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判決
主文
1 原告の被告群馬町長に対する訴えを却下する。
2 被告群馬町は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成14年6月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告群馬町に対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた費用の6分の5,被告群馬町長に生じた費用の全部及
び被告群馬町に生じた費用の5分の4を原告の負担とし,原告に生じた費用の6分
の1及び被告群馬町に生じた費用の5分の1を被告群馬町の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告群馬町長が平成14年6月6日付けで原告に対してした辞職承認処分を取り
消す。
2 被告群馬町は,原告に対し,金500万円及びこれに対する平成14年6月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件訴えのうち被告群馬町長に対するものは,被告群馬町長が被告群馬町の職
員であった原告に対してした辞職承認行為が,原告の自発的意思に基づかずに提
出をさせられた退職願に基づいてされた違法な行政処分であるとして,原告が,被
告群馬町長に対し,その取消しを求めるものである。
  本件訴えのうち被告群馬町に対するものは,上記退職願の提出に至る経過に関
し,被告群馬町の職員が,原告がその父をして脱税をさせたと決めつけ,原告に対
して侮辱的かつ強圧的態度で責め立ててその自白及び辞職を要求したもので,こ
の行為は公権力の行使に当たる被告群馬町の職員がその職務を行うについてし
た不法行為であり,これにより精神的損害を受けたとして,原告が,被告群馬町に
対し,国家賠償法1条に基づき,慰謝料500万円及びこれに対する不法行為の日
の後である平成14年6月6日(上記退職願を提出した日)からの民法所定の遅延
損害金の支払を求めるものである。
2 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は争いがない。ただし,(4)エの事実は当裁
判所に顕著である。)
(1) 当事者
  被告群馬町(以下「被告町」という。)は普通地方公共団体である。
  原告は,昭和48年9月に被告町の職員として採用され,以後,平成元年4月1
日から平成3年3月31日まで被告町の税務課課長補佐を,同年7月1日から平
成5年3月31日まで及び平成10年4月1日から平成14年6月6日まで被告町
の税務課課長をそれぞれ務めていた。
(2) 国民健康保険税の賦課漏れの発覚
ア 被告町の職員は,平成14年5月28日ころ,原告の父であり,被告町に居住
するAに平成3年から平成13年までの間に賦課されるべき国民健康保険税
(以下「国保税」という。)のうち,資産割部分(平成4年分から平成13年分の
合計25万3100円)が賦課されていなかったこと(以下「本件賦課漏れ」とい
う。)を発見した(賦課漏れの金額につき甲5の1・2,乙16の1・2)。本件賦課
漏れがあったことは,同日ころ,被告町の助役B(なお,役職は当時のもので
あり,以下,他の職員についても同様である。)及び原告に伝えられた。
イ 本件賦課漏れが生じた直接的な原因は次のとおりである。
  すなわち,Aは,原告の指示により,Aの所有に係る不動産についての固定
資産税の納税に関し,原告を納税管理人と定めていた(地方税法355条。た
だし,この規定によると,本来は,被告町に居住するAが納税管理人を定める
ことはできない。)。他方,被告町が使用していたコンピューターによる課税額
算出システム(以下「システム」という。)によると,被告町に所在する不動産を
所有していても自らの名義で固定資産税を納付しない者には,国保税の資産
割部分が賦課されないことになっていた。そのため,Aに賦課されるべき国保
税の資産割部分のみが賦課されない結果となったものである。
ウ 本件賦課漏れが発見された当時まで,被告町においては,Aの場合と同様
に,被告町に所在する不動産を所有している者が,被告町に居住するにもか
かわらず納税管理人を定め,そのためにその不動産所有者に賦課されるべ
き国保税の資産割部分のみが賦課されなかった事例が複数あったが,その
当時まで,このような事例について是正措置がとられることはなかった。
(3) 退職願の提出と辞職承認行為
  原告は,平成14年6月6日,被告群馬町長(以下「被告町長」という。)に対し,
同日付けの退職願(以下「本件退職願」という。)を提出した。
  被告町長は,同日,本件退職願を受理し,原告に対し,その辞職を承認した(以
下,この辞職を承認した行為を「本件辞職承認行為」という。)。原告は,同日,
本件辞職承認行為がされたことを知った(甲9,弁論の全趣旨)。
(4) 本件訴え提起までの経過
ア 被告町には,公平委員会が設置されているところ,原告は,平成14年8月5
日朝,被告町の公平委員会(以下「町公平委員会」という。)の委員長(以下,
単に「委員長」という。)の自宅に赴き,委員長に対し,本件退職願を撤回し,
自らの復職を要求する旨記載された「身の覚えの無い父の国保税資産割賦
課漏れに係る退職強要(依願退職)に関し,次の様に復職措置を要求しま
す。」で始まる書面(以下「復職要求書面」という。)を渡した(復職要求書面の
内容及び題名につき,甲9)。
イ 委員長は,同日,被告町に対し,原告から復職要求書面を渡されたことを伝
えた(乙15)。
ウ 被告町の総務課課長補佐Cは,同日夕,原告に対し,原告が町公平委員会
に対して不服申立てをすることはできない旨説明した。そのため,原告は,同
月6日朝,委員長の自宅に赴き,委員長から,復職要求書面を回収した。(甲
3,乙15,原告本人)
エ 原告は,平成15年2月25日,本件訴えを提起した。
3 本件訴えのうち被告町長に対するもの(以下「請求1に係る訴え」という。)につい
ての本案前の主張
(1) 被告町長の主張
ア 原告が被告町長に対し退職願を提出し,被告町長が原告に対しその辞職を
承認したことは,民法上の雇用契約の合意解約と評価できるに過ぎない。した
がって,本件辞職承認行為には行政処分性がなく,請求1に係る訴えは不適
法である。
イ 請求1に係る訴えは,町公平委員会に対する不服申立て(地方公務員法49
条の2)についての裁決又は決定を経ずに提起されたものであるから,不服
申立前置主義(同法51条の2)に反し,不適法である。
ウ 請求1に係る訴えは,出訴期間を経過した後に提起されたものであるから,
不適法である。
(2) 原告の主張
ア 公務員の労働関係は任用関係であって雇用契約関係ではない。本件辞職
承認行為には行政処分性がある。
イ 原告は,本件辞職承認行為がされた日の翌日(平成14年6月7日)から起
算して60日目に当たる平成14年8月5日,町公平委員会に対して不服申立
てをした。ところが,Cは,原告に対し,原告が町公平委員会に不服申立てを
することはできないとの誤った説明をした。原告は,この説明を信じて,町公平
委員会に対し,不服申立てを取り下げる旨を口頭で伝えた。
  以上のとおり,原告は,町公平委員会に対する不服申立てを適法に行い(地
方公務員法49条の3),書面による取下げをしておらず(行政不服審査法39
条2項参照),本件訴えは町公平委員会の裁決又は決定がされないまま上記
不服申立て後3か月を経過した後に提起されたのであるから,町公平委員会
の裁決又は決定を経ていなくても,請求1に係る訴えは,不服申立前置主義
に反しない(行政事件訴訟法8条2項1号)。
  仮に,町公平委員会に対する不服申立ての取下げの効力があるとしても,取
下げをした原因は,被告町の職員から誤った説明をされたことにあるから,被
告町長が不服申立前置の欠如を主張することは,信義則に反し,著しく正義
に反するから,許されない。また,町公平委員会の裁決又は決定を経ないこと
につき正当な理由があったというべきであり,請求1に係る訴えは,不服申立
前置主義に反しない(行政事件訴訟法8条2項3号)。
ウ 上記イのとおり,原告は,町公平委員会に対する不服申立てを適法に行い,
書面による取下げをしておらず,本件訴えは町公平委員会の裁決又は決定
がされないまま提起されたのであるから,請求1に係る訴えが,出訴期間を徒
過しているということはない。
4 請求1に係る訴えについての本案の主張
(1) 原告の主張
  本件退職願は,原告の自発的意思に基づいて提出されたものではない。したが
って,本件辞職承認行為は違法であって,取り消されるべきである。
(2) 被告町長の主張
  原告は,任意に本件退職願を提出したのであって,本件退職願の提出が原告
の真意に反するということはないから,本件辞職承認行為は違法ではない。
5 本件訴えのうち,被告町に対するもの(以下「請求2」という。)についての主張
(1) 原告の主張
ア 被告町の職員による不法行為
  本件賦課漏れは,Aが,その所有に係る不動産についての固定資産税を原
告に負担させるため,被告町の職員からの教示を受けた原告の指示により,
その納税に関し原告を納税管理人と定めたために生じたものである。したが
って,本件賦課漏れは,原告が意図して生じさせたのではなかった。
  ところが,B,被告町の収入役D,総務課長E及びC(以下,まとめて「幹部職
員」という。)等は,平成14年5月30日以降,原告に対し,連日にわたって侮
辱的かつ強圧的態度で原告が脱税をしたと責め立て,犯罪者扱いをして,脱
税をしたことの自白を要求した。また,E及びCは,同年6月5日,実際には原
告に懲戒免職事由がないにもかかわらず,原告に対し,原告に対する処分は
原則として懲戒免職処分であるが,原告が依願退職をすれば懲戒免職処分
にはしないと告げて,依願退職をすることを要求し,故意に本件賦課漏れを生
じさせたことを認めて謝罪すれば降格,減給及び配置転換で済む可能性もあ
ると告げて,自白を要求した。幹部職員等が行ったこれらの行為は,被告町
の職務を行うについてした不法行為であるといえる。
イ 損害
  原告は,幹部職員等の上記不法行為により,急性胃炎に罹患し,虚偽の自
白をせずに懲戒免職を免れるには退職願を提出するしかないと考え,被告町
長に対して本件退職願を提出することになってしまった。原告は,本件辞職承
認行為がされた後は,労働する喜びと働きながら人間として向上する利益を
奪われ,失意と不安の中での生活を余儀なくされている。
  このような原告の精神的損害を慰謝するためには,少なくとも500万円を要
する。
(2) 被告町の主張
  本件賦課漏れが,被告町の職員等の過失により生じたものか,原告が脱税の
故意により部下に命ずるなどして生じさせたものかは,確定的な証拠もなく,断
定できない。
  被告町の町長F及び幹部職員は,平成14年6月4日午後3時から午後4時25
分まで,原告からの事情聴取を行った。原告からの事情聴取はこの1回だけし
か行われていないし,この事情聴取において,幹部職員等が,原告に対し,侮辱
的かつ強圧的態度で責め立てたということはない。
  F及び幹部職員は,同年6月5日,本件賦課漏れについての原告に対する処分
を検討し,上記原告からの事情聴取及び被告町の関係職員らの事情聴取等に
よっても原告に脱税の意図があったか否かの確定はできなかったが,原告の関
与がなかったとは考えられないこと,原告の職務からして,システム上の不備を
知るべき立場にあったこと,Aを納税義務者とする固定資産税の納税に関して原
告を納税管理人と定めるに当たり提出されるべき納税管理人申告書が未提出
であったこと等の事情をもとに,原告を2階級降格とし,原告の給与を6か月間1
0分の1減じ,原告に対する配置換えを行うことを内容とする処分案を被告町の
行政処分審査委員会に対して諮問することにした。E及びCは,同年6月5日,
原告に対し,上記の処分案の内容を口頭で告げたが,これに対し,原告は,1階
級降格に留めてほしいとの要望をした。そのため,E及びCは,同月6日に原告
とFとが話し合う機会を設けるように調整したが,同日,原告は本件退職願を提
出した。
  以上のとおりであって,幹部職員等が行った行為に不法行為に当たるものはな
い。
第3 当裁判所の判断
1 請求1に係る訴えの適法性について
(1) 本件辞職承認行為の行政処分性の有無について
  任命権者が公務員の辞職申出に対してこれを承認する行為は,結局のところ,
任命権者が辞職申出を要件として公務員を免職する行為であって,行政処分で
あると解される。そうすると,本件辞職承認行為が,行政処分性を有し,取消訴
訟の対象となることは明らかである(以下,本件辞職承認行為を「本件処分」とい
う。)。この点に関する被告町長の主張は,独自の見解であって,これを採用す
ることができない。
(2) 請求1に係る訴えが不服申立前置主義に反し不適法であるか否かについて
ア 本件処分について,原告は,その要件となる辞職申出(本件退職願の提出)
が自発的意思に基づいたものでないと主張しているのであるから,本件処分
は,職員の意思に反する不利益な処分(地方公務員法49条1項)であると解
するのが相当である。したがって,本件処分は,原告が公平委員会に対して
不服申立てをすることができるものであり(同法49条の2第1項),本件処分
の取消しの訴えは,その不服申立てに対する公平委員会の裁決又は決定を
経た後でなければ,原則として提起することができない(同法51条の2)という
べきである。
イ 前提事実によれば,原告は,本件処分について町公平委員会への不服申立
てを未だ行っていないといえるし,他に原告が本件処分について町公平委員
会への不服申立てを行ったと認めるに足りる証拠はない。この点に関し,原告
は,原告が委員長に対して復職要求書面を渡した事実により,町公平委員会
への不服申立てがされたものと解するようであり,原告本人も同旨の供述を
するが,原告が,本件処分についての不服を述べる書面を委員長に渡し,そ
の書面が委員長の自宅に留まったままの段階で,その書面を回収したという
前提事実のとおりの経過からすると,原告は,本件処分について町公平委員
会へ不服申立てをする前の段階で,これを断念したものと解さざるを得ない。
したがって,請求1に係る訴えは,本件処分についての不服申立てに対する
公平委員会の裁決又は決定を経ずに提起されたものであるといえる。
  しかしながら,前提事実によれば,原告が,復職要求書面を回収し,本件処
分について町公平委員会への不服申立てを行わなかったのは,被告町の総
務課課長補佐の職にあるCから,原告が町公平委員会に対して不服申立てを
することはできない旨説明されたことが理由であった。上記アを併せると,Cに
よる上記説明は誤りであったといえるが,このように被告町の幹部職員から誤
った説明を受けた場合にも,原告に,町公平委員会への不服申立てをし,そ
の裁決又は決定を経た上で,本件処分の取消しの訴えを提起することを要求
するのは酷というべきである。
  そうすると,本件処分について,町公平委員会の裁決又は決定を経なかった
ことには正当な理由がある(行政事件訴訟法8条2項3号)から,不服申立前
置主義に反することを理由として,請求1に係る訴えが不適法であるとはいえ
ないというべきである。
(3) 請求1に係る訴えが出訴期間を経過した後に提起されたか否かについて
  上記(2)のとおり,請求1に係る訴えは,町公平委員会の裁決又は決定を経なか
ったことにつき正当な理由があって,その裁決又は決定を経ずに,かつ,本件処
分について町公平委員会への不服申立ても行われずに提起されたものである。
この場合の出訴期間は,本件処分がされたことを原告が知った日から3か月以
内であるというべきである(行政事件訴訟法14条1項)。
  これを本件についてみると,前提事実のとおり,原告は平成14年6月6日に本
件処分がされたことを知ったのであるから,請求1に係る訴えは,同日から3か
月以内に提起しなければならないものであったといえる。ところが,前提事実の
とおり,本件訴えが提起されたのは平成15年2月25日であるから,請求1に係
る訴えが出訴期間を経過した後にされたものであることが明らかである。
  そうすると,請求1に係る訴えは不適法であって,他にこれを適法とみるべき事
情も見当たらない。
(4) 以上のとおりであるから,請求1に係る訴えは,本案の主張について判断する
までもなく,これを却下すべきである。
2 請求2について(この項の日付は平成14年である。)
(1) 前記前提事実に証拠(甲2,3,5の1・2,甲6の1・2,甲9,乙1,2,15,16
の1・2,乙17の1・2,証人B,同E,同C,原告本人)及び弁論の全趣旨を併せ
ると,次の事実が認められる。
ア 本件賦課漏れについての原告による調査等
  原告は,本件賦課漏れがあったことを知った後,6月3日までの間,本件賦課
漏れが生じた原因について調査をし,システムに問題があったために本件賦
課漏れが生じた可能性があることや,本件賦課漏れと同様に固定資産税の
納税に関して納税管理人が定められたために国保税の資産割部分が賦課さ
れていない事例が複数あることを知った。
  また,原告は,6月4日午後1時ころ,群馬県総務部地方課(以下「地方課」と
いう。)に赴き,同課の職員に対し,本件賦課漏れが生じた原因について質問
するなどした。
イ 本件賦課漏れ発覚後,原告からの事情聴取までの幹部職員の行動及び認

  Bは,5月30日ころ,原告に対し,本件賦課漏れが生じたことについて厳しく
叱責した。
  Bは,同月31日,Eに対し,本件賦課漏れが生じたことについて被告町として
どのように対応するか,原告に対する処分をどうするか等を群馬県に問い合
わせるように指示した。そのため,Eは,6月4日午前,Cらとともに地方課に
赴き,同課の職員に対して上記の事柄について相談したところ,本件賦課漏
れが生じたことに関する事実関係について確認をすること,本件賦課漏れが
原告の意図したものであった場合,直ちに処分するのが適切であり,懲戒免
職処分をすることもあり得ること,本件賦課漏れについての原告の意図が立
証できない場合には,懲戒免職処分をすることは難しいこと等の回答を得た。
その直後,Eは,Bに対し,このときに得た回答を伝えた。この回答により,幹
部職員は,同日午後3時から原告に対し,同日午後4時30分から本件賦課
漏れが生じ始めた平成3年当時及び現職の被告町の税務課職員らに対し,
それぞれ事情聴取を行うことを決めた。
  このときまでに,幹部職員において,地方税法上,Aの所有に係る不動産に
ついての固定資産税の納税に関し,原告を納税管理人と定めることができな
いこと,にもかかわらず,原告が納税管理人として定められていたこと,本来
は永久保存されるべき原告に係る納税管理人選任届が保存されていないこと
が判明していた。そして,幹部職員は,本件賦課漏れが生じた原因が,Aにお
いて,原告を納税管理人として定めたことにあると考えていた。
ウ 原告からの事情聴取
  6月4日午後3時から午後4時25分ころまで,原告からの事情聴取(以下「本
件事情聴取」という。)が行われた。この席には,原告のほか,F及び幹部職員
が出席した。
  本件事情聴取において,幹部職員は,主として,地方税法上,Aにおいて,原
告を納税管理人として定めることができないにもかかわらず,原告が,納税管
理人選任届を提出するという正式な手続を踏むことなしに,自らを納税管理人
として定めさせたのではないか,という点を追及した。その際,幹部職員は,
原告に係る納税管理人選任届が保存されていないことに言及した。
  他方,原告は,システムに問題があったために本件賦課漏れが生じた可能
性があることや,本件賦課漏れと同様に固定資産税の納税に関して納税管
理人が定められたために国保税の資産割部分が賦課されていない事例が複
数あることを説明したが,幹部職員は,これらのことは本件賦課漏れについて
の原告の責任問題とは関係のないことである旨述べて,まともに取り合おうと
しなかった。
  なお,本件事情聴取において,Fからの発言はなかった。
エ 税務課職員らからの事情聴取
  6月4日午後4時30分から午後5時20分まで,平成3年当時及び現職の被
告町の税務課職員らからの事情聴取が行われた。この席には,他にF及び幹
部職員が出席した。
  平成3年当時の税務課職員ら(現職も税務課職員であった者を除く。)から
は,Aにおいて原告を納税管理人と定めた当時のことについて記憶に基づい
た供述が得られることはなかった。平成3年当時も現職も税務課職員であった
者からは,問題があった記憶があるという程度の供述がされたのみであった。
  他方,幹部職員は,システムの問題や,納税管理人を定められる場合と定め
られない場合について,平成3年当時における税務課職員らの知識の有無・
程度がどうであったかを詳細に聴取することをしなかった。
  また,この事情聴取では,幹部職員を含む出席者らは,本件事情聴取の際
のものを含む本件賦課漏れ発覚前後の原告の態度について,感想や批判的
な意見を述べ合った。
オ 幹部職員等による原告の処遇についての検討及び原告に対する通告等
  F及び幹部職員は,6月5日午前,原告の処遇について話し合った。
  E及びCは,同日午後,原告に対し,上記話合いの結果を踏まえ,①Bは原
告を懲戒免職処分にしたいと言っている,②Fは原告に対する処分を行う前に
自ら辞職すればよいと考えているようである,③被告町としての希望は原告が
自ら辞職することである,④本件賦課漏れを原告が意図して生じさせたことを
BやFに対し認めて謝罪した上,2階級降格及び半年程度の減給の処分を受
け,配置換えがされることを承諾するのであれば,原告は職員として留まるこ
とができる,⑤本件賦課漏れを原告が意図して生じさせたことを否認するので
あれば,原告に対して懲戒免職処分をすることになると述べた(以下「本件処
遇通告」という。)。これに対し,原告は,このときには,今後の方針について決
することができなかった。
  原告は,同日,心窩部痛により医院を受診し,急性胃炎と診断されて,治療
及び投薬を受けた。
(2) 上記(1)オの認定について
  被告町は,F及び幹部職員が6月5日に検討した原告に対する処分案,及び,E
とCが同日に原告に対して告げた処分案が,いずれも,原告を2階級降格とし,
原告の給与を6か月間10分の1減じ,原告に対する配置換えを行うことを内容
とするものであったと主張し,B,E及びCはこれに沿う陳述及び証言をする。し
かしながら,同日のE及びCと原告との会話内容を録音したテープとその反訳書
(甲6の1・2)によれば,原告に告げた処分案の内容について,被告町の主張を
採用することができないのは明らかである。
  また,上記証拠(甲6の1・2)によれば,Cが,原告に対し,上記(1)オの④に関
し,「『うん』と言ってですよ,『うん』と。」と,原告が職員として留まるためには,あ
る事実を認める必要がある旨の発言をしたと認められ,上記(1)オの⑤に関し,
「全部,否定したらば免職ですよ。」と,原告がある事実を否認すれば,原告に対
して懲戒免職処分をすることになる旨の発言をしたと認められる。これらの発言
のみからは,認め,又は否認する対象となる事実が必ずしもはっきりとしない
が,全体の会話の状況からして,その対象は,本件賦課漏れを原告が意図して
生じさせたとの事実であると認められる。
(3) 不法行為の成否について
  前記前提事実と上記(1)の認定事実(以下,併せて「前提事実等」という。)をもと
に,幹部職員等の原告に対する不法行為の成否について検討する。
ア 本件事情聴取前の段階における幹部職員の認識について
  前提事実等のとおり,幹部職員が,①地方課から,本件賦課漏れが原告の
意図したものであった場合に,懲戒免職処分をすることもあり得るとの回答を
得たこと,②本件賦課漏れが生じた原因が,Aにおいて,原告を納税管理人と
して定めたことにあると考えていたこと,③本件事情聴取において,幹部職員
が,主として,地方税法上,Aにおいて,原告を納税管理人として定めることが
できないにもかかわらず,原告が,納税管理人選任届を提出するという正式
な手続を踏むことなしに,自らを納税管理人として定めさせたのではないか,
という点を追及したことからすると,幹部職員は,本件事情聴取が行われる前
の段階において,原告が,自らを納税管理人として定めることができないこと
を知りながら,あえて定めさせたと認められる場合には,本件賦課漏れを原告
が意図して生じさせたものであったということになり,原告に対し懲戒免職処
分をすることができると考えていたと認められる。
  しかしながら,前提事実等のとおり,本件賦課漏れが生じたのは,Aが原告を
納税管理人と定めていたことだけでなく,被告町に所在する不動産を所有して
いても自らの名義で固定資産税を納付しない者には国保税の資産割部分が
賦課されないことになっていたシステムの設定も原因であったのであるから,
本件賦課漏れを原告が意図して生じさせたものであるといえるためには,原
告が,自らを納税管理人として定めることができないことを知りながら,あえて
定めさせただけでなく,上記のシステムの設定の問題を認識していたことも認
められなければならなかった。
  したがって,上記のような幹部職員の認識は,少なくとも結果的には誤りであ
ったことになる。
イ 本件事情聴取について
  前提事実等のとおり,原告は,本件事情聴取において,幹部職員に対し,①
システムに問題があったために本件賦課漏れが生じた可能性があること,②
本件賦課漏れと同様に固定資産税の納税に関して納税管理人が定められた
ために国保税の資産割部分が賦課されていない事例が複数あることを説明し
た。①の説明は,上記アのとおりの幹部職員の認識の誤りを修正させるに足
りるものであったし,②の説明は,原告を含めた歴代の被告町の税務課職員
において,納税管理人を定められる場合と定められない場合についての知識
が十分でなかった可能性を示すもので,原告が,必ずしも,自らをAに係る納
税管理人として定めることができないことを知っていたとはいえないことを窺わ
せる事情をいうものであったといえるのであって,いずれも重要な説明であっ
たといえる。
  にもかかわらず,前提事実等のとおり,幹部職員は,上記のような原告の説
明の重要度を看過し,これに対してまともに取り合おうとしなかったのであっ
て,この点において,幹部職員が行った本件事情聴取は,不適切又は不十分
なものであったといわざるを得ない。
ウ 税務課職員らからの事情聴取について
  上記イのとおり,幹部職員は,本件事情聴取における原告の説明の重要度
を看過していた。そのため,前提事実等のとおり,幹部職員は,その直後に行
われた税務課職員らからの事情聴取において,システムの設定の問題や,納
税管理人を定められる場合と定められない場合について,原告が納税管理人
と定められた時期における税務課職員らの知識の有無・程度がどうであった
かを詳細に聴取することをしなかった。
  このように,幹部職員が行った税務課職員らからの事情聴取も,十分なもの
でなかったといえる。
エ 本件処遇通告について
  上記イ,ウのとおり,本件事情聴取及び税務課職員らからの事情聴取は,い
ずれも,本件賦課漏れを原告が意図して生じさせたか否かという点について
事実確認をするには不十分なものであって,その結果,被告町も自認すると
おり,本件賦課漏れを原告が意図して生じさせたとは認められず,原告に対し
懲戒免職処分をするだけの理由があるとはいえなかった。
  にもかかわらず,前提事実等のとおり,E及びCは,原告に対し,本件処遇通
告をした。なお,本件処遇通告は,F及び幹部職員によって行われた話合い
の結果を踏まえてされたものであるから,少なくとも,上記(1)オの③,④,⑤の
発言を原告に対してすることは,幹部職員の総意であったといえる。
  以上によれば,E及びCは,原告に対し,懲戒免職処分にできない事案であ
るか,懲戒免職処分相当かどうかの調査が尽くされていない事案であるにも
かかわらず,懲戒免職処分をすることができるかのように述べた上,それを前
提として,自白して降格,減給及び配置換えを甘受するか,自ら辞職するかの
選択を迫ったといえる。
  そうすると,E及びCによる本件処遇通告は,幹部職員の総意のもと,社会的
に許容される限度を超えてされた自白及び辞職の要求行為であったといわざ
るを得ず,被告町の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについ
てした不法行為であるというべきである。
(4) 損害について
  前提事実等のとおり,原告は,その処遇についての通告を受けた日(6月5日)
に,医師から急性胃炎と診断されたのであり,E及びCの上記不法行為によって
精神的に追い込まれていたことが窺われる。そして,原告は,翌日(6月6日),
本件退職願を提出し,本件処分を受けたのであって,E及びCの上記不法行為
を契機として,長年勤めた被告町の職員の地位をも失うこととなったといえる。他
方,前提事実等に弁論の全趣旨を併せると,本件賦課漏れを生じさせたこと及
びそれを継続させたことについて,原告に落ち度はあること,結局のところ原告
が懲戒処分を受けることはなかったことが認められる。
  これらの事実を総合的に斟酌すれば,E及びCの上記不法行為によって原告が
被った精神的損害を慰謝するに足りる額は100万円とするのが相当である。
3 以上の次第で,請求1に係る訴えは不適法であるから却下することとし,請求2
は,原告が,被告町に対し,国家賠償法1条に基づき,慰謝料100万円及びこれ
に対するE及びCの不法行為の日の後である平成14年6月6日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか
ら,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとする。
  よって,主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 東 條   宏
            裁判官 櫛 橋 直 幸
            裁判官 大 竹 敬 人
 

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