弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人青柳盛雄の上告趣意第一点、第二点、同森長英三郎の上告趣意第三点、同
小澤茂の上告趣意について。
 憲法二八条は、企業者対勤労者、すなわち、使用者対被用者というような関係に
立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のために、団結権乃至団体行動
権を保障したものであることは、既に当裁判所の判例の示すところであつて、(昭
和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)本件における被告人等
の行動が、右の意義における勤労者としての立場にもとずくものでないことは、原
判決の確定した事実関係からして、極めて明瞭であるから、被告人等の本件所為が
憲法二八条によつて保障された団結権乃至団体行動権にもとずくものであることを
前提とする論旨はすべて排斥を免れない。又原判決の確定する事実によれば、被告
人等の本件所為が判示税務署職員に対する刑法九五条所定の脅迫に該当することは
明らかであるのみならず被告人等にその犯意のあつたことも原判決の確定した客観
的事実から十分に推認されるところであり、右の行為をもつて所論のように、或は
社会通念上違法性を欠くものであるとか、或は刑法三五条によう違法性を阻却すべ
きものであるとか、或は大衆運動または団体行動として正当な行為と認むベきであ
るとかの論は、いずれもこれを是認すべき何等の根拠もなく、論旨はすべて採用す
ることを得ない。(この点に関しても前記大法廷判決参照)なお、記録によるも被
告人等が原審において所論のような違法性阻却の事由に該当する事実上の主張をし
たことを認めることはできないから原判決に所論のような判断違脱ありとはいえな
い。論旨はすべて採用することはできない。
 弁護人青柳盛雄の上告趣意第三点及び弁護人森長英三郎の上告趣意第一点、第二
点について。
 原判決は被告人等は、共同して、判示のごとき言動によつて、同時に、署長B外
三名の税務署職員を脅迫し、因つて右四名に対しそれぞれ刑法九五条二項にあたる
犯罪行為をした事実を認定したのであるから、同判決が被告人等の所為に対し、刑
法五四条一項前段の規定を適用したのは正当である。又、原判決が右数個の犯罪の
内署長Bに対する犯罪をもつて、犯情の最も重いものとしたのは、原審の自由裁量
に属するところであつて、これについて、所論のような違法のあることは認められ
ない。又、原判決が刑法九五条一項二項を併記したのは、本件被告人の所為につい
て同条二項を適用するについて、その法定刑を明らかにするために同条一項をも併
記したに過ぎないのであつて、何等違法はなく、論旨はすべて理由がない。
 弁護人森長英三郎の上告趣意第四点について。
 被害者の証言について、所論のような事由にもとずいて、その証拠能力を否定、
若しくは制限すべき法律上の根拠は存在しない。論旨は理由がない。
 同第五点について。
 原判決が、その主文第二項において、「訴訟費用は全部被告人等六名の連帯負担
とする。」と宣告したのは、原審判決までに生じた一切の訴訟費用について、被告
人等に負担を命じたものであり、しかも右訴訟費用の額は、本件における証人の旅
費日当等刑事訴訟費用法の規定に従つて現実に支出せられた費用額の全部であつて、
その具体的の数額は、一件記録上、たやすく計上し得るところであるから右裁判の
宣告に当つて特にその額を明示しないからといつて所論のような違法ありとするこ
とはできない。旧刑訴二四五条において、かかる場合に「検事之ヲ定ム」と規定し
ているのは、ただ裁判執行の指揮にあたるべき検事が執行の必要上、右訴訟費用額
を実地に計算してその具体的数額を徴収命令書に記載すべきことを規定したに過ぎ
ないのであつて所論のように訴訟費用額を確定する権限を検事に与えた趣旨ではな
いのである。所論は独自の見解にもとずいて、原判決の右費用負担に関する裁判を
非難するものであつて採用の限りでない。
 よつて、旧刑訴四四六条に従い、主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二六年五月一六日
     最高裁判所大法廷
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官塚崎直義は退官につき、裁判官穂積重遠は差し支えにつき、いずれ
も署名押印することができない。
            裁判官    澤   田   竹 治 郎

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