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平成22年1月29日判決言渡東京簡易裁判所
平成21年(少コ)第3371号解雇予告手当等請求事件(通常手続移行)
口頭弁論終結日平成22年1月15日
判決
主文
1被告は原告に対し,金13万4342円を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを5分し,その4を被告の負担とし,その余を原告の負担と
する。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告は原告に対し,金16万9206円を支払え。
第2事案の概要
1請求原因の要旨
(解雇予告手当)
(1)原告は,平成20年12月1日,被告に以下の条件で雇用された。
(ア)賃金日給9000円
(イ)賃金支払日毎月末日締め翌月5日払い
(2)原告は,平成21年8月20日,被告から同年8月31日限りで解雇す
る旨を通告され,同日解雇された。
(3)原告が解雇される直前3ヶ月間(平成21年5月1日から同年7月31
日までの92日間)に被告から支払われた賃金総額は65万0500円であ
り,これに基づいて期間中の平均賃金を算出し,法定の30日から予告期間
11日を控除した不足期間分の解雇予告手当を計算すると,13万4342
円となる(650,500円÷92日×(30日-11日)=134,342円)。
(休業手当)
(4)原告は平成21年7月22日から同月25日まで,及び同月28日から
同月31日までの合計8日間,被告の指示により休業した。
(5)原告が休業を指示される直前3ヶ月間(平成21年4月1日から同年6
月30日までの91日間)に被告から支払われた賃金総額は66万1000
円であり,これに基づいて期間中の平均賃金を算出し,この期間分の休業手
当を計算すると,3万4864円となる(661,000円÷91日×60%×8日=
34,864円)。
2被告の主張要旨
(1)被告が,平成21年8月20日到達の書面で,同年8月31日限りで原
告を解雇する旨を通告したことは認める。
(2)原告の業績が悪いため,7月初旬頃に給与体系を出来高制に変更しよう
としたが,原告が納得せず,解雇することになった。
(3)被告が休業を指示したことはなく,仕事の割当をしなかっただけである。
(4)原告は,被告が留守電に仕事の連絡を入れても返事をせず,結局仕事に
来なかったことが3,4回はあり,2週間以上連絡が取れない状態があった。
これは正当な理由のない無断欠勤であり,解雇予告制度の除外事由に当たる。
3争いのない事実及び前提事実
(1)本件雇用契約の内容,並びに,被告が平成21年8月20日到達の書面
で,同年8月31日限りで原告を解雇する旨を通告したことは,当事者間に
争いがない。
(2)請求原因の要旨(3)のうち,解雇予告手当の計算にかかる事実は,証拠(甲
8,9,10,原告本人)により認められる。
4本件の争点
(1)本件解雇は原告(労働者)の責めに帰すべき事由によるものか
(2)本件休業は被告(使用者)の責めに帰すべき事由によるものか
第3当裁判所の判断
1本件の事実経過について
争いのない事実,前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実経
過は次のとおりと認められる。
(1)被告はアパート等のハウスクリーニング請負などを業とする会社であり,
原告はその作業員として雇用され,稼働していた。原告被告間の本件労働契
約は,日曜日が休日であるほかは具体的な勤務日が固定的に定められたもの
ではなく,前日夕方までに被告代表者から具体的な仕事の指示(現場,集合
時刻等)があった場合に,これに応じて仕事をし,その労働日数に応じて日
給が支払われるものである(原告本人,被告代表者本人)。
(2)平成21年7月初旬頃に,被告が原告に対し,給与体系を出来高制に変
更することを申し入れたが(甲1),原告はこれを拒否した。その後,3,
4回,被告が留守電に仕事の連絡を入れたにもかかわらず,原告がこれを無
視して連絡せず,行かなかったことがあった。このことが本件解雇の切っ掛
けになった(原告本人,被告代表者本人)。
(3)原告は,同年7月21日に仕事が終わったとき,被告から「明日は休み
だ」と指示され,その後解雇されるまでの間,仕事に来るよう指示されたの
は同月26日に翌27日の仕事の指示を受けた1回だけである(原告本人)。
2争点(1)−本件解雇は原告(労働者)の責めに帰すべき事由によるものか
以上の事実経過を踏まえて,本件解雇が原告の責めに帰すべき事由によるも
のとして解雇予告制度の除外事由(労働基準法20条1項但書)に当たるとみ
るべきか(労働者を保護するに値しないほど重大又は悪質な義務違反ないし背
信行為があるか)について検討する。
(1)原告被告間の本件労働契約は,前記認定のとおり,具体的な勤務日は前
日夕方までに被告代表者から具体的な仕事の指示があった場合に決まるも
のであり,この指示がない限り,原告の労務提供義務は具体的に発生しない
とみるのが相当である。
(2)これを踏まえると,被告が主張する具体的な仕事の指示を無視して出勤
しなかったとするいわゆる無断欠勤は,せいぜい4日間程度(原告は1回だ
けとして争っているが,少なくとも被告主張の3,4回程度は留守電に入れ
るなどして連絡を試みたにもかかわらず原告がこれに反応しなかったこと
が認められる。)であり,除外事由の認定基準(旧労働省の昭和23年11
月11日基発第1637号によれば,「2週間以上正当な理由なく無断欠勤
し,出勤の督促に応じない場合」とされている。)に照らしても,いまだ労
働者を保護するに値しないほど重大又は悪質な義務違反ないし背信行為が
あるとはいえないというべきである。
したがって,解雇予告制度の除外事由に当たるとする被告の主張は認めら
れない。
3争点(2)−本件休業は被告(使用者)の責めに帰すべき事由によるものか
以上の事実経過を踏まえて,本件休業が被告の責めに帰すべき事由によるも
のとして休業手当(労働基準法26条)の請求が認められるか,について検討
する。
(1)労働基準法26条による休業とは,労働契約上労働義務がある時間につ
いて,使用者の責めに帰すべき事由により労働者が労働できなくなった場合
に,労務提供がないにもかかわらず平均賃金の100分の60以上の休業手
当支払義務を使用者に課したものである(ノーワーク・ノーペイの原則の例
外)。
(2)原告被告間の本件労働契約は,前記認定のとおり,被告代表者から具体
的な仕事の指示があった場合にはじめて原告の労務提供義務が具体的に発
生し,その労働日数に応じて日給制により給与が支払われるものである。そ
して,原告が休業を指示されたと主張する各日について被告から具体的な仕
事の指示を受けたとの主張立証はなく,これらの各日については,原告の労
務提供義務が具体的に発生していたとは認められない。そうすると,労働義
務がある時間について,使用者の責めに帰すべき事由により労働者が労働で
きなくなった場合には当たらず,休業手当請求の要件を満たさないといわざ
るを得ない。
4まとめ
以上のとおりであって,解雇予告制度の除外事由に当たるとする被告の主張
は認められず,原告の主張のうち休業手当請求は認められない。結局,原告の
解雇予告手当請求には理由があると認められるのでこれを認容することとし
て,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第9室
裁判官藤岡謙三

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