弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一の上告趣意について。
 論旨第一、二点について。
 第一審判決認定の本件建物(店舗部分)については、判示仮処分決定正本にもと
ずいて、昭和二六年九月七日これを執行吏の占有保管に移す旨の仮処分の執行がな
されたこと(差押)、かつ本件公示書には「左記建物は、前記当事者間の旭川地方
裁判所留萠支部昭和二六年(ヨ)第八号仮処分申請事件につき本日当職(執行吏事
務取扱を指す)に於て仮処分の執行をした、何人も該建物を処分し又は此の公示書
を破棄してはならない」と掲記されてあることは第一審判決挙示の証拠上明らかで
あり記録添付の仮処分執行調書謄本によれば、右仮処分の執行に際し、執行吏事務
取扱は被申請人Aに対し、右仮処分の要旨を示した上、本件仮処分の物件は執行吏
の占有に移つたからこれを処分してはならない旨諭告した事実をみとめることがで
きる。しかるに被告人は右差押の事実を知りながらAと共謀の上、昭和二七年二月
下旬仮処分物件たる建物をBに賃貸し同人をして占有せしめた上、その内部を改装
してABCゲーム営業を為さしめたものであることは、原判決の容認した一審判決
の確定するところであるから、如上被告人の所為をもつて刑法九六条所定の「差押
の標示を無効ならしめた罪」に該当するものとした原判決及び第一審判決の判断は
正当であつて所論判例に違反するものでなく論旨は採用することはできない。
 同第三点は単なる法令違反又は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由
に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官池田克の論旨第一、二点に関する理由についての補足意見を除
き裁判官全員一致の意見である。
 弁護人鍛治利一の上告趣意書第一、二点に関する裁判官池田克の補足意見は、次
のとおりである。
 刑法九六条の「差押」の解釈に関する判例の推移の迹をみると、解釈によつて次
第にその内包するところが拡張され、法令において特に差押と称されているものに
限らず、およそ公務員がその職務上保管すべき物を自己の占有に移す強制処分をい
い、「仮処分」といえども執行吏が強制力をもつて物を自己の占有に移すものは、
なお、差押の概念に含まれるものとして、今日に及んでいる。しかし、同条が公務
妨害の章中に規定されていること、従つて、その保護しようとする法益が公務であ
ること、及びいわゆる「標示」が同条の罪の構成要件要素として規定されているこ
と等を考えあわせると、その保護されるべき公務は、単に公務員が物を自己の占有
に移す強制処分に限られるべきではなく、ひろく、法令にもとずいて行われる強制
処分を含むものと解するを相当とする。してみると、本件において、所論仮処分の
「公示書」には、所論のように、仮処分の執行によつて本件店舗の占有を執行吏に
移したことが明白にされてはいないけれども、右店舗は執行吏において仮処分の執
行をしたこと、及び何人もこれを処分してはならないことを表示したものであるこ
とは、第一審判決挙示の証拠上明らかであり、その意味において強制処分の標示と
して欠けるところはない。そして原判決の確定するところによれば、被告人は、右
店舗を勝手にBに賃貸し、同人をしてその内部を改装してABCゲーム営業をなさ
しめたのであるから、被告人の右所為をもつて刑法九六条所定の「差押の標示を無
効ならしめた罪」に該当するものとした原判決は、結局、正当に帰し、論旨は理由
がないものといわなければならない。
  昭和三一年四月一三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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