弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
       原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人岡村泰郎,同浜岡峰也,同堀内康徳及び同山本健司の上告受理申立て
理由について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 有限会社甲(以下「訴外会社」という。)と上告人は,平成元年6月16
日,次の内容の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
 ア 保険の種類     火災保険
 イ 保険期間       平成元年6月16日から同11年6月16日
 ウ 保険金額       3000万円
 エ 保険の目的     大阪府箕面市甲a丁目b番地のc所在の木・鉄骨造瓦亜
鉛メッキ鋼板葺3階建店舗事務所(以下「本件建物」という。)
 オ 被保険者       訴外会社
 カ 免責条項       保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人
(保険契約者又は被保険者が法人であるときは,その理事,取締役又は法人の業務
を執行するその他の機関)の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた
損害に対しては,保険金を支払わない(以下,この条項を「本件免責条項」という。)。
 (2) 被上告人は,昭和60年3月25日,訴外会社と信用組合取引契約を締結
した。
 (3) 訴外会社は,被上告人に対し,平成元年7月7日,信用組合取引契約に基
づいて現在及び将来負担する債務を被担保債務とし,極度額を4億0800万円と
定め,訴外会社が本件保険契約に基づいて有する債権に質権を設定し,同日,上告
人の承諾を得た。
 (4) 被上告人は,上記信用組合取引契約に基づき,平成4年6月30日,訴外
会社に対し,4億1000万円を以下の約定で貸し渡した。
 ア 最終弁済期限    平成34年6月5日
 イ 弁済方法       平成4年7月5日を第1回として,以後,毎月5日
に元利均等で315万2080円ずつ分割して弁済する。
 ウ 利息          年8.50%
 エ 利息支払期     平成4年7月5日を第1回として,以後,毎月5日に
1か月分を後払いする。
 オ 期限の利益の喪失 訴外会社が破産宣告を受けたとき
 (5) 訴外会社は,平成5年7月23日午前11時,大阪地方裁判所で破産宣告
を受け,乙弁護士が破産管財人に選任された。
 (6) 本件建物は,平成6年3月31日に火災(以下「本件火災」という。)に
より全損した。本件火災は,破産宣告当時,訴外会社の代表取締役であった丁(以
下「丁」という。)の放火によるものであった。なお,本件火災当時の本件建物の
価額は2369万5000円である。
 (7) 被上告人は,本件火災当時,訴外会社に対し前記貸金につき4億0716
万4615円の残元本債権を有しており,平成8年2月28日に前記質権に基づく
取立権の行使として,上告人に対し,保険金3000万円を請求した。
 2 本件は,訴外会社の上告人に対する本件保険契約に基づく債権につき質権を
有する被上告人が,上告人に対し,保険事故発生による保険金3000万円とこれ
に対する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,本件火災は,保険契約
者兼被保険者である訴外会社の代表取締役丁の放火によるものであり,取締役の故
意による事故招致であるとして,本件免責条項に基づく免責を主張している。
 3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を棄却した第1審判決を変更
し,被上告人の請求につき,2369万5000円とこれに対する遅延損害金の支
払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
 本件免責条項では,「取締役」が,保険契約関係にかかわり得る者であり,ある
いは保険の目的を維持管理すべき立場にあり,保険の利益を受ける者であることが
基本的な前提とされていると解される。
 会社が破産により解散した場合には,その法人格は破産による清算の枠内で存続
するにすぎず,会社財産の管理処分権は破産管財人に専属することになる。そして
,従前の取締役は,会社の破産により当然退任すると解するとすればもとより,一
定の限度で取締役の地位を保持すると解するとしても,保険契約関係や会社財産の
管理処分にかかわる余地がなくなる。したがって,従前の取締役は,会社の破産に
よって当然にはその地位を失わないと解するとしても,本件免責条項が前提とする
「取締役」とは,その性格が著しく異なるものになり,取締役という言葉で普通に
理解される立場の者とも著しく異なるものになる。本件保険契約の当事者の意思は
,このような従前の取締役は,本件免責条項に規定する「取締役」には該当しない
とするところにあると解するのが相当である。
 したがって,本件においては,本件免責条項の適用はない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 商法641条は,損害保険において,保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な
過失により生じた損害については,保険者は,てん補責任を免れる旨を定めている
が,その趣旨は,保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって保険事故
を招致した場合に被保険者に保険金請求権を認めるのは,保険契約当事者間の信義
則に反し,又は公序良俗に反するものであることによるものと解される。
 本件免責条項は,同様の趣旨から,保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定
代理人の故意若しくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害についての保険
者の免責を定めるとともに,保険契約者又は被保険者が法人である場合における免
責の対象となる保険事故の招致をした者の範囲については,前記のとおり,その括
弧内において,「その理事,取締役又は法人の業務を執行するその他の機関」と定
め,理事,取締役の地位にある者については,業務執行権限の有無や保険の目的物
を現実に管理していたか否かなどの点にかかわりなく,例外なく免責の対象となる
保険事故の招致をした者に含まれることを明らかにしている。
 本件免責条項が,上記のとおり,保険契約者又は被保険者が法人である場合にお
ける免責の対象となる保険事故の招致をした者の範囲を明確かつ画一的に定めてい
ること等にかんがみると,本件免責条項にいう「取締役」の意義については,文字
どおり,取締役の地位にある者をいうものと解すべきである。そして,【要旨1】有
限会社の破産宣告当時に取締役の地位にあった者は,破産宣告によっては取締役の
地位を当然には失わず,社員総会の招集等の会社組織に係る行為等については,取
締役としての権限を行使し得ると解されるから,上記「取締役」に該当すると解す
るのが相当である(なお,最高裁昭和42年(オ)第124号同43年3月15日
第二小法廷判決・民集22巻3号625頁は,株式会社が破産宣告とともに同時破
産廃止の決定を受けた場合において,従前の取締役が当然に清算人となるものでは
ないことを判示したもので,本件とは事案を異にする。)。
 このような見地に立って本件をみるに,【要旨2】前記のとおり,本件火災は,
本件保険契約の保険契約者である訴外会社の取締役の地位にあった丁の放火による
ものであり,当時,訴外会社は破産宣告を受けて破産管財人が選任されていたが,
丁は,依然として,取締役の地位にあったのであるから,丁の放火による本件建物
の焼失は,本件免責条項にいう取締役の故意による事故招致に該当するものという
べきである。
 5 そうすると,本件において上告人の免責を認めなかった原審の判断には,判
決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原判決のう
ち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の請求
を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却
することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 徳治 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛