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裁判例


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       主   文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人らが控訴人に対し,亡A及び被控訴人Bの各平成8年分所得
税につきなされた各過少申告加算税賦課決定は,国税通則法65条5項該当事由が
あるのにもかかわらず,これがないものとしてなされたものであるから違法である
として,これらの賦課決定の取消しを求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠により認定した事実については,証拠を掲記する。)
 次のとおり訂正するほかは,原判決4頁1行目から6頁11行目までに記載のと
おりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁2行目の「原告A」を「亡A」と改め,以下原判決引用部分中
の「原告A」をいずれも「亡A」と改める。
(2) 原判決4頁4行目の「原告B」及び5頁8行目の「原告B」をいずれも
「被控訴人B」と改める。
(3) 原判決4頁5行目の「妻である。」の後に改行して,次を加える。
 「亡Aは,平成13年5月20日死亡し,その子である被控訴人Cがその余の相
続人の相続放棄により,単独で相続した。」
(4) 原判決4頁7行目以下原判決引用部分中の「原告ら」をいずれも「亡A及
び被控訴人B」と改める。
3 争点
 本件各修正申告における各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)の
提出が,国税通則法65条5項に定める「その申告に係る国税についての調査があ
ったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない
とき」に当たるか否か
4 争点についての当事者の主張の要旨
(1) 被控訴人ら
 原判決8頁1行目の「原告ら」を「亡A及び被控訴人B」と改める他は,原判決
7頁8行目から8頁8行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人
 国税通則法65条5項の解釈としては,税務職員がその申告に係る国税について
の調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端
緒となる資料を発見し,これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏
れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実
性をもって認められる段階に達した後に,納税者がやがて更正に至るべきことを認
識したうえで修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないこと,言い換えれ
ば同事実を認識する以前に自ら進んで修正申告を確定的に決意して修正申告書を提
出することを必要とし,かつ,それをもって足りると解すべきであるが,修正申告
書の提出が調査の前記段階後になされたときは,修正申告の決意は同段階後になさ
れたものと事実上推定すべきであり,この推定を破るためには,例えば,調査の着
手後でかつ調査が前記段階に至る前に,修正申告の決意とその内容を税務職員に進
んで開示する等のことが必要であると解すべきであり(東京高裁判決昭和61年6
月23日税務訴訟資料152号419頁参照),この事実上の推定を破るための事
情としては,経験則上,「調査が前記段階に至る前における修正申告の決意とその
内容の自発的開示行為(またはこれに匹敵する税務職員に対する客観的行為)」が
必要であると解すべきである。
 本件においては,平成9年3月28日ころ,税務職員の調査は本件各長期譲渡所
得の申告漏れの事実を把握したうえで,亡A及び被控訴人Bが本件各確定申告を依
頼したD税理士の事務所に電話して問い合わせをする等しており,調査はこの時点
で更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる
段階に達しており,本件各修正申告書が提出されたのは,その後である同年4月2
4日であるから,亡A及び被控訴人Bの本件各修正申告の決意は,調査が前記段階
後になされたものと事実上推定される。そして,この事実の推定を破るべき税務職
員に対する客観的行為はなされていないから,本件各修正申告書の提出は,「その
申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべ
きことを予知してされたものでないとき」には該当せず,本件各賦課決定は適法で
ある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件各修正申告における本件各修正申告書の提出が,国税通則法
65条5項に定める「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該
国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるもの
であり,同条項の適用がないものとしてなされた本件各賦課決定は違法な処分であ
るから,いずれも取り消されるべきものと判断するが,その理由は,次のとおり訂
正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」欄記載の
とおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁8行目の「一三ないし二〇」を「13,14,16ないし2
0」と改め,9行目の「一〇、」の次に「13,14,」を加える。
(2) 原判決10頁3行目以降引用部分の「原告A」をいずれも「亡A」と改め
る。
(3) 原判決10頁3行目の「原告B」を「被控訴人B」と改める。
(4) 原判決10頁5行目の「E」の次に「(以下,F及びEを併せていう場合
は「E夫妻」という。)」を加える。
(5) 原判決10頁5行目の「等分の」を削除し,同行の「共有地」の次に
「(持分各4分の1)」を加える。
(6) 原判決10頁9行目以降引用部分の「原告ら」をいずれも「亡A及び被控
訴人B」と改める。
(7) 原判決11頁5行目の「証人D」を「D」と,同行以降引用部分の「証人
D」をいずれも「D税理士」とそれぞれ改める
(8) 原判決12頁2行目の「賛同した。」を「賛同したため,亡A及び被控訴
人Bは,E夫妻とともに平成8年分の所得税について,本件土地の売却代金による
長期譲渡所得を除外して確定申告し,その後に同所得について修正申告をすること
により高額納税者の公示の対象とならないようにすることとした。」と改める。
(9) 原判決12頁4行目の「証人G」を「G」と改め,同行の「(以下「証人
G」という。)」を削除する。
(10) 原判決12頁10行目から13頁2行目までを削除する。
(11) 原判決13頁10行目の「誤信し、」の次に「確定申告期限までに本件
土地の譲渡所得を除外してE夫妻の各確定申告をし,その後」を加える。
(12) 原判決13頁11行目の「修正申告書」の前に「各」を加える。
(13) 原判決14頁3行目の「後日」を「平成9年5月16日」と改め,同行
の「公示された」の次に「(この公示の内容は,同月17日新聞報道された。)」
を加える。
(14) 原判決14頁7行目の「証人H」を「H」と,同行以降引用部分の「証
人H」をいずれも「H調査官」とそれぞれ改める。
(15) 原判決14頁8行目の「始めるとともに」を「始め,平成9年3月26
日には本件各確定申告について本件各長期譲渡所得が除外されていることを認識
し」と改める。
(16) 原判決16頁7行目の「まず、」から25頁10行目の「いうべきであ
る。」までを,次のとおり改める。
 「国税通則法65条5項によれば,過少申告がなされた場合であってもその後修
正申告書の提出があり,その提出がその申告に係る国税についての調査があったこ
とにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときに
は過少申告加算税を賦課しないこととされており,その趣旨は,過少申告がなされ
た場合には,修正申告書の提出があったときでも原則として過少申告加算税は賦課
されるものであるが,「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国
税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告を決意し,
修正申告書を提出した者に対しては,例外的に過少申告加算税を賦課しないことと
し,もって,納税者の自発的な修正申告を歓迎し,これを奨励することを目的とす
るものというべきである。また,同条項の文理からすれば,申告に係る国税につい
ての調査が開始された後に修正申告書の提出があった場合においても,それが当該
国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合には過少申告加
算税を賦課しないとされていることも考慮すると,同条項の解釈としては,税務職
員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを
発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し,これによりその後調査が
進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうとい
うことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に,納税者
がやがて更正に至るべきことを認識したうえで修正申告を決意し修正申告書を提出
したものでないこと,すなわち,同事実を認識する以前に自ら進んで修正申告を確
定的に決意して,これに基づいて修正申告書を提出することを必要とし,かつ,そ
れをもって足りると解すべきである。
2 そこで,これを本件についてみるに,亡A及び被控訴人Bは,E夫妻ととも
に,高額納税者として公示されることを回避するために,D税理士が税務署におい
て高額納税者の公示のための資料収集手続が終了すると考えていた平成9年4月2
0日ころにその終了を確認したうえで,本件各長期譲渡所得についての修正申告を
する決意をしたうえで本件各長期譲渡所得を除外して本件各確定申告をし(同年3
月13日),この決意に基づいて同年4月24日本件各修正申告書を控訴人に提出
して,本件各修正申告をしたものと認められるというべきである。すなわち,亡A
及び被控訴人Bとしては,意を通じていたE夫妻が予定どおり修正申告をすれば,
本件各長期譲渡所得を除外して本件各確定申告がなされていることは税務職員に容
易に発覚するものであることは自明であったというべきであり(実際にもE夫妻の
平成9年3月25日の各修正申告によりH調査官は翌日の同月26日には亡A及び
被控訴人Bの本件各確定申告において,本件各長期譲渡所得が除外されていること
を認識している。),本件各長期譲渡所得に係る所得税を免れる可能性はほとんど
なかったものであって,亡A及び被控訴人Bのみが予定に反して本件各修正申告を
しないという事態は想定し難いものといえるから,亡A及び被控訴人Bは,本件に
関するH調査官の調査開始以前から修正申告をする決意をしていたものと認めら
れ,また,本件各修正申告がH調査官による問い合わせから約1か月後になされて
いる点は,D税理士のいささか怠慢を思わせる点はあるものの当初の予定からする
とそれほど遅延しているものではなく,本件に関するH調査官の調査開始以前から
の修正申告の決意に基づいて本件各修正申告がなされたものと解することの妨げに
はならない。
 なお,亡A及び被控訴人Bは,本件各確定申告の時点において,これらが過少申
告となることは当然認識していたものであるから,本件に関してH調査官から問い
合わせがあった平成9年3月28日の時点で,将来の更正の可能性を予知したもの
ということができるが,前記のとおり,本件各修正申告の決意はそれ以前になされ
ていたものと認められる本件においては,同事実は前記判断に差違をもたらさな
い。
 控訴人が引用する東京高裁判決の,税務職員がその申告に係る国税についての調
査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒と
なる資料を発見し,これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの
存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性を
もって認められる段階に達した後に,修正申告書の提出がなされたときは,修正申
告の決意は同段階後になされたものと事実上推定すべきであり,この推定を破るた
めには,例えば,調査の着手後でかつ調査が前記段階に至る前に,修正申告の決意
とその内容を税務職員に進んで開示する等のことが必要であると解すべきである旨
の判示は,国税通則法65条5項の適用による過少申告加算税を賦課しないことが
例外的な処置であることからして,傾聴すべきで,事実上の推定をいう点は当裁判
所も異論がないが,事実上の推定を破る事情についての例示は,一つの例であると
いうにすぎず,同推定を破るためには必ず税務職員に対する関係で修正申告の決意
と内容を開示することが必要であると解するものであるとすれば,裁判所の自由な
る心証形成を,特段の法的根拠もなく制限するものであってこれは取り得ないとい
うべきである。」
(17) 原判決25頁11行目の「(なお、被告は」から26頁11行目の「与
えない。」までを,次のとおり改める。
 「被控訴人らは,平成9年3月13日,亡Aが本件各確定申告書に押印するため
にD税理士事務所に来所した際,亡Aの面前で,D税理士が鳥取税務署の資産課税
部門に電話して,後日修正申告する旨を担当の統括国税調査官に伝言してくれるよ
う申し入れたと主張し,これに沿う証人D,証人Gの各証言部分及び亡Aの供述部
分等が存するが,確定申告書の提出前に修正申告する旨を伝えたという点の不自然
さからして,他に客観的裏付けのない前記各証言部分及び供述部分はそのままには
採用できず,認めるには至らない。しかし,同事実は,前記判断に影響を及ぼさな
い。」
(18) 原判決28頁6行目の「(なお、」から9行目の「付言しておく。)」
までを削除する。
(19) 原判決28頁11行目から29頁1行目にかけての「ことは否定できな
い」を削除する。
2 よって,本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとお
り判決する。
広島高等裁判所松江支部
裁判長裁判官 宮本定雄
裁判官 吉波佳希
裁判官 植屋伸一

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