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平成26年6月6日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成23年(ワ)第29178号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成26年3月12日
判決
東京都港区<以下略>
原告株式会社コナミデジタルエンタテインメント
同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
同北島志保
同訴訟復代理人弁理士望月尚子
東京都港区<以下略>
被告株式会社gloops
同訴訟代理人弁護士田和彦
同高石秀樹
同訴訟代理人弁理士中村佳正
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,5595万1875円及びこれに対する平成23年9
月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,名称を「ネットワークゲーム用サーバ装置,ネットワークゲーム進
行制御方法及びネットワークゲーム進行制御プログラム」とする特許権を有す
る原告が,被告の提供・配信するゲームのアプリケーションがインストールさ
れたサーバ装置が上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して,
被告に対し,特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求として5595
万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事
案である。
2前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,電子応用機器関連のソフトウェアとハードウェアの製造及び販
売並びに通信回線を利用したソフトウェアの提供及び販売等を業とする
株式会社である。
イ被告は,インターネットを活用した情報提供サービス業,インターネッ
トを利用したコンテンツの制作,インターネットを媒介としたコンテンツ
配信,コンピュータシステムの企画,開発,販売及び保守に関する業務等
を業とする株式会社である。
(2)原告の有する特許権
ア原告は,次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい,本件特許権
に係る特許を「本件特許」という。)。
発明の名称ネットワークゲーム用サーバ装置,ネットワークゲーム進行制
御方法及びネットワークゲーム進行制御プログラム
特許番号第3454357号
出願日平成13年7月5日
登録日平成15年7月25日
イ本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面の内容は,別紙特許公報(甲2)
記載のとおりである(ただし,後記(4)記載の訂正がされる前のもの。以下,
上記明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
ウ本件特許の特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲における請求項の数は6であるが,そのうち請求
項1の記載は,別紙特許公報の特許請求の範囲【請求項1】記載のとおりであ
る(以下「本件発明」という。)。
(3)本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの記号
に従い,「構成要件A」などという。)。
Aネットワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの送受
信を行い所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲームを進
行させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,
B複数のゲームの中から1つのゲームをユーザに実行させるためのゲーム
実行手段と,
C-1前記ゲーム実行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応じて
当該ユーザに所定のポイントを付与するポイント付与手段と,
D-1前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じ
て所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与
手段と,
E前記端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが獲得したポイ
ント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段と,
F前記端末装置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求を受
信する対価データ付与要求受信手段と,
G前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データと当該対価
データに対応して定められたポイントとの交換を要求するポイント交換要
求を前記端末装置から受信するポイント交換要求受信手段とを備え,
D-2前記対価データ付与手段は,前記ユーザ情報管理手段によって管理
されているポイントが所定条件を満たす場合に,前記対価データ付与要求
に応じて前記対価データをユーザに付与するとともに,付与された対価デ
ータに対応して定められたポイントを減少させ,
C-2前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて前記ユーザ情
報管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,当該
対価データに相当するポイントをユーザに付与することを特徴とするネッ
トワークゲーム用サーバ装置。
(4)本件訂正請求
ア原告は,被告が提起した特許無効審判請求事件(無効2013-800
190号)において,平成25年12月19日付けで,本件特許の請求項
1について訂正請求をした(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の請求
項1の発明を「本件訂正発明」という。)。本件訂正発明の内容は次のと
おりである(下線部が訂正箇所)。〔乙42,43〕
「ネットワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの送
受信を行い,所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲーム
であってかつ前記価値が異なる複数の対価データが存在するゲームを進行
させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,前記対価データを獲得
するために必要とされるポイントの獲得が可能な複数のゲームの中から1
つのゲームをユーザに実行させるためのゲーム実行手段と,前記ゲーム実
行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに所定の
ポイントを付与するポイント付与手段と,前記ポイント付与手段によって
ユーザに付与された現在のポイントを表すポイント表示部と,対価データ
付与を行うかどうかを選択するメニュー選択部とを含む意思確認画面を前
記端末装置に表示するためのデータを前記端末装置に送信してこれを表示
させた後に,前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイント
に応じて所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価デー
タ付与手段であって,該対価データの獲得に必要なポイントが前記対価デ
ータの価値に応じて異なる対価データ付与手段と,前記端末装置を使用す
るユーザに関連付けて当該ユーザが獲得したポイント及び対価データを管
理するユーザ情報管理手段と,前記端末装置から対価データの付与を要求
する対価データ付与要求を受信する対価データ付与要求受信手段と,前記
ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データの1つを指定する
データを受信し,指定された対価データに対応したポイントを表示するポ
イント表示部とポイント交換を行うかどうかを選択するメニュー選択部と
を含むポイント表示画面を前記端末装置に表示するためのデータを前記端
末装置に送信してこれを表示させた後に,前記ユーザ情報管理手段によっ
て管理されている対価データと当該対価データに対応して定められたポイ
ントとの交換を要求するポイント交換要求を前記端末装置から受信するポ
イント交換要求受信手段とを備え,前記対価データ付与手段は,前記ユー
ザ情報管理手段によって管理されているポイントが前記獲得に必要なポイ
ント以上であることを条件として,前記対価データ付与要求に応じて前記
対価データをユーザに付与するとともに,付与された対価データの価値に
応じて定められたポイントを減少させ,前記ポイント付与手段は,ポイン
ト交換要求に応じて前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価
データを消去するとともに,当該対価データに相当するポイントをユーザ
に付与することを特徴とするネットワークゲーム用サーバ装置。」
イなお,本件において,本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするも
のであって,訂正要件を全て満たすことについて当事者間に争いはない。
(5)本件訂正発明の構成要件の分説
本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞ
れの記号に従い,「構成要件A’」などという。)。
A’ネットワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの
送受信を行い,所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲ
ームであってかつ前記価値が異なる複数の対価データが存在するゲーム
を進行させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,
B’前記対価データを獲得するために必要とされるポイントの獲得が可
能な複数のゲームの中から1つのゲームをユーザに実行させるためのゲ
ーム実行手段と,
C’-1前記ゲーム実行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応
じて当該ユーザに所定のポイントを付与するポイント付与手段と,
D’-1前記ポイント付与手段によってユーザに付与された現在のポイ
ントを表すポイント表示部と,対価データ付与を行うかどうかを選択す
るメニュー選択部とを含む意思確認画面を前記端末装置に表示するため
のデータを前記端末装置に送信してこれを表示させた後に,前記ポイン
ト付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所定の価値を
有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段であって,
該対価データの獲得に必要なポイントが前記対価データの価値に応じて
異なる対価データ付与手段と,
E’前記端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが獲得した
ポイント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段と,
F’前記端末装置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求
を受信する対価データ付与要求受信手段と,
G’前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データの1つ
を指定するデータを受信し,指定された対価データに対応したポイント
を表示するポイント表示部とポイント交換を行うかどうかを選択するメ
ニュー選択部とを含むポイント表示画面を前記端末装置に表示するため
のデータを前記端末装置に送信してこれを表示させた後に,前記ユーザ
情報管理手段によって管理されている対価データと当該対価データに対
応して定められたポイントとの交換を要求するポイント交換要求を前記
端末装置から受信するポイント交換要求受信手段とを備え,
D’-2前記対価データ付与手段は,前記ユーザ情報管理手段によって
管理されているポイントが前記獲得に必要なポイント以上であることを
条件として,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザ
に付与するとともに,付与された対価データの価値に応じて定められた
ポイントを減少させ,
C’-2前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて前記ユー
ザ情報管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,
当該対価データに相当するポイントをユーザに付与することを特徴とす
るネットワークゲーム用サーバ装置。
(6)被告の行為
ア被告は,別紙物件構成説明書記載の被告のサーバ装置(以下「被告サー
バ装置」という。)を使用して,平成23年8月18日頃から,株式会社
ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」という。)が運営する携帯電話等
のプラットフォームである「Mobage」において,プロ野球カードを
題材としたSNSゲームである「大熱狂!!プロ野球カード」(以下「本
件ゲーム」という。)を提供・配信している。
イ被告は,平成25年2月19日,本件ゲームをリニューアルした。
その内容は,別紙物件構成説明書記載の被告サーバ装置の構成と対比
すると,「強化ポイント」が存在せず,2枚の同一選手の選手カードを
融合して強化する場合も何らの「ポイント」も消費しない,というもの
である。
(7)被告サーバ装置における本件発明の構成要件充足性
被告サーバ装置は本件発明の構成要件C-1を充足する。
(8)被告サーバ装置における本件訂正発明の構成要件充足性
被告サーバ装置は本件訂正発明の構成要件C’-1を充足する。
(9)本件発明に先立つ公知技術
本件発明に先立つ公知技術が記載された刊行物として,以下の文献が存在
する。
ア発行所を株式会社エニックスとする「iモード公式ゲームナビ」と題す
る文献(平成12年10月13日発行。乙3。以下「乙3文献」といい,
同文献に係る発明を「乙3発明」という。)
イ発行所をソフトバンクパブリッシング株式会社とする「DIABLOⅡ
公式ガイド日本語版対応」と題する文献(平成12年10月31日発行。
乙25。以下「乙25文献」といい,同文献に係る発明を「乙25発明」
という。)
ウ発行所をソフトバンクパブリッシング株式会社とする「ウルティマオン
ラインザ・セカンドエイジ公式ガイドルネッサンス・エディション
対応版(第4版)」と題する文献(平成13年4月22日刊行。乙26。
以下「乙26文献」といい,同文献に係る発明を「乙26発明」という。)
エ発行所を株式会社勁文社とする「ウルティマオンラインルネッサンス
・エディションオフィシャルガイドブック」と題する文献(平成12年
9月10日刊行。乙28。以下「乙28文献」といい,同文献に係る発明
を「乙28発明」という。)
オ特開2000-116952号公報(平成12年4月25日公開。乙2
9。以下「乙29文献」といい,同文献に係る発明を「乙29発明」とい
う。)
3争点
(1)被告サーバ装置が本件発明の技術的範囲に属するか
ア文言侵害の成否
(ア)構成要件A,D-1,E,F,G,D-2,C-2における「対価デ
ータ」の充足性
(イ)構成要件Bにおける「複数のゲーム」の充足性
イ均等侵害の成否
(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか
ア乙3文献による新規性欠如(特許法29条1項3号)
イ乙3文献を主引例とする進歩性欠如(同法29条2項)
ウ乙25文献による新規性欠如(同法29条1項3号)
エ乙25文献を主引例とする進歩性欠如(同法29条2項)
オ乙26,乙28及び乙29発明をそれぞれ主引例とする進歩性欠如(同
法29条2項)
カ実施可能要件(同法36条4項)違反
キサポート要件(同法36条6項1号)違反
(3)本件訂正による対抗主張の成否
ア本件訂正により争点(2)の無効理由を解消することができるか
イ被告サーバ装置が本件訂正発明の技術的範囲に属するか
(ア)構成要件A’における「価値が異なる複数の対価データが存在するゲ
ーム」の充足性
(イ)構成要件D’-2における「付与された対価データの価値に応じて定
められたポイントを減少させ」の充足性
(ウ)構成要件B’における「複数のゲーム」の充足性
(4)損害発生の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(被告サーバ装置が本件発明の技術的範囲に属するか・文言侵害の
成否)について
〔原告の主張〕
(1)被告サーバ装置の構成について
別紙物件構成説明書記載の被告サーバ装置の構成のうち,本件発明ないし
本件訂正発明と関連する部分の構成は,次のとおりである。
aネットワークを介してユーザが使用する携帯電話との間でデータの送受
信を行い,「強化された選手カード」をユーザに獲得させるゲームを進行
させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,
b「リーグ」,「ミッション」を含む複数の遊びの要素を含む手段の中か
ら一つの遊びの要素を含む手段をユーザに実行させるための「ゲーム実行
部」と,
c-1前記「ゲーム実行部」によってユーザが行ったゲームの結果に応じ
て当該ユーザに「強化ポイント」を付与する「ポイント付与処理部」と,
d-1前記「ポイント付与処理部」によって当該ユーザに付与された「強
化ポイント」から,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選
手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」を減少させること
により,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」
に,当該「ベースカード」の所持カードIDと関連付けられて記憶されて
いるカード経験値を,当該ユーザによって選択された「アシストカード」
による強化によって上昇するカード経験値の分だけ増加させ,強化後のベ
ースカードのカード経験値がレベルアップに必要な閾値に達したときは,
当該ベースカードのカードレベルを上昇させ,当該ベースカードのカード
レベルが上昇したときは,当該ベースカードのユーザ所持カードテーブル
の現在打力,現在走力,現在守備,現在球威,現在制球及び現在投力など
の能力値を上昇させることによって「強化された選手カード」を生成し,
当該「強化された選手カード」を当該ユーザに付与する「強化処理部」と,
e前記端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが獲得した「強
化ポイント」及び「強化された選手カード」を管理する「ユーザ情報管理
部」と,
f前記端末装置から「選手カードの強化」の実行指示を受信する「通信部」
と,
g前記「ユーザ情報管理部」によって管理されている「強化された選手カ
ード」と当該「強化された選手カード」の固定選手カード情報テーブルに
固定カードIDと関連付けられて記憶されている売却価格に対応して定め
られている「売却強化ポイント」との交換を要求する「カード売却」の実
行指示を前記端末装置から受信する「通信部」とを備え,
d-2前記「強化処理部」は,前記「ユーザ情報管理部」によって管理さ
れている「強化ポイント」が,「消費強化ポイント」以上である場合に,
前記「選手カードの強化」の実行指示に応じて前記「強化された選手カー
ド」をユーザに付与するとともに,当該ユーザによって「ベースカード」
に設定された「選手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」
を減少させ,
c-2前記「ポイント付与処理部」は,「カード売却」の実行指示に応じ
て前記「ユーザ情報管理部」によって管理されている「強化された選手カ
ード」を消去するとともに,当該「強化された選手カード」の固定選手カ
ード情報テーブルに固定カードIDと関連付けられて記憶されている売却
価格に相当する「売却強化ポイント」をユーザに付与することを特徴とす
るネットワークゲーム用サーバ装置。
(2)被告サーバ装置が本件発明の構成要件を充足すること
以下のとおり被告サーバ装置は,本件発明の構成要件をいずれも充足する
から,本件発明の技術的範囲に属する。
ア構成要件Aについて
(ア)構成要件Aの「対価データ」は,「ポイント」の対価となる(代償と
して受け取る)「データ」と解されるべきである。構成要件Aの「所定
の価値を有する対価データ」も上記「対価データ」と同じ意味と解され
るべきである。
(イ)本件ゲームにおいて,「ポイント」の代償としてユーザが受け取る関
係にあるカードは,ユーザが「強化」において,所定の「強化ポイント」
を消費して獲得することができる「強化された選手カード」のみである。
本件ゲームにおける「強化された選手カード」の画像の範囲は,選手
の写真画像のみならず,カードレベル(「Lv」),「成長」のパーセ
ントを示す数値とグラフ,「球威」「制球」「投力」等のパラメータを
表示する画像部分も含まれるのであり(下図の赤の破線で囲まれた部分),
以上の表示が「強化された選手カード画像データ」,「強化された選手
カード画像」に該当する。
【図】(省略)
すなわち,本件ゲームでは,「強化」によって,ユーザは自己の所持
する「強化ポイント」から,当該ユーザが「ベースカード」に設定した
「選手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」を失うが,
その代わりに,当該ユーザが「ベースカード」に設定した「選手カード」
のカード経験値が増加し,さらに,強化後のカード経験値が閾値に達し
たときには,当該ベースカードのカードレベルが上昇して,当該ベース
カードの「球威」「制球」「投力」等のパラメータが上昇する,という
対価を得る。そして,これらの対価は,「強化された選手カード」にお
いて,「成長」の数値やグラフとして表示され,「Lv」(カードレベ
ル)や,「球威」「制球」「投力」等が「A」,「B」,「C」等の画
像として,選手の写真画像とともに表示される。このように,ユーザは
「必要強化ポイント」を失う代わりに,新たに「強化された選手カード
画像データ」,「強化された選手カード画像」を獲得する。
この「強化された選手カード画像データ」,「強化された選手カード
画像」が,本件発明の「対価データ」,「所定の価値を有する対価デー
タ」に該当する。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件Aを充足する。
(ウ)また,本件ゲームがプロ野球カードゲームを題材とするSNSゲーム
であることに鑑みても,本件ゲームにおける「強化された選手カード」
の画像の範囲は,選手の写真画像のほか,カードレベル(「Lv」),
「成長」のパーセントを示す数値とグラフ,「球威」「制球」「投力」
等のパラメータを表示する部分も含まれるということができる。
すなわち,カードゲームでは紙などでできた「カード」が実在し,こ
れがユーザ(プレイヤー)に付与されるが,本件ゲームはカードゲーム
を題材とするSNSゲームであり,上記カードに記載されるべき内容が
デジタルデータ化された「強化された選手カード」としての画像データ
が存在し,これがユーザに付与される。カードゲームにおける「カード」
には,カード面上に,イラストが記載されるほか,当該カードの名称,
当該カードのレベル(例えば,星印の数で表示される。),「攻撃力」
や「守備力」といった数値等が記載される。これらの記載は,カードゲ
ームがユーザ(プレイヤー)間において互いに所持するカードで対戦す
るという性質のゲームであることから,「カード」の内容及び価値を特
定するものとして重要な要素である。また,トレーディングカードゲー
ムにおけるトレーディングカードとしてみても,それらの記載は,コレ
クションの対象となる「カード」の視覚的情報に当たるものである。
本件ゲームの「強化された選手カード」にも,①選手の写真画像のみ
ならず,②選手名や「グレート」等のカードの種類,所属するチーム名,
さらに,③カードのレベル(「Lv」),「成長」のパーセントを示す
数値とグラフ,「球威」「制球力」「投力」等のカードの現在の能力値
を示す値が記載されている。
本件ゲームでは,上記③の記載は,その数値等が「強化」によって可
変するため,「強化された選手カード」を強化される前の選手カードと
区別する特徴的部分となっている。本件ゲームでは,ユーザが所持する
選手カードが一覧表示される際には,選手の写真画像とともに上記③の
記載が表示される。ユーザは,同じ選手の写真画像であっても上記③の
記載が異なれば,「強化された選手カード」は強化される前の選手カー
ドとは別のカードと捉えて然るべきである。
また,本件ゲームでは,被告サーバ装置は,ユーザが所持する選手カ
ードの管理のために「固定カードID」のほかに「所持カードID」を
設けており,「所持カードID」ごとに,当該選手カードの上記③の記
載に係る現在の数値等を記録・管理している。このことは,本件ゲーム
が上記③の記載に係る数値等を選手カードの内容として不可欠な情報と
していることを示している。
(エ)本件明細書等の記載を参酌して,本件発明の「対価データ」を「画像
データ」又は「カード画像」に限定して解釈するとしても,本件明細書
等に記載の「画像データ」又は「カード画像」は,ユーザが使用する端
末装置においてユーザが取得したカード画像を表示するカード画像表示
部に表示され,ユーザが端末装置のモニタ等から確認できるものをいう
から,選手の写真画像に限定されるものではない。
本件明細書等の図8の「獲得カード画像表示画面410」には,「画
像表示部412」の範囲内に,★マーク(星印)二つで「このカード画
像の取得難度」,「カードのランク」,又は「カード画像の獲得困難度
(レア度)」を表わすための「カード画像取得難度表示部413」が記
載されている(段落【0105】)。この「カード画像取得難度表示部
413」は,選手の写真画像以外にも,記号やマークといった情報も,
「獲得カード画像」として表示されるカードの「画像」に含まれること
を示している。
さらに,本件明細書等には,カード画像の獲得困難度(レア度)を表
わすものは上記「カード画像取得難度表示部413」が示すマーク(★
マーク)等に限定されず,例えば他のマークやカード画像表示部412
の背景色を変える等によるものであってもよく,また,マークのカード
画像上の位置は限定されておらず,ユーザが携帯電話機のモニタ等から
確認できるものであればよい旨の記載がある(段落【0106】)。
以上の記載のとおり,「カード画像取得難度表示部413」の表示形
式に限定はなく,本件明細書等に記載された「他のマーク」や背景色の
変化は星印以外の表示形式の例示にすぎないから,「カード画像取得難
度表示部413」は,被告ゲームの「強化された選手カード画像」に表
示される「球威」「制球」「投力」等を表す数値等である「B」「E」
「C」等のマークを示す画像,及び「球威」,「618」等の文字形式
で表示される情報も含むということができる。
よって,被告ゲームの「強化された選手カード画像」の範囲から,「B」
「E」「C」等のマーク画像や「球威618」等の文字が表示される
範囲が除外されるべきではない。
そして,上記段落【0106】の記載によれば,「カード画像取得難
度表示部413」が配置されるカード画面上の位置も限定されないから,
被告ゲームにおいてプロ野球選手の写真画像が表示される部分に重なら
ない位置に「B」「E」「C」等のマーク画像や「球威618」等の
文字が表示されてもよいと解される。
また,本件明細書等の段落【0066】には,ユーザはいつでも取得
した「プロ野球選手のカード画像データ」を携帯電話機のモニタ等で電
子アルバムのように閲覧することが可能であるとしか記載されていない
から,本件明細書等は,「対価データ」に相当する上記「プロ野球選手
のカード画像データ」について,携帯電話機のモニタ等で閲覧すること
が可能なデータであること以外に何ら限定を加えていないと解される。
この点,本件明細書等の段落【0064】には,「携帯電話機3で送
受される画像データは例えばGIF形式で圧縮された後,パケットで通
信される。」と記載されているが,サーバの送受信制御部が携帯電話機
等のユーザ端末との間でデータをどのような形式で送受信するかは本件
特許発明の内容と関係がない。また,上記段落【0064】には,「例
えば」と記載されていて例示にすぎないことが明らかであるから,同段
落の記載をもって本件発明の「対価データ」の範囲から文字列を除外す
ることはできない。
(オ)以上のとおり,本件ゲームにおける「強化された選手カード」の画像
の範囲は,選手の写真画像のみならず,当該選手カードの現在の価値,
内容を示す可変の値等が表示された部分,すなわち,カードレベル(「L
v」),「成長」のパーセントを示す数値とグラフ,「球威」「制球」
「投力」等のパラメータを表示する部分が含まれる。
イ構成要件D-1について
被告サーバ装置の構成d-1では,選手カードごとにその選手カードを
強化するために必要な(強化によって消費される)「強化ポイント」が設
定されている。この「強化ポイント」に応じて,「ベースカード」に設定
された「選手カード」に,「能力を引き継ぐカード」に選択された「選手
カード」の能力を引き継がせることによって「強化された選手カード」が
生成されるため,構成d-1の「強化処理部」は構成要件D-1の「対価
データ付与手段」に相当する。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件D-1を充足する。
ウ構成要件Eについて
被告サーバ装置の構成eの「強化ポイント」は構成要件Eの「ポイント」
に相当し,構成eの「強化された選手カード」は構成要件Eの「対価デー
タ」に相当する。
よって,被告サーバ装置は本件発明の構成要件Eを充足する。
エ構成要件Fについて
本件発明の構成要件Fは,「前記端末装置から対価データの付与を要求
する対価データ付与要求を受信する対価データ付与要求受信手段と」とい
うものである。
これに対し,被告サーバ装置の構成fは「前記端末装置から『選手カー
ドの強化』の実行指示を受信する『通信部』と」というものであり,この
『通信部』はユーザ端末からの実行指示を受信する。
よって,被告サーバ装置は本件発明の構成要件Fを充足する。
オ構成要件Gについて
(ア)本件発明の構成要件Gは,「前記ユーザ情報管理手段によって管理さ
れている対価データと当該対価データに対応して定められたポイントと
の交換を要求するポイント交換要求を前記端末装置から受信するポイン
ト交換要求受信手段とを備え」というものである。
これに対し,被告サーバ装置の構成gは,「前記『ユーザ情報管理部』
によって管理されている『強化された選手カード』を含む『選手カード』
と当該『強化された選手カード』を含む『選手カード』に対応して定め
られている『売却強化ポイント』との交換を要求する『カード売却』の
実行指示を前記端末装置から受信する『通信部』とを備え」というもの
であり,被告サーバ装置の「通信部」はユーザ端末から「強化された選
手カード」の売却のような実行指示を受信する。
よって,被告サーバ装置は本件発明の構成要件Gを充足する。
(イ)構成要件Gは,ユーザが「対価データ」を売却し,「ポイント」を得
る場面について規定したものであり,ユーザが「対価データ」を売却す
る場合,売却される「対価データ」の価値と,売却によって得られる「ポ
イント」との間に相関関係がある。
この点に関して被告は,本件ゲームについて,いくら選手カードを強
化しても,その選手カードの売却価格は強化する前と変わらないと主張
する。
しかし,本件ゲームでは,固定カードIDごとに,「コスト」やレア
度といった各カードの価値に応じて,売却によって得られる「ポイント」
が複数の異なる数値に設定されているから,売却される「対価データ」
の価値と,売却によって得られる「ポイント」との間に相関関係がある。
構成要件Gは,売却される「対価データ」の価値を,どのように評価す
るかについてまで限定するものではなく,対価データの価値を「コスト」
やレア度によって評価する場合も含むから,売却によって得られる「ポ
イント」に,売却される対価データのために消費された強化ポイントの
数が反映されないとの一事をもって,売却される「対価データ」の価値
と,売却によって得られる「ポイント」との間の相関関係を否定するこ
とはできない。
カ構成要件D-2について
本件発明の構成要件D-2は,「前記対価データ付与手段は,前記ユーザ
情報管理手段によって管理されているポイントが所定条件を満たす場合に,
前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザに付与するとと
もに,付与された対価データに対応して定められたポイントを減少させ」
というものである。
これに対し,被告サーバ装置の構成d-2は,「前記『強化処理部』は,
前記『ユーザ情報管理部』によって管理されている『強化ポイント』が,
『消費強化ポイント』以上である場合に,前記『選手カードの強化』の実
行指示に応じて前記『強化された選手カード』をユーザに付与するととも
に,前記『強化された選手カード』に対応して定められた『消費強化ポイ
ント』を減少させ」というものである。
よって,被告サーバ装置は本件発明の構成要件D-2を充足する。
キ構成要件C-2について
本件発明の構成要件C-2は,「前記ポイント付与手段は,ポイント交
換要求に応じて前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価デー
タを消去するとともに,当該対価データに相当するポイントをユーザに付
与することを特徴とするネットワークゲーム用サーバ装置」というもので
ある。
これに対し,被告サーバ装置の構成c-2は,「前記『ポイント付与処
理部』は,『カード売却』の実行指示に応じて前記『ユーザ情報管理部』
によって管理されている『強化された選手カード』を消去するとともに,
当該『強化された選手カード』に相当する『売却強化ポイント』をユーザ
に付与することを特徴とするネットワークゲーム用サーバ装置」というも
のである。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件C-2を充足する。
ク構成要件Bについて
(ア)本件発明の構成要件Bは,「複数のゲームの中から1つのゲームをユ
ーザに実行させるためのゲーム実行手段と」というものである。
本件発明の「ゲーム」とは,「所定の価値を有する対価データを獲得
するために必要とされるポイントの獲得が可能なゲーム」をいうのであ
り,勝負の要素を含むことは必要とされていない。
すなわち,「ゲーム」という用語は,一次的には,「あそび。遊戯。」
又は「遊びごと。遊戯。」を意味している。同用語には他に,勝負の要
素を含む用法もあるが,本件特許の出願時における当業者の認識に関し
て当時のテレビゲーム業界をみると,「SLG/シュミレーション」や
「ETC(エトセトラ/その他)」など必ずしも勝負の要素を含まない
ジャンルにおいてゲームが存在していたのであり,本件特許の出願時の
ゲーム業界においては,勝負の要素を含まないものも「ゲーム」として
認識されていたものである。
したがって,本件発明の「ゲーム」は,上記のとおり「あそび」の意
味で理解されることが通常といえる。
(イ)本件ゲームにおいて,「強化された選手カード画像」を獲得するため
に必要とされるポイントは「強化ポイント」であり,この「強化ポイン
ト」はユーザが本件ゲームにおける「試合」(「リーグ」)又は「ミッ
ション」を行うことによって獲得することできる。
したがって,本件ゲームにおける「ミッション」及び「試合」(リー
グ)は,それぞれ本件発明の「ゲーム」に該当する。
よって,被告サーバ装置は本件特許発明の構成要件Bを充足する。
(ウ)この点に関して被告は,本件ゲームにおける「ミッション」及び「リ
ーグ」は,一つのゲームとして有機的一体を構成するものであり,それ
らを単体で「ゲーム」とみることはできないと主張する。
しかし,本件ゲームにおける「ミッション」及び「リーグ」は,それ
ぞれ単体としてユーザが実行することができる手段であって,それぞれ
の手段を実行した結果としてユーザが強化ポイントを獲得するものであ
るから,それらが不可分一体の関係にあるということはできない。
〔被告の主張〕
(1)被告サーバ装置の構成に対する認否
ア構成aにつき
本件ゲームが「強化された選手カード」をユーザに獲得させる,という点
は否認し,その余は認める。本件ゲームの「強化された選手カード」は,ユ
ーザが獲得済みの選手カードについて,その経験値を上げて強化するもので
あり,ユーザが「強化」により獲得するものではない。
イ構成bにつき
否認する。本件ゲームにおいて「リーグ」,「ミッション」はいずれも単
体では「ゲーム」と呼び得るものではない。また,本件ゲームにおける「ゲ
ーム」は,勝負の要素を含むものであり,「遊びの要素を含む」とするのは
誤りである。
ウ構成c-1につき
認める。
エ構成d-1につき
「強化された選手カード」を生成し,当該「強化された選手カード」をユ
ーザに付与する,という点は否認し,その余は認める。上記アのとおり,本
件ゲームの「強化された選手カード」は,ユーザが「強化」により獲得する
ものではない。
オ構成eにつき
「強化された選手カード」が獲得されたものとして管理される,という点
は否認し,その余は認める。上記アのとおり,本件ゲームの「強化された選
手カード」は,ユーザが「強化」により獲得するものではない。
カ構成fにつき
「選手カードの強化」の実行指示について,当該実行指示が原告の主張す
る「強化された選手カード」の付与を要求するものである点は否認し,その
余は認める。当該実行指示は,ユーザが獲得済みの選手カードについて付与
された経験値を上昇させる処理を要求するものである。
キ構成gにつき
「強化された選手カード」が獲得されたものとして管理される,という点
は否認し,その余は認める。上記アのとおり,本件ゲームの「強化された選
手カード」は,ユーザが「強化」により獲得するものではない。
ク構成d-2につき
「選手カードの強化」の実行指示に応じて「強化された選手カード」をユ
ーザに付与する,という点は否認し,その余は認める。上記アのとおり,本
件ゲームの「強化された選手カード」は,「強化」によりユーザに新たに付
与するものではない。
ケ構成c-2につき
「強化された選手カード」が獲得されたものとして管理される,という点
は否認し,その余は認める。上記アのとおり,本件ゲームの「強化された選
手カード」は,ユーザが「強化」により獲得するものではない。
(2)被告サーバ装置の構成要件充足性につき
以下のとおり,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件を文言充足しない
から,本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。
ア構成要件Aにつき
(ア)本件ゲームには「対価データ」が存在しないから,被告サーバ装置は
本件発明の構成要件Aを充足しない。
(イ)本件発明における「対価データ」とは,選手カード,アイドル歌手等
の画像データ(又はカード画像)を意味し,これ以外のものは含まず,
例えば数字や文字列といったものは上記「対価データ」に該当しない。
本件明細書等の発明の詳細な説明をみれば,そのことは明らかである。
すなわち,その段落【0042】に「対価データ(カード画像)」と,
段落【0067】に「カード画像(対価データ)」と記載され,「対価
データ」が画像データと等価のものであることを示している。また,段
落【0064】には,画像データがGIF形式で通信されることが記載
されており,「対価データ」が画像データであって数字や文字列といっ
たものを含まないことを示している。
(ウ)本件ゲームにおいて本件発明の「画像データ(又はカード画像)」に
該当するものは,選手の写真画像のみであり(前記〔原告の主張〕(2)
ア記載の図の黄色の破線で囲まれた部分),経験値や「球威」「制球」
「投力」のようなパラメータは,上記「画像データ(又はカード画像)」
に該当しない。
本件ゲームにおいてユーザが選手カードを獲得する手段は,「ミッシ
ョン」,「ガチャ」及び「ギフト」等であるが,これらの手段において,
強化ポイントが消費されることはない。
そして,「強化」では,ユーザは「強化ポイント」を消費するが,ユ
ーザは「強化された選手カード」を獲得するのではなく,獲得済みの選
手カードを強化する。すなわち,ユーザは「強化ポイント」を消費して,
ベースカードとして選択した選手カードのカード経験値を上昇させるの
であり,さらにカード経験値が閾値に達したときには,当該選手カード
のカードレベルが上昇して「球威」「制球」「投力」等のパラメータが
上昇するが,当該選手カードの画像データや選手カード画像は同一のま
まである。
このように,本件ゲームは,ユーザが「強化」において「強化された
選手カード」を獲得するものではないのであり,したがって,本件ゲー
ムにおいて,選手カード画像は強化ポイントの代償としてユーザに付与
されることはない。
(エ)aこの点に関して原告は,本件明細書等の図8には,★マーク(星印)
が「このカード画像の取得難度」,「カードのランク」,又は「カー
ド画像の獲得困難度(レア度)」を表わすためのものとして,「カー
ド画像取得難度表示部413」が記載されている(段落【0105】)
ことを根拠に,同「カード画像取得難度表示部413」も「獲得カー
ド画像」として表示されるカードの「画像」に含まれるから,選手の
写真画像に限らず,記号やマークといった情報も,「獲得カード画像」
として表示されるカードの「画像」に含まれると主張する。
しかし,本件明細書等の段落【0106】の記載によれば,「カー
ド画像の獲得困難度(レア度)」は画像データである「対価データ」
とは区別されており,「対価データ」とは別物であることが明らかで
あるから,原告の上記主張は前提を欠き,失当である。
bまた,原告は,カードゲームにおけるカードの記載に照らして「画
像」の範囲が上記のとおりであると主張する。
しかし,当該カードは,ゲームを通じて得られるポイントを消費す
ることによって獲得できるものではなく,本件発明の「対価データ」
とは位置付けが全く異なるから,原告の上記主張は失当である。
cさらに,原告は,本件ゲームにおいて固定カードIDのほかに所持
カードIDも存在することをもって強化処理によって新たに「強化さ
れた選手カード」がユーザに付与されると主張する。
しかし,本件ゲームにおいては,ユーザが同一の選手カードを複数
枚所持することができるため,選手カードがユーザに付与されると,
付与された選手カードごとに個別に所持カードIDが生成されるので
あり,強化処理によって所持カードIDが生成されたり,変更された
りすることはないから,原告の上記主張は失当である。
(オ)以上のとおり,本件ゲームは,ユーザが「強化ポイント」を消費して
「強化された選手カード」を獲得するものではない。本件ゲーム,ひい
ては,被告のサーバ装置には,「『ポイント』の『対価』である(代償
として受け取る)『画像データ(又はカード画像)』)」である「対価
データ」は存在しない。
イ構成要件D-1につき
前記アのとおり,本件ゲームには「対価データ」は存在しないから,被
告サーバ装置は,「所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与す
る対価データ付与手段」を備えるものではなく,本件発明の構成要件D-
1を充足しない。
ウ構成要件Eにつき
前記アのとおり,本件ゲームには「対価データ」は存在しないから,被
告サーバ装置は,ユーザが獲得した「対価データを管理」するものではな
く,本件発明の構成要件Eを充足しない。
エ構成要件Fにつき
被告サーバ装置の通信部は,ユーザが操作する端末装置から,DeNA
が管理するGadgetサーバを経由して,「選手カードの強化」の実行
指示を受信するが,その指示は,ユーザが保有する「選手カード」につい
て既に付与された経験値を上昇させる旨の指示であり,「(強化された)
選手カード」(対価データ)の付与の要求ではない。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件Fを充足しない。
オ構成要件Gにつき
(ア)前記アのとおり,本件ゲームには「対価データ」は存在しないから,
被告サーバ装置は,「対価データと当該対価データに対応して定められ
たポイントとの交換を要求するポイント交換要求手段」を備えるもので
はない。
(イ)また,本件ゲームにおいては,選手カードを売却することによって得
られる強化ポイントは,固定選手カードごとに固定の値であり,同一の
種類の選手カードであれば,強化によりカード経験値やカードレベルが
違うものであっても売却価格は同一である。すなわち,本件ゲームでは,
いくら選手カードを強化しても,その選手カードの売却価格は,強化前
から変わることがなく,強化によって上昇した経験値やカードレベルと
は無関係に定められている。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件Gを充足しない。
カ構成要件D-2につき
前記アのとおり,本件ゲームには「対価データ」は存在しないから,被
告サーバ装置は,「前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユ
ーザに付与する」ものではない。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件D-2を充足しない。
キ構成要件C-2につき
前記アのとおり,本件ゲームには「対価データ」は存在しないから,被
告サーバ装置は,本件発明の構成要件C-2を充足しない。
ク構成要件Bにつき
(ア)本件発明における「ゲーム」とは,プレイヤーの選択によって勝負(勝
ち負け。より具体的には,プレイヤーの行動に応じて一定の良い結果又
は悪い結果が生じること)の要素を含むものと解されるべきである。
これを本件ゲームについてみると,「ミッション」は,強化ポイント
や選手カードをユーザに獲得させる機能にすぎず,勝負の要素が存在し
ない。ユーザは,単に当該機能を実行させるだけであり,そこに判断や
選択の要素は存在せず,したがって,ユーザの選択や判断に応じて一定
の良い結果又は悪い結果が生じることがない。
(イ)また,本件発明における「ゲーム」とは,互いに独立してそれ自体が
完結したゲームをいい,他のゲームの不可分な一部分をなすにすぎない
ものを含まない。本件発明の構成要件Bに係る特許請求の範囲の記載を
みると「複数のゲーム」との用語が用いられており,当該用語から,本
件発明の「ゲーム」とは,数えることができるもので,一個のゲームと
呼び得る程度に他から独立したものと解されるから,ゲームのうちある
ゲームの不可分な一部分にすぎず,それ自体を一個のゲームと呼び得る
程度に他から独立したものでないようなものは,本件発明の「ゲーム」
に該当しない。
本件ゲームにおける「試合」及び「ミッション」は,本件ゲームを構
成する有機的一体の一部であり,いずれも独立した1個のゲームとみる
ことはできない。
したがって,被告のサーバ装置は,複数のゲームの中から一つのゲー
ムをユーザに実行させるためのゲーム実行手段を有しているとはいえな
い。
(ウ)よって,本件ゲームには「複数のゲーム」が存在しないから,被告サ
ーバ装置は,本件発明の構成要件Bを充足しない。
2争点(1)イ(被告サーバ装置が本件発明の技術的範囲に属するか・均等侵害の
成否)について
〔原告の主張〕
(1)仮に,被告サーバ装置が進行させる本件ゲームにおいて,「強化された選
手カード画像」が本件発明の「対価データ」に文言上当たらないとしても,
上記「強化された選手カード画像」は本件発明の「対価データ」という構成
と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
ア被告サーバ装置と本件発明の相違点が非本質的部分であること
本件発明の本質的部分は,対価データを扱うネットワークゲームにおい
て次のようなゲーム構造にした点にある。すなわち,サーバ装置が提供す
るものは,ユーザに直接対価を付与するゲームとはせず,対価を獲得する
ために必要なポイントの獲得が可能なゲームとし,これによって,ユーザ
による対価データの無断複製・改竄等の不正行為を確実に防止し,ゲーム
を円滑に運営する,というものである。
そして,本件発明の「対価データ」という構成を,本件ゲームにおける
「強化された選手カード画像」に置き換えたとしても,本件発明の上記本
質的部分に差異はない。
したがって,本件発明における「対価データ」の内容は,本件発明の本
質的部分ではない。
イ置換可能性
本件発明の目的は,ネットワークゲームとして,ユーザに対価データの
獲得を容易に行わせることができるとともに,ユーザに継続的にゲームを
行わせることができるものとし,かかるネットワークゲーム用のサーバ装
置,進行制御方法及び進行制御プログラムを提供することにある。
本件発明の作用効果は,ユーザが獲得可能なものをポイント(所定の価
値を有する対価データを獲得するために必要とされるポイント)とするゲ
ームが複数提供されるため,ユーザに対して対価データの獲得方法を複数
提供できること,前記アのゲーム構造により,ユーザはゲームを行うこと
で,対価データを直接付与されるのではなく,対価データを獲得するため
に必要なポイントを付与されるため,ゲーム進行度合いに応じて対価デー
タの獲得率が向上する等の期待感を高めていくことができるとともに,ユ
ーザ側での複製及び改竄等の不正行為を防止して,ユーザのカード画像に
対する所有意識を満足させながら,ゲームを円滑に運営できる,というも
のである。
本件発明における「対価データ」の内容を本件ゲームの「強化された選
手カード画像」に置き換えても,同一の作用効果を奏するから,その置換
は可能である。
ウ置換容易性
本件発明の「対価データ」の内容が「選手の絵や写真」等に限定される
として,その内容と,経験値等のパラメータ表示を含む本件ゲームの「強
化された選手カード画像」とは,ともにユーザがポイントと交換して獲得
できる対価として共通する。また,本件ゲームの提供時点である平成23
年8月18日頃において,トレーディングカードゲームで,カードの表示
に,人物等の絵や写真のほかに,カードレベルや能力等のパラメータも含
まれているものは,周知であった。
そうすると,当業者にとって,本件ゲームの提供時点において,本件発
明における「対価データ」を本件ゲームの「強化された選手カード画像」
に置き換えることは,容易に想到することができたものである。
エ被告サーバ装置は,本件発明の特許出願時における公知技術と同一のも
のではないし,公知技術から容易に想到できるものでもない。
オ被告サーバ装置は,本件発明の出願手続において,意識的に除外された
ものであるなどの特段の事情はない。
(2)以上のとおり,前記第2,1(6)の被告の行為は本件特許権を侵害する。
〔被告の主張〕
(1)そもそも,均等侵害に関する原告の主張は,その前提として,本件ゲーム
が,「強化」により,選手の写真画像のほかに経験値等のパラメータ等を含
む「強化された選手カード画像」をユーザに付与するものであることを前提
とするものである。
しかし,本件ゲームは,強化によって新たな選手カードをユーザに付与す
るものとしていないのであり,「強化された選手カード画像」がユーザに「付
与」されることはない。
したがって,原告の主張は,前提を欠き,失当である。
(2)また,以下のとおり,本件ゲームの「強化された選手カード」が本件発明
の「対価データ」と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するもの
ではない。
ア発明の本質的部分につき
本件発明は,最終目標を画像データの獲得・収集とするゲームにおいて,
ユーザにゲームをする動機付けをすることを目的とするから,本件発明に
おける「対価データ」は,その収集が最終目標となるような画像データで
あることを,その本質的部分とする。
これに対して本件ゲームにおいては,「強化された選手カード」は,そ
れらを収集することが最終目標とされておらず,それらをさらに強化する
ことが想定されており,本件発明の「対価データ」とはその本質的部分に
おいて異なる。
イ置換可能性につき
本件発明の作用効果は,ユーザをして,画像データの獲得・収集を最終
目標とするゲームを継続的に行わせることにある。
これに対して,本件ゲームは,「強化された選手カード」を獲得・収集
することに止まらず,さらに強化することが想定されており,ユーザが「ミ
ッション」をより多く行うことがあるとしても,それは,既に有している
選手カードを強化するために行うものであり,上記の本件発明の作用効果
とは本質的に異なるものである。
ウ本件ゲーム,ひいては被告サーバ装置は,本件発明の特許出願時におけ
る公知技術から容易に推考できたものである。
3争点(2)ア(乙3文献による新規性欠如)について
〔被告の主張〕
以下のとおり,本件発明は,本件発明の特許出願日(平成13年7月5日)
より前である平成12年10月13日に頒布された刊行物である乙3文献に記
載された乙3発明と同一の発明であって,新規性を欠くから,特許法29条1
項3号により特許を受けることができず,本件特許は同法123条1項2号に
より特許無効審判により無効とされるべきものである。
(1)乙3発明の内容
乙3文献には,以下の発明が記載されている。
「ユーザが使用する携帯電話及びネットワークを介して前記携帯電話と
の間でデータの送受信を行うサーバ装置からなる,『グランカジノ』や『カ
ードのほこら』を含む『ドラゴンクエストNET』を進行させるネットワ
ークゲーム用システムであって,
クレーンで吊り上げるスライムの色を予想し,予想を当てると一定のゴ
ールドを手に入れることができる『スライムキャッチャー』,
ゴールドを払ってモンスターと戦い,勝利を収めると一定のゴールドを
手に入れることができる『格闘場』,
カードを購入したり,手カードを売りに出せる『のみの市』,
カードの売買やカードを見ることができる『グランマーズの館』,
今自分がどれだけゴールドを持っているか,プレイを始めて何日たった
かなどの情報を見ることができる『ランキング』,
いつ登場するかわからない『隠しゲーム』,
賭け金を消費して絵柄を揃えると一定のゴールドを手に入れることがで
きる『モンスターロット』,
賭け金を消費してモンスターが唱える呪文の合計値が15を超えるかを
予想し,予想が当たると一定のゴールドを手に入れることができる『ホイ
ミでHI&LOW』,
賭け金を消費してモンスターの隠れ場所を予想し,予想が当たると一定
のゴールドを手に入れることができる『スライムハット』
の各機能を実現する手段を備えたネットワークゲーム用システム。」
(2)本件発明と乙3発明との対比
ア構成要件Aについて
乙3発明の「携帯電話」は,本件発明の「端末装置」に,乙3発明の「ゴ
ールド」は本件発明の「ポイント」に,乙3発明の「カード」は本件発明
の「所定の価値を有する対価データ」及び「対価データ」にそれぞれ相当
する。
したがって,乙3発明のサイト「ドラゴンクエストNET」(以下「乙
3サイト」という。)の「ネットワークを介してユーザが使用する携帯電
話との間でデータの送受信を行うネットワークゲーム用サーバ装置」は,
本件発明の構成要件Aの「ネットワークを介してユーザが使用する端末装
置との間でデータの送受信を行い所定の価値を有する対価データをユーザ
に獲得させるゲームを進行させるネットワークゲーム用サーバ装置」に相
当する。
イ構成要件Bについて
乙3サイトは,「スライムキャッチャー」を含む「グランカジノ」や,
「格闘場」を含む「カードのほこら」の各ネットワークゲームをユーザに
提供するものであり,乙3サイトの「ネットワークゲーム用サーバ装置」
は,本件発明の構成要件Bの「複数のゲームの中から1つのゲームをユー
ザに実行させるためのゲーム実行手段」に相当する。
ウ構成要件C-1について
乙3発明の「格闘場」は,携帯電話を使用するユーザが「モンスターと
戦い,勝利を収めると一定のゴールドを手に入れることができる」もので
あり,これを実現する手段を備える乙3サイトの「ネットワークゲーム用
サーバ装置」は,本件発明の構成要件C-1の「前記ゲーム実行手段によ
ってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに所定のポイントを
付与するポイント付与手段」に相当する。
エ構成要件D-1について
乙3発明の「のみの市」や「グランマーズの館」は,携帯電話を使用す
るユーザがカードを購入することができ,カードを購入する際にゴールド
を用いるものであることは明らかであり,これを実現する手段を備える乙
3サイトの「ネットワークゲーム用サーバ装置」は,本件発明の構成要件
D-1の「前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに
応じて所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ
付与手段」に相当する。
オ構成要件Eについて
乙3サイトの「ネットワークゲーム用サーバ装置」は,ゲームプログラ
ムに利用される各種データ(ユーザ情報や,ユーザ情報に関連付けられた
ゲームデータ等)を管理する。かかる「ネットワークゲーム用サーバ装置」
は,本件発明の構成要件Eの「前記端末装置を使用するユーザに関連付け
て当該ユーザが獲得したポイント及び対価データを管理するユーザ情報管
理手段」に相当する。
カ構成要件Fについて
乙3発明の「のみの市」や「グランマーズの館」は携帯電話を使用する
ユーザがカードを購入することができるものであり,その操作情報は乙3
サイトの「ネットワークゲーム用サーバ装置」が受信する。かかる「ネッ
トワークゲーム用サーバ装置」は,本件発明の構成要件Fの「前記端末装
置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求を受信する対価デ
ータ付与要求受信手段」に相当する。
キ構成要件Gについて
乙3発明の「のみの市」や「グランマーズの館」は携帯電話を使用する
ユーザがカードを売却してゴールドに戻すことができるものであり,その
操作情報は乙3サイトの「ネットワークゲーム用サーバ装置」が受信し,
また,ユーザと関連付けられたゴールドやカード等のデータを当該「ネッ
トワークゲーム用サーバ装置」が管理している。かかる「ネットワークゲ
ーム用サーバ装置」は,本件発明の構成要件Gの「前記ユーザ情報管理手
段によって管理されている対価データと当該対価データに対応して定めら
れたポイントとの交換を要求するポイント交換要求を前記端末装置から受
信するポイント交換要求受信手段」に相当する。
ク構成要件D-2及びC-2について
乙3発明の「のみの市」や「グランマーズの館」は携帯電話を使用する
ユーザがカードを購入することができ,その際にゴールドを用いるもので
あり,また,自身の所持するカードの中から売却したいカードを所定の値
段で売却してゴールドに戻すことができるものである。そして,ユーザと
関連付けられたゴールドやカード等のデータを乙3サイトの「ネットワー
クゲーム用サーバ装置」が管理している。かかる「ネットワークゲーム用
サーバ装置」は,本件発明の「対価データ付与手段」であり,構成要件D
-2の「前記ユーザ情報管理手段によって管理されているポイントが所定
条件を満たす場合に,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データを
ユーザに付与するとともに,付与された対価データに対応して定められた
ポイントを減少させ」る機能を備える。また,当該「ネットワークゲーム
用サーバ装置」は,本件発明の「ポイント付与手段」であり,構成要件C
-2の「ポイント交換要求に応じて前記ユーザ情報管理手段によって管理
されている対価データを消去するとともに,当該対価データに相当するポ
イントをユーザに付与する」機能を備える。
〔原告の主張〕
(1)被告の主張に対する認否
被告の主張は否認ないし争う。
(2)本件発明と乙3発明との対比
ア構成要件Aにつき
乙3文献には,「ドラゴンクエストNET」が「サーバ装置」であるこ
と,及び「ドラゴンクエストNET」のサーバ側や携帯端末側でどのよう
な情報処理が行われているかについては記載されていない。
したがって,乙3文献には,携帯電話の端末側からの操作情報をネット
ワークを介して受信し,前記操作情報に基づいてゲームプログラムを実行
し,前記実行した結果をネットワークを介して携帯電話の端末側に出力し,
前記ゲームプログラムに使用される各種データ(ユーザ情報や,ユーザ情
報に関連付けられたゲームデータ等)を管理するという動作が「ドラゴン
クエストNET」のサーバ側で管理・実行されていることは記載されてい
ない。
また,本件発明の「所定の価値を有する対価データ」及び「対価データ」
とは,本件発明の「ポイント」の対価としてユーザに付与されるものをい
い,「ポイント」を対価として消費することなくユーザに付与され得るも
のを含まないから,本件発明における「対価データ」は,「ポイント」を
獲得するための「ゲーム」を行うことで直接付与されるものを含まない。
これに対し,乙3文献には,例えばユーザが「カードのほこら」でフィー
ルドを探索しているときに遭遇したモンスターと戦い,勝つことによって,
ユーザは「ゴールド」を対価として消費することなく,「カード」を直接
付与されることが記載されている。しかし,このようにゲームを行うこと
で直接付与される「カード」は本件発明の「対価データ」に当たらない。
したがって,乙3発明の「カード」は本件発明の「所定の価値を有する
対価データ」及び「対価データ」に当たらない。
よって,乙3文献には本件発明の構成要件Aに相当する構成が開示され
ていない。
イ構成要件Bにつき
本件発明に記載された「ゲーム」においては,ユーザに直接付与するの
は中間物である「ポイント」とし,ユーザが最終的に獲得を目指す対象で
ある「対価データ」は,ユーザが集めた「ポイント」との交換によっての
み獲得することができる,という構造を有するゲームである。これに対し,
乙3発明において,ユーザは「ポイント」の交換によらずに「カードのほ
こら」でカードを直接獲得できる。したがって,乙3発明には上記「ゲー
ム」に当たらない。
よって,乙3文献には,本件発明の構成要件Bに相当する構成が開示さ
れていない。
ウ構成要件E及びGにつき
以下のとおり,乙3文献には本件発明の構成要件E及びGに相当する構
成が開示されていない。
(ア)乙3文献に開示されている「のみの市」や「グランマーズの館」で行
うことができる「カードの売買」という処理は,単に乙3発明において
「ドラゴンクエストNET」側でユーザの情報とカードの情報とが対応
付けられていることを開示するにすぎず,「ドラゴンクエストNET」
のサーバ側で「当該ユーザが獲得したポイント及び対価データを管理す
る」ことについては開示されていない。
乙3発明の「ドラゴンクエストNET」において提供されるコンテン
ツはiモードゲームであるところ,本件特許出願当時のiモードゲーム
には,ユーザがプレイしたいゲームのコンテンツを最初に一括して自己
の携帯電話にダウンロードし,その後はユーザの携帯電話にダウンロー
ドされ保存されたゲームコンテンツの範囲内でユーザがゲームを実行す
ることができ,再度コンテンツの提供を受けたサイトに接続する必要の
ないゲームが多く存在した。このことに照らすと,乙3発明の「ドラゴ
ンクエストNET」において提供されるコンテンツも,上記のようなi
モードゲームであった可能性は否定できない。
本件発明は,構成要件Eを備えることによって,「ユーザが獲得した」
「ポイント」のみならず,「対価データ」もサーバ装置側で「管理」す
ることによって,対価データの複製及び改竄等のユーザの不正行為を確
実に防止し,ネットワークゲームを円滑に運営することができる,とい
う本件発明に特有の効果を奏する。これに対して,乙3文献には,ユー
ザが獲得した「カード」をユーザ側で複製及び改竄する等の不正行為を
確実に防止することができる程度の「管理」が「ドラゴンクエストNE
T」のサーバ側で行われていることは開示されていない。
したがって,乙3文献には,本件発明の構成要件Eに対応する構成が
開示されていない。
(イ)同様に,乙3文献には,本件発明の構成要件Gのうち,「前記ユーザ
情報管理手段によって管理されている対価データ」という構成が開示さ
れていない。また,本件発明の構成要件Gには,「対価データと当該対
価データに対応して定められたポイントとの交換を要求する」という記
載があり,対価データとの交換において必要とされるポイントの数が,
対価データに対応して定められていることが規定されている。しかし,
乙3発明では,「グランマーズの館」では,カードの種類に関わらず全
てのカードが一律のポイント数でサーバ側で買い取ってもらう構成とな
っており,「のみの市」では,売値が言い値で決定される構成となって
おり,いずれも対価データの価値がポイントに基づいて評価されていな
い。
したがって,乙3文献には,本件発明の構成要件Gに対応する構成が
開示されていない。
エ構成要件Fにつき
乙3文献には,「のみの市」や「グランマーズの館」でカードの売買を
行うことができるとの記載があるとはいえ,その記載のみでは,「対価デ
ータ付与要求受信手段」がサーバ上に備えられていることは明らかでない。
したがって,乙3文献には,本件発明の構成要件Fに対応する構成が開
示されていない。
オ構成要件D-2及びC-2につき
乙3文献の上記エの記載のみでは,「対価データ付与手段」及び「ポイ
ント付与手段」が構成要件D-2及びC-2に記載の各機能を備えている
ことは明らかでない。
したがって,乙3文献には,本件発明の構成要件D-2及びC-2に対
応する構成が開示されていない。
カ小括
よって,本件発明は乙3発明と同一ではない。
4争点(2)イ(乙3文献を主引例とする進歩性欠如)について
〔被告の主張〕
(1)仮に本件発明に乙3文献に記載のない事項があるとしても,本件発明は,
乙3発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも
のであり,進歩性を欠くから,本件特許は特許法29条2項により特許を受
けることができず,同法123条1項2号により特許無効審判により無効と
されるべきものに当たる。
ア乙3発明の内容
乙3発明の内容は,前記3(1)記載のとおりである。
イ乙3発明と本件発明との対比
(ア)構成要件Aについて
乙3発明の「携帯電話」は本件発明の「端末装置」に,乙3発明の「ゴ
ールド」は本件発明の「ポイント」に,乙3発明の「カード」は本件発
明の「所定の価値を有する対価データ」及び「対価データ」にそれぞれ
相当する。
他方,乙3発明の「ドラゴンクエストNET」が携帯電話及び前記携
帯電話との間でネットワークを通じてデータの送受信を行うサーバ装置
からなるネットワークゲーム用システムによって実現されるが,乙3発
明のネットワークゲーム用システムが本件発明の「ゲームを進行させる
ネットワークゲーム用サーバ装置」に相当し得るか否かは,乙3文献の
記載のみからは明らかではない。
(イ)構成要件B,C-1,D-1,E,F,G,D-2及びC-2につい

構成要件A以外の構成要件B,C-1,D-1,E,F,G,D-2
及びC-2について,乙3発明がそれぞれの構成要件に対応する構成を
備えていることは,前記3〔被告の主張〕(2)のとおりである。
ウ乙3発明と本件発明の相違点
上記イのとおり,乙3発明と本件発明に相違点があるとすれば,次のと
おりである。
【相違点1】
本件発明では,ネットワークゲーム用サーバ装置が「ゲーム実行手段」,
「ポイント付与手段」,「対価データ付与手段」,「ユーザ情報管理手段」,
「対価データ付与要求受信手段」及び「ポイント交換要求受信手段」を備
えているが,これに対して乙3発明では,ネットワークゲーム用システム
のうち,サーバ装置がこれらの手段を全て備えるのか,それとも,これら
の手段のうち一部を,サーバ装置でなくユーザが使用する端末装置が備え
るのかについて特定していない点。
【相違点2】
本件発明では,「端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが
獲得したポイント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段」を備え,
「端末装置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求を受信す
る対価データ付与要求受信手段と,ユーザ情報管理手段によって管理され
ている対価データと対価データに対応して定められたポイントとの交換を
要求するポイント交換要求を端末装置から受信するポイント交換要求受信
手段とを備え」るのに対して,乙3発明ではそのような構成が備わってい
るのか不明であり,また,本件発明では,「前記対価データ付与手段は,
前記ユーザ情報管理手段によって管理されているポイントが所定条件を満
たす場合に,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザに
付与するとともに,付与された対価データに対応して定められたポイント
を減少させ,前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて前記ユ
ーザ情報管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,
当該対価データに相当するポイントをユーザに付与する」のに対して,乙
3発明には,ポイント及び対価データが前記ユーザ情報管理手段によって
管理されているとの構成が存在しない点。
エ相違点1の検討
以下のとおり,上記ウの相違点に係る構成は,乙8の8ないし24に記
載されているように周知技術にすぎず,乙3発明に同相違点に係る構成を
備えるようにすることは当業者が容易に想到できたというべきである。
すなわち,本件特許の出願日(平成13年7月5日)以前において,ゲ
ーム実行手段と,当該ゲーム実行手段による対価の獲得と,当該対価を管
理するユーザ情報管理手段と,当該対価を処理する手段がいずれもサーバ
装置に備わったネットワークゲームとして,「ウルティマオンライン」が,
発行所をソフトバンクパブリッシング株式会社とする「ウルティマオンラ
インザ・セカンドエイジ公式ガイドルネッサンス・エディション対
応版」と題する文献(平成12年11月17日発行。乙8の8。以下「乙
8の8文献」という。)に記載されるとともに,乙3文献の発行日以前に
運用され,当業者に広く知られていた。また,上記各手段をサーバ装置に
備えたネットワークゲームである「DIABLOⅡ」が,発行所をソフ
トバンクパブリッシング株式会社とする「DIABLOⅡ公式ガイド
日本語版対応」と題する文献(平成12年10月31日発行。乙8の14。
以下「乙8の14文献」という。)に記載されるとともに,乙3文献の発
行日以前に運用され,当業者に広く知られていた。ほかに,「聖魔大戦ミ
スティック・グラップル」が,発行所を株式会社エニックスとする「iモ
ード公式ゲームナビ」と題する文献(平成12年10月13日発行。乙3
の2。以下「乙3の2文献」という。)に記載されるとともに,乙3文献
の発行日以前に運用され,当業者に広く知られていた。さらに,上記ゲー
ム以外にも,ネットワークゲームにおいてゲームの進行とデータの管理を
サーバで行う構成は,当業者に広く知られていた。加えて,本件特許の出
願日より前に,ネットワークゲームにおいてゲームの進行とデータ管理を
サーバで行う構成は,多数の特許文献に開示されていた。したがって,上
記各手段をサーバ装置に備えたネットワークゲームは,当業者にとって周
知であった。
そうすると,当業者であれば,ネットワークゲームにおいて,上記各手
段を全てネットワークゲーム用サーバ装置に備えるようにすることは,当
業者が容易に想到できる。
オ相違点2の検討
サーバ側でゲームの処理を行う際には,サーバに対してゲームのユーザ
が複数となることから,サーバ側にユーザに関連付けて当該ユーザが獲得
したポイント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段を備えると
ともに,対価データ付与要求受信手段やポイント交換要求受信手段をサー
バ側に備えることは自明であるから,それらの手段をサーバ側に設けるこ
とは当業者が容易に想到することができる。併せて,ポイントと対価デー
タについても,ユーザ情報管理手段により管理される構成とすることも当
業者が容易に想到することができる。
(2)小括
以上のとおり,本件発明は乙3発明及び当業者に周知な技術事項に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は特許法2
9条2項に違反し,同法123条1項2号により特許無効審判により無効と
されるべきものに当たる。
〔原告の主張〕
(1)本件発明と乙3発明との間で,乙3発明の「スライムキャッチャー」等が
本件発明の「ゲーム」に,「ゴールド」が「ポイント」にそれぞれ相当する
ことは認め,その余は否認ないし争う。
(2)相違点1につき
ア被告が主張する相違点1について,当該相違点に係る構成は周知技術で
はない。
すなわち,乙8の8文献には,ユーザに付与された「ポイント」に応じ
て「戦利品」,「宝」,「宝箱」,「財宝」又は「アイテム」等の対価が
ユーザに付与されることは記載されていない。乙8の14文献も同様に,
ユーザに付与された「ポイント」に応じて「経験値」,「ゴールド」,「ア
イテム」等の対価データがユーザに付与されることは記載されていない。
また,乙3の2文献には,ユーザに付与された「ポイント」に応じて「資
金」がユーザに付与されることは記載されておらず,ユーザに付与された
「資金」,「アイテム」又は資金によって購入した「必殺技」等のデータ
情報や,「エリアマスター」ではないプレイヤーの情報等がサーバ装置側
で管理されているかどうかは記載されていない。加えて,ユーザが「ポイ
ント」を消費して「資金」を購入する処理や,ユーザが「資金」を売却し
て「ポイント」に戻す処理がいずれも記載されていない。
被告が提出する以上三つの文献にはいずれも,ポイントとの交換によっ
てユーザに対価データを付与する,という本件発明に係るゲーム構造が記
載されておらず,対価データがサーバ側で管理保存されることが開示され
ていない。
その余の被告が提出する文献を見ても,ポイントとの交換によってユー
ザに対価データを付与するという本件発明に係るゲーム構造が記載されて
おらず,ユーザが「ポイント」を消費して「対価データ」を購入する処理
や,ユーザが「対価データ」を売却して「ポイント」に戻す処理も記載さ
れていない。
したがって,ネットワークゲームについて,ネットワークゲーム用サー
バ装置が「ゲーム実行手段」,「ポイント付与手段」,「対価データ付与
手段」,「ユーザ情報管理手段」,「ポイント交換要求受信手段」及び「対
価データ付与要求受信手段」の六つの各手段をいずれも備えたものが,当
業者にとって周知であったとは認められない。
イよって,当業者は乙3発明に基づいて,上記各手段をいずれもネットワ
ークゲーム用サーバ装置に備える構成とすることは想到できない。
(3)相違点2につき
アまた,被告が主張する相違点2が存在するとしても,以下のとおり,
乙3文献を主引例とする進歩性欠如は認められない。
イ「カードのほこら」(その中に含まれる「のみの市」及び「グランマー
ズの館」)はカードを売ることができるものであるが,カードの価値に応
じたゴールドを付与しないので,本件発明のように「・・・対価データに
相当するポイントをユーザに付与」するものではない。ほかに,本件発明
の「対価データ」や「ゲーム」に相当するものは乙3発明には存在しない。
ウさらに,被告が主張する周知技術を前提にし,乙3発明に当該周知技術
を組み合わせたとしても,本件発明のように「対価データ」をサーバ側で
管理保存するかどうかが明らかでない,という相違点(以下「相違点A」
という。)が残る。
すなわち,ネットワークゲームにおいて,サーバ側でゲームの処理を行
うことが本件特許の出願時に公知であったとして,それでもなお,「対価
データ」をサーバ側で管理保存するか,端末装置側で管理保存するかとい
う選択肢が残されている。本件特許の出願時の貧弱な通信環境においては,
端末装置側で管理保存することが自然であり,当時の公知技術で「対価デ
ータ」をサーバ側で管理保存する例は存在しなかった。本件発明のように
ユーザが多種多様の「対価データ」を獲得・保存することが予定されてい
る場合には,サーバ側で「対価データ」を管理保存することは,「対価デ
ータ」の一覧性を実現するには困難が生じる。
したがって,当業者において相違点Aを埋めることはできず,本件発明
の進歩性を否定することはできない。
エまた,乙3発明は,「グランマーズの館」におけるカードの売却価格は
一律であり,「のみの市」では言い値であり,本件発明のように「対価デ
ータに相当するポイント」がユーザに付与されない。
したがって,乙3発明のゲームは,「ポイント交換要求に応じて前記ユ
ーザ情報管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,
当該対価データに相当するポイントをユーザに付与する」構成を備えてい
ない。
そうすると,乙3発明は,「ユーザに付与されたポイントに応じて所定
の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段」
も存在せず,よって,「対価データをユーザに獲得させるゲーム」,「対
価データ付与手段」,「ユーザ情報管理手段」,「対価データ付与要求受
信手段」,「ポイント交換要求受信手段」の全てが欠如している(以下,
この相違点を「相違点B」という。)。
そして,本件発明は,その構成により,作用効果として,ユーザがゲー
ム進行度合いに応じて対価データの獲得率が向上する等の期待感を高めて
いくことができ,さらにポイントを貯めて所望のカード画像を獲得しよう
という動機付けになる,といった顕著な効果を奏するようにしたものであ
る。
したがって,当業者において相違点Bに係る構成を容易に想到すること
はできず,本件発明の進歩性を否定することはできない。
5争点(2)ウ(乙25文献による新規性欠如)について
〔被告の主張〕
以下のとおり,本件発明は,本件発明の特許出願日(平成13年7月5日)
より前である平成12年10月31日に頒布された刊行物である乙25文献に
係る発明である乙25発明と同一の発明であって,新規性を欠くから,特許法
29条1項3号により特許を受けることができず,本件特許は同法123条1
項2号により特許無効審判により無効とされるべきものに当たる。
(1)乙25文献には,本件発明の構成要件の全てに相当する構成が記載されて
いる。
すなわち,乙25発明と本件発明を対比すると,乙25発明の「アイテム」
は本件発明の「対価データ」に相当し,以下同様に,サーバ「Realm(レ
ルム)」(以下「乙25サーバ」という。)によって,複数の街やダンジョ
ンを舞台に少なくとも21のクエストをゲームとしてユーザに提供する「デ
ィアブロⅡ」(以下「乙25ゲーム」という。)は「ネットワークを介して
ユーザが使用する端末装置との間でデータの送受信を行い所定の価値を有す
る対価データをユーザに獲得させるゲーム(大)」に,上記の21のクエス
トの各々は,「ゲーム(小)」に,「ゴールド」は「ポイント」にそれぞれ
相当する。さらに,「売買画面」を介したアイテム等の売買処理は,購入す
る場合は手持ちのゴールドが購入できる程度に十分ある場合にゴールドをア
イテムの対価として支払うことになるから,そのことはシステムとして「ポ
イントが所定条件を満たす場合に」「対価データをユーザに付与するととも
に,付与された対価データに対応して定められたポイントを減少させ」る点
に,「売買画面」を介したアイテム等の売買処理は,アイテムを売ることが
できるものであり,そのことはシステムとして「ポイント交換要求に応じて」
「対価データを消去するとともに対価データに相当するポイントをユーザに
付与」する点に,それぞれ相当する。
さらに,乙25発明は,乙25ゲームが乙25サーバによって提供される
ゲームであることから,サーバ装置に「ゲーム実行手段」を備えている。ま
た,乙25ゲームは,ユーザがゴールドを手に入れることができるから,乙
25発明では,サーバ装置に「ポイント付与手段」を備えることは明らかで
あり,ユーザがゴールドによりアイテムを購入し,またアイテムを売却して
ゴールドに替えることができるから,乙25発明では,サーバ装置に「対価
データ付与手段」,並びに,アイテム売却による「ポイント付与手段」を備
えることも明らかである。
よって,乙25発明は,本件発明の構成要件の全てに相当する構成を備え
ている。
(2)また,乙25発明は,乙25サーバによって提供されるネットワークゲ
ームのシステムであるから,本件発明の「ネットワークゲーム用サーバ装置」
と「ネットワークゲーム用システム」である点で共通する。なお,念のため
に言及すると,乙25発明においても,ユーザに対価データの獲得を容易に
行わせるとともに,ユーザに継続的にゲームを行わせることができるネット
ワークゲーム用サーバ装置等を提供できるという作用効果を奏する。
(3)そうすると,本件発明が乙25発明と同一であることは明らかである。
〔原告の主張〕
上記〔被告の主張〕のうち,乙25発明と本件発明の対比のうち,「クエ
スト」が「ゲーム(小)」に,「ゴールド」が「ポイント」にそれぞれ相当
すること,「アイテム」が「対価データ」に該当することは認め,その余は
全て否認する。
乙3発明と本件発明の対比と同様,本件発明では「対価データ」がサーバ
側で管理保存されるが,乙25発明はそのような構成ではない(相違点A)。
すなわち,乙25ゲームでは「アイテム」はPC上で管理・保管される。
乙25サーバは,あくまで対戦サービスを提供するだけであり,「売買画面」
が同サーバによって生成されないから,同サーバに「ポイント付与手段」,
「対価データ付与手段」,「ユーザ情報管理手段」,「対価データ付与要求
受信手段」,「ポイント交換要求受信手段」は存在しない。
よって,本件発明と乙25発明とは相違点Aにおいて相違する。
また,乙25ゲームの各「クエスト」は「複数のゲーム」ではない。
よって,乙25発明には本件発明の構成要件Bが記載されていない(相違
点B)。
6争点(2)エ(乙25文献を主引例とする進歩性欠如)について
〔被告の主張〕
仮に乙25発明と本件発明に相違点が見出されるとすれば,後記10〔被告
の主張〕(1)記載の本件訂正発明の【要点1】ないし【要点4】であると想定さ
れる。しかし,それらの相違点については,乙25文献や,乙26文献,乙2
8文献,乙29文献に記載されているか,あるいはそれらから導き出される周
知技術にすぎない。
以上のとおり,本件発明は当業者にとって容易に想到できたものであるから,
少なくとも進歩性を欠如しており,特許法29条2項に違反し,本件特許は同
法123条1項2号により特許無効審判により無効とされるべきものである。
〔原告の主張〕
被告の主張は否認ないし争う。
被告の主張する相違点については,本件訴訟に提出された全ての証拠を精査
しても,当業者が同相違点に係る構成を想到することはできない。
7争点(2)オ(乙26,乙28及び乙29文献を主引例とする進歩性欠如)
について
〔被告の主張〕
後記10〔被告の主張〕のとおり,本件訂正発明が乙26文献,乙28文献
及び乙29文献を主引用例として進歩性欠如が認められるから,訂正前の発明
である本件発明もまた当然に,進歩性欠如が認められる。
〔原告の主張〕
被告の主張は否認ないし争う。
8争点(2)カ(実施可能要件違反)について
〔被告の主張〕
仮に前記の新規性欠如及び進歩性欠如の主張がいずれも理由がないとして,
被告は,予備的に,次のとおり本件発明は実施可能要件違反によって特許無効
審判により無効とされるべきものであると主張する。
すなわち,本件明細書等では,対価データの複製及び改竄等のユーザの不正
行為を確実に防止する方法については,対価データの送信前又は送信時に画像
データに対して行われる「所定のデータ処理」と抽象的に記載されるのみで(段
落【0103】,【0128】,【0159】),それを具現すべき具体的手
段については,本件明細書等に何ら記載されていない。
したがって,当業者であっても,「複製及び改竄の容易な対価データを扱う
ネットワークゲームを円滑に運営することができる管理」が,本件発明の構成
要件Eの「ユーザ情報管理手段」との関係でどのように具体的に実現されるの
か,本件明細書等の発明の詳細な説明に基づいても理解することができず,本
件発明を実施することができない。
〔原告の主張〕
被告の主張は争う。
9争点(2)キ(サポート要件違反)について
〔被告の主張〕
また,仮に前記の新規性欠如及び進歩性欠如の主張がいずれも理由がないと
して,被告は,予備的に,次のとおり,本件発明はサポート要件違反によって
特許無効審判により無効とされるべきものであると主張する。
すなわち,本件明細書等では,対価データの複製及び改竄等のユーザの不正
行為を確実に防止する方法については,対価データの送信前又は送信時に画像
データに対して行われる「所定のデータ処理」と記載されるのみで,ほかに何
ら記載されていない。
よって,当業者は,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載に接して,本件
特許の出願時の技術常識を参酌しても,原告が主張する「複製及び改竄の容易
な対価データを扱うネットワークゲームを円滑に運営することができる管理」
の実現という課題を,本件発明によって解決できるか否かを理解することがで
きない。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるもの
である。
〔原告の主張〕
被告の主張は争う。
10争点(3)ア(本件訂正により争点(2)の無効理由を解消することができる
か)について
〔原告の主張〕
以下のとおり,本件訂正により争点(2)の無効理由は解消されるから,本件特
許権の行使は,何ら制約されるものではない。
(1)本件訂正発明においては,ゲームには「価値が異なる複数の対価データが存
在する」こと,「該対価データの獲得に必要なポイントが前記対価データの価
値に応じて異なる対価データ付与手段」を有すること等が規定された。
すなわち,本件訂正発明においては,異なる価値を有する複数種類の対価デ
ータが存在し,かつ,それらの対価データの獲得に必要なポイントが対価デー
タの価値に応じて異なる。
さらに,本件訂正発明においては,「対価データを獲得するために必要とさ
れるポイントの獲得が可能な複数のゲームの中から1つのゲームをユーザに
実行させるためのゲーム実行手段」を有することが規定された。
そのため,対価データの獲得の困難性が対価データの価値に応じて変化する。
また,ユーザが対価データを獲得するためにはポイントを貯める必要があると
ころ,そのポイントを獲得する手段として複数のゲームが用意されている。
その結果,本件訂正発明においては,本件明細書等の段落【0004】記載
のとおり,「ユーザに対価データの獲得を容易に行わせることができるととも
に,ユーザに継続的にゲームを行わせることができる」との効果が生じる。
以上の点については,乙3発明には一切記載されていない。乙3発明には,
貯めたゴールドと引き替えにカードを獲得する手段として「グランマーズの
館」が用意されているが,その「グランマーズの館」には,カードの獲得の困
難性に応じて必要なゴールドが異なることは記載されておらず,むしろ,カー
ドの獲得困難性に関わりなく,カードの購入に必要なゴールドが一定値に設定
されていることが推察される。さらに,他に提出された全ての証拠を精査して
も,上記構成が記載されたものはなく,上記構成に想到することは当業者とい
えども不可能である。
(2)さらに,本件訂正発明は,「前記ポイント付与手段によってユーザに付与さ
れた現在のポイントを表すポイント表示部と,対価データ付与を行うかどうか
を選択するメニュー選択部とを含む意思確認画面を前記端末装置に表示する
ためのデータを前記端末装置に送信してこれを表示させた後に,前記ポイント
付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所定の価値を有する
対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段」を有している。
この点についても,乙3発明には記載されていない。さらに,他に提出され
た全ての証拠を精査しても,上記構成が記載されたものはなく,上記構成に想
到することは当業者といえども不可能である。
(3)本件訂正発明は,「前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価デ
ータの1つを指定するデータを受信し,指定された対価データに対応したポイ
ントを表示するポイント表示部とポイント交換を行うかどうかを選択するメ
ニュー選択部とを含むポイント表示画面を前記端末装置に表示するためのデ
ータを前記端末装置に送信してこれを表示させた後に,前記ユーザ情報管理手
段によって管理されている対価データと当該対価データに対応して定められ
たポイントとの交換を要求するポイント交換要求を前記端末装置から受信す
るポイント交換要求受信手段」を有しているが,この点についても,乙3発明
には記載されていない。
本件訂正発明は,上記の構成を有することによって,「価値が異なる複数の
対価データ」のうち,ユーザが一つの対価データを指定すると,その対価デー
タの売却価格をユーザに把握させることが可能となり,本件明細書等の段落
【0103】記載のとおりユーザの「対価データ」に対する「所有意識を満足
させながら,ゲームを円滑に運営することができる。」という作用効果を奏す
る。
また,「ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データの1つを指
定するデータを受信し」た場合に,その「指定された対価データに対応したポ
イント」,すなわち指定された一つの対価データと引き換えに得られるポイン
ト(売却価格)をネットワークゲーム用サーバ装置から端末装置に送信する構
成としたため,いずれの対価データも売却候補として選択されていない前の段
階から,それぞれの対価データに対応したポイントの全てを特定してサーバ装
置から端末装置に送信する場合と比較して,ポイントの特定の処理に要するサ
ーバ装置の負担を軽減でき,特定されたポイントを端末装置に送信する際の通
信量を削減でき,その通信量の削減に伴って端末装置における受信データの処
理の負担も軽減できるという効果も得られる。
さらに,端末装置の表示面積,解像度に限りがあることを考慮すれば,一つ
の対価データを指定した後の段階で,その対価データに対応したポイントを端
末装置に送信して表示させる場合には,対価データの指定前に対価データごと
のポイントを送信して対価データの情報とともに表示させる場合と比較して,
表示されるべき情報の煩雑化を抑え,対価データの売却時の画面構成をユーザ
にとってよりわかりやすいものに設定することができる。
これらの効果は,「ポイント交換要求受信手段」を上記のように構成したこ
とによって導き出される固有の効果に他ならないところ,そのような構成及び
効果を示唆するものは乙3発明に存在しない。
(4)そして,他に提出された全ての証拠を精査しても,この点に関する構成が
記載されているものはない。乙3発明のように,売却価格が一律の値に設定
されているものは,サーバ装置が対価データの売却によって得られるポイン
トを対価データごとに特定する処理は不要であり,かつ,売却で得られるポ
イントを特定する情報をサーバ装置から端末装置に対して対価データごとに
送信する必要もなく,さらには,売却で得られるポイントを対価データごと
に端末装置の画面に表示させる必要もない。
これに対して本件訂正発明では,上記のように,対価データを獲得するた
めに必要とされるポイントが対価データの価値によって異なるという対価デ
ータのいわば購入価格(獲得に必要なポイント)に多様性,柔軟性を与えた
ため,「対価データに相当するポイント」も,対価データの獲得困難性に応
じた多様性,柔軟性が予定される。その場合,サーバ装置にて対価データご
とのポイントを特定し,ポイントを特定する情報を対価データごとに送信し,
あるいは端末装置にて対価データごとのポイントを表示させるものとすれば,
サーバ装置における処理の負担増,サーバ装置から端末装置への情報の通信
量が増大し,あるいは端末装置における処理の負担増,あるいは表示の煩雑
化といった課題が新たに生じることになる。
しかし,乙3発明及びその他の全ての証拠を精査しても,本件訂正発明の
特徴である,「対価データ付与手段」において「対価データの獲得に必要な
ポイント」が対価データの「価値」に応じて異なるという構成を示唆するも
のすら存在しない以上,このような構成に伴って生じる新たな課題を示唆す
るものが全ての証拠に存在しないことは明らかである。
したがって,上記構成を想到することはいかなる当業者といえども不可能
である。
(5)この点に関して被告は,本件発明に乙25発明等を組み合わせることは当
業者にとって何ら困難ではないから,本件発明と同様に進歩性を有しないと
主張する。
アしかし,乙25ゲームは「アイテム」がPC上で管理・保存されるゲー
ムであるから,乙25文献には【要点3】及び【要点4】が記載されてい
ない。また,乙25ゲームにはクエストが複数あるとはいえ,それらは順
次クリアしていくべき同一のゲームの個々の面(ステージ)であり,冒険
をしてモンスターを倒すという一つのゲームの一部であるにすぎず,複数
のゲームが存在しないから,【要点2】も記載されていない。そして,【要
点2】ないし【要点4】はいずれも周知技術ではない。さらに,乙3発明
と本件発明は相違点A及び相違点Bにおいて相違するが,相違点Aは乙2
5文献には記載されておらず,周知技術でもない。
よって,乙3発明と乙25発明を組み合わせても,当業者は本件発明を
想到することができない。
イまた,乙26文献には,「ウルティマオンライン」が「アイテム」がP
C上で管理・保存されるゲームであり,そもそも意思確認画面や売買画面
(ポイント表示画面)が全く記載されていないから,【要点3】及び【要
点4】が記載されていない。また,同ゲームにおける複数の街やダンジョ
ン,複数の大陸はキャラクターが冒険をする一つの仮想世界の一部分ない
し冒険をしてモンスターを倒すという一つのゲームの一部分であるにすぎ
ず,複数のゲームが存在しないから,【要点2】も記載されていない。そ
して,【要点2】ないし【要点4】はいずれも周知技術でもない。さらに,
乙3発明と本件発明とは相違点A及び相違点Bにおいて相違するが,相違
点Aは乙26文献には記載されておらず,周知技術でもない。
よって,乙3発明と乙26発明を組み合わせても,当業者は本件発明を
想到することができない。
ウ乙28文献も,「ウルティマオンライン」に関するものであり,「アイ
テム」はPC上で管理・保存されるから,【要点3】及び【要点4】は記
載されていない。また,「複数のゲーム」が存在しないから【要点2】も
記載されていない。そして,乙26文献と同様,乙3発明と乙28文献に
係る発明を組み合わせても,当業者は本件発明を想到することができない。
エ乙29文献では,ユーザがバーチャルマネーを用いてバーチャルエレメ
ントを獲得する際,管理ステーションのコンピュータが送信するのは,バ
ーチャルエレメント価格と当該ユーザ保有のバーチャルマネー量のみであ
り,意思確認画面ではない。また,ユーザがバーチャルエレメントを売却
してバーチャルマネーを獲得する際,上記コンピュータが送信するのは,
ユーザ保有の全てのバーチャルエレメントについてのバーチャルエレメン
トの種類,数量を表すデータと,当該ユーザ保有のバーチャルエレメント
の各々のバーチャルエレメント価格を表すデータであって,意思確認画面
ではない。
以上のとおり乙29発明では,意思確認画面もポイント表示画面もサー
バによって送出されない。
したがって,乙29文献には,【要点3】及び【要点4】は記載されて
いない。また,乙29文献には,バーチャルマネーがどのように獲得され
るのかについて一切記載されておらず,「ポイントの獲得が可能な複数の
ゲーム」が存在せず,「複数のゲームの中から1つのゲームをユーザに実
行させるためのゲーム実行手段」も存在しないから,【要点2】も記載さ
れていない。さらに,乙3発明と本件発明とは相違点A及び相違点Bにお
いて相違するが,相違点A及びBは乙29文献には記載されておらず,周
知技術でもない。
よって,乙3発明と乙29発明を組み合わせても,当業者は本件発明を
想到することができない。
〔被告の主張〕
本件訂正発明は,本件発明に後記【要点1】ないし【要点4】の各構成要件
を付加したものであるが,付加された要件はいずれも本件発明の出願時に存在
した同一技術分野に属する周知技術であったものであり,特に,乙25文献,
乙26文献に全て記載ないし示唆されており,さらに乙28文献,乙29文献
にも記載ないし示唆されており,当業者にとって組み合わせることは何ら困難
ではないから,本件発明と同様に進歩性を有しない。
したがって,本件訂正により少なくとも争点(2)イ及びエの無効理由は解消さ
れない。
(1)本件訂正発明の訂正の具体的内容は,次の4点(要点1ないし要点4)で
ある。
【要点1】
複数ある対価データはそれぞれ異なる価値を有し,対価データ獲得の困
難性であるところの獲得に必要なポイントも異なることを明確にしたこと
(構成要件A,D-1の後半部分及びD-2の訂正),
【要点2】
複数のゲームはポイントの獲得が可能であること(構成要件Dの訂正),
【要点3】
ポイントを用いて対価データを獲得する際の意思確認画面を端末装置に
表示するためのデータがサーバによって送出されることに限定したこと
(構成要件D-1の前半部分の訂正),
【要点4】
対価データをポイントに交換する際のポイント表示画面を端末装置に表
示するためのデータがサーバによって送出されることに限定したこと(構
成要件Gの訂正)。
(2)乙25文献につき
乙25発明において,乙25ゲームは,本件発明と同様,サーバ上でのゲ
ーム進行及びデータ保存を行うネットワークゲーム用サーバ装置で実施され
る。そして,乙25文献には,同ゲームについて,本件訂正発明の上記【要
点1】ないし【要点4】の記載がある。
すなわち,乙25文献には,①同ゲームには,豊富にアイテムが用意され,
基本的には,アイテムは強力なものほど高価になり,装備するために必要な
ステータスも高く設定されている(【要点1】),②複数のクエストが用意
され,クエストでモンスターを倒すとゴールドやアイテムを獲得でき,強い
モンスターやレアなモンスターを倒すとレアアイテム等の良いアイテムを獲
得できることが多い(【要点2】),③アイテム売買画面において,ユーザ
は買いたいアイテムの内容と金額を確認してから,アイテムを獲得する構成
になっており,かかるアイテム売買画面を端末装置に表示するためのデータ
がサーバによって送出される(【要点3】),また,アイテム売買画面にお
いて,ユーザが所持するアイテムを売りたいときも同様の構成になっていて,
かかるアイテム売買画面を端末装置に表示するためのデータがサーバによっ
て送出される(【要点4】),以上のことが記載されている。
したがって,本件訂正発明の【要点1】ないし【要点4】はいずれも乙2
5文献に記載されている。また,万が一記載されていない事項があるとして
も,後述の乙26文献,乙28文献,乙29文献に基づき周知技術であるか
ら,進歩性が認められない。
(3)乙26文献につき
乙26文献に記載された「ウルティマオンラインザ・セカンドエイジ」
は,本件発明と同様,サーバ上でのゲーム進行及びデータ保存を行うネット
ワークゲーム用サーバ装置で実施される。そして,乙26文献には,同ゲー
ムについて,本件訂正発明の上記【要点1】ないし【要点4】の記載がある。
すなわち,乙26文献には,①同ゲームでは,アイテム作成の原材料は比
較的よく売れるが,武器・防具等は高級品でないと売るのは難しい,アイテ
ムの基準価格は,アイテムの効力,素材,魔法のチャージ数等に左右され,
製造に必要な天然素材がその地域で豊富に入手できるかによって調整される
(【要点1】),②ユーザは冒険をして戦利品を得るほか,アイテムを作成
してこれをNPCショップへ売却したり,他のプレイヤーに販売することが
でき,冒険については,(旧)大陸のほかに新大陸が舞台とされ,複数の街
やダンジョンが用意されているほか,”プリスナー・クエスト”や”トレジ
ャーハント”といったものも用意されている(【要点2】),③ユーザはア
イテムをNPCと売買するとき,システムによって上記②の価格変動要素に
よって価格が取り決めされる(【要点3】【要点4】),以上のことが記載
されている。
(4)乙28文献につき
乙28文献に記載された「ウルティマオンラインルネッサンス・エディ
ション」は,本件発明と同様,サーバ上でのゲーム進行及びデータ保存を行
うネットワークゲーム用サーバ装置で実施される。そして,乙28文献には,
同ゲームについて,本件訂正発明の上記【要点1】ないし【要点4】の記載
がある。
すなわち,乙28文献には,①同ゲームでは,生産系キャラクターであれ
ば,製作活動に励んでスキルを磨けば,よりいいアイテムを作成できるよう
になり,冒険者ならば,鍛錬を積んでより強力になれば,モンスターを倒す
などしてアイテムを獲得することができ,アイテムには,武器・防具といっ
たものが多数用意され,より強力なモンスターほど貴重なアイテムや多くの
gpを獲得することができる(【要点1】),②ユーザは上記2種類のキャ
ラクターを選択でき,複数の街やダンジョンが用意され,街には冒険や商売
に欠かせない材料やアイテムが売られ,ダンジョンにはモンスターが生息し,
強力なモンスターほど倒したときに貴重なアイテムや多くのgpを獲得する
ことができる(【要点2】),③ユーザはNPCベンダーとの間で,アイテ
ムを購入したり,所持するアイテムを売却してgpを得ることができる(【要
点3】,【要点4】),以上のことが記載されている。
(5)乙29文献につき
乙29発明は,管理ステーション側で管理されているバーチャルエレメン
ト(対価データ)とユーザの保有するバーチャルエレメント及びバーチャル
マネー(ポイント)を記憶管理し,かかる管理ステーションにユーザがユー
ザステーションを介してアクセスすることにより,バーチャルエレメントと
バーチャルマネーとの相互交換(売買)処理を行うものである。そして,乙
29発明は,ネットワークゲーム上のアイテム交換を前提としている。さら
に,乙27発明を踏まえると,乙29発明がサーバ上で進行が行われるゲー
ム上で獲得されたポイントがアイテムとの相互交換(売買)も想定している
ことは明らかである。そうすると,本件訂正発明の上記【要点1】及び【要
点2】は前提条件である。
そして,乙29文献には,バーチャルマネー(ポイント)を用いてバーチ
ャルエレメント(アイテム)を獲得する際(アイテムの購入時),意思確認
画面を端末装置に表示するためのデータがサーバによって送出される旨記載
があり(【要点3】),バーチャルエレメント(対価データ)をバーチャル
マネー(ポイント)に交換する際に,バーチャルエレメント及びそれに対応
するバーチャルエレメントの価格,及びユーザの保有するバーチャルマネー
の量を確認可能に構成された売買画面(ポイント表示画面)を端末装置に表
示するためのデータがサーバによって送出される旨記載がある(【要点4】)。
(6)以上のとおり,本件訂正発明の【要点1】ないし【要点4】は全て周知技
術であるといわざるを得ない。そして,当業者にとって,本件発明に組み合
わせることは何ら困難ではない。
したがって,本件訂正発明は,本件発明と同様に進歩性を有しない。
11争点(3)イ(被告サーバ装置は本件訂正発明の技術的範囲に属するか)に
ついて
〔原告の主張〕
(1)以下のとおり,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件をいずれも文
言充足するから,本件訂正発明の技術的範囲に属する。
ア本件訂正発明の構成要件A’について
(ア)被告サーバ装置が提供する本件ゲームでは,「強化された選手カード」
を獲得するのに必要とされる必要強化ポイントは,選手カードごとに,
そのレア度(選手カードの貴重さの度合いを示す固定の値)を用いて計
算される。
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当する
ことを前提にすると,本件ゲームは,「前記価値が異なる複数の対価デ
ータが存在するゲーム」に当たる。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件A’を充足する。
(イ)この点に関して被告は,同構成要件の「対価データが存在するゲーム」
とは,「対価データが予め用意されている」ものに限ると限定解釈して,
本件ゲームはこれに当たらないと主張して,同構成要件の充足性を否定
する。
しかし,「対価データが存在するゲーム」とは,ゲームのどこかの段
階で「対価データ」がユーザに提供できればよく,ユーザがポイントを
消費する選択をした後に存在するに至るかどうかとは無関係である。
仮に被告の上記主張を前提にしても,本件ゲームにおいては,対価デ
ータに相当する「強化された選手カード」を構成する個々の要素,すな
わち,カード画像の要素画像,選手カードの球威,制球,投力といった
パラメータを生成する計算式等が予めプログラムの形で用意されてお
り,「強化された選手カード」を得るために必要な強化ポイントが提示
された後,ユーザは強化ポイントの消費を選択しているのであるから,
「強化された選手カード」はポイントの消費を選択する前に予め用意さ
れている,すなわち,存在している。したがって,被告の主張を前提に
しても構成要件充足性は否定されない。
イ本件訂正発明の構成要件D’-1について
本件ゲームでは,ユーザが「強化」を行うことにより,被告サーバ装置
が「強化された選手カード」をユーザに付与するから,被告サーバ装置は,
「前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所
定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手
段」に当たる。
本件ゲームでは,「強化」をする前に,「強化画面」を表示するデータ
が被告サーバ装置から端末装置に送信される。この「強化画面」には,「[ポ
イント数1](ユーザに付与された現在)→[ポイント数2]」旨の表示
とともに,「強化開始」ボタンが表示される。
本件ゲームの「強化画面」は,ユーザに付与された現在のポイントを表
す「ポイント表示部」と強化開始をするかどうかを確認する「メニュー選
択部」を含んでいるから,この「強化画面」は「意思確認画面」に該当す
る。
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当するこ
とを前提にすると,被告サーバ装置は,「前記ポイント付与手段によって
ユーザに付与された現在のポイントを表すポイント表示部と,対価データ
付与を行うかどうかを選択するメニュー選択部とを含む意思確認画面を前
記端末装置に表示するためのデータを前記端末装置に送信してこれを表示
させた後に」「対価データを付与する」構成を備えている。
前記アによれば,本件ゲームは,「該対価データの獲得に必要なポイン
トが前記対価データの価値に応じて異なる」ものである。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件D’-1を充足す
る。
ウ本件訂正発明の構成要件E’について
被告サーバ装置には,ユーザ情報テーブル,ユーザ所持カード情報テー
ブル及び固定選手カード情報テーブルが存在し,それらのテーブルで「強
化ポイント(「所持強化P」)」,「強化された選手カード」にかかる「所
持カードID」及び「レア度」が管理されている。
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当するこ
とを前提にすると,それらのテーブルは「ユーザ情報管理手段」に該当す
る。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件E’を充足する。
エ本件訂正発明の構成要件F’について
被告サーバ装置は,「強化画面」の「強化開始」ボタンが押されると,
その旨の要求(「前記端末装置から対価データの付与を要求するタイかデ
ータ付与要求」)を受信する。
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当するこ
とを前提にすると,被告サーバ装置は本件訂正発明の構成要件F’を充足
する。
オ本件訂正発明の構成要件G’について
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当するこ
とを前提にすると,本件ゲームにおいては,ユーザは「強化された選手カ
ード」を「売却」することにより,「強化ポイント」を得る。
本件ゲームにおいて,端末装置で特定の選手カードを「売却する」よう
指示すると,被告サーバ装置では,売却対象とされた選手カードに係る固
定カードIDに関連付けられている売却価格を,固定選手カード情報テー
ブルからデータとして取得する。
そして,「売却画面」を表示するデータが被告サーバ装置から端末装置
に送信される。この「売却画面」には,売却価格を示すところの[ポイン
ト数3]「強化Pで売却します」「よろしいですか?」の表示とともに,
「売却する」ボタンが表示される。上記[ポイント数3]は,「指定され
た対価データに対応したポイント」に対応する。
「売却画面」は,売却対象として指定された選手カードの売却価格であ
るポイントを表示する「ポイント表示部」と,売却するかどうかを選択す
る「メニュー選択部」を含んでいるから,「ポイント表示画面」に該当す
る。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件G’を充足する。
カ本件訂正発明の構成要件D’-2について
(ア)本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当する
ことを前提にすると,本件ゲームにおいては,「強化」によって「強化
された選手カード」がユーザに付与され,ユーザの強化ポイントが減少
する。
上記前提の下では,本件ゲームは,「前記ユーザ情報管理手段によっ
て管理されているポイントが前記獲得に必要なポイント以上であること
を条件として,前記対価データ付与手段に応じて前記対価データをユー
ザに付与する」構成を備えている。
本件ゲームにおいて,「強化」に必要な「必要強化ポイント」は,レ
ア度を用いて計算されるから,本件ゲームは,「付与された対価データ
の価値に応じて定められたポイントを減少させ」る構成を備えている。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件D’-2を充足
する。
(イ)この点に関して被告は,本件ゲームでは「強化ポイント」によってユ
ーザが保有する「選手カード」が変更されるだけであり,「強化された
選手カード」を獲得するものではないと主張して,同構成要件の充足性
を否定する。
しかし,本件ゲームでは,「強化された選手カード」は,ベースカー
ドに対して,カード画像のうち選手画像部分は共通であるとしても,パ
ラメータ部分が相違しており,客観的には,同カードと別物のカードで
あり,かつ,より高いパラメータに強化されていて,消費した「強化ポ
イント」に応じて高い価値を有するカードである。さらに,ユーザの主
観から見て,「強化された選手カード」はそのパラメータが強化されて
いることによりベースカードよりも価値が高く,かつ消費した「強化ポ
イント」に応じて高い価値を有するカードとして,区別され得る。した
がって,本件ゲームは「強化された選手カード」を「獲得」するもので
あり,被告の上記主張は誤っている。
また,被告は,本件ゲームは,「強化ポイント」を消費して既に保有
する「選手カード」を変更するものにすぎず,消費する「強化ポイント」
は売買のように新たな「選手カード」を獲得する対価ではなく,既に保
有する「選手カード」を変更するための費用にすぎないと主張する。
しかし,本件ゲームは,上記のとおり「強化された選手カード」を「獲
得」するものであり,ユーザが消費する「強化ポイント」は,新たに獲
得する「強化された選手カード」の対価であるから,被告の上記主張は
誤っている。
加えて被告は,本件ゲームでは,「強化された選手カード」と消費さ
れる「強化ポイント」には関連性がない旨主張する。
しかし,本件ゲームでは,「強化」において,これにより生成される
可能性のある強化された選手カード(群)があり,その中から特定の「強
化された選手カード」が選択,ユーザに獲得される。つまり,ベースカ
ードとアシストカードの組み合わせにより,消費される「強化ポイント」
が一義的に定まるとともに,「強化された選手カード」(群)も一義的
に定まる。「強化された選手カード」(群)は同じ「価値」を有するか
ら,「強化された選手カード」(群)の「価値」と消費される「強化ポ
イント」とは一対一対応している。さらに,「強化された選手カード」
の「価値」は「強化された選手カード」(群)の「価値」であるから,
「強化された選手カード」の「価値」と消費される「強化ポイント」と
は一対一対応している。この点,ユーザが「強化された選手カード」(群)
から「強化された選手カード」を獲得することは,本件発明の実施例と
完全に同一である。そもそも,本件訂正発明の構成要件D’-2は,あ
る価値を有する「対価データ」を取得するのに,その価値に応じて定め
られたポイント数を減少させ,その価値に応じて定められたポイント数
以外のポイント数を減少させることはないことを規定したものであり,
一物一価が厳密に規定されてはいない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
さらに,被告は,本件ゲームでは「強化」の際に,「強化された選手
カード」が未だ存在しないと主張する。
しかし,「強化」の際に,「ベースカード」と「アシストカード」は
既に存在し,この合成をするために必要な「強化ポイント」に応じた価
値を有する「強化された選手カード」が生まれることは予め決まってい
る。したがって,強化によって消費される「強化ポイント」が「ベース
カード」と「アシストカード」によって算定されるとしても,「強化ポ
イント」に応じて「強化された選手カード」を獲得できるのであるから,
「強化ポイント」は「強化された選手カード」の価値に応じたものであ
ることにほかならない。
したがって,被告の上記主張も失当である。
キ本件訂正発明の構成要件C’-2について
本件ゲームの「強化された選手カード」が「対価データ」に該当するこ
とを前提にすると,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件C’-2
を充足する。
ク本件訂正発明の構成要件B’について
本件ゲームでは,ユーザは,「ミッション」や「リーグ」を行うことに
よって「強化ポイント」を取得することができ,この「強化ポイント」を
消費して「強化された選手カード」を取得することができる。
したがって,本件ゲームの「ミッション」や「リーグ」は,「前記対価
データを獲得するために必要とされるポイントの獲得が可能な複数のゲー
ム」に当たる。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件B’を充足する。
(2)したがって,前記第2,1(6)の被告の行為は本件特許権を侵害する。
〔被告の主張〕
(1)以下のとおり,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件を文言充足し
ないから,本件訂正発明の技術的範囲に属するとは認められない。
ア本件訂正発明の構成要件A’につき
本件訂正発明は,「価値が異なる複数の対価データが存在するゲームを
進行させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,前記対価データを
獲得するために必要とされるポイント」を複数のゲームを通じて獲得して
いくことがクレームされており(構成要件A’及びB’),本件訂正発明
のネットワークゲーム用サーバが進行させるゲームは,ポイントを消費し
て獲得する複数の「対価データ」が存在する,すなわち「対価データ」が
予め用意されたゲームであって,そのような「対価データ」をポイントと
引き換えに獲得するゲームである。
そして,本件明細書等の発明の詳細な説明及び図面を参酌すると,本件
訂正発明が,予め用意されている(存在する)画像データ(対価データ)
をユーザに付与することを前提としていることは明らかである。
その他,本件明細書等の発明の詳細な説明中の実施例及び図面を精査し
ても,実施態様として,ポイントを消費して獲得する複数の「対価データ」
が予め用意されておらず,ユーザがポイントを消費する選択をした後に
「対価データ」が作成されるようなものは,全く開示されていない。
したがって,実施態様として,ポイントを消費して獲得する複数の「対
価データ」が存在せず(予め用意されておらず),ユーザがポイントを消
費する選択をした後に「対価データ」が作成されるものは,本件訂正発明
の技術的範囲に属しない。
これを前提に本件訂正発明の構成要件A’と本件ゲームを対比すると,
本件ゲームでは,「強化」においてユーザが強化ポイントを消費すること
を承諾する旨の画面表示を選択するまで,「強化された選手カード」は存
在しないから,「価値が異なる複数の対価データが存在する」との構成を
有しない。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件A’を充足しない。
イ本件訂正発明の構成要件D’-2につき
(ア)本件訂正発明は,対価データを「獲得」するために必要とされる「ポ
イント」と「対価データ」とを,相互に等価交換できるゲームに関する
発明である。
特許請求の範囲の記載に即して説明すると,構成要件G’及びC’-
2は,「対価データ」を売却して仮想通貨である「ポイント」が付与さ
れる場合について規定しており,具体的には,構成要件G’は,ユーザ
情報管理手段によって管理されている対価データ(ユーザが保有してい
る対価データ)と当該対価データに対応して定められたポイントとの交
換について,構成要件C’-2は,ポイント交換要求に応じて,前記の
対価データを消去して,当該対価データに相当するポイントをユーザに
付与することをそれぞれ規定している。
同様に,構成要件D’-1,F’及びD’-2は,仮想通貨である「ポ
イント」を支払って「対価データ」を「獲得」(購入)する場合について
規定しており,具体的には,構成要件D’-1は「対価データ付与手段」
を規定しており,構成要件Fは「対価データ付与要求」の受信を規定してい
る。そして,構成要件D’-2は,対価データを「獲得」するために必要な
ポイント以上のポイントを有することを条件として,「付与された対価デ
ータの価値に応じて定められたポイントを減少させ」ることを規定してい
る。
このように,本件訂正発明は,構成要件G’及びC’-2が「対価データ」
の売却時の動作を規定し,構成要件D’-1,F’及びD’-2が「対価デ
ータ」の「獲得」(購入)時の動作を規定することにより,全体として仮
想通貨である「ポイント」を使用して「対価データ」を売買することがで
きる仮想市場をクレームした発明である。
特に構成要件D’-2についていえば,その「対価データの…『獲得』
に必要なポイント」以上のポイントを保有していることを条件として「付
与された対価データの価値に応じて定められたポイントを減少させ」るとの
文言を自然に解釈すれば,仮想通貨である「ポイント」を支払って「対価デ
ータ」を「獲得」(購入)することが想定されていることは明らかであり,
「付与された対価データの価値」と等価の「ポイント」を減少させることを
意味すると解される。
そして,本件明細書等の発明の詳細な説明及び図面を参酌すると,本
件訂正発明が,ユーザが保有していない新たな画像データ(対価データ)
を獲得することを前提としており,発明の詳細な説明中の実施例及び図
面を見ても,ユーザが新たにカードを入手する態様のみが説明されてい
る。その一方で,実施態様として,ユーザが既に保有する「対価データ」
が変更されるにすぎず,消費される「ポイント」が「対価データ」を変
更するための費用にすぎないようなものは,全く開示されていない。
そうすると,本件訂正発明の構成要件D’-2の「対価データの・・
・獲得に必要な・・・付与された対価データに対応して定められたポイ
ント」とは,新たに入手したカードの画像データ(対価データ)の価値
と等価なポイントを意味すると解される。
したがって,実施態様として,仮想通貨である「ポイント」を消費して
「対価データ」を獲得(購入)する場合に,売買のように「ポイント」と「対
価データ」とが相互に等価交換されるのではなく,ユーザが既に保有する「対
価データ」が変更されるにすぎず,消費される「ポイント」が「対価データ」
を変更するための対価にすぎないものは,本件訂正発明の技術的範囲に属
しない。
これを前提に本件訂正発明の構成要件D’-2と本件ゲームを対比す
ると,本件ゲームは,「強化ポイント」を消費して既に保有する「選手
カード」を変更するものにすぎず,消費する「強化ポイント」は売買の
ように新たな「選手カード」を獲得する対価ではなく,既に保有する「選
手カード」を変更するための費用にすぎない。したがって,本件ゲーム
の「強化ポイント」は,新たに入手したカードの画像データ(対価デー
タ)の価値と等価なポイントではないから,「対価データの・・・獲得
に必要な・・・付与された対価データに対応して定められたポイント」
が存在しない。
(イ)また,本件訂正発明の構成要件D’-2には,「対価データ」の獲得に
必要なポイントは「付与された対価データの価値に応じて定められた」こ
とが規定されており,その文言から,「対価データ」の獲得に必要なポイ
ントは,既に保有しているカードの画像データ(対価データ)の価値に応
じて定められるものではなく,新たに「付与」されるカードの画像データ(対
価データ)の価値に応じて定められるものである。
そして,本件明細書等の発明の詳細な説明中の実施例及び図面を見ても,
画像データ(対価データ)をユーザに付与する構成において,ユーザは,
新たに「付与」される画像データ(対価データ)のランク(=価値)に応
じて定められたポイントを消費しており,当該ポイントはユーザが既に保
有する画像データ(対価データ)のランク(=価値)とは無関係なもので
ある。
これを前提に本件訂正発明の構成要件D’-2と本件ゲームを対比する
と,本件ゲームでは,「強化」により選手カードを「強化された選手カー
ド」に変更する以前は,「強化された選手カード」は未だ存在せず,すな
わち予め用意されておらず,ユーザが強化ポイントを消費する選択をした
後に初めて「強化された選手カード」が作成される。したがって,「強化」
により消費する「強化ポイント」が未だに存在しない「強化された選手カ
ード」の価値に応じて定められる,ということはおよそ観念し得ない。
(ウ)さらに,本件訂正発明の構成要件D’-2には,「対価データ」の獲得
に必要なポイントは「付与された対価データの価値に応じて定められた」
ことが規定されており,その「定める」及び「応じて」という用語の意味
から,同構成要件の「対価データ」の獲得に必要なポイントは,「付与さ
れた対価データの価値」に応じて消費ポイントが一義的に定められるもの
であると解される。
これを前提に本件訂正発明の構成要件D’-2と本件ゲームを対比すると,
本件ゲームにおいては,「強化」において消費される「強化ポイント」は,
ユーザが既に保有する選手カードから選択される「ベースカード」及び「ア
シストカード」のパラメータに応じて,その都度決定されるものであり,「強
化された選手カード」のランク(=価値)に応じて一義的に定められるもの
ではない。
(エ)以上のとおり,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件D’-2を充
足しない。
ウ本件訂正発明の構成要件Bにつき
本件訂正発明には,対価データを獲得するために必要とされるポイントを獲
得することができる「複数のゲーム」が用意されており,「ゲーム」として対
価データを獲得するために必要とされるポイントを獲得することができるも
のが1つしかないものは,本件訂正発明の技術的範囲に属しない。
本件ゲームはかかる「ゲーム」を1つしか有しないから,本件訂正発明の構
成要件Bの「複数のゲーム」に有しない。
よって,被告サーバ装置は,本件訂正発明の構成要件Bを充足しない。
(2)したがって,この点においても,原告の訂正の対抗主張は理由がない。
12争点(4)(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
被告は,被告サーバ装置を使用して,平成23年8月18日以降,DeNAが
運営する携帯電話等のプラットフォーム「mobage」を通じて本件ゲームを
ユーザに提供・配信している。
そして,本件ゲームの提供・配信による平成23年8月18日から同年9月7
日までの売上は9187万5000円を下らない。
その金額から経費であるキャリア課金手数料13%を控除し,その控除額から,
DeNAへ支払う手数料30%を控除すると,5595万1875円となり,被
告は少なくとも同額の利益を上げた。
他方,原告は,被告が本件ゲームを提供・配信するより前の平成23年4月1
8日から,プロ野球カードを題材とするSNSゲームである「プロ野球ドリーム
ナイン」(以下「原告ゲーム」という。)を提供・配信してきた。原告ゲームと
本件ゲームはSNSゲーム市場において競合している。
したがって,被告による本件特許の侵害により原告の受けた損害額は,少なく
とも,被告の受けた利益額である5595万1875円と推定される(特許法1
02条2項)。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1本件発明の意義
本件明細書等の【発明の詳細な説明】の段落【0001】ないし【000
9】,【0066】,【0099】ないし【0102】,【0125】ない
し【0128】,【0179】,【0183】及び図7,図8,図10,図
12によれば,本件発明は,ネットワークを介して端末装置とネットワーク
ゲーム用サーバ装置との間でデータの送受信を行うことで実行されるネット
ワークゲームに関し,従来のネットワークゲームにあった課題,すなわち,
例えば公知のくじ引きゲーム(当たりが出た場合には画像データ〔対価デー
タ〕をユーザに付与するサービスを提供するもの)では,画像データの獲得
はくじ引きという一つのゲームを行うことによるほかないため,ユーザは画
像データの獲得方法が制限され,また,くじ引きという当たり又は外れによ
る偶然性に基盤が置かれることによって,ユーザはゲームの進行度合いに応
じて画像データの獲得率が向上する等の期待感が高まることがないため,ユ
ーザに継続的にゲームを行わせることが困難である,という課題があったが,
かかる課題を解決するため,複数のゲームの中から一つのゲームをユーザが
実行すると,ユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに所定のポイ
ントが付与され,付与されたポイントに応じて所定の価値を有する対価デー
タが当該ユーザに付与される,という構成を採用することにより,ユーザに
対して対価データの獲得方法を複数提供することができ,また,ユーザがゲ
ーム進行度合いに応じて対価データの獲得率が向上する等の期待感を高めて
いくことができ,もって,ユーザに対価データの獲得を容易に行わせるとと
もに,ユーザに継続的にゲームを行わせることができる,という効果を奏す
る発明であると認められる。
2争点(1)ア(ア)(構成要件A,D-1,E,F,G,D-2,C-2における
「対価データ」の充足性)について
(1)本件特許の特許請求の範囲請求項1には,上記「対価データ」につき,「所
定の価値を有する対価データ」(構成要件A),「前記ポイント付与手段に
よってユーザに付与されたポイントに応じて所定の価値を有する対価デー
タ」(構成要件D-1),「前記ユーザ情報管理手段によって管理されてい
る対価データ」(構成要件G)等の記載はあるものの,同各記載からその意
義が明確に理解できるものとはいえないから,本件明細書等の記載を参酌し
て,その意義を明らかにする必要があるところ,本件明細書等には,次の記
載がある。
(従来の技術)
・「従来,インターネット等のネットワークを利用したネットワークゲーム
として,例えばユーザが携帯電話機等の端末装置を用いてくじ引きゲーム
を行い,当たりが出た場合にアイドル歌手等の画像データ(対価データ)を
ユーザに付与するサービスを提供するものが知られている。」(段落【0
002】)
(発明が解決しようとする課題)
・「しかしながら,上記くじ引きゲームは,当たり又は外れによる偶然性に
基盤をおいた1つのゲームの結果に基づいてユーザに画像データを付与
するものである。そのため,ユーザは,このゲームを行うことでしかゲー
ムを行う目的である画像データの獲得ができず,画像データの獲得方法が
制限されている。また,上記くじ引きゲームは,ユーザにとって,ゲーム
進行度合いに応じて画像データの獲得率が向上する等の期待感が高まる
というものではなく,ユーザに継続的にゲームを行わせることが困難であ
る。」(段落【0003】)
(発明の実施の形態)
・「対価データ記憶部21は,携帯電話機3に対し閲覧提供するための対価
データ(カード画像)を対応するポイントに関連付けて記憶するものであ
る。対価データ記憶部21は,対価データをチーム毎・カードランク毎に
記憶可能に構成されている。」(段落【0056】)
・「送受信制御部308は,無線公衆回線からの着信,送信の回線制御及び
音声データの送受信の他,インターネット等のネットワークを経由するな
どして用いられる電子メールにおけるデータ送受信を処理するもので,送
受信データはアンテナ306を介して授受される。携帯電話機3で送受さ
れる画像データは例えばGIF形式で圧縮された後,パケットで通信され
る。」(段落【0064】)
・「ここで,ネットワークゲームサーバ1により行われる処理手順の説明に
先だって本実施形態におけるゲーム進行の概要について説明する。本実施
形態におけるゲーム進行の概要は,メインゲームとしてプロ野球の試合結
果を予想するゲームとミニゲームとなるカードめくりゲームとをユーザ
が行うことでポイントを蓄積していき,このポイントに応じてユーザがプ
ロ野球選手等のカード画像を取得(獲得)していくというものである。また,
ユーザは,取得したプロ野球選手等のカード画像データとポイントとを交
換することも可能である。また,ユーザは,いつでも取得したプロ野球選
手のカード画像データを携帯電話機3のモニタ等で電子アルバムのよう
に閲覧することが可能である。」(段落【0066】)
・「図8に示すように,カードGET画面400は,現在選択されているメ
ニューを表示する選択メニュー表示部401と,ユーザの現在の獲得ポイ
ントを表わすポイント表示部402と,「カードGET!」の内容を簡単に
説明したガイド部403と,カードGETの実行を行うための「カードを
引く」ボタン404とを含んで構成されている。」(段落【0098】)
・「メニュー画面400の「カードを引く」で示される実行ボタン404が押
されたことを携帯電話機3から受けて,ネットワークゲームサーバ1は,
通信部11によって,カードGETの実行指示を携帯電話機3から受信す
る(ステップST24)。ネットワークゲームサーバ1は,ユーザ情報管理
部16によって,ユーザの現在獲得しているポイントをユーザ情報記憶部
22から読み出し,所定ポイント以上あるか否かを判断する(ステップS
T25)。」(段落【0099】)
・「また,ネットワークゲームサーバ1は,ユーザ情報管理部16によって,
ユーザの現在のポイントが所定ポイント以上あると判断した場合(ステッ
プST25でYES),対価データ付与処理部15によって,対価データ
記憶部21に記憶されている対価データの中からランダムに1つの対価
データを抽出し,抽出した対価データをユーザ情報記憶部22にユーザに
関連付けて記憶し,付与した対価データに対応して定められたポイントを
ユーザ情報記憶部22から減算する(ステップST27)。」(段落【01
01】)
・「カード画像取得難度表示部413は,例えば画像表示部412に表示さ
れているカード画像の右上に表示されている星印2つ等によって示され,
この画像データの取得難度を示すものである。例えば星印が1つの場合が,
ノーマルカードであり,星印が2つの場合が,レアカードであり,星印が
3つの場合が,ウルトラレアカードであることを示している。従って,星
印の数が多いほど,ユーザにとって獲得が困難であるカードであることを
示している。各カードのランクも3ランクに限定されず,それ以上又はそ
れ以下であってもよい。」(段落【0105】)
・「なお,カード画像の獲得困難度(レア度)を表わすものは上記カード画像
取得難度表示部413が示すマーク等に限定されるものではなく,例えば
他のマークやカード画像表示部412の背景色を変える等によるもので
あってもよい。また,ユーザが携帯電話機3のモニタ等から確認できるも
のであれば,マークのカード画像上での位置も限定されない。」(段落【0
106】)
・「このように,数量の少ないすなわちレアなカード画像を獲得することに
対する困難性が味わうことができるので,ゲームの興趣性をより向上する
ことができるとともに,ユーザにゲームを継続して行う動機付けを与える
ことができるので,ゲームを継続して円滑に運営することができる。」(段
落【0107】)
・「なお,図8に示す獲得カード画像表示画面410のメニュー選択部41
5の「コレクション」ボタンが選択されたことを携帯電話機3から受けて,
ネットワークゲームサーバ1は,図8に示すカードアルバム画面420を
表示するためのデータを携帯電話機3に送信し,これを表示させる。」(段
落【0109】)
・「図8に示すように,カードアルバム画面420は,現在選択されている
メニューを表示する選択メニュー表示部421と,ユーザの現在の獲得し
ているカード画像の一覧リストを表わす獲得カードリスト表示部422
と,所定の区分(例えば,チーム別等)でグループ化されているカード画像
のグループを指定するグループ指定部423と,前画面へ戻るための「戻
る」ボタン424とを含んで構成されている。」(段落【0110】)
・「獲得カードリスト表示部422は,現時点でのユーザの獲得しているカ
ード画像の一覧を表示するものを表示するものである。AAAは,例えば
プロ野球球団名を示すものである。また,収集率が13(分子)/40(分母)
で示されている場合,分母の部分は,ネットワークゲームサーバ1側で予
め管理しているチームAAAの選手のカード画像の総数を示している。分
子の部分は,ユーザが現時点で獲得しているチームAAAの選手のカード
画像の獲得総数を示している。」(段落【0111】)
・「また,獲得カードリスト表示部422で,0040×××~0049‐‐‐の部
分は,×××は選手名を示しており,‐‐‐の部分はユーザが現時点でま
だこの識別番号のカード画像を獲得していないことを示すものである。こ
のため,携帯電話機3に表示される画面に収集率表示を含めているので,
ユーザは,例えば一覧することで収集できていないカード画像を把握する
ことができる。また,各プロ野球球団ごとに収集率を表示することで,ユ
ーザは,チームごとの収集状況を容易に把握することができる。」(段落
【0112】)
・「ここで,メニュー選択部514で表示されている「ノーマルカード」,「レ
アカード」及び「ウルトラレアカード」は,獲得に必要なポイントに応じて
ランク分けされている。例えば,メニュー選択部514に表示されいてい
るように,「ノーマルカード」が5ポイント,「レアカード」が60ポイン
ト,及び「ウルトラレアカード」が300ポイントというように順に獲得す
るために多くのポイントが必要となるものである。このため,ユーザは,
カード画像の価値を容易にイメージできるとともに,さらにポイントを貯
めて所望のカード画像を獲得しようという動機付けになる。」(段落【0
122】)
・「ネットワークゲームサーバ1は,メニュー画面200のメニュー選択部
202から「■カードアルバム」を選択する選択指示を携帯電話機3から受
信すると(ステップST63),通信部11によって,図14に示す獲得カ
ードリスト画面600を表示するためのデータを携帯電話機3に送信し
(ステップST64),これを表示させる。」(段落【0151】)
・「図14に示すように,獲得カードリスト画面600は,現在選択されて
いるメニューを表示する選択メニュー表示部601と,ユーザの現在のカ
ード画像の収集率を表わす収集率表示部602と,チーム毎に区分された
カード画像を選択するためのチーム選択部603とを含んで構成されて
いる。」(段落【0152】)
・「収集率表示部602は,現時点でのユーザの獲得しているカード画像の
収集状況を表示するものである。収集率が82(分子)/1080(分母)で示され
ている場合,分母の部分は,ネットワークゲームサーバ1側で予め管理し
ているカード画像の総数を示している。分子の部分は,ユーザが現時点で
獲得しているカード画像の収集総数を示している。また,チーム選択部6
03で,T1~T10は,プロ野球球団名を示すものである。」(段落【0
153】)
・「ネットワークゲームサーバ1は,獲得カードリスト画面600のチーム
選択部603の「T8」に関するカード画像データの閲覧要求を携帯電話機
3から受信すると(ステップST65),ユーザ情報管理部16によって,
ユーザ情報記憶部22に記憶している閲覧要求に対応するユーザの収集
済みのカードデータを読み出し,図14に示すチーム別カードリスト画面
610を表示するためのデータを携帯電話機3に送信し(ステップST6
6),これを表示させる。」(段落【0154】)
・「図14に示すように,チーム別カードリスト画面610は,現在選択さ
れているメニューを表示する選択メニュー表示部611と,ユーザの現在
のチーム別のカード画像の収集率を表わすチーム別収集率表示部612
と,ユーザからの閲覧要求に対応するチームのカードをカテゴリ別に項目
で区分したカテゴリ項目表示部613と,前画面に戻るための「戻る」ボタ
ン614とを含んで構成されている。」(段落【0155】)
・「チーム別収集率表示部612は,現時点でのユーザの獲得しているカー
ド画像の収集状況を表示するものである。収集率は,35(分子)/90(分母)
で示されている場合,分母の部分は,ネットワークゲームサーバ1側で予
め管理しているユーザの閲覧要求に対応するチームのカード画像の総数
を示している。分子の部分は,ユーザが現時点で獲得しているチームのカ
ード画像の収集総数を示している。カテゴリ項目表示部613は,例えば
「球団マスコット・旗」,「選手・DB選手」及び「パワプロくん」等のカー
ド画像の種類を示している。」(段落【0156】)
・「ネットワークゲームサーバ1は,チーム別カードリスト画面610のカ
テゴリ項目表示部613の「選手・DB選手」を選択する選択指示を携帯電
話機3から受信すると,図14に示すカテゴリ別収集状況表示画面620
を表示するためのデータを携帯電話機3に送信し,これを表示する。」(段
落【0157】)
・「図14に示すように,カテゴリ別収集状況表示画面620は,現在選択
されているメニューを表示する選択メニュー表示部621と,ユーザによ
り選択されたチームの現在の収集率を表わすチーム別収集率表示部62
2と,各カードごとの収集枚数を表示する収集枚数表示部623と,識別
番号に対応するカードごとの収集枚数を表示させるための選択部624
と,前画面に戻るための「戻る」ボタン625とを含んで構成されている。
収集枚数表示部623において「0046×××2/2枚」とカード画像の取得
枚数を表示することにより,ユーザは,重複しているカード画像を容易に
把握できる。」(段落【0158】)
・「図14に示すように,カード画像表示画面630は,現在選択されてい
るメニューを表示する選択メニュー表示部631と,ユーザが閲覧要求し
たカード画像を表示するカード画像表示部632と,取得したカード画像
の識別番号と選手名等を表示するカード識別情報表示部634と,前画面
に戻るための「戻る」ボタン634とを含んで構成されている。カードラン
クマーク633(星印)は,カード画像表示部632に表示されているカー
ド画像の右上に表示されており,この画像データの取得難度を示すもので
ある。ここでは,星印が2つあるので,レアカードを表わしている。」(段
落【0160】)
・【図8】
(2)「対価データ」及び「対価データ付与手段」の意義
ア「対価データ」について
(ア)本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載は前記第2,2(2)ウ(別紙
特許公報の特許請求の範囲【請求項1】)記載のとおりであり,本件明
細書等には上記(1)のとおりの記載があるところ,本件発明の「対価デー
タ」は,データであって,かつ,ポイント付与手段によってユーザに付
与されたポイントに応じて所定の価値を有するものである(構成要件A,
D-1)とともに,ユーザ情報管理手段によって管理されているもので
あり,当該対価データに対応して定められたポイントと交換されるもの
であること(構成要件G),前記1で検討したとおり,本件発明がユー
ザのゲーム進行度合いに応じて対価データの獲得率の向上への期待感を
高めることにより,ユーザに継続的にゲームを行わせることができると
の作用効果を奏するものであることからすると,本件発明の「対価デー
タ」とは,実施例に開示された選手の写真画像を例とした写真画像に加
え,予め定められた選手の属性に関する情報,及び対価データの獲得困
難度の表示ないし獲得困難度の情報それ自体をいうものと解される。
この点につき,選手の写真画像がこれに該当することは当事者間に
争いがないが,原告が「カード画像取得難易度表示部」が示すマーク
(★マーク〔星印〕。以下「★印」という。)も「対価データ」に該
当すると主張し,被告はこれを否定する。
以下,この点について検討する。
(イ)上記(ア)で検討したとおり,本件発明の「対価データ」は所定の価
値を有するものであるところ,前記(1)のとおり,本件明細書等の記
載によれば,★印はカードの取得難度(レア度)を示すものであり,
例えば,★印の数が多いほど,ユーザにとって獲得が困難であるカー
ドであることを示していること(段落【0105】),★印の表示位
置は,カード画像上で特に限定がなく,例えば,【図8】では画像表
示部に表示されている選手の写真画像(カード画像)の右上部分に表
示されていること(段落【0105】,【0106】),ユーザは収
集したカード画像をカード画像表示画面で確認することができ,その
際,当該画面のカード画像表示部には選手の写真画像(カード画像)
とともに★印が表示されること(段落【0160】)が認められる。
(ウ)上記(イ)のように,カード画像の獲得困難度(レア度)を画面に表
示すれば,段落【0107】記載のように,ユーザは数量の少ないレ
アなカードを獲得することに対する困難性を味わい,困難性を克服し
た満足感を得ることができ,もってゲームの興趣性をより向上して,
ユーザにゲームを継続して行う動機付けを与えることができる。
すなわち,本件発明を,画像データをユーザに付与するというサー
ビスである点からみると,かかるサービスにおいて,ユーザの興味関
心の対象となるのは,端末装置の画面上に表示される画像がどのよう
なものか,であるということができる。そのことは,特に,トレーデ
ィングカードゲームのように,レア度の高いものを多く収集すること
に趣向のあるゲームにおいて明らかである。
本件発明におけるゲームのようにユーザがカード画像を収集するも
のにおいては,カード画像の獲得難度(レア度)を画面に表示し,し
かも,レア度の高さを視覚的にかつ瞬時に判別できるものとすること
は,ゲームユーザの精神的満足度を高くすることができ,また,他の
ユーザに対してレア度の高い対価データの収集状況を容易に端的に示
すことができる,という利点がある。本件発明における★印は,これ
が画面上に表示されるとき,その数量で取得難度の高さを表しており,
ユーザが取得難度を一目で即座に判断できるものであって,まさに上
記の利点を活かすものといえる。
そうすると,本件発明において★印は,ゲームの興趣性をより向上
して,ユーザにゲームを継続して行う動機付けを与えるものとして,
重要であるということができる。
(エ)以上の本件発明における★印に関する本件明細書等の記載の内容や,
ゲームにおける意義に鑑みると,★印は,「対価データ」の有する価
値を表すものと解されるから,「対価データ」とは,単なる選手の写
真画像のみでなく,同画像に★印のようなカード画像の獲得難度の表
示ないし獲得困難度の情報をも加えて構成されるものをいうと解す
るのが相当である。よって,「カード画像取得難度表示部」(★印)
も「対価データ」に該当すると解するのが相当である。
この点に関して被告は,★印は本件明細書等の記載で画像データと
区別されていると主張する。
しかし,上記(ウ)で判示したとおり,★印はユーザにゲームを継続し
て行う動機付けを与えるものとして重要なものであるから,単に画像
の一部をなすものではないことを理由として,あえて「対価データ」
から除外すべき合理的理由は何ら見出せないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(オ)また,本件発明の「対価データ」は,前記(ア)で検討したとおり,
予め定められた対価データの獲得困難度の表示ないし獲得困難度の
情報それ自体をいうものと解されるところ,本件特許の特許請求の範
囲請求項1の記載には,「カード画像取得難度表示部」(★印)につ
いてその個数が変化することについて記載されていないこと,本件明
細書等にもそのことについて何ら記載されておらず,示唆もされてい
ないことから,事後的に増減するような可変する表示ないし情報につ
いては,上記「カード画像取得難度表示部」(★印)に該当せず,上
記「対価データ」に該当しないものと解される。
イ構成要件D-1の「対価データ付与手段」について
本件発明は,「前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイ
ントに応じて所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価
データ付与手段と,」(構成要件D-1),「前記対価データ付与手段は,
前記ユーザ情報管理手段によって管理されているポイントが所定条件を満
たす場合に,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザに
付与するとともに,付与された対価データに対応して定められたポイント
を減少させ,」(構成要件D-2)と記載されるものであり,それらの記
載から,「対価データ」は,ユーザが獲得又はサーバが付与するものであ
り,かつそのために「ポイント」を必要とするものであることが明らかで
ある。
そして,本件発明の構成要件D-1の記載には,「ポイントに応じて」
所定の価値を有する「対価データを」「付与する」との文言があるところ,
それらの文言については,本件明細書等には,段落【0093】ないし【0
108】にネットワークゲーム用サーバが行う対価データ付与の処理であ
るメニュー「カードGET!」に関して記載されており,その記載が本件
発明の構成要件D-1の上記文言に当たるものと考えられる。本件明細書
等の段落【0098】,【0099】には,「カードGET!」は,ユー
ザがメニュー「カードを引く」を選択することでネットワークゲーム用サ
ーバによって実行される旨記載されており,その記載から上記「カードG
ET!」の実行場面が具体的には「カードを引く」ものであると認められ
るから,上記「付与する」とは,ユーザがネットワークゲーム用サーバか
ら新規にカードを獲得するものであると解するのが相当である。
この点に関して本件明細書等には,ユーザが「カードGET!」により
新規にカードを獲得した際の処理に関して,段落【0101】には,ネッ
トワークゲーム用サーバが,対価データ付与処理部によって,対価データ
記憶部に記憶されている対価データの中からランダムに一つの対価データ
を抽出し,抽出した対価データをユーザ情報記憶部にユーザに関連付けて
記憶するものとされる旨記載されている。また,獲得したカードを一覧す
る処理に関して,段落【0157】,【0158】には,ネットワークゲ
ーム用サーバが携帯電話機にカテゴリ別収集状況表示画面を表示するため
のデータを送信してこれを表示するものとされ,カテゴリ別収集状況表示
画面には,各カードとの収集枚数を表示する収集枚数表示部が含まれてお
り,その収集枚数表示部には,例えば「0046×××2/2枚」のように,カ
ード画像の取得枚数が表示される旨記載されている。
以上の記載から,本件発明では,ユーザが対価データを獲得した際の処
理は,対価データがユーザに付与されると,当該対価データが新規のもの
である場合には,対価データを管理するテーブルに新たに当該対価データ
に係るレコードが追加され,当該対価データが当該ユーザの獲得済みのも
のと重複する場合には,獲得済みの対価データに係るレコードのうち枚数
フィールドの値のみが増加される,というものであることが認められる。
そうすると,本件発明は,ユーザが所持するポイントを消費することに
よって,選手カードを新たに獲得し,ユーザが獲得した選手カードが新規
のものである場合と重複するものである場合とに応じて,サーバにおいて,
新規のレコードを作成又は既存のレコードの「枚数」を管理するフィール
ドが変更されるものである,と認められる。
したがって,本件発明の構成要件D-1の「対価データ付与手段」は上
記認定した処理を行う構成を備えるものであると解するのが相当である。
(3)構成要件D-1の「対価データ付与手段」の充足性
ア本件ゲームの構成について
別紙物件構成説明書及び証拠(甲9,乙1)によれば,本件ゲームは次
のとおりであると認められ,同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
(ア)「ガチャ」とは,選手カードを入手するための手段であり,「ミッシ
ョン」とは,選手カードや強化ポイントを入手するための手段であり,
「ギフト」とは,ユーザが他のユーザからその所持する選手カード(新
規の選手カードのこともあれば,当該他のユーザにより強化されて既に
カード経験値及びカードレベルが上昇済みのこともある。)を提供され
て獲得する手段であり,「トレード」とは,ユーザが所持する選手カー
ドを,他のユーザが所持する選手カードや本件ゲームを有利に進めるた
めのアイテムと交換するための手段である。
(イ)ユーザが所持する選手カードは,ユーザ所持カード情報テーブルの形
式で,記憶・管理されている。ユーザ所持カード情報テーブルのうち,
「所持カードID」(user_equip_card_id)は,被
告サーバ装置が所持選手カードごとに一意となるように付与するIDで
あり,「ユーザID」(uid)は,本件ゲームを利用するユーザごと
に付される固有のIDであり,「固定カードID」(equip_id)
とは,選手カードのうち,選手名,所属球団,コスト,レア度,ポジシ
ョンが全く同じものごとに付与される一意のIDである。
また,「レア度」(rank)とは,選手カードの貴重さの度合いを
示す値であり,「コスト」(cost)とは,ユーザが選手カードを保
有するためのコストとして,固定カードIDごとに定められた値であり,
これらの数値は固定のものである。
ほかに,「カードレベル」(level)とは,ユーザが所持する選
手カードの現在のカードレベルを示す値であり,「カード経験値」(e
xp)とは,ユーザが所持する選手カードの獲得経験値の累積値であり,
「現在打力」(f_batting),「現在走力」(f_run),
「現在守備」(f_guard),「現在球威」(p_fast),「現
在制球」(p_control),「現在投力」(p_pitchin
g)とは,野手ないし投手としての能力を示す値であり,これらの数値
は可変のものである。
(ウ)本件ゲームでは,前記のとおり,ユーザが「ガチャ」のほか,「ミッ
ション」,「ギフト」等を行うことにより,選手カードを獲得すること
ができるが,ユーザが選手カードを獲得したとき,被告サーバ装置は,
獲得した選手カードのレコードを新規に作成して,これをユーザ所持カ
ード情報テーブルに記憶する。その際,当該ユーザのユーザIDが,当
該選手カードの所持カードIDに関連付けて記憶される。
(エ)本件ゲームでは,「ガチャ」はユーザが「所持ガチャポイント」を,
「ミッション」はユーザが「体力」を消費して実行するものであり,い
ずれの場合でも,ユーザが所持する強化ポイントを消費することはない。
また,「ギフト」等の場合も,ユーザが所持する強化ポイントを消費す
ることはない。
(オ)「強化」とは,ユーザが所持する選手カードを強化するための手段で
あり,ユーザが所持する「強化ポイント」と引き換えに行うものである。
能力を引き継ぐものとして「ベースカード」を,能力を引き継がせるも
のとして「アシストカード」を設定しており,ユーザは,所持する選手
カードの中から「ベースカード」と「アシストカード」とするものを選
択して,「強化」を行うと,「アシストカード」とされた選手カードが
消滅し,「ベースカード」とされた選手カードのカード経験値が上昇す
る。上昇した結果は,「強化された選手カード」には,「成長」の数値
やグラフとして表示される。また,「強化」によりカード経験値が一定
の閾値に達したとき,被告サーバ装置は,同選手カードのカードレベル
を上昇させる。併せて,被告サーバ装置は,選手カードの現在打力,現
在走力,現在守備,現在球威,現在制球及び現在投力を上昇させる。上
昇した結果は,「強化された選手カード」上に,上昇後のそれらの数値
が,「球威」,「制球」,「投力」等が数値と「A」,「B」,「C」
等の画像として表示される。
したがって,それらの数値等の画面表示は,現在値によって変わるこ
とになる。
なお,被告サーバ装置は,カード経験値が一定の閾値に達したときで
あっても,同選手カードについて,その所持選手カードIDを変更した
り,ユーザ所持カード情報テーブルにレコードを追加したりすることは
しない。また,同選手の写真画像部分を変更することもしない。
イ本件ゲームにおける「強化された選手カード」の画像部分の範囲
(ア)本件ゲームにおいて,ユーザ所持カード情報テーブルにレコードが追
加されるのは「ガチャ」や「ミッション」等の手段を実行したときであ
るが,それらの手段では「強化ポイント」を必要としない。
その一方で,「強化」は,これを実行するためにはユーザが「強化ポ
イント」を一定値所持して,これを消費することになる。
(イ)そこで,「強化」における「強化された選手カード」についてみると,
原告は本件発明の「対価データ」に★印も含まれることを根拠に,「強
化された選手カード」の経験値の数値やグラフの画像部分,並びに「球
威」,「制球」,「投力」のようなパラメータを表示する数値及び「A」,
「B」,「C」といった画像部分も「対価データ」に該当すると主張す
るので,これについて検討する。
前記ア(エ)で検討したとおり,事後的に増減するような可変する表示
ないし情報については,「カード画像取得難度表示部」(★印)に該
当せず,本件発明の「対価データ」に該当しないものと解されるから,
「強化された選手カード」においては,選手の写真画像とともに表示
されるパラメータのうち,不変のもの,すなわち,選手名,所属球団,
レア度,ポジション,コストについては,本件発明の「対価データ」
に該当し,その一方で,「強化」により可変するもの,すなわち,「成
長」の数値やグラフ,「Lv」(カードレベル)や,「球威」,「制
球」,「投力」等を示す数値や「A」,「B」,「C」等の画像部分
については,本件発明の「対価データ」に該当しないと認めるのが相
当である(下図参照)。
【図】
(ウ)この点に関して原告は,本件ゲームがカードゲームを題材とするS
NSゲームであることに鑑みて,上記可変するものについても,カー
ドの内容及び価値を特定するものとして重要な要素であり,本件発明
の「対価データ」に含まれるべきであると主張する。
しかし,前記ア(エ)のとおり,本件特許の特許請求の範囲請求項1の
記載には,「カード画像取得難度表示部」(★印)についてその個数
が変化することについて記載されていないこと,本件明細書等にもそ
のことについて何ら記載されておらず,示唆もされていないことから,
事後的に増減するような可変する表示ないし情報については,「カー
ド画像取得難度表示部」(★印)に該当せず,本件発明の「対価デー
タ」に該当しないものと解されるのであり,原告の上記主張は採用す
ることができない。
(エ)よって,本件ゲームについて本件発明の構成要件D-1の充足性に
ついて検討するに際し,「対価データ」の充足性判断に当たっては,
「強化された選手カード」の画像部分については,選手の写真画像と
ともに表示されるパラメータのうち,不変のもの,すなわち,選手名,
所属球団,レア度,ポジション,コストについては,本件発明の★印
と対比されるべきものであり,その一方で,「強化」により可変する
ものである,「成長」の数値やグラフ,「Lv」(カードレベル)や,
「球威」,「制球」,「投力」等を示す数値や「A」,「B」,「C」
等の画像部分については,本件発明の★印と対比されるべきものでは
ないとするのが相当である。
ウ充足の成否
上記ア及びイのとおり,本件ゲームでは,選手カードの画像は固定カ
ードIDと関連付けられており,固定カードIDは,コスト,レア度,
ポジション等が同一であるもの(「固定選手カード」)ごとに付与され,
これらコスト,レア度,ポジションといったパラメータはいずれも固定
値であり,「強化」の前後で変化することがなく,また,本件ゲームで
は,「強化」によって被告サーバ装置が「強化された選手カード」につい
て新たな所持カードIDのレコードを追加することはなく,「ベースカー
ド」について枚数フィールドの値が変動することもない。
このように,本件ゲームは,「強化」により「強化ポイント」を使用す
るが,そのことによっても,「対価データ」と対比すべき画像部分におい
ては「強化」の前後を通じて変動がなく同一であり,また,サーバにおい
ても,新規のレコードを作成又は既存のレコードの「枚数」を管理するフ
ィールドが変更されるといった処理が行われない構成を採用するもので
あるということができる。
そうすると,本件ゲームにおける選手カードは強化ポイントを消費する
ことで新たに獲得するものとはいえないから,本件ゲームは,前記(2)イ
で認定した本件発明の構成要件D-1の「対価データ付与手段」を備えて
いないと認めるのが相当である。
エよって,本件ゲームは,本件発明の構成要件D-1を充足しない。
(4)構成要件A,E,F,G,D-2,C-2における「対価データ」の充足

上記(3)のとおり,本件ゲームにおける「強化された選手カード」は,
強化ポイントを消費して「強化」を行ってユーザが所持するものではあるが,
「強化」により新たに獲得されるものではない。
また,本件ゲームにおいて,ほかに「強化ポイント」を消費して獲得する
「選手カード」はない。
したがって,本件ゲームには本件発明の「対価データ」に該当するものは
存在しないと認定するのが相当である。
よって,被告サーバ装置は,本件発明の構成要件A,E,F,G,D-2,
C-2の「対価データ」を備えていないと認めるのが相当であり,本件発明
の上記各構成要件を充足しない。
3争点(1)ア(イ)(構成要件Bにおける「複数のゲーム」の充足性)について
(1)本件明細書等には,前記2(1)のほか,次の記載がある。
(発明の属する技術分野)
・「本発明は,ネットワークを介して端末装置とネットワークゲーム用サー
バ装置との間でデータの送受信を行うことで実行されるネットワークゲ
ームに関するものである。」(段落【0001】)
(発明が解決しようとする課題)
・「本発明は,ユーザに対価データの獲得を容易に行わせることができると
ともに,ユーザに継続的にゲームを行わせることができるネットワークゲ
ーム用サーバ装置,ネットワークゲーム進行制御方法及びネットワークゲ
ーム進行制御プログラムを提供することを目的とする。」(段落【000
4】)
(課題を解決するための手段)
・「このようにして,所定の価値を有する対価データを獲得するために必要
とされるポイントの獲得が可能なゲームとして複数のゲームが提供され
るので,ユーザに対して対価データの獲得方法を複数提供することができ
る。」(段落【0008】)
・「また,ユーザに対してゲームを行うことで直接対価データを付与するの
ではなく,対価データを獲得するために必要なポイントが付与されるので,
ユーザは,ゲーム進行度合いに応じて対価データの獲得率が向上する等の
期待感を高めていくことができる。」(段落【0009】)
(発明の実施の形態)
・「なお,以下の説明では,ユーザにポイントを獲得させるための複数のゲ
ームとして,プロ野球試合結果予想ゲーム(第1のゲーム)とカードめくり
ゲーム(第2のゲーム)を例にとり,これらのゲームをユーザに実行させる
ことでネットワークゲームサーバ1が行う種々の処理等について適宜図
面を参照しながら説明する。また,ユーザにポイントを獲得させるための
ゲームは,3種類以上あってもよい。」(段落【0035】)
・「特に,プロ野球の試合結果予想ゲームでは,プロ野球の試合結果を端末
装置である携帯電話機等を使用するユーザに予想させることを想定して
説明するが,本発明は,この例に特に限定されず,将来発生する現実の事
象に対する予想として結果がネットワークゲームサーバ1(ネットワーク
ゲーム用サーバ装置)によって取得できるものであれば,他の事象を予想
させるようにしてもよい。例えば,スポーツ,格闘技,レース,新曲のヒ
ットチャート予想等に適用することができ,特に勝敗や順位が結果として
判明するものが好適であるが,気象データ,海洋データ,政治データ及び
経済データ等の予想等にも適用可能である。」(段落【0036】)
・「ゲーム実行部18は,CPU等がゲーム実行プログラム等を実行するこ
とによって実現される。ゲーム実行部18は,プログラム記憶部30に含
まれる記録媒体31に記憶されている複数のゲームプログラムの中から
1つのゲームプログラムによって実行可能なゲームをユーザに実行させ
るものである。ゲーム実行部18は,所定期間継続してユーザにプロ野球
試合結果予想ゲームを実行させる機能(第1のゲーム実行手段)及びプロ
野球試合結果予想ゲームより短期間でゲームが完結するカードめくりゲ
ームをユーザに実行させる機能(第2のゲーム実行手段)を有する。また,
ゲーム実行部18は,プロ野球試合結果予想ゲームプログラムを実行する
場合,上述した登録処理部12及び結果データ処理部13を用いてプロ野
球試合結果予想ゲームを実行する。」(段落【0053】)
・「本実施形態において,複数のゲームプログラムとして,プロ野球試合結
果予想ゲームをユーザに実行させるためのプログラムと,カードめくりゲ
ームをユーザに実行させるためのプログラムとがプログラム記憶部30
の記憶媒体31に含まれている。」(段落【0054】)
・「ここで,ネットワークゲームサーバ1により行われる処理手順の説明に
先だって本実施形態におけるゲーム進行の概要について説明する。本実施
形態におけるゲーム進行の概要は,メインゲームとしてプロ野球の試合結
果を予想するゲームとミニゲームとなるカードめくりゲームとをユーザ
が行うことでポイントを蓄積していき,このポイントに応じてユーザがプ
ロ野球選手等のカード画像を取得(獲得)していくというものである。また,
ユーザは,取得したプロ野球選手等のカード画像データとポイントとを交
換することも可能である。また,ユーザは,いつでも取得したプロ野球選
手のカード画像データを携帯電話機3のモニタ等で電子アルバムのよう
に閲覧することが可能である。」(段落【0066】)
・「プロ野球の試合結果予想ゲームとは,ゲームへの参加を希望するユーザ
が,実際のプロ野球の試合結果に対する予想を立てて登録を行う。そして,
実際のプロ野球の試合が行われた後に試合結果が出ると,予想登録を行っ
たユーザに対し,試合結果に応じてポイントを付与される。ユーザは,予
想的中を繰り返していくことでポイントが累積して溜めていき,このポイ
ントに応じてユーザがプロ野球選手等のカード画像(対価データ)を取得
していくというものである。また,プロ野球試合結果予想ゲームは,所定
期間継続してユーザに実行させることでユーザにポイントを獲得させる
ゲームである。」(段落【0067】)
・「カードめくりゲームとは,プロ野球試合結果予想ゲームよりも短期間で
ゲームが完結するものであり,ユーザが,携帯電話機3等のモニタ上に表
示される画面上のカードを1枚ずつ選択して得たポイントを蓄積してい
き,プロ野球選手等のカード画像の取得するためのポイント獲得のための
補完方法として機能するものである。また,カードめくりゲームとは,プ
ロ野球試合結果予想ゲームよりも短期間でゲームが完結するものである。
(段落【0068】)
・「「応援球団」123とは,各ユーザが登録したプロ野球の応援球団のこと
であり,本実施形態において,この応援球団が勝利することで所定のポイ
ントを付与される。なお,応援球団は,他のユーザと同じ応援球団となっ
てもよい。「ライバル球団」124とは,各ユーザが登録したプロ野球のラ
イバル球団であり,本実施形態において,このライバル球団が負けること
で所定のポイントを付与される。なお,応援球団と同様に,他のユーザと
同じライバル球団となってもよい。」(段落【0079】)
・「このように,勝敗予想に対する現実の試合結果によって応援球団の勝敗
予想が外れたとしても,ライバル球団の勝敗予想を当てることによってユ
ーザはポイントの付与を受けることが可能となるので,弱い応援球団を応
援するユーザに対してもポイントを取得する機会を充分に付与すること
ができるとともに,ユーザの関心事とゲームの内容を連動させることがで
きるので,ゲームの興趣性をより向上することができる。」(段落【00
80】)
・「つづいて,ネットワークゲームサーバ1が行うミニゲームをユーザに行
わせることでポイントの付与を行う処理手順について説明する。」(段落
【0161】)
・「上述してきたように,図15及び図16では,ネットワークゲームサー
バ1は,ゲーム実行部18によって,プログラム記憶部30に含まれる記
録媒体31に記憶されているカードめくりゲーム実行プログラムによっ
て実行可能なカードめくりゲーム(ミニゲーム)をユーザに実行させるこ
とでポイントを獲得させるゲームの進行を行っている。」(段落【017
8】)
・「以上のように,本発明によれば,ユーザに対してカード画像の獲得方法
を複数提供することができるため,ユーザに対してカード画像の獲得を容
易に行わせることができるとともに,ユーザはゲーム進行度合いに応じて
所望するカード画像の獲得率が向上する等の期待感を高めていくことが
できるため,ユーザに対して継続的にゲームを行わせることができる。」
(段落【0179】)
・「また,ユーザは自分の好みや都合等に応じて所望するタイプのゲームを
選ぶことができるため,ゲームが単調とならず,ユーザに継続的にゲーム
を行わせることができる。」)(段落【0180】)
・「また,2つのゲームの中のうちの一方のゲームに他方のゲームにおける
ゲームの実行不能な期間を補完する役割を持たせることができるため,ユ
ーザは継続的にゲームを実行することができる。」(段落【0181】)
・「また,例えばプロ野球の試合結果の勝敗予想等の現実世界における複雑
かつ予想困難な事象に対してユーザが予想を行うことができるとともに,
最終的に付与されるカード画像の獲得に対するユーザの期待感を向上す
ることができるので,ゲーム自体の興趣性を向上することができ,また,
ユーザはポイントを継続的に増加させて所望するカード画像を獲得でき
るので,ゲームの進行度合いに応じて所望するカード画像を獲得できると
いう期待感を継続的にユーザに与えることができる。」(段落【0182】)
(2)「複数のゲーム」の意義
ア以上を前提に,本件発明の「複数のゲーム」の意義について検討する。
本件発明の構成要件Bにかかる特許請求の範囲には,「複数のゲームの
中から1つのゲームをユーザに実行させるためのゲーム実行手段」と記載
されていることから,この「複数のゲーム」は,ユーザに実行されるゲー
ムであると解される。さらに,本件発明の構成要件C-1に「前記ゲーム
実行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに所定
のポイントを付与する」と記載されていることから,上記「複数のゲーム」
は,その結果に応じて当該ユーザにポイントが付与される,というゲーム
であると認められる。
イこの点に関して被告は,本件発明における「ゲーム」とは,互いに独立
してそれ自体で完結するゲームをいうのであり,他のゲームと不可分な関
係にあってその一部をなすにすぎないものは当たらないと主張する。
この点,本件発明の構成要件Bに「複数のゲーム」と記載されているこ
とから,当該「ゲーム」が互いに独立しており,その数を換算することが
可能なものとしてのゲームであることは明らかである。
次に,本件発明の構成要件Aに「所定の価値を有する対価データをユー
ザに獲得させるゲーム」と記載されていることから,この「ゲーム」と構
成要件Bの「複数のゲーム」とがいかなる関係にあるのかについて,以下
検討する。
まず,本件発明の構成要件Aの「ゲーム」については,同構成要件の上
記記載のほかに,本件明細書等の段落【0097】,【0098】,【0
101】に,ユーザが「カードGET!」のメニューを選択すると,ネッ
トワークゲーム用サーバにおいて当該ユーザが所定のポイント以上のポイ
ントを有すると判断したとき,対価データの中からランダムに一つの対価
データを抽出してこれを当該ユーザに付与し,付与した対価データに対応
して定められたポイントを当該ユーザの有するポイントから減算する旨記
載されているから,構成要件Aの「ゲーム」とは,ユーザがポイントを使
用することでランダムに選ばれた対価データであるカード画像を取得する
ものであると解される。
また,本件発明の構成要件Bの「複数のゲーム」についてみると,本件
明細書等には,「所定の価値を有する対価データを獲得するために必要と
されるポイントの獲得が可能なゲームとして複数のゲーム」が提供され,
これによってユーザに対して対価データの獲得方法を複数提供することが
できること(段落【0008】),ゲーム実行部は,所定期間継続してユ
ーザにプロ野球試合結果予想ゲームを実行させる機能(第1のゲーム実行
手段),及びプロ野球試合結果予想ゲームより短期間でゲームが完結する
ゲームである,カードめくりゲームを,ユーザに実行させる機能(第2の
ゲーム実行手段)を有しており,上記のプロ野球試合結果予想ゲームをメ
インゲームとし,上記のカードめくりゲームをミニゲームとして,ユーザ
はそのいずれかを行って,ポイントを獲得,蓄積していき,このポイント
に応じてプロ野球選手等のカード画像を取得(獲得)していくこと(段落
【0053】,【0066】)が記載されている。
さらに,本件明細書等には,本件発明は,ユーザに対してカード画像の
獲得方法を複数提供することができるところ,ユーザは自分の好みや都合
等に応じて所望するタイプのゲームを選択できるため,ゲームが単調とな
らないし,二つのゲームの中のうちの一方のゲームに他方のゲームにおけ
るゲームの実行不能な期間を補完する役割を持たせることができるため,
ユーザに継続的にゲームを行わせることができること(段落【0179】
ないし【0181】),ユーザはポイントを継続的に増加させて所望する
カード画像を獲得できるので,ゲームの進行度合いに応じて所望するカー
ド画像を獲得できるという期待感を継続的にユーザに与えることができる
こと(段落【0182】)が記載されている。
以上の本件明細書等の記載によると,構成要件Bの「複数のゲーム」は,
所定の価値を有する対価データを獲得するために必要とされるポイントを
蓄積するためにユーザによって行われるものであり,メインゲームとミニ
ゲームとからなるものであると認められる。
そうすると,ポイントを蓄積するためのゲームである「複数のゲーム」
(構成要件B)と,対価データを取得する「ゲーム」(構成要件A)とは,
ポイントがないと対価データを取得するゲームができない,という点で,
「ポイント」により関連付けられていると認められる。
その一方で,「複数のゲーム」におけるメインゲームとミニゲームとの
間には,それらのゲームが内容や所要時間の異なるものとされ,そのため
にユーザが自由に選択でき,結果としてゲームが単調とならずにユーザに
継続的にゲームを行わせることができるものとされていることに鑑みると,
それらのゲームの間には関連付けがされておらず,個々のゲームで内容が
完結するものであると認定するのが相当である。
そして,本件発明の目的が,本件明細書等の段落【0004】の記載か
ら,継続的にユーザに対価データを収集させることであると認められるこ
とに鑑みると,構成要件Aの「ゲーム」と構成要件Bの「複数のゲーム」
の関係は,前者は上記目的を達するための直接の手段として主たるゲーム
に位置付けられ,後者は上記目的を達するためにポイントを獲得する手段
としての予備的ゲームに位置付けられると認定するのが相当である。
(3)被告サーバ装置の構成要件充足性
上記(2)イを前提に,本件ゲームにおける「ミッション」及び「リーグ」
(試合)が構成要件Bの「複数のゲーム」に該当するか,以下,検討する。
別紙物件構成説明書によれば,本件ゲームにおける選手カードの獲得手段
は「ガチャ」であり,獲得した選手カードの強化手段は「強化」であり,そ
の強化には所持強化ポイントを必要とし,所持強化ポイントをユーザが獲得
するには,「ミッション」を行うか,所持する選手カードを売却することに
よることが認められる。
そのうち,「ミッション」についてみると,証拠(甲9)によれば,本件
ゲームの「ヘルプ」メニューのうち「ミッションって何?」に「ミッション」
の概要として,「日本各地をまわりながら,選手の調査を行います。ミッシ
ョンを実行する事で,選手カード,経験値,強化Pが入手出来ます。」と記
載されており,「ミッション」は単一のゲームからなるものであり,ユーザ
はかかる「ミッション」を繰り返し実行して,選手カードや強化ポイント等
を獲得していくことが認められる。
そして,本件ゲームでは,「リーグ」においてユーザは他のユーザと試合
を行うことができ,この「試合」とは,ユーザが集めた選手カード(ユーザ
が「強化」により強化した選手カードであることもあれば,「強化」しない
で獲得したままの選手カードであることもある。)からオーダーを組み,他
のユーザがオーダーを組んだチームと対戦する,というものであることが認
められる。
この点に関して,本件ゲームの「ヘルプ」メニューのうち「大熱狂!!プ
ロ野球選手カードについて」に本件ゲームの概要として,「大熱狂!!プロ
野球カードは,プロ野球選手カードを集めて,育成・強化し,自分だけのベ
ストナインを作り上げるゲームです。」「お気に入りの選手を集め,育成し,
最強のチームをつくりあげましょう!!」(甲9)と記載されており,その
記載によれば,本件ゲームの主たる目的は,最終的には,他のユーザに試合
で勝つことであると認定するのが相当である。
そこで,「リーグ」(試合)と「ミッション」の関係についてみると,上
記認定した本件ゲームの主たる目的に照らすと,本件ゲームにおいて,上記
主たる目的を達するための直接の手段として主たるゲームに位置付けられる
のは,ユーザがそのチームで他のユーザと対戦するゲームである「リーグ」
(試合)であるといえるから,「リーグ」(試合)が本件ゲームの主たるゲ
ームに位置付けられると認められる。これに対して「ミッション」は,これ
を行うことでユーザが選手カードや,その強化に必要な所持強化ポイントを
獲得することができるゲームであるから,かかる「ミッション」は,ユーザ
が「リーグ」(試合)で勝利する準備として行うものであるといえるから,
「リーグ」(試合)に対する予備的ゲームに位置付けられると認めることが
できる。
そうすると,本件ゲームにおいて「リーグ」(試合)と「ミッション」と
は,主たるゲームと予備的ゲームとして関連付けられたゲームであると認め
られ,「ミッション」はそれ自体で内容が完結するゲームであると認めるこ
とはできない。
したがって,本件ゲームの「リーグ」(試合)と「ミッション」とをもっ
て本件発明の構成要件Bの「複数のゲーム」に当たるものではないと認める
のが相当である。
また,「ミッション」は前記認定したとおり,単一のゲームからなるもの
であり,それ自体が複数のゲームからなるものではないから,「ミッション」
単体で構成要件Bの「複数のゲーム」に当たることもないと認定するのが相
当である。
よって,本件ゲームは,「複数のゲーム」を備えておらず,被告サーバ装
置は本件発明の構成要件Bの「複数のゲーム」を充足しない。
4争点(1)イ(均等侵害の成否)について
(1)均等侵害の判断基準
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場
合であっても,①上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,②上記部分を
対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することがで
き,同一の作用効果を奏するものであって,③上記のように置き換えること
に,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することがで
きたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術
と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,
かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から
意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象
製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明
の技術的範囲に属するというべきである(最高裁判所平成10年2月24日
第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
(2)相違点が非本質的部分であるか否かについて
上記(1)に判示した均等侵害の成立要件のうち①の要件に関し,特許発明の
本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,公開
された明細書や出願関係書類の記載から把握される当該特許発明特有の課題
解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうと解するの
が相当である。
これを本件発明についてみると,本件発明は,従来のネットワークゲーム
にあった課題,すなわち,くじ引きゲームのようなゲームでは,くじ引き
という当たり又は外れによる偶然性に基盤が置かれるため,ユーザはゲー
ムの進行度合いに応じて画像データの獲得率が向上する等の期待感が高ま
ることがないため,ユーザに継続的にゲームを行わせることが困難である,
という課題を解決するため,ユーザに「対価データ」の獲得を容易に行わせ
るとともに,ユーザに継続的にゲームを行わせるために,ユーザに対してゲ
ームを行うことで直接に「対価データ」を付与するのではなく,「対価デー
タ」を獲得するために必要な「ポイント」を付与するものとし,「対価デー
タ」はその「ポイント」の対価としてユーザが獲得するものとした構成が採
用されたのであり,これが本件発明の課題解決手段を基礎付ける技術的思想
の中核をなす特徴的部分であるというべきである。そうすると,本件発明と
被告サーバ装置との間において構成の異なる部分のうち,構成要件A,D-
1,E,F,G,D-2,C-2における「対価データ」を備える構成は,
本件発明の本質的部分であるというべきである。
他方,前記3のとおり,本件ゲームにおいては,「対価データ」に相当す
るものはなく,原告が主張する「強化された選手カード画像」は,強化ポイ
ントによって新たにユーザに付与されるものではないから,本件発明の「対
価データ」と本件ゲームの「強化された選手カード画像」の相違点は発明の
非本質的部分と認めることはできない。
したがって,均等侵害の成立要件の①の要件を充たさないというべきであ
る。
(3)以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,被告サーバ装
置は,本件発明の構成と均等なものということはできない。
5争点(2)イ(乙3文献を主引例とする進歩性欠如)について
事案に鑑み,争点(2)イについて判断する。
(1)乙3文献の記載
ア本件特許の出願前である平成12年10月13日に頒布された刊行物で
ある乙3文献には,次の記載がある。
・「どんなゲーム?」
「エニックスが提供する『ドラゴンクエストNET』。このコンテンツ
では,『グランカジノ』と『カードのほこら』という,2種類のゲ-ムを遊
ぶことができる。・・・しかも,この2つのゲームでは,カードとゴール
ドが共通。つまり,『グランカジノ』でゴールドを稼ぎ,『カードのほこ
ら』でカード購入することができるのだ。さらに,稼いだゴールドやメダ
ルの数によって,レアなグッズが当たるぞ。」(4頁中央部)
・「グランカジノ」
「『グランカジノ』では,『スライムキャッチャー』,『モンスタース
ロット』,『ホイミでHI&LOW』,『スライムハット』,『モンスタ
ーのたまご』の5種類のゲームで遊ぶことができる。この他にもVIPゲ
ームやめったに登場しない隠しゲームなどがあるのだ。」(5頁上部)
・「カードのほこら」
「『カードのほこら』は,カードを集めるためにドラゴンクエストの世
界を冒険するゲームだ。フィールドを探索しながら,遭遇したモンスター
と戦い,勝つとモンスターがカードに変身する。こうやって,ドンドンカ
ードを集めていくのだ。カードはのみの市やグランマーズの館などで売買
も可能なので,上手に利用してカードを集めよう。」,「勝利カードを
GET!!戦闘に勝つと,モンスターはカード変化し,手に入れること
ができる。」(5頁中央部)
・「この他に,2種類のVIPゲームといつ登場するかわからない隠しゲ
ームで遊ぶことができる。」(6頁上部)
・「スライムキャッチャー」
「掛け金0G配当50G~」,「クレーンで吊り上げるスライム
の色を当てるゲーム。予想を当てると,50Gもらえる。ゲームを遊ぶの
にゴールドは必要ない。まれにキングスライムを吊り上げることがあり,
その場合は多めのゴールドとカードが入手できるのだ。」(6頁中央部)
・「モンスタースロット」
「賭け金100G配当250G~5000G」,「いわゆるス
ロットゲームだ。そろった絵柄によって,配当金額が変わってくる。一番
大きな配当額だと,5000Gもあり,一攫千金にはもってこいのゲーム
だ。」(6頁下部)
・「ホイミでHI&LOW」
「賭け金100G配当200G」,「ホイミスライムが3回,
回復の呪文を唱え,その合計が,15を超えるかどうかを予想するゲー
ム。」,「配当金は地味だが,比較的当てやすい」(7頁上部)
・「スライムハット」
「賭け金100G配当300G」,「スライムが1匹,3個あ
るハットの中に隠れており,どこにスライムがいるかを当てるゲームだ。
・・・時々びっくりするような配当になることもあるのだ。」,「難しい
わりに配当金が低い。しかし,時にはびっくりするような大当たりも」(7
頁中央部)
・「●ロトチャレンジ」
「当たればでかい宝くじ」,「VIPゲームとして,いろいろなゲーム
が用意されている。そのうちの1つロトチャレンジは,3ケタの数字の組
み合わせを当てるゲームだ。見事3ケタをすべて当てると,配当金を手に
することができる。」(7頁下部)
・「カードのほこら紹介」
「バトル
フィールド上を移動していると,モンスターと遭遇することがある。遭
遇すると逃げることはできず,必ず戦うことになる。」,「モンスターと
遭遇バトル勝つとカードをゲット」(8頁中央部),
「格闘場
格闘場では,ゴールドを払ってモンスターと戦い,勝利を収めると一定
のゴールド手に入れることができる。通常参加料は100Gで,勝利する
と500Gもらうことができる。時々,闘技会が開催され,この時は参加
料が200Gになり,勝利すると1200Gもらえるのだ。」(8頁左下
部)
・「カードのトレーディング」
「冒険で手に入れたカードは,『のみの市』で売りに出すことができる。
『カードを飛ばす』では,合い言葉を入力することで,友達にカードを渡
すことができる。また,グランマーズの館や旅の商人・・・でもカードの
売買をすることができる。」(9頁上部)
・「■のみの市」
「のみの市では,カードを購入したり,手カードを売りに出せる。売り
に出すときの値段はプレイヤーの言い値だ。」,
「●カードを購入する場合
よくあるカードレア度の低いカードばかり。値段も安い。
ちょい珍しいレア度が中くらいのカードが主。
これは珍しい珍しいカードばかり。値段もびっくり。」,
「●カードを売却したい場合
「出品したいカードのNoを入れる。」,「出品したカードの値段を入
れる。」(9頁中央部)
・「グランマーズの館
グランマーズの館では,カードの売買やカードを見ることができる。売却
価格は,一律100G。」(11頁左上部)
イ乙3文献の奥付には「iモード公式ゲームナビ」と記載されているから,
乙3に記載されたものは各ゲームを実現する手段を備えたiモードシステ
ムであると認められる。
ウ以上認定した乙3文献の記載によれば,乙3文献には以下の発明(乙3発
明)が記載されていると認められる。
「複数のゲームを遊ぶことができる『ドラゴンクエストNET』のiモー
ドシステムであって,
当該複数のゲームは,
フィールドを探索しながら,遭遇したモンスターと戦い,勝つとモンスタ
ーがカードに変身してカードをGETできる『カードのほこら』,
0Gの掛け金でクレーンで吊り上げるスライムの色を予想し,予想を当て
ると一定のゴールドを手に入れることができる『スライムキヤツチャー』,
通常参加料100G,闘技会の参加料200Gのゴールドを払ってモンス
ターと戦い,勝利を収めると一定のゴールドを手に入れることができる『格
闘場』,
100Gの賭け金を払って絵柄をそろえると一定のゴールドを手に入れ
ることができる『モンスタースロット』,
100Gの賭け金を払ってモンスターが唱える呪文の合計値が15を超
えるかを予想し,予想が当たると一定のゴールドを手に入れることができる
『ホイミでHI&LOW』,
100Gの賭け金を払ってモンスターの隠れ場所を予想し,予想が当たる
と一定のゴールドを手に入れることができる『スライムハット』,
ゴールドによりカードを購入したり,手カードを売りに出せる『のみの市』,
ゴールドによるカードの売買やカードを見ることができる『グランマーズ
の館』,
いつ登場するかわからない『隠しゲーム』であり,
各ゲームを実現する手段を備えた
『ドラゴンクエストNET』のiモードシステム」
(2)本件発明との対比
ア乙3発明と本件発明を対比すると,以下のとおりである。
すなわち,乙3発明の「カード」は本件発明の「対価データ」に相当し,
以下同様に,乙3発明の「ドラゴンクエストNET」は本件発明の「ネット
ワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの送受信を行い
所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲーム」に,乙3発明
の「カードのほこら」,「スライムキヤツチャー」,「格闘場」,「モンス
タースロット」,「ホイミでHI&LOW」,「スライムハット」,「のみ
の市」,「グランマーズの館」及び「隠しゲーム」は,本件発明の「ゲーム」
に,乙3発明の「ゴールド」は本件発明の「ポイント」にそれぞれ相当する。
さらに,乙3発明の「のみの市」,「グランマーズの館」は,カードを購
入することができるものであり,ユーザがカードを購入できる程度に手持ち
のゴールドを所持する場合に限りゴールドをカードの対価として支払うこ
とになるから,そのことはシステムとしては本件発明の「ポイントが所定条
件を満たす場合に」「対価データをユーザに付与するとともに,付与された
対価データに対応して定められたポイントを減少させ」る点に相当し,また,
乙3発明の「のみの市」及び「グランマーズの館」は,ユーザが所持するカ
ードを売ることができるものであり,そのことはシステムとしては本件発明
の「ポイント交換要求に応じて」「対価データを消去するとともに対価デー
タに相当するポイントをユーザに付与」する点に相当する。
加えて,乙3発明では,「カードのほこら」,「スライムキヤツチャー」
等を行う手段があることは自明であるから,乙3発明は「ゲーム実行手段」
を有する。また,乙3発明では,ユーザはゴールドを手に入れることができ
るから,乙3発明は,「ポイント付与手段」に相当する構成を有するととも
に,ゴールドによりカードを購入,売買できるのであるから,「対価データ
付与手段」に相当する構成も有すると認められる。
また,乙3発明の「『ドラゴンクエストNET』のiモードシステム」は
ネットワークゲームのシステムであるから,本件発明1の「ネットワークゲ
ーム用サーバ装置」とは「ネットワークゲーム用システム」である点で共通
する。
イ上記アによれば,本件発明と乙3発明の一致点は,次のとおりであると認
められる。
「ネットワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの送受
信を行い所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲームを進
行させるネットワークゲーム用システムであって,
複数のゲームの中から一つのゲームをユーザに実行させるためのゲーム
実行手段と,
前記ゲーム実行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該
ユーザに所定のポイントを付与するポイント付与手段と,
前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所
定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段
とを備え,
前記対価データ付与手段は,ポイントが所定条件を満たす場合に,対価デ
ータ付与要求に応じて前記対価データをユーザに付与するとともに,付与さ
れた対価データに対応して定められたポイントを減少させ,
前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて対価データを消去す
るとともに,当該対価データに相当するポイントをユーザに付与することを
特徴とするネットワークゲーム用システム。」
ウそして,前記アによれば,乙3発明と本件発明の相違点は,次のとおりで
あると認められる。
(ア)相違点1
本件発明では,「ネットワークゲーム用システム」が「ネットワークゲ
ーム用サーバ装置」であって,「ネットワークゲーム用サーバ装置」が,
「ゲーム実行手段」,「ポイント付与手段」,「対価データ付与手段」を
備えるのに対して,乙3発明ではそのような構成か不明である点。
(イ)相違点2
本件発明では,「端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが
獲得したポイント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段」を備え,
「端末装置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求を受信
する対価データ付与要求受信手段と,ユーザ情報管理手段によって管理さ
れている対価データと対価データに対応して定められたポイントとの交
換を要求するポイント交換要求を端末装置から受信するポイント交換要
求受信手段とを備え」るのに対して,乙3発明ではそのような構成か不明
であり,また,本件発明では,「前記対価データ付与手段は,前記ユーザ
情報管理手段によって管理されているポイントが所定条件を満たす場合
に,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザに付与する
とともに,付与された対価データに対応して定められたポイントを減少さ
せ,前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて前記ユーザ情報
管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,当該対
価データに相当するポイントをユーザに付与する」のに対して,乙3発明
にはポイント及び対価データが「ユーザ情報管理手段」により管理される
ものとする構成が備わっていない点。
(3)相違点の検討
そこで,上記相違点1,2について検討する。
ア相違点1について
(ア)乙8の8文献は,「ウルティマオンラインのプレイは,インターネット
上のゲームサーバに接続することが前提となっている」(10頁),「ウ
ルティマオンラインのすべての処理を行っているのが,ゲームサーバ・・
・である。」(11頁)の記載からすれば,同文献には,ネットワークゲ
ームにおいてその処理の全てを行うゲームサーバが開示されているもの
と認められる。
また,乙8の14文献は,「ゲーム自体Blizzardのサーバ上で
行われる。」(22頁),「Realm(レルム)とはBlizzard
の用意したゲームサーバであり,このサーバ上でゲームをしたり」,「そ
れぞれのサーバは独立した環境にあるため,異なるRealm(レルム)
のキャラクター同士でネットワークプレイはできない。」の記載からすれ
ば,同文献にも,ゲームの進行を行うオンラインゲーム用サーバ装置が開
示されているものと認められる。
ほかに,発行を株式会社ティーツー出版とする「iモードゲーム完全
攻略ガイド」と題する文献(平成12年8月15日発行。乙5の2。以下
「乙5の2文献」という。)には,携帯電話端末を用いたネットワークゲ
ームである「聖魔大戦ミスティック・グラップル」につき,「どんな仕組
み?サーバー上の闘技場でバトルを行うプレイヤーは携帯を介し,サ
ーバー上にある闘技場や試練の場で,他のプレイヤーなどと戦って資金を
獲得。」の記載があり,同記載からすれば,同文献には,オンラインゲー
ムにおいて「闘技場」等での他のプレイヤーとの対戦を進行するサーバ装
置が開示されているものと認められる。
(イ)上記(ア)で認定した乙8の8文献,乙8の14文献,乙5の2文献の内
容に照らせば,ネットワークゲームにおいてサーバ側でゲームの処理を行
うという技術は,周知技術であると認めることができる。
そして,その周知技術を乙3発明に適用することについて,本件で提出
された全証拠を精査しても,本件特許の出願時における通信環境に関して
原告が主張するような阻害要因となるべきものは認められない。
(ウ)以上のとおり,ネットワークゲームにおいてサーバ側でゲームの処理を
行うことは,当業者にとって周知技術であると認められるから,乙3発明
について,これをサーバ側でゲームの処理を行うものとして具体化するこ
とは,当業者にとって容易になし得るものであるということができる。そ
して,上記具体化に併せて,前記(2)アで乙3発明が有すると認定したゲ
ーム実行手段,ポイント付与手段,対価データ付与手段につき,これらを
いずれもサーバ側に設ける構成とすることは,当業者であれば容易に想到
することであるということができる。
イ相違点2について
サーバ側でゲームの処理を行うとしたとき,一つのサーバに対してゲーム
をプレイするユーザが複数となることから,サーバには,端末装置を使用す
るユーザに関連付けて当該ユーザが獲得したポイント及び対価データを管
理するユーザ情報管理手段が必要となることは自明であり,さらに,当該サ
ーバには,対価データ付与要求受信手段やポイント交換要求受信手段等の情
報交換機構の一部も必要となることも自明であるから,相違点1の構成の具
体化に伴って,これらの手段をいずれもサーバ側に設けることは当業者であ
れば容易に想到することであるということができる。加えて,「ユーザ情報
管理手段」は,「ポイント及び対価データを管理」するものであるから,対
価データ付与手段やポイント付与手段が関係するポイントと対価データに
ついても,サーバ側に「ユーザ情報管理手段」を設けてこれにより管理され
るものとすることは,当業者であれば極めて容易に想到することであるとい
うことができる。
(4)この点に関して原告は,本件発明の「対価データに対応して定められたポイ
ント」との構成は,売買時に必要な「ポイント」が「対価データ」により異な
るものであるから,乙3文献の「グランマ-ズの館における売却価格は,一律
100G」とする構成は,必要なポイント数が当該対価データの価値に応じて
設定されていないから異なるものであり,乙3文献の「のみの市における言い
値」とも,同様に異なるものであると主張する。
しかし,原告の上記主張を前提としても,特開2000-116952号公
報(乙29文献)には,「バーチャルエレメント価格表手段Bとしての,サー
バ上のバーチャルエレメント価格表対応の記憶領域に記憶されている当該ユ
ーザ保有のバーチャルエレメントの各々のバーチャルエレメント価格を表す
データ」の記載があり,同記載からすれば,バーチャルエレメント価格をバー
チャルエレメントごとに設定することが開示されており,交換するポイントを
対価データごとに様々な値に決めておくことは当業者にとって周知技術であ
ると認めることができる。そうすると,かかる構成とすることは当業者が容易
に想到することであるということができるから,原告の上記主張は失当である。
(5)以上のとおり,本件発明は,乙3発明及び当業者に周知な技術事項に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるということができるか
ら,特許法29条2項に違反し,特許無効審判により無効とされるべきものと
認められる。
6争点(3)イ(本件訂正による対抗主張の成否・被告サーバ装置が本件訂正発明
の技術的範囲に属するか)について
訂正の対抗主張が成立するためには,訂正審判あるいは訂正請求が適法に行
われることによって特許の無効理由が解消されることの他に,被告の製品若し
くは方法が訂正後の特許発明の技術的範囲に属することを要すると解すべきで
あるところ,本件においては,仮に本件訂正により争点(2)の無効理由を全て解
消することができるとしても,本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものであるから,前記2及び3のとおり,そもそも被告サーバ装置が本件訂正
前の本件発明の技術的範囲に属さない以上,本件訂正発明の技術的範囲にも属
さないことは明らかである。
したがって,原告の本件訂正による対抗主張は理由がないというべきである
が,事案に鑑み,以下,訂正の対抗主張の成否に関する争点(3)イにつき,判断
する。
7争点(3)イ(ア)(構成要件A’における「価値が異なる複数の対価データが存
在するゲーム」の充足性)について
(1)「価値が異なる複数の対価データが存在するゲーム」の意義
原告は,「価値が異なる複数の対価データが存在するゲーム」について,
ゲームのどこかの段階で「対価データ」をユーザに提供できれば,「存在す
る」というものと解されるのであり,被告が主張するように「対価データ」
が予め用意されているのか,あるいは,ユーザがポイントを消費する選択を
した後に「対価データ」が存在するに至るか,といった点は関係がないと主
張する。そこで,以下,この点について検討する。
本件訂正発明の構成要件A’に係る特許請求の範囲には「所定の価値を有
する対価データ」,「前記価値が異なる複数の対価データ」と記載されてお
り,本件訂正発明の構成要件D’-2にかかる特許請求の範囲に「付与され
た対価データの価値に応じて定められたポイント」と記載されていることか
ら,「価値」と「ポイント」は対応付けられたものであり,「対価データ」
は「ポイント」と対応付けられたものであると解される。
そして,複数の対価データが存在するゲームにおいて,複数の対価データ
を管理保存するに当たり,対価データ一つに対して複数の価値を付す構成を
取ることは複数の対価データの円滑な管理保存の妨げとなるから,かかる技
術常識を考慮すると,当業者は,かかる構成をあえて採用することはせず,
「対価データ」がその対応する「価値」ごとに予め分類されていると考える
のが通常であり,そのためには対価データが予め用意されていなければなら
ないと考えると認められる。
そうすると,「対価データ」は,予め用意されて「ポイント」に対応付け
がされたものであると解するのが相当である。
したがって,本件訂正発明の構成要件A’の「価値が異なる複数の対価デ
ータが存在するゲーム」とは,対価データの価値に応じてポイントに対応付
けがされた対価データが予め用意されていることを前提としたゲームである
と解するのが相当である。
以上の特許請求の範囲の記載の解釈は,本件明細書等の記載に裏付けら
れているということができる。すなわち,本件明細書等の段落【0122】
には,対価データである選手カードには,「ノーマルカード」,「レアカー
ド」及び「ウルトラレアカード」の三つのランクで分類され,各分類に応じ
て必要なポイントが定められており,例えば,「ノーマルカード」が5ポイ
ント,「レアカード」が60ポイント,「ウルトラレアカード」が300ポ
イントと,獲得難度が上がるにつれて順に必要なポイントが高くなるように
定められることが記載されている。また,同段落には,「獲得に必要なポイ
ント」,「さらにポイントを貯めて所望のカード画像を獲得しようという動
機付けになる。」とあり,「対価データ」はユーザが獲得するものであるこ
とが記載されている。さらに,【図10】には,ユーザがカードショップで
カードを購入する手順として,符号514で「■レアカード」を,符号52
0で「■購入する」を順次選択して,符号530で取得したカード画像が表
示されることが記載されている。
【図10】
また,本件明細書等の上記段落【0122】を含む段落【0114】ない
し【0129】には,ネットワークゲーム用サーバが行う対価データとポイ
ントとの交換に基づく処理手順に関する説明が記載されているところ,それ
らの記載には,どの段階で選手カードが用意されるかについて何ら記載がな
いことが認められる。
さらに,ネットワークゲーム用サーバが行うユーザからの対価データの閲
覧要求に基づく処理手順に関して,【図14】に示すように,本件明細書等
の段落【0152】には,「獲得カードリスト画面600」は,「ユーザの
現在のカード画像の収集率を表す収集率表示部602」を含む構成となって
いることが,段落【0153】には,上記「収集率表示部602」が現時点
でのユーザの獲得しているカード画像の収集状況を表示するものであり,例
えば,収集率が「82(分子)/1080(分母)」で示されている場合には,上記
分母が,ネットワークゲーム用サーバにおいて「予め管理している」カード
画像の総数を,上記分子が,ユーザが現時点で獲得しているカード画像の収
集状況を示していることが,また,段落【0155】には,「チーム別カー
ドリスト画面610」は,「ユーザの現在のチーム別のカード画像の収集率
を表すチーム別収集率表示部612」を含む構成となっていることが,段落
【0156】には,上記「チーム別収集率表示部612」が現時点でのユー
ザの獲得しているカード画像の収集状況を表示するものであり,例えば,収
集率が「35(分子)/90(分母)」で示されている場合には,上記分母が,
ネットワークゲーム用サーバにおいて「予め管理している」ユーザの閲覧要
求に対応するチームのカード画像の総数を,上記分子が,ユーザが現時点で
獲得しているチームのカード画像の収集総数を示していることが,それぞれ
記載されている。
【図14】
以上の本件明細書等の記載内容等を総合すると,本件訂正発明では,例え
ば本件明細書等に記載された実施例として,1080枚の選手カードが予め
用意され,個別にレア度が設定されるとともにそのレア度に対応したポイン
トが設定されているように,複数のカード画像が予め用意され,個別に価値
とポイントが対応付けされ,それら複数のカード画像がネットワークゲーム
用サーバにおいて管理され,ユーザがあるカード画像を獲得すると,そのカ
ード画像はユーザが現時点で獲得しているカード画像として管理されるもの
と認めることができる。
また,前記1のとおり本件発明が,対価データの獲得を目的とするゲーム
を提供するものであり,そのことは本件訂正発明も同じであり,対価データ
が予め用意されていることは前提とされているということができるが,本件
明細書等に,どの段階で選手カードが用意されるかについて何ら記載がない
ことから,本件訂正発明では,ユーザがゲームを始める当初の段階において
既に,選手カードが個別に価値とポイントを対応付けされて用意されている
と解するのが相当である。
以上のとおり,本件訂正発明の構成要件A’の「価値が異なる複数の対価
データが存在するゲーム」とは,対価データの価値に応じてポイントに対応
付けがされた対価データが予め用意されていることを前提としたゲームであ
ると解するのが相当である。
(2)充足の成否
アこれを本件ゲームについてみると,別紙物件構成説明書及び証拠(乙1,
30,31,37)によれば,本件ゲームは次のとおりであると認められ,
同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
(ア)「強化経験値」(mix_exp)とは,選手カードを「引継ぐカー
ド」として「強化」に用いることにより上昇するカード経験値を計算す
るために用いる固定の数値である。
(イ)「強化」とは,ユーザが,所持強化ポイントを消費して,そのユーザ
が所持する所持選手カードの中から「ベースカード」と「アシストカー
ド」を選択し,「ベースカード」に「アシストカード」の能力を引き継
がせ,これによってベースカードの経験値を上昇させることができる。
その際,被告サーバ装置は,ベースカードの強化に必要とされる強化ポ
イント(「必要強化ポイント」)を計算し,そのユーザの所持強化ポイ
ントから計算値を減算する。
その計算式は,別紙強化ポイント計算表のとおりである。
また,「強化」により能力を引き継いだ「強化された選手カード」に
ついては,そのファクターは所定の計算式により計算される。その計算
式は,別紙強化ポイント計算表のとおりである。
例えば,rankが9,コストが20の「林昌範」の選手カードであれば,
これをアシストカードにして「強化」を行うとき,ベースカードに付与
される経験値は,1800(=9×20×10)となり,rankが9,コストが
20の「木田優夫」の選手カードをアシストカードにしたときも,ベー
スカードに付与される経験値は,同じく1800となり,rankが10,
コストが18の「山口鉄也」の選手カードをアシストカードにしたとき
も,ベースカードに付与される経験値は,1800(=10×18×10)とな
るが,消費する「所持強化ポイント」は,同一のベースカードであれば,
上記「林昌範」の選手カードと上記「木田優夫」の選手カードは,同じ
ランクであるから同じ値となるが,上記「山口鉄也」の選手カードは,
ランクが一つ上回ることからさらに100が必要となる。
(ウ)さらに,被告サーバ装置では,選手の写真画像と各能力値のパラメー
タとを紐付けして別々に記憶しており,それらを予め合成した画像は記
憶していない。被告サーバ装置は,ユーザに選手カードの情報を送信す
るとき,写真画像とパラメータをそれぞれ記憶領域から取り出して,そ
れらを合成して画像を作成し,その画像をユーザに送信する。
イ上記アのとおり,本件ゲームでは,消費される「所持強化ポイント」は,
「ベースカード」と「アシストカード」を特定して初めて,強化に必要と
される強化ポイントが定められるということができる。そうすると,本件
ゲームでは,消費される「所持強化ポイント」は,予め,「強化された選
手カード」の価値に応じて定められたものではなく,「所持強化ポイント」
に対応付けられて予め用意されている選手カードは存在しないということ
ができる。
ウこの点に関して原告は,本件ゲームでは別紙強化ポイント計算表の計算
式が用意されており,「強化された選手カード」を得るために必要な強化
ポイントが提示された後,ユーザは「所持強化ポイント」の消費を選択し
ているから,「強化された選手カード」はユーザが上記選択する前に予め
用意されているといえるのであって,選手カードは「所持強化ポイント」
に対応付けられて予め用意されているということができると主張する。
しかし,前記(1)のとおり,本件訂正発明の構成要件A’の「対価デー
タ」は,ユーザがゲームを始める当初の段階において既に,選手カードが
個別に価値とポイントを対応付けされて用意されているものと解するのが
相当であるところ,原告が上記主張する「強化された選手カード」は,た
とえ計算表の計算式が用意されていたとしても,実際に計算がされるまで
は,ユーザがゲームを始める当初の段階において既に,個別に特定の数値
でポイントが対応付けされているものとはいえないことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上のとおり,本件ゲームの「強化」は,本件訂正発明の構成要件A’の
「価値が異なる複数の対価データが存在するゲーム」に該当せず,被告サー
バ装置は本件訂正発明の構成要件A’を充足しない。
8争点(3)イ(イ)(構成要件D’-2における「付与された対価データの価値に
応じて定められたポイントを減少させ」の充足性)について
(1)前記7(1)のとおり,本件訂正発明の「対価データ」は,ポイントと対応付
けされて予め用意されているものであるから,本件訂正発明の構成要件D’
-2の「付与された対価データの価値に応じて定められたポイントを減少さ
せ」とは,「付与された対価データの価値」と等価のポイントを減少させる
ことを意味し,「対価データ」と予め個別に対応付けされているポイントと
が一対一対応で交換されることを意味すると解するのが相当である。
この点に関して原告は,本件訂正発明の構成要件D’-2は,ある価値を
有する「対価データ」を取得するのに,その価値に応じて定められたポイン
ト数を減少させ,その価値に応じて定められたポイント数以外のポイント数
を減少させることはないことを規定したものであり,一物一価が厳密に規定
されてはいないと主張する。
しかし,前記2(3)ア(オ)によれば,本件ゲームでは,「強化」によって,
ユーザ所持カード情報テーブルにレコードが追加されることはなく,各パラ
メータが所定の条件に従って加算される。したがって,本件ゲームの「強化」
は,ユーザがこれを行うことにより選手カードを新たに獲得するのではなく,
所持する選手カードのパラメータを変更するものということができ,「強化
された選手カード」と消費される「所持強化ポイント」が一対一対応で交換
されているものではないと認めるのが相当である。
(2)また,上記(1)のとおり,本件ゲームの「強化ポイント」は,新たに入手し
たカードの画像データの価値と等価なポイントということはできず,本件ゲ
ームでは,「強化された選手カード」と消費される「強化ポイント」が一対
一対応で交換されているものではないから,「強化ポイント」は「強化され
た選手カードの価値に応じ」たものであるとはいえない。
この点に関して原告は,本件ゲームでは,「強化」により生成される可能
性がある「強化された選手カード」の群があり,その中から特定の「強化さ
れた選手カード」が選択,ユーザに獲得されるから,上記の一対一対応の交
換が行われていると主張する。
しかし,原告の主張は,群についてはポイントとの対応付けがされている
としても,群を構成する「強化された選手カード」は「生成される可能性が
ある」もので,ユーザがゲームを始める当初から予め用意されていることを
前提としていないから,群を構成する「強化された選手カード」が個々にポ
イントと予め対応付けされているとはいえない。
(3)以上のとおり,被告サーバ装置は本件訂正発明の構成要件D’-2の「付
与された対価データの価値に応じて定められたポイントを減少させ」を充足
しない。
9結論
以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
今井弘晃
裁判官
実本滋
(別紙)
特許公報(省略)
(別紙)
物件構成説明書(省略)
(別紙)
強化ポイント計算表(省略)

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