理に関する多様かつ具体
的な情報を独占する者であるから,施設の安全性に関して立証責任を負うこと
になっても格別不利益ではないこと,事業者は環境保全義務(環境基本法8条
1項)を負っていることからすれば,原告らの立証責任を緩和し,軽減させる
よう解釈をするべきである。
ダイオキシン類排出削減のため,廃棄物処理法施行規則の平成9年改正によ
り,産業廃棄物処理施設の構造に関する技術上の基準(同規則12条の2第5
項,4条1項7号。以下「構造基準」という。)及び維持管理の技術上の基準
(同規則12条の7第5項,4条の5第1項2号。以下「維持管理基準」とい
う。)が定められているところ,廃棄物処理法によれば,産業廃棄物処理施設
を設置しようとする者は,当該施設が構造基準に適合しない限り,設置許可を
受けることができず(同法15条の2第1項1号),許可を受けた後も維持管
理基準を遵守する義務を負い(同法15条の2の2),これらの基準に違反し
た場合には,改善命令,使用停止命令,許可取消し等の行政処分の対象となる
上(同法15条の2の6第1号,15条の3第2項),この命令違反について
は罰則が設けられている(同法26条2号)。構造基準及び維持管理基準は,
産業廃棄物処理施設におけるダイオキシン類排出削減のため科学的見地を踏ま
えて定められた最低限度の安全基準ということができ,これらの基準に違反し
て操業がなされる廃棄物処理施設は,単に行政法規違反にとどまらず,実質的
に相当量のダイオキシン類を排出するおそれが大きいというべきである。そし
て,構造基準及び維持管理基準の適合性に関する資料は廃棄物処理業について
の専門的な事業者である被告に集中する傾向があり,資料に乏しい原告らとの
間の公平を図るため,①これらの基準に適合することを被告において立証でき
ない限り,本件施設からダイオキシン類が発生し,施設外に排出されることが
推定されるというべきである。そして,②上記のように本件施設からダイオキ
シン類が発生し,施設外に排出されることが推定される場合には,発生するダ
イオキシン類の具体的濃度,排出経路等についての具体的な立証がない場合で
あっても,排出されたダイオキシン類が原告らの下に到達すること,及びこれ
により原告らの健康が侵害されることが推認されるというべきである。
2ダイオキシン類等の危険性について
(1)ダイオキシン類は,いったん体内に入ると代謝,排泄されにくく蓄積さ
れる物質であり,これを長期にわたり摂取したときに生じる中毒症状(慢性
毒性)として①発がん性,②生殖毒性,③免疫毒性等がある。①発がん性に
ついては,動物実験において2,3,7,8−四塩化ダイオキシン(2,3,
7,8−TCDD)及び類縁化合物の発がん性が示され,また,国際がん研
究機関により,ダイオキシン類のうち2,3,7,8−TCDDについては,
ヒトに対して発がん性があるとの見解が発表されており,②生殖毒性につい
ては,環境省ダイオキシンリスク評価研究会報告書では,動物実験において,
催奇形性,妊娠率の低下,出生仔の低体重,性周期の変調等の影響があると
され,また,コホート研究において,ヒトに対する影響について,子どもの
成長の遅延,行動上の問題,知力の不足及び成長の抑制が認められたとの報
告がなされ,③免疫毒性については,胸腺の萎縮や免疫抑制が報告されてい
る。このように,ダイオキシン類は,日々微量を摂取することによっても慢
性毒性として人体に与える影響が大であり,大変危険な物質である。
(2)廃棄物の焼却処理に伴いばいじんが発生し,また,破砕処理過程等にお
いて粉じんが発生し,これらが飛散する。これらの粒子状物質は呼吸ととも
に吸引されて気管支から肺胞組織に沈着し,組織を壊死させるものであり,
呼吸器病,肺がん等の原因になる。
(3)廃棄物の焼却処理によって,ダイオキシン類のほかにも,多数の有害物
質が発生し,周辺の環境を汚染する。廃棄物の種類及び性状,その混合割合
その他の焼却条件によって,いかなる未知の物質が発生するか知れない。そ
して,これらの有害物質が同時期に体内に摂取された場合には,その毒性と
しての作用は相乗的に強化されてリスクを高める。原告らは,このような複
合汚染の危険にもさらされている。
3本件施設からのダイオキシン類排出の蓋然性について
(1)本件炉の構造上及び運用上の問題点
ア燃焼室熱負荷,燃焼室容積及び燃焼排ガスの滞留時間について
(ア)燃焼室熱負荷について
燃焼室熱負荷は,燃焼室容積1㎥当たり・1時間当たりの発生熱量で
あり,次式により求められる。
燃焼室熱負荷(kcal/㎥・h)
=廃棄物の低位発熱量(kcal/kg)×焼却能力(kg/h)
÷燃焼室容積(㎥)
燃焼室熱負荷は,炉内における火炎の充満度を示す値であり,これが
大きい場合には火炎が過度に充満しすぎて,燃焼ガスの完全燃焼が実現
しないままに,ガスが燃焼室を通過してしまうこととなる。逆に,燃焼
室熱負荷の値が小さい場合には,燃焼ガスが炉内には完全には充満せず,
炉内温度が十分に上昇せず,不完全燃焼が生ずることとなる。
被告は,本件炉の燃焼室熱負荷の値を14万8770kcal/㎥・
hとして設計している。しかしながら,本件炉のような,産業廃棄物を
焼却する炉の場合は,燃焼室熱負荷は,15万kcal/㎥・h以上3
0万kcal/㎥・h未満を基準とするべきである。
燃焼室熱負荷は,炉の焼却能力を測る基準でもあり,燃料室熱負荷が
その基準を下回る場合には,焼却能力にまだ余裕があるため,届出焼却
量よりも多くの廃棄物を焼却することが可能になる。本件炉は,燃料室
熱負荷の値が基準を下回っており,届出焼却量よりも多くの廃棄物を焼
却することが可能であるため,安全を犠牲にして経済性を追求すること
が可能な構造になっている。
また,届出焼却量よりも多くの廃棄物を焼却することが可能であるた
め,被告が計画量を超える廃棄物を受け入れ,焼却処理した場合には,
それだけ発生する排ガスの量も多くなる。そして,排ガスの量が増加す
ると,バグフィルターの処理能力がそれだけ高く要求される。しかしな
がら,本件炉では届出焼却量で焼却処理をした場合のバグフィルターに
入る直前の湿り排ガス量が3万6091N㎥/hであるところ,バグフ
ィルターの処理風量は最大3万8360N㎥/hであり,処理能力にほ
とんど余裕がないため,排ガスの量が増加すればバグフィルターの処理
能力を簡単に超えてしまうこととなり,有害な排ガスが本件施設外に排
出されることとなる。
(イ)燃焼室容積について
被告は,本件炉の燃焼室容積を71.96㎥として届け出ている。し
かしながら,「ごみ処理に係るダイオキシン類防止等ガイドライン」で
は,燃焼室容積について「燃焼室内下流側の再燃焼域は,燃焼温度が8
50℃以上の範囲で,排ガスの滞留時間が2秒以上となるように設計す
るものとする。その範囲は,主たる2次空気ノズル位置より燃焼室出口
まで,又はガスの混合を考慮した位置より燃焼室出口までとし,内面を
耐火物で被覆するものとする。」とされているところ,被告は,ロータ
リー式自動灰出し装置,二次燃焼室及び炉の椀状部を燃焼室容積に含め
ておらず,不当に過小な容積となっている。ロータリー式自動灰出し装
置,二次燃焼室(別紙図面11の斜線部分)及び炉の椀状部は,いずれ
も耐火被覆に覆われた,本来燃焼室としての実質を有する空間であって,
燃焼室容積に含めるべきである。
ロータリー式自動灰出し装置の容積は5.97㎥,二次燃焼室の容積
は4.86㎥である。また,炉の椀状部の容積は5㎥であり,椀状部を
含めた別紙図面10のH3の部分の容積は20.58㎥となる。
したがって,本来の燃焼室容積は次のとおり87.78㎥となり(な
お,V1,V2,V3は,それぞれ別紙図面10のH1,H2,H3の
部分の容積を表す。),これは,被告の届出に係る71.96㎥の1.
220倍である。
ロータリー式灰出し装置+V1+V2+V3+二次燃焼室
=5.97㎥+1.58㎥+54.8㎥+20.58㎥+4.86㎥
=87.78㎥
そして,次式のとおり,本件炉の焼却能力は,燃焼室容積の大きさに
比例して増大する関係にある。
焼却能力(kg/h)=燃焼室熱負荷(kcal/㎥・h)
×燃焼室容積(㎥)
÷廃棄物の低位発熱量(kcal/kg)
そのため,本件炉の焼却能力は,被告の届出に係る1.8t/hの1.
220倍となり,2.196t/hとなる。
したがって,本件炉は,届出焼却量よりも多くの廃棄物を焼却するこ
とが可能な構造になっており,被告が経済性を追求する余り,大量の廃
棄物を受け入れて焼却することにより,有害物質が被告の想定を超えて
発生する危険性がある。
(ウ)燃焼排ガスの滞留時間について
産業廃棄物処理施設の構造基準(廃棄物処理法施行規則12条の2第
5項,4条1項7号)として,燃焼室につき,「燃焼ガスの温度が摂氏
八百度以上の状態で産業廃棄物を焼却することができるものであるこ
と。」及び「燃焼ガスが,摂氏八百度以上の温度を保ちつつ,二秒以上
滞留できるものであること。」が要求されており,ダイオキシン類の発
生を抑制するためには,燃焼ガスが800℃以上の温度で2秒間滞留す
ることが必要である。しかしながら,本件炉においては,燃焼ガスが8
00℃以上の温度で2秒間滞留することが不可能である。
まず,滞留時間の計算式は次のとおりである。
滞留時間(s)=「滞留時間2秒以上の燃焼室容積」(㎥)
÷燃焼排ガス体積(㎥/s)
「滞留時間2秒以上の燃焼室容積」の算出については,「ごみ処理施
設整備の計画・設計要領」(乙42)によると,滞留時間を計算する際
の燃焼室容積は,「主たる2次空気ノズル位置より燃焼室出口まで,又
はガスの混合を考慮した位置より燃焼室出口まで」とされている。
被告は,「滞留時間2秒以上の燃焼室容積」を71.96㎥として計
算しており,別紙図面18の一番下の空気供給口である①の空気供給口
より上の部分を考慮している。
しかしながら,①の空気供給口は,一次燃焼に必要なものであり,主
たる2次空気ノズルに含めるべきでない。別紙図面18の②の空気供給
口より上の部分(③の部分)を「滞留時間2秒以上の燃焼室容積」と考
えるべきである。
したがって,「滞留時間2秒以上の燃焼室容積」は次式のとおり61.
24㎥となる。
二次燃焼室+V1+V2=4.86㎥+1.58㎥+54.8㎥
=61.24㎥
次に,燃焼排ガス体積を算出するに,焼却能力1.8t/hの場合,
燃焼排ガス体積は2万3722N㎥/h=6.58N㎥/sとなるとこ
ろ,燃焼排ガス体積は焼却量に比例するため,前記のように燃焼室容積
を1.220倍とする場合には,燃焼排ガス体積は8.03N㎥/sと
なる。そして,800℃の条件下での燃焼排ガス体積は次式のとおり3
1.56㎥/sとなる。
8.03(N㎥/s)×(800+273)/273=31.56(㎥/s)
以上を前提として滞留時間を計算すると,次のとおり1.94秒とな
り,滞留時間2秒を満たさない。
61.24(㎥)÷31.56(㎥/s)=1.94(s)
イ投入方法の問題点
(ア)連続燃焼は,一酸化炭素(CO),ダイオキシン類等の有害物質や
黒煙の排出を抑制する大前提となっている。すなわち,焼却炉内で燃焼
が急激に大きくなると,部分的に酸素不足となり,COやダイオキシン
類前駆物質が生成されやすくなる。逆に,燃焼が急速に小さくなると,
その部分の温度低下によって燃焼が完全とならず,やはりCOやダイオ
キシン類前駆物質が生成されやすくなる。
ストーカ式焼却炉では,乾燥工程,燃焼工程,後燃焼工程が明確に区
別されており,廃棄物は順送りとなり,回転ストーカ式焼却炉でも,乾
燥,主燃及び後燃というように廃棄物が順送りとなる。このように廃棄
物を順送りして焼却するのは,燃焼が途切れることなく,安定的で連続
した燃焼状態となるからである。
(イ)本件炉においては,破砕後,バケットによって投入ホッパーに運び
込まれた廃棄物を,3分間に1回,90kgずつ,高温燃焼中の炉床の
上にプッシャーによって逐次落とし入れるという廃棄物投入方式が採ら
れているが,燃焼しているところに廃棄物を投入するため,外気は入ら
ないものの,燃焼の変化を少なくするという原則に反している。
このように間欠的に,800℃以上の高温で燃えさかる炉床に直接廃
棄物を投入すると,廃プラスチック類等の発熱量の大きい廃棄物の場合,
一気に激しく燃え上がり,直ちに熱分解ガスが発生して燃焼室内の酸素
が急激に減少することになる。そのため,平均では十分な酸素濃度があ
ったとしても一時的又は局所的に酸素不足による不完全燃焼が起こって
CO濃度が高くなり,ダイオキシン類前駆物質が増大し,ダイオキシン
類濃度も高くなる。
また,逆に,燃焼中の炉床に汚泥等の発熱量の極めて小さい廃棄物を
投入した場合には,急激に炉内温度が下がって燃焼が不完全となり,や
はりダイオキシン類濃度の増加につながる。
このように,本件炉の廃棄物投入方式は,構造的に一次燃焼室内の温
度や酸素濃度が乱高下することが避けられないものとなっており,本件
炉の二次燃焼室は,そのような一次燃焼室の酸素濃度の乱高下を緩和で
きるような機能・性能を備えておらず,高濃度のダイオキシン類が発生
する危険性が大きい。
ウ空気供給の不備
本件炉には,炉内の上部空間に複数の二次燃焼用の空気供給口が設けら
れているものの,一次燃焼用の空気供給口が設けられていない。椀状の回
転床の中に投入された廃棄物は,椀状の壁に半ば覆われる形になるが,椀
状の回転床の内部に空気を送り込む構造になっていないため,回転床内部
の廃棄物に対し十分に空気が行き渡らず,未燃物が残ることとなる。
本件炉では,傾斜した椀状の回転床が回転することによって内部の廃棄
物が攪拌され,回転床内部の廃棄物全体に空気が行き渡ることが想定され
ている。しかし,そのような椀状の回転床の回転のみによって,回転床の
下部にある廃棄物にも十分な空気が常に行き渡るほどの攪拌が必ず生ずる
ことは期待できない。
そのため,本件炉においては,回転床の下部にある廃棄物について,不
完全燃焼となり,ダイオキシン類等の有害物質が発生する危険性が大きい。
本件炉で回転床内部の廃棄物に未燃物が残る可能性が大きいことは,ロ
ータリー式灰出し装置の存在からも推知される。すなわち,ロータリー式
灰出し装置は,内部が耐火構造であり,独自の空気供給口も付いている。
このような構造からすれば,ロータリー式灰出し装置は単なる灰出し装置
ではなく,ロータリーキルン炉ともいいうる燃焼空間であるといえ,回転
床内部で焼却し尽くされなかった廃棄物をこの空間の中で燃焼させ尽くす
ことがもともと想定されていると考えられる。これは被告の申請書に書か
れている焼却方法とは相当に異なるものであり,この場合の燃焼ガスの挙
動は全く不明である。
エ発熱量調整の不備・非現実性
(ア)発熱量調整の重要性
被告は,本件炉の設計計算を行うに当たり,焼却する廃棄物の混合割
合を,木くず37.22%,廃プラスチック類35.00%,金属くず
0.28%,ガラスくず及び陶磁器くず0.22%,紙くず3.28%,
繊維くず0.67%,廃油10.00%,汚泥2.78%,動植物性残
さ2.78%,感染性廃棄物7.78%と想定し,この混合割合による
廃棄物の低位発熱量を5947kcal/kgとして計算している。
この数値は,焼却炉の設計計算を行うにおいて前提となっている値で
あり,廃棄物の低位発熱量が変われば,燃焼ガス温度,燃焼室熱負荷,
排ガス滞留時間等の計算結果は全く違ったものとなるから,設計の基礎
として想定されている廃棄物の低位発熱量と実際に焼却処理する廃棄物
の低位発熱量とが齟齬した場合,実際の燃焼状態は設計において想定さ
れた燃焼状態と全く異なるものとなる。投入する廃棄物の混合割合を調
整して発熱量を一定に保つことが,焼却を想定どおりに行うために重要
である。
(イ)低位発熱量の算定に現実的な根拠がないこと
混合焼却における廃棄物の低位発熱量は,どのような廃棄物をどのよ
うな割合で混ぜるかによって全く異なるため,その低位発熱量の設定は,
基本的には具体的な搬入計画を前提として計算されなければならない。
しかるに,被告は,「計画立案の際に予測した,各焼却対象物の構成比
は,建造物解体廃棄物の組成・建設廃棄物の組成・愛知地方における廃
棄物の現状等を基本に予測を立てた」(乙135・8頁)と説明するに
すぎず,被告の計画における廃棄物の構成比及び低位発熱量の算定は,
現実的・具体的な根拠に基づいたものではない。
(ウ)発熱量計算の非現実性
被告の設計計算書には焼却する廃棄物の種類ごとの専焼計算も付され
ているところ,その専焼計算において,木くず,廃プラスチック等それ
自体ある程度の発熱量を持つものについては100%単体での焼却を想
定して計算してあるが,汚泥,動植物性残さ,金属くず,ガラスくず等
それ自体としては発熱量がないか又は著しく低いものについては,相当
割合の廃油と合わせた焼却として発熱量が算定されている。その結果,
計算表に示されている各廃棄物単体の低位発熱量は,その廃棄物自体の
発熱量というよりもむしろ一定割合の廃油の発熱量とでもいうべき数値
となっており,必ずしも各廃棄物自体の性状を正しく反映した数値とな
っていない。
また,混合焼却における廃棄物の低位発熱量は5947kcal/k
gとされているものの,汚泥,金属くず,ガラスくず等が発熱量を持た
ないのであれば,これらの廃棄物のみが増えたり減ったりした場合,全
体の重量が変わるにもかかわらず全体の発熱量は変わらないことになり,
混合焼却における廃棄物1kg当たりの低位発熱量の値は一定したもの
とならない。
(エ)発熱量調整の非現実性
本件施設には,敷地の狭さゆえに搬入された廃棄物の十分な備蓄スペ
ースがなく,独自の分別設備もないため,発熱量調整のための廃棄物の
分別は,廃棄物排出業者のマニフェスト伝票の記載任せとならざるを得
ない。しかしながら,マニフェスト伝票の運用実態として,その大半が
ずさんに運用されていることは公然と指摘されているところであり,ま
た,たとえマニフェスト伝票が排出者によって適正に運用されていたと
しても,マニフェスト伝票自体,混合された廃棄物の具体的な性状や混
合割合まで記載しているわけではなく,さらに,記載上単一性状の廃棄
物であっても廃棄物の性質上他の性状のものが混入していることは避け
られないものである。したがって,本件施設に搬入される廃棄物の種類
及び量やその混合割合をマニフェスト伝票の記載に基づいて正確に把握
することは,現実には不可能といわざるを得ない。
(オ)このように,本件炉における発熱量調整は極めて現実性に乏しいも
のであり,本件施設が稼働された場合は,想定外の燃焼状態となって,
基準値を超える高濃度のダイオキシン類等の有害物質が排出される危険
性が極めて大きい。
オ人員体制の不足
本件施設における被告の人員体制は不足しており,何事もなく運転が進
んでいるときはともかく,ひとたびトラブルが生じた際の体制として不十
分である。第1回試運転時及び第2回試運転時の消石灰飛散事故や赤さび
飛散事故も,人員の不足や連携の不備など,人員体制の不備が露呈した事
故といえ,また,試運転時のアラーム警報の頻繁な発報にかんがみると,
本件炉の安全稼働を万全に保障できるような体制となっているとはおよそ
考え難い。
(2)試運転結果に現れた問題点
ア第1回試運転について(二次室出口温度及びボイラー出口温度の計算値
と実測値との大幅な相違)
(ア)本件炉の設計計算書(乙14の2)において,二次室出口温度は9
44℃,ボイラー出口温度は862℃と計算されており,この差は82
℃である。この温度差は,ボイラーの能力に基づく計算値である。
ボイラー出口温度は,火炎の輻射熱を直接受けていないので,輻射熱
の影響がなく,真のガス温度を知る端緒となる。すなわち,ボイラー出
口付近の温度に82℃を加えると二次室出口の真のガス温度が推定でき
る。
第1回試運転中の平成19年11月1日における排ガス温度と性状の
データ(乙147)における二次室出口温度及びボイラー出口温度を比
較し,ボイラー出口温度に82℃を加えた数値は次のとおりとなる。
時刻二次室出口ボイラー出口ボイラー出口+82
(時:分:秒)(℃)(℃)(℃)
14:40:271030.5669.6751.6
15:31:261024.3713.5795.5
15:56:261017.0706.0788.0
16:06:261022.1705.4787.4
16:12:271016.2703.7785.7
16:23:26949.0681.4763.4
16:25:26943.9685.2767.2
16:27:26941.1682.8764.8
16:53:26941.4690.5772.5
これによると,二次燃焼室出口付近のガス温度は維持管理基準である
800℃に達していない。これは,火炎の輻射熱を温度計が受けるため,
試運転データに現れている温度は見かけ上の温度であって実際のガス温
度ではないことを意味する。
(イ)被告はこの点について,汚れ係数を考慮していない点,排ガス量が
設計計算と異なっている点,ボイラー出口温度計の設置位置がおかしい
点を挙げている。しかし,被告のこのような反論は,正確を期すべき温
度の計測が実際には全く正確にできていないことを示すものであり,こ
のような反論をすること自体,被告の産業廃棄物処理業者としての資質
及び本件炉の安全性を立証できていないことを自認したに等しい。
イ第2回試運転について
(ア)実際の炉内温度は計測値よりも低いこと
第2回試運転中の平成20年3月10日から同月13日までの排ガス
温度のグラフのうち,二次室出口温度のグラフには櫛の歯のような状態
が,炉内上部温度のグラフには1000℃前後を大きく変動する状態が
現れている(乙151)。
同月10日から同月19日までの二次室出口温度のグラフは,温度が
900℃に低下すると二次室の二次バーナーが着火し,二次燃焼室の温
度を上昇させるように設定されていることを示している。このグラフが
櫛の歯状になる理由は,二次室出口の実際のガス温度が設定温度の90
0℃以下であるからである。すなわち,二次バーナーが着火すると火炎
からの輻射熱で二次室出口の近くにある温度計の保護管の温度が急激に
上昇し,やがてバーナーは停止するが,そうすると,真のガス温度は9
00℃よりはるかに低い(800℃以下)ため,温度計の保護管の温度
はすぐに低下することになる。すると,また二次バーナーが着火するこ
とになる。このような動作をくり返すため温度変化が櫛の歯状になる。
以上より,同月10日から同月19日までの排ガス温度のグラフから,
二次室出口付近のガス温度が見かけ上900℃にあるように見えても,
実際のガス温度はそれ以下である。
同月20日から同月23日までの二次室出口温度のグラフは,800
℃以下には低下していない。特に同月21日のものは800℃の線で下
限が揃っている。これは,二次室出口温度を800℃に設定し,800
℃以下になればバーナーが着火するようになったものである。そのため,
実際の二次室出口付近のガス温度は,既に説明したとおり800℃以下
であることになる。
このように,炉内温度,特に二次室出口温度が見かけ上800℃以上
に達していても,実際のガス温度が800℃に達していない場合,たと
え排ガス滞留時間が2秒以上あっても,CO濃度を低濃度に抑えること
はできない。
(イ)ダイオキシン類測定の問題点
平成20年3月14日午後1時05分から午後5時05分までの間に
ダイオキシン類が測定されている。この時間の排ガス温度のグラフを見
ると,二次室出口温度の下限が900℃を示したものが,急激に上昇し,
下限が平均1100℃にも達している。そして,ダイオキシン類測定時
間を過ぎると温度が低下し900℃の下限を示している。これは明らか
にダイオキシン類測定に対して意図的に温度を上げたものであり,この
測定値は全く信頼できない。
(ウ)燃焼の不安定さ
平成20年3月24日から同月31日までの期間では,炉上部温度と
二次室出口温度の各グラフが同一の変化を示し,同じような波形となっ
ている。これは全体として炉内の温度が高くなったことを意味しており,
炉内上部温度と二次室出口温度が同一の火炎の輻射熱の影響を受けてい
ることになる。
このような温度変化は,二次バーナーが作動しないように炉内の温度
が設定以上(800℃以上と推測される。)になっていれば実現する。
すなわち,二次室出口温度が見かけ上800℃以上になれば,二次バー
ナーは停止したままであるため,炉内上部の温度変化が,そのまま二次
室出口温度に影響を与えるから,炉上部温度と二次室出口温度とは同一
の変化を示すこととなる。
(エ)廃棄物の投入量が少ない場合,炉内温度が低下し,CO濃度が高く
なること
平成20年3月26日の試運転データでは,午前7時から午前8時に
かけて廃棄物の投入量は500kg程度で,この時間の前後では最も廃
棄物の投入量が少なくなっている。その結果,排ガス温度,特に炉内上
部温度はこの時間帯に急激に低下し,600℃以下となっている。これ
に対して,二次室出口温度は,二次バーナーの着火のため約30分間8
00℃の線に沿ってほぼ一定となっている。それから急激に温度が上が
って再び急激に低下し,炉内上部温度は600℃以下,二次室出口温度
は800℃で約20分間一定となっている。
このように,廃棄物の投入量が少ない場合には,炉内の温度が上昇し
ない。
また,この時間帯のCO濃度は,平均すると200ppm以上あり,
一般に廃棄物の投入量が500kg前後と少ないときには同様になって
いる。また,午後3時までに廃棄物の投入を終了したのに対しCO濃度
の発生は午後8時以降にまでわたっているから,廃棄物の投入を停止し
て生じた炭が焼却し終わるまでには5時間程度かかっている。このよう
に一酸化炭素が継続して観測されるということは,大量の炭が生成され,
廃棄物が炭の状態になっても燃焼を継続するということを意味する。
そして,この炭の燃焼が原因となって,100ppmを超える高濃度
の一酸化炭素が発生している。
(オ)酸素濃度の急激な変動
酸素濃度のグラフはどれも針のように鋭いピークの変化がある。廃棄
物が投入されると,一時的に燃焼が下火になるので過剰酸素となり,こ
のときに高いピークとなる。しかし,やがてガス化が始まり,ガス燃焼
のため急激に酸素が消費されるため,今度は酸素濃度が低下し,それが
下のピークとなって現れる。
酸素濃度の下限が6%を下回る場合があると,一般にCO濃度が高く
なる。このことは,平成20年3月30日の試運転データから読み取る
ことができる。同日午後9時ころに酸素濃度がちょうど4%に下がって
いるときがあるが,同時刻のCO濃度を見ると,400ppm以上の高
濃度になっている。
(カ)高いCO濃度の計測
CO濃度は短時間ではあるが度々1000ppm以上にも達している。
第2回試運転中の平成20年3月19日から同月31日までの全日にお
いて,CO濃度1時間平均値が度々100ppmを超え,高いときには
500ないし600ppmに達することすら生じていた。その理由とし
て,既に述べたように,炉内の実際のガス温度が低いこと,3分ごとに
90kgの廃棄物(なお,試運転ではこの値よりはるかに少ない。)を
燃焼中の炉床に投入するという廃棄物投入方法に欠陥があること,本件
炉は廃棄物の下から空気が供給される構造になっておらず,回転床の中
で廃棄物が燃え尽きず,発生した炭がロータリー式自動灰出し装置の内
部で時間をかけて燃焼することが指摘できる。
(キ)排ガス量の問題
本件炉の設計計算においては,処理能力が1.8t/hであり,湿り
排ガス量は3万8332N㎥/hとされている。これに対し,平成20
年3月26日の廃棄物処理量は1.5t/hを超えていないところ,同
日の湿り排ガス量は3万4300N㎥/hである。そのため,1.8t
/hの廃棄物を実際に焼却した場合には,湿り排ガス量が単純計算でも
想定値を超えることになる。
その場合,バグフィルターでダイオキシン類を十分に除去することが
できなくなる。
(ク)高いHCl濃度の計測
第2回試運転では次のとおり高い塩化水素(HCl)濃度が計測され
ている。
平成20年3月11日午後5時から午後6時ころ150ppm
同月13日午後7時59分から午後11時59分
150ppm以上
同月14日午後3時59分から午後7時59分200ppm
このように高いHCl濃度が計測されるのは,炉内に廃棄物を投入す
ると塩ビ型の廃棄物が一気にガス化し,塩化水素が大量に発生するから
である。
そのため,本件炉を作動させた場合には,高いHCl濃度が計測され
る。
(ケ)高い臭気指数
平成20年3月31日の計測では,春日井市と被告との公害防止協定
において基準値が30であるところの臭気指数が35を示している。
ウ第3回試運転について
(ア)二次バーナーの作動
第3回試運転における二次バーナーの燃料の消費量は,試運転結果報
告書(乙179)の消耗資材量一覧表に記載のとおりであるところ,本
件施設の設計仕様書(乙14の1)において,二次バーナーの消費燃油
量は1時間当たり約120リットルとされているから,各運転日ごとの
二次バーナーの作動時間は次のとおりとなる(日付はいずれも平成20
年のものを表す。)。
燃料消費量作動時間運転時間
(ℓ)(h)(h)
9月12日36036
13日4103.427
16日3102.5810
17日9507.9224
18日7606.3316
29日4203.57
30日3803.176
10月1日4403.677
2日48047
6日6605.512
7日960824
8日139011.5824
9日140811.7324
10日8186.8212
12日5404.56
13日3452.882
14日7656.388
また,第3回試運転では,全般的に二次室出口温度が炉内上部温度よ
り高い状態が継続している。このことは,二次バーナーの作動によって,
二次室出口付近の温度が上昇していることを示しており,二次バーナー
が常に作動していること,二次バーナーを頻繁に作動させなければ二次
室出口付近のガス温度を800℃以上に保つことができないことを意味
する。
したがって,本件炉で廃棄物を焼却する際には,維持管理基準の定め
る燃焼ガスの温度が800℃以上の状態で燃焼させることが困難であり,
非常に不安定な燃焼しかできない。また,いったん二次バーナーを止め
た場合には,ガス温度が急激に減少する危険がある。
(イ)温度の減少並びに高いCO濃度及びHCl濃度の計測
第3回試運転では,本件炉に廃棄物を投入しているにもかかわらず,
炉内下部温度及び炉内上部温度が急激に減少している。また,温度の減
少に関連して,高いCO濃度が計測されている。
このように温度が非常に容易に減少すること,廃棄物を投入していて
も温度が800℃以下になることは,本件炉の炉内温度が見かけ上は8
00℃以上を計測したとしても,実際のガス温度は800℃以上に達し
ていないことを意味する。
また,廃棄物を比較的多く投入している平成20年9月17日及び同
年10月9日においても,高いCO濃度が継続しており,廃棄物を多く
投入しても,高いガス温度を維持して,一酸化炭素の発生を抑えること
が必ずしもできない。このように低温で燃焼を継続する状態では,高濃
度で発生する一酸化炭素を燃焼によって低濃度にすることができず,高
いCO濃度が計測されるという問題点がなおも存在することを示してい
る。
さらに,第3回試運転では,HCl濃度も極めて高い値が計測されて
おり,所々で被告が自主的に定めた維持管理計画値だけでなく,法規制
値を超過している。第3回試運転中にHCl濃度の計測を行い記録の存
在する日のすべてで「校正中」の記載があり,被告は校正をした記録を
証拠として提出していない。本件施設では,第2回試運転において維持
管理計画値を超過するHCl濃度が計測されているところ,被告は,そ
の原因につき計測機器の不備であるとしつつ,改善をしたはずの第3回
試運転においてもHCl濃度を正確に計測できず,法規制値を超過する
高いHCl濃度が計測されている。このことは,計測されたHCl濃度
は機械の誤動作によるものでなく,実際の濃度においても,法規制値を
超過していることを示すものである。
被告は,CO濃度,HCl濃度につきそれぞれ75ppmで警報が鳴
るようにして,1時間平均値がそれぞれ100ppmを超えないように
調整している。しかしながら,75ppmの警報ですら本来は異常事態
であり,それが度々観測されること自体が,本来想定した燃焼から逸脱
した異常事態である。
(ウ)1.8t/hの処理能力まで焼却量が達していないこと
第3回試運転において,①43.2t/日の処理量で廃棄物を焼却す
ることができていない点,②廃棄物の発熱量ベースで1.8t/hの処
理能力まで廃棄物の焼却をすることができている時間帯が少ない点で,
100%稼働運転にもかかわらず1.8t/hの処理能力まで焼却量が
達しておらず,本件炉の焼却炉としての安全性が証明されたとはいえな
い。
(3)経理的基礎の不存在
ア法令上,産業廃棄物処理施設を設置しようとする者の能力の基準として,
「産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,かつ,継続して行う
に足りる経理的基礎を有すること」が要求されており(廃棄物処理法15
条の2第1項3号,同法施行規則12条の2の3第2号),上記「経理的
基礎」の判断に関して,旧厚生省から平成12年9月29日付け「産業廃
棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許
可事務の取扱いについて」と題する通知(甲27。以下「衛産79号通
知」という。)が出され,経理的基礎の判断の方法が詳細に定められてい
る。
法がこのような設置主体に関する基準を設けた趣旨は,たとえ処理施設
そのものが構造上,技術上の基準を満たしていたとしても,経理的基礎を
欠く業者が産業廃棄物処理業を行った場合には,利益追求を最優先して環
境負荷や周辺住民の生命・健康への影響を無視し,構造上の限界を超えて
産業廃棄物を受け入れ,焼却することによって,計画においては想定され
ていない大量の有害物質が排出されることがあり得ることから,経理的基
礎を欠く事業者による操業を類型的に危険なものとして規制することにあ
る。これは,悪質な産業廃棄物処理業者が計画書に記載した処理量を超え
て廃棄物を焼却した事案が数多く見られたという立法事実に基づいて,こ
れを防ぐ目的に出たものである。
したがって,設置業者が経理的基礎を欠いているということは,違法に
有害物質を排出する蓋然性があることを推認させる間接事実であり,近隣
住民に対する健康被害の高度の蓋然性を推認させることとなる。
イ被告の財務状況について
以下の財務分析によれば,被告については①借入金依存体質が顕著であ
り,②経営の安定性に欠け,③成長の鈍化ないし収益性の低下が顕著であ
り,短期的な収益状況ないし財務状況の改善が見込めないという評価が可
能であり,経理的基礎を有しない事業者と判断すべきである。
(ア)安全性分析1(自己資本比率)
被告の自己資本比率は,継続的に20%を下回っており,直近の平成
19年8月期では,12.02%にまで落ち込んでいる。これは,被告
が著しい借入金依存体質で返済の負担が重い会社であることを示してい
る。
(イ)安全性分析2(流動比率)
被告の流動比率は,平成15年8月期以降30%ないし40%台とい
う非常に低い水準で推移しており,直近の平成19年8月期でも53.
48%と非常に低い率である。これは,被告が短期的な支払能力に余裕
がなく,資金ショートに陥りやすい財務状況にあることを示している。
(ウ)収益性分析
平成15年8月期から平成19年8月期までの被告の利益率について
は,①売上高対総利益率が10.19%ないし11.82%,②売上高
対営業利益率が2.54%ないし4.76%,③売上高対経常利益率が
2.35%ないし4.49%,④売上高対当期純利益率が0.004%
ないし0.47%となっている。上記の各利益率は年々低下しており,
特に,①売上高対総利益率,③売上高対経常利益率及び④売上高対当期
純利益率については,直近の平成19年8月期が最も低い数値となって
いる。
被告の現在の事業はパチンコ遊戯場経営であるところ,平成19年度
版TKC経営指標によるパチンコホール業に係る総合経営分析表(甲1
58)の黒字企業平均では,①売上高対総利益率が15.3%,②売上
高対営業利益率が2.5%,③売上高対経常利益率が2.5%であり,
被告の利益率は,業界水準と比べても特に高くなっているとはいえない。
加えて,収益性の総合指標である経営資本対営業利益率についても,
被告のそれは年々低下し,平成19年8月期では14.26%となって
いる。
このように,被告が現在行っているパチンコホール営業の収益性は,
良好なものとはいえない。
また,被告は平成16年から平成17年にかけて新規パチンコ店を開
業しているが,開業に伴って,設備投資資金のための新たな借入れと思
われる長期借入金が増加しており,これが利益率を圧迫している。長期
借入金の返済負担は長期にわたり続くから,今後とも長期にわたり利益
率の低下が続くことが予想され,さらに,本件施設の建設に係る設備投
資費用として新たな借入金を増加させたことは,一層の利益率の低下を
招くこととなる。
(エ)生産性分析
被告の粗付加価値額対有形固定資産額比率は経年的に低下しており,
生産性の指標として好ましいものではない。
(オ)成長性分析
被告においては,経年的に売上高が高くなっているものの,利益率が
下がっており,純利益額も逓減している。これは成長性が鈍化している
ことの現れであり,将来的に財務状況が急速に改善することは見込めな
い。
(カ)損益分岐点分析
被告においては,平成14年8月期から平成18年8月期にかけて損
益分岐点が大幅に上昇しており,財務状況が経年的に悪化している。
(キ)キャッシュフロー分析
被告においては,営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを
差し引いたフリーキャッシュフローが,平成16年8月期及び平成17
年8月期においてマイナスになっており,このマイナスを財務キャッシ
ュフローによって賄っている。これは,被告の借入金依存体質が強まっ
ていることを示している。
ウ被告の採算見込みの不合理性
被告が愛知県に提出した採算計画書(乙14の22及び乙145)によ
れば,産業廃棄物処理業によって長期的に利益が得られることとなってい
るが,次のとおり,その採算計画書には不自然,不合理な点が多数あり,
これを信用することはできない。
(ア)廃棄物の処理単価について
被告は,平成13年5月の採算計画書(乙14の22)において,廃
棄物の処理単価(受入単価)を3万円/t(CASE1)から5万円/
t(CASE3)と想定し,平成19年5月の採算計画書(乙145)
においてはこれを36.8円/kgから40.9円/kg(3万680
0円/tから4万0900円/t)として試算を行っている。しかし,
被告は処理単価を3万円/tから5万円/tと想定した根拠について一
切資料を提出していない。通常,何らかの事業を始めるに当たって収入
の予測を立てる際には,現実の取引先になるであろう企業に対して打診
するなどして,現実に見込むことのできる収入を基に試算するものであ
り,本件でいえば,産業廃棄物の処理を依頼する見込みのある企業に対
する打診をして,上記の処理単価が実現可能なものであることの確認が
なされてしかるべきである。
廃棄物処理に要する費用について,ある業者が調査した結果によれば
3000円/㎥ないし1万2000円/㎥であるところ,これを材質ご
とに環境省が公開している換算係数によって1t当たりの単価に換算す
ると,木くず1万0909円/t,金属くず2655円/t,ガラスく
ず及び陶磁器くず6000円/t,廃プラスチック類3万4285円/
t,繊維くず5万円/tとなる。これと比較すると,被告の想定する処
理単価は相当高額に設定されており,収入試算の根拠として意味のない
ものといわざるを得ない。
(イ)43.2t/日の処理量の実現可能性
被告は,1日当たり43.2tの産業廃棄物を焼却することを前提と
して採算計画書を作成しているが,第3回試運転に係る試運転結果報告
書(乙179)を見る限り,それだけの量を処理した日はない。これは,
排ガスに係る各種の測定値を維持管理計画値あるいは維持管理基準値以
下に抑えるために,試運転においては処理量を制限し,調整していたも
のである。したがって,本格稼働後もこれらの基準値を守り続けようと
すれば,採算計画書どおり廃棄物の受入れ及び焼却をすることは不可能
であり,採算見込みを達成することはできないであろう。
(ウ)試運転結果から見た経費算定の不合理性
a燃料費について
平成19年5月の採算計画書(乙145)における燃料費は,平成
13年5月の採算計画書(乙14の22)におけるそれよりも高額に
なっているが,これは,被告が当初,再生燃料油を精製し,二次バー
ナーの燃料として使用することを計画していたが,その計画を撤回し
たことによるものと思われる。
しかしながら,既に述べたとおり,本件炉においては,当初の想定
を超えて,常に二次バーナーを作動させ続けなければ必要な温度を保
つことができないということが,試運転の結果から明らかになってい
る。したがって,計画外の燃料費を考慮していない採算計画書は不正
確なものというほかない。
b中和薬剤の使用量について
試運転結果によれば,ダイオキシン類の排出を抑制する目的で使用
される消石灰等の中和薬剤が,採算計画書における使用量よりも多く
使用されている。
平成13年5月の採算計画書(乙14の22)によれば,廃棄物1
t当たり28.33kgの消石灰を使用する計画になっており,また,
平成19年5月の採算計画書(乙145)によれば,消石灰のほか,
活性炭及びろ過助剤を含め,廃棄物1t当たり38.89kgの中和
薬剤を使用する計画になっているが,第3回試運転に係る試運転結果
報告書(乙179)によれば,試運転中には平均して廃棄物1t当た
り62.78kgの消石灰を使用している。消石灰については,当初
の採算計画書の2倍以上の量である。
平成19年5月の採算計画書においては,中和薬剤の年間費用とし
て初年度2297万円,構成比6.4%(100%稼働時には260
3万円,構成比5.9%)が見込まれているところ,消石灰の使用量
が倍増すれば,中和薬剤の年間費用も増加し,被告の採算計画が大き
く狂うことは間違いない。
c廃棄物の2度破砕について
被告は,破砕不良の廃棄物が炉内にどか落ちすることによる投入量
のばらつきを防ぐために,破砕可能な廃棄物をすべて2度破砕する方
針のようであるが,2度破砕という処理工程は当初の計画では予定さ
れていなかったものであり,当該工程を追加することによる費用増加
が平成19年5月の採算計画書(乙145)に全く反映されていない。
2度目の破砕工程に必要な電気費,人件費等の費用も大きく変わるで
あろうし,2度の破砕に要する時間から,処理可能量も当然変わるで
あろうから,被告は,採算計画書を抜本的に書き直す必要があるとい
うべきである。
(エ)パチンコ遊技台のリサイクル環境の変化
パチンコ業界においては次第にパチンコ遊技台のリサイクルの気運が
高まってきており,現在約82.3%といわれるリサイクル率を,10
0%に近づけることが目指されている。今後リサイクル率が上がってい
けば,被告が廃棄物として処理するパチンコ台の減少は免れず,被告の
採算計画に狂いが生じることは間違いない。
(4)産業廃棄物処理業者としての資質の欠如
被告は大要,①住民を無視し,原告らを敵視する,②情報開示は被告に都
合のいいものに限定し,不利な情報は開示しない,③遵法精神が欠如してい
る,④裁判所にまで虚偽の説明をするという体質を持った企業である。
このような企業に産業廃棄物処理施設を適正に操業することは到底期待で
きず,産業廃棄物処理業者としての資質を欠如した企業が,構造的欠陥を有
する本件炉を用いて本件施設を稼働させれば,計画どおりの操業はなされず,
基準値を超過するダイオキシン類が発生することは容易に予測される。
4排出されるダイオキシン類の到達予測について
(1)予測手法について
被告は,本件施設の操業に伴う大気汚染予測につき,旧厚生省が平成10
年に定めた「生活環境影響調査指針」に従って行うべき旨主張し,同指針に
おいて標準的な予測手法とされるプルーム式,パフ式の大気拡散式を用いて
予測する手法(以下「プルーム・パフモデル」という。)を採用している。
しかし,大気汚染予測において,実際の風の流れが地形や建物,構造物の
影響を受けることは公知の事実であるところ,プルーム・パフモデルが,地
形,建物,構造物等の影響を無視して算定する手法であるのに対し,3次元
流体モデルは,現実の地形,建物及び構造物の影響を考慮して算定する手法
であるから,3次元流体モデルの方がより正確な予測値を導き出すことは明
らかであり,3次元流体モデルを用いて大気汚染予測を行うべきである。
(2)3次元流体モデルによる検証結果
ア本件施設周辺において出現頻度の高い気象条件として3つの気象条件を
設定し,本件施設から排出されるダイオキシン類濃度を0.1ng−TE
Q/N㎥と仮定して検証を行った結果,3次元流体モデルによる最大着地
濃度は,気象条件ごとに,それぞれプルーム・パフモデルによる最大着地
濃度の約1.4倍,約6倍,約140倍となった。
なお,プルーム・パフモデルを用いて予測された最大着地濃度は,春日
井市南消防署の気象データを用いた場合において,0.0006pg−T
EQ/㎥超0.0007pg−TEQ/㎥未満となった。
イところで,法令上求められているダイオキシン類濃度の測定をした結果
を行政に報告する際に,事業者は,最良のコンディションを整えた上で測
定を行い,その結果得られた最も低い測定値を行政に届け出ることが容認
されていることから,被告から愛知県に届け出られたダイオキシン類濃度
の測定値が基準値以下であっても,年間を通じて基準値以下のダイオキシ
ン類しか排出されていないという制度的保証はない。既に述べたとおり,
被告は現に,試運転期間中,ダイオキシン類測定に対して意図的に炉内温
度を上げ,最良の燃焼状態を作出した上でダイオキシン類濃度を測定して
いる。また,株式会社Bが他の産業廃棄物焼却炉及び地方公共団体の焼却
炉について実施した調査によれば,ダイオキシン類の年平均濃度の推定値
は,事業者の自主測定に係るダイオキシン類濃度よりも1桁から6桁も多
い数値となっている。
そうすると,実際に排出されるダイオキシン類濃度としては,被告の維
持管理計画値である0.1ng−TEQ/N㎥ではなく,法規制値である
1ng−TEQ/N㎥である場合や,その10倍の10ng−TEQ/N
㎥である場合も想定すべきである。
そして,
寄与濃度=排出濃度×排ガス量×拡散による希釈
という関係にあるため,現実の着地濃度は排出濃度及び排ガス量に比例す
る。
したがって,実際に排出されるダイオキシン類濃度が10ng−TEQ
/N㎥である場合,プルーム・パフモデルを用いて得られる年平均の最大
着地濃度は,排出されるダイオキシン類濃度を0.1ng−TEQ/N㎥
と仮定して得られた予測結果の最低値である0.0006pg−TEQ/
㎥を100倍して,0.06pg−TEQ/㎥となる。
ウ上記ア及びイに照らせば,3次元流体モデルとプルーム・パフモデルと
で最大着地濃度の140倍の開きがあると仮定すると,実際に排出される
ダイオキシン類濃度として10ng−TEQ/N㎥が維持されている場合
3次元流体モデルを用いて得られる年平均の最大着地濃度は,次式のとお
り,8.4pg−TEQ/㎥と推定され,環境基準値である0.6pg−
TEQ/㎥を大幅に上回る。
0.06(pg-TEQ/㎥)×140=8.4(pg-TEQ/㎥)
このように,気象条件いかんでは,環境基準値を上回るダイオキシン類
が原告らの居住地又は就業地に到達することが明らかになっている。
(被告の主張)
1立証責任について
(1)本件訴訟において,原告らの人格権に基づく本件施設の操業差止請求権
が認められるために立証されるべき主題は,①本件施設から基準値を超える
ダイオキシン類が排出され,排出されるダイオキシン類により原告らに社会
生活上受忍すべき限度を超える健康被害が生じること及び②差止めの必要性
であり,これらについては,差止請求権を根拠付ける請求原因事実であるこ
とから,民事訴訟の一般原則に従い,原告らが立証責任を負うべきである。
もっとも,技術的事項についての立証の困難性,住民と事業者との間にお
ける証拠との距離,分析能力の差等に着目すると,事業者にも一定の現実の
立証の必要性(証拠提出責任)が負担させられてしかるべきである。しかし
ながら,被告は本件訴訟において,その課せられた現実の立証の必要性(証
拠提出責任)について,すべて履行し尽くした。
(2)本件施設の試運転の期間中,合計8回にわたる外部有資格者及び行政機
関が主体となったダイオキシン類測定が行われ,そのすべてにおいて,維持
管理基準値及び維持管理計画値を大幅に下回る結果が得られている。また,
法令の基準自体が,極めて多岐にわたり,ダイオキシン類そのものの排出基
準もあれば,それとは関連性が薄いというべき,その他の物質,振動,臭気,
音等に関する基準,その他子細な形式的基準まで含まれている。そうすると,
仮に基準を満たしていない事項が一時的に認められたとしても,その事項の
内容,基準を満たしていない程度,改善可能性等を考慮し,立証主題に結び
つくものか否かを実質的に検討すべきである。
2ダイオキシン類等の危険性について
ダイオキシン類に一定程度の毒性があることは認めるが,その余は否認ない
し争う。
化学物質によるリスクは,危険性ないし有毒性と暴露量との相関関係によっ
て決まるものであるから,化学物質のリスク管理を考える場合には,化学物質
の危険性ないし有毒性を評価するだけでなく,暴露量を合わせて評価すること
により適切にリスクの評価を行い,その結果に基づいて管理を行う必要がある。
3本件施設からのダイオキシン類排出の蓋然性について
(1)本件炉の構造上及び運用上の問題点
ア燃焼室熱負荷,燃焼室容積及び燃焼排ガスの滞留時間について
(ア)燃焼室熱負荷について
被告は,燃焼室熱負荷の設計基準として「15万kcal/㎥・h以
下」を採用し,本件炉の燃焼室熱負荷の値を14万8770kcal/
㎥・hと設定しており,この値は適正である。
上記設計基準は,社団法人全国都市清掃会議・財団法人廃棄物研究財
団編集発行に係る「ごみ処理施設整備の計画・設計要領」(乙42)1
89頁にも明記されており,廃棄物処理法8条,15条の規定に基づく
設置許可を要する一般廃棄物処理施設及び産業廃棄物処理施設の処理能
力の算定に広く採用されているものである。
原告らは「燃焼室熱負荷は,炉の焼却能力を測る基準でもあり」と主
張するところ,その主張の根拠は,環境省の平成14年11月26日付
け「廃棄物焼却施設の能力算定方法について」と題する事務連絡文書
(乙90添付資料2)の記載にあると思われる。これによると,「廃棄
物の処理及び清掃に関する法律第8条及び第15条の規定による設置許
可が必要な廃棄物焼却施設の処理能力の算定については,焼却炉メーカ
ー等から提出された能力計算書等について審査し,その妥当性を判断す
ることで差し支えないが,小型焼却炉の処理能力の算定方法に関する問
い合わせが多数寄せられていることから,小型焼却炉の一般的な処理能
力の算定方法を以下に示すので,審査に当たっての参考とされたい。」
として,「焼却能力(kg/h)={燃焼室熱負荷(kcal/㎥・h)×一次燃
焼室容積(㎥)}/廃棄物の低位発熱量(kcal/kg)」なる算定式が示
されている。
しかし,これは「小型焼却炉の一般的な処理能力の算定方法」であり,
廃棄物を炉内に一定量ずつ送り込む廃棄物の定量供給装置及び計量装置
や,排ガス急冷塔,バグフィルター,排風機等の排ガス処理装置を持た
ない小型焼却炉の処理能力についての一定の指標にすぎない。本件施設
のように設置許可が必要な廃棄物焼却施設の場合,炉の焼却能力は,一
定の指標としての燃焼室熱負荷によって規定されるというよりも,廃棄
物の定量供給装置,計量装置及び排ガス処理装置の能力の範囲によって
相当限定的に規定されるのであって,これらの装置の能力を超えて廃棄
物を焼却することなどできない。
(イ)燃焼室容積について
被告は,本件炉の燃焼室容積を71.96㎥としており,これは適正
なものである。
社団法人全国都市清掃会議・財団法人廃棄物研究財団編集発行に係る
「ごみ処理施設整備の計画・設計要領」(乙42)189頁によれば,
燃焼室容積とは,炉材等で囲まれた燃焼空間をいい,ごみがない状態に
おける火格子上の全容積(流動床炉の場合は流動層を含みその上部空
間)で,耐火物(耐火れんが又はキャスタブル耐火材)被覆部上端まで
とることとされている。
この定義において重要なのは,燃焼室容積とはあくまで「燃焼空間」
を指すものであるということである。すなわち,あくまで燃焼に寄与す
る空間を燃焼室容積として算出すべきであって,燃焼に寄与しない空間
は,耐火物で造られているからといって燃焼室容積に含めることは妥当
でない。
本件施設についてみると,ロータリー式自動灰出し装置は,耐火物構
造となっているものの,燃焼空間ではないことから(ロータリー式自動
灰出し装置の設置目的は,燃焼後の燃えがらを移送することにある。),
燃焼室容積に含まれないことは当然である。また,傾斜回転床炉の椀状
部についても,いわゆる火格子構造とは異なり,燃焼用空気を底部から
供給する機構がないことから,燃焼空間には該当しない(燃焼には,燃
焼物,熱,酸素の3要素が必要である。)。
原告らは,本件炉が大きな炉であることから,被告が届出量以上の廃
棄物を焼却する危険がある旨主張するようであるが,被告は焼却量を計
測し,記録することとなっており,そのようなことはあり得ない。また,
被告は,自主的にダイオキシン類の規制値を法規制値より小さい0.1
ng−TEQ/N㎥と設定しており,焼却能力を過小に届け出ることに
よって法規制を潜脱する結果にはならないのであるから,過小届出をす
る理由もない。
(ウ)燃焼排ガスの滞留時間について
本件施設の設計条件として,燃焼室出口湿りガス量は2万3722N
㎥/h,燃焼室出口温度は944℃とされているところ,排ガスが94
4℃の条件下で1秒間に燃焼室内を通過する量は,次式のとおり,29.
38㎥/sとなる。
23,722(N㎥/h)×(944+273)/273=105,750(㎥/h)
=29.38(㎥/s)
本件炉の燃焼室容積は上記のとおり71.96㎥であるから,燃焼室
における排ガスの滞留時間は,次式のとおり,2.45秒となる。
71.96(㎥)÷29.38(㎥/s)=2.45(s)
したがって,本件炉の燃焼室においては,排ガスを944℃の条件下
で2.45秒滞留させることができ,燃焼ガスが800℃以上の温度を
保ちつつ,2秒以上滞留できるという基準を十分に満足している。
イ投入方法の問題点について
(ア)炉内への廃棄物の投入を可能な限り連続的に行うことが望ましいと
いう原告らの主張は,一概に誤りとはいえない。本件炉において,廃棄
物はプッシャーによって炉内に投入されるところ,プッシャーによる投
入は,その構造上間欠的にならざるを得ない。
しかし,投入ロットが1時間の処理能力の5%未満である場合におい
ては,間欠的な投入は,燃焼を不安定にする要因にはならない。また,
プッシャーの動作は均一であって,ほぼ連続投入に近い運転状態となる
ものであり,プッシャーによる投入は,これまでの廃棄物焼却炉に広く
使われてきた安定的な方法であり,炉に対する負荷を大きく変動させる
ものではない。
(イ)原告らは,本件炉において,①乾燥工程,②燃焼工程,③後燃焼工
程というあるべき燃焼工程が明確に分けられていない点を問題としてい
る。
しかし,燃焼という化学反応が行われる限り,本件炉を含むすべての
焼却炉において,程度及び時間の差こそあれ,上記の3つの工程を経る
ことはいうまでもない。
そして,本件炉においては,回転床内の廃棄物の総量がリテンション
ボリュームを超えた際に,粒径の小さなものから順次こぼれ落ちていく
のであり,燃え尽きて粒径が小さくなった廃棄物から順次離脱していく
ことになる。したがって,定まったリテンションタイムがあるわけでは
なく,回転床内にとどまる時間は,個々の廃棄物の燃焼速度に依存して
いる。
その際,初めから小さな粒径をした廃棄物が投入された場合であって
も,経験上,そのような廃棄物は焼却場への投入後直ちに燃え尽きてし
まうので,問題にならない。
(ウ)プッシャーによる間欠的な投入の場合に限らず,連続投入の場合に
おいても,投入された廃棄物の種類による燃焼速度の違いから燃焼状態
が変動しうるものであるが,この燃焼変動を考慮して,焼却炉には余剰
空気が供給されることとなっている。余剰空気の割合は空気比mで表さ
れ,本件炉は空気比m=2.0で設計されている。空気比m=2.0は,
燃焼に必要な空気と同量の余剰空気を炉内に供給するというものである。
したがって,本件炉では,炉内の燃焼状態に変動が生じたとしても,余
剰空気によって燃焼が安定する計画になっている。
(エ)原告らは,廃棄物を間欠的に,高温で燃えさかる炉床に直接投入す
ると,平均では十分酸素濃度があったとしても一時的又は局所的に酸素
不足による不完全燃焼が起こってCO濃度が高くなり,黒煙,ダイオキ
シン類前駆物質及びダイオキシン類濃度が増加する旨主張するが,その
ような現象を防止するために燃焼ガスが燃焼室内で2秒以上滞留するこ
とが求められているのであり,前記ア(ウ)のとおり,本件炉においては,
2.45秒の滞留時間が確保されている。
ウ空気供給の不備について
本件炉においては,下段,中段,上段の3台の送風機により,燃焼空気
を段階的に供給している。下段送風機の送風管のノズルは,傾斜した回転
床の上端部付近を狙う形で配置されている。これは,傾斜した回転床の回
転により上部まで持っていかれた廃棄物が転がり落ちたり滑り落ちたりす
る動作を開始し,新たな燃焼面が現れる部分に対して空気供給がなされて
いるものである。
本件炉において,燃焼空気の供給が不十分であり,問題があるとすれば,
燃焼は不完全な形で推移することとなるが,いわゆる不完全燃焼を表す指
標としては,第1に,排ガス中のCO濃度が上昇すること,第2に,排出
されるもえがらに燃え残りが多く含まれることが挙げられる。
しかしながら,第1回試運転の段階におけるCO濃度のグラフ上,CO
濃度の瞬時値は激しく上下動し,ピーク時に100ppmを超えることも
あるが,これを1時間平均値に直せば低い数値となる。そして,今後の試
運転と本格稼働においては,さらに燃焼の安定化が図られることになって
いる。
燃え残りが含まれるという点についても,第1回試運転において発生し
たもえがらの熱しゃく減量を分析したところ,4.8%であった。熱しゃ
く減量は,もえがらを強熱下(600℃±25℃・3時間)におき,どの
程度重量減少するかという値であり,法規制上10%未満でなければなら
ないところ,これを充足している。
したがって,本件炉において,空気供給に何ら問題はない。
エ発熱量調整の不備・非現実性について
(ア)原告らは,混合焼却における廃棄物の低位発熱量を現実には594
7kcal/kgに調整できないことを問題にするようである。
しかし,投入しようとする廃棄物の低位発熱量を計算値と等しくなる
よう調整することは,不可能であるし,焼却施設の運転管理上,その必
要もない。
一般的に,焼却施設の運転に当たって管理しなければならないのは,
総発熱量であり,本件施設の場合,5947kcal/kgの平均発熱
量を持つ混合廃棄物を1800kg/hで焼却する計画であるから,次
式に従った総発熱量1070万4600kcal/hを,主たる管理指
標として炉内温度の変動を捉えることにより,管理するのである。
5,947(kcal/kg)×1,800(kg/h)=10,704,600(kcal/h)
(イ)原告らは,被告の計画において廃棄物の排出予定事業者として挙げ
られていた事業者は架空のものであり,廃棄物の構成比及び低位発熱量
の算定に根拠がない旨主張するが,そもそもこの問題は,本件施設にお
ける燃焼管理とは全く別次元の問題である。燃焼管理上は,廃棄物(特
に計画ごみの全体の約7割を占める標準発熱量のごみ)の構成比が大き
く振れ,最も低い発熱量から最も高い発熱量まで変動したとしても,設
備自体は全く問題なく維持管理できるのであって,少なくとも排出予定
事業所が変わったからといって,設備の運転管理に影響が及ぶことはな
い。
(ウ)被告は本件施設の設計計算書において廃棄物を種類ごとに専焼した
場合の燃焼計算をも行っているところ,汚泥,金属くず,ガラスくず及
び陶磁器くず等の廃棄物については,相当量の廃油を混ぜて燃焼した場
合の発熱量が算出されている。これは,そもそも,無機物あるいはほと
んどが水分であるような廃棄物を単体で焼却させることは不可能である
ところ,本件施設の最大の焼却能力を割り出し,特にダイオキシン類等
の排出規制値を確定させるためには,廃棄物を種類ごとに専焼した場合
の焼却能力を計算上算出しておく必要があるので,焼却を予定する廃棄
物の中で,比較的総発熱量をコントロールしやすい廃油との混焼をした
場合を仮定して計算をしているにすぎない。
また,被告は,各廃棄物を計画の比率で混焼した場合の廃棄物の元素
レベルの組成を求め,それぞれの元素が持つ固有の発熱量を合算する方
式によって,混合焼却における廃棄物の低位発熱量を算出しているので
あって,廃棄物の種類ごとの低位発熱量と重量とを単純に合算して平均
を求めているわけではないから,汚泥,金属くず,ガラスくず及び陶磁
器くず等の重量及び発熱量を考慮に入れると,混合焼却における廃棄物
1kg当たりの低位発熱量が狂ってくるなどという原告らの主張は失当
である。
(エ)原告らは,マニフェスト伝票の記載によっては,本件施設に搬入さ
れる廃棄物の種類及び量やその混合割合を正確に把握することができな
い旨主張する。
しかし,被告は,マニフェスト伝票だけに依存して本件施設を稼働さ
せようとしているわけではない。本件施設は,廃棄物の定量供給装置,
重量計測装置付き投入装置を具備し,炉温が低下した場合のために昇温
バーナー,二次バーナー等の設備を具備しており,有害物質の排出を抑
制するための諸々の設備,対策を十分に備えている。
また,マニフェスト制度は,単なる事業者間の自主的ルールではなく,
廃棄物処理法に基づき正しく運用することが要求されるものであり,行
政処分や刑事罰による担保もあることから,相当程度の実効性を有する
ものである。そして,搬入される廃棄物が,高発熱量のごみ,標準発熱
量のごみ,定発熱量のごみのいずれに属するのか,その基本的性状がい
かなるものであるか等については,マニフェスト伝票によって十分に把
握しうるものであり,マニフェスト伝票が,本件施設の適切な運転管理
上大きな一助となることはいうまでもない。
オ人員体制の不足について
否認ないし争う。
(2)試運転結果に表れた問題点について
ア二次室出口のガス温度の推定について
原告らは,ボイラー出口付近のガス温度に82℃を加えると二次室出口
の真のガス温度が推定でき,これが800℃に達していない旨主張する。
しかし,本件炉の設計計算書において,二次室出口温度とボイラー出口
温度との差が82℃となったのは,熱交換器の使用継続に伴いその伝熱面
に付着物が付いて伝熱効果が低下することを見越して,高温流体(排ガ
ス)から低温流体(水)に対する熱の伝わりやすさを示す総括伝熱係数
(単位伝熱面積当たり・単位時間当たり・単位温度差当たりの貫流熱量)
を35kcal/㎡・h・℃と低く設定したことによるものである。この
値は,新品のボイラの約半分程度になると仮定して設定したものであり,
被告においては,本件施設の稼働直後の時点では総括伝熱係数は70kc
al/㎡・h・℃程度であり,燃焼室出口温度が944℃の場合には,ボ
イラー出口温度が約787℃となるものと予測していた。このように,熱
交換器の伝熱面に汚れのない稼働当初にあって,ボイラー出口温度が計算
値より相当程度低くなるのは当然のことである。
次に,平成19年11月1日におけるボイラー出口温度は,二次室出口
温度が1000℃程度の時に,700℃前後となっており,上記の787
℃と比較して約100℃程度の開きがあるが,この開きについては,実際
にボイラーを通過している排ガスの総量に,計算値との差があることを考
慮しなければならない。同じ温度であっても,排ガスの量が半分であれば,
排ガスが持っている熱量も半分となるからである。同日における乾きガス
量はおおむね1万8850N㎥/hと想定できるところ,これによってボ
イラー出口温度を計算すると,約735℃となる。
さらに,ボイラー出口温度を測る熱伝対の先端受熱部分が,排ガス温度
を測るのに適切な位置まで差し込まれていなかったため,実際のガス温度
より40℃ないし80℃程度低く表示されていた可能性がある。この傾向
は,第2回試運転において顕著に現れている。
以上に指摘した要因によりボイラー出口温度の実測値が計算値を下回っ
ているにすぎないのであるから,ボイラー出口温度に82℃を加えること
によって二次室出口の真のガス温度を推定するという作業は無意味であり,
原告らの上記主張は失当である。
イ実際の炉内温度が計測値より低いかについて
平成20年3月10日から同月19日までの温度グラフのうち,比較的
特徴が顕著な同月14日の温度変化を,午前8時から午前11時までの3
時間のスパンで表したグラフを見ると,炉内上部温度は1200℃を超え
ていないこと,炉内上部,二次室出口及びボイラー入口の3つの温度波形
は同一の周期で変動していること,二次室出口より後方に位置するボイラ
ー入口の方が温度が高くなっていることが読み取れる。
本件施設は,炉内温度が一定水準以上になると,破砕処理後の廃棄物の
投入を制限する「抑制運転モード」に入るようプログラミングされている
ところ,同日前後にあっては,「抑制運転モード」における投入停止温度
を1150℃(炉内上部)に設定していた。炉内上部の温度変動は,こう
した廃棄物の投入制御によってもたらされるものであって,ごく自然な変
動である。
また,上記グラフのうち,午前10時27分から48分までの時間帯を
除いては,二次室出口温度及びボイラー入口温度の変動が炉内上部温度に
同調する形となっており,全体的な温度変動の要因が炉内上部温度にある
ことが明確に分かる。したがって,温度が上下する支配的な要因は,炉内
の廃棄物の燃焼状態の変動にあり,二次バーナーの稼働及び停止にあるわ
けではない。
さらに,二次室出口より後方に位置するボイラー入口の排ガス温度の方
が高くなることは本来的にあり得ないことであり,二次室出口温度を測る
熱伝対の位置又は差込み深さに問題があったことから,被告は,同月22
日,二次室出口の熱伝対の位置を,ボイラー入口に最も近い位置に変更す
る最終的な調整を行っている。
以上から,二次室出口温度が二次バーナーの火炎の輻射熱の影響により
見かけ上800℃ないし900℃以上あるように見えるが,二次室出口付
近の真のガス温度は800℃を下回っているという原告らの主張は事実に
反する。
ウダイオキシン類測定の問題点について
原告らは,平成20年3月14日のダイオキシン類測定の結果について,
意図的に温度を上げて行われた測定であり信頼できない旨主張する。
しかしながら,同日のダイオキシン類濃度の測定値は0.01ng−T
EQ/N㎥であるところ,そもそも,炉内温度を上げただけで,ダイオキ
シン類濃度をここまで低い数値にすることは不可能である。ダイオキシン
類の抑制は,安定した燃焼を図る焼却炉,排ガスの急冷を確実に行える排
ガス急冷塔,バグフィルターに代表される高度な集じん装置等のハード面
が具備されていること,これらが適正に維持管理されていることに加え,
温度管理(炉内温度だけでなく,特にバグフィルター入口温度の管理)等
の管理技術が一体となって初めて達成できるものであり,運転温度を常に
高く維持すれば足りるというような単純なものではない。
上記の測定値の正当性は,第2回試運転以降行われた8回にわたるダイ
オキシン類測定(行政検査を含む。)の結果との対照によっても確認でき
る。
したがって,測定値が信頼できないというのは不当な評価であり,原告
らの上記主張は失当である。
エ高濃度の一酸化炭素が発生しているかについて
第2回試運転の期間中,ほとんどすべてのCO濃度の上昇が,「抑制運
転モード」から通常運転への復帰時に起こっていることが確認されたこと
から,「抑制運転モード」の影響による温度降下をより時間をかけて行う
ため,抑制運転の最終段階にある投入停止の間に小刻みなON−OFF運
転を取り入れ,間欠運転とするというシミュレーションを,平成20年3
月31日の午後1時30分から午後2時までの間に行った。その様子を表
したグラフを見ると,炉内温度は若干高止まりの傾向となるが,CO濃度
は比較的安定することが確認できる。現在は,小刻みなON−OFF運転
を取り入れた「抑制運転モード」により運転されている。
オ二次バーナーの作動と二次室出口付近のガス温度について
原告らは,第3回試運転の結果からも,本件炉において,二次バーナー
を頻繁に作動させなければ二次室出口付近のガス温度を800℃以上に保
つことができない旨主張する。
しかし,原告らが廃棄物の投入にもかかわらず温度が800℃以下に低
下する旨指摘する箇所は,そのほとんどが,システムのサイクル停止(廃
棄物の投入が直ちに停止され,次いで各機器が自動的に停止していく停止
動作)をかけ,廃棄物の投入が行われていない時間帯を指している。炉を
立ち上げている時間帯及び炉の停止過程にある時間帯を除いた通常の運転
状態にある時間帯において,二次室出口温度が800℃以下となっている
事実はない。
また,第3回試運転においては,稼働時間(余熱時間,停止サイクル時
間も含む。)が約200時間であったのに対し,二次バーナー及び昇温バ
ーナーの燃料として使用された再生油の合計使用量は1万1396ℓであ
り,1時間当たりに換算すれば57ℓ/h程度に収まっている。二次バー
ナーの消費燃料は120ℓ/h,昇温バーナーの消費燃料は100ℓ/h
であるから,二次バーナーや昇温バーナーをほぼ常態的に作動させている
ような状態にはない。
カCO濃度の計測について
原告らは,本件炉に廃棄物を投入しているにもかかわらず,炉内温度が
急激に減少し,その温度減少に関連して高いCO濃度が計測されている旨
指摘する。
しかし,1日に合計40tの廃棄物を焼却した場合であっても,何らか
の要因により廃棄物の投入を抑制ないし停止することにより,炉内温度が
低下し,次いでCO濃度の瞬時値が上昇することはありうる事態である。
現に,温度が減少した時間帯には,薬剤タンクの残量の確認が取れないた
めに投入を抑制したり,回転床のモーターの回転数が低下したことから,
確認のため投入を一時停止したり,自動灰出し装置の水封式チェーンコン
ベアーに金属片が引っかかったために投入を停止して復旧に当たったりす
るなどの,廃棄物の投入を抑制ないし停止させる事態が生じている。問題
は,そうした事態にあっても維持管理基準値を超過することなく制御,管
理を行えるかであるところ,少なくとも本件施設の管理システムにおいて,
CO濃度の1時間平均値が維持管理基準値を超過していた事実はなく,十
分な制御,管理が行われていた。
ただし,平成20年10月8日に行われた行政検査において,CO濃度
の1時間平均値106ppmを記録した時間帯がわずかとはいえ存在し,
本件施設の常時管理システムにおいても98ppmを記録していることは
事実であり,この点については改善の必要が認められるところ,被告にお
いてその改善計画を立案した。
また,原告らが温度減少を指摘する箇所には,システムの停止過程にあ
り,廃棄物の投入が行われていない時間帯が含まれている。廃棄物の投入
が停止されれば次第に炉内温度が降下していくが,その過程でCO濃度の
瞬時値がある程度上昇するのはやむを得ない。しかし,廃棄物処理法及び
同法施行規則が求めているのは,通常の運転状態における燃焼の安定性で
あり,その指標として排ガスの性状に係る数値等が維持管理基準を満たす
ことであって,設備の停止時,ましてや排ガスが排出されていない段階に
ついてCO濃度を問題とすべきではない(なお,本件施設においては,そ
のような段階においても,維持管理基準値を超過しているわけではな
い。)。
キHCl濃度の計測について
HCl濃度を計測する塩化水素ガス測定器については,電極測定感度及
び精度を一定に保つために校正が必要であり,第3回試運転時には1日1
回,午後11時ころに自動校正が行われ,また,試運転期間の初期には手
動の校正も随時行っていた。校正液には低濃度側が12ppm,高濃度側
が800ppmの等価液を使用しており,実際の作業においては,12p
pmの濃度につき,いったん100ppm前後まで上げた後に12ppm
まで下げて確認し,800ppmの濃度につき,いったん900ppm以
上まで上げた後に800ppmまで下げて確認している。したがって,手
動,自動を問わず校正を行う際には,100ppm前後の濃度と900p
pm程度の濃度が記録されることになるが,これは等価液を吸引した際の
数値であり,ガスを吸引した際の数値ではない。
校正中の値を除けば,第3回試運転中にHCl濃度が正味の警報値に達
したのは,平成20年10月14日に廃プラスチック類の専焼テストを行
った際に数度あっただけで,原告らの指摘に係る法規制値を超過する高い
HCl濃度とは,そのほとんどが校正中の濃度を指すものと推測される。
したがって,極めて高いHCl濃度が計測されているという原告らの主張
は,誤解ないし曲解に基づくものであり,失当である。
ク1.8t/hの処理能力まで焼却量が達していないことについて
第3回試運転においては,愛知県が,行政検査にあっては,本件施設を
フル稼働の状態に置いた上で各種測定を行うとの姿勢を示したため,被告
は,本件施設の最大能力での運転を行った。
例えば,24時間運転を行った平成20年9月17日において,平均処
理量は1738kg/hであり,1800kg/hに達していないものの,
処理量が1800kg/hに達している時間帯は24時間中延べ10時間
にわたり,最大値は1941kg/hである。同日の平均CO濃度は26.
8ppm,ダイオキシン類濃度の測定値は0.00065ng−TEQ/
N㎥である。したがって,1.8kg/hの処理量で焼却を行った場合に
CO濃度やダイオキシン類濃度が基準値を超える可能性があり,本件炉の
安全性が確認されていないという原告らの主張には,根拠がない。
(3)経理的基礎の不存在について
ア被告の財務状況について
被告においては,収益性の総合指標である経営資本営業利益が業界平均
と比べて良好な数値を維持しており,流動性(安全性)についても,自己
資本比率及び流動比率は若干低い値で推移しているものの,債務償還年数
及び借入金対月商倍率は平均値より格段に高い。
平成18年8月期の損益計算書によれば,被告は,純売上高約270億
円,売上総利益約29億円,経常利益約7億円を計上する企業であり,金
融機関の信用度も高く,借入れの余力もある。現に,本件の産業廃棄物処
理事業についても,大手都市銀行からの融資が実行され,本件施設が完成
し,本格稼働に備える状態となっている。
このように,被告の財務基盤は健全であり,十分な経理的基礎を有して
いる。
イ被告の採算見込みについて
(ア)廃棄物の処理単価について
被告は,本件施設の竣工に先立ち,東海三県の廃棄物処理業者に対し,
本件施設のオープンの案内とアンケートを実施した上,搬入元となる予
定の事業者との間で,「覚書」及び「産業廃棄物処理委託契約書」を取
り交わし,廃棄物の搬入元,種類及び量並びに取引金額をまとめた資料
(乙132)を銀行に対し提出している。「産業廃棄物処理委託契約
書」は,被告が産業廃棄物処理業の許可を受けることを前提として,契
約日付を入れずに取り交わしたものであり,実質的には仮契約に類する
ものである。上記資料にあるように,本件施設における産業廃棄物処理
業においては,既に排出予定事業者が十分に確保されており,十分な収
益の見通しが立っている。
(イ)43.2t/日の処理量の実現可能性について
被告の採算計画書は,そもそも1日当たり43.2tの産業廃棄物を
焼却することを前提として作成したものではない。43.2t/日の処
理能力は本件施設の最大能力を表すにすぎず,本件施設の損益計算の見
積りは,稼働率を最大でも85%と見て行われている。これを1日当た
りの処理量に換算すれば,36t/日ないし37t/日程度である。
また,稼働率を100%ないしそれ以上にまで高めれば,排出される
排ガスの性状が悪化するという考え方も,あまりにも単純な比較級数的
な考え方であり,失当である。既に述べたとおり,被告は,第3回試運
転において,最大1941kg/hまで負荷を高める運転を実施し,そ
の上で種々の排ガス測定を行ったところ,その数値は,試運転結果報告
書(乙179)の2−3「9/17排ガス」の項に示されたとおり,
いずれも良好な結果となっている。
(ウ)試運転結果からみた経費算定の不合理性について
a燃料費について
既に述べたとおり,第3回試運転において,二次バーナー及び昇温
バーナーの燃料として使用された再生油の合計使用量は,稼働時間1
時間当たりに換算すると57ℓ/h程度に収まっており,採算計画に
影響を及ぼすような数値ではない。
b中和薬剤の使用量について
中和薬剤の使用量は,当初計画値が70kg/hであるところ,第
3回試運転において24時間連続的に運転を実施した日の中和薬剤使
用量から1時間当たりの使用量を割り出せば,86.6kg/hない
し89.0kg/hである。これは,使用開始時のろ布の状態を考え
れば適正な投入量であり,累計運転時間が600時間程度を経過すれ
ば,ろ布表面から不規則的に剥離し,落下する薬剤層は無視できる程
度に落ち着いてくるので,薬剤投入量は,70kg/h程度になって
くる。したがって,採算計画に影響を及ぼすような事態は生じない。
c廃棄物の2度破砕について
廃棄物が破砕不良となる要因は,当該廃棄物が破砕機の中に留まっ
ている時間が計画よりも短いことによるものであるから,破砕不良の
物を再度破砕機にかける時間的,能力的な余裕は当然に確保されてい
る。したがって,2度破砕によっても,電気費,人件費等の費用や処
理可能量が大きく変わることはない。
(4)産業廃棄物処理業者としての資質の欠如について
否認ないし争う。
被告は,本件施設の維持管理を的確かつ継続的に行うのに必要な知識,技
能及び経験を備えており,これを基礎にして,法の要求する厳格な要件を具
備するよう努力を積み重ね,関連法規を遵守しながら本件施設の操業計画を
進めてきた。
また,被告は,平成13年9月から平成16年2月にかけて,合計21回
にわたり住民説明会(事業説明会及びシンポジウム)を開催し,本件施設の
事業計画の内容を広く地域住民に周知し,その中で提起された様々な意見を
事業計画に活かし,より一層安全な計画にするよう努力を積み重ねてきた。
そして,被告は,地元自治体である春日井市との間で公害防止協定を取り交
わし,民主的プロセスを経て本件施設の事業計画を遂行してきた。
したがって,被告は,本件施設を安全に稼働させることができる十分な適
格を有するものというべきである。
4排出されるダイオキシン類の到達予測について
被告が行った環境影響調査によれば,本件施設から排出されるダイオキシン
類濃度が0.1ng−TEQ/N㎥であるという前提条件の下で,長期予測に
おける最大着地濃度は0.000353pg−TEQ/㎥,短期予測における
最大着地濃度は0.00062pg−TEQ/㎥であり,いずれも環境基準値
である0.6pg−TEQ/㎥を満足している。
平成10年に旧厚生省が作成した「生活環境影響調査指針」及び平成18年
9月に環境省が同指針の内容を見直して作成した「生活環境影響調査指針」
(乙112)によれば,大気濃度を予測する場合の拡散計算式として,有風時
にはプルーム式を,無風ないし弱風時にはパフ式を用いることが推奨されてお
り,被告がこれらの拡散計算式(プルーム・パフモデル)を用いたことに何ら
問題はない。このように,被告が本件施設の稼働を前提とした環境影響調査を
「生活環境影響調査指針」に従って行ったのは,同指針に従って環境影響調査
を行うことが共通のルールだからである。
第4当裁判所の判断
1前記争いのない事実等,証拠(以下の各項冒頭に掲記する。)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)ダイオキシン類について(甲18,乙36の6,106,107)
アダイオキシン類とは,ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン(PCD
D),ポリ塩化ジベンゾ・フラン(PCDF)及びコプラナーポリ塩化ビ
フェニル(コプラナーPCB)の総称であり(ダイオキシン類対策特別措
置法2条1項。以下,同法を「ダイオキシン法」という。),ダイオキシ
ンとはPCDDの略称である。
ダイオキシン類の毒性について,そのメカニズムは十分に解明される段
階には至っていないものの,動物実験により,発がん性,肝毒性,免疫毒
性,生殖毒性等の毒性があることが確認されており,また,事故による中
毒や職業暴露の事例において,クロロアクネ(塩素ざ瘡)が現れることや,
肝障害,神経症状,呼吸器系への影響が報告されており,人体にも重大な
害悪を及ぼす危険性がある。
塩素の付く数及び位置の違いによって,PCDDには75種類の,PC
DFには135種類の,コプラナーPCBには十数種類の異性体があり,
それぞれ毒性の強さが異なるものであるが,多数の異性体の混合物として
存在するダイオキシン類の毒性は,毒性等量(TEQ,ToxicEquivalent
の略号)によって評価される。毒性等量は,PCDDの中で最も毒性が強
い2,3,7,8−四塩化ダイオキシン(2,3,7,8−TCDD)の
毒性を1として個々の異性体の毒性を表した毒性等価係数(TEF,Toxi
cEquivalencyFactorの略号)に,当該異性体の量を乗じた値の総和で表
される。
イ化学物質のリスクを管理するために,人が一生涯,毎日摂取しても,病
気等の悪影響が生じない量を定め,これを1日当たり,体重1kg当たり
の量で表すことによって当該化学物質のリスクを評価する方法が一般的に
採られており,その量を耐容一日摂取量(TDI)という。
ダイオキシン類のTDIについては,平成10年のWHO専門家会合の
最終報告書において,科学的知見に基づき,1ないし4pg−TEQ/k
g/日が当面の耐容できる値であるとされた。我が国においては,ダイオ
キシン類に関する施策の指標とすべきものとして,TDIが4pg−TE
Q/kg/日と設定されている(ダイオキシン法6条1項,同法施行令2
条)。
(2)法規制について(甲50添付資料−2,甲104,乙2)
アダイオキシン法7条において,政府は,ダイオキシン類による大気の汚
染,水質の汚濁及び土壌の汚染に係る環境上の条件につき人の健康を維持
する上で望ましい基準(以下「環境基準」という。)を定めるものとされ
ているところ,ダイオキシン類による大気の汚染に係る環境基準(以下
「大気環境基準」という。)は,平成11年12月27日付け環境庁告示
第68号により,年平均値0.6pg−TEQ/㎥以下と定められている。
イ廃棄物焼却に伴うダイオキシン類の排出を削減するため,平成9年に廃
棄物処理法施行規則が改正され,産業廃棄物焼却施設(同法施行令7条3
号,5号,8号,12号及び13号の2に掲げる施設)に適用される構造
基準(同法施行規則12条の2第5項,4条1項7号)及び維持管理基準
(同規則12条の7第5項,4条の5第1項2号)が強化された。上記改
正後の主な構造基準及び維持管理基準として,本件施設にも適用されるも
のは,後記ウ及びエのとおりである。
そして,廃棄物処理法によれば,産業廃棄物処理施設を設置しようとす
る者は,当該施設が構造基準に適合しない限り,設置許可を受けることが
できず(同法15条の2第1項1号),許可を受けた後も維持管理基準を
遵守する義務を負い(同法15条の2の2),これらの基準に違反した場
合には,改善命令,使用停止命令,許可取消しの対象となる上(同法15
条の2の6第1号,15条の3第2項),この命令違反については罰則が
設けられている(同法26条2号)。
また,平成12年の廃棄物処理法及び同法施行規則改正により,産業廃
棄物処理施設の設置許可の要件の1つとして,申請者が産業廃棄物処理施
設の設置及び維持管理を的確に,かつ,継続して行うに足りる経理的基礎
を有することが追加された(同法15条の2第1項3号,同法施行規則1
2条の2の3第2号)。旧厚生省は,その改正の趣旨を,「設置者が倒産
するなどして,適正な維持管理が行われなくなることなどを防止するた
め」と説明している。設置者が経理的基礎を有するという基準に適合しな
いと認められる場合には,改善命令,使用停止命令,許可取消しの対象と
なる上(同法15条の2の6第1号,15条の3第2項),この命令違反
については罰則が設けられている(同法26条2号)。
ウ構造基準
(ア)外気と遮断された状態で,定量ずつ連続的に廃棄物を燃焼室に投入
することができる供給装置の設置
(イ)次の要件を備えた燃焼室の設置
a燃焼ガスの温度が800℃以上の状態で2秒以上滞留
b外気と遮断
c助燃装置の設置
d燃焼に必要な空気を供給できる設備の設置
(ウ)燃焼ガスの温度をおおむね200℃以下に冷却することができる冷
却設備の設置
(エ)ばいじんを除去する高度の機能を有する排ガス処理設備の設置
(オ)燃焼ガス温度及び排ガス中のCO濃度の連続測定・記録のための装
置の設置
(カ)ばいじんを焼却灰と分離して排出・貯留できる設備の設置
エ維持管理基準
(ア)燃焼室への廃棄物の投入は,定量ずつ連続的に行うこと。
(イ)燃焼室中の燃焼ガス温度を800℃以上に保つこと。
(ウ)焼却灰の熱しゃく減量を10%以下とすること。
(エ)運転開始時には炉温を速やかに上昇させ,運転停止時には炉温を高
温に保ち廃棄物を燃焼し尽くすこと。
(オ)集じん器に流入する燃焼ガスの温度をおおむね200℃以下に冷却
すること。
(カ)冷却設備等にたい積したばいじんを除去すること。
(キ)排ガス中のCO濃度を100ppm以下とすること。
(ク)排ガス中のダイオキシン類の濃度を次の基準以下とすること。
a燃焼室の処理能力が4t/h以上のもの0.1ng/㎥
b同2t/h以上4t/h未満のもの1ng/㎥
c同2t/h未満のもの5ng/㎥
(ケ)燃焼ガス温度及び排ガス中のCO濃度を連続的に測定・記録するこ
と。
(コ)排ガス中のダイオキシン類濃度を年1回以上測定・記録すること。
(サ)ばいじんを焼却灰と分離して排出・貯留すること。
(3)本件施設について(甲1,120,148,乙3,14の1・2・6な
いし14,108,140,141,168の1,180)
ア本件施設の構造及び設備
本件施設の構造及び設備は,別紙図面1ないし16のとおりである。た
だし,後記イのとおり,被告が廃棄物搬送装置をスキップコンベアからフ
レックスコンベアに変更したことから,別紙図面2及び3中,「スキップ
コンベア」とあるのは「フレックスコンベア」と読み替えるものとする。
(甲1の別紙6,乙108,180の2項)
本件炉は,別紙図面9ないし11のとおりの構造を持ち,傾斜して回転
する椀状の炉床内で廃棄物を混合攪拌させながら燃焼を継続させるという
特徴を持つ。炉形式は,床燃焼方式のうち回転床炉に分類されるところ,
床燃焼方式は,火格子では載積不能な物(例えば汚泥,粒状物)や,受熱
融解して着火燃焼を行うような物の燃焼に適するとされる。(甲1別紙8
の1頁,乙140の3頁,乙141の44頁)
傾斜回転床炉は,遅くとも平成6年ころ,有限会社Cによって新たに開
発された炉形式であり,本件施設以外では3つの施設において実際に稼働
している。これらの施設に係る操業主体及び所在地は次のとおりである。
(甲120,乙6,168の1,弁論の全趣旨)
(ア)操業主体有限会社C
所在地宮崎県延岡市
(イ)操業主体D株式会社
所在地愛媛県喜多郡○町
(ウ)操業主体株式会社E
所在地東京都国立市
イ維持管理に関する計画
被告は,本件施設の設置許可申請に当たって,本件施設の維持管理に関
する計画(以下「維持管理計画」という。)に係る事項を,要旨次のとお
りと定めた。(甲1別紙9)
(ア)排ガスの性状
ダイオキシン類濃度を0.1ng−TEQ/N㎥以下,CO濃度を1
00ppm以下,HCl濃度を150mg/N㎥以下とする(なお,以
下では,本件施設の維持管理計画に係る事項として定められたこれらの
数値を「維持管理計画値」という。)。
(イ)排ガスの性状の測定頻度
ダイオキシン類濃度を年1回測定し,CO濃度を連続的に測定・記録
し,HCl濃度を年2回測定する。
(ウ)処理能力に見合った産業廃棄物の処理
a燃焼ガス温度,排ガスCO濃度及び炉内圧を確認し,適正な範囲に
維持できるように廃棄物の投入量を調整する。
b炉内燃焼温度は,800℃以上を保持する。
炉内燃焼温度の管理値は,850℃とする。
c本件炉の運転状態を確認し,変動幅が少なくなるような廃棄物の投
入を継続する。
(エ)廃棄物の投入方法
a破砕可能な廃棄物(廃プラスチック類,紙くず,木くず,繊維くず,
金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず)については,投入前に破砕処
理し,均一に混合した上,スキップコンベアで移送し,投入プッシャ
ーによって炉内に投入する。
b廃油については,廃油供給ポンプから炉内に定量供給する。
c汚泥及び動植物性残さ(下記dのものを除く。)については,混合
タンクで均一に攪拌混合した上,移送ポンプで炉内に定量供給する。
d汚泥及び動植物性残さのうち,密閉容器などに包装されているもの
(廃食品など)については,スキップコンベアで移送し,投入プッシ
ャーによって炉内に投入する。
e感染性産業廃棄物については,密閉容器のまま,エレベータコンベ
アで移送し,投入プッシャーによって炉内に投入する。
f炉内温度が低い場合(850℃以下)は,上記cの汚泥及び動植物
性残さの投入を停止する。
g廃棄物の投入は,外気遮断構造を確実に使用する。
h廃棄物の炉内への投入は,定量ずつ投入し,炉内の燃焼状態を常に
監視する。
(オ)燃焼ガスの温度管理(800℃以上の維持)
a燃焼温度の管理値として,850℃を採用し,850℃前後の燃焼
温度を維持する。
b800℃以下の場合は,自動で助燃バーナーを作動し,燃焼温度を
800℃以上に維持する。
(カ)焼却灰の熱しゃく減量値の管理
a定期的(月1回)に,焼却灰の熱しゃく減量値を確認する。
b熱しゃく減量値は,5%以下を管理値とする。
(キ)運転開始時における炉温の温度管理
燃焼室の温度を800℃以上に上げ,その後,廃棄物を投入する。
(ク)運転開始時における炉温の温度管理
助燃バーナーを作動させ炉温を800℃以上に保ちつつ,廃棄物を燃
焼し尽くす。
(ケ)燃焼ガス温度の連続測定・記録
燃焼室の温度を連続で測定し,記録する。
(コ)バグフィルターに流入する燃焼ガスの温度の管理
噴霧する冷却水の量を自動制御し,バグフィルター入口温度を200
℃以下に管理する。
(サ)バグフィルターに流入する燃焼ガスの温度の連続測定・記録
バグフィルター入口温度を連続で測定し,記録する。
(シ)排ガス中のCO濃度の管理
CO濃度計により,CO濃度を100ppm以下に管理する。
(ス)排ガス中のダイオキシン類濃度の管理
a消石灰投入量,活性炭投入量を管理する。
bCO濃度を管理する。
c燃焼温度を管理する。
被告は,平成18年2月9日付け産業廃棄物処理施設軽微変更等届出書
において,破砕処理後の廃棄物を投入プッシャーに連続的に投入させ,投
入量をより適正に管理するため,及び粉じん対策の徹底のため,廃棄物搬
送装置を,スキップコンベアからフレックスコンベア(急傾斜コンベア)
に変更した(したがって,上記(エ)a及びdのスキップコンベアは,フレ
ックスコンベアと置き換えられる。)。(甲148)
ウ被告は,本件施設が構造基準に適合し,かつ,維持管理基準に従って本
件施設を維持管理することができることについて,別紙1及び2のとおり
説明している。(乙1の3の18頁,19頁)
(4)被告と春日井市との公害防止協定(乙61,119)
被告と春日井市は,平成17年4月7日,本件施設に係る被告の事業活動
に関し,公害の防止に関する協定(以下「基本協定」という。)を締結した。
基本協定において,被告は,春日井市と別に締結する公害の防止に関する
細目協定(以下「細目協定」という。)を遵守するものとし,そのために必
要な措置を講ずるものとされ(基本協定4条),被告と春日井市は,平成1
9年3月28日,細目協定を締結したところ,細目協定において,本件施設
からの排出ガスのダイオキシン類濃度の基準は,煙突排出口において,0.
1ng−TEQ/N㎥以下とされ,被告はこの基準を遵守するものとされて
いる(細目協定1条1項)。
また,基本協定において,春日井市は,被告が基本協定及び細目協定を履
行していないと認めたときは,被告に対し,改善等の必要な措置を講ずべき
ことを指示でき,被告はその指示に従い改善等の措置を講ずるものとされ
(基本協定5条1項),春日井市は,上記措置によっても公害の防止効果が
認められず,これにより,地域住民の健康若しくは生活環境に係る被害が生
じ,又は生ずるおそれがあると認めるときは,被告に対し,本件施設の操業
の全部又は一部を停止し,その原因究明等を命ずることができ,被告は直ち
にその命令に従うものとされ(同条3項),被告は,上記命令を受けたとき
は,速やかに,原因究明を行い,必要な対策について計画書を作成し,春日
井市と協議するものとし,被告は,当該協議が終了するまでの間,本件施設
の操業を再開してはならないものとされている(同条4項)。
(5)本件施設の試運転の状況
ア第1回試運転について(甲138,乙137,138,149,15
0)
被告は,期間を平成19年10月22日から同年11月22日までと定
めて本件施設の試運転を行うことを計画し,同年10月22日に試運転を
開始したが,同年11月3日午後3時20分ころ,本件施設東屋外に設置
された薬剤タンクから,充填中の中和薬剤(消石灰,活性炭及びろ過助
剤)が噴出し,本件施設外まで飛散する事故が発生した。
事故を受けて,本件施設の廃棄物投入に係るシステムは,同日のうちに
全部停止された。
被告は,事故後直ちに,飛散した薬剤の回収及び清掃活動に当たり,後
日,事故の原因を究明し,春日井市及び名古屋市と協議の上,周辺住民へ
の説明会を開催するなどした。被告作成に係る報告書(乙137)によれ
ば,事故の原因は,①薬剤タンクの残量の見極めの誤り,②薬剤の充填停
止の指示が届かなかったこと,③薬剤の送りすぎにより,エアー抜き用バ
グフィルターから圧送空気を逃がしきれなくなり,圧送空気の圧力が高ま
ったこと,③充填作業の監視活動が不十分であったこと,⑤外部業者との
打合せが不十分であり,マニュアルの不徹底があったことにあり,被告は,
事故の原因を踏まえて再発防止策をとりまとめた上,対策を講じた。
イ第2回試運転について(甲1,141,乙119,159,172,1
74)
(ア)被告は,上記事故により休止された本件施設の試運転を平成20年
3月4日から再開し,同月31日まで行うことを計画し,実施した。
この試運転中,愛知県及び春日井市により行政検査(各種の測定)が
行われたところ,排ガス中のHCl濃度,敷地境界の騒音値(夜間,朝
及び夕)及び排ガスの臭気指数(煙突の出口)の各測定値が,被告の維
持管理計画値及び春日井市との細目協定による基準値(以下「協定値」
という。)を超過した。すなわち,排ガス中のHCl濃度の維持管理計
画値及び協定値が150mg/N㎥以下であるところ,測定値は,平成
20年3月26日に愛知県が行った測定において240mg/N㎥とな
り,敷地境界の騒音値の維持管理計画値及び協定値が,夜間(午後10
時から翌日午前6時まで)につき60デシベル以下,朝(午前6時から
午前8時まで)及び夕(午後7時から午後10時まで)につき65デシ
ベル以下であるところ,測定値は,同月3月25日から26日にかけて
春日井市が行った測定において,夜間につき66デシベル,朝につき6
6デシベル,夕につき67デシベルとなり,排ガスの臭気指数(煙突の
出口)の維持管理計画値及び協定値が30以下であるところ,測定値は,
同月27日に春日井市が行った測定において35,同月31日に春日井
市が行った測定において31となった。
また,同月31日午前10時ころから午後3時20分ころまでの間に,
錆混じりの水滴が本件施設の隣地まで飛散する事故が発生した。
(イ)愛知県尾張県民事務所長は,平成20年4月3日付けで,被告に対
し,周辺住民への説明及び再発防止策等を実施するとともに,再度事故
が発生しないように,施設管理体制の整備,従業員教育等を徹底するよ
う勧告した。(甲141の7丁)
春日井市長においても,同日付けで,被告に対し,同旨の勧告をした。
(同8丁)
愛知県知事は,廃棄物処理法15条の2の6の規定に基づき,平成2
0年4月25日付けで,被告に対し,排ガス中のHCl濃度,敷地境界
の騒音値及び臭気指数(煙突の出口)を維持管理計画値以下とすること
を命令事項とする改善命令を発令した。(同25丁)
春日井市長は,基本協定5条の規定に基づき,同日付けで,被告に対
し,各種の測定値を維持管理計画値及び協定値以下とするための改善措
置を講ずるよう指示した。(同28丁)
(ウ)被告は,上記改善命令を受け,平成20年7月4日,愛知県に対し,
上記の測定値超過の原因と対策をまとめた改善計画書(乙172の1)
を提出した。この改善計画書によると,HCl濃度が維持管理計画値及
び協定値を超過した原因としては,①HCl濃度計の校正ミスにより表
示値が下方に振れていたため,表示値を拠りどころとしていた中和薬剤
の投入量が本来吹き込むべき量を下回っていたこと,②払落し圧力を降
下させるというオペレーション上の変更により,ろ布表面の新たなケー
キ層の形成が過小となったことの2点が主要因であり,他に,③破砕物
投入が間欠的となっていたことにより,塩化水素の出口温度が激しい変
動を伴うものとなったこと,④薬剤投入量の比例制御の基準線(75p
pm[122mg/N㎥])において,計画値,協定値(150mg/
N㎥)に対しての安全マージンが過小であったこと,⑤通過ガス量に対
する薬剤の相対的な投入量が1系と2系とで差があったことなどが挙げ
られている。
被告は,同年8月9日までに,上記の改善計画書に係る改善対策工事
及び錆混じりの水滴が飛散した事故に係る再発防止対策工事を実施し,
完了させた。
ウ第3回試運転について(甲1,199,204,乙119,175,1
94)
(ア)被告は,本件施設の試運転を平成20年9月9日から再開し,同年
10月15日まで行うことを計画し,実施した。
この試運転中,愛知県により行政検査(各種の測定)が行われたとこ
ろ,排ガス中のCO濃度の測定値が維持管理基準値を超過し,敷地境界
の騒音値(昼間及び夜間)及び敷地境界の臭気指数の各測定値が被告の
維持管理計画値を超過した。すなわち,排ガス中のCO濃度の維持管理
基準値が100ppm以下であるところ,測定値は,平成20年10月
8日に愛知県が行った測定において106ppmとなり,敷地境界の騒
音値の維持管理計画値が,昼間(午前8時から午後7時まで)につき7
0デシベル以下,夜間(午後10時から翌日午前6時まで)につき60
デシベル以下であるところ,測定値は,同日午前11時から午後7時ま
での間に愛知県が行った測定において75デシベル,同日午後10時か
ら同月9日午前6時まで間に愛知県が行った測定において69デシベル
となり,敷地境界の臭気指数の維持管理計画値が13以下であるところ,
測定値は,同月8日に愛知県が行った測定において15となった。
また,試運転期間中の行政検査の際,被告が春日井市との細目協定に
掲げられた搬出入時間外に重油及び消石灰を搬入したことが,愛知県に
より確認された。すなわち,細目協定において製品等の搬出入時間が午
前8時から午後5時まで(日曜日及び祝日を除く。)とされているとこ
ろ,被告は,平成20年10月9日(木)午前5時50分に重油の搬入
を行い,同日午前6時20分に消石灰の搬入を行った。
(イ)愛知県知事は,廃棄物処理法15条の2の6の規定に基づき,平成
20年12月25日付けで,被告に対し,排ガス中のCO濃度の維持管
理基準値(100ppm)以下とすること,敷地境界の騒音値(すべて
の地点)及び敷地境界の臭気指数(すべての地点)を維持管理計画値以
下とすることなどを命令事項とする改善命令を発令した。(甲204添
付資料2)
春日井市長は,基本協定5条の規定に基づき,平成20年12月25
日付けで,被告に対し,環境関連法令を遵守するとともに,維持管理基
準値,維持管理計画値及び協定値を遵守するために必要な措置を講ずる
よう指示した。(甲199)
(ウ)被告は,上記改善命令を受け,平成21年1月19日,愛知県に対
し,上記の測定値超過の原因と対策をまとめた改善計画書(乙194)
を提出した。
2差止請求権の要件
人は,社会生活を営む以上,相互の生存のための活動や社会経済活動の影響
を全く免れることはできないことからすれば,自らの生命の安全・身体の健康
に何らかの影響がありうるからといって,直ちに他人の活動を止めさせること
はできず,生命の安全・身体の健康等を被侵害利益とする人格権に基づく差止
請求権は,社会生活において受忍すべき限度を超えて生命の安全・身体の健康
等の被害を受ける蓋然性があると認められる場合に,初めて行使が可能となる
ものというべきであり,また,その請求権の発生要件となる上記の点について
の主張・立証責任は,民事訴訟の一般原則に基づき,請求権の存在を主張する
者において負担すべきであるから,本件においては,本件施設の稼働により,
本件施設からダイオキシン類等の有害物質が排出され,これが原告らの下に到
達し,原告らの受忍限度を超えてその生命の安全・身体の健康が侵害される蓋
然性があることなどについて,原告らにおいて立証すべきである。
もっとも,ダイオキシン類の排出という点についていえば,廃棄物処理法施
行規則が,前記1(2)イのとおり廃棄物焼却に伴うダイオキシン類の排出を削
減する目的で構造基準及び維持管理基準を強化したという経緯や,同法が,産
業廃棄物処理施設に係る周辺地域の環境の保全及び環境省令で定める周辺の施
設について適正な配慮がなされていることをも設置許可の要件としていること
(同法15条の2第1項2号)などに照らすと,構造基準及び維持管理基準の
遵守は,本件施設の設置許可を受けた被告において当然に果たさなければなら
ない行政上の義務であると同時に,周辺住民に対する関係においても,その生
命の安全及び健康を確保すべき責務を負うべきものと解されるから,被告にお
いて,本件施設が構造基準に適合し,かつ,本件施設を稼働させた場合に継続
的に維持管理基準を充足できることを相当な資料,根拠に基づき立証しなけれ
ば(被告は,現在までに,廃棄物処理法14条6項の業許可を受けておらず,
本件施設を本格稼働させる段階に至っていないため,維持管理基準の遵守の点
については予測的判断とならざるを得ない。),本件施設から相当量のダイオ
キシン類が排出されることにより,原告らの受忍限度を超えてその生命の安全
・身体の健康が侵害される蓋然性があることが事実上推定されるものというべ
きであり,被告において,本件施設が構造基準に適合し,かつ,本件施設を稼
働させた場合に継続的に維持管理基準を充足できることを立証した場合には,
上記事実上の推定は破れ,原告らにおいて,上記侵害の蓋然性があることにつ
いて更なる立証を行わなければならないと解される。
3本件施設の構造及び設備上の構造基準及び維持管理基準の充足性について
(1)前記争いのない事実等のとおり,被告が,平成13年5月23日,愛知
県知事に対し本件施設の設置許可を申請したのに対し,愛知県知事は,平成
16年4月28日,本件施設の設置許可処分をしたものであるところ,証拠
(甲67,68)によれば,その設置許可処分に当たっては,平成13年8
月1日から平成16年3月22日にかけて,12回にわたり,専門家によっ
て構成される愛知県廃棄物処理施設審査会議による審査会議が行われており,
専門的科学的知見に基づく審査がなされたことが認められる。
廃棄物処理法によれば,都道府県知事は,産業廃棄物処理施設の設置に関
する計画が環境省令(同法施行規則)で定める技術上の基準に適合している
と認めるときでなければ,その設置許可をしてはならないとされているとこ
ろ(同法15条の2第1項1号),前記1(2)ウの構造基準は,同法施行規
則が定める産業廃棄物処理施設に係る技術上の基準のうち,産業廃棄物焼却
施設(同法施行令7条3号,5号,8号,12号及び13号の2に掲げる施
設)に適用されるものであり,上記の「環境省令で定める技術上の基準」に
含まれる関係にある。
そうすると,前記1(3)アの認定事実に,本件施設の設置許可処分が上記
のとおり専門的科学的知見に基づく審査を経た上でなされていることを併せ
考えれば,本件施設が構造基準に適合すること,及び,被告により不適正な
維持管理がなされない限り,継続的に維持管理基準を充足することができる
ことが一応推認されるというべきであるが,原告らは,それぞれ理由を示し
ながら,本件炉の構造等に関して種々の問題点を指摘し,本件施設が構造基
準に適合せず,あるいは,本件施設の有する構造及び施設を前提にしても維
持管理基準を充足することができない旨主張するので,構造基準及び維持管
理基準の充足性について,上記の一応の推認を妨げる事由があるか否か,以
下検討を加えることとする(本件施設を稼働させた場合に継続的に維持管理
基準を充足できるか否かという点については,①客観的側面として,本件施
設の有する構造及び設備を前提に,これを適正に稼働させた場合において維
持管理基準を充足することができるかという問題と,②主観的側面として,
被告が本件施設の処理能力を超えて廃棄物を焼却するなどの不適正な処分や
維持管理を行い,維持管理基準に違反するような事態が生じないかという問
題に分けて考えることができ,②の点については後記4で別途検討を加える。
なお,上記のとおり,専門的科学的知見に基づく審査を経た上で本件施設の
設置許可処分がなされていることにより,本件施設の構造及び設備の構造基
準及び維持管理基準への充足性について一応の推認が働くとはいっても,事
実上の,かつ,一応のものであって,被告においては,原告らから理由を示
して指摘された種々の問題点について,相当な資料,根拠に基づいて,それ
らが構造基準及び維持管理基準の充足性を妨げる事由に当たらないことを立
証すべきである。)。
(2)燃焼室熱負荷,燃焼室容積及び燃焼排ガスの滞留時間について
ア燃焼室熱負荷について
原告らは,産業廃棄物焼却炉の燃焼室熱負荷については15万kcal
/㎥・h以上30万kcal/㎥・h未満を採用すべきであり,それを前
提にすれば,本件炉において被告が届け出た焼却能力(1.8t/h)よ
りも多くの廃棄物を焼却することが可能であり,届出焼却量を超えた焼却
処理によって有害な排ガスの排出がもたらされる旨主張する。
証拠(乙42,90)によれば,燃焼室熱負荷とは,燃焼室単位容積当
たり・単位時間当たりのごみの発生熱量をいい,焼却炉形式,構造,炉規
模,焼却方法,ごみ質等を考慮し,実績等を勘案して決められるものであ
り,上記のような多くの条件を勘案して,経験的に定められるものである
こと,この数値は火炎の充満度を示す指標でもあることから,燃焼室が小
さく燃焼室熱負荷の大きすぎる設計では,燃焼室に火炎が充満し,炉内が
高温となって炉壁の損傷を早めることになるほか,炉内での滞留時間が不
足することによって可燃ガスの燃焼が完結せず,ダイオキシン類の分解に
も不利となり,また炉内が高温となるため,炉壁等でのクリンカ(炉壁等
での局所的な高温部において焼却灰が溶融固化する現象をいう。)の発生
の機会が多くなること,他方,燃焼室が過大で燃焼室熱負荷の小さすぎる
設計では,炉壁からの放熱が大きいため炉温が低下する上,火炎の充満度
が少ないことから,殊に低質ごみの場合には燃焼が不安定となり,焼却灰
の熱しゃく減量が悪くなることが認められる。
しかるところ,旧厚生省が定めていた「ごみ処理施設構造指針」では,
24時間稼働の連続燃焼式焼却炉について,8万ないし15万kcal/
㎥・hの燃焼室熱負荷が標準とされていること,同指針の解説書を引き継
いだ社団法人全国都市清掃会議・財団法人廃棄物研究財団編集発行に係る
「ごみ処理施設整備の計画・設計要領」(乙42)でも,連続運転焼却炉
の場合,一般的には15万kcal/㎥・h以下の値が採用されていると
されていることが認められる(甲28,乙42,乙90添付資料1)。ご
み処理施設とは通常一般廃棄物処理施設をいうものであること(廃棄物処
理法8条)からすると,上記指針の定めは一般廃棄物の焼却施設を対象と
するものと考えられるが,産業廃棄物焼却施設について別異に扱うべき合
理的理由は見出し難い。この点に関し,Fは,その意見書(甲28)にお
いて,産業廃棄物焼却施設では,都市ごみの焼却施設と異なり,廃棄物の
種類が様々であるため発熱量が大きく異なるため燃焼変化が大きくなり,
炉内を十分に高温にして対応する必要があることから,15万kcal/
㎥・h以上の燃焼室熱負荷を採用すべき旨の意見を述べるが,少なくとも
本件施設については,燃焼室熱負荷の値を14万8770kcal/㎥・
hとして設計されていることは明らかであるところ,上記設計値は,15
万kcal/㎥・hとの乖離が大きくない上,後記(5)アに説示するとお
り,破砕可能な廃棄物(基準ごみ)を投入前に可能な限り混合し,攪拌し
た上で破砕処理するなどの運転管理により炉内温度を適正温度に保ち,総
発熱量を一定に保つという制御方法をとっており,これによって燃焼の安
定化が図られるといえ,本件施設については,そうした設計値の範囲内に
おいて安定した燃焼状態を保ちつつ運転を継続することが十分に可能と考
えられるから,上記意見は採用できない。
また,環境省が都道府県・各政令市廃棄物担当課に宛てた平成14年1
1月26日付け「廃棄物焼却施設の能力算定方法について(情報提供)」
と題する事務連絡文書(乙90添付資料2)では,廃棄物処理法15条の
規定による設置許可が必要な産業廃棄物焼却施設の処理能力の算定につい
ても,一般廃棄物処理施設と同様に,焼却炉メーカー等から提出された能
力計算書等について審査し,その妥当性を判断することで差し支えないと
されている。
そうすると,本件施設について,その設置許可処分が前示のとおり専門
的科学的審査を経た上でなされていることを併せ考えれば,本件炉の燃焼
室熱負荷が14万8770kcal/㎥・hとされていることは不合理で
なく,15万kcal/㎥・h以上30万kcal/㎥・h未満を採用す
べきことにはならないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
イ燃焼室容積について
原告らは,ロータリー式自動灰出し装置,二次燃焼室(別紙図面11の
斜線部分)及び炉の椀状部についても本件炉の燃焼室容積に含めるべきで
あるにもかかわらず,被告がこれらの容積を含めていないため,被告が届
け出た燃焼室容積は不当に過小なものとなっており,本件炉の実際の焼却
能力が1.8t/hを上回ることから,届出焼却量を超えた焼却処理によ
って有害な排ガスの排出がもたらされる旨主張する。Fも,本件炉の燃焼
室容積につき,原告らの主張と同旨の意見書(甲28,乙109)を提出
している。
証拠(乙42,90添付資料1)によれば,燃焼室容積とは,炉材等で
囲まれた燃焼空間をいい,ごみがない状態における火格子上の全容積で,
ガス減温が始まる手前まで(あるいは耐火物被覆部上端まで)をとるもの
とされていることが認められる。
まず,ロータリー式自動灰出し装置について,Fの意見書(甲28)で
は,同装置の内部が耐火物で被覆されており,未燃の廃棄物をそこで高温
燃焼させる仕組みになっている旨指摘されている。しかし,未燃のまま回
転床から落ちる廃棄物の存在及び数量を明らかにしうる証拠はなく,上記
のような仕組みになっているとは認め難いし,Gの意見書(乙90)にお
いても,回転床で燃焼し切れなかった廃棄物が炭となって,同装置内に落
下する可能性があるが,その量が極めて少量である旨指摘されている。そ
して,同装置は,内部が耐火物で被覆されているものの,その構造上もえ
がらを保管庫まで自動的に移送する目的で設置されているものと認められ
る上(乙1の3の18頁,19頁),回転床の下部に位置すること(本件
炉において「火格子」に相当するものは椀状の回転床と考えられる。)に
照らすと,同装置を燃焼に寄与する空間と見るべきではないから,燃焼室
容積に含めるべきとはいえない。
次に,別紙図面11の斜線部分について,Fの意見書(乙109)では,
小型焼却炉であっても,そうでない焼却炉であっても,二次燃焼炉を燃焼
室容積に含めるべき旨の意見が述べられ,Gも,その意見に同調している
(乙86)。しかし,Gが指摘するように,同斜線部分は「二次燃焼炉」
には当たらないと考えられるから(同斜線部分に設置された二次バーナー
は,二次室出口温度を800℃以上に保つために作動されるものであり,
基本的に二次室出口温度が炉内上部温度より高温になることがないという
ことが,試運転のデータにも現れている。),これを燃焼室容積に含める
べきことにはならない。また,一次燃焼室と二次燃焼室とが分かれる焼却
炉において,燃焼室熱負荷が一次燃焼室の計算値であるとする文献もあり
(乙122添付資料3),この点からも,被告が一次燃焼室のみを燃焼室
容積に含める形で本件炉の設計計算をしていることが不合理とはいえない
というべきである。
次に,炉の椀状部について,Gの意見書(乙73)では,「解釈が分か
れる」としつつ,本件炉が椀状の回転床の底から空気を送り込む構造にな
っていないこと,燃焼中の廃棄物が椀状部の半分程度を常時占有すること
から,椀状部は燃焼空間でないと判断するのが相当である旨の意見が述べ
られている。しかし,後記(4)のとおり,本件炉は下段送風機により回転
床内に一次燃焼用の空気が供給される構造になっており,回転床内におい
て廃棄物の燃焼反応が生ずることに変わりはないと考えられるし,また,
上記のとおり燃焼室容積については「ごみがない状態における火格子上の
全容積」をとるとされていることに照らすと,燃焼室は廃棄物が燃焼床に
ないときの容積をとるべきと考えられるから,椀状部の一部を廃棄物が占
有していることが,椀状部を燃焼空間から除外する理由にはならないとい
うべきである。したがって,被告が炉の椀状部を燃焼室容積に含めていな
い点は,合理的根拠に欠けるといわざるを得ず,これを燃焼室容積に含め
るのが相当と考えられる。
そこで,椀状部の容積を含めた燃焼室下部の容積をV3´とし,椀状部
の容積に原告ら主張の5㎥を採用すると,V3´は20.58㎥(15.58
+5=20.58)となり,全体の燃焼室容積は,次式のとおり,76.96㎥
となる。
V1+V2+V3´=1.58(㎥)+54.8(㎥)+20.58(㎥)
=76.96(㎥)
そうすると,燃焼室熱負荷の値を14万8770kcal/㎥・hで固
定させた場合には,燃焼室容積と焼却能力は比例する関係にあるから{燃
焼室熱負荷(kcal/㎥・h)=廃棄物の低位発熱量(kcal/kg)×焼却能力
(kg/h)÷燃焼室容積(㎥)},計算上,焼却能力に1.069倍(76.9
6/71.96=1.069)の余裕があることになる。
しかしながら,焼却能力が200kg/h未満であるなどの事由により
法令上設置許可を要しない小型焼却炉(廃棄物処理法施行令5条1項,7
条参照)と異なり,廃棄物処理法15条の規定に基づく設置許可を要する
産業廃棄物焼却施設にあっては,構造基準として設置することが要求され
る廃棄物の定量供給装置や排ガス処理設備等の処理能力によってその焼却
能力も相当程度限定されると考えられる上,本件施設については,廃棄物
の受入量を重量で記録するほか,破砕物の搬送過程等に廃棄物の処理量を
計測し,かつ記録する計量器を具備していることが認められる(乙12
2)。そして,被告は本件施設の操業状況に関する各種の記録を公開する
姿勢を示しており(現に,試運転結果報告書(乙179)等において廃棄
物の処理量のデータが提出されている。),法令上も,処分した廃棄物の
各月ごとの種類及び数量を含む維持管理に関する記録を利害関係者の閲覧
に供することが義務付けられているのであるから(廃棄物処理法15条の
2の3,8条の4,同法施行規則12条の7の3第1号),被告が本件施
設の処理能力を超えて廃棄物の焼却処理をする危険性は,到底認めること
ができない。
したがって,届出焼却量を超えた焼却処理によって有害な排ガスの排出
がもたらされる旨をいう原告らの上記主張は,採用できない。
ウ燃焼排ガスの滞留時間について
原告らは,1.8t/hを超える廃棄物の処理がなされることを前提に,
燃焼ガスの滞留時間を2秒以上確保できず,構造基準に適合しない旨主張
する。
しかし,被告が本件施設の処理能力を超えて廃棄物の焼却処理をする危
険性を認めることができないのは前示のとおりであるから,原告らの主張
は前提を欠き失当である。
そして,1.8t/hの処理能力の範囲内での廃棄物処理を想定した場
合,燃焼室出口湿り排ガス量は2万3722N㎥/hであるから(乙14
の2の総括一覧表),仮に,燃焼ガス滞留時間の計算において考慮すべき
燃焼室の範囲を原告ら主張のとおり61.24㎥としたとしても,次式の
とおり,800℃で2.37秒,944℃で2.08秒と,滞留時間の基
準に適合する。
800℃の条件下で,燃焼ガスが1秒間に燃焼室内を通過する量
23,722(N㎥/h)×(800+273)/273=93,237(㎥/h)
=25.89(㎥/s)
燃焼排ガスの滞留時間(800℃)
61.24(㎥)÷25.89(㎥/s)=2.37(s)
944℃の条件下で,燃焼ガスが1秒間に燃焼室内を通過する量
23,722(N㎥/h)×(944+273)/273=105,750(㎥/h)
=29.38(㎥/s)
燃焼排ガスの滞留時間(944℃)
61.24(㎥)÷29.38(㎥/s)=2.08(s)
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(3)投入方法の問題点について
原告らは,廃棄物を高温燃焼中の炉床にプッシャーによって直接落とし入
れるという本件炉の廃棄物投入方式が,間欠的であり,燃焼の変化を少なく
するという原則に反するものであって,平均では十分酸素濃度があったとし
ても一時的又は局所的に酸素不足による不完全燃焼が起こってCO濃度及び
ダイオキシン類濃度が高くなり,あるいは,燃焼が不完全となってダイオキ
シン類濃度が高くなる旨主張する。
確かに,プッシャーによる投入は,その構造上間欠的にならざるを得ない
ものであるが,前記認定のとおり,被告は廃棄物搬送装置をスキップコンベ
アからフレックスコンベアに変更し,破砕処理後の廃棄物を少量ずつ連続的
にプッシャーに送り込むことが可能になっていることが認められる。そして,
証拠(乙194)によれば,被告は,フレックスコンベアによって搬送する
廃棄物の1回当たりの所定計量を10kgと設定していること,第3回試運
転において,破砕不良の廃棄物が搬送され,最大20kg程度の廃棄物が1
回にまとまって投入される現象が生じていたことから,①定量切り出し装置
に層厚調整プッシャーを設け,送り出す破砕物の層厚を確実に100mm前
後とする,②計量器内の破砕物重量が所定重量近くになった場合の定量切り
出し装置の減速量を−40%に変更し,所定重量を超えないようにする,③
破砕物の長辺が200mmを超えるものの割合がコンベアー(破砕機からの
排出用)上の目視により30%以上認められた場合には,破砕機の能力の範
囲内で2度破砕するなどの対策を講ずることとしていることが認められる。
このように,本件施設においては,投入ロットを少量化することにより燃焼
状態の変化を少なくするための対策が講じられているといえる。
加えて,実際に本件施設を稼働させた場合にダイオキシン類濃度及びCO
濃度が維持管理基準を超過するかという点については,後記(7)及び(8)でそ
れぞれ検討するが,その検討に照らしても,本件炉の廃棄物投入方式が,維
持管理基準に適合しないことに結び付くような欠陥であると認めることはで
きない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(4)空気供給の不備について
原告らは,本件炉には,一次燃焼用の空気供給口が設けられていない上,
椀状の回転床の回転のみによって,回転床の下部にある廃棄物にも十分な空
気が常に行き渡るほどの攪拌が生ずることは期待できないため,回転床の下
部にある廃棄物について,不完全燃焼となり,ダイオキシン類等の有害物質
が発生する危険性が高い旨主張する。
しかし,証拠(乙140)によれば,本件炉においては,下段送風機の送
風管のノズルが椀状の回転床の上部に向けて空気を送り込む形で配置されて
いることが認められる。そして,本件炉の回転床は常用運転時に3ないし6
rpm(回転/分)で回転することが認められることから(甲1別紙6−
9),ある時点で回転床の下部にあった廃棄物は遅くとも10秒後には上部
まで移動し(3rpmで回転させた場合),それが重力によって落下する際
に空気が供給されることとなる。そうすると,本件炉においては下段送風機
が一次燃焼用の空気が供給する役割を果たしているものといえ,十分な攪拌
が期待できず不完全燃焼となるという原告らの主張は根拠に乏しいものとい
わざるを得ない。
なお,第3回試運転中の行政検査において,一時的に過燃焼又は燃焼の不
活発化が生じている時間帯を除いて,CO濃度瞬時値が1ないし20ppm
という低い値で推移していることからも,空気供給の不備によって不完全燃
焼が生ずるものとは認め難い。すなわち,証拠(乙194)によれば,CO
濃度の瞬時値が100ppmを超えるピークを示す場合には,炉内温度が上
昇し酸素濃度が低下する傾向にあり,過燃焼により酸素不足に陥った場合と,
炉内温度が低下し,酸素濃度が上昇する傾向にあり,燃焼が不活発化した場
合の2つの場合があることが認められるところ,第3回試運転において行政
検査が行われた平成20年10月8日のCO濃度瞬時値を見ると,100p
pmを度々超過しており,ピークを記録した時間帯の中には5000ppm
に達するものもあるが,ピークに達した後最長でも5分後には100ppm
以下に戻っており,ピーク及びその付近の時間帯を除いては,ほとんど1な
いし20ppmという低い瞬時値で推移しているものである(甲185の4,
乙186,194)。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(5)発熱量調整の不備・非現実性について
アまず,原告らは,被告の計画における廃棄物の構成比及び低位発熱量の
算定は,現実的・具体的な根拠に基づいたものではないこと,現実に混合
焼却における廃棄物1kg当たりの低位発熱量の値が一定したもの(59
47kcal/kg)とならないことを問題とする。
しかしながら,以下の理由から,これらの点は,本件施設の維持管理上
大きな支障となるとは考え難いというべきである。
(ア)証拠(乙14の2,135)によれば,次のとおり認められる。
被告は,本件施設の運転管理のため,焼却対象物を,高発熱量のごみ
(廃油),基準ごみ(固形状廃棄物である木くず,廃プラスチック類,
紙くず,繊維くず,金属くず並びにガラスくず及び陶磁器くず),低発
熱量のごみ(汚泥及び動植物性残さ),その他(感染性産業廃棄物)の
4種類に分けている。被告は,焼却する廃棄物の種類別処理量(合計は
1800kg/h)を,廃油につき180kg/h,木くずにつき67
0kg/h,廃プラスチック類につき630kg/h,紙くずにつき5
9kg/h,繊維くずにつき12kg/h,金属くずにつき5kg/h,
ガラスくず及び陶磁器くずにつき4kg/h,汚泥につき50kg/h,
動植物性残さにつき50kg/h,感染性産業廃棄物につき140kg
/hと計画しているため,この計画による高発熱量のごみの割合(重量
ベース)は10%(180/1800=0.1),基準ごみの割合は76.67%
{(670+630+59+12+5+4)/1800=0.7667},低発熱量のごみの割
合は5.56%{(50+50)/1800=0.0556},その他のごみの割合は
7.78%(140/1800=0.0778)となる。
被告は,混合焼却における単位時間当たりの廃棄物の総発熱量を一定
に保ち,かつ可能な限り1070万4600kcal/h{5,947(kca
l/kg)×1,800(kg/h)=10,704,600(kcal/h)}に近づけて焼却処理
をするため,以下の方法による運転管理を行うことととしている。すな
わち,①全体の4分の3程度を占める基準ごみを,可能な限り混合し,
攪拌した上で,100mm以下に破砕し,定量切出し装置から一定量ず
つ送り込んで炉内に投入し,②実際には基準ごみの混合比率は必ずしも
一定とならず,基準ごみの平均発熱量が変動し,その変動に応じて炉内
温度が上下動することから,炉内温度を適正温度(850℃から950
℃までの範囲内)に保つため,炉内温度が低下傾向にある場合には定量
切出し装置による基準ごみの送り量を高速へシフトさせ,上昇傾向にあ
る場合には送り量を低速へシフトさせ,適正温度にある場合には標準速
を維持し(なお,定量切出し装置による送り量は高速,標準速,低速の
3速で管理されており,速度変更は,インバーターで自動的になされ
る。),③基準ごみの平均発熱量が定量切出し装置の調整幅を超えて高
くなった場合,すなわち,送り量を低速化する調整にもかかわらず炉内
温度が上昇傾向となった場合には,低発熱量のごみを自動的に投入し,
④逆に,基準ごみの平均発熱量が定量切出し装置の調整幅を超えて低く
なった場合,すなわち,送り量を高速化する調整にもかかわらず炉内温
度が低下傾向となった場合には,高発熱量のごみを燃焼させる(廃油バ
ーナーを自動的に作動させて廃油を燃焼させる)という運転管理を行う
こととしている。
(イ)このように,本件施設においては,基準ごみの混合比率が実際には
一定とならず,基準ごみの平均発熱量が変動することを前提として,上
記の方法による運転管理により炉内温度を適正温度に保ち,総発熱量を
一定に保つという制御方法をとっているのであるから,現実に混合焼却
における廃棄物1kg当たりの低位発熱量の値を一定にする必要はなく,
また,現実に焼却する廃棄物の構成比についても,計画値に近い方が望
ましいとはいえるものの,必ずしも計画どおりの構成比が実現される必
要はないものである。
イ次に,原告らは,汚泥,動植物性残さ,金属くず,ガラスくず等の廃棄
物について,専焼計算における低位発熱量が各廃棄物自体の性状を正しく
反映した数値となっていないことを問題とする。
しかし,被告は,焼却予定物の種類ごとにさせた場合の本件施設の焼却
能力を計算上明らかにする必要があったところ,上記の各廃棄物は,無機
物ないしほとんどが水分で組成されるものであって,そもそも単体で焼却
させることが不可能であるから,比較的総発熱量を調整しやすい廃油と混
焼させた場合を仮定して計算をしたにすぎず(乙14の2,135),こ
のことが本件施設の運転管理上問題となるものでもない。
ウ次に,原告らは,各廃棄物排出事業者から受け入れる廃棄物の種類及び
量やその混合割合をマニフェスト伝票と呼ばれる管理票によって把握・管
理することは不可能であり,また,本件施設に搬入された廃棄物の十分な
備蓄スペースがないことから,混合後の廃棄物の性状を一定にすることは
不可能である旨主張する。
しかし,産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)は,産業廃
棄物排出業者に対して,その廃棄物の処理を他人に委託する場合に交付す
ることが義務付けられているものであり(廃棄物処理法12条の3),こ
れによって廃棄物の処理の流れを把握することにより,不法投棄等の不適
正処理を防止するものである。そして,管理票には,運搬又は処分を委託
した産業廃棄物について,当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量を記
載すべきこととされ(同法12条の3第1項),管理票の交付は,当該産
業廃棄物の種類ごとに交付することとされ,引渡しに係る当該産業廃棄物
の運搬先が2箇所以上である場合には,運搬先ごとに交付することとされ
るところ(同法施行規則8条の20),虚偽の管理票を交付した産業廃棄
物排出業者については都道府県知事による措置命令の対象となり(同法1
9条の5第1項3号イ),罰則の対象ともなっている(同法29条3号)
ことからすれば,管理票の記載には一定程度の信頼性があるものと考えら
れる。また,廃棄物の種類ないし性状は,廃棄物の処理単価を決める際の
重要な要素となるものであり,被告が排出業者から廃棄物を受け入れるに
当たっては,廃棄物の種類ないし性状を全く確認することなく排出業者及
び運搬業者との間で契約を締結することは考え難く,そうした確認作業を
経ることによって,管理票に虚偽の記載がなされる危険性は低減されると
いえる。加えて,十分な備蓄スペースがない点については,排出業者との
契約時に最終的な混合割合を考慮して契約することでも対応が可能である。
本件施設の運転管理に当たって,そもそも現実に混合焼却における廃棄
物1kg当たりの低位発熱量の値を一定にする必要がないことは,前記ア
(イ)で説示したとおりであるが,管理票及び被告自身の確認作業を通じて
本件施設に搬入される廃棄物の種類及び量を把握しておけば,運転管理の
基本となる基準ごみの組成をできる限り均一にするよう調整をすることも
相当程度可能となり,発熱量の安定化が図られるといえる。そうすると,
混合後の廃棄物の性状を厳格な意味において一定にすることが必ずしもで
きないことは,原告らの主張するとおりであるが,それとて本件施設の維
持管理上大きな支障となるとは考え難いというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(6)燃焼ガス温度について
ア原告らは,試運転データに現れた二次室出口温度が火炎の輻射熱の影響
を受けた見かけ上の温度であって真のガス温度でなく,ボイラー出口付近
のガス温度に82℃を加えると二次室出口の真のガス温度が推定でき,こ
れが800℃に達しておらず,維持管理基準に適合しない旨主張する。証
人Fも,同旨の証言をし,同旨の意見書(甲153)を提出している。
しかし,82℃というのは,本件炉の設計計算書(乙14の2)におけ
る二次室出口温度とボイラー出口温度との差であり,設計計算書において
は,ボイラーの水壁面に対する総括伝熱係数(高温流体[排ガス]から低
温流体[水]に対する熱の伝わりやすさを示す係数であり,単位伝熱面積
当たり・単位時間当たり・単位温度差当たりの貫流熱量を意味する。)が
35kcal/㎡・h・℃とされているところ(乙14の2の7−1−7
頁),この値は,被告が,ボイラーの使用継続に伴いその伝熱面に付着物
が付くことにより,新品のボイラーの約半分程度まで伝熱効果が低下する
ことを見越して,あらかじめ低く設定したものであること,被告は,本件
施設の稼働直後の時点では総括伝熱係数が70kcal/㎡・h・℃程度
になると予測していたことが認められる(乙167)。証人Fも,一般論
として汚れの付着によりボイラーの機能が低下すること,汚れていない管
の場合,伝熱面が新しいときの熱伝達係数を用いることは認めており(証
人F・平成20年8月5日尋問調書2頁,21頁),上記の予測は不合理
なものではない。
加えて,実際にボイラーを通過する排ガス量に計算値との差があること
が考慮されなければならない。設計計算書においては,焼却炉出口におけ
る湿り排ガス量を2万3722N㎥/hとしてボイラー出口のガス温度が
計算されているところ(乙14の2の7−1−7頁・1−36丁の総括一
覧表),原告らが二次室出口温度とボイラー出口温度との温度差を問題と
する平成19年11月1日にあっては,廃棄物処理量は最大で1時間当た
り1363kgであり100%の稼働運転ではなかったことが認められる
(甲139)。証拠(甲162,乙167)によれば,同日の排ガス量を
測定したデータは存在しないものの,平成20年3月14日にあっては乾
きガス量が1万8900N㎥/hであったこと,平成20年3月15日に
あっては乾きガス量が1万8800N㎥/hであったこと,同月14日の
廃棄物投入量は最大1779kgであったこと,同月15日の廃棄物投入
量は最大1597kgであったことが認められる。そうすると,同月14
日及び15日の運転負荷は平成19年11月1日と同程度あるいはそれ以
上であったといえ,平成19年11月1日の乾きガス量を1万8850N
㎥/hと想定しても不合理ではない。そして,証拠(乙14の2の7−1
−2頁)によれば,乾きガス量と湿りガス量の比はおおむね12.19:
13.18となることが認められるから,同日の湿りガス量は2万038
1N㎥/h(18,850×13.18/12.19=20,381)と想定できる。
そこで,総括伝熱係数を70kcal/㎡・h・℃,湿りガス量を2万
0381N㎥/hとすると,二次室出口温度が944℃である場合のボイ
ラー出口温度は,次式のとおり,753℃となる(なお,水冷壁への総伝
熱量は,総括伝熱係数に比例するので,総括伝熱係数を35kcal/㎡
・h・℃とした場合の水冷壁への総伝熱量である68万8046kcal
/hの2倍となる(乙14の2の7−1−7頁)。)。
二次室出口温度
−水冷壁への総伝熱量/(湿りガス量×ボイラー出口ガス比熱)
=944(℃)−{688,046(kcal/h)×2}
/{20,381(N㎥/h)×0.353(kcal/N㎥・℃)}
=944(℃)−191(℃)
=753(℃)
原告らの主張するように,平成19年11月1日のボイラー出口温度は
700℃前後であり(乙147),なお50℃程度の開きがあるが,この
点に関し,被告は,第2回試運転の排ガス温度のデータにおいて,後方に
位置する排ガス急冷塔入口温度がボイラー出口温度よりも40℃ないし8
0℃程度高くなるという逆転現象が現れていることから,平成19年11
月1日時点においても同様に,ボイラー出口温度を測る熱伝対の先端受熱
部分が排ガス温度を測るのに適切な位置まで差し込まれていなかったため,
実際のガス温度より40℃ないし80℃程度低く表示されていた可能性が
ある旨主張し,これに沿うHの意見書(乙167)が提出されている。こ
れに対し,証人Fは,排ガスが通る煙道の中の温度が均一ではなく,温度
の高い層と低い層が乱れなく平行に流れており,煙道の中で温度分布があ
るために,ボイラー入口温度と排ガス急冷塔入口温度の逆転現象が生じう
る旨の見解を示し,また,ボイラー入口温度と排ガス急冷塔入口温度のい
ずれも正確に計測できていない旨証言する(証人F・平成20年8月5日
尋問調書3頁以下,23頁以下,41頁以下)。
確かに,第2回試運転の排ガス温度のデータにおいて,排ガス急冷塔入
口温度がボイラー出口温度よりも40℃ないし80℃程度高くなるという
逆転現象が現れていることが認められる(甲163)。また,第2回試運
転において,後方に位置するボイラー入口温度が二次室出口温度よりも高
くなるという逆転現象が現れたのに対し,平成20年3月22日に二次室
出口温度を計測する熱伝対の差込位置を調整した結果,同月23日以降,
二次室出口温度を前後矛盾なく把握できるようになったことが認められ
(甲163,乙167),このような実例があることに照らすと,平成1
9年11月1日の時点において,ボイラー出口温度を測る熱伝対の差込位
置が適切でなかったために実際のガス温度より程度低く表示されていたと
いうことも,可能性としては考えられる。
しかし,同日や同月2日においては,ボイラー入口温度と排ガス急冷塔
入口温度の逆転現象が現れていないと認められるところ(乙147),そ
れにもかかわらずなぜ第2回試運転において逆転現象が生じたのかが明ら
かになっておらず,熱伝対の差込位置が適切でなかったという被告の主張
は裏付けに乏しいといわざるを得ない。また,例えば平成20年3月26
日の試運転時において,前方に位置する二次室出口温度と後方に位置する
ボイラー入口温度との高低が何度も入れ替わっており(甲163),この
ことからすると,排ガスが通る煙道の中の温度が均一ではなく,温度の高
い層と低い層が乱れなく平行に流れており,煙道の中で温度分布があると
いう証人Fの見解も合理的なものと考えられる。したがって,平成19年
11月1日のボイラー出口温度が,熱伝対の差込位置が適切でなかったた
めに実際のガス温度より程度低く表示されていたのか,温度の低い排ガス
層のガス温度を計測したものであるのか,あるいはその両者とも生じてい
たのか,不明であるといわざるを得ない。
もっとも,二次室出口温度とボイラー出口温度に191℃程度の差が生
ずることは上記のとおりであるから,仮に平成20年11月1日のボイラ
ー出口温度の計測値が正しいとしても,二次室出口温度は800℃を上回
ることになる。したがって,ボイラー出口温度に82℃を加えることによ
って二次室出口の真のガス温度を推定することはできないというべきであ
り,その推定に基づき燃焼ガス温度が800℃に達していないとする原告
らの上記主張は採用できない。
なお,証拠(乙147)によれば,平成20年11月1日及び同月2日
において,二次室出口温度はボイラー入口温度より30℃ないし50℃程
度高くなっていることが認められる。これは放熱の影響によるものと推察
されるが,このことも,二次室出口温度とボイラー入口温度の温度差につ
き,実測値と計算値とで違いが生じていることの一因と考えられる。
イ次に,原告らは,平成20年3月10日から同月19日までの排ガス温
度のグラフの上,二次室出口温度のグラフが櫛の歯状になっていることな
どから,二次室出口付近のガス温度が見かけ上800℃ないし900℃以
上あっても,それは二次バーナーの火炎の輻射熱の影響によるものであっ
て,真のガス温度は800℃を下回っており,維持管理基準に適合しない
旨主張する。証人Fも,同旨の証言をし,同旨の意見書(甲153)を提
出している。
しかし,例えば,平成20年3月14日午前8時から午前11時までの
排ガス温度のグラフ(乙167の「グラフ−4」)及び同月23日午後0
時から午後3時までの排ガス温度のグラフ(乙167の「グラフ−6」)
からは(両グラフの基礎データにつき,甲163,乙151参照),二次
室出口温度が,炉内上部温度とおおむね連動している状況が見てとれる。
そして,排ガスが炉内(一次燃焼室内)から二次燃焼室へ,二次燃焼室か
らボイラーへと流れていること,証拠(乙167)によれば,二次バーナ
ーと炉内上部温度計の位置関係は別紙図面17のとおりと認められること
からすると,二次バーナーの作動が炉内上部温度計の計測する温度の上昇
をもたらすとは考え難く,二次バーナーを作動させた場合には,炉内上部
温度と関係なく二次室出口温度が上昇すると考えられる。そうすると,二
次バーナーは限られた機会にのみ作動しているものであって(例えば,同
月14日午前10時31分ころ,午前10時38分ころ,同月23日午後
0時39分ころ,午後0時52分ころ,午後2時46分ころには,それぞ
れ,炉内上部温度と連動せず二次室出口温度が上昇している。また,同月
21日午後3時50分から午後6時50分までの排ガス温度のグラフ(乙
167の「グラフ−7」)を見ると(同グラフの基礎データにつき,甲1
63,乙151参照),同日午後3時53分ころ,午後4時50分ころ,
午後5時10分ころ,午後5時43分ころ,午後5時55分ころ,午後6
時48分ころなどにも,それぞれ,炉内上部温度と連動せず二次室出口温
度が上昇している。),同月14日や23日に現れているような,二次室
出口温度が炉内上部温度と連動している状況は,本件炉において,二次バ
ーナーを頻繁に作動させることなく800℃ないし900℃のガス温度を
保つことができていることを示すものと認められる。原告らが指摘するよ
うに二次室出口温度のグラフが櫛の歯状となっているのは,炉内の廃棄物
の燃焼状態の変動によってもたらされる排ガス温度の変動を反映したもの
にすぎない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
ウ次に,原告らは,第3回試運転において全般的に二次室出口温度が炉内
上部温度より高い状態が継続していることなどから,本件炉において,二
次バーナーを頻繁に作動させなければ二次室出口付近のガス温度を800
℃以上に保つことができない旨主張する。
しかし,本件炉において,適正量の廃棄物を投入して燃焼させた場合に,
二次バーナーを頻繁に作動させることなく800℃以上のガス温度を保つ
ことができることは,前記イに説示したとおりである。また,証拠(乙1
79の4−1項,乙193)によれば,第3回試運転において24時間の
稼働時間をしたと認められる平成20年9月17日,同年10月7日,同
月8日,同月9日における,二次バーナー及び昇温バーナーの燃料として
使用された再生油の使用量は,同年9月17日が950ℓ(39.6ℓ/
h),同年10月7日が960ℓ(40ℓ/h),同月8日が1390ℓ
(57.9ℓ/h),同月9日が1408ℓ(58.7ℓ/h)であること
が認められる(かっこ内は1時間当たりの使用量に換算した数値)。この
4日間については,廃棄物が投入されていなかったと認められる同月7日
午後6時30分ころから午後8時ころまでの時間帯(乙179の3−2項
の「処理量」のグラフ参照)を除き,二次室出口温度が800度以上で推
移していると認められるところ(乙179の3−2項),二次バーナーを
常時作動させた場合の消費燃油量は120ℓ/h,昇温バーナーを常時作
動させた場合の消費燃油量は100ℓ/hであるから(乙14の1),排
ガス温度を800℃以上に保つために二次バーナーや昇温バーナーをほぼ
常態的に作動させているような状態にあったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(7)ダイオキシン類濃度について
ア本件施設の試運転期間中の排ガス中のダイオキシン類濃度の測定結果等
は次のとおりと認められる(測定結果として示すものはいずれも酸素濃度
12%換算値であり,単位はいずれもng−TEQ/N㎥である。)(甲
185の4,乙152,156,167の16頁,179の2−3項・2
−5項・2−10項,181,183)。これによれば,排ガス中のダイ
オキシン類濃度は,維持管理計画値である0.1ng−TEQ/N㎥を大
幅に下回っており,維持管理基準値である1ng−TEQ/N㎥以下(本
件施設においては,低位発熱量が最も低い紙くず[3925kcal/k
g]を専焼させた場合の最大焼却量が2723kg/hとなることから
(甲3,乙14の2),排ガス中のダイオキシン類濃度につき前記1(2)
エ(ク)bの維持管理基準が適用される。)を十分に充足することができる
というべきである。
(ア)試料採取日時平成20年3月14日午後1時05分から午後5
時05分まで
測定結果0.01
試料採取者I株式会社(以下「I」という。)
分析実施者株式会社J(以下「J」という。)
(イ)試料採取日時同月15日午後1時05分から午後5時25分ま
で
測定結果0.01
試料採取者I
分析実施者J
(ウ)試料採取日時同月26日午前10時から午後2時まで
測定結果0.0016
試料採取者愛知県環境調査センター
分析実施者同上
(エ)試料採取日時同月28日午後1時から午後5時まで
測定結果0.003
試料採取者財団法人岐阜県公衆衛生検査センター(以下「岐阜県
公衆衛生検査センター」という。)
分析実施者株式会社K(以下「K」という。)
(オ)試料採取日時同年9月17日午後1時02分から午後5時07
分まで
測定結果0.00065
試料採取者岐阜県公衆衛生検査センター
分析実施者K
(カ)試料採取日時同年10月7日午後2時20分から午後4時20
分まで
測定結果0.00067
試料採取者岐阜県公衆衛生検査センター
分析実施者K
(キ)試料採取日時同月8日午前10時30分から午後2時44分ま
で
測定結果0.00065
試料採取者愛知県環境調査センター
分析実施者同上
(ク)試料採取日時同月14日午後0時39分から午後4時39分ま
で
(廃プラスチック類専焼時)
測定結果0.0048
試料採取者I
分析実施者L株式会社
イこれに対し,原告らは,①試運転期間中に投入される廃棄物は,その種
類,性状及び混合割合があらかじめ十分に調整されており,対応が容易で
あること,②二次バーナーを強力に焚いてガス温度を通常より高く維持す
れば燃焼時のダイオキシン類の合成を抑制できること,③バグフィルター
に使用する活性炭及び消石灰の投入量を増やせば,排ガス中の有毒物の除
去率を大きく上げることができることから,上記の測定結果が全く信頼で
きない旨主張する。証人Fも,平成20年3月14日のダイオキシン類測
定に対し意図的に二次室出口温度が上げられており,測定結果が信頼でき
ない旨証言し,その旨の意見書(甲153)を提出している。
(ア)①の点について
なるほど,試運転に供する廃棄物の組成と量は試運転計画書において
あらかじめ設定されており(乙159,175),被告は計画に沿って
廃棄物を用意し,これを破砕し,混合することによって廃棄物の組成を
十分に調整することができる。しかし,廃棄物の組成が判明しているか
らダイオキシン類の生成を抑制できるというものではなく,後記(イ)の
とおり,ダイオキシン類の生成を抑制するためには,燃焼を安定化させ
て不完全燃焼を防ぐことが重要な要素の1つとなるところ,試運転のよ
うに廃棄物の組成と量があらかじめ設定されていない場合であっても,
被告は破砕可能な廃棄物を投入前に破砕処理し,均一に混合することと
しているのであるから(前記1(3)イ(エ)a),これによって廃棄物の
混合比率のばらつきをなくした上で本件炉に投入することが可能であり,
燃焼の安定化を図ることができるというべきである。また,被告は,本
格稼働の運転状態と試運転の運転状態が異なることを想定して廃プラス
チック類の専焼テストを行い,前記ア(ク)のとおりその際にもダイオキ
シン類濃度の測定を行っているのであるから,①の点が測定結果の信頼
性を否定する理由にはならないというべきである。
(イ)②の点及び証人Fが指摘する点について
なるほど,平成20年3月14日の排ガス温度のグラフから,二次室
出口温度の下限が900℃程度で推移していたものが,午後3時ころか
ら午後4時ころにかけて炉内上部温度,二次室出口温度がともに上昇し,
二次室出口温度の下限が1150℃以上に達し,午後5時ころから午後
6時ころにかけて炉内上部温度,二次室出口温度がともに低下し,二次
室出口温度の下限が900℃程度に戻るという温度変化が見てとれる
(乙151)。証拠を精査してもその原因は判然とせず,被告がダイオ
キシン類測定に対し意図的に温度を上げたとまでは推認できないものの
(意図的なものであれば試料採取時間の始期である同日午後1時05分
以前から温度を上げていてしかるべきである。),被告が本件施設の維
持管理計画において,炉内燃焼温度の管理値を850℃とし,850℃
前後で推移させることとしていることからして(前記1(3)イ(ウ)b),
二次室出口温度の下限が1150℃以上というのは,上記の管理値と比
べて200℃以上の著しい乖離であり,午後3時ころから午後6時ころ
に生じた一時的な現象であったとしても,本格稼働時に想定される通常
の燃焼状態とはかけ離れているといわざるを得ないから,本格稼働の際
にも排ガス中のダイオキシン類濃度が0.01ng−TEQ/N㎥程度
にとどまることの根拠として同日の測定結果を援用することは相当でな
いというべきである。
もっとも,証拠(乙185)並びにFの意見書(甲28),Mの意見
書(甲126)及びHの意見書(乙167)に示されたダイオキシン類
の生成に関する意見を総合すると,ダイオキシン類の生成及び排出を抑
制するためには,<ア>廃棄物の焼却において安定した燃焼を図り,不完
全燃焼を回避することにより,ダイオキシン類の合成やその前駆物質の
生成を抑制すること,<イ>燃焼ガスをできるだけ早く200℃以下に冷
ますことにより,ダイオキシン類の再合成を抑制すること,<ウ>バグフ
ィルターに代表される高度な集じん装置により,生成されたダイオキシ
ン類を吸着・除去することがとりわけ重要であることが認められる。そ
うすると,二次バーナーを強力に焚いてガス温度を通常より高く維持す
ることは,二次燃焼室において未燃ガスを燃焼し尽くし,不完全燃焼を
回避することにつながるため,ダイオキシン類の排出抑制の1つの要素
になるということができるものの,単純に燃焼ガス温度を上げるだけで
大幅な排出抑制が可能になると考えることはできない。そして,上記の
とおりダイオキシン類濃度の測定は8回にわたり行われているところ,
平成20年3月26日の排ガス温度のグラフでは,午前10時から午後
2時ころまでの間,二次室出口温度の下限が800℃,平均が850℃
ないし900℃程度で推移し,同月28日の排ガス温度のグラフでは,
午後1時ころから午後5時ころまでの間,二次室出口温度の下限が80
0℃,上限が100℃程度,平均が900℃程度で推移していることが
認められる(乙157)。これらの時間帯には二次バーナーを強力に焚
いてガス温度を通常より高くしていたとは認められないにもかかわらず,
ダイオキシン類濃度の測定結果が上記のとおり維持管理計画値を大幅に
下回るものとなっていることからして,少なくとも,二次バーナーを焚
いてガス温度を通常より高くしなかった場合に維持管理基準値を超える
ダイオキシン類の排出につながる蓋然性は認められないというべきであ
る。むしろ,本件施設においては,<ア>安定した燃焼,<イ>燃焼ガスの
急冷及び<ウ>バグフィルターによるダイオキシン類の除去が全体として
十分に機能しているために,ダイオキシン類の排出抑制が達成できてい
ると見るのが自然であり,かつ相当と考えられる。
(ウ)③の点について
この点に関し,原告らは,被告が平成13年5月の採算計画書(乙1
4の22)において廃棄物1t当たり28.33kgの消石灰を,平成
19年5月の採算計画書(乙145)において廃棄物1t当たり38.
89kgの中和薬剤(消石灰,活性炭及びろ過助剤)を使用する計画に
なっているところ,第3回試運転に係る試運転結果報告書(乙179)
によれば,試運転中には平均して廃棄物1t当たり62.78kgの消
石灰を使用しており,消石灰については当初の計画の倍以上の量を使用
している旨指摘する。
しかし,廃棄物が投入されない余熱動作中や停止サイクル中であって
も,排ガスがバグフィルターを通過する限り中和薬剤は投入されるので
あるから,廃棄物の重量当たりの使用量で整理するのは相当でなく,被
告が採算計画書において稼働時間当たりの使用量を定めているように
(乙145の8頁),稼働時間当たりの使用量で議論をするのが相当で
ある。
そして,証拠(乙14の2の7−1−14頁,乙14の5)及び弁論
の全趣旨によれば,被告は,二酸化硫黄(SO2)との反応に必要な消
石灰の量を4.2kg/h,塩化水素(HCl)との反応に必要な消石
灰の量を21.3kg/hと算出した上,反応上の安全効率を考慮して
使用消石灰量を計算上反応に必要な量の200%に当たる51.0kg
/h{(4.2+21.3)×2=51.0}と決定したこと,活性炭投入量の適正
水準が0.0002kg/N㎥(200mg/N㎥)とされていること
から,これに稼働時間当たり湿り排ガス量の最大値である3万8332
N㎥/hを乗じて,活性炭の投入量を7.7kg/hと算出し,近似す
る8kg/hと決定したこと,ろ過助剤については,適正投入量を0.
00015kg/N㎥(0.15g/N㎥)とし,これに稼働時間当た
り湿り排ガス量の最大値である3万8332N㎥/hを乗じて,ろ過助
剤の投入量を5.7kg/hと算出し,近似する6kg/hと決定した
こと,そうすると,投入薬剤量の合計は65kg/h(51.0+8+6=6
5)となるが,実際に投入される薬剤が,あらかじめ消石灰80%,活
性炭10%,ろ過助剤10%の比率で混合された中和薬剤であることか
ら,ここでも安全効率を若干考慮して,中和薬剤(混合)の使用量を平
均70kg/hと決定したことが認められる。他方,第3回試運転にお
いてダイオキシン類濃度が測定された平成20年9月17日の中和薬剤
投入量は2110kg,同年10月7日の中和薬剤投入量は2079k
g,同月8日の中和薬剤投入量は2110kg,同月14日の中和薬剤
投入量は1460kgであると認められ(乙179の4−1項),稼働
時間当たりの中和薬剤投入量は,同年9月17日が87.9kg/h,
同年10月7日が86.6kg/h,同月8日が87.9kg/hとな
る(この3日については24時間連続して排ガスが発生していたのに対
し,平成20年10月14日については24時間連続して本件施設を稼
働させていたわけではないと認められることから(乙179の3−2
項),同日の稼働時間当たりの中和薬剤投入量を算定することはできな
い。)。また,第3回試運転において中和薬剤投入量が最大となったの
は同月9日の2136kgであると認められ(乙179の4−1項),
同日の稼働時間当たりの中和薬剤投入量は89.0kg/hとなる。そ
うすると,計画された中和薬剤使用量が平均70kg/hであるのに対
し,実際には86.6kg/hないし89.0kg/h投入されている
こととなるが,これについては,中和薬剤を付着させるろ布が,累計使
用時間が短く,比較的新しいものである場合には,ろ布表面の中和薬剤
が払落し動作によることなく剥離,脱落してしまう割合が高いため,一
定の薬剤層を保つために2割ないし3割程度多めに中和薬剤を投入して
おく必要があるという説明がなされており,ダイオキシン類測定に対し
て中和薬剤の投入量を増やしたと認めるには足りないというべきである。
仮に,被告が計画どおり70kg/hの中和薬剤を投入するにとどま
った場合を想定しても,活性炭によるダイオキシン類除去率にそれほど
有意な差は認められないから,上記の測定結果が全く信頼できないとの
評価は当たらないというべきである。けだし,89.0kg/hの中和
薬剤を投入した場合の排ガス1N㎥当たりの活性炭投入量が232mg
/N㎥{89,000,000(mg/h)×0.1÷38,332(N㎥/h)=232(mg/N
㎥)}となるのに対し,70kg/hの中和薬剤を投入した場合の排ガ
ス1N㎥当たりの活性炭投入量は183mg/N㎥{70,000,000(mg/
h)×0.1÷38,332(N㎥/h)=183(mg/N㎥)}となるところ,証拠
(乙14の5)によれば,活性炭投入量とダイオキシン類除去率との相
関関係は159mg/N㎥を超える辺りからそれほど顕著ではないこと
が認められるからである。ここで3割の中和薬剤がろ布から剥離,脱落
して機能しないと仮定すると,89.0kg/hの中和薬剤を投入した
場合の排ガス1N㎥当たりの活性炭実質投入量が162mg/N㎥,7
0kg/hの中和薬剤を投入した場合の排ガス1N㎥当たりの活性炭実
質投入量が128mg/N㎥となるが,証拠(乙14の5)によれば,
活性炭投入量が162mg/N㎥のときダイオキシン類除去率は93%
程度,活性炭投入量が128mg/N㎥のときダイオキシン類除去率は
85%程度であることが認められる。そうすると,89.0kg/hの
中和薬剤を投入した場合と70kg/hの中和薬剤を投入した場合とで
吸着・除去されずに残るダイオキシン類の量にはせいぜい2倍程度の開
きしかないことになり,ダイオキシン類濃度の測定値の開きも2倍程度
にとどまるといえるから,上記の測定結果が全く信頼できないとの評価
は当たらないというべきである。
(エ)以上から,原告らの上記主張は採用できない。
(8)CO濃度について
ア第3回試運転中の平成20年10月8日の行政検査において,CO濃度
の1時間平均値が最大で106ppmとなり,維持管理基準値を超過した
ことは前記認定のとおりであり,その具体的な状況は,愛知県環境調査セ
ンター所長の報告書(甲185の4)に示されている。
この点に関し,被告は,本件施設に常設されたCO濃度計の測定結果で
はCO濃度の1時間平均値が100ppmを超過していないことなどを挙
げて,愛知県の測定結果に正確性が担保されているか疑問である旨主張す
るが,愛知県の測定機器は測定レンジが5000ppmまであり,かつ,
10秒ごとにCO濃度を計測できる高性能な機器であることが認められる
上(甲185の4),その校正作業や測定方法に問題があったことを認め
るに足りる証拠はないから,上記主張は採用できない。
また,被告は,排ガス中のCO濃度とダイオキシン類濃度とは相関関係
がなく,CO濃度の超過がダイオキシン類の排出に直結するものではない
旨主張し,これに沿うHの意見書(乙187),社団法人全国産業廃棄物
連合会中間処理部会排出基準策定技術検討会幹事2名の論文(乙185)
及びNの解説書(乙189)を提出している。確かに,ダイオキシン類や
その前駆物質がバグフィルター等の集じん装置によるガス処理過程におい
て低減されるのに対し,一酸化炭素はガス処理過程において低減されない
ため,CO濃度とダイオキシン類濃度との相関関係は非常に弱いとされて
おり(乙189),両者の相関関係が弱いことを示すデータも存在する
(乙185)。しかし,不完全燃焼を回避することにより,ダイオキシン
類の合成やその前駆物質の生成を抑制することがダイオキシン類濃度の低
減のための重要な要素の1つであることは前示のとおりであって,いかな
る燃焼状態が生じていたとしても集じん装置によるガス処理のみによって
ダイオキシン類濃度の低減が達成できるものとは考え難い上,こうした焼
却炉におけるダイオキシン類の一次生成に関してはCO濃度が有効な指標
となると認められるから(乙189),CO濃度の超過を全く問題にする
必要がないことにはならないというべきである。被告自身,高濃度の一酸
化炭素が発生するような不完全燃焼の下でダイオキシン類やその前駆物質
が合成されやすいことが確立された科学的知見であることについては否定
しておらず,また,平成9年5月26日に廃棄物処理基準等専門委員会が
まとめた調査結果(甲197)によれば,排ガス中のCO濃度が高くなる
とダイオキシン類濃度も高くなり,特にCO濃度が100ppm以上にな
ると正の相関関係が強くなることを示すデータが存在している。そして,
「排ガス中のCO濃度を100ppm以下とすること」が維持管理基準に
盛り込まれた趣旨は,常時測定をすることが不可能なダイオキシン類濃度
に代わる代替的指標として,CO濃度を連続的に測定・記録し,これを1
00ppm以下に抑えるにより,ダイオキシン類の生成につながる不完全
燃焼を防止することにあると解されるところ,上記の観点を踏まえると,
これを単なる代替的指標として軽視すべきでなく,CO濃度の点も含め,
継続的に維持管理基準を充足できることを被告において立証しなければ,
本件施設から相当量のダイオキシン類が排出されることにより,原告らの
受忍限度を超えてその生命の安全・身体の健康が侵害される蓋然性がある
ことが事実上推定されることに変わりはないというべきである。
そこで,維持管理基準値を超過するCO濃度1時間平均値が計測された
事実をもって,本件施設が構造基準に適合し,かつ,被告により不適正な
維持管理がなされない限り,継続的に維持管理基準を充足することができ
るという前記の一応の推認が覆えるか否か,以下検討する。
イ前記認定のとおり,被告は愛知県の平成20年12月25日付け改善命
令を受け,平成21年1月19日,愛知県に対し改善計画書(乙194)
を提出したところ,これによれば,CO濃度の瞬時値が100ppmを超
えるピークを示す場合には,炉内温度が上昇し酸素濃度が低下する傾向に
あり,過燃焼により酸素不足に陥った場合と,炉内温度が低下し,酸素濃
度が上昇する傾向にあり,燃焼が不活発化した場合の2つの場合があるこ
とが認められ,被告は,それぞれの場合にCO濃度の瞬時値の上昇を防止
できなかった原因とその対策を次のとおりまとめている。また,証拠(乙
195)によれば,被告は,その対策に係る工事を行った上で愛知県に軽
微変更届を提出することを予定していることが認められる。
(ア)過燃焼によるCO濃度の上昇について
(原因1)
抑制運転モードへの変更による投入量の抑制が実施上遅れていた(変
更作業に4分ないし5分程度要していた。)。
(対策)
抑制運転④のモード(抑制運転③の速度[900kg/h]による間
欠運転(75%))に2回連続で,ないしは1時間のうちに3回入る場
合に,各モードに設定してある投入速度を高発熱量のごみ用に変更する
という作業を,1分以内に行うため,中央システム盤に移管する。
(原因2)
上段送風機の風量調整による二次燃焼空気量の調整が間に合っていな
かった(変更作業に1分ないし2分程度要していた。)。
(対策)
a酸素濃度の降下を伴いながらCO濃度(瞬時値)が上昇し,150
ppmを超えた場合を1つの判断基準として,上段送風機の送風量を
インバーターで増量調整する作業を行っていたところ,判断基準を変
更し,CO濃度(瞬時値)が100ppmを超えた場合に上記作業を
行うようにする。
b酸素濃度が10%以下となった場合,又は酸素濃度の降下を伴いな
がらCO濃度(瞬時値)が上昇し,100ppmを超えた場合に,上
段送風機の送風量をインバーターで増量調整するという作業を,25
秒以内に行うため,中央システム盤に移管する。
(イ)燃焼の不活発化によるCO濃度の上昇について
(原因1)
抑制運転モードによる投入量の抑制が効きすぎた場合に投入速度を基
に戻す変更が実施上遅れていた(変更作業に4分ないし5分程度要して
いた。)。
(対策)
温度降下時に炉内上部温度と炉内下部温度の差が50℃以下になるこ
とが2回連続,ないしは直近の1時間のうちに3回現れた場合に,投入
速度を1段階低発熱量用に変更するという作業を,1分以内に行うため,
中央システム盤に移管する。
(原因2)
破砕不良の廃棄物が送り込まれ,最大20kg程度の廃棄物が1回に
まとまって投入される現象が生じていた。
(対策)
a定量切り出し装置に層厚調整プッシャーを設け,送り出す破砕物の
層厚を確実に100mm前後とする。
b計量器内の破砕物重量が所定重量近くになった場合の定量切り出し
装置の減速量を−40%に変更し,所定重量を超えないようにする。
c破砕物の長辺が200mmを超えるものの割合がコンベアー(破砕
機からの排出用)上の目視により30%以上認められた場合には,破
砕機の能力の範囲内で2度破砕する。
d計量器内の破砕物重量が所定重量を30%以上超えた場合には「計
量オーバー」の警報を出し,注意を喚起することにより,状況に応じ
て投入の一時停止,減速など必要な対策を取れるようにする。
(原因3)
燃焼の不活発化を補う各バーナーの燃油量調整が遅れていた(変更作
業に1ないし2分程度要していた。)。
(対策)
酸素濃度とCO濃度とが同時に急上昇する状況において,昇温バーナ
ー,廃油バーナー及び二次バーナーの基準となる燃油量を増量するとい
う変更作業を,30秒以内に行うため,中央システム盤に移管する。
ウ上記イ(ア)の原因1が過燃焼につながること,同原因2がCO濃度の上
昇につながること,上記イ(イ)の原因1ないし3が燃焼の不活発化につな
がることは容易に理解できるところであり,被告の対策の主眼は,これま
で行っていた各種の対策に係る変更作業に要する時間を短縮することにあ
るといえる。そして,証拠(甲185の4,乙186,194)によれば,
行政検査が行われた平成20年10月8日のCO濃度瞬時値を見ると,1
00ppmを度々超過しており,ピークを記録した時間帯の中には500
0ppmに達するものもあるが,ピークに達した後最長でも5分後には1
00ppm以下に戻っていること,ピーク及びその付近の時間帯を除いて
は,ほとんど1ないし20ppmという低い瞬時値で推移していることが
認められる。そうすると,いったんCO濃度瞬時値が上昇し,100pp
mを超えるピークが現れたとしても,被告が各種の対策を講じたことによ
り比較的短時間のうちに100ppm以下に戻すことができていたと見る
のが自然であるから,被告が更に上記イ(ア)及び(イ)記載の対策を講じ,
各種の変更作業に要する時間が短縮されれば,CO濃度瞬時値が100p
pmを超える時間帯が短縮され,あるいはピークに達する瞬時値が低く抑
えられることが推認されるというべきである。そして,ピーク及びその付
近の時間帯を除いては,ほとんど1ないし20ppmという低い瞬時値で
推移していることにかんがみると,100ppmを超えるピークが生じる
ことがあったとしても,それを1時間のうちに頻繁に生じさせないように
制御すれば,1時間平均値を100ppm以下に収めることは十分に可能
であると考えられる。
したがって,上記の対策を講じて適正に本件施設を稼働させた場合には,
CO濃度1時間平均値を100ppm以下にするという維持管理基準を充
足することは十分に可能であると認められるから,第3回試運転時に最大
106ppmのCO濃度1時間平均値が記録された事実をもって,本件施
設が構造基準に適合し,かつ,被告により不適正な維持管理がなされない
限り,継続的に維持管理基準を充足することができるという前記の一応の
推認を覆すには足りないというべきである(被告が今後試運転を再開した
場合において,上記対策を講じたにもかかわらず行政検査の際にCO濃度
1時間平均値が100ppmを超過するなどして,愛知県において,必要
な改善を講ずることが不可能であり,本件施設の維持管理が維持管理基準
に適合していないと判断するに至ったときには,設置許可処分の取消しが
なされることがあり得るが(廃棄物処理法15条の3第2項,15条の2
の6第1号。なお,甲182参照。),そのことは別論である。)。
エまた,原告らは,第2回試運転中の平成20年3月19日以降,ほぼ全
日にわたって基準値を大きく超える高濃度の一酸化炭素が発生しており,
これが本質的に本件炉の焼却方法の欠陥に起因するものである旨主張する。
なるほど,原告らの主張するとおり,同日から同月31日までの全日に
おいて,CO濃度1時間平均値が度々100ppmを超え,高いときには
500ないし600ppmに達する状況が生じていたことが見てとれる
(甲159,160)。しかし,甲159のCO濃度1時間平均値のグラ
フと乙172の1の7項とを対照すると,CO濃度1時間平均値が100
ppmを超過している時間帯は,運転開始時であったり,抑制運転のテス
ト(投入停止まで実施したときに炉温を維持できるかの検証)を行ってい
たり,停電時の停止テストを行っていたり,投入装置の異常を各種バーナ
ーで補うテストを行っていたり,投入装置の異常からシステムをサイクル
停止するテストを行っていたり,薬剤タンクが空になった場合にシステム
がサイクル停止に入るかどうかのテストを行っていたり,破砕物の投入が
停止された場合に三種類のバーナーの燃焼及び感染性廃棄物の投入によっ
て炉内温度を維持できるかどうかのテストを行っていたり,バーナーの燃
油量調整を行っていたり,あるいは,冷却水の炉床循環,廃油バーナーの
異常失火,昇温バーナーの異常等の不具合が実際に生じたためにシステム
をサイクル停止するなどした時間帯であることが認められる。加えて,被
告は,平成20年3月19日以前においては,CO濃度の1時間平均値を
CO濃度計から中央システム盤に取り込み,1時間平均値が75ppmを
超えた場合に警報が鳴るシステムに設定していたものを,同日以降,CO
濃度の瞬時値のデータを中央システム盤に取り込むようにしたこと,この
変更に伴い,1時間平均値が75ppmを超えた場合に警報が鳴るシステ
ムも作動しなくなったことが認められる(乙173,証人H)。そうする
と,同日から同月31日までの間にCO濃度1時間平均値が100ppm
を超過した原因は,上記のような各種のテストを行ったことや,装置の不
具合に対処してシステムをサイクル停止するなどしたことにあることは明
らかであり,本質的に本件炉の焼却方法の欠陥に起因するものとはいえな
い。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(9)1.8t/hの処理能力まで焼却量が達していないことについて
原告らは,第3回試運転中100%稼働運転がなされた日においても,①
43.2t/日の処理量で廃棄物を焼却することができていない点,②廃棄
物の発熱量ベースで1.8t/hの処理能力まで廃棄物の焼却をすることが
できている時間帯が少ない点で,1.8t/hの処理能力まで焼却量が達し
ておらず,本件炉の焼却炉としての安全性が証明されたとはいえない旨主張
する。
しかし,証拠(乙179の2−3項,3−2項)によれば,第3回試運転
中の平成20年9月17日には24時間の稼働運転が行われ,同日午前10
時10分から午後0時10分まで,午後1時02分から午後5時07分まで
にそれぞれ排ガスの試料採取が行われているところ,同日の廃棄物処理量
(合計)は,平均値が1737.5kg/hであり,午前10時から午前1
1時までにつき1713kg,午前11時から午後0時までにつき1876
kg,午後0時から午後1時までにつき1748kg,午後1時から午後2
時までにつき1886kg,午後2時から午後3時までにつき1833kg,
午後3時から午後4時までにつき1931kg,午後4時から午後5時まで
につき1941kgであったことが認められる。同日のダイオキシン類濃度
の測定結果は,前記(7)アで認定したとおり0.00065ng−TEQ/
N㎥であり,他の物質についても維持管理基準値ないし維持管理計画値を超
過した事実は認められない。そして,上記のように,廃棄物処理量がほぼ1
800kg/h,あるいは1800kg/hを超えている時間帯に測定が行
われていることからすると,1800kg/hでの処理をした場合の安全性
が確認されていないとはいえず,1800kg/hでの処理が維持管理基準
値の超過に結び付くものとは認められない。
そうすると,原告らの主張する点から,本件施設を稼働させた場合に維持
管理基準に違反する事態が生ずることを推認することはできない。したがっ
て,原告らの上記主張は採用できない。
(10)排ガス量の問題について
原告らは,本件炉の設計計算において湿り排ガス量が3万8332N㎥/
hとされているところ,1.8t/hの廃棄物を実際に焼却した場合には,
湿り排ガス量がこれを超えることが予測され,その場合,バグフィルターで
ダイオキシン類を十分に除去することができなくなる旨主張する。
しかし,証拠(乙179の2−3項)によれば,第3回試運転中の平成2
0年9月17日午前10時10分から午後0時10分までの湿り排ガス流量
は2万8000N㎥/h,同日午後1時07分から午後5時07分までの湿
り排ガス流量は2万6500N㎥/hであったこと,その測定位置は煙突の
中間点であることが認められる。前記(9)で説示したとおり,これらの時間
帯の廃棄物処理量はほぼ1800kg/hであるか,あるいは1800kg
/hを超えていることからすれば,排ガス流量が単純に廃棄物処理量に比例
するわけではないと考えることができ,1800kg/hの廃棄物を焼却処
理した場合に想定量を超える量の排出ガスが発生し,バグフィルターの処理
能力を超えるとは認められない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(11)HCl濃度について
HCl濃度は,維持管理基準に含まれていないが(ただし,大気汚染防止
法3条1項,同法施行規則5条1号の規定により,700mg/N㎥が排出
基準と定められている。),被告は維持管理計画において排ガス中のHCl
濃度を150mg/N㎥以下とすることとしており(甲1別紙9),本件施
設の維持管理に関わる事項であるから,ここで検討を加えておく。
第2回試運転において維持管理計画値を超過するHCl濃度が計測された
ことから,愛知県が改善命令を発令し,これに対し被告が対策を講じたこと
は前記1(5)イで認定したとおりであるから,問題は,第3回試運転の結果
から見て,被告が本件施設を稼働させた場合に維持管理計画値を超過するお
それが大きいといえるかどうかである。
この点につき,原告らは,第3回試運転において,極めて高いHCl濃度
が計測されており,所々で維持管理計画値だけでなく,法規制値を超過して
いる旨主張する。
しかし,証拠(乙178,179の3−1項)によれば,排ガス中のHC
l濃度が75ppm以上となったときにHCl濃度警報が作動するところ,
第3回試運転中に同警報が作動した時間帯のほとんどは測定機器の自動校正,
手動校正又は校正確認が行われた時間帯であり,これを除くと,同警報が作
動したのは,平成20年10月12日午後4時19分03秒から20分13
秒までの時間帯,同月14日午前9時31分48秒から33分18秒までの
時間帯及び同日午前11時04分18秒から05分18秒までの時間帯のみ
であることが認められる。
そして,証拠(乙178,196)によれば,HCl濃度の測定機器につ
いては電極測定感度及び精度を一定に保つために校正作業(等価液を吸引さ
せて調整をする作業)を行う必要があること,校正作業には低濃度側が12
ppm,高濃度側が800ppmの等価液が使用されており,校正作業中に
は800ppmを超えるHCl濃度が計測されることが認められる。したが
って,校正作業が行われている時間帯に高濃度のHCl濃度が計測され,H
Cl濃度警報が作動することは,廃棄物の焼却により発生した排ガスの影響
によるものでないと考えられるから,問題はない。
また,平成20年10月12日午後4時19分03秒から20分13秒ま
での時間帯については,同日4時以降廃棄物が投入されておらず,システム
を停止させている時間帯であったことが認められる(乙179の3−2項)。
そうすると,通常運転時における維持管理とは無関係であるから,この時間
帯について維持管理計画値の超過を議論するのは適切でない。
さらに,残りの時間帯(同月14日午前9時31分48秒から33分18
秒までの時間帯及び同日午前11時04分18秒から05分18秒までの時
間帯)のHCl濃度については,明確な数値は判然としないが,グラフ上,
いずれの時間帯もせいぜい80ppmであったことが読み取れる(乙179
の3−2項)。そうすると,維持管理計画値を超過していたとは認められな
い。
したがって,原告らの上記主張は採用できず,被告が本件施設を稼働させ
た場合に維持管理計画値を超過するおそれが大きいとはいえない。
(12)小括
以上によれば,原告らが本件施設の構造及び設備や試運転結果に基づいて
指摘する種々の問題点(前記(2)ないし(11))は,いずれも,構造基準及び
維持管理基準の充足性を妨げる事由には当たらないというべきであり,前記
(1)で指摘した事情に照らすと,本件施設が構造基準に適合すること,及び,
被告により不適正な維持管理がなされない限り,継続的に維持管理基準を充
足することができることが推認できる。
4本件施設の維持管理の適正について
そこで,次に,本件施設の維持管理の適正につき,被告が本件施設の処理能
力を超えて廃棄物を焼却するなどの不適正な操業ないし維持管理を行い,維持
管理基準に違反するような事態が生じないかという観点から検討する。
(1)経理的基礎について
ア前記1(2)イのとおり,平成12年の廃棄物処理法及び同法施行規則改
正により,申請者が経理的基礎を有していることが産業廃棄物処理施設の
設置許可の要件の1つとして追加されたところ,これは,設置者が倒産し
た場合にとどまらず,設置者の経理的な基礎が不十分である場合には,産
業廃棄物処理施設の設置及び維持管理には多額の資金を要することなどに
かんがみ,不適正な操業(当該産業廃棄物処理施設における廃棄物の処
理)がなされるおそれが大きいことから,これを防止する目的に出たもの
と解される。
そうすると,産業廃棄物処理施設の設置者又は産業廃棄物処理業者(以
下「産業廃棄物処理業者等」といい,単に「処理業者等」ということもあ
る。)が経理的基礎を欠くことは,当該産業廃棄物処理業者等によって不
適正な操業が行われ,維持管理基準に違反するような事態が生ずることを
推認させる間接事実となり得る。
もっとも,ある処理業者等につき,単に経営上の不安定要素があるから
といって,直ちに不適正な操業がなされることが想定されるものでなく,
当該処理業者等において,予定された通常の運転管理方法に従って施設を
維持管理し,計画上の処理量の範囲内で廃棄物を処理したのでは,採算が
とれず,いずれ経営が成り立たなくなることが見込まれる場合や,当該処
理業者等が兼業している他の事業で赤字が見込まれ,産業廃棄物処理業で
その欠損を補う必要がある場合等において,企業の経営を立ち行かせるた
めに違法又は不適正な操業を行ってもやむを得ないという判断が,法令に
従って適正に操業を行うべき要請に先行したときに初めて違法又は不適正
な操業がなされるものと考えられる。
そうすると,不適正な操業がなされることが推認できる程度に経理的基
礎を欠くというためには,当該処理業者等の事業計画が採算性のないもの
である場合や,現に当該処理業者等が他の事業で大幅な欠損を生じ,その
回復が見込まれない状態にある場合,あるいはそのような状態に陥ること
が見込まれる場合等,当該処理業者等において継続的に適正な操業を行う
ことがおよそ期待できないような経理的事情がある場合であることを要す
るというべきである。
イ原告らは,被告の産業廃棄物処理業における採算計画が不合理である旨
主張するので,まずこの点につき検討する。
(ア)廃棄物の処理単価について
原告らは,被告が廃棄物の処理単価を36.8円/kgないし40.
9円/kgとして採算計画を立てているところ,そのような処理単価で
の受入れが実現可能であることを示す具体的な根拠がなく,処理単価が
不当に高額に設定されている旨主張する。
証拠(乙132)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件施設の竣
工に先立ち,本件施設における廃棄物の受入れに関し,搬入元となる予
定の事業者との間で,仮の契約として「覚書」及び「産業廃棄物処理委
託契約書」を取り交わしたこと,その際,廃棄物の種類別の処理単価を,
廃油につき26円/kg,木くずにつき26円/kg,廃プラスチック
類につき40円/kg,紙くずにつき30円/kg,繊維くずにつき3
0円/kg,金属くずにつき26円/kg,ガラスくず及び陶磁器くず
につき26円/kg,汚泥につき35円/kg,動植物性残さにつき4
5円/kgと設定したことが認められる。
また,前記3(5)ア(ア)で認定したとおり,被告は,焼却する廃棄物
の種類別処理量(合計は1800kg/h)を,廃油につき180kg
/h,木くずにつき670kg/h,廃プラスチック類につき630k
g/h,紙くずにつき59kg/h,繊維くずにつき12kg/h,金
属くずにつき5kg/h,ガラスくず及び陶磁器くずにつき4kg/h,
汚泥につき50kg/h,動植物性残さにつき50kg/h,感染性産
業廃棄物につき140kg/hと計画している。
そこで,上記の計画を前提に処理単価の平均値を試算すると(感染性
産業廃棄物の処理単価については,採算計画書(乙145)の予測値で
ある80円/kgを採用する。),36.0円/kg(26×180/1,800
+26×670/1,800+30×630/1,800+30×59/1,800+30×12/1,800+
26×5/1,800+26×4/1,800+35×50/1,800+45×50/1,800+80×14
0/1,800=36.0)となる。
上記の単価設定を前提とすれば,処理単価の平均値を36.0円/k
gから引き上げるためには廃プラスチック類,動植物性残さ及び感染性
廃棄物の処理量を相対的に増やす必要があり,被告は,採算計画上,標
準価格帯の廃棄物(証拠(乙132)によれば,廃プラスチック類,廃
油,汚泥及び動植物性残さを指すものとうかがわれる。)の割合を1年
目42%,2年目55%,3年目60%,4年目65%,5年目70%
と順次引き上げ,高価格帯の廃棄物(感染性産業廃棄物)の割合を1年
目8%,2年目以降10%としており(乙145),現に,標準価格帯
の廃棄物及び高価格帯の廃棄物の処理量を増やしていくための営業活動
に取り組むことを予定していることが認められる(乙132)。そうす
ると,36.8円/kgないし40.9円という価格帯は,被告の営業
活動次第では実現可能なものと考えられるから,この点で採算計画があ
ながち不合理なものとはいえない。
また,仮に処理単価が36.0円/kgであり,2年目以降も増加し
なかった場合を想定して採算計画書の数値を置き換えても,2年目以降
営業利益がプラスとなり,3年目以降経常利益もプラスとなるため,本
件施設における産業廃棄物処理業の事業計画は,十分に採算性があるも
のと認められるから,仮に採算計画どおりに36.8円/kgないし4
0.9円という価格帯を実現できなかったとしても,問題は生じないと
考えられる。
(イ)43.2t/日の処理量の実現可能性について
原告らは,本件施設の試運転において1日当たり43.2tの廃棄物
を処理した日がないことから,本件施設を稼働させた場合に排ガスに係
る各種の測定値を維持管理計画値あるいは維持管理基準値以下に抑える
ようとすれば,採算計画書どおり廃棄物の受入れ及び焼却をすることが
不可能である旨主張する。
しかし,被告は,廃棄物の処理量について,1年目は処理能力(43.
2t/日)の75%,2年目及び3年目は処理能力の80%,4年目以
降は処理能力の85%として採算計画を立てていることが認められ(乙
145),そもそも43.2t/日の処理量で本件施設を稼働させよう
としていないのであるから,原告らの指摘する点は被告の採算計画に影
響を及ぼすものでない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(ウ)燃料費について
原告らは,常に二次バーナーを作動させ続けなければ必要な炉内温度
を保つことができず,計画外の燃料費が生ずるところ,被告の採算計画
書ではこれが考慮されていない旨主張する。
しかし,本件炉において,適正量の廃棄物を投入して燃焼させた場合
に,二次バーナーを頻繁に作動させることなく800℃以上のガス温度
を保つことができること,及び,試運転時に,排ガス温度を800℃以
上に保つために二次バーナーや昇温バーナーをほぼ常態的に作動させて
いるような状態にあったわけではないことは,前記3(6)イ及びウで説
示したとおりであり,採算計画が狂うほどに多額の燃料費が生ずるとは
認め難いから,原告らの上記主張は採用できない。
(エ)中和薬剤の使用量について
原告らは,試運転において,中和薬剤が採算計画書における使用量よ
りも多く使用されていることから,中和薬剤の年間費用も増加し,被告
の採算計画が大きく狂う旨主張する。
しかし,前記3(7)イ(ウ)で説示したとおり,中和薬剤の使用量につ
いては稼働時間当たりの使用量で議論をするのが相当であるところ,計
画された中和薬剤使用量が平均70kg/hであるのに対し,第3回試
運転において24時間連続的に運転を実施した日の稼働時間当たりの中
和薬剤投入量は86.6kg/hないし89.0kg/hであったが,
これについては,中和薬剤を付着させるろ布が,累計使用時間が短く,
比較的新しいものである場合には,ろ布表面の中和薬剤が払落し動作に
よることなく剥離,脱落してしまう割合が高いため,一定の薬剤層を保
つために2割ないし3割程度多めに中和薬剤を投入しておく必要があっ
たという説明がなされている。
そうすると,累計運転時間が一定程度(被告の説明によれば600時
間程度)経過すれば,薬剤投入量は,70kg/h程度に抑えることが
できると考えられ,採算計画が狂うほどに中和薬剤の年間費用が増加す
るとは認め難い。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(オ)廃棄物の2度破砕について
原告らは,被告が新たに2度破砕という処理工程を追加したことから,
電気費,人件費等の費用が大きく変わり,2度の破砕に要する時間から,
処理可能量も当然変わるはずであるが,これらの点が被告の採算計画に
全く反映されていない旨主張する。
しかし,2度破砕の対策は,前記3(8)イで認定したとおり,「破砕
物の長辺が200mmを超えるものの割合がコンベアー(破砕機からの
排出用)上の目視により30%以上認められた場合には,破砕機の能力
の範囲内で2度破砕する」というものであり,新たな破砕機を設けたり,
新たな人員を配置するものではないから,電気費及び人件費が大幅に増
えるとは認められない。また,破砕物の長辺が200mmを超えるもの
の割合が目視により30%以上認められた場合という一時的な場合に講
ずる対策であり,しかも破砕機の能力の範囲内で処理するのであるから,
これによって処理可能量が落ち込むものとも認められない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(カ)パチンコ遊技台のリサイクル環境の変化について
原告らは,パチンコ業界においてパチンコ遊技台のリサイクル率が上
昇する気運にあることから,被告が廃棄物として処理するパチンコ台が
減少し,被告の採算計画に狂いが生じる旨主張する。
しかし,そもそも現状のパチンコ遊技台のリサイクル率及びそれが上
昇傾向にあることを認めるに足りる的確な証拠がない上,被告は,被告
代表者が設立した株式会社O及び有限会社Pにおけるパチンコ及びスロ
ットマシンの遊技台のリサイクル事業の経験を通じて,リサイクルが進
んだとしても現状ではすべての部品がリサイクルされることにはならず,
当分の間は焼却処分を要する部品が生じると予測していることが認めら
れるから(乙31,56,130),仮にリサイクル率が上昇したとし
ても,直ちに本件施設における廃棄物の処理量に影響を及ぼすとは認め
難い。また,被告はパチンコ遊技台のうちプラスチック部品のみを焼却
処分の対象として想定しており,そのプラスチック部品の量も,本件施
設での焼却処理を計画している廃プラスチック類の10%程度にすぎな
いと予測しているのであるから(乙130),仮にリサイクル率の上昇
の伴い廃プラスチック類として焼却処分されるプラスチック部品の受入
量が減少したとしても,採算計画に大きな影響を及ぼすとは認められな
い。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(キ)以上によれば,採算計画書(乙145)に示された被告の産業廃棄
物処理業における採算計画が,全体として不合理なものとはいえないと
いうべきである。
ウ次に,被告の財務状況の観点から,継続的に適正な操業を行うことがお
よそ期待できないような経理的事情が存するか否か検討する。
(ア)証拠(甲27)によれば,平成12年の廃棄物処理法の改正により,
産業廃棄物処理施設の設置許可については,申請者の能力に関する要件
が追加され,旧厚生省から平成12年9月29日付けで,衛産79号通
知(甲27)が出されたことが認められる。そして,衛産79号通知の
4項「経理的基礎」の(6)では,「事業を的確かつ継続して行うに足り
る経理的基礎を有すると判断されるためには,利益が計上できているこ
と又は自己資本比率が3割を超えていることが望ましいものと考えられ
る」とされ,「利益が計上できているか否かについては過去3年程度の
損益平均値をもって判断することとし,欠損である場合にあっても直前
期が黒字に転換しているか否かを勘案して判断すること」とされている。
他方,証拠(乙180添付書類の7項)によれば,被告の経常利益は,
平成17年8月期において8億4308万6308円,平成18年8月
期において7億0614万7919円,平成19年8月期において6億
3678万6570円であることが認められ,過去3年の決算において
いずれも利益を計上していることが認められる。また,証拠(乙180
添付書類の7項)によれば,被告の自己資本比率は,平成17年8月期
において13.67%,平成18年8月期において12.72%,平成
19年8月期において12.02%であることが認められる上,上記認
定事実によれば,3期の経常利益の平均値は7億2867万3599円
となる。これを愛知県における審査の考え方(乙124)に当てはめる
と,直前期の自己資本比率が10%以上,直前3年間の経常利益平均値
がプラス,直前期の経常利益が黒字であり,原則として経理的基礎あり
と認定されることとなる。
さらに,中小企業診断士であるQの意見書(乙144)においても,
①収益性について,売上高対営業利益率及び売上高対経常利益率が業界
平均より高く良好な数値を維持しており,収益性の総合指標である経営
資本対営業利益率についても業界平均と比べて極めて良好な数値を維持
しているとされ,②安全性について,自己資本比率及び流動比率が低い
状態にあるが,債務償還年数及び借入金対月商倍率が業界平均より格段
に良く,金融機関の信用度が高く借入れの余力もあることから,安全を
多面的に分析する限り,財務基盤は健全であるとされている。
そうすると,被告の財務状況の観点から,その経理的基礎について法
律上問題は認められず,継続的に適正な操業を行うことがおよそ期待で
きないような経理的事情が存するとはいえないというべきである。
(イ)これに対し,原告らは,財務分析における各種の財務指標から,被
告は①借入金依存体質が顕著であり,②経営の安定性に欠け,③成長の
鈍化ないし収益性の低下が顕著であり,短期的な収益状況ないし財務状
況の改善が見込めない財務状況である旨主張する。
しかし,流動比率が低い点については,平成17年8月期に27.0
9%であったものが,平成18年8月期では65.45%,平成19年
8月期では53.48%となっていることが認められ(乙180添付書
類の第7項),平成19年度版TKC経営指標(甲158)によるパチ
ンコホール業の業界平均値である84.20%よりは低いものの,改善
傾向にあるといえる。そして,前示のとおり,債務償還年数及び借入金
対月商倍率がパチンコホール業の業界平均値より格段に良いことから,
金融機関の信用度が高く借入れの余力もあることされていることを考慮
すると,被告が資金繰りのつかないような困窮した状況に陥るとは考え
難い。
また,収益性の低下については,なるほど,被告の売上高対営業利益
率は,平成17年8月期に4.76%であったものが,平成18年8月
期では2.54%,平成19年8月期では2.65%となっていること,
売上高対経常利益率は,平成17年8月期に4.49%であったものが,
平成18年8月期では2.61%,平成19年8月期では2.35%と
なっていることが認められ(乙180添付書類の7項),平成17年8
月期と比べると低下してきている傾向にあるといえる。しかし,平成1
9年度版TKC経営指標(甲158)によるパチンコホール業の業界平
均値を見ると,売上高対営業利益率が2.0%,売上高対経常利益率が
2.0%であり,また,収益性の総合指標とされる経営資本対営業利益
率についても,被告のそれが平成18年8月期では15.13%,平成
19年8月期では15.02%となっているのに対し,19年度版TK
C経営指標によるパチンコホール業の業界平均値は5.3%であること
が認められる(甲158,乙180添付書類の7項)。そうすると,被
告の収益性はなお業界平均より良好な水準を維持しているといえる。こ
れに加えて,損益分岐点分析において被告の平成18年8月期の損益分
岐点比率が76%とされており(甲125),これは売上高が24%以
上減少した場合に初めて利益がマイナスになることを示している。そう
すると,被告の収益性はなお良好な水準にあるといえ,経常利益が赤字
になることが見込まれるわけでもない。
その他,原告らが財務分析に基づいて縷々主張する点は,被告が近い
将来,資金繰りのつかないような困窮した状況に陥ったり,パチンコ遊
戯場経営の部門で大幅な欠損を生じ,その回復が見込まれない状態に陥
ったりする現実的かつ具体的な危険を示すものではなく,継続的に適正
な操業を行うことがおよそ期待できないような経理的事情には当たらな
いというべきである。
(ウ)原告らは,証人Qが,その証言及び意見書(乙144)において,
各種の財務指標を赤字企業を含んだ同業者全体と比較していることにつ
き,財務状況の良い同業者と比較しなければ財務状況の位置付けが明ら
かにならず,比較の意味がないなどと論難する。
しかし,財務状態の良好な同業者と比較することは,被告が財務状態
の良好な事業者であることを前提に,良好な同業者の中での被告の位置
付けを明らかにする上では意味があろうが,ここで要求されているのは,
被告が同業者の中でも経理的基礎に欠けることのない良好な事業者とい
えるのかどうかという観点からの判断であるから,その判断をするに当
たって赤字企業も含む同業者全体と比較検討する手法をとるのはむしろ
当然のことであり,何ら不適切な手法とはいえない。
エ以上によれば,経理的な観点から,被告が本件施設の処理能力を超えて
廃棄物を焼却するなどの不適正な操業ないし維持管理を行うことを推認す
ることはできない。
(2)被告の人的体制について
ア証拠(甲101,乙146)及び弁論の全趣旨によれば,本件施設には
全体で14名の管理者,運転員,作業員等が配置されていること,管理者
は,事業所長1名(H),プラント管理者3名,廃棄物受入・搬出管理者
1名,定期点検主任(管理者)1名の計6名であり,これらの管理者は,
焼却炉メーカー(株式会社A)の技術者であったこと,夜間(午後5時な
いし翌日午前8時)には3名配置する体制をとっており,うち1名がプラ
ント管理者であることが認められる。
そうすると,本件施設は本件炉の設計段階から関与している技術者らに
よって管理運営されるものであり,その有する本件炉ないし傾斜回転床炉
に関する専門的な知識及び技能に基づいて,本件施設が適切に維持管理さ
れることが期待できるというべきである。とりわけ,事業所長であるHが
本件炉に関する専門的な知識及び技能を有していることは,同人の意見書
(乙122,125,126,135,140,167,171,173,
182,187)等の記載及び弁論の全趣旨から十分にうかがわれる。ま
た,Hらの技術者が,本件施設の操業の過程で問題が生じた場合に,原因
分析をし,対策を講ずるだけの知識及び技能を十分に備えていることにつ
いても,HCl濃度の維持管理計画値超過やCO濃度の維持管理基準値超
過に対する原因分析及び対策の内容(乙172の1,194。前記1(5)
イ(ウ),前記3(8)イ参照)等から推認されるところである。
加えて,証拠(乙177,178,179の3−1項)及び前記3(5)
ア(ア),前記3(8)イで認定した事実等を総合すると,本件施設の管理運
営については,CO濃度警報,HCl濃度警報,バグフィルター差圧警報
をはじめとする異常を感知した場合の各種警報が中央システム盤に表示さ
れるほか,酸素濃度,CO濃度(瞬時値)等の数値をリアルタイムで監視
し,中央システム盤等を通じて炉内の燃焼状態の変動に即座に対応できる
運転管理システムを整えていることが認められ,このような設備面でのバ
ックアップ体制が,少ない人員(夜間では3名)での運転管理を可能にし
ていると推認できる。
そうすると,被告の人的体制という観点からも,本件施設について不適
正な維持管理が行われ,維持管理基準に違反する事態が生ずることは容易
に想定し難いというべきである。
イもっとも,前記認定のとおり,傾斜回転床炉という炉形式を持つ施設が
本件施設の外に3つしかなく,焼却炉としての安全性を確認しうる実例が
少ないことに加え,被告が本件施設の試運転において,中和薬剤を飛散さ
せる事故や錆混じりの水滴を飛散させる事故を起こしていること,HCl
濃度の維持管理計画値超過やCO濃度の維持管理基準値超過等により2度
の改善命令を受けていること(証拠(甲179)によれば,試運転段階で
2度の改善命令を受けることが異例の事態として新聞報道されている。)
などに照らすと,原告らを含む周辺住民が本件施設の安全性につき不安や
危惧を抱くことにも十分な理由がある。
この点に関し,被告は,維持管理基準及び維持管理計画に従って本件施
設の維持管理をする法律上の義務を負うものであるが(廃棄物処理法15
条の2の2),その義務の遵守がより確実なものとなるためには,本件施
設が稼働された場合に,その操業状況が,行政機関を含む第三者により不
断に監視されることが重要であることはいうまでもなく,また,生命の安
全・身体の健康等に影響を受けうる立場にある周辺住民においては,その
操業状況について,情報の開示を受けるべき利益を有している(人格権侵
害のおそれが具体的に想定されうる場合には,人格権に基づく妨害予防請
求権として,情報の開示を請求しうる場合があると解するのが相当という
べきところ,本件施設は,操業状況によっては,人格権侵害のおそれが具
体的に想定されうることから,そうした場合に当たりうるというべきであ
る。)。
したがって,被告は,周辺住民に対し,操業状況が明らかとなる各種の
記録を公開することが今後とも継続的に求められているというべきところ,
被告は,本件訴訟において,法令上利害関係者の閲覧に供することが義務
付けられた燃焼室内及び集じん器流入前の燃焼ガス温度,CO濃度及びダ
イオキシン類濃度の測定結果等(廃棄物処理法15条の2の3,8条の4,
同法施行規則12条の7の3第1号)を超えて,1時間ごとの廃棄物処理
量,中和薬剤の投入量及び燃油の使用量,HCl濃度の推移等の記録を証
拠として提出し,各種の記録を公開する姿勢を示している。その上で,被
告は,本件施設が法令の規制に従った運用に耐えうる施設であることにつ
いて説明を尽くそうとしており,不安や危惧を抱える原告らの立場にも一
定の配慮を示しているといえる。
そして,本件炉が,上記のとおり焼却炉としての安全性を確認しうる実
例が少ない炉形式であり,必ずしもその安全性が実証されているわけでは
ないことにかんがみると,本件施設の操業により原告らの生命の安全・身
体の健康が侵害される蓋然性の有無を判断するに当たっては,周辺住民に
対する記録の公開がなされ,行政機関を含む第三者による監視機能が働い
ているかどうかの点も考慮に入れるべきである。
後記5(4)のとおり,当裁判所は,原告らの受忍限度を超えてその生命
の安全・身体の健康が侵害される蓋然性を認めるに足りる立証がないもの
と判断するが,その判断に当たっては,被告が上記のとおり本件施設の操
業状況に関する記録を公開する姿勢を示していることをも重要な要素とし
て考慮したものであることを付言しておく。
5前記3及び4の検討によれば,本件施設が構造基準に適合し,かつ,本件施
設を稼働させた場合に継続的に維持管理基準を充足できることが相当な資料,
根拠に基づき立証されたといえるから,前記のとおり,本件施設から相当量の
ダイオキシン類が排出されることにより,原告らの受忍限度を超えてその生命
の安全・身体の健康が侵害される蓋然性があることについての事実上の推定が
破れ,原告らにおいて,その生命の安全・身体の健康が侵害される蓋然性につ
いて更なる立証をしなければならないというべきである。
そこで,原告らの主張及び立証に照らし,本件施設が構造基準及び維持管理
基準に適合するものであっても,なお上記侵害の蓋然性が認められるかの点に
つき,以下検討する。
(1)ダイオキシン類の到達予測について
原告らは,3次元流体モデルを用いた予測に基づき,気象条件いかんでは,
大気環境基準を上回るダイオキシン類が原告らの居住地又は就業地に到達す
る旨主張する。証人Rも同旨の証言をし,Rが取締役調査部長を務める株式
会社B(以下「B」という。)も同旨の報告書(甲53,167)を提出し
ている。
アまず,原告らが3次元流体モデルを用いて予測している点について,証
拠(甲53,152の3)によれば,プルーム・パフモデルが地形,建物
及び構造物が大気拡散に与える影響を捨象した大気拡散の予測手法である
のに対し,3次元流体モデルは,地形,建物及び構造物が大気拡散に与え
る影響を考慮することができる大気拡散の予測手法であることが認められ
る。
そうすると,現実の地形,建物等の形状,位置,高さ等が正確にデータ
化されているかの点については検証される必要があるものの,その点を措
けば,3次元流体モデルは,より実態に即した到達予測が可能な予測手法
といえるから,以下,3次元流体モデルに基づいて検討することとする。
イ(ア)もっとも,Bの報告書(甲53,167)による試算を採用しても,
本件施設から排出されるダイオキシン類濃度が,維持管理計画値として
遵守が義務付けられている0.1ng−TEQ/N㎥以下であれば,な
お大気環境基準に適合する。すなわち,同報告書によれば,排出される
ダイオキシン類濃度を0.1ng−TEQ/N㎥と仮定した場合の検証
において,プルーム・パフモデルを用いて得られる年平均の最大着地濃
度が0.0006pg−TEQ/㎥超0.0007pg−TEQ/㎥未
満である。そうすると,仮に3次元流体モデルとプルーム・パフモデル
とで最大着地濃度に140倍の開きがあるとしても,実際に排出される
ダイオキシン類濃度として0.1ng−TEQ/N㎥が維持されている
場合に3次元流体モデルを用いて得られる年平均の最大着地濃度は,最
大でも0.098pg−TEQ/㎥{0.0007(pg-TEQ/㎥)×140=0.09
8(pg-TEQ/㎥)}と推定され,大気環境基準である0.6pg−TEQ
/㎥を優に下回る。
(イ)この点に関し,原告らは,事業者の行うダイオキシン類濃度の測定
には問題があり,年間を通じて0.1ng−TEQ/N㎥が維持される
との想定は現実的でないから,法規制値である1ng−TEQ/N㎥で
ある場合や,その10倍の10ng−TEQ/N㎥である場合も想定す
べきである旨主張し,Bの報告書(甲53)も同旨の指摘をしている。
しかし,本件施設から排出される排ガス中のダイオキシン類濃度が維
持管理計画値である0.1ng−TEQ/N㎥を大幅に下回っており,
その測定結果が信頼できるものであることは前記3(7)で説示したとお
りである。そして,維持管理計画値の遵守については,法律上の義務で
あって(廃棄物処理法15条の2の2),愛知県による改善命令及び使
用停止命令によって担保されており(同法15条の2の6第1号。命令
違反に対する罰則につき同法26条2号),また春日井市との基本協定
に規定された操業停止命令(基本協定5条3項)によっても法的に担保
されているのであるから,仮に維持管理計画値の超過があった場合には,
被告が本件施設の操業を停止して対策を講ずることになることは明らか
である。また,被告がダイオキシン類測定に対して意図的に炉内温度を
上げたとまで認められないことは前記3(7)イ(イ)で説示したとおりで
あり,その他被告がダイオキシン類測定の際に通常と異なる制御を行っ
て理想的な燃焼状態を作出したことを認めるに足りる証拠はない。原告
らは,Bが他の産業廃棄物焼却炉及び地方公共団体の焼却炉について実
施した調査によれば,ダイオキシン類の年平均濃度の推定値は,事業者
の自主測定に係るダイオキシン類濃度よりも1桁から6桁多い数値とな
っていることを根拠に上記のとおり主張するが,Bの報告書(甲53)
によっても年平均濃度がどのように推定されたか明らかにされていない
し,その調査結果が当然に本件施設に妥当するものでもない。
したがって,原告らの上記主張は,論拠に乏しいといわざるを得ず,
採用できない。
(ウ)加えて,3次元流体モデルとプルーム・パフモデルとで最大着地濃
度に140倍の開きがあったというのは,北北西風で風速2.5m/s
という限定的な条件下の検証結果であるが,風向き及び風速が年間を通
じて不変ということは現実にはあり得ず,少なくとも,1年を複数の期
間に区分し,それぞれの期間ごとの平均的な風向き及び風速を前提に最
大着地濃度を予測し,その加重平均を取るなどして,風向き及び風速の
変動を考慮した検証がなされる必要がある。そして,この点を考慮する
と,年平均の最大着地濃度に140倍もの開きが生ずるとは考え難い。
ウ以上によれば,3次元流体モデルに基づく検討によっても,本件施設の
操業により,大気環境基準を上回るダイオキシン類が原告らの居住地又は
就業地に到達する蓋然性を認めることはできない。
(2)原告らは,ダイオキシン類以外の有害物質ないし重金属類の排出の可能
性についても言及するが,排出の量や可能性の程度について具体的な立証は
ない。
(3)以上のほか,原告らが縷々主張する事情(①被告による住民説明会の開
催回数,対象者及び説明内容が不十分であること,②中和薬剤を飛散させる
事故や錆混じりの水滴を飛散させる事故に対する被告の対応に不備があった
こと,③被告が裁判所に対して虚偽の説明を行ったことなど)は,いずれも,
本件全証拠又は弁論の全趣旨によっても認めるに足りないか,原告らの生命
の安全・身体の健康の侵害と直接結び付かず,侵害の蓋然性を推認させるに
足りないものである。
(4)したがって,原告らの受忍限度を超えてその生命の安全・身体の健康が
侵害される蓋然性については,これを認めるに足りる立証がないといわざる
を得ない。
6結論
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官田近年則
裁判官細井直彰
裁判官井上博喜は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官田近年則
(別紙)
施設目録
設置場所愛知県春日井市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
同市(以下略)
施設の種類廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令7条3号に規定する汚
泥の焼却施設,同条5号に規定する廃油の焼却施設,同条8号に
規定する廃プラスチック類の焼却施設及び同条13号の2に規定
する産業廃棄物の焼却施設(同一施設)
【以下別紙の添付省略】
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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。
学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。
詳細は、面談の上、決定させてください。
独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可
応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名
連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:
[email protected]
71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。
ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。
応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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