弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人勅使河原直三郎及同小野清一郎の各上告趣意は末尾添附別紙記載の通りで
ありこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。
 弁護人勅使河原直三郎の上告趣意第一点及同小野清一郎の上告趣意第三点に付て。
 旧刑事訴訟法第四〇三条における「原判決の刑より重き刑を言渡すことを得ず」
というのは言渡刑のみに付ていうものであること既に当裁判所の繰返し判例とする
処でなお変更の要を見ない(昭和二三年一一月一八日言渡同年(れ)第一〇〇八号
事件判決、昭和二三年一二月四日言渡、同年(れ)第八三八号事件判決)論旨は採
用し難い。
 弁護人勅使河原直三郎の上告趣意第二点に付て。
 旧刑事訴訟法第三六〇条第二項は法律上当然加重減免の原由となるべき事項のみ
に関する規定であつて、自首の如きはこれに含まれないこと当裁判所の判例とする
所で変更の要を見ない(昭和二三年四月一〇日言渡昭和二二年(れ)第二七三号事
件判決)論旨は採用するを得ない。
 弁護人勅使河原直三郎の上告趣意第三点及同小野清一郎の上告趣意第二点に付て。
 原審は被告人は被害者が実父であることを認識して居たものと認定したのである
こと判文上明である。しかる以上刑法第三八条第二項を適用しなかつたのは当然で
ある、そして原審挙示の証拠によれば右の事実は充分認め得るものであるから原判
決に違法はない、小野弁護人の第二点は結局原審の採用しない証拠を基礎として原
審の認定を批難するものである。なお刑法第二〇五条第二項の罪においては被害者
が直系尊属たることの認識は旧刑事訴訟法第三六〇条第一項の「罪となるべき事実」
に該るもので、原審はこれを認定した証拠を示して居る、右の認識がなかつたとの
主張は同条第二項の主張ではないからこれに付ては特に右法条の要求する判断を判
文に明示する必要はない、論旨はいずれも理由がない。
 弁護人勅使河原直三郎の上告趣意第四点に付て。
 原審は一応被告人の行為は急迫不正の侵害に対する防衛行為であることを認めた
上、更に防衛の程度を越えたものと認めて刑法第三六条第二項を適用したのである
から判断は示して居るので原判決には所論の様な違法はない。
 同第五点に付て。
 論旨にもいう通り第二審は第一審の認定に拘束されるものではない。新なる証拠
事情の変更なき限り第一審判決を変更してはならないという法則はない、原審は実
父たることの認識があつたものと認定したのであり、原審挙示の証拠によれば其認
定が可能であること前に説示した通りである。
 しかる以上原審が刑法第二〇五条を適用したのは当然で何等正義に反し若しくは
不公平であるということはない(なお憲法第三七条はか様な場合に関するものでな
いことは当裁判所大法廷の判示する所である、(昭和二三年五月五日言渡同二二年
(れ)第一七一号事件大法廷判決)
 同第六点に付て。
 起訴された事実と判決において認定された事実との間に同一性が認められる限り
所論の「審判の請求を受けざる事実に付き判決を為したるとき」に該当するもので
はない、本件においては被告人が実父Aを殺したとの事実が起訴されて居り原審は
其事実を認定したのであるから其間事実の同一性が認められることは勿論で、被害
者が実父であることの認識があつてもなくてもそれにより事実の同一性に変りない
こと勿論である。論旨は理由がない。
 弁護人小野清一郎の上告趣意第一点に付て。
 原審は斧とは気付かず棒様のものと思つたと認定しただけでただの木の棒と思つ
たと認定したのではない、斧はただの木の棒とは比べものにならない重量の有るも
のだからいくら昂奮して居たからといつてもこれを手に持つて殴打する為め振り上
げればそれ相応の重量は手に感じる筈である。当時七四歳(原審認定)の老父(原
審は被害者が実父Aであることの認識があつたと認定して居るのである)が棒を持
つて打つてかかつて来たのに対し斧だけの重量のある棒様のもので頭部を原審認定
の様に乱打した事実はたとえ斧とは気付かなかつたとしてもこれを以て過剰防衛と
認めることは違法とはいえない、論旨は採用し難い。
 よつて上告を理由なしとし刑事訴訟法施行法第二条、旧刑事訴訟法第四四六条に
従い主文の如く判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年四月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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