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平成17年2月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第30号 固定資産評価審査申出決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年11月12日
判決
主文
1 被告が平成15年7月17日付けで原告に対してした別紙物件目録(略)記載の建
物に係る平成15年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出に対す
る決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
  主文同旨
第2 事案の概要
  本件は,4階建ての非木造家屋を所有する原告が,渋川市長によって決定され固
定資産課税台帳に登録された同家屋の平成15年度の価格を不服として被告に対
して審査の申出をしたところ,被告からこれを棄却するとの決定を受けたため,同
決定の取消しを求めている事案である。
1 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は争いがない。ただし,(5)の事実は当裁判
所に顕著である。)
(1) 原告は,別紙物件目録(略)記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有者
であり,本件建物の固定資産税の納税義務者である。
(2) 本件建物は,平成2年8月に新築された鉄骨造(骨格材の肉厚が4㎜を超える
もの)の家屋であり,その床面積は,1階及び2階が各96.2㎡,3階及び4階が
各85.7㎡,階段の共用部分が各階合計52㎡である(弁論の全趣旨)。
  本件建物は,新築当初から,1階部分が店舗として,3階及び4階部分が住宅と
して使用されている。また,本件建物の2階部分は,遅くとも平成13年1月1日
以降,事務所として使用されている。
(3) 渋川市長は,本件建物の平成15年度の価格を3234万4935円と決定し,こ
れを固定資産課税台帳に登録した。
(4) 原告は,被告に対し,平成15年5月30日付けで上記価格について審査の申
出をしたところ,被告は,原告に対し,同年7月17日付けでこれを棄却するとの
決定をした(以下「本件決定」という。)。
(5) 原告は,平成15年10月10日,本件訴えを提起した。
2 法令等の定め
(1) 固定資産(家屋)評価に関する法令等(この項において,地方税法を「法」とい
う。)
ア 家屋に対して課する基準年度(昭和31年度及び昭和33年度並びに昭和3
3年度から起算して3年度又は3の倍数の年度を経過したごとの年度(法341
条6号)である。したがって,最近の基準年度は平成15年度である。)の固定
資産税の課税標準は,当該家屋の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初
日の属する年の1月1日である(法359条)。)における価格であり,この価格
とは適正な時価(法341条5号)であって,家屋課税台帳又は家屋補充課税
台帳(以下,併せて「家屋課税台帳等」という。)に登録されたものである(法3
49条1項)。
イ 家屋課税台帳等に登録される価格の決定に際しての家屋の評価について
は,総務大臣が評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め,告示
しなければならない(法388条1項前段)。これに基づき,固定資産評価基準
(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)が告示されてい
る。
ウ 道府県知事は,固定資産課税台帳(家屋課税台帳等を含む課税台帳の総
称である(法341条9号)。)に固定資産の価格が登録されていない不動産に
ついては,評価基準によって,当該不動産に係る不動産取得税の課税標準と
なるべき価格を決定する(法73条の21第2項)。この決定がされたときは,道
府県知事は,直ちに,当該価格その他必要な事項を当該不動産の所在地の
市町村長に通知しなければならない(法73条の21第3項)。
エ 市町村長は,評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならな
い(法403条1項)。
オ 市町村には固定資産評価員が設置されているところ(法404条1項),固定
資産評価員は,実地調査の結果に基づいて当該市町村に所在する土地又は
家屋の評価をする場合において,上記ウのとおり道府県知事が通知した価格
があるときは,原則として,当該通知に係る価格に基づいて,当該土地又は
家屋の評価をしなければならない(法409条2項)。そして,固定資産評価員
は,その評価をした場合には,遅滞なく,評価調書を作成し,これを市町村長
に提出しなければならない(法409条4項)。
カ 市町村長は,上記オの評価調書を受理した場合には,これに基づいて,固
定資産の価格等を毎年3月31日までに決定し,これを直ちに固定資産課税
台帳に登録しなければならない(法410条1項,411条1項)。
(2) 評価基準が定める家屋の評価方法の概要
  評価基準によると,家屋の評価は,家屋の区分に従い,各個の家屋について評
点数を付設し,当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各個の家屋の価額
を求める方法によって行うとされている(評価基準第2章第1節一)。これを敷衍
すると,次のとおりである。
ア 各個の家屋の評点数は,当該家屋の再建築費評点数を基礎とし,これに家
屋の損耗の状況による減点を行って付設する(評価基準第2章第1節二)。
(ア) 非木造家屋の再建築費評点数の算出方法には,「部分別による再建築
費評点数の算出方法」と「比準による再建築費評点数の算出方法」の2種
類があるが,在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数は,前基準年度
に適用した再建築費評点数に再建築費評点補正率を乗じて求める(評価
基準第2章第3節一,四)。平成15年度における在来分の非木造家屋の評
価に係る再建築費評点補正率は,0.96である(評価基準第2章第4節一
2)。
  (もっとも,平成15年度の前の基準年度である平成12年度当時までの評
価基準には,在来分の非木造家屋に係る再建築費評点数の算定方法に
ついての上記定めがなく,非木造家屋の再建築費評点数は,各個の非木
造家屋の構造の区分に応じ,当該非木造家屋について適用すべき非木造
家屋評点基準表によって当該非木造家屋の各部分別に標準評点数を求
め,これに補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に
計算単位の数値を乗じて算出した部分別再建築費評点数を合計して求め
る方法(上記「部分別による再建築費評点数の算出方法」と同様である。)
を原則とするが,「比準評価の方法」によることもできるとされていた。)
(イ) 非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は,経過年数に応ずる減点
補正率(以下「経年減点補正率」という。)による。経年減点補正率は,通常
の維持管理を行うものとした場合において,その年数の経過に応じて通常
生ずる減価を基礎として定めたものであって,非木造家屋の構造区分に従
い,非木造家屋経年減点補正率基準表(評価基準別表第13。以下「補正
率基準表」という。)に示されている当該非木造家屋の経年減点補正率に
よって求める。(評価基準第2章第3節五)
  補正率基準表は,用途ごとに区分された基準表によって構成されており,
用途区分が「1 事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」,「2 住宅,
アパート用建物」及び「3 店舗及び病院用建物」である場合の基準表は,
別表1(略)ないし3(略)のとおりである。補正率基準表の用途区分には,こ
のほかに,「4 百貨店,ホテル,旅館,料亭,待合,劇場及び娯楽場用建
物」,「5 市場用建物」,「6 公衆浴場用建物」及び「7 工場,倉庫,発電
所,変電所,停車場及び車庫用建物」がある。
イ 評点1点当たりの価額は,所定の計算に基づいて得られた額に基づいて市
町村長が定める(評価基準第2章第1節三)。ただし,平成15年度の評価に
おいては,1円に「物価水準による補正率」と「設計管理費等による補正率」と
を相乗した率を乗じて得た額に基づいて市町村長が定めるところ,「物価水準
による補正率」は非木造家屋について全市町村を通じて1.00であり,「設計
管理費等による補正率」は非木造家屋について全市町村を通じて1.10であ
る(評価基準第2章第4節二1,2)。
3 被告の主張(本件決定の根拠)
(1) 再建築費評点数
ア 平成3年度の評価における再建築費評点数
  本件建物は平成2年8月に新築されたところ,群馬県知事は,評価基準によ
って本件建物を評価し,価格等を渋川市長に通知した。その通知に係る再建
築費評点数(「部分別による再建築費評点数の算出方法」と同様の方法によ
って求められた。)は,4080万6910点であった。
  平成3年度の評価における再建築費評点数は,「比準評価の方法」によって
算出された。具体的には,上記通知に係る再建築費評点数に,再建築費上
昇割合(以下「変動率」という。)を乗じて算出する方法により求められた。本
件建物について適用される平成3年度の変動率は,1.0531であり,再建築
費評点数は,次式のとおり,4297万3756点となった。
    4080万6910点×1.0531=4297万3756点
    (小数点以下切捨て。(1)において以下同じ。)
イ 平成6年度の評価における再建築費評点数
  平成6年度の評価における再建築費評点数も,「比準評価の方法」によって
算出された。具体的には,平成3年度の評価における再建築費評点数に変動
率を乗じて算出する方法により求められた。本件建物について適用される平
成6年度の変動率は,1.1575であり,再建築費評点数は,次式のとおり,4
974万2122点となった。
    4297万3756点×1.1575=4974万2122点
ウ 平成9年度の評価における再建築費評点数
  平成9年度の評価における再建築費評点数も,同様に,平成6年度の評価
における再建築費評点数に変動率を乗じて算出する方法により求められた。
本件建物について適用される平成9年度の変動率は,0.9271であり,再建
築評点数は,次式のとおり,4611万5921点となった。
    4974万2122点×0.9271=4611万5921点
エ 平成12年度の評価における再建築費評点数
  平成12年度の評価における再建築費評点数も,同様に,平成9年度の評価
における再建築費評点数に変動率を乗じて算出する方法により求められた。
本件建物について適用される平成12年度の変動率は,0.9675であり,再
建築評点数は,次式のとおり,4461万7153点となった。
    4611万5921点×0.9675=4461万7153点
オ 平成15年度の評価における再建築費評点数
  平成15年度の評価における再建築費評点数は,前基準年度である平成12
年度に適用した再建築費評点数に再建築費評点補正率0.96を乗じて算出
する方法により,次式のとおり,4283万2466点となった。
    4461万7153点×0.96=4283万2466点
(2) 経年減点補正率
ア 家屋が複数の用途に供されている場合,経年減点補正率を求める際の用途
区分は,原則として,主たる用途により一棟単位で定めるべきであり,最も大
きな床面積を占める用途を主たる用途とするべきである。
  また,家屋の用途に変更があった場合,次の基準年度の評価においては,
実際に用途の変更があった年の経年減点補正率を基準として,変更後の用
途に対応する経年減点補正率を求めるべきである。
イ 従前の主たる用途と経年減点補正率
  本件建物は,鉄骨造(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの)であり,新築当初か
ら平成12年ころまで,1階は店舗,2階は学習塾,3階及び4階は住居として
使用されていた。
  各階の床面積は,1階及び2階が各96.2㎡,3階及び4階が各85.7㎡,
階段の共用部分が各階合計52㎡であるところ,階段の共用部分を案分して
加えると,次のとおりとなる。
    1階 96.2㎡(1階は独立しているため,共用部分を算入しない。)
    2階 96.2㎡+{52㎡×(96.2㎡/267.6㎡)}
      =114.89㎡
       (小数第2位未満切捨て。イにおいて以下同じ。)
    3階 85.7㎡+{52㎡×(85.7㎡/267.6㎡)}
      =102.35㎡
    4階 85.7㎡+{52㎡×(85.7㎡/267.6㎡)}
      =102.35㎡
  以上により,店舗部分(学習塾として使用されていた部分も含む。)の床面積
が合計211.09㎡,住居部分の床面積が合計204.70㎡となることから,
本件建物の主たる用途は店舗というべきであった。したがって,平成12年度
までの評価における本件建物の経年減点補正率は,補正率基準表の「3 店
舗及び病院用建物」の「鉄骨造(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの)」を用いて
求められていた。
ウ 主たる用途の変更
  原告は,渋川市に対し,平成15年5月9日付けで,「本件建物の2階は店舗
ではなく事務所として使用している。」旨の「家屋用途変更届」を提出した。渋
川市は,原告が平成12年に本件建物の所有権を取得したこと,固定資産評
価員が平成13年4月ころに本件建物の2階が事務所として使用されているの
を確認していたこと等から,平成13年度の賦課期日である平成13年1月1日
から,本件建物の2階の用途が店舗から事務所に変更されたと認めた。
  この用途変更の結果,本件建物は,店舗部分の床面積が96.20㎡,事務
所部分の床面積が114.89㎡,住居部分の床面積が合計204.70㎡とな
り,本件建物の主たる用途は住居と変更になった。
エ 平成15年度の評価における経年減点補正率
  平成15年度の評価における経年減点補正率は,次のとおり求められた。
  すなわち,本件建物の主たる用途の変更があった平成13年度における経年
減点補正率は,用途変更前の主たる用途(店舗)を前提として,別表3(略)の
「鉄骨造(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの)」の経過年数11年の欄のとおり
0.7800であるところ,上記数値と近似する別表2(略)(用途変更後の主た
る用途(住宅)を前提とする基準表)の「鉄骨造(骨格材の肉厚が4㎜を超える
もの)」の表における数値は,同表の経過年数2年の欄の0.7500である。そ
して,これを基準とし,平成15年度は用途変更から2年を経過した年度である
ので,経過年数につきさらに2年を加え,別表2(略)の「鉄骨造(骨格材の肉
厚が4㎜を超えるもの)」の経過年数4年の欄の0.6865を,平成15年度の
評価における経年減点補正率とした。
(3) 評点1点当たりの価額
  平成15年度の評価における非木造家屋の評点1点当たりの価額については,
渋川市長により,1円に「物価水準による補正率」である1.00と「設計管理費等
による補正率」である1.10とを相乗した率を乗じて得た額に基づき,1.1円と
定められた。
(4) 本件建物の平成15年度の価格
  上記(1)ないし(3)により,本件建物の平成15年度の価格は,次式のとおり,32
34万4935円となった。
    4283万2466点(再建築費評点数)×0.6865(経年減点補正率)=294
0万4487点(本件建物の評点数)
    (小数点以下切捨て。(4)において以下同じ。)
    2940万4487点(本件建物の評点数)×1.1円(評点1点当たりの価額)
=3234万4935円
(5) 結論
  以上のとおり,本件建物の平成15年度の価格は,評価基準に従って求められ
たものであるから,この価格についての審査の申出を棄却した本件決定は,適
法である。
4 原告の主張
(1) 本件建物が建築された当時,2階部分には,東亜物産株式会社(以下「東亜
物産」という。)の事務所が入居することが決まっており,本件建物の施工後,同
社は実際に事務所を構えた。同社が撤退してから,当時の所有者Aは,本件建
物の2階部分において学習塾を一時的に経営したことがあるが,その後,学習
塾を止め,教材の通信販売の事務所として使用していた。
  なお,平成5年11月4日に前橋地方裁判所へ提出された執行官作成の現況調
査報告書(乙6の3)と,平成6年4月6日に前橋地方裁判所へ提出された評価
人作成の評価書(甲1の証5-1)には,本件建物の2階部分が「Bの事務所,教
室」として使用占有されている旨が記載されている。これらの記載は,主な使用
形態が事務所にあることからこうした記載になったというべきであって,上記のこ
ろに,本件建物の2階部分が学習塾として使用されていたことを示すものではな
い。
  したがって,本件建物の2階部分が,建築当初から平成12年ころまで,学習塾
として使用されていたとするのは誤りである。
(2) 仮に,本件建物の2階部分が学習塾として使用されていたとしても,経年減点
補正率を求めるに当たり,その部分の用途を店舗とするべきでなかった。
  すなわち,補正率基準表には7種類の用途区分がされているが,補正率基準
表の2ないし7の基準表に示された用途に該当しない家屋は,「事務所,銀行用
建物及び2~7以外の建物」の用途区分に分類される。社会通念上,子弟の教
育を要素とする学習塾と,物品の売買やサービスを提供する商用施設である店
舗とを同列に扱うことはできず,学習塾は,店舗に該当しないし,補正率基準表
の2ないし7の基準表に示された他の用途にも該当しない。
  したがって,本件建物の2階部分が学習塾として使用されていた場合,経年減
点補正率を求めるに当たっては,その部分の用途を,店舗とするのではなく,
「事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」とするべきであった。
(3) 以上のとおり,本件建物の経年減点補正率を求めるに当たり,新築当初から
平成13年1月1日までの本件建物の2階部分の用途を店舗とすることは誤りで
あったから,この間の本件建物の主たる用途を店舗とすることも誤りであった。
本件建物の主たる用途は,新築当初から住宅であったというべきであり,これを
前提として,平成15年度の評価における経年減点補正率を求めるべきであっ
た。
  したがって,本件建物の平成15年度の価格は,経年減点補正率の適用の点で
評価基準に反して求められたものであるから,この価格についての審査の申出
を棄却した本件決定は違法である。
(4) 他方,再建築費評点数についての被告の主張(変動率の点も含む。)は,いず
れも争わない。
5 被告の反論
(1) 本件建物の2階部分が,新築当初から平成12年ころまで,学習塾として使用
されていた根拠は次のとおりである。
ア 平成3年1月19日に実施された群馬県知事(渋川行政事務所)の家屋調査
の結果においては,2階部分は「学習塾」と表示されている。担当者が現場を
訪れて,現実に学習塾として使用されていたからこそ,そのように表示された
ものといえる。
イ 平成5年11月4日に前橋地方裁判所へ提出された執行官作成の現況調査
報告書(乙6の3)には,2階部分について,Aが経営する非法人Bの事務所・
教室として使用占有されていると記載されている。平成6年4月6日に前橋地
方裁判所へ提出された評価人作成の評価書(甲1の証5-1)にも同様の記
載がある。執行官及び評価人は,現場を訪れて調査の上,各記載をしたとい
えるところ,その表現は,2階部分が学習塾として使用されていたことを示すも
のである。
ウ 原告が被告に提出した固定資産評価審査申出書添付の書面(甲1の証9,
10)には,2階部分の表示が「事務所」から「学習塾」に訂正されている。
エ 本件建物の設計図(乙22)には,「Bビル新築工事」と表示されており,本件
建物建築の主要な目的が学習塾経営であったものと思える。
オ 2階部分のうち,階段部分と洗面所等の部分を除いた面積は約75㎡であっ
て,そう広くないスペースに,出入口を別々にしたトイレが3か所あり,南と東
は窓が配置されていた。しかも,原告が被告に提出した上記書面(甲1の証
9,10)には,2階部分について「従業員1人,その他15人」という記載があ
る。
カ したがって,2階部分は多数の学生が集まる学習塾として使用されていたと
みざるを得ない。
キ なお,東亜物産の本店が本件建物の所在地番に移転したのは,本件建物
が完成した平成2年8月より以前の同年4月8日であったから,本件建物が建
築された当時,その2階部分への東亜物産の事務所の入居が決まっていたと
か,本件建物の施工後,そこに同社が実際に事務所を構えたということはあり
得ない。東亜物産は,本件建物と同番地に所在する同社の代表者C(Aの父)
の自宅を本店としたとみるのが自然である。
(2) 新築当初から平成13年1月1日までの間の本件建物の2階部分については,
経年減点補正率を求めるに当たり,その用途を店舗とするのが妥当である。
  すなわち,学習塾の用途は「事務所」又は「店舗」のどちらかであると考えるしか
なく,どちらにするかの判断は難しいところであるが,地方税法や評価基準等に
は,補正率基準表における「事務所」,「店舗」等についての定義規定は存在せ
ず,「固定資産税木造家屋評価実務マニュアル」(乙17)や国税についての「耐
用年数の適用等に関する取扱通達」を参考に家屋の用途を定めるほかない。そ
して,学習塾は,一般に,人の見やすいところに「○○年度,○○大学○名合
格,○○高校○名合格」等の看板等を掛けて学生を集め,多数の学生から受講
料を受領し,その対価として講義を受けさせて受験の手助けというサービスを行
うものであり,上記マニュアルや通達にいう店舗の例に類似している。また,本
件建物の2階部分は,トイレ等を除いてほとんど間仕切りがなく,要所要所に独
立柱が配置され,トイレが付随的に設けられているが,建物のほとんどが業務
用に使用されるなど,上記マニュアルにおける店舗用建物についての説明とほ
ぼ同様である上,店舗として使用されている1階部分と構造がほぼ同様であっ
て,いつでも店舗のように変更できる構造となっている。
  したがって,新築当初から平成13年1月1日までの間の本件建物の2階部分の
用途を店舗とすることは妥当であり,この点について違法,不当の問題は生じな
い。
(3) 以上のとおり,本件建物の経年減点補正率を求めるに当たり,新築当初から
平成13年1月1日までの本件建物の2階部分の用途を店舗とし,この間の本件
建物の主たる用途を店舗とすることに誤りはなかった。
  したがって,本件建物の平成15年度の価格は,経年減点補正率の適用の点に
おいても評価基準に従って求められたものである。
第3 当裁判所の判断
1 評価基準と地方税法341条5号所定の適正な価格との関係
  評価基準は,固定資産税の課税標準の基礎となるべき価格の適正を手続的に担
保するために,その算定手続,方法を規定するものであると解される。そして,地方
税法403条1項によると,市町村長は,評価基準によって,固定資産の価格を決
定しなければならないものと定められている。
  したがって,市町村長の決定した固定資産の価格が評価基準に従ったものである
場合には,特別の事情の存しない限り,その価格は地方税法341条5号所定の適
正な時価と推認するのが相当であるが,他方,市町村長の決定した固定資産の価
格が評価基準に従ったものといえない場合には,特段の事情がない限り,その価
格を適正な時価と認めることはできないというべきである。
2 経年減点補正率を求める方法
(1) 評価基準によると,経年減点補正率は,補正率基準表に示されている当該非
木造家屋の経年減点補正率によって求めるものとされている。そして,家屋が複
数の用途に供されている場合,経年減点補正率を求める際の用途区分は,原
則として,主たる用途により一棟単位で定め,補正率基準表に示された用途区
分を基準として,最も大きな床面積を占めることとなる用途区分を主たる用途区
分とするのが相当である。
(2) もっとも,地方税法や評価基準等に補正率基準表に示された用途区分の定義
規定が見出せないことからすると,実際の用途によっては,補正率基準表に示さ
れた用途区分のうち,いずれに該当するかについて疑義を生じる場合も考えら
れる。
  この点,評価基準が,家屋は損耗によりその価値を減ずるということに鑑みて,
経年減点補正率を再建築費評点数に乗じて評価するものと定めていること,家
屋の損耗の程度はその用途によって類型的に異なるということに着目して,用
途ごとに区分された基準表によって補正率基準表を構成していると解されること
からすれば,上記のように疑義を生じる場合には,当該家屋の具体的な使用状
況に照らし,補正率基準表に類型的に顕れたいずれの用途に最も類似するかを
個別に検討して,いずれの用途区分に該当するかを定めるべきであると解され
る。そして,このような検討をした結果,補正率基準表に示された用途のいずれ
にも類似せず,又はいずれに類似するかが判然としない場合,その用途区分
は,「1 事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」に該当すると解するのが相
当である。
3 本件建物の2階部分についての検討(以下,この項で本件建物の2階部分に言及
する場合,新築当初から平成13年1月1日までのことを示し,言及する部分におけ
る時期の記載を省略する。)
(1) 上記2(2)を前提にして,経年減点補正率を求めるに当たり,本件建物の2階部
分がどの用途区分に該当するものであったかを検討する。
  この点,仮に本件建物の2階部分が学習塾として使用されていたとしても,具体
的な使用状況を捨象した「学習塾」という用途を,直ちに店舗という用途と同様の
ものと解することは,それらの語義からして困難であるといわざるを得ない。すな
わち,語義としては,「店舗」は,商品を陳列して販売する場所であり,「学習塾」
は,私的に子供を集めて,学校教育の補足や進学準備教育を行う施設であっ
て,両者を同一の意味内容とみることはできないからである。
  もっとも,学習塾にも様々な態様のものがあって,学習塾の用に供される家屋
の使用状況もまた様々であると考えられる。具体的な使用状況によって,「事務
所」や「店舗」など,補正率基準表に類型的に顕れた用途に類似するものがあろ
うことは否定できない。したがって,本件建物の2階部分が学習塾として使用さ
れていたとすれば,その用途がいずれの用途区分に該当するかについて,疑義
を生じるというべきであり,その具体的な使用状況に照らし,補正率基準表に類
型的に顕れたいずれの用途に最も類似するかを個別に検討した上で,いずれの
用途区分に該当するかを定めるべきものであったと解される。
  しかしながら,本件において,本件建物の2階部分が学習塾として使用されてい
たということを超えて,その使用状況が具体的にどうであったかを示す証拠には
乏しく,渋川市長等がこの点について具体的に検討してきたことを認めるに足り
る証拠もない。
  そうすると,本件建物の2階部分が学習塾として使用されていた場合,補正率
基準表に示された用途のいずれに類似するかが判然としないといわざるを得
ず,その用途区分は,「1 事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」に該当
すると解するのが相当である。
  そして,本件証拠上,本件建物の2階部分が,学習塾及び事務所以外の用途
で使用されていたことを認めるに足りる証拠はないから,結局,本件建物の2階
部分が学習塾として使用されていたか否かについて判断するまでもなく,その用
途区分は,「1 事務所,銀行用建物及び2~7以外の建物」に該当するもので
あったというべきである。
(2) なお,この点に関する被告の主張について付言する。
  まず,被告は,学習塾の用に供される家屋の一般的な使用状況等が,「固定資
産税木造家屋評価実務マニュアル」や国税についての「耐用年数の適用等に関
する取扱通達」にいう店舗の例に類似していると主張する。確かに,地方税法や
評価基準等に補正率基準表に示された用途区分の定義規定が見出せないこと
からすると,上記マニュアルや通達の例を参考にすることが許されないとまでは
いい難い。しかしながら,証拠(乙17)によれば,「固定資産税木造家屋評価実
務マニュアル」は,本件建物とは異なる木造家屋に関し,再建築費評点数を求
めるための木造家屋評点基準表における「店舗用建物」等の意味内容について
説明されていると認められるところ,家屋の現実の使用状況とは関係の薄い再
建築費評点数についての「店舗用建物」の概念を,家屋の現実の使用状況が重
要な影響を及ぼす経年減点補正率を求めるに当たっての用途区分である「店
舗」の意味内容を検討する際の参考にすることには,慎重であるべきである。ま
た,国税についての「耐用年数の適用等に関する取扱通達」における用途(細
目)の区分は,補正率基準表の用途区分と完全には重なるものでなく,これに全
面的に依拠することは妥当でない。そして,前述のとおり,学習塾の用に供され
る家屋の使用状況には様々なものが考えられるのであって,具体的な使用状況
を離れて,一般的に想定される使用状況をもとに本件建物の用途区分を定める
ことも適当とはいえない。
  次に,被告は,本件建物の2階部分の間取りや構造を,その用途が店舗となる
ことの根拠として主張する。しかしながら,家屋の現実の使用状況と関係の薄い
間取りや構造が補正率基準表の用途区分を定める際の根拠になるとはいい難
い。
  以上により,被告の主張は,いずれも採用することができない。
4 結論(本件決定の違法)
  上記3のとおり,経年減点補正率を求めるに当たり,本件建物の2階部分の用途
区分は,新築当初から平成13年1月1日までの間について,「1 事務所,銀行用
建物及び2~7以外の建物」に該当するものであった。また,前提事実のとおり,本
件建物の2階部分は,平成13年1月1日以降,事務所として使用されている。そう
すると,本件建物の2階部分の用途区分は,新築当初から一貫して,「1 事務所,
銀行用建物及び2~7以外の建物」に該当するものであったことになる。
  そして,前提事実のとおり,本件建物は,新築当時から,1階部分が店舗として,3
階及び4階部分が住宅として使用されているから,本件建物は,新築当時から,住
宅として使用されている部分が最も大きな床面積を占めていることが明らかであ
る。
  以上に加え,前提事実のとおり,本件建物は平成2年8月に新築された鉄骨造(骨
格材の肉厚が4㎜を超えるもの)の家屋であることを併せると,平成15年度の評価
における本件建物の経年減点補正率は,別表2(略)(補正率基準表のうち,用途
区分が「2 住宅,アパート用建物」である場合の基準表)の「鉄骨造(骨格材の肉
厚が4㎜を超えるもの)」を用い,同表の経過年数13年の欄の0.5649とするべ
きであったといえる。
  しかるに,渋川市長は,本件建物の経年減点補正率が0.6865であるとした上
で,本件建物の平成15年度の価格を3234万4935円と決定したものであり,こ
の点において,評価基準に従わなかったというべきである。そして,本件において,
他にその決定に係る価格が適正な時価であると認めるに足りる特段の事情を見出
すこともできない(なお,上記のとおり決定された価格は,評価基準に従って評価さ
れた場合の本件建物の平成15年度の価格を明らかに上回ることになる。)。
  そうすると,渋川市長によって決定され固定資産課税台帳に登録された本件建物
の平成15年度の価格は,地方税法341条5号所定の適正な時価と認めることは
できず,これを適正な時価と認めて原告による審査の申出を棄却した本件決定
は,違法であるといわざるを得ない。
5 よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判
決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官  東  條     宏
           裁判官  櫛  橋  直  幸
           裁判官  大  竹  敬  人

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