弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、検察官事務取扱検察官検事沢井勉作成名義の控訴趣意書記載
のとおりであり、由控訴趣意に対する弁護人久須美幸松の答弁の趣意は、同弁護人
提出の答弁書記載のとおりであるからここにこれを作用する。
 右控訴趣意第一点(訴訟手続の法令違反)について
 本件記録によると被告人に対する起訴状記載の公訴事実は、「被告人は虻田郡a
村株式会社A工業所の発起人、代表取締役であるが同会社の設立登記の手続を為す
に際し資本金二百万円(株数四万口)の金額払込を仮装するため昭和二十五年五月
初め頃実際右株の払込出資が株主百四十五名位、口数二万千八百四十株金額百九万
二千円であつたので、右B協同組合参事C方に於て同人て対し会社の設立登記をす
ることになつたが銀行から株金払込み済みの証明を貰うにはどうしても百万円資金
が足りないからB協の金を一時融資してくれと申向け其の場に於て同人からB協よ
り金百万円の交付を受け同年五月四日(原審第一回公判期日において五月八日を上
記のとおり訂正)頃b町D銀行E支店に於て右金員の拠托を為し前記株式金社二百
万円の拠託証明得て之を株数四万口、金さ二百万円払込出資したる旨右会社の設立
登記申請書に添付して同年五月八日(上記年月日は前記公判期己日において追加)
札幌法務局留寿都出張所に於て法務事務官Fに提出し同会社の株払込を仮装し以て
資本金の預合をしたものである」というにあるところ、原審第一回公判期日におい
て原審検察官から訴因の追加請求の件と題する書面にもとずき、右起訴状記載の公
訴事実の末尾「資本金の預合を」とめるのに継航して「為し右法務事務官Fに対し
前記株式の資本の総額二百万円の払込済の旨虚偽の申立を為し因て同事務官をして
右留寿都出張所備付の会社登記簿原本の該当欄にその旨不実の記載を為さしめたも
のである」との事実を追加する旨申立て、弁護人はこれに対し本件公訴事実と同一
性がないものであるとして異議を申立てたが、原審は弁護人の右異議申立を却下
し、検察官の右訴因追加の申立を許可したこと、および原審第三回公判期日におい
て原審が右訴因の追加許可決定を取消し、これを却下下る旨の決定をなしたこと洵
に所論のとおりである。
 しかし、訴因の追加は、公訴事実の同一性を害しない限度においてのみなされね
ばならないとする刑事訴訟法第三百十二条第一項の規定に照すと、訴因の追加の許
されるの、予備的又は択一的な訴因の追加の場合と既存の訴因といわゆる科刑上一
罪の関係にある罪の訴因の追加の場合に限られるものと解するを相当とする。
 <要旨第一>本件についてみるに、起訴状記載の公訴事実に関する預合の所為と訴
因の追加請求の件と題する書面記載の事実に関する公正証書原本不実記
載の所為とは、その日時場所等からみても全く別箇になされていることが明らかで
あるから、公正証書原本不実記載の罪の訴因は、所論にいうように預合の訴因と刑
法第五十四条第一項前段にいう観念的競合その他科刑上一罪の関係あると認め得ら
れないのは勿論、両者は元来基本由事実を異にしているから、予備的又は択一的関
係にめる訴因とも到底認め得られない。されば右訴因の追加請求の件と題する書面
記載の追加訴因は、これを起訴状記載の公訴事実に関する訴因に追加することは許
さるべきことではなく、これを許した原審の許可決定は無効というのほかはたい。
この点において原審に訴訟手続についての前記法条違背の廉があるのはともかく、
かかる場合、もとより右決定によつて追加の効果を生ずるものではないから、原審
がその効果発生を前提としてなした右決定の取消決定は、法律上無意味のことに属
し、訴訟手続法令上明文がないからといつて直ちに以て違反ありとはなし難いばか
りでてなく、訴訟手続についての右法条違背も亦すでに説明したところにより判決
に影響をおよぼすものとは認められない。
 結局論旨は理由がない。
 同第二点(審判の請求を受けた事件について判断しない違法)について
 前説示のとおり訴因の追加請求の件と題する書面記載の追加訴因は起訴状記載の
公訴事実に関する訴因に追加し得ず、従つてその審判をなし得ないことも自ら明ら
かである。されば、原審検察官が右追加訴因の審判を請求しようとしたのであれ
ば、原審検察官は、須らくこれを公訴事実として記載した新たな起訴状を原裁判所
に提出しなければならなかつたのであり、右訴因の追加請求の件と題する書面が右
起訴状と看做されないことは本件記録に徴し明らかであり、他に原審検察官から右
起訴状が提出された事跡のない本件にあつては、結局公正証書原本不実記載の罪の
訴因は、原審の請求がなかつたことに帰するから、原審がこれにつき何等審判をし
なかつたのは正当であつて、論旨は理由がない。
 同第三点(法令の適用の誤)について
 <要旨第二>商法第四百九十一条にいう預合とは、会社の発起人又は取締役が株金
払込を仮装するために、払込行為を取扱う金融機関と通謀して真実払込
りないの払込があつにようにしてなすところの偽装行為を指称するものと解するの
を相当とする。従つて本条所定の預合の罪が成立するには、発起人又は取締役と払
込を取扱う金融機関との間こ通謀の存することが必要であるといわねばならない。
本件における公訴事実の要旨とするところは、被告人は株式会社A工業所の発起人
であるが同会社設立にあたり、B協同組合から百万円の融資を受け、これを昭和二
十五年五月四日頃D銀行E支店に前記株式会社A工業所の株金払込金であるかのよ
うに装つて預入れ、同日同銀行支店から株式払込金保管証明書の交付を受けたう
え、同月八日設立登記手続を済して預合したというのであり、原判決挙示の証拠に
よれば、右公訴事実のように、被告人が株式会社A工業所の発起人として、株数四
万口のうち真実二万千八百四十口金額百九万二千円より株金の払込がなく、しかも
会社建物器物購入等の設備費をこのうちから支出し、残額十万円位しかなかつたに
かかわらず設立登記を完了する方便として前記B協同組合およびG信用金庫から各
百万円宛を借り受け、形武上株金全額金二百万円の払込があつたように仮装してH
をして昭和二十五年五月四日金二百万円を前記銀行に払込ませ、同日銀行から株金
払込保管証明書の交付を受けさせたうえ、同月八日その設立登記を完了するや翌九
日該金員の払戻を受けて各貸主に返済していることは認め得られる。従つて被告人
に株金払込を仮装する目的のあつたことは明らかであるが、被告人は前記銀行に対
し、一旦は現実に前記金員を寄託したのであるから、被告人と同銀行との問に株金
払込がないのに払込があつたように仮装するところの偽装行為の通謀があつたとは
なし難い。その他本件記録を精査するも右通謀の事実は認められない本件にあつて
は、前段説示に照して被告人の前叙認定のような行為は、商法第四百九十一条にい
う預合にはあたらないものというべきである。これと同一趣旨にでて、被告人の右
所為につき、右法条を適用処断しないで、被告人に対し無罪の言渡をなした原罰決
は相当であつて、これと別異の観点から原判決を非難する所論は傾聴に値するもの
ではあるが、到底採用し得ない。すなわち原判決には法令の適用に誤はなく、論旨
は理由がない。
 同第四点(事実誤認)について
 <要旨第三>商法第四百九十一条にいう預合の罪の成立につき、すでに金融機関と
の通謀を要するものとする以上、事の性質からいつて、金融機関の行為
につき決定権を有するものすなわち当該金融機関の役職員との間に通謀のある場合
に限るものと解すべきであり、何等決定権なき当該金融機関の単に事務処理に当る
一係員との間における通謀ということは到底考えられないことに属する。金融機関
の役職員以外の者との間にも通謀が成立するものとして事実誤認を主張する所論
は、その前提を欠くから、採用し得ないところであるが、かりに所論にいうように
本件銀行の係員において、被告人の株金払込がいわゆる仮装のものであることを知
つていたとしても、このことから直ちに被告人との間に通謀があつたとは認められ
ないのみたらず、本件記録を精査するも右通謀の成立を認めるに足りる証拠がない
から、原判決には所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条によつて本件控訴を棄却すべきものとし、主
文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛