弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人青柳盛雄の上告趣意第一点について。
 所論は憲法違反を主張するけれども、その実質は刑訴法の解釈の問題に過ぎず、
しかも、所論の点は原審において控訴趣意として主張されず、従つて原判決の判断
していない事項にかゝるものであるから上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 所論は、第一審判決の事実誤認を主張するか又は原判決の実体法令の解釈適用に
誤あることを主張するに帰し、刑訴四〇五条所定の事由にあたらないから上告適法
の理由とならない。
 同第三点について。
 所論は、事実審裁判所の自由な判断に任かされている証拠の価値判断を非難する
に帰し、刑訴四〇五条所定の事由にあたらないから上告適法の理由とならない。
 同第四点について。
 原審第一回公判調書によれば、原審第一回公判期日においては先ず被告人及び原
審相被告人Aの弁護人等が夫々その控訴趣意書に基き弁論をなし、次いで検察官か
ら、右控訴趣意は理由がない旨の陳述があり、続いて、被告人等の弁護人等より夫
々証人訊問、現場検証等の事実の取調の請求がなされ、これに対する検察官の意見
の陳述があつて後、裁判所が被告等に対し質問をなし、被告人はこれに対し陳述し
ていることがわかる。そして控訴裁判所が公判廷に出頭した被告人に対し必要と認
めて事件に関連する事項を質問することは、刑訴三九三条一項の事実の取調として
許されることは論旨も認めるとおりであるが、右事実の取調として被告人に質問す
るにあたり、所論のように訴訟関係人の意見を聞き、決定を以つて右質問を開始す
ることを宣言しなければならないという法則は何処にも存しない。又裁判所が被告
人に対しその陳述を求めるに先立ち、自己に不利益な答弁をする義務のない旨を説
示しなくても憲法三八条一項に違反しないことは当裁判所の判例である。(昭和二
三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判決集三巻二号一四六頁)よつて
論旨は理由がない。
 同第五点について。
 所論原審第二回公判調書には、所論摘録の如き記載があり、その記載の趣旨明確
を缺くけれども、本件記録に徴すると、昭和二七年三月二八日の原審第一回公判調
書には、被告人等の弁護人等は控訴趣意記載の事実を明確にするため、証人訊問、
現場検証等の「事実の取調」を請求したのに対し、原審裁判所は請求にかゝる「事
実の取調」中、現場の検証及び証人Bの訊問のみを採用しその余の請求は留保する
旨決定した旨記載されて居り、その後昭和二七年五月六日原審裁判所は右決定に基
き被告人、弁護人、検察官立会の上、現場の検証をなし且つ現場において右各関係
人立会の上証人Bを訊問し、夫々その調書を作成しているのである。故に原審第二
回公判調書の所論記載は、原審が法廷外でした右検証及び証人訊問の各調書を原審
の裁判所が公判廷で弁護人の同意の下に、事実の取調として、取調べ即ち証拠調し
た旨を記載した趣旨であること明らかである。してみれば、所論検証並びに証人訊
問の各調書は公判廷で適法に取調べられているのであつて、所論はその前提をかき
原審の訴訟手続には何等の違法はなく、本件は刑訴四一一条を適用すべきものとは
認められない。
 よつて刑訴四〇八条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
  昭和二八年一二月一一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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